児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

脅迫して撮影・送信させる行為は強制わいせつ罪である

 こういう公訴事実。この強要罪はおかしい。

平成22年8月17日ころ,大阪府大阪市所在の被告人方において,A(当時16歳。以下「A」という。)が18歳に満たない児童であることを知りながら,Aに対し,電話や携帯電話機の電子メールにより,「IPアドレスを抜いた。家がわかるぞ。送らないと,学校にばらすぞ。言うことをきけ。今から送れよ。全身裸の写真を送れ。」などと申し向けて脅迫し,Aをしてこれに応じなければ,自己の財産等にいかなる危害を加えられるかもしれない旨畏怖させ,同日から同月18日ころまでの間,別表1記載のとおり,3回にわたり,Aをして,大阪市北区内所在のA方において,その所有する携帯電話機のカメラ機能で,Aの着衣を着けない乳房及び陰部を露出した姿態を撮影記録させ,さらに、その携帯電話機から電子メールで,被告人の所有に係る携帯電話機あてに,同撮影に係る画像3枚の電磁的記録をそれぞれ送信させ,そのころ,前記被告人方において,前記画像3枚の電磁的記録を被告人の所有に係る携帯電話機で受信し,同携帯電話機内に記録・蔵置させ,もって,Aをして,衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態をとらせるなどして義務なきことを行わせるとともに,同姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノを製造した。

 これが3項製造罪の単独正犯となる理由は、完全抑圧です。

阪高裁H19.12.4
(2)所論は,次に,原判示第3の児童ポルノ製造罪について,当時13歳の被害児童自身が,携帯電話の内蔵カメラで自分の裸体を撮影し,その'画像をメール送信したものであるから;被告人に本罪の間接正犯は成立しないのに,被害児童を道具とする間接正犯とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
しかしながら,関係証拠によれば,被害児童は,被告人との間で,自慰行為に関するメールのやりとりをしていることを,被告人から親に電話をするなどして告げ口されるのを恐れる余り,被告人の命じるままにするほかないと考えて,原判示第3記載の画像を送信したものであることが認められるのであって,そのような本件の犯行態様に加えて,被害児童の性別,年齢等諸般の事情に照らすと,被害児童は意思を抑圧されていたと認めるのが相当であり,本件を被告人の単独犯行であるとした原判決に何らの法令適用の誤りもない。

 
 この程度の脅迫文言があれば、強制わいせつ罪の「強制」というには十分でしょう。

条解刑法
程度 被害者の意思に反してわいせつ行為を行うに足りる程度の暴行であれば足り,強盗罪のように反抗を抑圧するに足る程度に達する必要も,強姦罪のように反抗を著しく困難にする程度に達する必要もない

判例コンメンタール刑法2巻P291
(1) 手段緩和説
強盗罪に比し、強制わいせつ・強姦罪の強制手段は軽微なもので足りるとする手段緩和説が多数説である。判例も、本条の暴行とは、正当な理由なく他人の意思に反してその身体髪膚に力を加えることであり、その力の大小強弱を問わない

 児童をわいせつの意図で撮影する行為がわいせつ行為に当たるのは、判例が認めるところです。
 児童が完全に道具になってるんだから、児童をして撮影させるのもわいせつ行為です。

?仙台高裁H21.3.3
?については,刑法176条のわいせつな行為は,法文上,態様について限定がなく,また,自己の裸体を他人の目に触れさせたくないという気持ちは,人間の本質的部分に由来するものであるから,強制わいせつ罪の保護法益である性的自由には,自己の裸体を他人に見られたり写真等に撮影されたりしない自由を含むものと解される。そうすると,自らの性的欲求を満足させるために,各被害児童の陰部をデジタルカメラ等で撮影した被告人の行為が,同条にいうわいせつな行為に該当することは明らかというべきである。所論は,公然わいせつ罪の主たる保護法益が善良な風俗であるとしても,多少なりとも見せられた者の性的自由が害されているから,強制わいせつ罪と公然わいせつ罪とを区別するためには,強制わいせつ罪については身体的接触を要件とすべきであるなどとも主張するが,所論も認めるとおり,公然わいせつ罪は善良な性的風俗の侵害を本質とするものであり,わいせつ行為を見せられた者の性的自由を侵害する場合があるとしても,それは副次的なものにすぎず,直接的な性的自由の侵害を本質とする強制わいせつ罪とは行為態様において大きな違いがあるといえるのであって,身体的接触を強制わいせつ罪の要件としなければ両者を区別し得ないものではない。所論は独自の見解に基づくものであって採用の限りでなく,この点において原判決に法令適用の誤りはない。
?については,上記のとおり被害児童の陰部を撮影する行為は,刑法176条のわいせつな行為に該当するというべきところ,撮影の際に電磁的記録であるその画像データが携帯電話機やSDカードに同時に記録されるような場合には,このような記録行為も撮影行為と不可分なその一部と評価できるのであるから,原判示第2から第4までの各事実における各記録行為も撮影行為の一部としてわいせつな行為に該当するということができる。したがって,この点においても原判決に法令適用の誤りはない

?東京高裁H22.3.1
 第2 法令適用の誤りの主張について
 論旨は,要するに,原判決は,原判示第1の女児の陰部及び同第2の女児の下着をそれぞれカメラ付き携帯電話機で撮影した行為(以下「本件各撮影行為」ということがある。)がいずれも刑法176条の「わいせつな行為」(以下,単に「わいせつ行為」ということがある。)に当たると判示しているが,?これらの行為は,被害者との身体的接触がないからわいせつ行為には当たらず,?仮に,従来の議論ではこれらの撮影行為がわいせつ行為に当たるとしても,平成16年に児童買春等処罰法により児童ポルノ製造罪が設けられた以上は,上記撮影行為は同罪で評価されるべきであって,強制わいせつ罪に当たるとすることは許されないから,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の適用の誤りがあるというのである。
 しかしながら,?については,刑法176条の「わいせつな行為」とは,いたずらに性欲を興奮又は刺激させ,かつ,普通人の正常な性的羞恥心を害し,善良な性的道義観念に反する行為をいい,被害者との直接的な身体の接触を必要とするものではないと解するのが担当である。また,?については,児童ポルノ製造罪と強制わいせつ罪とは保護法益や処罰対象の範囲が異なっており,後者についてより重い法定刑が定められていることに照らしても,所論は失当である。さらに,所論は,公然わいせつ罪に当たる行為及びいわゆる迷惑防止条例上の盗撮行為と強制わいせつ罪に当たる行為とを区別する必要があるともいうが,同様の理由により失当である。

 じゃあ、上記の行為は強制わいせつ罪を構成する。
 さらに、

判例コンメンタール3巻P45
本罪は、恐喝罪、強盗罪、強姦罪、強制わいせつ罪、逮捕監禁罪、職務強要罪公務執行妨害罪など暴行・脅迫を手段とする犯罪との関係では一般法的性格を有し、これらの犯罪が成立する場合には法条競合により本罪の適用は排除されると解されている(通説)。

川端刑法各論第2版P164
(6) 罪数
恐喝罪・強盗罪・強姦罪・逮捕監禁罪・職務強要罪などが成立するばあいには,強要罪 はこれらの罪に吸収されて成立しない。なぜならば, 強要罪は自由に対する罪として基本犯であり,これらの罪はその特別犯に当たるからである。すなわち,法条競合によりそれぞれの特別犯だけが成立することになる。

ということなので、強要罪は成立しない。
 
 じゃあ、これを主張できるかというと、一審でいうと強制わいせつ罪に訴因変更される可能性があるので言えませんが、控訴審であれば、強制わいせつ罪(告訴無し→公訴棄却)を主張すれば、不利益主張とならずに強要罪不成立を主張できると思います。



 「実体法上強制わいせつ罪が成立する場合は強要罪は成立しない」と主張すると、短気な裁判所は絶対不利益主張だというと思いますが、そのままの訴因では強要罪につき無罪、強制わいせつ罪に訴因変更しても「告訴無き強制わいせつ罪」となるわけで、強制わいせつ罪で処罰されることはなく、結局、強要の部分は処罰されないことになるので、有利な主張だと思います。

4 法令適用の誤りの主張の前提として、告訴無き強制わいせつ罪を主張することは、不利益主張に当たらない。
(1) はじめに
 被告人控訴事件の控訴の利益とは、控訴理由によってもとめる判断が、全体として具体的・総合的に考察し、実質的に被告人に利益になれば足りると解されるところ、告訴無き強制わいせつ罪説を前提にすると、強要罪については無罪となるし、強制わいせつ罪に訴因変更しても、告訴がない以上、1個の訴因(判示第1)が公訴棄却となるから、結局宣告刑期は1年程度になるから、絶対に、被告人に有利である。

 しかも、絶対的控訴理由は、結果として、所定の事由があれば破棄することになっていて、被告人への不利益は、未決勾留日数などで考慮しているのであるから、擬律錯誤を理由とする法令適用の誤りについてのみ、控訴理由中の「強制わいせつ罪」の字句のみに注目して有利不利を決めるのは、失当である。

第377条〔控訴申立理由−絶対的〕
左の事由があることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、その事由があることの充分な証明をすることができる旨の検察官又は弁護人の保証書を添附しなければならない。
一 法律に従つて判決裁判所を構成しなかつたこと。
二 法令により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。
三 審判の公開に関する規定に違反したこと。

第378条〔同前−絶対的〕
左の事由があることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつてその事由があることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。
一 不法に管轄又は管轄違を認めたこと。
二 不法に、公訴を受理し、又はこれを棄却したこと。
三 審判の請求を受けた事件について判決をせず、又は審判の請求を受けない事件について判決をしたこと。
四 判決に理由を附せず、又は理由にくいちがいがあること。
第379条〔同前−訴訟手続の法令違反〕
前二条の場合を除いて、訴訟手続に法令の違反があつてその違反が判決に影響を及ぼすことが明らかであることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつて明らかに判決に影響を及ぼすべき法令の違反があることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。
第380条〔同前−法令適用の誤り〕
法令の適用に誤があつてその誤が判決に影響を及ぼすことが明らかであることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、その誤及びその誤が明らかに判決に影響を及ぼすべきことを示さなければならない。

(2) 告訴無き強制わいせつ罪の主張は被告人に不利益ではないこと
 判決や主張が不利益かどうかは、刑訴法402条の「不利益」の解釈によるところ、刑訴法402条における刑の軽重の比較については、執行猶予の言渡しの有無をも考慮すべきであるとされ(最2小決昭55・12・4刑集34巻7号499頁、本誌433号90頁)、必ずしも主刑の軽重のみによって決するのではなく、執行猶予の言渡しの有無や労役場留置の期間などの付随的な処分をも併せ、主文を全体として具体的・総合的に考察し、実質的に被告人に不利益かどうかによって、判断する方法がとられている。
 実刑の事件であれば、主文において被告人の刑期が長くなるのが不利益主張である。

市会議員選挙罰則違反被告事件
【事件番号】最高裁判所第2小法廷判決/昭和25年(れ)第494号
【判決日付】昭和25年8月9日
【参考文献】最高裁判所刑事判例集4巻8号1550頁
      最高裁判所裁判集刑事19号17頁
      判例タイムズ5号39頁
ところで旧刑訴第四〇三条にいわゆる重き刑というのは判決主文の全体から観察して第一審判決よりも実質上被告人に不利益な場合をいうのであるが本件のように主刑について執行猶予の言渡をした場合には選挙権被選挙権の関係について不利益な点があつても主文の全体から実質的に観察して不利益な変更でないと解すべきである。

【事件番号】最高裁判所第2小法廷決定/平成17年(あ)第1680号
【判決日付】平成18年2月27日
【参考文献】最高裁判所刑事判例集60巻2号240頁
      裁判所時報1406号134頁
      判例タイムズ1205号161頁
      判例時報1925号166頁
      LLI登載
 記録によれば,第1審は,主文を「被告人を懲役1年6月及び罰金7000円に処する。その罰金を完納することができないときは,金7000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。」とする判決を言い渡し,これに対し被告人のみが控訴し,量刑不当を主張したところ,原審は,刑訴法397条2項を適用して,主文を「原判決を破棄する。被告人を懲役1年2月及び罰金1万円に処する。その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間,被告人を労役場に留置する。」とする判決を言い渡したことが明らかである。
 第1審判決と原判決の自判部分は,いずれも懲役刑と罰金刑を刑法48条1項によって併科したものであるが,原判決が刑訴法402条にいう「原判決の刑より重い刑」を言い渡したものであるかどうかを判断する上では,各判決の主文を全体として総合的に考慮するのが相当である。そして,原判決の刑は,第1審判決の刑に比較し,罰金刑の額が3000円多くされた上労役場留置期間の換算方法も被告人に不利に変えられ,その結果労役場留置期間が1日長くされているが,他方で懲役刑の刑期は4か月短くされているのであるから,これらを総合的に考慮すれば,実質上被告人に不利益とはいえず,上記の「原判決の刑より重い刑」に当たらないことは明らかというべきである

【事件番号】福岡高等裁判所/平成12年(う)第61号
【判決日付】平成12年9月5日
【参考文献】高等裁判所刑事裁判速報集平成12年195頁
 このように解しても刑事訴訟法第402条により原判決より重い量刑は言い渡すことができず,被告人に不利益は生じない。したがって,本件においては,控訴審が職権調査により,公訴事実と同様の犯行の態様を認定し,その犯意についても傷害の未必の故意ではなく確定的故意によるものとし,事実誤認により原判決を破棄することは許されると解する。

(3) 本件でも告訴無き強制わいせつ罪の主張による結果は被告人の利益であること
 ところで、本件は、
強要罪+製造罪1件
が認定されており、観念的競合とされている。
 弁護人の主張は、このうちの「強要罪」が無罪になるというものである。
 強要罪が無罪になれば主文の刑期は1年程度に下がるはずである。

被告人にとっては極めて有利な結果となる。