児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「強姦するためにけがを負わせたのではない。殴っているときは、強姦する目的はなかった」場合は強姦致傷罪は成立しない?

 そんなに限定されてませんよ。記者が騙されてる。
 法定刑から無期懲役が外れるので、被告人には有利です。
 被害者への配慮とか、立証の適不適で、裁判員裁判を回避することもあるでしょうね。
 控訴審で「実は強姦致傷だから裁判員裁判によるべき」という訴訟手続の法令違反を主張すると、仙台高裁は不利益主張だというでしょう。裁判員裁判が不利益みたいな。

刑法
第181条(強制わいせつ等致死傷)
2 第百七十七条若しくは第百七十八条第二項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって女子を死傷させた者は、無期又は五年以上の懲役に処する。

第177条(強姦)
暴行又は脅迫を用いて十三歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、三年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の女子を姦淫した者も、同様とする。
第204条(傷害) 
人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する
第12条(懲役)
懲役は、無期及び有期とし、有期懲役は、一月以上二十年以下とする。
2 懲役は、刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる。
第47条(有期の懲役及び禁錮の加重)
併合罪のうちの二個以上の罪について有期の懲役又は禁錮に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期にその二分の一を加えたものを長期とする。ただし、それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできない。
第14条(有期の懲役及び禁錮の加減の限度)
2 有期の懲役又は禁錮を加重する場合においては三十年にまで上げることができ、これを減軽する場合においては一月未満に下げることができる。

判例コンメンタール第2巻P316〜
3 因果関係
(1)被害者逃走時の致死傷
(2)被害者のショックと放置による凍死
(3)被害者の自殺

強姦致傷容疑者、罪を分けて起訴 裁判員対象とならず /青森県
2009.06.04 朝日新聞
 青森地検弘前支部は3日、裁判員裁判対象となる強姦(ごうかん)致傷容疑で逮捕されていた容疑者(22)を、傷害と強姦の罪に分けて青森地裁弘前支部に起訴したと発表した。この事件は、裁判員裁判の対象にならない。
 青森地検によると、容疑者は5月13日未明、藤崎町の駐車場から車で自宅に向かう途中、助手席に乗せた20代の知人女性に対し、腕を殴るなどして左腕を骨折させ、さらに自宅で女性を強姦したとされる。傷害と強姦の罪に分けた理由について、青森地検の田野尻猛次席検事は「強姦するためにけがを負わせたのではない。殴っているときは、強姦する目的はなかった」としている。

最高裁判所昭和46年9月22日
所論は、本件被害者の傷害は本件姦淫によつて生じたものではないとして、強姦致傷罪の成立を争うが、記録によれば、被害者の傷害は、共犯者Aに強姦された後、さらに被告人らによつて強姦されることの危険を感じた被害者が、詐言を用いてその場をのがれ、暗夜人里離れた地理不案内な田舎道を数百米逃走し救助を求めるに際し、転倒などして受けたものであるから、右傷害は、本件強姦によつて生じたものというを妨げず、被告人らについて強姦致傷罪の成立を認めた原判断は正当である。

判例タイムズ269号244頁
強姦致傷罪における負傷が、強姦行為(姦淫行為およびその手段たる暴行脅迫)によつて生じた場合に限るかどうか、それ自体について学説上の対立があるが、判例は、それに限らないとしている(大判明44・6・29刑録17・1330)。
・・・・
最決昭35・2・11(判例体系33巻206の15頁刑事裁判集132・201)が、強姦の目的で婦女に暴行を加えたところ、被害者が着替えをしてから姦淫に応ずるかのように欺して犯人の手を逃れ、2階から飛び降りて救いを求めた際負傷した事案について、強姦致傷罪の成立を認めたのが、参考となろう。

追記
 検察官が裁判員を回避したような事件

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090606-00000000-kana-l14
昨年12月に横浜市内で帰宅途中の男性会社員(25)が2人組の男に襲われて財布を奪われた事件では、県警は男2人を強盗致傷容疑で逮捕。その後、横浜地検は先に送検された寒川町のとび職の男(24)を強盗致傷罪で4月28日に起訴。しかし、その後に送検された、もう1人の大和市の無職男(23)は、対象事件ではない恐喝・傷害罪で5月28日に起訴した。
 強盗致傷容疑で共犯として逮捕されながら、裁判員制度施行日をまたいで起訴罪名が変わった形だ。
 横浜地検は「共謀の上での事件だが、無職男は、恐喝と傷害の犯意を有するにとどまった」と、罪名の違いを説明。しかし、県警は「殴ったのはとび職男だけだが、被害者を囲むようにしてその場にいた無職男も、当然、共犯として強盗致傷罪に問えると判断した」と、送検までの調べの経緯を話す。
 無職男の弁護人は「共謀を認めながら、1人は傷害と恐喝、1人は強盗致傷で起訴するのは珍しい」と指摘。「強盗致傷と恐喝・傷害の境目の事件だと思うが、検察側が先に罪名を軽くするのは珍しい。時期が時期だけに、裁判員裁判を意識しているのではないか」とみる