児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

原田國男「量刑をめぐる諸問題−裁判員裁判の実施を迎えて−」判例タイムズ第1242号P86

 そういう事件が来たので、また引っ張り出して読んでいるわけです。
 事件によっては、量刑で調整するのにも限度があると思うのですよ。

原田國男「量刑をめぐる諸問題−裁判員裁判の実施を迎えて−」判例タイムズ第1242号P86
併合の利益というものは,実体法上のものではなく,手続上の併合審理の利益ともいえよう。
このような場合には,それぞれの裁判所で一般予防・特別予防に関する一般情状が重複して考慮されるおそれがあるから,控訴審でこの二重評価をできるだけ解消する必要が生じる。
控訴審における客観的併合については,現在のところ一般に行われていない。
家庭裁判所管轄事件と地方裁判所管轄事件(例えば,児童福祉法違反の罪と児童買春等処罰法違反の罪)がそれぞれ控訴された場合,それぞれ各部に配点されるので,偶然同一の部にでも配点されない限り,各部で各別に審理がなされるため,弁護人から併合の請求が出されることがある。
例えば,児童買春等処罰法違反の罪について,地方裁判所で執行猶予付きの懲役刑の判決を得ても,児童福祉法違反の罪について,家庭裁判所実刑の判決を受けていると,その確定により執行猶予も取り消されるために,結果的には合計刑期が重めになることもあるから,同一の部で審理・判決をしてほしいというのである72)。
しかし,このような場合に,客観的併合をした例は今のところ聞かない。
それは,事実上の調整も可能であることなどによるものであろう。
しかしながら,裁判員裁判において前記のように非対象事件と対象事件との非併合処理が多くなってくるとすれば,単なる事実上の調整では不十分で,控訴審における客観的併合の必要性も高まることも予想される。
この場合には,各原判決を破棄して,併合罪処理をして一つの統一刑を定めることが可能かなどの理論的検討が必要であろう。

72)
児童淫行罪と児童ポルノ製造罪について,合計の量刑が重くなるので,これを調整するために,二重評価禁止の原則を適用して,管轄を異にするため法律上併合審理が認められない場合について,併合による利益を実際上考慮すべきことを判示した判例がある(東京高判平成17年12月26日判例時報1918号122頁)。
この事例は,いわゆる「かすがい」現象で全体が一罪になる場合でも,検察官による「かすがい」に当たる犯罪の不起訴裁量を認めるが,そのために併合審理ができないことの不利益を量刑上考慮すべきであるとするものである。
なお,この判例の指摘する問題は,むしろ,将来,児童淫行罪等の家庭裁判所専属管轄の成人事件を地方裁判所に移管することにより抜本的に解決すべきであろう。
最近,この主張をテーマにした論考として,植村立郎「司法改革期における少年法に関する若干の考察」判例タイムズ1197号60頁以下がある。

東京高等裁判所判決平成17年12月26日
高等裁判所刑事裁判速報集平成17年247頁
      判例時報1918号122頁
 一 管轄違い及び二重起訴並びに憲法一四条違反をいう各論旨について(控訴理由第一ないし第三)
 その論旨は、要するに、本件児童ポルノ製造罪と同一被害児童に対する淫行罪(以下、「別件淫行罪」という。)とは科刑上一罪の関係にあるとして、これを併合罪として本件児童ポルノ製造罪につい
地方裁判所に管轄を認めた原判決には不法に管轄を認めた違法があり、また、別件淫行罪が既に家庭裁判所に起訴されているのであるから、地方裁判所に対する本件起訴は二重起訴であり、原判決には不法に公訴を受理した違法があり、さらに、被告人の行為についてのみ併合審理の利益を奪い、合算による不当に重い量刑をした原判決には憲法一四条一項違反の違法があるというのである。
 しかしながら、本件児童ポルノ製造罪について地方裁判所に起訴された訴因は、平成一六年一二月二日から平成一七年二月一七日までの間の前後六回にわたる児童ポルノの製造を内容とするものであり、他方、別件淫行罪について家庭裁判所に起訴された訴因は、平成一七年三月二六日の被害児童に淫行させる行為を内容とするものであって、これらの両訴因を比較対照してみれば、両訴因が科刑上一罪の関係に立つとは認められないことは明らかである。
 所論は、本件児童ポルノ製造の際の淫行行為をいわばかすがいとして、本件児童ポルノ製造罪と別件淫行罪とが一罪になると主張しているものと解される。ところで、本件児童ポルノ製造罪の一部については、それが児童淫行罪に該当しないと思われるものも含まれるから(別紙一覧表番号一及び四の各一部、同番号五及び六)、それについては、別件淫行罪とのかすがい現象は生じ得ない。他方、本件児童ポルノ製造罪のなかには、それ自体児童淫行罪に該当すると思われるものがある。例えば、性交自体を撮影している場合である(別紙一覧表番号一の一部、同番号二及び三)。同罪と当該児童ポルノ製造罪とは観念的競合の関係にあり、また、その児童淫行罪と別件淫行罪とは包括的一罪となると解されるから(同一児童に対する複数回の淫行行為は、併合罪ではなく、包括的一罪と解するのが、判例実務の一般である。)、かすがいの現象を認めるのであれば、全体として一罪となり、当該児童ポルノ製造罪については、別件淫行罪と併せて、家庭裁判所に起訴すべきことになる。かすがい現象を承認すべきかどうかは大きな問題であるが、その当否はおくとして、かかる場合でも、検察官がかすがいに当たる児童淫行罪をあえて訴因に掲げないで、当該児童ポルノ製造罪を地方裁判所に、別件淫行罪を家庭裁判所に起訴する合理的な理由があれば、そのような措置も是認できるというべきである。一般的に言えば、検察官として、当該児童に対する児童淫行が証拠上明らかに認められるからといって、すべてを起訴すべき義務はないというべきである(最高裁昭和五九年一月二七日第一小法廷決定・刑集三八巻一号一三六頁、最高裁平成一五年四月二三日大法廷判決・刑集五七巻四号四六七頁)。そして、児童淫行罪が児童ポルノ製造罪に比べて、法定刑の上限はもとより、量刑上の犯情においても格段と重いことは明らかである。そうすると、検察官が児童淫行罪の訴因について、証拠上も確実なものに限るのはもとより、被害児童の心情等をも考慮して、その一部に限定して起訴するのは、合理的であるといわなけれはならない。また、そのほうが被告人にとっても一般的に有利であるといえる。ただ、そうした場合には、児童ポルノ製造罪と別件淫行罪とが別々の裁判所に起訴されることになるから、所論も強調するように、併合の利益が失われたり、二重評価の危険性が生じて、被告人には必要以上に重罰になる可能性もある。そうすると、裁判所としては、かすがいになる児童淫行罪が起訴されないことにより、必要以上に被告人が量刑上不利益になることは回避すべきである。そこで、児童ポルノ製造罪の量刑に当たっては、別件淫行罪との併合の利益を考慮し、かつ、量刑上の二重評価を防ぐような配慮をすべきである。そう解するのであれば、かすがいに当たる児童淫行罪を起訴しない検察官の措置も十分是認することができる。したがって、憲法一四条違反の主張を含め、所論はいずれも採用できない。
(裁判長裁判官 原田國男 裁判官 池本壽美子 森 浩史)

東京高裁平成18年 1月23日
家月 58巻9号57頁
第1 控訴の趣意(控訴趣意書補充書及び補充書として陳述した弁論再開の請求書のそれを含む。)に対する判断
 1 不法に公訴を受理した違法(二重起訴)及び法令適用の誤りをいう論旨について
 原判決は、被害児童甲(原判示第1)及び被害児童乙(原判示第2)について、売春及び児童買春の周旋をするとともに、児童に淫行をさせたとの各罪を認定しているところ、論旨は、要するに、既に地方裁判所に起訴されていた原判示第2の被害児童乙に対する強姦及び児童買春の罪(以下、「別件地裁事件」という。)については、淫行させる罪としても評価でき、同一被害児童に対する淫行をさせる行為は包括一罪の関係にあるから、同被害児童についての本件起訴は二重起訴であり、また、原判示の各被害児童らについては業としての児童買春周旋罪一罪が成立すると解すべきであり、この罪をいわゆるかすがいとして被害児童甲についての本件起訴も二重起訴であり、原判決には不法に公訴を受理した違法がある、というのである。
 しかしながら、原審家庭裁判所に起訴された訴因は、各被害児童について、売春及び児童買春の周旋をするとともに、児童に淫行をさせたことを内容とするものであり、他方、別件地裁事件の訴因は、被害児童乙について、児童買春をするとともに13歳未満の女子を姦淫したという行為を内容とするものであって、被害児童乙に関するこれらの両訴因を比較対照してみれば、両訴因が一罪の関係に立たないことは明らかである。所論は、別件地裁事件は淫行させる罪としても評価され得るものであるなどというが、強姦罪等のほかに淫行をさせる罪が訴因として構成されていないことは明らかであり、検察官が強姦罪のほかに予備的に管轄を異にする児童淫行罪を地方裁判所に起訴することは実際上およそ考えられない。もとより、検察官において強姦罪で起訴すべきでなく、児童淫行罪で家庭裁判所に起訴すべきであったなどとも到底いえないところである。また、所論は、被害児童甲についての起訴も二重起訴になるとの主張の前提として、各被害児童に対する買春周旋は業としての児童買春周旋罪一罪が成立すると主張する。しかしながら、処断刑の範囲はともかくも、業としての児童買春周旋罪の法定刑は単なる児童買春周旋罪のそれに比べて重く、また、実際の犯情の評価も相当異なるのであって、検察官が、その立証の難易等を考慮し、各被害児童ごとに児童買春周旋罪を訴因として構成した措置は不合理ではなく、また、その公訴事実に対しこれを認定した上当該法令を適用した原判決には何ら法令適用の誤りは認められない。
 別件地裁事件の審理の結果、強姦罪の成立は否定されたが、公訴提起時におけるそれぞれの訴因をみれば、本件起訴が二重起訴であるとの主張は到底採用できない。
 不法に公訴を受理した違法があるなどという論旨も理由がない。
 2 訴訟手続の法令違反をいう論旨について〈編略〉
 3 量刑不当の論旨について
 論旨は、他の同種類似事案や周旋相手の量刑との均衡や被告人に有利な情状を十分にしん酌していないとして、原判決の量刑判断を論難するほか、本件においては併合審理の利益がない上、原判決は、別件地裁事件でも判断される不利な情状について二重に評価して量刑をしている不当があるなどというのである(なお、被害児童2名に対する児童買春の周旋を業としての児童買春周旋罪と評価すべきであるとして量刑不当をいう論旨は、前記のとおり、前提を欠き失当である。)。
 そこで検討するに、本件において量刑上考慮すべき事情について、原判決が「量刑の理由」の項において説示する内容はおおむね是認し得るところである。本件事案内容、各被害児童の年齢や本件が児童らの健全な成育に与えた悪影響の大きさなどの犯情に照らせば、被告人の本件刑事責任は到底看過し得るものではない。なお、所論のように二重評価の危険を防ぐ必要があるとしても、それは同様の事情が二重に評価されることを避けるべきことをいうのであって、当該事情が双方の裁判所で考慮されないことを認めるものではない。そうすると、先行する裁判所において、後行する裁判所がどのように量刑事情を考慮するかをあらかじめ予測することは困難であるから、裁判官が同一であるときなどは別として、先行する裁判所において、当該事件について考慮すべき量刑事情を量刑判断の前提に含めることは当然許されるのであって、後行する裁判所において、先行する裁判所の判断を十分考慮し、同一事件の二重評価を避けるべきなのである。こうした観点からすれば、先行する裁判所である原判決の量刑判断に対して二重評価をしたとの批判は当たらないのである。そうすると、他の同種類似事案の量刑との均衡等所論の指摘を十分に勘案してみても、原判決時において、被告人を懲役2年(求刑・懲役3年)に処した原判決の量刑判断はまことにやむを得ないものであって、これが重過ぎて不当であるなどとはいえないところであった。
 (裁判長裁判官 原田國男 裁判官 池本壽美子 森浩史)