二重起訴って、同一公訴事実について、起訴が2個以上ある場合をいうんでしょう。長いフランスパン(公訴事実)を両端からかじっているような状況だと思います。
最近の判例は、訴因と訴因とを比べて科刑上一罪の関係にある場合に限るようです。
東京高裁H17.12.26
1管轄違い及び二重起訴並びに憲法14条違反をいう各論旨について(控訴理由第1ないし第3)
その論旨は,要するに,本件児童ポルノ製造罪と同一被害児童に対する淫行罪(以下,「別件淫行罪」という。)とは科刑上一罪の関係にあるとして,これを併合罪として本件児童ポルノ製造罪について地方裁判所に管轄を認めた原判決には不法に管轄を認めた適法があり,また,別件淫行罪が既に家庭裁判所に起訴されているのであるから、地方裁判所に対する本件起訴は二重起訴であり,原判決には不法に公訴を受理した違法があり,さらに,被告人の行為についてのみ併合審理の利益を奪い,合算による不当に重い量刑をした原判決には憲法14条1項違反の違法があるというのである。
しかしながら,本件児童ポルノ製造罪について地方裁判所に起訴された訴因は,平成16年12月2日から平成17年2月17日までの間の前後6回にわたる児童ポルノの製造を内容とするものであり,他方,別件淫行罪について家庭裁判所に起訴された訴因は,平成17年3月26日の被害児童に淫行させる行為を内容とするものであって,これらの両訴因を比較対照してみれば,両訴因が科刑上一罪の関係に立つとは認められないことは明らかである。
所論は,本件児童ポルノ製造の際の淫行行為をいわばかすがいとして,本件児童ポルノ製造罪と別件淫行罪とが一罪になると主張しているものと解される。ところで,本件児童ポルノ製造罪の一部については,それが児童淫行罪に該当しないと思われるものも含まれるから(別紙一覧表番号1及び4の各一部,同番号5及び6),それについては,別件淫行罪とのかすがい現象は生じ得ない。
他方,本件児童ポルノ製造罪のなかには,それ自体児童淫行罪に該当すると思われるものがある。例えば,性交自体を撮影している場合である(別紙一覧表番号1の一部,同番号2及び3)。同罪と当該児童ポルノ製造罪とは観念的競合の関係にあり,また,その児童淫行発と別件淫行罪とは包括的一罪となると解されるから(同一児童に対する複数回の淫行行為は,併合罪ではなく,包括的一罪と解するのが,判例実務の一般である。),かすがいの現象を認めるのであれば,全体として一罪となり,当該児童ポルノ製造罪については,別件淫行罪と併せて,家庭裁判所に起訴すべきことになる。
かすがい現象を承認すべきかどうかは大きな問題であるが,その当否はおくとして,かかる場合でも,検察官がかすがいに当たる児童淫行罪をあえて訴因に掲げないで,当該児童ポルノ製造罪を地方裁判所に,別件淫行罪を家庭裁判所に起訴する合理的な理由があれば,そのような措置も是認できるというべきである。一般的に言えば,検察官として,当該児童に対する児童淫行が証拠上明らかに認められるからといって,すべてを起訴すべき義務はないというべきである(最高裁昭和59年1月27日第一小法廷決定・刑集38巻1号136頁,最高裁平成15年4月23日大法廷判決刑集57巻4号467貢)。そして,児童淫行罪が児童ポルノ製造罪に比べて,法定刑の上限はもとより,量刑上の犯情においても格段と重いことは明らかである。そうすると,検察官が児童淫行罪の訴因について,証拠上も確実なものに限るのはもとより,被害児童の心情等をも考慮して,その一部に限定して起訴するのは,合理的であるといわなければならない。また,そのほうが被告人にとっても一般的に有利であるといえる。ただ,そうした場合には,児童ポルノ製造罪と別件淫行罪とが別々の裁判所に起訴されることになるから,所論も強調するように,併合の利益が失われたり,二重評価の危険性が生じて,被告人には必要以上に重罰になる可能性もある。そうすると,裁判所としては,かすがいになる児童径行罪が起訴されないことにより,必要以上に被告人が量刑上不利益になることは回避すべきである。
そこで,児童ポルノ製造罪の量刑に当たっては,別件淫行罪との併合の利益を考慮し,かつ,量刑上の二重評価を防ぐような配慮をすべきである。そう解するのであれば,かすがいに当たる児童淫行罪を起訴しない検察官の措置も十分是認することができる。したがって,憲法14粂違反の主張を含め,所論はいずれも採用できない。
【事件番号】東京高等裁判所判決/昭和51年(う)第1065号
【判決日付】昭和52年4月6日
【参考文献】高等裁判所刑事判例集30巻2号177頁
高等裁判所刑事裁判速報集2229号
東京高等裁判所判決時報刑事28巻4号35頁
そこで検討するに、同一の起訴状に数個の訴因を記載するにあたり、それが科刑上一罪の関係にある場合には、これを一つにまとめて記載し、併合罪の関係にある場合にはこれに別個の番号を付して記載するのが実務の一般例ではあるけれども、理論的には右のような記載方法は訴因の明示上本質的なことではないというべきであり、記録によれば、検察官は原審第一一回公判期日において、所論指摘の各道路交通法違反の事実と、これらに対応する各枉法収賄の事実が一所為数法の関係に立つものである旨明瞭に釈明していることが認められ、これによつても、検察官が右両罪を一所為数法の関係にあるものとして起訴したものであることが明らかであるから、単に起訴状の記載形式のみから、検察官は、一所為数法の関係にある右両罪を併合罪として起訴したものであつて、これには二重起訴の違法があるとする所論は採用することができない。
【事件番号】東京高等裁判所/平成11年(う)第188号
【判決日付】平成11年4月27日
【参考文献】高等裁判所刑事裁判速報集平成11年50頁
東京高等裁判所判決時報刑事50巻1〜12号32頁
理 由
所論にかんがみ検討するに,裁判が既に確定している,所論指摘の条例違反事件の概要は,関係証拠によれば,被告人が,平成10年2月ころ,ある女子高校生と知り合い,いわゆる援助交際を重ねていたが,同年4月ころ,同女から紹介されて,援助交際の相手として,その友人である児童X子と近づきになり,同月23日ころ,「4万円あげるからおれとやろうよ」などとX子に申し向けて,応諾したX子と平塚市内のホテルで性交し,4万円を与えた,というものと認められる。
他方,本件第2事件は,右条例違反事件の約2週間後に,被告人がAと共謀の上で,Bに対し右X子を引き渡した行為を,7号違反行為としてとらえたものであるが,関係証拠によれば,被告人は,X子がBを相手に淫行する気持ちがあることを直に確かめた上で,同女をBに引き渡し,その後,同女は,Bを相手に性交類似の行為を行ったことが認められるから,所論指摘のとおり,被告人は,7号違反行為に止まらず,6号違反行為をも行ったものというベきであり,本件の場合,これらは包括して一罪として評価・処断されるべき関係にあるということができる(したがって,右を併合罪の関係にあるとして両方を起訴することは許されないが,7号違反行為のみを起訴したことは,許されない措置であるとは認められない。)。
そこで,右条例違反事件の事実とBを相手に淫行をさせた事実との関係を考えるに,たとえ,所論主張のとおり,右条例違反事件の事実が,同時に,6号違反行為にも該当するとしても,右が被告人自身を相手として淫行をさせたのに対して,本件第2事件と包括一罪の関係にある6号違反の行為は,その約2週間後に,第三者を相手に淫行をさせたのであるから,同一児童を対象とする犯行ではあるが,両者は,その犯意と犯行の態様を異にし,それぞれ別個の6号違反行為であって,併合罪の関係にあると評価すべきである。したがって,本件第2事件は,二重起訴には当たらず,所論は,その前提を欠くというべきである。
論旨は理由がない