児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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大阪府青少年健全育成条例25条2号の罪と強姦罪・強制わいせつ罪との関係

 法律と条例の適用範囲が重なるような場合は、守備範囲と抵触の問題を検討する必要があります。
 青少年条例違反事件がきたら、この程度の講釈を述べる。

 大阪府青少年健全育成条例25条2号の罪と強姦罪・強制わいせつ罪との関係
 まず、同種行為(性行為)について規定する刑法176条、177条との比較によって検討する。
 条例と強姦罪・強制わいせつ罪との法定刑が大きく異なることや、大阪府例規でも「威迫しとは、暴行又は脅迫に至らない程度の言語、動作、態度等により心理的威圧を加えて相手方に不安の念を抱かせ、自由な判断力を低下させることをいう」とされていることからも判るように、条例の罪と強姦罪・強制わいせつ罪とは補充関係にあって、強姦罪・強制わいせつ罪が成立するときには、条例の罪は成立しない。
 大阪府条例の「立法者」は大阪府であるから大阪府警例規は「立法者」の見解である。

大阪府青少年健全育成条例の運用について」大阪府警例規
( 6) 本条第2 号は、専ら性的欲望を満足させる目的で、青少年を威迫するなどにより当該青少年に対し性的行為を行うことであり一般的には「専ら」でないことを柾々弁解するものと予想されるので、性的行為に至る経緯、状況等から「専ら」性的欲望を満足させる目的であつたか否か判断する必要がある。
ア「威迫し」とは、暴行又は脅迫に至らない程度の言語、動作、態度等により心理的威圧を加えて相手方に不安の念を抱かせ、自由な判断力を低下させることをいう。
イ「困惑させて」とは、借金の返済を厳しく迫つたり、雇用関係、職場における上司と部下の関係等の特殊な関係を利用して義理人情の機微につけ込むことなど、心理的な圧迫を加え、精神上の自由な判断力を低下させることをいう。

 同様に、困惑による場合でも、困惑の程度が著しく、「抗拒不能」に至っている場合には、凖強姦罪・凖強制わいせつ罪のみが成立し、条例の罪は成立しない。

2 「困惑」とは
 条例にいう「困惑」は、専ら性的欲望を満足させる目的の手段として行われることを要する。
 これは条例及びその解説(大阪府例規)から明かである。

大阪府青少年健全育成条例
第4章 青少年の健全な成長を阻害する行為の禁止
(みだらな性行為及びわいせつな行為の禁止)
第25条 何人も、次に掲げる行為を行ってはならない。
(1) 青少年に金品その他の財産上の利益、役務若しくは職務を供与し、又はこれらを供与する約束
で、当該青少年に対し性行為又はわいせつな行為を行うこと。
(2) 専ら性的欲望を満足させる目的で、青少年を威迫し、欺き、又は困惑させて、当該青少年に対し性行為又はわいせつな行為を行うこと。

大阪府青少年健全育成条例の運用について大阪府警例規
( 6) 本条第2 号は、専ら性的欲望を満足させる目的で、青少年を威迫するなどにより当該青少年に対し性的行為を行うことであり一般的には「専ら」でないことを柾々弁解するものと予想されるので、性的行為に至る経緯、状況等から「専ら」性的欲望を満足させる目的であつたか否か判断する必要がある。
ア「威迫し」とは、暴行又は脅迫に至らない程度の言語、動作、態度等により心理的威圧を加えて相手方に不安の念を抱かせ、自由な判断力を低下させることをいう。
イ「困惑させて」とは、借金の返済を厳しく迫つたり、雇用関係、職場における上司と部下の関係等の特殊な関係を利用して義理人情の機微につけ込むことなど、心理的な圧迫を加え、精神上の自由な判断力を低下させることをいう。

 暴行脅迫を手段とする場合は強姦罪、児童との支配関係を手段とする場合は児童福祉法淫行罪、犯人が青少年に金品その他の財産上の利益、役務若しくは職務を供与し、又はこれらを供与する約束をした場合や欺罔・威迫・困惑させた場合は大阪府条例の淫行罪というように、ある種の手段的行為が付加要件されて初めて処罰されるのである。

 要するに売春防止法7条の「困惑」と同義である。
判例刑法研究8特別刑法の罪「売春防止法

3 困惑の程度
 例規では、

イ「困惑させて」とは、借金の返済を厳しく迫つたり、雇用関係、職場における上司と部下の関係等の特殊な関係を利用して義理人情の機微につけ込むことなど、心理的な圧迫を加え、精神上の自由な判断力を低下させることをいう。

と説明されているが、既に述べたように、条例の罪と(凖)強姦・(凖)強制わいせつ罪との関係から、困惑についても、「抗拒不能」に至らない程度であることが必要である。
 また、困惑が講じて暴行脅迫に至ることがあるかもしれないが、それも条例にいう「困惑」ではない。
 これは売春防止法の「困惑」についての解釈と同様である。
古川龍一 刑事裁判実務大系3風俗営業・売春防止「対償の収受等」
注釈特別刑法第8巻 児童福祉法 売春防止法p714


4 「困惑」の手段性
 また、「困惑」は性的行為の手段であることが要件であるから、およそ何についての困惑でもよいのではなく、それ自体、青少年に心理的圧迫をかけて性的行為を行わせるような性質のものではくてはならない。
 例えば、難しい漢字を書かせたり、多数桁の暗算をさせたりして困惑させたとしても、それは条例にいう「困惑」には当たらない。

5 「困惑」と性行為との因果関係
 困惑は性行為の手段であることを要するのと同様に、困惑と性行為との間には因果関係が必要である。
 性行為に向かうような困惑が、性行為を目的として加えられたとしても、別の理由(強制・合意)で性行為に至った場合には、因果関係がないから条例違反罪は未遂となって成立しない(未遂処罰規定はない)。
 本件では、仮に、「困惑」があったとしても、買春罪における対償供与の約束ないしは、強制わいせつ罪・強姦罪が予定する程度の暴行脅迫があるから、困惑と本件性行為との間には因果関係はない。

6 本件について