児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

ドイツでは単なるキャッシュデータの保存であっても児童ポルノの所持に当たる


 キャッシュOKっていうと、キャッシュ形式で保存しますよね。

https://chuo-u.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=7973&item_no=1&page_id=13&block_id=21
https://chuo-u.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=7973&file_id=22&file_no=1

髙良幸哉「児童ポルノ文書の自己調達および所持StGB §§ 184b IV, 52, 53」ドイツ刑事判例研究(88)
3 本件の検討に際し,先例となる裁判例について概観する。まず,本 件以前の下級審の裁判例として,Schleswig高等裁判所2005年?月15日判 決*1がある。これは,被告人がインターネット上で児童ポルノ的な文書に 当たる内容のウェブサイトを閲覧した事案につき,少なくともインターネ ット上で児童ポルノ的内容を検索した者,かかる内容のウェブサイトを呼 び出した者,コンピュータのディスプレイ上で見た当該サイトの単なる閲 覧者も,184b条の意味における所持調達として可罰的になるとする。次 に,BGHの判例として,BGH2005年?月?日決定*2は,改正前StGB184 条?項に基づく他人調達が競合する事案において,調達行為と所為単一で ある所持行為がそれぞれとも所為単一であることをもって,かすがい的 に,これらを所為単一のものとした事案である。当該事案に関しては,法 益侵害性の高い他人調達行為の法定刑が184条各号の犯罪と同等の処罰が 科されていたことから,これらを観念的競合とすることで刑の加重をして いる。その後の裁判例としては,BGH2006年10月10日決定*3がある。これ は,被告人が異なる日に数度にわたり児童ポルノ的内容を含むウェブペー ジを検索し,一方では自ら児童ポルノ的内容のデータファイルを自身のラ ップトップのハードディスク内にダウンロードして保存し,一方では閲覧 により,自動的に児童ポルノ的ウェブサイトのデータのキャッシュデータ が同ハードディスク上に保存されたという事案につき,BGHは,システ ム上自動的にキャッシュデータがハードディスク上から削除されるまでの 間,何時でも児童ポルノ的データファイルを検索することが可能である点 を指摘して,単なるキャッシュデータの保存であっても児童ポルノの所持に当たる旨明示している。この点について明示したのは,このBGH2006 年決定が初めての裁判例である*4。

児童ポルノが撮影・送信されてしまっている児童ポルノ要求行為(埼玉県青少年健全育成条例)の逮捕

 青少年条例の要求行為というのは、児童ポルノ製造罪(7条4項)の未遂・予備的性格ですので、撮影・送信されてしまい製造罪が既遂になった場合には、要求罪は成立しないと思います。
例えば
 1/1 要求
 1/2 製造
 1/3 要求
 1/4 製造
 1/5 要求
だとすると、要求罪は1/5だけになるでしょう。
 だいたい国法の製造罪は未遂を処罰しないのに、条例で未遂を処罰していいのかという論点もあります。

 兵庫県条例の同様の規定について、神戸地検も実効性がないと回答しています。

兵庫県知事井戸敏殿
神戸地方検察庁検事正
罰則の定めのある条例案に関する協議について(回答)
本年11月13日付け文第2280号をもって依頼のありました「青少年愛護条例の一部を改正する条例」について検討した結果,罰則の適用に関し,下記のとおり回答します。

第1 検討結果
1 児童ポルノ等の提供を求める行為
(1) 罰則を設けること
本条例の一部改正(以下, 「一部改正」という。)は, その必要性に基づいて,青少年に対して児童ポルノ等の提供を求める行為を禁止するものであり, これを担保すべく罰則を設けることにも合理的必要性が認められる。
ただし,
①警察が事件を認知するのは,青少年の相談を受けることによるのが通常と思われるが,青少年が行為者の求めに応じて児童ポルノ等を送信して児童ポルノの製造等に至るより前の段階で,警察が認知することは見込まれ難く, また,製造等に至っている場合に製造等のほかに法定刑の低い児童ポルノ等の提供を求める行為を併せて処罰する必要性に乏しいこと,
②現時点で他の地方公共団体には同様の罰則を設ける条例がないため,青少年が提供を求める行為を了知した時に兵庫県内にいたが(結果地),行為者が行為時に同様の条例が存在しない場所にいた事案では,行為者には,故意として,禁止場所における禁止行為であるとの認識,つまり,提供を求める行為が禁止されている兵庫県内で青少年が了知するとの認識が求められる可能性があることなどから,一部改正による罰則が適用される場面は,実際にはかなり限定されるものと思料される。

埼玉県青少年健全育成条例
児童ポルノ等の提供を求める行為の禁止)
第19条の3
何人も、青少年に対し、当該青少年に係る児童ポルノ等(児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号)第2条第3項に規定する児童ポルノ及び同項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であ つ て、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。第21条の4第1項及び第5項第2号において同じ。) その他の記録をいう。第29条第3号において同じ。)の提供を求めてはならない。
○追加(平成 30 年 10 月 16 日条例第 34 号
・・・
第29 条 次の各号のいずれかに該当する者は、 30 万円以下の罰金に処する。
(3)第 19 条の3の規定に違反して、次に掲げる行為を行 つ た者
イ 青少年に拒まれたにも かか わらず、当該青少年に係る児童ポルノ等の提供を求めること。
ロ 青少年を威迫し、欺き、若しくは困惑させ、又は青少年に対し、対償を供与し、若しくはその供与の申込み若しくは約束をする方法により、当該青少年に係る児童ポルノ等の提供を求めること。
・・・
※年齢知情条項は適用なし
第31 条 第 11 条第3項、第 12 条第3項若しくは第4項、第 16 条第2項、第 17 条の2 、 第17条の4第1項若しくは第2項(第1号又は第2号に係る部分に限る。)、第17条の5(第3号に係る部分を除く。) 、 第 18 条第 1 項、第2項若しくは第3項、第 18 条の2、第 18 条の3、第 19 条第1項若しくは第2項、 第 19 条の2、 第 20 条、第 21 条第2項又は第 21 条の2第1項の規定に違反した者は、当該青少年の年齢を知らないことを理由として、第 28 条から第 29 条 まで の規定による処罰を免れることができない。ただし、当該青少年の年齢を知らな

第三十三条 この条例の罰則は、青少年に対しては、適用しない。

解説

(趣旨)
本条は、全ての者に対して、青少年に、自身の姿態が描写された児童ポルノ又はその情報を記録した電磁的記録その他の記録の提供を、当該青少年に不当に求める行為を禁止したものである。

(解説)
本条は、脅されたり、だまされたりするなどして、青少年自身が裸体等をスマートフォン等で撮影させられた上、メール等で送らされる被害、いわゆる「自画撮り被害」にあった青少年が急増しているため、不当に求める行為の禁止が新設されたものである。
1「何人も」とは、国籍、住所、年齢、性別を問わず、全ての人(自然人)を指す。 ただし、青少年が 本条 の違反行為を行っても罰則は適用されない(条例第 33 条)。
2「当該青少年に係る児童ポルノ等」とは、求める相手方である青少年自身の姿態が描写された児童ポルノ等であり、他の青少年の姿態が描写された児童ポルノ等を求めた場合については該当しない。
3「児童ポルノ」の該当性については、児童ポルノ禁止法第2条第3項の定義に準ずる。
4「提供を求める」は、児童ポルノ禁止法第7条第2項に規定する「提供」と同じであり、当該児童ポルノ等を相手方において利用し得るべき状態に置く法律上・事実上の一切の行為をいう。
具体的には、有体物(写真等)としての児童ポルノを交付するよう求めたり、電磁的記録を電子メールで送信するよう求める行為 等 が該当する。
5「求める」とは、青少年に対して、要求するのみならず、勧誘するなども含めた広い概念をいう。
6青少年に拒まれたにもかかわらず再度要求した者や、不当な方法により要求した者は、30万円以下の罰金に処せられる( 条例 第29条3号)。
[関係条文]
児童買春、児童ポルノ等に係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律第2 条( 定義 、第7条 (児童ポルノ所持、提供等


・・・
第3号関係
( 「拒まれたにもかかわらず」とは、青少年に対して当該青少年に係る児童ポルノ等の提供を求めた者がそれを拒否されたと認識しているにもかかわらずということになる。
したがって、やり取りの記録などから拒否されたと認識していることが明らかである場合のほか、社会通念上、青少年の意思表示が拒否したと認められるものであり、かつ、それが提供を求めた者に到達していることが明らかである場合には、拒否されたと認識していたということができる。
( 「威迫」とは、他人に対して言語挙動をもって気勢を示し、脅迫に至らない程度の人に不安の感を生じさせる行為をいう。
( 「欺く」とは、他人を錯誤に陥れ、虚偽の事実を真実と誤認させる行為である。真実でないことを真実であるとして表示する行為で、虚偽の事実を摘示する場合と真実の事実を隠ぺいする場合とが含まれる。
( 「困惑させる」とは、困り戸惑わせることをいい、暴行脅迫に至らない程度の心理的威圧を加え、又は自由意思を拘束することによって精神的に自由な判断ができないようにすることをいう。
相手方に威力を示す場合、義理人情の機微につけこむ場合、恩顧愛執の情義その他相手方を心理的に拘束し得るような問題を持ち込む場合などが考えられるが、いずれにしても、相手方に対する言動のほか、相手方の年齢・知能・性格、置かれた環境、前後の事情などを総合して判定する。
( 「対償を供与し、若しくはその供与の申込み若しくは約束をする」とは、児童ポルノ等の提供に対する反対給付としての経済的な利益を供与、又はその約束をすることをいう。
対償は、現金のみならず、物品、債務の免除も含まれ、金額の多寡は問わない。

https://news.yahoo.co.jp/articles/8bbf7dc41523ce82756f58bcc8091dc428f52cc7
女子高生に「わいせつ画像の定期契約」求めた男逮捕 同じ趣味で知り合った2人 生徒のスマホ見た父母驚き
逮捕容疑は昨年7月18日~8月1日、県内居住の10代の女子高校生が18歳に満たないことを知りながら、「定期契約しませんか」「毎月3千円とか」「画像も欲しいです」などとメッセージを送信し、わいせつな画像を要求した疑い。

 同署によると、同年8月11日に女子高校生の両親が「スマートフォンの中を確認したところ、わいせつな画像が保存されていた」と同署に相談し、通信状況などから男とのやりとりを発見した。2人は共通の趣味から交流サイト(SNS)で知り合ったという。「裸が見たかった」と容疑を認めているという。

児童ポルノ公然陳列罪の罪数処理 包括一罪説から併合罪説へ

 児童ポルノ公然陳列罪の罪数はサーバーの個数で決まるという植村判決(東京高裁h16.6.23)も効かないなあ。
 奥村は従前から併合罪説だったので、ようやく高裁が付いてきた感じです。
 下記の高裁判例の弁護人は全部奥村です。弁護人弁護士奥村徹併合罪と主張すれば包括一罪だと判示して、弁護人弁護士奥村徹が包括一罪と主張すれば併合罪だと判示していることが明らかです。

包括一罪説

阪高裁h15.9.18
(法令の適用)
第1の所為 児童買春児童ポルノ禁止法4条
第2の所為 包括して同法7条1項
児童買春児童ポルノ禁止法2条3項の各号に重複して該当する画像データがあることは所論指摘のとおりであるものの,検察官においてそれらの重複するものについてはより法益侵害の程度の強い先順位の号数に該当する児童ポルノとして公訴事実に掲げていることは明らかであって,包括一罪とされる本件において,それぞれの画像データが上記各号の児童ポルノのいずれに該当するかを個々的に特定する必要もない
・・・
東京高裁h16.6.23
2所論は,要するに,原判決は,被害児童ごとに法7条1項に違反する罪(児童ポルノ公然陳列罪)が成立し,結局これらは観念的競合の関係にあるとして,その罪数処理を行っているが,本罪については,被害児童の数にかかわらず一つの罪が成立するというのが従来の判例であるから,原判決には,判決に影響を及ばすことの明らかな法令適用の誤りがある,と主張する(控訴理由第16)。
 そこで,本件に即して検討すると,法7条1項は,児童ポルノを公然と陳列することを犯罪としているから,同罪の罪数も,陳列行為の数によって決せられるものと解するのが相当である。確かに,所論もいうように,児童個人の保護を図ることも法の立法趣旨に含まれているが,そうであるからといって,本罪が,児童個人に着目し,児童ごとに限定した形で児童ポルノの公然陳列行為を規制しているものと解すべき根拠は見当たらず,被害児童の数によって,犯罪の個数が異なってくると解するのは相当でない。
 そして,本件では,被告人は,22画像分の児童ポルノを記憶・蔵置させた本件ディスクアレイ1つを陳列しているから,全体として本罪1罪が成立するにすぎないものと解される。したがって,この点に関する所論は正当であって,被害児童ごとに本罪が成立するとした原判決の法令解釈は誤りである。
・・・・

名古屋高裁h23.8.3
4 控訴理由④について
 論旨は,本件各画像の被写体となっている児童は3名であるから,本件は児童ポルノ公然陳列罪3罪の併合罪とされるべきであるにもかかわらず,これらを混然と1罪とした本件起訴状は訴因の特定を欠くものであって,この不備を補正させることなく,また公訴を棄却せずに実体判決をした原審の訴訟手続には法令違反があり,さらに,本件を1罪とした原判決には法令適用の誤りがある,というのである。
 しかしながら,本件犯行は,児童3名が1名ずつ撮影された本件各画像(4点の画像のうち2点は同一の児童が撮影されたものと認められる。)のデータを,約5分間の間に,インターネットのサーバコンピュータに記憶,蔵置させた上,本件各画像の所在を特定する識別番号(URL)をインターネットの掲示板内に掲示して児童ポルノを公然と陳列したというものであり,本件各画像が上記掲示板内の「ロリ画像①」と題する同一カテゴリ内に掲示されているなど,各陳列行為の間に密接な関係が認められることからすれば,各児童に係る児童ポルノ公然陳列罪の包括一罪であると解するのが相当である。
したがって,本件起訴状は訴因の特定を欠くものではないから,原審の訴訟手続の法令違反をいう論旨は理由がない。なお,原判決は本件を単純―罪と判断したものと解されるが,処断刑期の範囲が包括一罪と同一であるから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りはないというべきである。

併合罪

東京高裁R04
第4 法令適用の誤りの主張について
 1 論旨は、要するに、同一児童の同一画像を数回にわたり陳列した原判示の公然陳列行為は包括一罪であるのに、併合罪とした原判決には法令適用の誤りがある、というのである。
 2 原判決は、要旨、次のように説示して、被告人Aが3回にわたり本件動画を公然と陳列した行為は併合罪の関係に立つと判断した。
   すなわち、被告人Aはつのアカウントが凍結されたことを確認した後、新しいアカウントを作成して再び本件動画を投稿しており、アカウント凍結により本件動画は一度公然と陳列された状態ではなくなっていたから、そのような状態で本件動画を再度投稿するのは、記憶・蔵置されたサーバコンピューターが同一であったとしても、別個の法益侵害を発生させていると評価すべきである。
 3 こうした原判決の判断は不合理ではない。
   所論は、児童ポルノ提供罪では社会的法益や反復性を重視して包括一罪とされることが多く、児童ポルノ公然陳列罪でも同様に包括一罪となると主張する。しかし、児童ポルノ公然陳列罪は行為の反復・継続がその性質上当然に予定されているということはできないし、被告人Aは動画の投稿に利用したアカウントが凍結されると新たなアカウントを作成して動画を投稿しており、その都度児童ポルノを公然と陳列する別個の犯意に基づき別個の行為に及んだと認められるから、所論は採用できない。
 4 論旨は理由がない。

阪高裁r03
(2)公然陳列の罪数に関する所論について
 ア 所論〔主任弁護人〕は,原判決は原判示第1の児童ポルノ公然陳列罪と原判示第2の児童ポルノ公然陳列罪とを併合罪としているが,被告人のこれらの行為は,令和年月日から同年月日にかけて,自宅で,反復して児童の裸体画像を公然陳列するところにあり,しかも,陳列したのは1個のサーバコンピュータであり,公然陳列行為の個数はサーバの個数で決まると解するべきであるから,公然陳列行為は1個の行為であって単純一罪ないし包括一罪と評価されるべきであり(1個の公然陳列行為によって,わいせつ物公然陳列罪と児童ポルノ公然陳列罪を充たすので,両罪の観念的競合となる。),原判決には法令適用の誤りがある旨主張する。
 イ この点,原判決は,法令適用の罰条において「判示第1の1の所為のうち,児童ポルノ公然陳列の点及び判示第2の所為につき,各画像データごとにそれぞれ児童ポルノ法7条6項前段(2条3項2号,3号)に該当する」としているところ,児童ポルノ法は,児童を性欲の対象とする風潮を防止するという面で児童一般を保護する目的がある一方で,同法1条の目的規定や各個別規定による児童ポルノ規制のあり方に照らすと,当該児童ポルノに描写された個別児童の権利保護をも目的としていると解される。そうすると,被害児童ごとに法益を別個独立に評価して各画像データごとにそれぞれ児童ポルノ公然陳列罪の成立を認めている原判決の罰条適用は正当なものである。所論は(児童ポルノ)公然陳列行為の個数はサーバの個数で決まるというが,同罪の個人的法益に対する罪としての性格を軽視するものであって賛同できない。
 その上で,原判決は「判示第1の1の所為は,1個の行為が10個の罪名(わいせつ電磁的記録記録媒体陳列の包括一罪と9個の児童ポルノ公然陳列)に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条により,判示第1の2のわいせつ電磁的記録記録媒体陳列を含め,1罪として刑及び犯情の最も重い別表1番号4の画像についての児童ポルノ公然陳列の罪の刑で処断する」と科刑上一罪の処理をしているところ,これは,複数のわいせつ電磁的記録記録媒体陳列は,社会的法益に対する罪である同罪の罪質に照らし,同一の意思のもとに行われる限り包括一罪として処断され,さらに,児童ポルノであり,かつ,わいせつな電磁的記録に係る記録媒体を公然と陳列したときは,児童ポルノ公然陳列罪とわいせつ電磁的記録記録媒体陳列罪との観念的競合になることから,結局,原判示第1の各罪を包括一罪(刑及び犯情の最も重い別表1番号4の画像についての児童ポルノ公然陳列の罪の刑)で処断したものと考えられるのであり,そのような原判決の法令適用に誤りはない。
 ウ もっとも,そのように包括一罪とされる原判示第1のうちの同2のわいせつ電磁的記録記録媒体の公然陳列行為と,原判示第2の児童ポルノの公然陳列行為とは,同じ日の僅か4分の間に続けて行われたものであるから,これらをも包括一罪とする考えもあり得るところで,現に原審検察官の起訴はそのようなものであったが,しかし,児童ポルノ公然陳列罪の個人的法益に対する罪としての性格を重視し,あえてそのような処理をせず,原判示第1の罪と原判示第2の罪とを併合罪の関係にあるとした原判決の法令適用に誤りがあるとはいえない。
 公然陳列の罪数に関する所論も採用できない。
 論旨は理由がない。

セクスティングの分類①注目希求型,②性欲充足型,③同性愛社交型④金銭授受型,⑤提供・拡散型⑥強要型

 児童が単独で撮影・送信する場合は、児童が、提供目的製造罪・提供罪になるということを前提にして、「犯罪少年」として扱われているようです。
 おっさんに売ると、「被害児童」になります。

熊本家庭裁判所山本浩二ほか「SNS等を利用した非接触型の性非行を中心とする性非行事件に関する研究」家裁調査官研究紀要26
第4熊本家庭裁判所に事件係属した事例の考察
1 研究対象事例
平成27年4月から平成30年3月までに熊本家庭裁判所に事件係属した児ポ法違反事件又はわいせつ電磁的記録に係る記録媒体陳列事件の在宅事件28事例を対象とした
(資料2)。
男女の内訳は,男子少年22人(78. 6%),女子少年6人(21.4%)である。
非行時の年齢は, 14歳2人(7. 1%), 15歳l1人(39.3%), 16歳7人(25%), 17歳7人(25%), 18歳0人, 19歳1人(3.6%)である。事件別では,児ポ法違反事件のみが21人,児ポ法違反事件及びわいせつ電磁的記録に係る記録媒体陳列事件が6人. わいせつ電磁的記録に係る記録媒体陳列事件のみが1人である。
非行時の職業は,全員が学生であり,有職者はいなかった。学籍は,高校生が18人(64.2%), 中学生が9人(32.2%),大学受験生が1人(3.6%)であった。
2事例の分類
本研究における研究対象事例を検討するに当たり,試みとして,
①注目希求型,
②性欲充足型,
③同性愛社交型
④金銭授受型,
⑤提供・拡散型
⑥強要型
という六つの類型を考えた。類型を作るに当たっては,前述のWolak&Finkelhor (2011)によるセクステイングの分類における着眼点(事案の性質被写体の種類,動機等)を参考に,主に動機・目的によって分類した(資料3)。
なお,性欲充足型と強要型は,性欲の充足という目的は同じであるが,高岸准教授から, その悪質さの程度が大きく異なることや,性加害の深刻度を見る際のポイントの一つである「脅迫・手なずけの有無」によって性欲充足型と強要型とを区別できるという助言を得たことから,別類型とした。
また,同性愛社交型については,研究対象事例の数は少ないものの,高岸准教授から,海外の先行研究(例えば,DirA"etal"2013)では,同性愛者やバイセクシャルの人は,そうでない人に比べてインターネットを介した写真のやり取りが際立って多いことが指摘されており, マイノリテイの仲間を探そうとする願望の結果でもあると言われていることから,一つの類型として独立した方がよいのではないかとの助言を得たことから,類型として独立させた。
複数の動機・目的が複合する事例については, より強い動機・目的によって分類を行
った。

3研究対象事例からみられる各類型の特徴
次に,研究対象事例からみられる各類型の特徴や少年の課題,教育的措置の在り方な
どについて,事例紹介も含めて示す。研究対象事例は,在宅事件であることもあり, その多くが不処分までで終局しているが,類型によって少年の要保護性や終局決定が定まるわけではなく,誤解を避けるため,終局決定については記載していない。
(1) 注目希求型(9人/28人)
ア定義
主たる動機や目的が閲覧者の反応や閲覧者の増加を期待することにあり,注目を浴びることで心理的な満足感を得るために, SNS等を通じて性器等の画像等を投稿するものを注目希求型とした。
イ内訳
・・
ウ動機・目的及び非行態様
主な動機・目的は,①自己のTwi t terのフォロワーや, スレッドや掲示板の閲覧者を増やしたかった,②多くの者が自己の児童ポルノを投稿しており,個人が特定されることはないと思った,③フォロワーや閲覧者が, どんな反応を示すか楽しみだった, といったものであり,児童ポルノを投稿することで,他者の反応を得たり注目を集めようとしたりしていた。
大半の少年は, SNS等に自己の性器等の画像等を投稿することに性的欲求の充足を求める気持ちはなかったと述べ,性的な欲求の関連を否定していた。しかし,
実際に少年らがSNS等に投稿した画像等には勃起した陰茎の画像や自慰行為の動画があり,少なくとも製造し投稿する際には性的な興奮や充足感も得ていた少年がいると思われるほか, 自慰行為の動画を他者が見ていると想像することに興奮を感じたと述べた少年もおり,性欲充足型の少年のように性欲が主たる目的ではないとしても,多少なりとも性的な欲求があったと考えられる。
また,大半の少年は, SNS等を通じて知り合った人と実際に会おうとしたり性的な接触を求めたりはしていないが,女子少年2人については,別の男子少年の育成条例違反で被害者になっていて, SNS等で知り合った人から会うことを求められて性交までしていたことが分かっている。
エ特徴
・・
(2) 性欲充足型(6人/28人)
ア定義
主たる動機や目的が性的な欲求を満たすことにあり, SNS等を通じて被害者に裸体等の画像等を送るよう依頼したり,性交の相手を探す目的で自己の性器等の画像等を投稿したりするものを性欲充足型とした。
イ内訳
・・
(3) 同性愛社交型(2人/28人)
ア定義
主たる動機や目的が同じ性的指向を持つ者を探すことにあり, SNS等を利用して自己の性器等の画像等を投稿したりするものを同性愛社交型とした。

(4) 金銭授受型(4人/28人)
ア定義
主たる動機や目的が金銭を得ることにあり, SNS等を利用して自己又は他者の性的画像等を販売しようとしたり,性交相手を探そうとしたりしたものを金銭授受型とした。
イ内訳
女子3人,男子1人であり,全員が高校生であった。年齢は16歳と17歳が2人ずつであった。男子は周囲から模範的な生徒と見られていたが,女子は学校内での人間関係に問題を抱えており,不登校になったり孤独感を抱えたりしていた。両親健在が3人,母子家庭が1人であった。ただし,両親健在の家庭も父の存在感が希薄であったり,両親の関心が弟の方に向いていると感じて寂しさや不満を抱えたりしていた。母子家庭では経済的な問題があったが,他の家庭に経済的な問題はうかがえなかった。性体験がないのは2人(ただし, 1人は本件で出会った相手と初交)で,男子はSNS等で知り合った男性の性器を3千円もらって口淫し,被害者として警察の事情聴取を受けたことがあった。
ウ動機・目的及び非行態様
女子は, SNS等で性交相手を求めようとし, 自分を目立たせるために自己の裸の画像等を投稿した者が2人,自己の裸体等の画像等を売却した者が1人であった。男子は, インターネットで購入した児童ポルノの動画を自分の妹の動画として売却したものであった。
単純に金銭を得ることを目的とした者は3人で,性交相手を求めた女子のうち1人は,性交して結果的に金銭を得ているが,最初から金銭目的ではなく,精神的不調を抱え, 自分が必要とされていることを実感したいという思いから性交相手を求めていた。他の分類に該当するものがなく,最終的に金銭を受け取っていることから,金銭授受型に分類した。
エ特徴
・・
(5)提供・拡散型(4人/28人)
ア定義
主たる動機や目的が性的な欲求の充足や金銭ではなく,仲間内の人間関係の維持や被害者への悪意といったものにあり,他者の裸体等の画像等をSNS等で特定の者に提供したり不特定多数が閲覧できるようにしたりするものを提供・拡散型とした。
・・
(6) 強要型(3人/28人)
ア定義
主たる動機や目的が性的な欲求を満たすことにあり, そのために被害者を脅迫するなどし,強いて被害者に性器等の画像等を送信させるなどしたものを強要型とした。
性的な欲求を満たすという動機や目的は性欲充足型と同じであるが, 強要型の手段には攻撃性や悪意が認められる点が性欲充足型とは異なっている。また,被害者に対する悪意があるという点では拡散型と同じであるが,強要型では被害者の裸体等の画像を脅迫などによって入手している点が拡散型とは異なっている。
・・
(7) まとめ
全ての類型において, スマートフオンの普及による個室化匿名性や相手と簡単に連絡を取り合える双方向性といったSNS等の特性の影響がうかがえた。SNS等の匿名性の高さは現実生活ではできないことを可能にし,違う自分を演じたり表出できない欲求を表出したりすることができる。そのことが注目希求型や性欲充足型のような性的画像等の投稿への契機となったり, また,強要型のような攻撃性や支配欲求の発露を助長したりすることが考えられる。
研究対象事例の少年に非行歴がある者は少なく, SNS等での言動と現実生活での言動は異なるため, SNS等における非接触型の性非行が現実生活における性非行につながりやすいとまでは言えない。しかし,女子少年は,金銭授受型に限らずSNS等で知り合った男性と実際に出会っているケースが多く,女子少年が被害者にならないようにするためにも,女子少年がSNS等でどのような言動をとっており,相手とどのようなやり取りをしているかをしっかりと確認する必要がある。また,強要型や拡散型には攻撃性や支配欲求,悪意といった要因がうかがえ,少年の抱える問題が比較的大きいと考えられる。同種の非行の再発だけでなく, これらの少年の有する攻撃性等がより深刻な被害を生じさせる別の非行につながるおそれはないかについても,より慎重に調査する必要があろう。

高校生の陸上大会で、競技場ゲート外側からズーム機能を使ったデジタルカメラで、ユニホーム姿の女子選手らの下半身を多数回撮影した行為を、京都府迷惑行為等防止条例3条1項6号(卑わいな言動)として罰金30万円にした事例(右京簡裁R03.12.7)

 事件特定して刑事確定訴訟記録法で閲覧しました。
 アスリート盗撮も迷惑条例で対応できるようです。
 背後の遠方からから臀部を狙ったようです。

京都府迷惑行為等防止条例
平成13年3月30日 条例第17号
(令和2年1月18日施行)
(卑わいな行為の禁止)
第3条
1 何人も、公共の場所又は公共の乗物にいる他人に対し、他人を著しく羞恥させ、又は他人に不安若しくは嫌悪を覚えさせるような方法で、みだりに次に掲げる行為をしてはならない。
(1) 他人の身体の一部に触ること(着衣その他の身に着ける物(以下「着衣等」という。)の上から触ることを含む。)。
(2) 物を用いて他人の身体に性的な感触を与えようとすること。
(3) その意に反して人の性的好奇心をそそる姿態をとらせること。
(4) 着衣等で覆われている他人の下着又は身体の一部(以下「下着等」という。)をのぞき見すること。
(5) 前号に掲げる行為をしようとして他人の着衣等の中をのぞき込み、又は着衣等の中が見える位置に鏡等を差し出し、置く等をすること。
(6) 着衣等を透かして見ることができる機器を使用して、着衣等で覆われている他人の下着等の映像を見ること。
(7) 異性の下着を着用した姿等の性的な感情を刺激する姿態又は性的な行為を見せること。
(8) 人の性的好奇心をそそる行為を要求する言葉その他の性的な感情を刺激する言葉を発すること。
(9) 前各号に掲げるもののほか、卑わいな言動(次項から第4項までに規定する行為を除く。)をすること。
(罰則)
第10条 
1 第3条第1項、第2項(第2号に係る部分に限る。)、第3項(第2号に係る部分に限る。)若しくは第4項又は第8条の規定に違反した者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/693555
高校生の陸上競技大会でユニホーム姿の女子選手の下半身を執拗(しつよう)に撮影したとして、右京区検は13日、京都市右京区の会社員男性(47)を京都府迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)の罪で略式起訴した、と発表した。1日付。右京簡裁は7日、罰金30万円の略式命令を出した。
 起訴状によると、8月22日、京都市右京区たけびしスタジアム京都で開催された高校生の陸上大会で、競技場ゲート外側からズーム機能を使ったデジタルカメラで、ユニホーム姿の女子選手らの下半身を多数回撮影したとしている。
 府迷惑行為防止条例では、下着や裸を狙った隠し撮りを「盗撮」として処罰の対象とする一方、昨年1月の条例改正で「卑わいな言動」についても新たに規制。京都府警は、着衣の上からでも執拗に下半身を撮影したとされる男性の行為が、「卑わいな言動」に当たると判断し、9月に書類送検していた。

 京都府警はあたかもアスリート盗撮に対応して改正したかのようにコメントしていますが京都府迷惑行為防止条例逐条解説(2020年4月)では具体例がマスクされています。

京都府迷惑行為防止条例逐条解説(2020年4月)
京都府迷惑行為防止条例の一部改正について ~令和2年1月18日施行~

強制性交等,強制わいせつ,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反,児童福祉法違反被告事件の弁護人になりました。

強制性交等,強制わいせつ,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反,児童福祉法違反被告事件の弁護人になりました。

被告人は,着手時に,被害児童の承諾を得てわいせつ行為をする意図であったから,わいせつ誘拐罪は成立しないと主張(延岡支部R4.2.2)

「同条の文言上,弁護人が主張するような限定はない。そして,わいせつの目的で成人を誘拐した場合に犯罪が成立し,未成年者の場合は刑罰が加重される趣旨は,被拐取者の性的自由に対する侵害の危険から被拐取者を保護する点にあるところ、このことは,被拐取者の承諾を得てわいせつ行為をする意図であったかどうかで差異はない。 「わいせつの目的」は,被拐取者をわいせつ行為の主体又は客体とする目的を広く含むものと解すべきである。 」ということだと、青少年条例違反(淫行)目的とか、児童ポルノ製造目的でも牽連犯になりますですよね。


宮崎地方裁判所延岡支部令和4年2月2日判決
       理   由

(罪となるべき事実)
 被告人は,令和3年5月9日当時,■(■以下「被害児童」という。)が通学する■学校の教諭であったが,わいせつな行為をする目的で,被害児童を誘拐しようと考え,同日午後2時57分頃から同日午後3時6分頃までの間,■(省略)■において,被害児童に対し,勉強を教える旨申し向けて同行するよう誘惑し,被害児童をしてその旨決意させ,同日午後3時10分頃,■(省略)■において,自己が運転する自動車に被害児童を乗車させ,同車を発進させて,その支配下に置き,もってわいせつ目的で被害児童を誘拐した上,同日午後3時30分頃から同日午後5時20分頃までの間に,■(省略)■において,被害児童に対し,その腕をつかんで仰向けに引き倒すなどした上,その着衣内に手を入れて直接胸をもみ,さらに,その膣内に指を入れるなどし,もって,強いてわいせつな行為をした。
(証拠の標目)《略》
(法令の適用)
・罰条
わいせつ誘拐の点 刑法225条
強制わいせつの点 刑法176条前段
・科刑上一罪 刑法54条1項後段,10条(重いわいせつ誘拐の罪の刑で処断)
・執行猶予 刑法25条1項
・訴訟費用不負担 刑訴法181条1項ただし書
(弁護人の主張に対する判断)
 弁護人は,刑法225条の「わいせつの目的」は,強制わいせつ又はこれに準ずるような被拐取者の意思に反してわいせつの行為を行う目的に限定すべきであるとして,被告人は,着手時に,被害児童の承諾を得てわいせつ行為をする意図であったから,わいせつ誘拐罪は成立しないと主張する。
 しかし,同条の文言上,弁護人が主張するような限定はない。そして,わいせつの目的で成人を誘拐した場合に犯罪が成立し,未成年者の場合は刑罰が加重される趣旨は,被拐取者の性的自由に対する侵害の危険から被拐取者を保護する点にあるところ、このことは,被拐取者の承諾を得てわいせつ行為をする意図であったかどうかで差異はない。
 「わいせつの目的」は,被拐取者をわいせつ行為の主体又は客体とする目的を広く含むものと解すべきである。 
 本件では,被告人が,誘拐に着手する時点で,被害児童の体を触るなどのわいせつな行為をする目的を有していた事実は,上記各証拠により優にこれを認めることができ,被告人及び弁護人も自認している。
 したがって,被告人にはわいせつ誘拐罪が成立する。
(量刑の理由)
(検察官小嶋陽介,国選弁護人成合陶平 各出席)
(求刑 懲役4年6月)
令和4年2月2日
宮崎地方裁判所延岡支部
裁判長裁判官 大淵茂樹 裁判官 中出暁子 裁判官 高木航

「髙橋則夫先生古稀祝賀論文集」における「奥村徹」

 刑法学会的には
  児童ポルノ掲示板管理者の刑事責任
  強制わいせつ罪の性的意図
  児童ポルノ・児童買春裁判例の集積
で言及されるようです。

ファイル名 ページ 検索対象
髙橋則夫先生古稀祝賀論文集上巻.pdf 840 照。3奥村徹「プロバイダの刑
髙橋則夫先生古稀祝賀論文集上巻.pdf 841 照。5奥村徹「プロバイダの刑
髙橋則夫先生古稀祝賀論文集上巻.pdf 841 登載(奥村・前掲注5) 43頁(注
髙橋則夫先生古稀祝賀論文集上巻.pdf 841 登載(奥村・前掲注5) 44頁(注
髙橋則夫先生古稀祝賀論文集上巻.pdf 869 して、奥村徹「プロバイダの刑
髙橋則夫先生古稀祝賀論文集下巻.pdf 270 以下、奥村徹「判批」判時2366号
髙橋則夫先生古稀祝賀論文集下巻.pdf 270 俊明・奥村徹園田寿「判批」
髙橋則夫先生古稀祝賀論文集下巻.pdf 813 しく、奥村徹によれば、弁護士
髙橋則夫先生古稀祝賀論文集下巻.pdf 813 して、奥村は同種の裁判例を集
髙橋則夫先生古稀祝賀論文集下巻.pdf 813 以下〔奥村徹〕参照

未成年に酒提供「故意とは言えず」無罪 岐阜簡裁判決(岐阜簡裁r040323)

 風営法の酒・たばこ提供は故意犯なので、取調では自白が求められます。
 客は服着てるから判らないでしょう。

風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律
第五〇条
1 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
2第二十二条第一項第三号若しくは第四号(第三十一条の二十三及び第三十二条第三項において準用する場合を含む。)、第二十八条第十二項第三号、第三十一条の三第三項第一号、第三十一条の十三第二項第三号若しくは第四号又は第三十一条の十八第二項第一号に掲げる行為をした者は、当該十八歳未満の者の年齢を知らないことを理由として、前項の規定による処罰を免れることができない。ただし、過失のないときは、この限りでない。

第二二条(禁止行為等)
1 風俗営業を営む者は、次に掲げる行為をしてはならない。
六 営業所で二十歳未満の者に酒類又はたばこを提供すること。
・・・
令 和 4 年 3 月 1 日
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律等の解釈運用基準について(通達)
(5) 法第22条第1項第6号中「提供」とは、酒類を飲用に、たばこを喫煙の用に適する状態に置くことをいい、営業者がこれを未成年者に販売したり、贈与したりする場合に限らず、未成年者が持参した酒類又はたばこにつき、燗をしたり、グラス、灰皿等の器具を使用させてその用に供する状態に置けば、「提供」に当たる

https://news.yahoo.co.jp/articles/6a441d1747d6e03287626182324ad73aaaf9ce03
未成年に酒提供「故意とは言えず」無罪 岐阜簡裁判決
3/24(木) 9:37配信
 未成年の客と知りながら酒類を提供したとして風営法違反の罪に問われた、飲食店運営会社(岐阜県羽島郡笠松町)と男性店長(34)の判決公判が23日、岐阜簡裁で開かれ、守屋尚志裁判官は無罪を言い渡した。検察側は同社に罰金50万円、男性に同30万円を求刑していたが、簡裁は弁護側の「故意に提供したわけではない」とする主張を認めた。
 男性は2020年10月、岐阜市にある店を訪れた若者グループを接客した際、口頭確認のみで身分証明書の提示を求めなかったため、検察側は「未必の故意で店の売り上げを優先し、利欲的な目的でアルコールを提供した」と指摘。弁護側は、警察官の誘導尋問があったとして「供述調書の内容が正確でなく、故意に酒を提供した点を補強する証拠はない」と反論し、無罪を主張していた。

 判決理由で、守屋裁判官は客が外見から未成年と分かる客観的な根拠がないと指摘し「未必の故意があったとは言えない」とした。また、具体的な事実に基づいていないとして供述調書の信用性を認めなかった。

 運営会社の社長は「故意でなくても未成年者に酒類を提供すれば処罰される認識だった。故意でない場合に罪に問われることが少しでもなくなれば」とした。岐阜区検の齋智人上席検察官は「判決内容を精査し、上級庁と協議の上、適切に対応したい」とコメントした。
岐阜新聞社

「二十歳未満の人にはお酒を提供していませんが、大丈夫ですか」。店の店長さん(34)は、来店した少年らにこう声を掛けた。雰囲気や身のこなしから二十歳を過ぎていると思ったが、念のために。
 少年らは「大丈夫です」と即答。店では客がタッチパネルで注文する時にも未成年者に酒を提供しない旨を伝えて同意を求めていることもあり、さんはその場で身分証の確認までは求めなかった。
 店内でのけんかから少年らが未成年と判明。さんは岐阜中署に計三回呼ばれ、聴取を受けた。「(未成年と)疑いながら、身分証明書の提示を求めなかったんでしょ」。署員にはそう言われた。
中日新聞

児童ポルノ購入者が捜索を受けて、盗撮が発覚して逮捕されたような事件(大津地裁R4.3.25)

 購入した画像(所持罪)と盗撮した画像(迷惑条例)
 顧問だと「着換えるように」という指示があると、姿態をとらせて製造罪になることもあります。
 迷惑条例の関係で生徒の人数がカウントされています。
 
 販売側が検挙されたら、購入者にはちゃんと削除するように回答していますが、画像にこだわりがある場合には回答に従って頂いていないこともままあり、盗撮の現行犯で逮捕されて、購入した児童ポルノが出てきて所持罪も立件されたとか、削除ファイルから復元されたもののそれは所持罪では立件されたなかったとか、聞いています。

https://news.yahoo.co.jp/articles/6501566ea300cfa9e1755d4d8b7a779a6aa810cc
勤務先の高校の女子更衣室で盗撮をしたとして、京都府迷惑行為等防止条例違反(盗撮)などに問われた同府立高の元教諭の被告の男(30)(懲戒免職)に対し、大津地裁は25日、懲役10月、執行猶予3年(求刑・懲役10月)の有罪判決を言い渡した。
 判決によると、男は昨年6~11月、女子更衣室に4度にわたってスマートフォンを仕掛け、生徒4人が着替える様子を動画撮影したほか、児童ポルノ動画10点を所持した。
 大森直子裁判官は「部活動の顧問の立場を悪用した悪質な犯行で、生徒が受けた精神的衝撃は大きい」と述べた。

 男は、滋賀県警が昨年に摘発した児童買春・児童ポルノ禁止法違反事件で、児童ポルノの購入者として浮上。スマホから盗撮動画が見つかった。

◎盗撮容疑で高校教諭逮捕=女子更衣室にスマホ滋賀県警
2022.01.18 時事通信 
 県警によると、昨年6月に児童ポルノ動画を販売したとして逮捕された男の顧客の一人として容疑者が浮上。スマートフォンに保存されていた約5000本の動画の中に、盗撮した生徒が映っていたという。

「下着はアウトだが水着ならセーフだと思った」という弁解・「水着は児童ポルノではないですよね」「着エロ・ジュニアアイドルは児童ポルノですか」という相談

「下着はアウトだが水着ならセーフだと思った」という弁解・「水着は児童ポルノではないですよね」「着エロ・ジュニアアイドルは児童ポルノですか」という相談
 児童ポルノ法上は、「下着」「水着」「着エロ」「ジュニアアイドル」という分類がないので、こういう質問をされても、「児童ポルノ法2条3項の定義を読んで判断してください。」としか回答できません。

児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(H26改正後)第2条
3この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀でん部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの

 1号・2号については、法文上、着衣・下着・水着を問いません。
 3号については、「衣服の一部を着けない児童の姿態」の問題になります。
 警察庁は社会通念で判断すると説明しています

警察庁生活安全局少年課執務資料(部内用)「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」解説
「衣服の全部又は一部を着けない」とは、社会通念上衣服と認められる物を全く着用していないか、又は衣服の一部を着用していない状態をいう。これに該当する具体的な例として、全裸の状態や半裸の状態が考えられ、通常の水着を着用している場合にはこれに該当しないと考えられるが、全裸又は半裸の児童の身体の上に、社会通念上人が着用する衣服とは認められないような透明又は半透明の材質により作られた衣しよう等を着用している場合には、「衣服の全部又は一部を着けない姿態」に該当する
・・・
警察庁生活安全局執務資料 児童買春・児童ポルノ事犯の取締H14
第3号の「衣服の全部又は一部を着けない」について
ちなみに、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営適正化法」という)第2条第6項第3号に言う「衣服を脱いだ人の姿態」とは、全裸又は半裸等社会通念上、人が着用している衣服を脱いだ状態の人の姿態のことであると解されている。通常の水着を着用している場合にはこれに該当しないと考えられるが、全裸又は半裸の人の身体に、社会通念上人が着用する衣服とは認められないような透明又は半透明の材質により作られた衣装等を着用したとしても、「衣服を脱いだ人の姿態」に当たると解されている

 具体的事例は、警察や弁護士の解説より、裁判例が参考になります。
  横浜地裁h28.3.14
  東京高裁H22.5.19
  東京地裁h29.11.08
  横浜地裁H2110.14
  横浜地裁h21.10.15
  など

 東京高裁で2件、横浜地裁で3件弁護を担当しましたが、裁判例を見ると、極小水着とか、股間に食い込ませている場合には、「着けない」とされることがあるようです。
 微妙な画像については争えば削れる可能性があります。

被害児童が乳首や陰部がかろうじて隠れる程度の極めて小さい水着,ひも状のパンツあるいは半透明のレオタードを着用している様子が描写されていることが認られ・・・衣類の一部を着けない児童の姿態を描写したものと認められる」(東京地裁H21.10.14 公刊物未掲載
・・・
本件デジタルビデオカセットテープを基にして製品化されたDVDの映像を見ると、被害児童が乳首や陰部がかろうじて隠れる程度の極めて小さい水着やひも状のパンツ等を着用した上,殊更に性器の部分を強調したり,性的行為を暗示したりするような姿態を撮影した場面が大半を占めることは原判示のとおりであり, これが児童ポルノ法にいう児童ポルノに該当することも明らかといえる」(東京高裁H22.5.19 公刊物未掲載)
・・・
東京高裁判決速報速報番号3418号(東京高裁H22.3.23)
備考
なお、本件では争点とはならなかったが、本件は児童に極小ではあるが水着を着用させており、直接児童の性器、肛門、乳首を露出させた場面を撮影していないため、同法2条3項3号に規定する「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」の該当性、すなわち、児童ポルノ該当性が問題になるところ本件判決は児童に極小の水着を着用させてはいるものの,その一部を陰部に食い込ませるなどして性器の周辺を露わにさせ,あるいは,臀部を露わにするようにずり下げるなど,社会通念上衣服の一部を着用していない状態で,殊更に性器や臀部等を強調した姿態をとらせて,これをデジタルビデオカメラで撮影し,その姿態を視覚により認識することができる電磁的記録媒体であるデジタルビデオカセットテープ8本(以下「本件テープ」という。)に記録して描写し,もって,衣服の一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノを製造した。」旨児童ポルノに該当すると認定するものであり、この種事件の実務処理の参考になるものである

児童ポルノDVD販売の疑い 52歳男逮捕 水着姿の少女など映る(フジテレビ系(FNN))
https://news.yahoo.co.jp/articles/9249391d8b158b4de4a481692ffbce64125c828c
2021年7月から8月にかけて、水着姿の少女などが映った児童ポルノDVD3枚を販売した疑いが持たれている。
 警視庁の調べに対し、容疑者は、「少女が成人に近い年齢だと思った」などと容疑を否認している。

「下着はアウト。水着はセーフだと思った」わいせつDVD販売で男逮捕 PCからは動画700点(TBS系(JNN))
https://news.yahoo.co.jp/articles/190717469f5109caf1ca39b5f1eba60e92646e96
警視庁によりますと、DVDには水着姿でポーズをとる少女が映っていて、1枚およそ1200円で販売していたということです。
容疑者のパソコンからはスクール水着やセーラー服姿の少女の動画が700点以上見つかっていて、取り調べに対し「下着はアウトだが水着ならセーフだと思った」と容疑を否認しています。

水着を普通に着ている場合、タナー法による年齢判定はできません。

ひそかに製造罪の特定方法(千葉地裁r3.11.4)

 記事のように「じゃあ着換えて」などの指示があると、5項ではなく4項の製造罪になります。法令適用の誤り。
 児童数名が写っている場合には、1人1罪として観念的競合で処理しています。

元教諭に懲役3年6月求刑 地裁結審 教え子の着替え盗撮=千葉
2021.10.06 読売新聞
 県内の中学校で教え子の着替えを盗撮したとして、準強制わいせつ罪と児童買春・児童ポルノ禁止法違反などに問われた公立中学校元教諭の男(懲戒免職)の公判が5日、千葉地裁(片岡理知裁判官)であった。検察側は懲役3年6月を求刑し、弁護側は執行猶予付き判決を求めて結審した。判決は11月4日。
 起訴状によると、男は昨年12月、勤務先の中学校で、女子生徒に対し「内申点の加点がもらえるため協力しないか」などとうそを言って水着に着替えさせ、その様子をカメラで盗撮するなどしたとされる。
 男は昨年7~12月、計6回にわたって女子生徒計10人を水着やユニホームなどに着替えさせ、盗撮を繰り返していた。公判は被害者の特定を避けるためとして、匿名で審理された。

千葉地方裁判所令和03年11月04日
理由
(罪となるべき事実)●●●は被害者特定事項を示す。
 被告人は、千葉県●●●所在の●●●(以下「本件中学校」という。)で教諭として勤務していた者であるが、被告人が同校で●●●接点を持つ女子生徒の着替え中の姿態を秘匿撮影しようと考え、
第1 別表番号1、3~7「撮影日」欄各記載の年月日に、本件中学校内において、当該番号「被害児童」欄各記載の者が18歳未満の児童であることを知りながら、着替えのために当該番号「露出部位」欄各記載の部位が露出した当該児童の姿態を、ひそかに、モバイルバッテリーに擬装して同所にあらかじめ設置した動画撮影用カメラ(以下「本件カメラ」という。)で動画撮影し、本件カメラに挿入したマイクロSDカード(以下「本件マイクロSDカード」という。)に当該番号「動画データ」欄各記載の個数の動画データとして記録して保存し、もって、衣服の一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出されたものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造した。
第2 別表番号2「撮影日」欄記載の年月日に、本件中学校内において、当該番号「被害児童」欄記載の者が着替えのために露出させた下着等を本件カメラで動画撮影し、もって、学校において、人の通常衣服で隠されている下着等を写真機等を用いて撮影し、みだりに、人を著しく羞恥させ、かつ、人に不安を覚えさせるような行為をした。

(法令の適用)
1 罰条
 (1) 判示第1の別表番号1の所為 被害児童ごとに、それぞれ児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ法」という。)7条5項、2項
 (2) 判示第1の別表番号3の所為 被害児童ごとに、児童ポルノ法7条5項、2項
 (3) 判示第1の別表番号4の所為 児童ポルノ法7条5項、2項(懲役刑選択)
 (4) 判示第1の別表番号5の所為 児童ポルノ法7条5項、2項(懲役刑選択)
 (5) 判示第1の別表番号6の所為 児童ポルノ法7条5項、2項(懲役刑選択)
 (6) 判示第1の別表番号7の所為 児童ポルノ法7条5項、2項(懲役刑選択)
 (7) 判示第2(別表番号2)の所為 公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和39年千葉県条例第31号)13条1項、3条の2第1号
 (8) 判示第3(別表番号8)の所為のうち
  ・準強制わいせつの点 刑法178条1項、176条
  ・児童ポルノ製造の点 児童ポルノ法7条5項、2項
2 科刑上一罪の処理
 (1) 判示第1の別表番号1の罪 刑法54条1項前段、10条
  (1個の行為が4個の罪名に触れる場合であるが、犯情が被害児童ごとに異ならないので、そのうちの1つを選ぶことをせず、1罪として処断)
 (2) 判示第1の別表番号3の罪 刑法54条1項前段、10条
  (1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるが、犯情が被害児童ごとに異ならないので、そのうちの1つを選ぶことをせず、1罪として処断)
 (3) 判示第3(別表番号8)の罪 刑法54条1項前段、10条
  (本件では児童ポルノを盗撮製造すること自体がわいせつ行為であるから、1個の行為が2個の罪名に触れる場合であると認められ、1罪として重い準強制わいせつ罪について定めた懲役刑で処断)
3 刑種の選択 判示第1及び第2の各罪につきいずれも懲役刑
4 併合罪の処理 刑法45条前段、47条本文、10条
  (最も重い判示第3の罪の刑に法定の加重)
5 未決勾留日数の算入 刑法21条
6 刑の全部の執行猶予 刑法25条1項
(量刑の理由)
(検察官大澤厳斗及び私選弁護人石川雅巳各出席。求刑:懲役3年6月)
刑事第1部
 (裁判官 片岡理知)
(別表)

f:id:okumuraosaka:20211208085539j:plain
別表

「刑法176条後段にいう「わいせつな行為」とは、一般に、いたずらに性欲を興奮、刺激又は満足させ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為をいうものと解される」岡山地裁倉敷支部r031222

 最高裁はそんな定義は採用していません。
 定義はありません。

向井香津子「最高裁判例解説 強制わいせつ罪の成立と行為者の性的意図の要否」 法曹時報第72巻第1号
 ア 判例
 「わいせつ」という用語は,刑法174条(公然わいせつ),175条(わいせつ物頒布等)にも使用されているところ,昭和26年判例が,刑法175条所定のわいせつ文書に該当するかという点に関し,「徒に性欲を興奮又は刺激せしめ且つ普通人の正常な性的差恥心を害し善良な性的道義観念に反するものと認められる」との理由でわいせつ文書該当性を認め,最大判昭和32年3月13日・刑集11巻3号997頁(チャタレー事件)もその定義を採用しており,これが「わいせつ」の定義であるとされている。
 さらに,前掲名古屋高裁金沢支部判【裁判例①】は,「刑法第176条にいわゆる「猥せつ』とは徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめ,且つ普通人の正常な性的蓋恥心を害し,善良な性的道義観念に反することをいうものと解すべき」とし,刑法176条の「わいせつ」についても,刑法175条に関して判示された上記定義と同内容の定義を採用し,【裁判例①】は,多くの文献等で刑法176条のわいせつの意義を示した高裁判例として引用されている。しかし,刑法176条の「わいせつな行為」の定義を示した最高裁判例はない。

岡山地方裁判所倉敷支部
令和3年(わ)第147号
令和03年12月22日
理由
(罪となるべき事実)
 被告人は、●●●(当時6歳)が13歳未満であることを知りながら、同人にわいせつな行為をしようと考え、令和2年11月14日頃、●●●教室内において、同人に対し、その左手をつかんで引き寄せた上、開いた状態のその左手を自己の着衣の上からその陰茎部分に置き、その左手の上に自己の両手を重ねて置くなどして、同部分を触らせる姿態を続けてとらせ、もって13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした。
(証拠の標目)
(事実認定の補足説明)
 本件公訴事実の要旨は、被告人が、被害者に着衣の上から自己の陰茎を握らせたというものであるところ、被告人及び弁護人は、被告人は、被害者の手を着衣の上から自己の陰茎部分に置いたに留まり、自己の陰茎を握らせたことはない旨主張する。
 本件時の被害者及び被告人の各手指の状況については、幼い被害者から詳細な供述までは得られていないことや、被告人の捜査段階での供述と当公判廷での供述との間に変遷が見られることなどから、具体的なところまでは明らかでなく、少なくとも、被告人が被害者の手にあえて強い力を加えるなどしたという意味においてその陰茎を握らせたと認めるに足りる証拠があるとはいえないものの、関係証拠によれば、少なくとも、被告人が、自己の右手で、右隣に座っていた被害者の左手首を握って自分のほうへ引き寄せ、被害者の開いていた左手を自己の着衣の上からその陰茎部分に置き、その左手に自己の開いた右手を乗せ、更にその上に自己の開いた左手を乗せて、その姿態を約1分間にわたって続けてとらせた事実は、優に認定でき、かつ、そう認定することが、弁護人の指摘する自白の証拠力に係る規律を含む憲法及び刑事訴訟法の諸規定と抵触することはないものと判断した。
(法令の適用)
1 罰条 刑法176条後段
2 刑の執行猶予 刑法25条1項
(争点に対する判断)
1 弁護人は、被告人の行為は、刑法176条後段にいう「わいせつな行為」には当たらない旨主張する。
2 刑法176条後段にいう「わいせつな行為」とは、一般に、いたずらに性欲を興奮、刺激又は満足させ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為をいうものと解されるところ、これに当たるか否かについては、行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を踏まえた上で、必要に応じて当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し、社会通念に照らし、その行為に性的な意味があるといえるか否かや、その性的な意味合いの強さを、個別具体的に判断して、同条による処罰に値する行為とみるべきかどうかを含め、規範的評価として、客観的に判断されるべきである。
3 本件についてみると、判示行為は、被害者に被告人の着衣の上からその陰茎部分に触れることを余儀なくさせ、かつ、それを相応の時間にわたって行ったというものである上、それは触らされている部分を見ていない被害者をして陰茎を触らされているのではないかと知覚できるほどのものであったのだから、その触らせていた場所が被告人着用に係るジーンズの前面中央にあるチャックの付近であったことといった弁護人が指摘する点を考慮しても、それ自体として相応に高いわいせつ性を持つというべきである。これに加え、被告人は、当時6歳の被害者が利用する判示施設の支援員であり、被害者ら施設利用児童を監督等する立場であったのに、同施設利用中の被害者に対して、周囲に他の施設利用児童も多数居る中、自身の性欲を昂進させて判示行為をしたものであるところ、こうした被害者の年齢や被告人との関係等によれば被害者において判示行為の意味を踏まえて抵抗等することが困難なことは明らかであるし、当時の周囲の状況もこの種の性的な行為が許容されるような場面では到底ない。
  弁護人が指摘する裁判例や諸見解を検討しても、本件は、犯人が被害者の性的部位に同人の着衣の上から触れるなどしたケースとは問題となる行為の態様や場面等において事案を異にするものというべきである。
4 以上により、被告人のした判示行為は刑法176条後段の「わいせつな行為」に該当し、その故意等その余の要件に欠けるところもないものと判断した。
(量刑の理由)

(検察官 藤原弥都、弁護人[私選] 板垣和彦 各出席)
(求刑 懲役1年6月)
 (裁判官 横澤慶太)

「結婚を約束した真剣交際」の主張方法

もう古くさい判例ですが
「淫行」とは、広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきでなく、
①青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、
②青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解するのが相当であ
る。(最大判S60.10.23)
という判例で運用されています。

 そういう交際の事実を積むのが常套手段です。ホテル以外で会ったとか、性行為してないデートもあったとか、恋文とか。スマホにあるけど押収されて見られないですが。

https://news.yahoo.co.jp/articles/2c74050993964a4d759642f810a07bf89ff8
3ed1
逮捕容疑は昨年11月24日、兵庫県明石市内のラブホテルで女子中学生(14)とみだらな行為をした疑い。男は「結婚を約束した真剣な交際だった」と容疑を否認しているという。

 同署によると、男と女子中学生は会員制交流サイト(SNS)で昨年10月ごろに知り合った。女子中学生は家族にも「結婚を考えた真剣な交際をしている」と話し、両親が12月中旬、同署に相談した。署員と話すうちに女子中学生も違法性を認識し、男の逮捕に至ったという。

少年愛護条例の解説h30
(みだらな性行為等の禁止)
第21条
1何人も、青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない。
2何人も、青少年に対し、前項の行為を教え、又は見せてはならない。

【要旨】
この条は、青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をし、又はこれらの行為を教え若しくは見せることを禁止したものである。

【解説】
一般に青少年は、その心身の未成熟あるいは発育程度の不均衡から、精神的にまだ十分に安定していないため、反倫理的、反道徳的な性行為等によって精神的な痛手を受けやすく、またその痛手から容易に回復しがたいものである。このような青少年の特質に鑑み、その健全な育成を阻害するおそれのあるものとして、社会通念上非難を受けるべき性質のものを禁止したものである。


2「みだらな性行為」とは、青少年を誘惑し、威迫し、若しくは困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為、又は青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為のことをいう。

3「わいせつな行為」とは、いたずらに性欲を興奮又は刺激させ、かつ普通人の正常な性的蓋恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為をいう。
4第1項の例としては、成人が結婚の意思もないのに青少年を言葉巧みに誘って、単に自己の性的欲望を満足させるためだけにしたみだらな性行為及び青少年の性器をもてあそぶなどしたわいせつな行為がこれにあたるが、婚約中の青少年又はこれに準ずる真筆な交際関係にある青少年との関係で行われる性行為等、社会通念上およそ罰則の対象として考えがたいものは、これらに該当しない。

無罪判決
 名古屋簡裁h190523
 神戸地裁尼崎支部h280823
 仙台地裁h300208
 青森地裁八戸支部r040202

参考文献
杉本啓二「青少年条例における淫行処罰規定と少年事件-最高裁昭和60年10月
23日大法廷判決を契機としてー」判例タイムズ第586号
宮崎礼壹「青少年保護育成条例による『いん行』処罰の合憲性ー最高裁(大法
廷)昭和60年10月23日判決ー」真剣交際法律のひろば 第39巻1号

芸術性と児童ポルノ~岸田劉生「麗子裸像」が児童ポルノに該当しないことは論証できるか?

 岸田劉生だから、結論において「児童ポルノではない」ことになるはずなので、合法的な児童の半裸像として、児童ポルノ該当性の判断の流れを示してみよう。


1 本件画像
麗子裸像
https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/412oAKblSSL._SX382_BO1,204,203,200_.jpg

京都国立近代美術館のコレクションでたどる 岸田劉生のあゆみ (とんぼの本) 梶岡 秀一 https://www.amazon.co.jp/dp/4106023008/ref=cm_sw_r_tw_dp_AKZDXT73PBKV843BFFEV @amazonJPより

※現在市販されているものは乳首が強調されないように工夫されているようだ。

2 3号ポルノの定義

児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(H26改正後)
第2条
3この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀でん部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの

性器等の定義は2条2項
2児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)


3 各要件
(1)児童性・実在性

wiki
岸田 麗子(きしだ れいこ、1914年4月10日 - 1962年7月26日)は、日本の画家。洋画家岸田劉生の娘で、劉生の連作集「麗子像」のモデル。

製造年
「麗子裸像」(1920年)=京都国立近代美術館

(2)衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、
  上半身裸。

(3)児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀でん部又は胸部をいう。)が露出され
「性器等」・・・ 両乳首が露出されて描写されている。

(4) 殊更に
「殊更」・・・「裸像」というタイトルからは、「わざわざ・わざと」と描写されているものだが、著名画家であれば当該画像の内容が一般人の性欲の興奮又は刺激に向けられているものではないから「殊更に」が希釈される可能性がある。

警察庁少年課課長補佐友永光則「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部改正」
ア「殊更に」の意義
「殊更に」とは, 一般的には,「合理的理由なく」「わざわざ・わざと」の意味と解されているが,これは,当該画像の内容が性欲の興奮又は刺激に向けられていると評価されるものか否かを判断するために加えられたものである。
その判断は,性的な部位が描写されているか,児童の性的な部位の描写が画像全体に占める割合(時間や枚数)等の客観的要素に基づいてなされるものと考えられる。
これにより,例えば,水浴びをしている裸の幼児の自然な姿を親が成長記録のため撮影したようなケースは,その画像の客観的な状況から,内容が性欲の興奮又は刺激に向けられていると評価されるものでない限り,「殊更に…・・露出され,又は強調されているもの」とは言えず,処罰対象外となる。

坪井麻友美検事「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」(法曹時報66巻11号29頁)
「殊更に」
「殊更に」とは,「意図的に」「確定的認識を持って」などという(注10)意味に使われるのが通常であるが,本号の「殊更に」の文言は,被写体の児童や撮影者の主観的意図に係る要件として規定されたものではなく, 問題となる写真や映像等(以下「写真等」という。)の内容が性欲の興奮又は刺激に向けられていると評価されるものであることを要求する趣旨の文言である。
例えば, 自宅の庭で水浴びをしている裸の幼児のごく自然な姿が撮影された写真等であって,その画像の客観的状況から,内容が性欲の興奮又は刺激に向けられていると評価されるものではない場合にはこれまでは「性欲を興奮させ又は刺激させるもの」という要件の該当性判断において基本的に3号ポルノに該当しないとされてきたと考えられるが,今後は, この「殊更に」以下の要件によっても,基本的には3号ポルノに該当しないこととなるものと考えられる。
「『殊更に』性的な部位が露出され又は強調されているもの」に該当するかどうかは, 当該写真等に描写された内容, より具体的には,児童の性的な部位の露出の有無及び着衣の状況,当該部位の描写が当該写真等全体に占める割合,描写されている児童のポーズ等を総合的に考慮して判断されることになると考えられる。
(注10) 「殊更に」の他の用例としては,危険運転致死傷罪自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第2条第5号)の「赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し,」があり,これについては,未必的な認識による場合を排除し, およそ赤色信号に従う意思のない者に処罰範囲を限定するために,「殊更に」無視するとい主観的要件が付加されたものとされているが,本法における「殊更に」は「児童の性的な部位が露出され又は強調され」とし、う受動態に係っており上記危険運転致死傷罪の場合のような行為者の主観的要件とは解されない。描写された児童の心身への有害な影響の防止や児童を性欲の対象としてとらえる風潮の助長防止とし、う本法の趣旨からしても,撮影者の主観的意図により児童ポルノ該当性が左右されるのは不相当であるといえよう。
・・・
(イ)③「性欲を興奮させ又は刺激するもの」との関係
③の「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に該当するかどうかは,従来から,性器等が描写されているか否か,児童の裸体等の描写が当該写真等全体に占める割合,児童の裸体等の描写方法等の諸般の事情を総合的に考慮して,(注11)一般人を基準として判断すベきものとされてきた。
つまり,改正により追加された②の「殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているもの」かどうかという点は,従来から③の「性欲を興奮させ又は刺激するもの」としいう要件の該当性判断の中で重要な要素として考慮されてきたものである。
本改正で②の要件が独立した要件として3号ポルノの定義に明記されたことにより,②と③の関係(③の判断要素から②の判断要素が除かれるのか)が問題となり得るが,②の要件の該当性は,③の「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に当たるかどうかの判断において重要かつ密接不可分な要素であり,国会審議においてもそれを前提として議論がなされていること),今後も,③の要件の該当性判断においては,②の「殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているもの」であることが考慮され, そのその意味において,②の要件の該当性と③の要件の該当性の判断は相当程度重なり合うものと考えられる。

(5)「性欲を興奮させ又は刺激するもの」
京都地裁h12.7.17の判示が、別件の大阪高裁h14.9.12で追認されている。
「芸術性が児童ポルノ該当性に与える影響については,本件各写真集をそれぞれ全体的に見て検討すべきである上,」「全裸あるいは半裸姿の児童が乳房,陰部等を露出している写真が相当部分を占めており」の点については、1枚ものの半裸の絵画であれば、逃げ道がなさそうだ。絵画はいろいろなところで展示されるので、児童ポルノ性判断に、美術館の他の展示作品を考慮できないだろう。
 描写目的は公然陳列目的。それも考慮されうる(仙台高裁H21.3.3)

阪高判H14.9.12
lex/db 25451740
第5控訴趣意中,事実誤認の主張について
論旨は,~~
(2)本件各写真集はいずれも芸術作品であり,児童ポルノに当たらない,(3)本件各譲渡は,いずれも児童ポルノ愛好家という特定の者に対するもので,その数も4名と少ないから,本罪の「販売」には当たらないとした上で,それにもかかわらず,被告人を有罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,というのである。
そこで,記録を調査して検討するに,~~(2)の点についても,所論は,芸術性が児童ポルノ該当性に与える影響について,個々の写真ごとに検討すべきであるとの前提に立った上,本件各写真集は,いずれも,①表現方法に性器等を強調する僚向がない,②性欲を興奮又は刺激する内容がない,③児童のポーズに扇情的な要素がない,④児童の純真さを表現するという撮影者の意図が明らかである,⑤装丁も芸術作品に相応しいものであるから,児童ポルノに当たらないと主張する。
しかしながら,芸術性が児童ポルノ該当性に与える影響については,本件各写真集をそれぞれ全体的に見て検討すべきである上,本件各写真集は,いずれも,全裸あるいは半裸姿の児童が乳房,陰部等を露出している写真が相当部分を占めており,上記①②及び④は妥当しないし,また,そのため,仮に,上記③及び⑤が妥当するとしても,本件各写真集が児童ポルノに当たらないとはいえない。したがって,所論は採用できない。さらに,(3)の点については,販売とは不特定又は多数人に対する有償の譲渡行為をいうのであって,本件各譲渡がこれに当たることは明らかである。この論旨も理由がない。


※ 参考判例

高松高判H22.9.7
LEX/DB 25464058
論旨は,〔1〕原判決は,原判示第2の事実において,「同女の頭部等に射精した上,これを同カメラで撮影し,その電磁的記録を同携帯電話機に内蔵する記録媒体に記録して,もって(中略),衣服の一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造した」と認定し,児童ポルノ等処罰法7条3項,2条3項3号に該当するとしているが,同画像は,判文によっても,実際の画像をみても,児童ポルノを定義した同法2条3項3号に該当しないから,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあり,理由不備,事実誤認もある,・・・というのである。
 しかし,〔1〕の被害者の頭部等に射精した画像が児童ポルノに該当しないとの点は,たしかに,同画像は,児童ポルノ等処罰法2条3項1号の「児童を相手方とする性交類似行為に係る児童の姿態」の画像に該当する可能性はあるが,被害者の衣服を着けない状態が,画像上は必ずしも判然としないから,同項3号には該当しない。しかし,原判決は,強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪を観念的競合として,一個の事実の中で両罪に該当する事実を記載しており,頭部等に射精した上,これを同カメラで撮影した行為は,強制わいせつ罪に該当する事実でもあるから,原判決が,当該画像を記録したことをもって,児童ポルノ製造罪に該当すると認定,判断したとまでは断定できない。仮に,原判決が,これをも児童ポルノ製造罪に該当するとしているとしても,これにより処断刑に差異を生じるものではなく,本件の犯情に照らしても,その誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかとはいえない。" "論旨は・・・〔2〕児童ポルノ等処罰法2条3項3号の「性欲を興奮させ又は刺激するもの」は,一般人を基準として判断するものであるところ,原判示第2の事実において,被告人が撮影,記録した画像は,6歳の児童に対するものであり,一般人を基準とすれば,性欲を興奮させ又は刺激するものではないから,児童ポルノに該当しないのに,これらを児童ポルノに該当するとした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
しかし・・・
〔2〕の本件画像が一般人を基準とすれば性欲を興奮させ又は刺激するものではないとの点は,被告人は,被害者のズボンと下着を脱がせて下半身を裸にし,両足を開脚させるなどしてことさら陰部を露出させる姿態をとらせ,これを撮影,記録したものであるから,被害者が6歳であっても,一般人を基準として,性欲を興奮させ又は刺激するものに該当する。

名古屋高判H23.8.3 公刊物未掲載 論旨は,本件起訴状の公訴事実に記載された「性欲を興奮させ又は刺激するもの」とは,子供の性に対して過敏に反応する者を基準として,性欲を興奮させ又は刺激するものという意味であるとの前提に立った上で,①児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「法」という。)2条3項3号の「性欲を興奮させ又は刺激するもの」とは,一般通常人を基準とするものであるから,本件起訴状に記載された事実は罪となるべき事実を包含しておらず,原審は,公訴棄却決定をすべきであったのにこれをせず,不法に公訴を受理した・・・というのである。
 しかしながら,原審検察官が論告において「子供の性に対して過敏に反応する者からは,本件各画像が性欲を興奮させ又は刺激するものであると認められ」ると陳述したからといって,本件起訴状の公訴事実に記載された「性欲を興奮させ又は刺激するもの」が,子供の性に対して過敏に反応する者を基準として,性欲を興奮させ又は刺激するものという意味内容に限定されることになるものではない。論旨は前提を誤っており,失当である。

7 控訴理由⑦について
 論旨は,本件各画像はいずれも普通人又は一般人をして性欲を興奮させ又は刺激するものとは到底いえず,これらが普通人又は一般人の性欲を興奮させ又は刺激するものとした原判決には事実誤認及び法令適用の誤りがある,というのである。
 しかしながら,本件各画像は,下半身に何も着用せずに脚を開いて女性器を露出させた姿態(原審甲第3号証添付の写真7),着用した下着をずらして女性器を露出させた姿態(同写真8),全裸で寝そべり,陰部をカメラの方向に向けた姿態(同写真9及び10)の女子児童をそれぞれ撮影したものであり,その姿態や構図からして,いずれも普通人又は一般人の性欲を興奮させ又は刺激するものに該当することが明らかであるから,論旨は失当というほかない。

阪高判H24.7.12
2 控訴趣意中,その余の法令適用の誤りの主張について
 論旨は,(1)本件各画像は,児童の裸が撮影されているが,一般人を基準とすると「性欲を興奮させ又は刺激するもの」ではないから,児童ポルノ法7条2項の製造罪(以下「2項製造罪」という。)は成立しないのに,原判決は原判示罪となるべき事実に同法7条2項,1項,2条3項3号を適用しており・・・,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というものである。
 そこで検討するに,(1)の点は,本件各画像が「性欲を興奮させ又は刺激するもの」といえるかどうかについては一般人を基準として判断すべきものであることはそのとおりである。しかし,その判断の基準とすべき「一般人」という概念は幅が広いものと考えられる。すなわち,「一般人」の中には,本件のような児童の画像で性的興奮や刺激を感じる人もいれば,感じない人もいるものと考えられる。本件は,公衆浴場の男湯に入浴中の女児の裸の画像が対象になっており,そこには大人の男性が多数入浴しており,その多くの男性は違和感なく共に入浴している。そのことからすると,一般人の中の比較的多くの人がそれらの画像では性的興奮や刺激を特に感じないということもできる。しかし,その一方で被告人のようにその女児の裸の画像を他の者から分からないように隠し撮りし,これを大切に保存し,これを密かに見るなどしている者もおり,その者らはこれら画像で性的興奮や刺激を感じるからこそ,これら画像を撮影し,保存するなどしているのである。そして,これらの人も一般人の中にいて,社会生活を送っているのである。ところで,児童ポルノ法が規制をしようとしているのはこれらの人々を対象にしているのであって,これらの人々が「一般人」の中にいることを前提に違法であるか否かを考える必要があると思われる。他人に提供する目的で本件のような低年齢の女児を対象とする3号ポルノを製造する場合は,提供を予定されている人は一般人の中でそれらの画像で性的興奮や刺激を感じる人達が対象として想定されているものであり,そのような人に提供する目的での3号ポルノの製造も処罰しなければ,2項製造罪の規定の意味がそのような3号ポルノの範囲では没却されるものである。したがって,比較的低年齢の女児の裸の画像では性的興奮や刺激を感じない人が一般人の中では比較的多数であるとしても,普通に社会生活を営んでいるいわゆる一般の人達の中にそれらの画像で性的興奮や刺激を感じる人がいれば,それらの画像は,一般人を基準としても,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」であると解するのが相当である。
 したがって,原判決が原判示各事実に児童ポルノ法7条2項,1項,2条3項3号を適用したのは正当である。

仙台高裁H21.3.3
⑥被告人が撮影した各被害児童の陰部の画像は,児童に扇情的なポーズをとらせているわけではなく,児童ポルノ法2条3項3号にいう「性欲を興奪させ又は刺激するもの」に該当しないから,児童ポルノ製造罪を適用した原判決には法令適用の誤りがある,~~などと主張する。
(2) しかしながら,~~
⑥については,児童ポルノの定義規定である児童ポルノ法2条3項において,同項3号が「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性 欲を興奮させ又は刺激させるもの」と規定し,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」という要件を付加しているのは,衣服の全部又は一部を着けない姿態を撮影したものの中には,家庭等における児童の日常生活の一場面を撮影したものや学術研究目的で撮影されたものも含まれるところ,これらについては社会的に是認されるものであることにかんがみ,これらを除外するためである。このような立法目的に徴すれば,同項3号の「性欲を 興奮させ又は刺激するもの」とは,その撮影目的や撮影された内容等に照らし,一般人を基準として,見る者の性的興味に訴えようとするものと認められるものと解すべきである。そうすると,本件起訴にかかる画像は, いずれも被告人が自己の性的し好を満足させる目的で,被害児童の陰部を撮影したものであり, しかもそれば性器を接写するなどして,殊更これを強調する内容となっているから,一般人を基準として判断して,見る者の性的興味に訴えようとするものと認められるのであって,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に当たるものということができる。所論は,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」という要件は,客体の要件であって,撮影目的を考慮するのは不当であるなどと主張するが,客体を定める要件であっても,考慮する要素を内容等の客観的要素に限定しなければならないわけではなく,撮影目的といった主観的要素を考慮することもできるというべきである。したがって,原判決に法令適用の誤りはない。


判断方法

阪高判H14.9.12
lex/db 25451740
第5控訴趣意中,事実誤認の主張について
論旨は,~~
(2)本件各写真集はいずれも芸術作品であり,児童ポルノに当たらない,(3)本件各譲渡は,いずれも児童ポルノ愛好家という特定の者に対するもので,その数も4名と少ないから,本罪の「販売」には当たらないとした上で,それにもかかわらず,被告人を有罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,というのである。
そこで,記録を調査して検討するに,~~(2)の点についても,所論は,芸術性が児童ポルノ該当性に与える影響について,個々の写真ごとに検討すべきであるとの前提に立った上,本件各写真集は,いずれも,①表現方法に性器等を強調する僚向がない,②性欲を興奮又は刺激する内容がない,③児童のポーズに扇情的な要素がない,④児童の純真さを表現するという撮影者の意図が明らかである,⑤装丁も芸術作品に相応しいものであるから,児童ポルノに当たらないと主張する。
しかしながら,芸術性が児童ポルノ該当性に与える影響については,本件各写真集をそれぞれ全体的に見て検討すべきである上,本件各写真集は,いずれも,全裸あるいは半裸姿の児童が乳房,陰部等を露出している写真が相当部分を占めており,上記①②及び④は妥当しないし,また,そのため,仮に,上記③及び⑤が妥当するとしても,本件各写真集が児童ポルノに当たらないとはいえない。したがって,所論は採用できない。さらに,(3)の点については,販売とは不特定又は多数人に対する有償の譲渡行為をいうのであって,本件各譲渡がこれに当たることは明らかである。この論旨も理由がない。

判例番号】 L05550228
       わいせつ図画販売、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反(変更後の訴因わいせつ図画販売、わいせつ図画販売目的所持、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反)被告事件
【事件番号】 京都地方裁判所判決/平成12年(わ)第61号
【判決日付】 平成12年7月17日
【判示事項】 一 いわゆる児童ポルノ法二条三項三号の解釈及び判断方法
       二 右条項の児童ポルノに該当するとされた事例
【参照条文】 児童売春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律2-3
【掲載誌】  判例タイムズ1064号249頁
【評釈論文】 別冊ジュリスト179号122頁
       別冊ジュリスト241号122頁
 (争点に関する判断)
 一 弁護人は、判示一の事実(販売)に係る写真集一冊及び判示二の事実(販売目的所持)に係る写真集七冊並びにビデオテープ二巻(ほぼ同一内容であり、VHS方式のものとベータ方式のものとが、それぞれ一巻ずつある。なお、当初は他のビデオテープについても同様の主張をしていたが、第五回公判期日における被告人質間及び弁論によると、この主張は撤回したと認められる。)について、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ法」という。)二条三項三号に規定する児童ポルノに該当しない旨主張し、被告人もこれに沿う供述をしている。そこで、これらの写真集及びビデオテープが児童ポルノに該当すると認定した理由を説明する。
 二 児童ポルノ法二条三項三号の解釈
 児童ポルノ法二条三項三号にいう児童ポルノ(以下「三号児童ポルノ」という。)とは、写真、ビデオテープその他の物であって、(1)衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって(2)性欲を興奮させ又は刺激するものを(3)視覚により認識することができる方法により描写したものに該当するものである(数字は条文にはないが便宜上付け加えた)。本件では、(1)、(3)は客観的に判断することができることから、特に(2)の「性欲を興奮させ又は刺激するもの」の意味内容が問題となる。
 そもそも、児童ポルノの販売等が禁止され、さらに、これらの目的での児童ポルノの製造、所持等が禁止されているのは、これらの行為による児童に対する性的搾取及び性的虐待が、児童ポルノの対象となった児童の心身に有害な影響を与え続け、児童の権利を著しく侵害するからに他ならない(児童ポルノ法一条参照)。
 このように、児童の権利を保護することの重要性にかんがみて、児童ポルノ法は、刑法におけるわいせつの定義、すなわち、「徒に性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ、幣通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」という最高裁判所判例最高裁昭和三二年三月一三日大法廷判決参照)によって確立されている定義とは異なった観点から児童ポルノの範囲を定め、性欲を興奮又は刺激せしめる点は必要であるが、しかし、「徒に」興奮又は刺激しなくても処罰の対象とし(この点で刑法よりも規制対象を拡大しているといえる。)、また、禁止される行為の範囲も業としての貸与、頒布等の目的での製造等にまで広げ、国内外を問わず処罰することとしたのである(同七条参照)。
 そうだとすると、問題となっている写真、ビデオテープ等が、ことさらに扇情的な表現方法であったり、過度に性的感情を刺激するような内容のものである場合などに限るなど、特別な限定をしなくても、性欲を興奮させ又は刺激するものと認められる以上は、三号児童ポルノに該当すると解すべきである。弁護人は、「性欲を興奮させ又は刺激する」との規定の意味を、児童のポーズが意味もなく局部を強調するものであったり、構図などから男女の性交を暗喩していると認められるような場合に限定すべきであると主張するが、そのように限定して解釈すべき理由はない。
 三 判断の方法
 そして、性欲を興奮させ又は刺激するものであるか否かの判断は、児童の姿態に過敏に性的に反応する者を基準として判断したのではあまりにも処罰範囲が拡大してしまうことから、前記のとおり、児童ポルノの定義から最高裁判所判例の掲げる「普通人の正常な性的羞恥心を害し」という要件が割愛されているとしても、法の一般原則からして、その名宛人としての「普通人」又は「一般人」を基準として判断するのが相当である。
 もっとも、三号児童ポルノの範囲が拡大すると、表現の自由や学問の自由等の憲法上の権利を制約することになりかねないという懸念もあろう。児童ポルノ法三条も、この法律の適用に当たっては、国民の権利を不当に侵害しないように留意しなければならないと定めているところである。
 そこで、衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態(以下「児童の裸体等」という。)を描写した写真または映像に児童ポルノ法二条二項にいう」性器等」、すなわち、性器、肛門、乳首が描写されているか否か、児童の裸体等の描写が当該写真またはビテオテープ等ガ全体に占める割合(時間や枚数)等の客観的要素に加え、児童の裸体等の描写叙述方法(具体的には、(1)性器等の描写について、これらを大きく描写したり、長時間描写しているか、(2)着衣の一部をめくって性器等を描写するなどして性器等を強調していないか、3児童のとっているポーズや動作等に扇情的な要素がないか、(4)児童の発育過程を記録するために海水浴や水浴びの様子などを写真やホームビデオに収録する場合のように、児童の裸体等を撮影または録画する必然性ないし合理性があるか等)をも検討し、性欲を興奮させ又は刺激するものであるかどうかを一般通常人を基準として判断すべきである。そして、当該写真又はビデオテープ等全体から見て、ストーリー性や学術性、芸術性などを有するか、そのストーリー展開上や学術的、芸術的表現上などから児童の裸体等を描写する必要性や合理性が認められるかなどを考慮して、性的刺激が相当程度緩和されている場合には、性欲を興奮させ又は刺激するものと認められないことがあるというべきである。
 四 各写真集等についての認定

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/702/086702_hanrei.pdf
しかし,この説示は,本件各造形物について,それ自体からは知り得ない制作者の意図ないし制作過程等(上記?)と,それを見る者が視覚等で認識し,あるいは連想する事項(上記?,?)やわいせつ性の判断(上記?,?)を区別せずに論じたもので,本件各造形物のわいせつ性判断の説明として不適切なものといわざるを得ない。
すなわち,本件各造形物に関するわいせつ性の判断は,本件各造形物自体について,それを見る者が視覚等でどのように捉え理解するかということを前提に検討すべきであって,視覚等では理解することができない制作者の意図や作品の制作過程等は,わいせつ性判断の基準外に置かれるべきものである。そのような観点から判断すると,本件各造形物は女性器を象って制作された作品とはいえ,その制作過程等を知らされずに,出来上がった本件各造形物を,社会の平均的一般人が見た場合,その着色や装飾,材質等と相まって,これらが女性器であると認識し,あるいは,これらから性的刺激を受けるほど明確に女性器であると認識することは,困難であるというべきである。
原判決は,本件各造形物の制作過程等をも考慮に入れた結果,また,女性器を象った部分と本件各造形物の全体の形状(着色や装飾,材質等を含む)とを分断して考察した結果,わいせつ性判断の客体の捉え方を誤り,ひいては,わいせつ性判断の過程を誤ったものといわざるを得ない。
しかしながら,既に述べたところからすれば,本件各造形物から性的刺激を受けることは考えにくく,芸術性・思想性等による性的刺激の緩和について検討するまでもなく,結局,本件各造形物はわいせつ物とは認められないから,原判決は結論において正当である。

東京高裁H29.1.24
オ 芸術活動(表現の自由)等との関係
(ア)所論は,芸術分野においては,実在する児童のモデルにポーズをとらせてその姿を描写することは広く一般的に採られてきた方法であり,描かれたモデルがどこの誰であるかまで判明している作品も少なくないところ,原判決を前提とすると,このように長年優れた芸術とされてきた過去の名作の展示,販売,模写等が児童ポルノ法で禁止されることになる上,原判決の基準は,一般人からみて同一といえるか否かという曖昧なものであり,このような曖昧な基準によると,芸術活動に萎縮的効果を与えることになり,相当でない,このことは,現行児童ポルノ法3条の趣旨にも反するものである,などと主張する。
(イ)児童ポルノ法上の「児童ポルノ」に該当するかどうか,すなわち,「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」(同法2条3項3号)に当たるか否かを判断するに当たって,表現の自由や芸術活動を不当に侵害しないようにする必要があることは,同法3条が「この法律の適用に当たっては,国民の権利を不当に侵害しないように留意しなければならない。」と規定していることからも明らかである。そして,上記の判断に当たっては,当該画像等の具体的な内容に加え,それが作成された経緯や作成の意図等のほか,その画像等の学術性,芸術性,思想性等も総合して検討し,性的刺激等の要素が相当程度緩和されていると認められる場合には,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に当たらず,「児童ポルノ」には該当しないと解すべきである。
 所論が指摘するような歴史的絵画の展示や模写等については,そもそも,被写体の児童性や同一性が立証できない場合が少なくないと考えられるが,仮にこれらの立証が可能な場合であっても,このような学術性,芸術性,思想性等を総合して判断することにより,児童ポルノに該当しないと判断される場合が十分あり得るというべきである。

芸術性に全く配慮しない判決もある。

京都地裁H14.4.24
6 弁護人は,前記「A」,「B!」,「C」の各作品は芸術作品であるから児童ポルノに該当しないと主張する。
 しかしながら,芸術的価値のあるものであっても,これを児童ポルノに該当するものとすることは差し支えないから,弁護人の主張は,その余について判断するまでもなく理由がない。

京都地裁平成14年4月24日 児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
理        由
(犯罪事実)
 被告人は,電話回線を利用したインターネットの電子掲示板を利用して児童ポルノ写真集の販売広告を掲示して購入客を募り,これを閲覧して児童ポルノ写真集の購入方を申し込んできたKほか3名に対し,別紙一覧表記載のとおり,平成12年5月中旬ころから平成13年5月中旬ころまでの間,合計4回にわたり,衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識できる方法により描写した児童ポルノである写真集「み」ほか4冊を,同一覧表「販売場所」欄記載の各場所に郵送するなどして,上記Kほか3名に受領させ,代金合計2万800円で販売した。
(証拠)
(争点に対する判断)
(3)ところで,前掲「B」及び「天」と題する写真集には,弁護人の主張するとおり,多数の少女の写真が掲載されている。しかしながら,前掲の警察官調書(7,21)によれば,小児の推定年齢を判定する手法としては,「Ta nn e rによる二次性徴の成熟度の評価法」及び「Tannerらによる正帯小児の二次性徴発現時期」並びに最近の成熟傾向の早期化を勘案し,さらには,骨盤の発達程度や体つき等をも考慮して総合的に判定するものであるとし,これに基づき,前記「B」については2名の,「天」については3名の,各少女について,その年齢を推定し,いずれも18歳未満の児童である旨の判定をしている。
  さらに,これらの基準に照らすと,前記「B」及び「天」の各被撮影者(弁護人が,被告人質問において指摘する前記「B」中の作者自身の写真や同人の写真誌「プ」の表紙写真一制服を着用したもの-などが前記「B」における児童ポルノの対象にならないのは明らかである。)中には,推定年齢が18歳以上の者はいないと解することが可能である。
 以上のような写真集であることを前提に考察すると,児童ポルノの被害法益が主として個人的法益であると解するのが相当であるとしても,1個の思想の表現として本件写真集という形式が選択されている場合においては,その一部が児童ポルノであることが立証されれば,他の部分については,厳密にその要件を満たすか否かの検討をしなくても,本件写真集が児童ポルノ法2条3項3号に該当することは明らかなのであるから,そのような場合にまで,本件写真集の被撮影者一人一人につき,児童の特定を必要とするものではないと解するのが相当である。
(4)したがって,弁護人の主張は理由がない。

3 弁護人は,児童ポルノ法においては,児童の実在性が必要であり,かつ,訴因で具体的に記載しなければならないのに,本件訴因では,その記載がないと主張する。
 児童ポルノ法の趣旨に照らすと,児童が実在することを要するものと解するのが相当であるが,弁護人が主張するように,これを訴因において「実在する」児童と表示しなければならないとする必然性はない。
 また,児童の実在性の立証は,写真の内容,タイトル,その他写真集全体を観察して認定することは差し支えないというべきところ,本件各写真集を検討すると,実在の児童が撮影されたものであることが明らかであるから,実在性は優に認定できるのであって,弁護人の主張は理由がない。

4 弁護人は,本件各写真集の被撮影者の姿態は,一部少数者を除き,一般人の「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に該当しないと主張する。しかしながら,本件各写真集は,いずれも全裸あるいは半裸姿の児童が,乳房,陰部等を露出しているものがその相当部分を占めているのであって,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に該当することは明らかである。したがって,弁護人の主張は理由がない。

5 弁護人は,「天」の中には陰毛の生えている者がおり,児童でないことが明らかであると主張する。
 しかしながら,前記2(3)の判定手法によれば,陰毛のある者を含めて,いずれも児童であると解するのが相当である。したがって,弁護人の主張は理由がない。

6 弁護人は,前記「天」,「B」,「何」の各作品は芸術作品であるから児童ポルノに該当しないと主張する。
 しかしながら,芸術的価値のあるものであっても,これを児童ポルノに該当するものとすることは差し支えないから,弁護人の主張は,その余について判断するまでもなく理由がない。
7 弁護人は本件各写真集につき,被害者(被撮影者)の同意があると主張する。
  しかしながら,児童ポルノ法の制定趣旨は,性的搾取及び性的虐待から児童の権利の保護を目的とするものであり,加えて,当該児童を保護し,関係者を処罰することによって,ひいては児童一般を保護しようとしている趣旨も間接的に含まれているのであるから,当該児童の同意があったとしても,これをもって,構成要件該当性あるいは違法性を阻却する事由とはなり得ないと解するのが相当である。したがって,弁護人の主張は理由がない。

8 弁護人は,被撮影者の年齢についての被告人の認識がなく,また,年齢認識がなかった点につき過失はないと主張する。
  しかしながら,関係各証拠によれば,被告人は,本件各写真集につき,少女の裸体写真等が撮影された写真集として購入し,かつ,これらを同旨の写真集として販売したのであるから,被告人において,被撮影者の個々具体的な年齢を認識していたか否かはともかくとして,「児童」であるとの認識を有していたことは明らかであり,弁護人の主張は理由がない。

9 その他,弁護人は,るる主張するが,いずれも独自の見解に基づく主張であり理由がない。

(法令の適用)
罰       条  
 別紙一覧表の各番号ごとにいずれも(なお,同番号4については,各写真集ごとに包括して)児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条1項,2条3項3号

観念的競合の処理  前記番号4につき,刑法54条1項前,段、10条(犯情の重い児童ポルノ写真集「天」の販売の罪で処断。)

刑 種 の 選 択 いずれも懲役刑を選択

併合罪の処理 刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も重い前記番号4の罪の刑に法定の加重。)

刑 の 執行猶予 刑法25条1項
(量刑の理由)

(求刑 懲役 年)
  平成14年4月24日
    京都地方裁判所第1刑事部
裁判官
古 川    博