児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童買春罪の被害児童が、少年院送致になったらしい事案(那覇家裁R3.8.5)

D1-LAW
■28300192
那覇家庭裁判所令和03年08月05日
主文
少年を第1種少年院に送致する。
理由
 (非行事実)
 少年は、中学校時から保護者である母の指導を聞かず、無断外泊や家出を繰り返し、中学校卒業後も進学や就職をせず、母や弟、祖父の管理する金員を持ち出すことがあった。少年は、令和2年△月頃に家出をして自宅に戻らないようになり、万引きや無銭宿泊をしたり、成人があっせんする売春行為で金銭を得たりして、ホテルや交際相手の家を転々とするようになった。売春行為は、自らするのみならず、売春をあっせんする成人に友人である児童を紹介したり、売春させる目的で年下の児童を複数の成人に引き渡したりすることもあった。少年は、交際相手から暴力を受けたことで、児童相談所の一時保護を受け、児童相談所から委託を受けたシェルターに入ったが、同所から2回無断外出をして警察に保護され、その後児童相談所の一時保護所で保護されるようになったが、同所でも無断外出をしようとしている。
 このような少年の行状は、少年につき、保護者の正当な監督に服しない性癖のあること、正当な理由がなく家庭に寄り附かないこと、犯罪性のある人又は不道徳な人と交際していること、自己または他人の特性を害する行為をする性癖のあることを示すものであり、このまま少年を放置すれば、その性格又は環境に照らして、将来、児童福祉法違反、売春防止法違反又は窃盗等の罪を犯すおそれがある。

民法の成年年齢引下げの刑事法への影響(研修884号)

 大丈夫かなあ。津々浦々の警察に徹底されてるかな

研修(令4. 2, 第884号)法の焦点
民法の成年年齢引下げの概要等
法務省民事局参事官笹井朋昭
刑事局刑事法制企画官中野浩一
第4他の法令への影響(刑事関係法令を中心に)
1(1) 民法の成年年齢は,民法以外の法令において,各種の資格を取得するためなどの年齢要件として用いられている。
また, 「成年」という文言を用いているわけではないが,民法の成年年齢と同じ20歳を年齢要件としている法律もある。
民法の成年年齢の引下げに当たっては, これらの他法令における年齢要件も引き下げるか否かが問題になり, それぞれの法律の所管省庁において,それぞれの法律の趣旨に基づいてその検討が行われた。
引下げの要否について必ずしも一律の基準があるわけではないが,各種の国家資格に関する年齢要件など,民法の成年年齢が20歳であることを前提に定められている年齢要件については,成年年齢の引下げに合わせて,基本的に18歳に引き下げることとされた。
(2) 年齢要件を規定するに当たり, 「成年」, 「未成年者」などの文言が用いられている法律について改正が行われなければ,民法改正法によって「成年」, 「未成年」という文言の意味が当然に変更されることとなる結果,年齢要件の実質が20歳から18歳に引き下げられる。
例えば, 刑法における未成年者略取・誘拐罪(同法224条),未成年者買受け罪(同法226条の2第2項),準詐欺罪(同法248条)の客体がこの場合に当たる。
このほか, 「未成年者」との文言は, 例えば,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律における保護者の資格要件(同法23条の2第1項5号)などに見られ, 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律における接近等禁止命令に関する「成年に達しない子」(同法10条3項)についても, 18歳未満を意味することとなる。
(3) 年齢要件を規定するに当たり, 「二十歳」などの具体的な年齢を指す文言が用いられている法律について, その実質を引き下げる場合には, 当該文言が改められる。
刑事関係から離れるものの,例えば, 旅券法における10年用一般旅券の取得可能年齢(同法5条1項2号),国籍法における外国人の帰化の許可要件(同法5条1項2号)などがこの場合に当たり, それぞれ年齢要件が18歳に引き下げられる。
(4) 他方で,健康被害の防止や青少年の保護といった観点から定められた年齢要件については,必ずしも民法上の成年年齢と一致させる必要はなく,現行の年齢要件を維持する必要があると判断されたものがある。このような場合, 「成年」, 「未成年」という文言が用いられている年齢要件については, 20歳以上又は20歳未満という実質を維持するため,年齢要件の規定が改められる。
例えば,未成年者喫煙禁止法未成年者飲酒禁止法については,それぞれ,法律名が「二十歳未満ノ者ノ喫煙ノ禁止二関スル法律」,「二十歳未満ノ者ノ飲酒ノ禁止二関スル法律」と改められ, 喫煙年齢飲酒年齢について「満二十年二至ラザル者」とされていた規定
は,実質的な内容の変更を伴わないものの「二十歳未満ノ者」と改められる。
また,競馬法における勝馬投票券の購入年齢(同法28条) ,自転車競技法における勝者投票券の購入年齢(同法9条),小型自動車競走法における勝車投票券の購入年齢(同法13条) ,モーターボート競走法における勝舟投票券の購入年齢(同法12条)についても,現行の20歳の年齢要件を維持するため,各規定が改められる。
(5) また,年齢要件を規定するに当たり, 「二十歳」などの具体的な年齢を指す文言が用いられている法律について, その実質を引き下げない場合,改正はされない。
例えば,銃砲刀剣類所持等取締法における猟銃所持の許可年齢(同法5条の2第2項1号) ,暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律における指定暴力団等への加入強要の禁止年齢(同法16条1項),道路交通法における中型免許の取得可能年齢(同法88条1項1号)などがこの場合に当たる。
2 民法改正法の施行前にした行為の処罰等について,若干述べたい。
(1)構成要件に「未成年」者又は「法定代理人」を含むため,成年年齢の引下げに伴い未成年者又は法定代理人の範囲が縮小することにより,処罰の範囲が縮小するものとして,例えば, 未成年者については,未成年者略取・誘拐罪がある。民法改正法附則第25条には、「施行日前にした行為…に対する罰則の適用については, なお従前の例による。」との経過措置が設けられているため,民法改正法の施行前の行為については,処罰の範囲が縮小する前の罰則が適用されることとなる(注3, 4, 5)

・・・
(注3)民法改正法附則第25条「施行日前にした行為及び附則第13条の規定によりなお従前の例によることとされる場合における施行日以後にした行為に
対する罰則の適用については, なお従前の例による。」
(注4)法律が改正されても,新法施行前の行為については従前の例による等の経過措置が設けられている場合には, 旧法が適用されることは当然で,新法を適用する余地がないから, 刑法6条の刑の変更があったことにはなら
ない(大コメ刑法〔第三版〕第1巻115頁)。
(注5)例えば, 18歳, 19歳の被害者に対する未成年者略取・誘拐罪が民法改正法の施行前に成立している場合には,民法改正法の施行後においても, 同罪により処罰され得ることとなる。
他方,民法改正法の施行前に, 18歳, 19歳の被害者を略取・誘拐しようとして,営利, わいせつその他の目的なく暴行等の実行の着手に及び, 当該実行行為が施行日をまたいだ場合であって, 当該被害者を自己又は第三者の実力支配内に移していないときは,民法改正法の施行後において, 同罪との関係では,施行前の暴行等の範囲で(すなわち, 同罪の未遂の範囲で)処罰され得ると考えられる(他の罪の成否は別論である)。
もっとも, けん銃を自宅で所持していた継続犯についての判例を前提に, 「犯罪の実行行為が新旧両法にまたがるときは,新法は犯罪後の法律ではなく, したがって,犯罪後に刑の変更があった場合に当たらないので,新法が適用される」(大コメ刑法〔第三版〕第1巻111頁) との指摘があるところ,未成年者略取・誘拐罪を状態犯と捉えるか継続犯と捉えるか, あるいは, 同罪の実行行為をどのように捉えるかなどにより, 異なる考え方もあり得るところである。
いずれにせよ,具体的な証拠関係に基づく事実認定によっても罰則の適用関係が変わり得るところであり,施行日をまたぐ事案の罰則の適用については,慎重な検討が必要であると考えられる。
(6))配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律第10条第3項は,被害者が配偶者と面会することを余儀なくされることを防止するため必要があることを要件として,被害者と同居している成年に達しない子に対する接近等禁止命令を発することができることとしている。民法改正法の施行前に18歳19歳の者について「成年に達しない子」として接近等禁止命令が発せられた場合において, その有効期間内に施行日を迎え, その者が「成年」に達することとなったときはどうか。このような場合,命令が発せられた根拠となった事実や行為の存在, それに対する評価には影響は生じないと考えられることや, 同条第4項において, 同条第3項と同様の趣旨から,被害者の親族等につき, その者が成年に達しているか否かにかかわらず,接近等禁止命令を発することができる旨の規定が置かれていることなどを踏まえると,民法改正法の施行後も接近等禁止命令は有効であると考えられ, 当該命令の有効期間内に命令違反が生じれば, その違反した者を処罰し得ると考えられる。

警察署内の証拠品保管庫に立ち入ることができる立場にあったことを利用し,証拠品であるCD-Rに記録されていた児童ポルノである動画データ等を私用スマートフォンに取り込んだ末に本件犯行に及んだという単純所持事件(鹿児島地裁R03.10.26)

 児童ポルノの特定が甘い。

鹿児島地裁令和 3年10月26日
住居侵入,建造物侵入,児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
出典ウエストロー・ジャパン
 上記被告人に対する住居侵入,建造物侵入,児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について,当裁判所は,検察官福林千博及び私選弁護人穂村公亮(主任)各出席の上審理し,次のとおり判決する。
 主文
 
理由

 【罪となるべき事実】
 被告人は,
 第1  正当な理由がないのに,令和元年6月9日午前1時5分頃,鹿児島県a警察署長Bが看守する鹿児島県奄美市〈以下省略〉同警察署3階女性用更衣室兼仮眠室に,不正に入手した合い鍵を使用して出入口ドアの施錠を解いて侵入した
 第2  正当な理由がないのに,同年9月2日午前0時53分頃,前記女性用更衣室兼仮眠室に,無施錠の出入口ドアから侵入した
 第3  被害者A(氏名は別紙記載のとおり)の私生活をのぞき見る目的で,令和2年2月5日午後10時44分頃,同市〈以下省略〉b職員宿舎502号の当時の同人方に,合い鍵を使用して玄関ドアの施錠を解いて侵入した
 第4  自己の性的好奇心を満たす目的で,令和3年4月3日,鹿児島市〈以下省略〉鹿児島県警察本部3階中会議室において,衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノである画像データ4点及び動画データ1点を記録したスマートフォン1台を所持した
 ものである。
 【証拠の標目】
 【法令の適用】
 被告人の判示第1ないし第3の各所為はいずれも刑法130条前段に,判示第4の所為は児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条1項前段,2条3項3号にそれぞれ該当するところ,判示各罪についてそれぞれ懲役刑を選択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,刑法47条本文,10条により刑及び犯情の最も重い判示第3の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を主文掲記の懲役刑に処し,情状により刑法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から主文掲記の期間その刑の執行を猶予することとする。
 【量刑の理由】
 本件は,現役の警察官であった被告人が,①当直勤務中,警察署内の女性用更衣室兼仮眠室に2回にわたって侵入し(判示第1及び第2。以下「建造物侵入事件」という。),②同じ職員宿舎の同僚宅に侵入し(判示第3。以下「住居侵入事件」という。),③児童ポルノである動画データ等を記録したスマートフォンを所持した(判示第4。以下「児童ポルノ所持事件」という。)という事案である。
 (求刑 懲役2年)
 鹿児島地方裁判所刑事部
 (裁判官 此上恭平)

児童買春罪の対償供与約束の成否に関する高裁判例

阪高裁h16.1.15
2 控訴趣意中,理由不備,事実の誤認ないしは法令適用の誤りの主張(控訴理由第1)について
 所論は,原判決は,被告人らと被害児童らの間には,被害児量ら3名が,それぞれ男性3名の誰かから1万円をもらう代わりに,男性3名の誰かと1回あるいは複数回性交をすることの合意が成立したと認められ,具体的に性交の相手が決まった時点で,上記の合意は,男性が性交の相手である児童に現金を与え,児童が性交に応じるという約束に具体化したというべきであり,対償の供与の約束があったと認定しているが,本件において,性交の相手が決まった時点でその男性が性交の相手方である児童に現金を与え,児童が性交に応じるという約束に具体化したと認定できる証拠はなく,事前に被告人と原判示の各被害児童との間に性交の前に対償供与の約束があったともいえないのであるから,原判決には理由不備の違法があるとともに,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認ないしは法令適用の誤りがある,というものである。
 ところで,原判決が挙示する関係証拠によれば,被告人が原判示の被害児童2名と性交するに至った経緯及び被告人ら3名から被害児童を含む3名の児童に現金が手渡された経緯等は,原判決が争点に対する判断の項第2に説示するとおりであり,これらの事実によれば,被告人ら3名と被害児童ら3名との間では,○○駅に集合する以前に,お互いに相手の誰かと性交し,その対価として,被告人らは1人1万円,合計3万円を支払い,被害児童らはその中から1人1万円を受領するとの合意ができていたものと認められ,このことは,被告人の関係では,被告人は被害児童らに対し,被告人と性交した場合にはその対価を支払うことを申し入れ,被害児童らにおいてこれを了承したものであり,被告人が現実に性交したのはこのうちの2名とであるから,被告人は被告人との性交に応じた被害児童に対して性交の対償として現金の供与を約束したものにほかならず,その時点で,性交の相手方について,その人数の点も含めて特定していないことは,上記のような事情のもとでは対償供与の約束の成否に影響しない。してみると,原判決が被告人と被害児童との間に対償供与の約束ができていたと認定したのは結論において正当である。論旨は理由がない。

大阪地裁h15.8.6
3対償供与の約束の成立について
上記で認定したところによれば,被告人ち男性3名と被害児童らの間には,児童3名が,男性3名の誰かから1万円をもらう代わりに,男性3名の誰かと1回あるいは複数回性交をすることの合意が成立たと認められる。
そして,具体的に性交の相手が決まった時点で,上記の合意は,男性が性交の相手である児童に現金与え,児童が性交に応じるという約束に具体化したというべきであり,本件では,児童買春,児童ポルに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律2条2項にいう「対償」「の供与の約束」があったと認められる。
そして,上記認定によれば,被告人は各被害児童との性交前に上記の具体化された合意をしたと認められ,第1の犯行によって約束は終了したとの弁護人の主張は採用できない。
なお,公訴事実では,被告人は被害児童2名ぞれぞれに現金各1万円の供与を約束して性交したとされているが,各性交を開始する時点では誰と何回性交するのかが確定していなかったのであり,被告人は現金各1万円の供与を約束したとはいえず,判示のとおりの事実を認定した(念のために付言すると,供与する現金の額が不確定でも対償を供与したことには変わりがない)。

名古屋高裁h24.10.29
第3 原判示第1の事実に関する事実誤認及び法令適用の誤りの論旨(控訴理由7ないし10)について
 論旨は,要するに,原判示第1につき,①被告人と被害児童とは,ホテルで性交することを前提に,被告人が被害児童に対し現金2万円を支払う約束を交わしたが,被告人には当初からホテルに行って性交するという意思はなかったから,意思の合致がなく,対償供与の約束が成立していない,②当初対償供与の約束が成立していたとしても,その後自宅での性交を拒否されて被害児童と別れた段階で,その約束は解消されており,その後被害児童を呼び戻し脅迫して性交した際には対償供与の約束はなされておらず,当初の約束との間に因果関係もなく,被告人に対償供与の約束で性交するとの故意もなかったから,児童買春には当たらないのに,対償供与の約束で被害児童と性交したと認定した原判決には,事実の誤認,法令適用の誤りがあり,これらが判決に影響を及ぼすことは明らかである,~~のに,法4条,2条2項を適用した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の適用の誤りがある,というのである。
 しかしながら,①のホテルでの性交の点は,被告人と被害児童との間で,被告人が被害児童に対し,性交をすることの反対給付として現金2万円を供与するとの意思の合致があったことは関係証拠上明らかであり,性交の場所といった,対償供与の約束の本質的部分に関わらない付随事情について,表示と異なる意思を有していたことによって,その成否は左右されない。
 次に,②の対償供与の約束の解消などの点は,被告人は,性交の対償として現金2万円を供与する約束で被害児童と会い,その後も一貫して,被害児童と性交することを基調とした行動を取り,性交するに至っているから,当初の対償供与の約束と性交との間には因果関係があり,対償供与の約束をして被害児童と性交したものとみるのが相当であって,その故意にも欠けるところもないというべきである。

単純所持罪(7条1項)の逮捕事例 「勤務先の小学校女児の着替え画像所持疑い 小学校教諭の男逮捕」

盗撮等の余罪があると、逮捕されることがあります。
購入者の逮捕はありません。

 

【独自】勤務先の小学校女児の着替え画像所持疑い 小学校教諭の男逮捕(TBS系(JNN)) - Yahoo!ニュース

 

 

2017/2/18 愛媛新聞 児童ポルノ所持 会社員を追起訴 地検支部
2017.02.18 愛媛新聞
 地検支部は16年12月、市の書店で2回にわたり、女性のスカートの下に盗撮目的でビデオカメラを差し入れたとしてA被告を地裁支部に起訴。署は1月、県内で初めて児童ポルノの単純所持容疑でA被告を逮捕していた。
2018/2/1 読売新聞 児童ポルノ所持容疑 元臨時職員再逮捕 署=和歌山
 2018.02.01読売新聞
 市で昨年12月、下校中の女子児童が顔にスプレーを吹きつけられてけがをした事件で、傷害容疑で逮捕された元同市臨時職員の容疑者について、署は1月31日、児童買春・児童ポルノ禁止法違反(単純所持)容疑で再逮捕した。容疑を認めている。
2018/2/9 読売新聞 児童ポルノ所持 容疑で保育士逮捕=千葉
2018.02.09 
 署が市内の民間保育所に勤務する保育士を児童買春・児童ポルノ禁止法違反容疑で逮捕していたことが8日、捜査関係者への取材でわかった。逮捕は5日付。
 同署によると、容疑者は児童のわいせつ画像を所持していた疑い。

児童ポルノ製造で保育士に有罪判決 地裁松戸支部
2018.05.25 千葉日報
2018/3/3 読売新聞 海保職員を停職処分=宮城
2018.03.03 読売新聞
 第2管区海上保安本部は2日、18歳未満の子供の性的な動画を所持していたとして昨年11月に児童買春・児童ポルノ禁止法違反(単純所持)容疑で逮捕され、罰金刑を受けた宮城海上保安部の2等海上保安正の男性を停職2か月の懲戒処分にした。
 同本部の発表によると、2等海上保安正は他にも、銃刀法で禁じられた模造拳銃を1丁所し、2016年9月~17年11月にはインターネット上でエアガンを営利目的で売買し、兼業していた。
2021/1/9 産経新聞 児童ポルノ所持で再逮捕 容疑のホスト、PCに写真数千枚
2021.01.09 産経新聞
 女性客から現金を詐取しようとしたとして、詐欺未遂容疑で逮捕された新宿区歌舞伎町のホストの男が、児童のわいせつな動画を入手して保管していた疑いが強まったとして、警視庁が児童買春・児童ポルノ禁止法違反の疑いで再逮捕していたことが8日、捜査関係者への取材で分かった。男のパソコンには同様の写真が数千枚、保管されており警視庁は裏付けを進める。

2021/1/21 読売新聞 強制わいせつなど容疑=秋田
2021.01.21 読売新聞
 能代署は20日、被告を強制わいせつと児童買春・児童ポルノ禁止法違反(所持)の疑いで再逮捕した。被告は昨年11月26日、小学生の女子児童の体を触ったとして強制わいせつ容疑で逮捕、起訴されている。
 発表によると、容疑者は2015年8月中旬、県北部の住宅で別の女子児童の体を触ってわいせつな行為をしたほか、その様子を撮影したDVDを昨年11月下旬に自宅で所持していた疑い。
2021/3/9 産経新聞 児童ポルノ動画所持容疑、中学校講師を逮捕
2021.03.09 産経新聞
 逮捕容疑は、1月20日、18歳未満が映った児童ポルノ動画5本を保存したスマートフォンを、自宅で所持していたとしている。
 同容疑者は、市内の路上で道を尋ねるふりをして女児(9)の体を触ったとして今年2月に強制わいせつ容疑で逮捕されたが、「わいせつな行為はしていない」と否認。3月1日に府迷惑防止条例違反罪(痴漢行為)で起訴された。


2021/6/11 茨城新聞 児童ポルノ所持容疑で男再逮捕
2021.06.11 茨城新聞
 署は10日、児童買春・ポルノ禁止法違反(所持)の疑いで、容疑者=窃盗罪などで起訴=を再逮捕した。
2022/2/12 TBS 【独自】勤務先の小学校女児の着替え画像所持疑い 小学校教諭の男逮捕
2/12(土) 9:34配信
TBS系(JNN

「無修正のわいせつ動画2本を海外の販売代理店を通じてアダルトサイト「」に載せ、不特定多数の人にダウンロードさせた行為」に、日本刑法が適用される理由

 h26の判例があって、外国の代理店も共犯として取り込まれてしまうので、購入者にダウンロードさせる行為が国内にあるので、日本刑法が適用されるという理屈です。
 関与している外国の代理店は、その国では適法な行為ですが、日本に入ると、検挙される危険があります。

裁判年月日 平成26年11月25日 裁判所名 最高裁第三小法廷 裁判区分 決定
事件番号 平25(あ)574号
事件名 わいせつ電磁的記録等送信頒布、わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管被告事件
裁判結果 棄却 文献番号 2014WLJPCA11259002
2 所論は,サーバコンピュータから顧客のパーソナルコンピュータへのデータの転送は,データをダウンロードして受信する顧客の行為によるものであって,被告人らの頒布行為に当たらず,また,被告人らの行為といえる前記配信サイトの開設,運用は日本国外でされているため,被告人らは,刑法1条1項にいう「日本国内において罪を犯した」者に当たらないから,被告人にわいせつ電磁的記録等送信頒布罪は成立せず,したがって,わいせつな動画等のデータファイルの保管も日本国内における頒布の目的でされたものとはいえないから,わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管罪も成立しないという。
 3 そこで検討するに,刑法175条1項後段にいう「頒布」とは,不特定又は多数の者の記録媒体上に電磁的記録その他の記録を存在するに至らしめることをいうと解される。
 そして,前記の事実関係によれば,被告人らが運営する前記配信サイトには,インターネットを介したダウンロード操作に応じて自動的にデータを送信する機能が備え付けられていたのであって,顧客による操作は被告人らが意図していた送信の契機となるものにすぎず,被告人らは,これに応じてサーバコンピュータから顧客のパーソナルコンピュータへデータを送信したというべきである。したがって,不特定の者である顧客によるダウンロード操作を契機とするものであっても,その操作に応じて自動的にデータを送信する機能を備えた配信サイトを利用して送信する方法によってわいせつな動画等のデータファイルを当該顧客のパーソナルコンピュータ等の記録媒体上に記録,保存させることは,刑法175条1項後段にいうわいせつな電磁的記録の「頒布」に当たる。
 また,前記の事実関係の下では,被告人らが,同項後段の罪を日本国内において犯した者に当たることも,同条2項所定の目的を有していたことも明らかである。
 したがって,被告人に対しわいせつ電磁的記録等送信頒布罪及びわいせつ電磁的記録有償頒布目的保管罪の成立を認めた原判断は,正当である。
 よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 大谷剛彦 裁判官 岡部喜代子 裁判官 大橋正春 裁判官 木内道祥 裁判官 山崎敏充) 

https://news.line.me/detail/oa-tbsnews/fy4sobv3fkgb?mediadetail=1&utm_source=Twitter&utm_medium=share&utm_campaign=none
水泳コーチ無修正動画で1600万稼いだか ツイッターで女性募集し自ら出演
2022年2月9日 11:54TBS NEWS
無修正のわいせつ動画を海外のアダルトサイトで配信したとして、水泳インストラクターの男が警視庁に逮捕されました。男は自ら出演して、90本の動画を作っていました。
「わいせつ電磁的記録等送信頒布」の疑いで逮捕されたのは、東京・世田谷区の水泳インストラクター容疑者で、去年11月、無修正のわいせつ動画2本を海外の販売代理店を通じてアダルトサイト「FC2」に載せ、不特定多数の人にダウンロードさせた疑いが持たれています。
警視庁によりますと容疑者は、ツイッターで女性を募集してみだらな行為をし、動画を撮影。販売した90本の動画すべてに自ら出演していて、おととし3月以降1600万円以上を売り上げていたということです。
容疑者は「警察に捕まるリスクを減らすために代理店経由で販売した」と容疑を認めているということです。

「被告人が同児童の肛門に体温計様の物を挿入する姿態」を、3号ポルノと認定した事案(横浜地裁R3.10.11)

 westlawで回ってきました
 「判示第3の所為は児童ポルノ法7条7項前段,6項前段,2条3項3号に,」とされていますが、肛門挿入は性器接触行為(2号)か性交類似行為(1号)ですよね。
 重い性犯罪があると、児童ポルノ罪の処理がおろそかになる例です。
 こういうのを指摘すると、控訴審未決たくさんもらえるので、控訴して指摘して下さい。

>>
裁判年月日 令和 3年10月11日 裁判所名 横浜地裁 裁判区分 判決
事件名 強制性交等,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反,強制わいせつ,わいせつ電磁的記録等送信頒布,わいせつ電磁的記録記録媒体頒布,東京都青少年の健全な育成に関する条例違反被告事件
文献番号 2021WLJPCA10116002
 上記の者に対する強制性交等,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ法」という。)違反,強制わいせつ,わいせつ電磁的記録等送信頒布,わいせつ電磁的記録記録媒体頒布,東京都青少年の健全な育成に関する条例違反被告事件について,当裁判所は,検察官(省略)及び国選弁護人(省略)各出席の上審理し,次のとおり判決する。
 

主文
 
理由
 ※以下,AからFまでは,それぞれ別紙(省略)の(1)記載の被害者の氏名を表す。
 (罪となるべき事実)
 被告人は,
第2(令和2年11月2日付け追起訴状記載の公訴事実第1 訂正後)
 B(当時9歳)が13歳未満の者であることを知りながら,平成30年4月4日頃,東京都内のマンション(詳細は別紙(3)記載のとおり)において,同人の下着の上から同人の陰部を触り,その肛門に体温計様の物を挿入するなどし,もって13歳未満の者に対し,わいせつな行為をした,
第3(令和2年11月2日付け追起訴状記載の公訴事実第2)
 前記Bが18歳に満たない児童であることを知りながら,判示第2の日時場所において,不特定又は多数の者に提供する目的で,同児童の陰部等を露出させた姿態及び被告人が同児童の肛門に体温計様の物を挿入する姿態を被告人が使用する動画撮影機能付携帯電話機で動画として撮影し,その動画データ4点を同携帯電話機の内蔵記録装置に記録して保存し,もって衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造した,
 (法令の適用)
 1 被告人の判示第1及び第4の各所為はいずれも刑法177条後段に,判示第2,第7及び第8の各所為はいずれも同法176条後段に,判示第3の所為は児童ポルノ法7条7項前段,6項前段,2条3項3号に,判示第5の所為は包括して同法7条7項前段,6項前段,2条3項1号,2号,3号に,判示第6の所為は東京都青少年の健全な育成に関する条例24条の3,18条の6に,判示第9の所為は児童ポルノ法7条7項前段,6項前段,2条3項2号,3号に,判示第10の1(別表の番号1ないし4の各番号ごと)及び第10の2の各所為のうち,電気通信回線を通じて法定の情報を記録した電磁的記録を不特定の者に提供した点はいずれも(判示第10の1別表の番号4は包括して)児童ポルノ法7条6項後段,2条3項3号(判示第10の1別表の番号3は更に同項1号,2号)に,わいせつ電磁的記録等送信頒布の点はいずれも刑法175条1項後段に,判示第10の3の所為のうち,児童ポルノの提供の点は児童ポルノ法7条6項前段,2条3項2号,3号に,わいせつ電磁的記録記録媒体頒布の点は刑法175条1項前段にそれぞれ該当する。
 2 判示第10の1(別表の番号1ないし4の各番号ごと)ないし第10の3はそれぞれ1個の行為が2個の罪名に触れる場合であり,かつ,判示第10の1及び第10の2のわいせつ電磁的記録等送信頒布並びに第10の3のわいせつ電磁的記録記録媒体頒布は包括して一罪として処断される場合であるから,結局以上を一罪として刑法54条1項前段,10条により刑及び犯情の最も重い判示第10の1別表の番号3の児童ポルノ法違反の罪の刑で処断する。
 3 判示第3,第5,第9及び第10の各罪についてはいずれも懲役刑と罰金刑とを併科し,判示第6の罪については懲役刑を選択する。
 4 以上は刑法45条前段の併合罪であるから,懲役刑については同法47条本文,10条により刑及び犯情の最も重い判示第4の罪の刑に法定の加重をし,罰金刑については同法48条1項によりこれをその懲役刑と併科することとし,同条2項により判示第3,第5,第9及び第10の各罪所定の罰金の多額を合計する。
 6 刑法21条を適用して未決勾留日数中240日をその懲役刑に算入する。
 7 その罰金を完納することができないときは,刑法18条により金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
 8 訴訟費用は,刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
 (量刑の理由(以下,児童ポルノ法7条6項違反の罪に関しては,その前後段を問わず,提供の客体を「児童ポルノ」という。))
。。。。
 令和3年10月13日
 横浜地方裁判所第3刑事部
 (裁判長裁判官 渡邉史朗 裁判官 田中結花 裁判官 鈴木新星)

青森県青少年健全育成条例違反の罪で無罪(青森地裁八戸支部R4.2.2)

青森県青少年健全育成条例違反の罪で無罪(青森地裁八戸支部R4.2.2)
 会ってから年齢を言った・聞いて無いというパターン
 年齢知情条項(条例31条)を予備的に主張しておけば無罪になることはないんだが、きょうび淫行するのに年齢確認義務を負わせるというのもおかしなことなので、過失も認定されなかったのかもしれない。
 検察官の著作でも、年齢確認義務については疑問が出ています。

栗原雄一「児童買春の罪と青少年育成条例の関係について」研修644号*1
そのため,形式的には,全ての行為者につき年齢の調査確認の手段を尽くしたことの挙証責任が課せられているようにみえる。 しかし,淫行しようとする者は当然にその相手方の年齢を調査確認すべき義務があるといえるかどうかは微妙である。 したがって,実務的には,年齢知情に関する規定の適用を前提として,淫行罪により処罰しようとする場合には, 「使用者性」に匹敵する事情を別途立証するのが相当であるろう。すなわち,当該青少年と知り合った経緯,当該青少年の体格,服装,言葉遣い等から,当該行為者において,当該青少年が18歳未満ではないかとの疑いを持ち得る客観的状況があったことを示す証拠を収集しておくべきこととなる。
(法務総合研究所教官)
・・・・
藤宗和香(東京地方検察庁検事(当時))「青少年保護育成条例」風俗・性犯罪シリーズ捜査実務全書9第3版*2P336
p354
②淫行の行為者を処罰するためには、相手方の年齢について18 歳未満であることを行為当時に知っていたことが原則として必要である。
しかし、「当該青少年の年齢を知らないことを理由として処罰を免れることができない。但し、当該青少年の年齢を知らないことにつき過失のないときは、この限りでない。」旨の規定を置いている育成条例も多く、その場合は、知らないことに過失がない場合でなければ、処罰されることになるo
もっとも、児童買春・ポルノ法、児童福祉法及び風適法では、児童の使用者に対してのみ相手方(被害者)の年齢を知らないことを理由として処罰を免れることができないとしているので、相手方の年齢について認識がない場合の処罰には慎重さが求められる。
・・・
p361
(イ) 青少年の年齢の知情性について
① 行為者を淫行につき処罰するためには、淫行当時、その相手方が青少年であることについて知っていなければならないし、特に無過失のみ不処罰の旨の規定のあるところでは知らないことにつき過失がある場合でなければならないのは、前述のとおりである。
後者について、どのような場合に、知らないことについて過失があると認められるのであろうか。
結論としては、具体的事案によって千差万別としか言えず、青少年の年齢が18歳直前なのか14 、5 歳などはるかに若年であるのか、行為者と青少年の知り合った経緯、行為者の身分、立場などを総合して判断するしかない。
しかし、育成条例の「淫行等jについて、前述のように、単なる不道徳な性行為というのでなく、前記1・2のように、限定した概念として、青少年の未成熟を利用し、あるいは乗じるなどの特に不当な行為をとらえていることからすれば、相手が未成熟な背少年であることを知っていることが前提のはずと考えられ、過失であれ、その認識を欠いている場合を、「知ってj淫行等した場合と同列に論じられるのか疑問なしとしない。
故に過失の認定には慎重であるべきであるし、過失の程度も重過失と言えるようなものに限るべきではなかろうか。児童買春・ポルノ法等において児童の使用者についてのみ過失ある場合の処罰が規定されていることも参考とされるべきである。
②過失認定が難しい一例を見てみる。
デートクラブやいわゆるキャバクラなどの客が、その応のホステスを相手に性交又は性交類似行為に及んだ場合、その行為が単に性欲を満-たすためだけの深行に当たることは明らかであるから、その相手が18 歳未満の青少年であれば、淫行規制条例の適用を受け得ることになる。
ところで、当節、青少年の肉体的発育はめざましく、15 、6 歳で成人以上の体格をしている者も珍しくはなく、化粧、衣類によって、その外見のみから18 歳以上か18 歳未満であるかを判別することは困難な場合が多いが、デートクラブやキャパクラなどでアルバイトしている青少年の場合には殊更外見からの年齢判断はできにくい
客は、被疑者として取り調べられると、年齢については「知らなかった。」と否認する者が多い一方、恥、不名誉に思い早く終わらせたい気持ちからか、「若いなと思った。」「本人は18 歳と言ってたが、まだかもしれないと思った」 などの未必的認識を認める供述をする者も多く、これを根拠に過失を認定している例も見受けられるo
しかし、キャパクラなどは、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第2 条第3 号により、18 歳未満の者を接客に使えないはずであり、通常の客は、ホステスは18 歳以上との認識で来応すると思われ、仮に、前記のような若干の疑念を抱いたとしても、客にその点を確認する方法は相手ホステスに尋ねるくらいしかないだろうし、それ以上の確認を要求すること肉体非現実的であろうO実質的には否認の場合の認識との問にどれほどの径庭もないと言うべきであろう。
一方、捜査官に対しては、「当該客に年齢を問かれ、17 歳と答えた。」「 もうすぐ18 歳の誕生日と言った。jなどと、客の年齢知情を裏付ける供述をする青少年が稀でないが、キャパクラなどで働いている青少年には、すでに取調べに慣れていて、自己が被保護者たる青少年であることを利用し、被害者的立場を誇張し、かつ、捜査官に迎合的な供述をする者がまま見られ、しかもそのような応の経営者は、客寄せのために成人前の若い女子を雇う傾向が強く、中には、18 歳未満と知っていても履い入れ、客に聞かれたら18 歳と答えるよう指示している場合が多いのは周知の事情であるから、右青少年の供述を全面的に信用することは危険である。
このような例では、結局は、客が既に青少年と話をする機会などがあってその身上を知り得る関係にあったとか、当該応には18 歳未満の女子ばかりを置いているなどの噂があって、容の来応理由になっていたと認められるなど、個別具体的に、淫行の相手が18 歳未満であることについて客観的に知り得る状況があったことを明らかにしなければ、過失を認めるべきではないと考える。
淫行規制条例は、青少年の健全育成、保護のために、これを阻害する行為を回避する義務を年長者に負わせたものであるが、保護の対象たる青少年が自らの意思でいわば性を売り物にするデートクラブやキャパクラなどに身を置く以上、その保護は、個別の容を保行で処罰することによるより、むしろ雇用主の児童福祉法違反、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律違反、売春防止法違反などを処罰することで図られるべきところではないかとも考えられる。

島戸純「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」研修 第652号
このような結論の違いは,そもそも,児童買春等処罰法が児章買春罪において年齢の知情性の推定を設けていないところ,条例が,このような考え方に立たず,被害児童の年齢について認識がないにもかかわらず認識があったものと擬制しようとするところに由来するものである。対償の供与又はその約束がなく,被害児童の年齢について認識がなかったとき(表の(D)の部分)については}①,②いずれの考え方によっても児童買春等処罰法が対象としない以上、対償の供与又はその約束がない場合についての処罰の有無は,条例のあり方,地方公共団体の政策による結果にすぎず,この結果と比較して,対償の供与又はその約束があったとき(表の(B) の部分)における児童買春等処罰法の解釈について影響が及ぼされるべきものではない(6)。
・・・
刑事法上故意犯処罰が原則とされているのであって,児童買春等処罰法第9条が,児童買春罪をその適用対象から外したのは,買春行為については,類型的にみて,使用関係を前提とせず(7)一回性が認められやすいことに基づき,故意犯処罰の原則を貫いたにすぎないものであると考えられる(8)。
また,同条が年齢の知情性の推定を児童の使用者に限ったのは、一般に,児童を使用する使用者については児童の年齢に関する調査義務が認められていることから(9)本法も向様に,このような者について児童の年齢を知らないことのみを理由に処罰を免れさせるのは妥当でないという政策判断を行ったものと考えられる(10)。この趣旨から考える左,そもそも本法の趣旨として, (少なくとも対償の供与又はその約束がある場合においては)児童と性的行為に及んだからといって使用者以外については年齢の知情性の推定を及ぼすことが妥当でないとの価値判断が示されたともいえる。
・・・
対償の供与又はその約束がなかったとき(表の(D)の部分)には,児童買春等処罰法によって処罰されることはないが,都道府県条例によって処罰することは可能である。もっとも, この場合において,条例の政策判断を尊重し,条例の年齢についての知情性の推定規定を適用することが理論的には可能である左しても,条例違反として処罰するだけの価値には乏しい場合が多いものと考えられる(11)


(6) 対償の供与又はその約束が認められず1 かつ?買春行為者に被害児童の年齢についての認識も認められない場合(表の(D)の部分)については,児童買春等処罰法が対象とするものではないが, 同法第9条の知情性推定規定の趣旨を及ぼし,条例においても!知情性の推定を児童の使用者に限定するということも1 今後の条例のあり方としては考えられよう。
9) たとえば,労働基準法第56条は,使用者について?満15蔵に達した日以後の最初の3月31日が終了しない児童を使用してはならないとし1 同法第57条はl使用者についてj 満18歳に満たない者について1 その年齢を証明する戸籍証明書を事業場に備え付けなければならないとしている。
年齢の知情性の推定規定については,児童買春等処罰法のほかには,児童福祉法及び風俗営業の規制及び業務の適正化等に関する法律においても設けられている。児童福祉法については,年齢の知情性の推定につき, 「児童を使用"る者はj と主体を限定しており(第60条第3項),風俗営業の規制及び業務の適正化等に関する法律においては,年齢の知情性の推定が及ぶのは, 18歳未満の従業者について特定の業務に従事させることを禁止する規定の適用に限られている。したがヲて?法律レベルでは, 18歳未満の従業者を使用する者以外に年齢の知情性の推定は及ぼされていない、
(11) 児童買春等処罰法において児童買春罪につき年齢の知情性推定規定を設けていない趣旨を受けて,青少年保護育成条例の年齢の知情性推定規定を廃止するという判断もあり得ると思われる。

青森県青少年健全育成条例
( 淫行又はわいせつ行為の禁止)
第二十二条 
1何人も、青少年に対し、 淫行又はわいせつ行為をしてはならない。

第三十条 
1第二十二条第一項の規定に違反した者は、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
第三十一条 
前条第一項及び第二項に規定する者は、青少年の年齢を知らないことを理由として処罰を免れることができない。ただし、青少年の年齢を知らないことについて過失がないときは、この限りでない。
・・・
青森県青少年健全育成条例の解説 平成19年3月
6 第31条は、第22条(淫行又はわいせつ行為の禁止)、及び第23条(場所の提供又は周旋の禁止)の規定に違反した者は、青少年の年齢を知らなかったことを理由として処罰を免れ得ないこと及び年齢確認に関する無過失の挙証責任があることを明らかにしたものである。
「青少年の年齢を知らないことについて過失がない」とは、通常可能な調査が適切に尽くされているといえるか否かによって決せられることになるが、具体的には、相手方となる青少年に、年齢、生年月日、えと等を尋ね、又は身分証明書等の提出を求める等、客観的に妥当な確認措置をとったにもかかわらず、青少年自身が年齢を偽り、又は虚偽の証明書を提出する等、行為者の側に過失がないと認められる場合をいう。

https://www.daily-tohoku.news/archives/95236
中学生にみだらな行為「証拠不十分」 空自三沢の自衛官に無罪判決/地裁八戸
2022年2月2日 21:04
青森県内のホテルで女子中学生にみだらな行為をしたとして、県青少年健全育成条例違反の罪に問われた、三沢市三沢後久保、航空自衛隊三沢基地自衛官の男性被告(22)の判決公判が2日、青森地裁八戸支部であり、細包寛敏裁判官は証拠が不十分などとして、.....

デイリー東北 2022.2.3
初公判で同被告は「中学生が18歳未満とは知らなかった」と起訴内容を否認。
同被告が女子中学生の年齢をどう認識していたのかや年齢を確認する義務があったのかどうかが争点となった。
これまでの証人尋問で女子中学生は、2020年11月に飲み会に参加した際、出席者に自身が18歳未満であることを伝えたり、中学卒業後の進路について話をしたりし、同被告も聞いていたと証言していた。
判決理由について細包裁判官は、飲み会参加者と女子中学生の証言に食い違いがあることなどを挙げ、「参加者のほとんどと初対面で、記憶が間違っている可能性がある。本人の言葉以外に証言を裏付ける証拠がない」と指摘。
年齢確認義務については「検察側は、18歳未満とみだらな行為をすれば処罰されると被告が勤務先で教育を受けていたのだから、年齢を確認するのは当然と主張するが、注意義務があったとまでは言えない」とした。

三沢基地自衛官に無罪判決 青森、育成条例違反巡り
2022年02月03日
共同通信社
 中学の女子生徒にみだらな行為をしたとして青森県青少年健全育成条例違反の罪に問われた航空自衛隊三沢基地自衛官被告(22)に対し、青森地裁八戸支部は3日までに無罪(求刑罰金40万円)の判決を言い渡した。
 判決理由で細包寛敏(ほそかね・ひろとし)裁判官は「女子生徒が18歳未満であることを被告が認識していたと認めるに足りる証拠はない」と述べた。判決は2月2日。
 被告は2020年11月に青森県内のホテルでみだらな行為をしたとして起訴された。検察側は複数人が参加した飲み会での会話により、被告が年齢を認識したと主張。判決は「女子生徒の記憶違いや、会話の混同の可能性がある」と指摘した。
 青森地検の田原昭彦(たはら・あきひこ)次席検事は「判決内容を精査し、上級庁と協議の上、適切に対応したい」としている。

検察官控訴
www.daily-tohoku.news

監護者性交罪59件で懲役18年(求刑20年)は量刑相場より重いのか?

 こういう規定なので、数回の監護者性交罪の処断刑期の上限は30年になります。

刑法第一七九条(監護者性交等)
2十八歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした者は、第百七十七条の例による。
第一七七条(強制性交等)
 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛こう門性交又は口腔くう性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。
第一四条(有期の懲役及び禁錮の加減の限度)
1 死刑又は無期の懲役若しくは禁錮減軽して有期の懲役又は禁錮とする場合においては、その長期を三十年とする

 監護者性交2件でも上限は30年、100件でも上限は30年

 実際の科刑状況は件数が多くなると、重くなって、

判例
監護者性交等1 強姦2 強制わいせつ1 児童ポルノ製造5件 懲役13年
監護者性交4 監護者わいせつ1 児童ポルノ製造 懲役11年

というレベル。
 強姦罪(177条後段 暴行脅迫なし)46件で懲役30年の裁判例があるから

昔の最高裁web
事件名 強制わいせつ,強姦未遂,強姦,児童福祉法違反
裁判年月日 平成21年09月14日
裁判所名・部 広島地方裁判所刑事第2部小学校教師であった被告人が,約4年8か月の間に,その勤務先の女子児童であった計10名の13歳未満の少女に対し,多数回にわたりわいせつ行為等を行ったという,強姦46件,強姦未遂11件,強制わいせつ25件,児童福祉法違反(児童に淫行させる行為)13件からなる事案において,併合罪加重後の最高刑である懲役30年を言い渡した事例

 監護者性交罪59年で18年(求刑20年)というのは、そんなに重くない。

 新聞記事の「量刑相場」は、宣告刑のグラフだけを見ていて、件数を考慮していない点で、失当。5~6年の実刑事案は監護者性交罪既遂1件が多い。
 「日本初」「世論が影響した」とか言って耳目を集めたいところだが、判決にはそういう点は見受けられない。

https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_61ef6bc0e4b07c5f39bbc14e?d_id=3095832&fbclid=IwAR3hWOhxcRSaovZDkPuT4ZDW0ZtURL1x6mt10uZDGWFh1sxv6loyFwQsaMY
15歳の養子に性虐待、懲役20年を求刑。検察はフラワーデモに言及「刑事司法に厳しい目」
論告や起訴状によると、養父である被告は2020年12月〜21年5月の5カ月間、監護者としての影響力があることに乗じて、当時15歳だった養子と計59回にわたって性交または口腔性交をしたなどとしている。さらに、養子の姿態を動画で撮影して94点の児童ポルノを製造したとしている。
「懲役7年以下」が最多
加害者が親などの監護者の場合、被害者は精神的にも経済的にも監護者に依存しているため、性交を求められた場合に暴行や脅迫がなくても意思に反して応じざるを得なくなる。こうした監護者の影響力を踏まえ、2017年の刑法改正で「監護者性交等罪」が新設された。

「18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした者」は、強制性交等罪と同じく「5年以上20年以下の懲役に処する」と定められている。

現在の刑法では、被害者が13歳以上の場合に強制性交等罪が成立するには「暴行・脅迫」の要件を満たさなければいけない。一方、加害者が監護者の場合、暴行や脅迫の有無は問われない。

監護者による性暴力事件で、過去にはどのような量刑が宣告されてきたのか。

「性犯罪の量刑に関する資料」(法務省)によると、刑法改正後の2017年から2019年までで、全国の地裁において監護者性交等罪で91人に対し判決が言い渡された。このうち「懲役7年以下」が最も多く56人。次いで「5年以下」(23人)、「10年以下」(9人)の順で多かった

https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_61f22b77e4b02de5f5145c86
15歳に性虐待、養父に懲役18年。「際立った悪質性」津地裁で判決
検察側は「(犯行の)常習性が顕著」などとして、懲役20年を求刑していた。
量刑相場より重く
監護者性交等罪(5年以上20年以下の懲役)は2017年の刑法改正で新設された。現在の刑法では、被害者が13歳以上の場合に強制性交等罪が成立するには「暴行・脅迫」の要件を満たさなければならない。一方、加害者が親などの監護者の場合、暴行や脅迫の有無は問われない。被害者は精神的にも経済的にも監護者に依存しているため、性交を求められたときに暴行や脅迫がなくても意思に反して応じざるを得ないことが背景にある。

最高裁によると、刑法改正以降に全国の裁判所の判決において監護者性交等罪で処断された事案のうち、宣告された懲役刑で最も長いものは懲役18年(2021年11月末時点、速報値)。

刑法改正後の2017年から2019年までで、全国の地裁において監護者性交等罪で91人に対し判決が言い渡された。このうち「懲役7年以下」が最も多く56人。次いで「5年以下」(23人)、「10年以下」(9人)の順で多かった(法務省『性犯罪の量刑に関する資料』より)。

今回の事件で注目されていたのは、多数回に及ぶ性交や口腔性交、児童ポルノの製造といった犯行が起訴された点だ。

懲役18年を言い渡した津地裁の判決は、監護者性交等罪事件をめぐる従来の量刑の相場と比べても重く、他の罪との併合でも過去最長と並ぶものとなった。
「刑事司法に厳しい目」
性犯罪事件の刑事裁判をめぐっては、2019年3月に無罪判決が4件相次いだことをきっかけに、性暴力に抗議する「フラワーデモ」が全国に広がった。

検察側は論告で、性被害者や支援者らによるデモについて言及。「近時、性犯罪の被害に遭われた方や支援団体等が声を上げ、熱心に活動に取り組み、性犯罪・性暴力の根絶を求める社会的機運が高まってきている」「刑事司法に対し、一般社会から厳しい目が向けられていることを刑事司法に携わる法曹一人ひとりがしっかりと心にとどめなければならない」などと強調し、懲役20年を求刑していた。

津地方裁判所令和4年1月28日
監護者性交等,児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
       主   文
被告人を懲役18年に処する。
未決勾留日数中140日をその刑に算入する。
       理   由

(罪となるべき事実)
 被告人は,
第1 養女である別紙の2記載の被害者(当時15歳。以下,単に「被害者」という。)と同居してその寝食の世話をし,その指導・監督をするなどして,被害者を現に監護していた者であるが,被害者が18歳未満の者であることを知りながら,被害者と性交等をしようと考え,
1 別表1記載のとおり,令和2年12月29日から令和3年2月13日までの間,10回にわたり,別紙の3記載の被告人方において,被害者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて被害者と口腔性交をし(令和3年8月11日付け起訴状記載の公訴事実第1),
2 別表2記載のとおり,令和3年2月14日から同月28日までの間,10回にわたり,前記被告人方において,被害者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて被害者と口腔性交をし(令和3年8月25日付け起訴状記載の公訴事実第1),
3 別表3記載のとおり,令和3年3月3日から同月24日までの間,10回にわたり,前記被告人方において,被害者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて被害者と口腔性交をし(令和3年9月29日付け起訴状記載の公訴事実第1),
4 別表4記載のとおり,令和3年4月3日から同月13日までの間,10回にわたり,前記被告人方において,被害者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて被害者と口腔性交をし(令和3年10月15日付け起訴状記載の公訴事実第1),
5 別表5記載のとおり,令和3年4月14日から同年5月24日までの間,17回にわたり,前記被告人方において,被害者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて被害者と口腔性交若しくは性交又はその両方をし(令和3年10月29日付け起訴状記載の公訴事実第1),
6 令和3年5月9日,前記被告人方において,被害者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて被害者と口腔性交及び性交をし(令和3年7月8日付け起訴状記載の公訴事実),
7 令和3年5月26日,前記被告人方において,被害者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて被害者と口腔性交及び性交をし(令和3年6月28日付け起訴状記載の公訴事実),
第2 被害者が18歳に満たない者であることを知りながら,別表6~10各記載のとおり,令和2年12月29日から令和3年5月26日までの間,94回にわたり,前記被告人方において,被害者に,同各表「児童にとらせた姿態」欄記載の姿態をそれぞれとらせ,これらを被告人が使用する動画撮影機能付きタブレット又はスマートフォンで撮影し,その動画データ合計94点を同タブレット又は同スマートフォン内蔵の記録装置に記録させて保存し,もって児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態,他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造した(別表6につき令和3年8月11日付け起訴状記載の公訴事実第2,別表7につき同月25日付け起訴状記載の公訴事実第2,別表8につき同年9月29日付け起訴状記載の公訴事実第2,別表9につき同年10月15日付け起訴状記載の公訴事実第2,別表10につき同月29日付け起訴状記載の公訴事実第2)。
(証拠の標目)
(法令の適用)
罰条
判示第1の1~7の各行為 いずれも刑法179条2項,177条
(判示第1の1~5については各別表の番号ごとに)
判示第2の行為 包括して児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項(2条3項1号~3号),2項
刑種の選択 判示第2の罪につき懲役刑を選択
併合罪の処理 刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯情の最も重い判示第1の7の罪に法定の加重)
未決勾留日数の算入 刑法21条
訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
1 本件は,見るべき前科のない被告人が,養女であり当時15歳の被害者と59回にわたり性交や口腔性交をする(判示第1)とともに,その口腔性交などの場面を動画撮影して合計94点の児童ポルノを製造した(判示第2)という事案である。
2 まず,本件各犯行の犯罪行為そのものに関する事情(犯情)に着目して,前科のない被告人による監護者性交等の単独犯(性交等の点は既遂。処断罪名と異なる主要な罪はなし。)の事件類型(以下「本件類型」という。)の量刑傾向を踏まえて検討する。
(1)本件の最大の特徴は,令和2年12月から令和3年5月までのわずか5か月ほどの間に合計59件もの性交等を繰り返しており,同種事案の中で件数が比類ない程に多く,常習性が顕著であることである。
 〔1〕この種の家庭内の性的虐待事案の場合,被害者が家族を含む他者に被害を訴えることが困難で,被害が長期化し,エスカレートしがちであることを踏まえて,一定の常習性があることを織り込んで量刑判断がされることが多いこと(なお,本件の被告人も,被害者が小学5年生(平成28年)の頃から家族の目を盗んで被害者の胸を揉むようになり,遅くとも中学1年生(平成30年)の頃から口腔性交を繰り返すようになり,遅くとも高校1年生(令和3年春)の頃から膣性交を繰り返す中で,本件各犯行に及んだものと認められる。)や,〔2〕本件が複数の被害者がいる事案ではないことを考慮しても,本件については,本件類型の通常の量刑分布の枠に収まりきらない際立った悪質性があると指摘せざるを得ない。
(2)
(3)以上のとおり,本件は,本件類型の中で,その件数が比類ない程に多く,常習性が顕著である点において,通常の量刑分布の枠に収まりきらない際立った悪質性が認められるところ(上記(1)),被害者が複数いる事案ではないから監護者性交等罪の法定刑の上限(懲役20年)を超えるのは相当でないが,犯行態様において,被害者に殊更な精神的苦痛を与える手段を選択している点で若干の加重事由が存在することは否定できないから(上記(2)),上記法定刑の上限付近に位置付けられるべき極めて重い事案であるといわなければならない。ただし,暴力で被害者を支配していた事案に見られるような凶悪性はなく,妊娠・中絶という最悪の結果が生じた事案と同列に扱うわけにはいかないから,上記法定刑の上限で処断するべき最も重い事案とまではいえない。
3 以上を前提に,犯罪行為以外の事情(一般情状)を含めて更に検討すると,〔1〕被告人が罪を認め,反省の弁を述べていること,〔2〕被告人の妻が今後の監督を約束していること,〔3〕被告人と被害者との間で被告人が社会復帰後合計240万円を支払う内容の合意書が交わされていることなどが認められるが,これらは純粋な一般情状であり,具体的に刑を左右するほどの事情とは評価しなかった。
4 以上の次第で,当裁判所は,主文の刑が相当であると判断した。 
(求刑 懲役20年)
令和4年2月1日
津地方裁判所刑事部
裁判長裁判官 柴田誠 裁判官 檀上信介 裁判官 山本健太

別表1
番号 犯行年月日
1  令和2年12月29日
2  令和2年12月31日
3  令和3年1月3日
4  令和3年1月4日
5  令和3年1月15日
6  令和3年1月30日
7  令和3年2月1日
8  令和3年2月2日
9  令和3年2月3日
10 令和3年2月13日
別表2
番号 犯行年月日
1  令和3年2月14日
2  令和3年2月15日
3  令和3年2月16日
4  令和3年2月18日
5  令和3年2月19日
6  令和3年2月20日
7  令和3年2月21日
8  令和3年2月23日
9  令和3年2月25日
10 令和3年2月28日
別表3
番号 犯行年月日
1  令和3年3月3日
2  令和3年3月5日
3  令和3年3月8日
4  令和3年3月9日
5  令和3年3月10日
6  令和3年3月11日
7  令和3年3月18日
8  令和3年3月19日
9  令和3年3月22日
10 令和3年3月24日
別表4
番号 犯行年月日
1  令和3年4月3日
2  令和3年4月4日
3  令和3年4月5日
4  令和3年4月6日
5  令和3年4月8日
6  令和3年4月9日
7  令和3年4月10日
8  令和3年4月11日
9  令和3年4月12日
10 令和3年4月13日
別表5
番号 犯行年月日     口腔性交・性交の別
1  令和3年4月14日 口腔性交
2  令和3年4月18日 口腔性交
3  令和3年4月20日 口腔性交
4  令和3年4月21日 口腔性交
5  令和3年4月22日 口腔性交
6  令和3年4月25日 口腔性交
7  令和3年4月26日 口腔性交
8  令和3年4月28日 口腔性交
9  令和3年4月29日 口腔性交
10 令和3年4月30日 口腔性交
11 令和3年5月2日  口腔性交
12 令和3年5月13日 両方
13 令和3年5月19日 両方
14 令和3年5月20日 両方
15 令和3年5月21日 両方
16 令和3年5月22日 口腔性交
17 令和3年5月24日 性交
別表6
別表7
別表8
別表9
別表10

上告審未決算入はどれくらい付くか

上告審未決から4~5ヶ月引くとか法廷で言われたことがあります。

判例DBで「最高裁・未決」で絞り込めば出ますよね。


児童ポルノの上告事件で見てみます。
控訴審憲法違反等の重要な問題点を指摘すると、1年くらいかかるようです。

平成30年 1月30日 東京高裁
平成30年 9月10日 最高裁第二小法廷 本件上告を棄却する。当審における未決勾留日数中100日を本刑に算入する


h18.10.11 大阪高
H19.7.18 最高裁第三小法廷 本件上告を棄却する。当審における未決勾留日数中150日を本刑に算入する。


平成20年 8月13日 東京高裁
平成21年 7月 7日 最高裁第二小法廷 本件上告を棄却する。当審における未決勾留日数中210日を第1審判決の懲役刑に算入する。 


平成28年10月27日 大阪高
平成29年11月29日 最高裁大法廷 本件上告を棄却する。当審における未決勾留日数中280日を本刑に算入する。

 

判決日 上告未決(上告棄却日-原判決日) 算入 非算入 主文
H30.1.30       平成30年 1月30日 東京高裁 
H30.9.10 223 100 123 平成30年 9月10日 最高裁第二小法廷 本件上告を棄却する。当審における未決勾留日数中100日を本刑に算入する
         
         
H18.10.11       h18.10.11 大阪高
H19.7.18 280 150 130 H19.7.18 最高裁第3小法廷 本件上告を棄却する。当審における未決勾留日数中150日を本刑に算入する。
         
         
H20.8.13       平成20年 8月13日 東京高裁
H21.7.7 328 210 118 平成21年 7月 7日 最高裁第二小法廷 本件上告を棄却する。当審における未決勾留日数中210日を第1審判決の懲役刑に算入する。 
         
         
H28.10.27       平成28年10月27日 大阪高
H29.11.29 398 280 118 平成29年11月29日 最高裁大法廷 本件上告を棄却する。当審における未決勾留日数中280日を本刑に算入する。
         
H18.1.10       東京高裁 原判決破棄(法定通算)
H18.4.12 92 0   最高裁第三小法廷 本件上告を棄却する。
         
H23.9.15       札幌高裁
H24.1.23 130 0   最高裁第三小法廷 本件上告を棄却する。
         
H21.3.3       仙台高裁
H21.8.28 178 60 118 最高裁第二小法廷 本件上告を棄却する。当審における未決勾留日数中60日を本刑に算入する。
         
H23.12.13       高松高裁
H24.3.23 101 0   最高裁第二小法廷 本件上告を棄却する。
         
    平均 121.4  



児童ポルノ単純所持罪の罪となるべき事実における児童ポルノの特定方法(大阪高裁r040120)

児童ポルノ単純所持罪の罪となるべき事実における児童ポルノの特定方法(大阪高裁r040120)

「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,ことさらに児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノである画像データ1点」では、法文そのままですよね。法文がいくら明確化されても、それは一般的抽象的法規範なわけで、具体的事実ではない。
 この法文に該当するような、乳房露出とか陰部露出とかの具体的事実の記載が必要です。
 児童ポルノの特定については
  名古屋高裁 理由不備
  仙台高裁 理由不備
  高松高裁 量刑不当で破棄して訂正
  名古屋高裁金沢支部 理由不備
  大阪高裁 理由不備じゃない
という判例状況です。


児童ポルノ法2条
3この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀でん部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの

 (2) 所論は,原判決が罪となるべき事実第3として,概要,「被告人は,自己の性的好奇心を満たす目的で,令和年1月15日,市内の被告人方において,衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,ことさらに児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノである画像データ1点を記録した携帯電話機1台を所持した」と認定,説示したのに対し,
①所持の客体である児童ポルノについて,法文(児童ポルノ法2条3項3号)をそのまま引用しており,法文にいう「児童の姿態」に該当する具体的事実の記載がなく,同法2条3項3号の児童ポルノ(以下「3号ポルノ」という。
)の所持罪の構成要件に該当するか否かを判定することができないし,証拠により児童の氏名や年齢が分かるのに,その記載もないから,理由不備である,
と主張する。
 しかし,①については,児童ポルノ法の平成26年改正により,法文上,画像の客観的な内容から3号ポルノの該当性判断を行うとの趣旨がより明確化されていることも考慮すると,自己の性的好奇心を満たす目的で,児童ポルノ(本件では3号ポルノ)を所持した罪(同法7条1項前段。以下「単純所持罪」という。)の構成要件を満たす事実の記載として,原判決が認定,説示した程度であっても,同罪の構成要件に該当するものと判定することができるし,原判決全体を通じてみれば,原判示第3の「児童」が原判決別紙記載のBを指すことは明らかであって,実質的に児童に関する事実が記載されているといえるから,理由不備であるとの指摘は当たらない。
 原判決に理由不備ないし理由齟齬の違法はなく,論旨は理由がない。

神奈川県青少年保護育成条例の真剣交際

https://news.yahoo.co.jp/articles/04cfadacc7d6c15fa9ebdd92bb95dd472d2f164c
逮捕容疑は、昨年11月14日夜、横浜市港南区のホテルで、市内に住む高校1年の女子生徒(15)にみだらな行為をし、その様子を携帯電話のカメラで撮影した、としている。「(女子生徒とは)結婚を前提とした関係で、欲望を満たすためではない」と供述、容疑を否認しているという。
 署によると、2人は会員制交流サイト(SNS)を介して知り合った。2人は同12月に同区内の駅前で口論となり、署が事情を聞く中で今回の容疑が浮上した。

こういう被疑事実になるので、こういう弁解が出てきますが、

被疑事実・公訴事実の記載例
a(16歳)が、18歳に満たない青少年であることを知りながら結婚を前提とせず単に自己の欲情をみたす為にのみ同女と性交して、もって青少年に対してみだらな性行為をした

 神奈川県条例の「みだらな性行為」の解釈は、条例で「健全な常識を有する一般社会人からみて、結婚を前提としない単に欲望を満たすためにのみ行う性交」と定義しても、結局は

「淫行」とは、広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきでなく、
①青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、
②青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解するのが相当である。(最大判S60.10.23)

という判例の解釈によるので、交際の事実を示せば、「青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交」は外れやすいと思います。


神奈川県青少年保護育成条例
みだらな性行為、わいせつな行為の禁止)
第31条 何人も、青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない。
3 第1項に規定する「みだらな性行為」とは、健全な常識を有する一般社会人からみて、結婚を前提としない単に欲望を満たすためにのみ行う性交をいい、同項に規定する「わいせつな行為」とは、いたずらに性欲を刺激し、又は興奮させ、かつ、健全な常識を有する一般社会人に対し、性的しゆう恥けん悪の情をおこさせる行為をいう。

神奈川県青少年保護育成条例の解説 平成25年3月
(みだらな性行為、わいせつな行為の禁止)
第31条
1 何人も、青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない。
2 何人も、青少年に対し、前項の行為を教え、又は見せてはならない。
3 第1項に規定する「みだらな性行為」とは、健全な常識を有する一般社会人からみて、結婚を前提としない単に欲望を満たすためにのみ行う性交をいい、同項に規定する「わいせつな行為」とは、いたずらに性欲を刺激し、又は興奮させ、かつ、健全な上記を有する一般社会人に対し、性的しゅう恥けん悪の情をおこさせる行為をいう。
[趣旨〕
本条は、青少年に対してみだらな性行為又はわいせつな行為をすることを禁止したものである。また、ごれらの行為を教えたり、見せたりすることを禁止したものである。
※罰則
第1項違反2年以下の懲役又は100万円以下の罰金(第53条第1項)
第2項違反1年以下の懲役又は50万円以下の罰金(第53条第2項第2号)
[解説]
本条は、青少年を対象としだ性行為等のうち、健全な育成を阻害するおそれがあるものとして社会通念上非難を受けるべきものを対象としているが、その行為の認定にあたっては動機、手段及び態様のほか、当該行為が青少年に与えた影響等、諸般の事情を十分に考慮して、客観的、総合的に判断されるべきものである。
I 第1項関係
1 「みだらな性行為」の意義については、第3項で規定されている。その解釈は、象徴的には「人格的交流のない性交」を言うものであり、具体的には、次のものが例として挙げられる。
① 青少年を誘惑し、威迫し、欺岡し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行うもの
② 青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないようなもの
③ 行きずりの青少年を相手方とするもの、あるいは多数人を相手方とし、又はこれらを互いに相手方とするもの等
2 「わいせつな行為」についても第3項で規定されているが、その解釈は前記①、②、③と同様な態様による性交類似行為等であり、具体的には、いわゆる素股や尺八等はもちろん、陰部を手などで触れる(又は触れさせる)行為、また、単なる性欲の目的を達するためにのみ行う接吻、乳房を撫でること等が該当する。
なお、本条は青少年に対する行為そのものを禁止する規定であり、刑法第174条に規定する公然わいせつ罪とは異なり、行為の公然性は不要である。
3本項の例としては、成人が、結婚の意思もないのに、青少年を言葉巧みに誘って、単に自己の情欲を満たすために性交した場合や青少年の性器等を手でもてあそぶなどした場合などがこれに当たるが、結婚を前提とした真に双方の合意ある男女聞の性行為は、該当しないものである。

脅迫によるsextingは強制わいせつ罪(176条)で、児童ポルノ製造罪とは観念的競合(大阪高裁R04.01.20 確定)

 脅迫によるsextingは強制わいせつ罪(176条)で、児童ポルノ製造罪とは観念的競合(大阪高裁R04.01.20)
 わいせつ行為と評価されるのは、「撮影させ」まで。
 これまでは、強要罪だとか言って、製造とは併合罪としていましたよね。

東京高裁H28.2.9
 2 法令適用の誤りの主張について
 論旨は,原判決は,強要罪と3項製造罪を観念的競合であるとした上で,強要罪の犯情が重いとして同罪の刑で処断することとしたが,本件の脅迫は一時的で,害悪もすぐに止んでいるのに対し,3項製造罪は画像の流通の危険やそれに対する不安が長期に継続する悪質なもので,原判決の量刑理由でも,専ら児童ポルノ画像が重視されており,犯情は3項製造罪の方が重いから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
 しかしながら,本件の強要罪に係る脅迫行為の執拗性やその手口の卑劣性などを考慮すれば,3項製造罪に比して強要罪の犯情が重いとした原審の判断に誤りはない。
 法令適用の誤りをいう論旨は,理由がない。
 なお,原判決は,本件において,強要罪と3項製造罪を観念的競合であるとしたが,本件のように被害者を脅迫してその乳房,性器等を撮影させ,その画像データを送信させ,被告人使用の携帯電話機でこれを受信・記録して児童ポルノを製造した場合においては,強要罪に触れる行為と3項製造罪に触れる行為とは,一部重なる点はあるものの,両行為が通常伴う関係にあるとはいえず,両行為の性質等にも鑑みると,両行為は社会的見解上別個のものと評価すべきであるから,これらは併合罪の関係にあるというべきである。したがって,本件においては,3項製造罪につき懲役刑を選択し,強要罪と3項製造罪を刑法45条前段の併合罪として,同法47条本文,10条により犯情の重い強要罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で処断すべきであったところ,原判決には上記のとおり法令の適用に誤りがある

阪高裁R04.01.20
2理由不備ないし理由齟齬の論旨について
所論は,次のとおり,原判決には理由不備ないし理由齟齬がある,というものである。
(1)所論は,①上記「第2当裁判所の判断1弁護人の主張①について」で認定した訴因外の事実を含めて強制わいせつ罪となるのであるから,原判示第1の罪となるべき事実だけでは,強制わいせつ罪を充たさないことや,②原判示第1の罪となるべき事実だけでは,強要罪との区別がつかないことからすると,理由不備に当たると主張する。
しかし,①については、罪となるべき事実第1の記載自体で、被告人が被害者から受信していた同人の乳房等が露出するなどした静止画データを利用して、被害者に対し脅迫文言を伝え、強いてわいせつな行為をしたことが明らかであるし、所論が訴因外の事実であると指摘する本件の経緯は、上記1で説示した趣旨で認定されたものであって、上記静止画データを利用すること以上に、罪となるべき事実として事細かに記載すべき内容ではないから、理由不備には当たらない。
次いで、②についてみると、罪となるべき事実第1は,上記のとおり,被告人が性的な意図の下,被害者を脅迫して,その反抗を著しく困難にした上,被害者にその意思に反して、性的な意味合いの強い乳房等を露出した裸体になるという性的行為を強いて,被害者の身体を性的な対象として利用できる状態に置く行為であり,かつ,これを強いて撮影させて記録化することで,その内容や態様を被告人や第三者が知り得る状態に置き,性的侵害性を強める行為であるから,単なる強要罪に当たる行為にとどまらず,強制わいせつ罪を構成することが明らかである。
以上と異なる評価をいう所論は採用できない。
・・・
3法令適用の誤りの論旨について
所論は,次のとおり,原判示第1の強制わいせつ罪の成立を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というものである。
(1)所論は,本件は,被害者を利用した間接正犯になっていなければ、強制わいせつ罪の正犯となり得ないところ,被害者は道具化していないから,間接正犯は成立せず,強要罪か準強制わいせつ罪に当たると主張する。
しかし,刑法176条前段の強制わいせつ罪は,13歳以上の男女に対し,その反抗を著しく困難にする程度の暴行、脅迫を加えて、被害者に一定の行動や姿態をとることを強いて、被害者がその意思に反してそれらの行動や姿態をとらされ、その身体を性的な対象として利用できる状態に置かされた場合などにも成立するのであり,その際、それ以外の要件として被害者の道具性を検討する必要はない。
これと同旨の原判決は正当である。
原判決の説示が「わいせつな行為」について、意味不明で独自の定義を作出するものであり,理由不備があるとする主張も含めて、所論は独自の見解であって、採用できない。
関連して所論は、原判決は、画像要求行為と被害者自身の撮影行為の全体をわいせつな行為と解している点で誤っており,全国の都道府県で画像要求行為を独立に処罰化する動きがあることは、同行為をわいせつな行為と評価することが困難であることを示していると主張する。
しかし、原判決は、被害者をして乳房等を露出した姿態をとらせ、これを撮影させたことを含めて、わいせつな行為とみているのであり,画像要求行為そのものがわいせつな行為に当たると判断しているわけではないから、所論は前提を誤った主張であり,採用できない。
(2)所論は,原判示第1の強制わいせつ罪につき,刑法176条の「わいせつな行為」は明確な定義がないし,原判決もその定義を示せていないので)あって,漠然不明確であるから,同条項は罪刑法定主義に反して文面上無効であるのに,原判決は,同条項を適用して強制わいせつ罪の成立を認めたと主張する。
しかし,「わいせつな行為」という言葉は,一般的な社会通念に照らせば,ある程度のイメージを具体的に持つことができる言葉であるし,これまでの実務上,多くの事例判断が積み重ねられており,それらの集積からある程度の外延がうかがわれるものである。
そして、「わいせつな行為」を別の角言葉で分かりやすく表現することには困難を伴う上,定義付けた場合に、かえって誤解を生じさせるなどして解釈上の混乱を招きかねないおそれもある。
また,定義付けしても,いわゆる規範的構成要件である「わいせつな行為」に該当するのか否かを直ちに判断できるものでもない。
「わいせつな行為」該当性を安定的に解釈していくためには,どのような考慮要素をどのような判断基準で判断していくべきなのかという判断方法こそが重要であり、定義付けが必須とはいえない。
所論は,種々指摘して、刑法176条は罪刑法定主義に反しており無効であるというが,独自の見解であって採用できない。


(3)所論は,原判示第1の強制わいせつ罪につき,被害者に撮影させ,記録させ,送信させて,被告人が受信するまでしていれば、わいせつな行為と評価される余地はあるが,撮影させた行為だけではわいせつな行為に当たらないし,被告人の性的意図を考慮すると強制わいせつ未遂罪にとどまると主張する。
しかし,被告人が被害者を脅迫して、要求どおり裸の写真を撮影させた行為が強制わいせつの既遂に当たることは、上記のとおり明らかである。
被害者の意思に反して乳房等を露出する姿態をとらせ,これを撮影させるだけで十分な法益侵害性が認められるから,現実に画像データを送信させる行為は,強制わいせつ罪の成立を認める上で不可欠の要素とはいえない。
異なる評価Iをいう所論は採用できない。
(4)所論は,接触を伴う強制わいせつにおいては,犯人が被害者の面前にいることが前提とされていることから,非接触の強制わいせつにおいても,犯人が規範的にみて,被害者の目の前にいるといえなければ,わいせつな行為にあたらないと解されるところ、本件では、脅迫行為に遅れて撮影行為がされているから,規範的にみて被害者の目の前にいるといえず、わいせつな行為に当たらないと主張する。
しかし,有形力の行使を伴わない非接触型の強制わいせつの成否を、有形力を伴う接触型という類型を異にする強制わいせつの成否と同様に考える必然性はなく,所論は前提において失当である。
規範的にみて被害者の面前にいるとはいえなくても,本件のように,被害者を畏怖させて,強いてその身体を性的な対象として利用できる状況に置き,これを撮影させることで、接触を伴う強制わいせつと同程度の性的侵害をもたらし得ることは明らかである。
所論は採用できない。
(5)所論は,原判示第1の強制わいせつ罪と同第2の児童ポルノ製造罪は,それぞれに該当する行為が,自然的観察の下で社会的見解上1個のものとして評価できる場合であるから,両罪は観念的競合であるのに,原判決は併合罪として処理した違法があると主張する。
そこで検討するに,本件のように,被害者を脅迫して、被害者にその乳房等を露出する姿態をとらせて,これを撮影させ,その画像データを送信させ,被告人が使用する携帯電話機でこれを受信,記録して児童ポルノを製造した場合,姿態をとらせるための具体的な手段である脅迫が、児童ポルノ法7条4項の児童ポルノ製造罪において必須の行為ではないことを考慮しても、強制わいせつ罪に当たる行為は、上記児童ポルノ製造罪に当たる行為にほぼ包摂され、大幅に重なり合っているといえる。
そして、乳房等を露出する姿態をとらせて,これを撮影させること以外にわいせつな行為が存在せず、かつ、当初から被告人が撮影後、画像データを送信するよう要求していた事案であって、ほぼ同時に送信、受信、記録が行われたことを考慮すると、脅迫が必須の手段ではないという上記の点を踏まえても、両行為は通常伴うものということができる。
これらのことからすると、両行為は、自然的観察の下で社会的見解上1個のものとして評価できる場合であるから,本件において、両罪は観念的競合であるというべきであり,これを併合罪であると判断した原判決には,所論が指摘するとおり,法令適用の誤りがある。

判例番号】 L07120170
       強要,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
【事件番号】 東京高等裁判所判決/平成27年(う)第1766号
【判決日付】 平成28年2月19日
【判示事項】 強要罪と平成26年法律第79号による改正前の児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条3項の児童ポルノ製造罪とが併合罪の関係にあるとされた事例
【参照条文】 刑法45前段
       刑法54-1前段
       刑法223-1
       児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平26法79号改正前)7-3
【掲載誌】  東京高等裁判所判決時報刑事67巻1~12号1頁
       判例タイムズ1432号134頁
       LLI/DB 判例秘書登載

       主   文

 本件控訴を棄却する。

       理   由

 弁護人奥村徹の控訴趣意は,訴訟手続の法令違反,法令適用の誤りおよび量刑不当の主張であり,検察官の答弁は,控訴趣意にはいずれも理由がない,というものである。
 1 法令適用の誤りおよび訴訟手続の法令違反の主張について
 論旨は,要するに,原判決が強要罪に該当するとして認定した事実は,それだけでも強制わいせつ罪を構成するから,強要罪が成立することはないにもかかわらず,これを強要罪であるとして刑法223条を適用して有罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあり,また,原判決が平成26年法律第79号による改正前の児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰および児童の保護等に関する法律7条3項の罪(以下「3項製造罪」という。)に該当するとして認定した事実も,実質的には強制わいせつ罪に当たり,以上の実質的に強制わいせつ罪に該当する各事実について,告訴がないまま起訴することは,親告罪の趣旨を潜脱し,違法であるから,公訴棄却とすべきであるのに,実体判断を行った原審には,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある,というものであると解される。
 (1) 強要罪が成立しないとの主張について
 記録によれば,原判決は,公訴事実と同旨の事実を認定したが,その要旨は,被害者が18歳に満たない児童であることを知りながら,同女に対し,要求に応じなければその名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して,乳房,性器等を撮影してその画像データをインターネットアプリケーション「LINE」を使用して送信するよう要求し,畏怖した被害者にその撮影をさせた上,「LINE」を使用して画像データの送信をさせ,被告人使用の携帯電話機でこれを受信・記録し,もって被害者に義務のないことを行わせるとともに,児童ポルノを製造した,というものである。
 すなわち,原判決が認定した事実には,被害者に対し,その名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して同女を畏怖させ,同女をして,その乳房,性器等を撮影させるという,強制わいせつ罪の構成要件の一部となり得る事実を含むものの,その成立に必要な性的意図は含まれておらず,さらに,撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させるという,それ自体はわいせつな行為に当たらない行為までを含んだものとして構成されており,強要罪に該当する事実とみるほかないものである。
 弁護人は,①被害者(女子児童)の裸の写真を撮る場合,わいせつな意図で行われるのが通常であるから,格別に性的意図が記されていなくても,その要件に欠けるところはない,②原判決は,量刑の理由の部分で性的意図を認定している,③被害者をして撮影させた乳房,性器等の画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させる行為もわいせつな行為に当たる,などと主張する。
 しかしながら,①については,本件起訴状に記載された罪名および罰条の記載が強制わいせつ罪を示すものでないことに加え,公訴事実に性的意図を示す記載もないことからすれば,本件において,強制わいせつ罪に該当する事実が起訴されていないのは明らかであるところ,原審においても,その限りで事実を認定しているのであるから,その認定に係る事実は,性的意図を含むものとはいえない。
 また,②については,量刑の理由は,犯罪事実の認定ではなく,弁護人の主張は失当である。
 そして,③については,画像データを送信させる行為をもって,わいせつな行為とすることはできない。
 以上のとおり,原判決が認定した事実は,強制わいせつ罪の成立要件を欠くものである上,わいせつな行為に当たらず強要行為に該当するとみるほかない行為をも含む事実で構成されており,強制わいせつ罪に包摂されて別途強要罪が成立しないというような関係にはないから,法条競合により強要罪は成立しないとの弁護人の主張は失当である。
 (2) 公訴棄却にすべきとの主張について
 以上のとおり,本件は,強要罪に該当するとみるほかない事実につき公訴提起され,そのとおり認定されたもので,強制わいせつ罪に包摂される事実が強要罪として公訴提起され,認定されたものではない。
 また,原判決の認定に係る事実は,前記(1)のとおり,強制わいせつ罪の構成要件を充足しないものである上,被害者撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機で受信・記録するというわいせつな行為に当たらない行為を含んだものとして構成され,これにより3項製造罪の犯罪構成要件を充足しているもので,強制わいせつ罪に包摂されるとはいえないし,実質的に同罪に当たるともいえない。
 以上のとおり,本件は,強要罪および3項製造罪に該当し,親告罪たる強制わいせつ罪には形式的にも実質的にも該当しない事実が起訴され,起訴された事実と同旨の事実が認定されたものであるところ,このような事実の起訴,実体判断に当たって,告訴を必要とすべき理由はなく,本件につき,公訴棄却にすべきであるとの弁護人の主張は,理由がない。
 (3) 小括
 以上の次第で,法令適用の誤りおよび訴訟手続の法令違反をいう論旨には,理由がない。
 2 法令適用の誤りの主張について
 論旨は,原判決は,強要罪と3項製造罪を観念的競合であるとした上で,強要罪の犯情が重いとして同罪の刑で処断することとしたが,本件の脅迫は一時的で,害悪もすぐに止んでいるのに対し,3項製造罪は画像の流通の危険やそれに対する不安が長期に継続する悪質なもので,原判決の量刑理由でも,専ら児童ポルノ画像が重視されており,犯情は3項製造罪の方が重いから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
 しかしながら,本件の強要罪に係る脅迫行為の執拗性やその手口の卑劣性などを考慮すれば,3項製造罪に比して強要罪の犯情が重いとした原審の判断に誤りはない。
 法令適用の誤りをいう論旨は,理由がない。
 なお,原判決は,本件において,強要罪と3項製造罪を観念的競合であるとしたが,本件のように被害者を脅迫してその乳房,性器等を撮影させ,その画像データを送信させ,被告人使用の携帯電話機でこれを受信・記録して児童ポルノを製造した場合においては,強要罪に触れる行為と3項製造罪に触れる行為とは,一部重なる点はあるものの,両行為が通常伴う関係にあるとはいえず,両行為の性質等にも鑑みると,両行為は社会的見解上別個のものと評価すべきであるから,これらは併合罪の関係にあるというべきである。したがって,本件においては,3項製造罪につき懲役刑を選択し,強要罪と3項製造罪を刑法45条前段の併合罪として,同法47条本文,10条により犯情の重い強要罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で処断すべきであったところ,原判決には上記のとおり法令の適用に誤りがあるが,この誤りによる処断刑の相違の程度,原判決の量刑が懲役2年,執行猶予付きにとどまることを踏まえれば,上記誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえない。
 3 量刑不当の主張について
 論旨は,被告人を懲役2年,3年間執行猶予に処した原判決の量刑は,重すぎて不当であり,執行猶予を付した罰金刑か,より軽い懲役刑(執行猶予付き)とされるべきである,というのである。
 そこで検討すると,本件は,前示のとおりの強要罪,3項製造罪の事案であるが,原判決は,未成熟な被害者を利用した犯行動機に特段の酌量の余地がないこと,製造に係る児童ポルノ画像数が11点と多いこと,脅迫の手口が卑劣で悪質なことなどを指摘し,一方で,被告人に前科がなく,反省の弁を述べていることなどの有利な事情をも踏まえて,前示の刑を量定したものである。
 原判決の上記量刑判断は,当裁判所も相当として支持することができる。
 弁護人は,強烈な脅迫文言はないこと,被害者1名に対する1回の事案であること,被告人が原判決後に反省を深めたことなどを考慮すべきである旨主張するが,これらは原判決が前提としているか,原判決の量刑を左右しないものである。
 また,弁護人は,類似事例の量刑を指摘して原判決の量刑を論難するが,個別事情が様々な事案を指摘するもので本件に不適切である。
 量刑不当をいう論旨は,理由がない。
 4 結論
 よって,刑訴法396条により,主文のとおり判決する。
  平成28年2月19日
    東京高等裁判所第5刑事部
        裁判長裁判官  藤井敏明
           裁判官  福士利博
           裁判官  山田裕文


追記
控訴理由第7は研修876号の大竹検事の見解でしたが、「失当」とされました。大竹検事ごめんなさい。

阪高裁r040120
(4)所論は,接触を伴う強制わいせつにおいては,犯人が被害者の面前にいることが前提とされていることから,非接触の強制わいせつにおいても,犯人が規範的にみて,被害者の目の前にいるといえなければ,わいせつな行為にあたらないと解されるところ、本件では、脅迫行為に遅れて撮影行為がされているから,規範的にみて被害者の目の前にいるといえず、わいせつな行為に当たらないと主張する。
しかし,有形力の行使を伴わない非接触型の強制わいせつの成否を、有形力を伴う接触型という類型を異にする強制わいせつの成否と同様に考える必然性はなく,所論は前提において失当である。
規範的にみて被害者の面前にいるとはいえなくても,本件のように,被害者を畏怖させて,強いてその身体を性的な対象として利用できる状況に置き,これを撮影させることで、接触を伴う強制わいせつと同程度の性的侵害をもたらし得ることは明らかである。
所論は採用できない。

控訴理由第7 法令適用の誤り~研修876号の大竹検事の見解では「遠隔であってもオンラインで生中継させるなど脅迫行為と同時に撮影させる場合のみが強制わいせつ罪となる」とされているが、本件では、脅迫行為に遅れて撮影行為がされているから、わいせつ行為にはならない(判示第1)
1 研修876号の見解
 遠隔で撮影させる行為が「わいせつ行為」になるにしても、撮影だけなのか、送信させる行為も含むのかについては、いろいろな考え方があるところ、研修876号では、
生中継させた場合には、

「犯人が遠隔地にいるからといって,自己の裸を他人の目に直接さらすということに違いはなく,遠隔地でオンラインでつながっていることは,規範的に見て,目の前にいることと違いはないという結論に至りました。」

という強気な見解である一方、
撮影・送信させる場合には

「被害者に自分の裸を撮影させて,後でその動画を送らせる,すなわち,裸の動画を撮影している際には,犯人が被害者の面前にいるとは規範的にも言えない場合は,わいせつな行為に当たるかも検討しました。これについては,接触を伴う強制わいせつにおいては,犯人が被害者の面前にいることが前提にされていることから,非接触の強制わいせつにおいても,犯人が規範的に見て,被害者の目の前にいると言えなければ,わいせつな行為に当たらないという意見」
「遠隔地にいる被害者を脅迫して,被害者の裸の写真を送らせた行為について,強制わいせつ罪で逮捕状を請求したところ,これを却下された事例があるという報告もありましたが‘この裁判官も上述したのと同じ理由で。強制わいせつ罪に該当しないと判断したものと思われます

と弱気な見解となっている。

大竹依里子「オンラインで,児童を裸にさせ,動画撮影させた行為について,強制わいせつ罪で処理した事例」 研修876号
第2 本事例の概要及び原庁での処理内容等
本事例は,被告人が,当時10歳ないし11歳の児童4名(以下,「被害児童」という。)に対し,オンラインゲーム上で使用できるアイテム等を交付することの対価として,被害児童がその陰部等を露出したり,手で陰部を触るなどの姿態を撮影させ,撮影させた映像を,被害児童の携帯電話機のビデオ通話機能を使用して,被疑者の携帯電話機にライブ配信させた上,同映像を被疑者の携帯電話機本体に記録して保存した事案です。
原庁は,本件について,児童ポルノ製造罪だけでなく,強制わいせつ罪も成立するとして,両罪で公判請求し,一審の判決も公訴事実どおりの罪を認定しました。

 遠隔の医療行為に配慮したようだ。

しかし,陰部を直接撮影していたとしても,医師が治療行為の一環として,陰部にできた腫瘍を記録・保存する行為を想定したとすると,わいせつな行為だというのは,違和感を覚えます。

 そこで本件でも強制わいせつ罪の訴因は「撮影させ」に留まっている。

 大竹検事に問い合わせると、研修の事案は熊本地裁R3.1.13だという。刑事確定訴訟記録法で閲覧したところ、児童がLINEで裸体を生中継して、被告人が同時に視聴した事案を強制わいせつ罪(176条後段)にしたものである。(さらにこれを1号ポルノ(性交・性交類似行為)で起訴した模様である。)
 生中継だから、同時であって、面前のわいせつ行為と同評価できるというのである。
 この研修の見解に従えば、本件では、脅迫行為と、撮影行為とは少し時間がズレているので、強制わいせつ罪に該当しない。
 にもかかわらず強制わいせつ罪を認めた原判決には法令適用の誤りがあるから原判決は破棄を免れない。

追記
控訴理由第4は立石検事の見解ですが、「刑法176条前段の強制わいせつ罪は,13歳以上の男女に対し,その反抗を著しく困難にする程度の暴行、脅迫を加えて、被害者に一定の行動や姿態をとることを強いて、被害者がその意思に反してそれらの行動や姿態をとらされ、その身体を性的な対象として利用できる状態に置かされた場合などにも成立するのであり,その際、それ以外の要件として被害者の道具性を検討する必要はない。」とされました。立石検事ごめんなさい

控訴理由第4 法令適用の誤り~立石検事の主張によれば、本件は「被害者を利用した間接正犯」になっていなければ強制わいせつ罪の正犯とはなり得ないところ、被害者Aは道具化していないから、間接正犯になっていないから、強制わいせつ罪は成立せず、強要罪か準強制わいせつ罪であること
1 自ら,直接手を下さず,人を道具のように利用して犯罪を実行することを間接正犯という
 強制わいせつ罪は、「者にわいせつ行為をした者は」という法文であるから、犯人自らが、犯罪実現の現実的危険性を有する行為を自ら行うのが原則であって、他人を介する場合には、間接正犯を検討する必要がある。

 本件は、被告人は撮影せず、Aを介して裸体を撮影しているから、間接正犯にほかならない。
 
 原判決は「社会通念上わいせつ行為とされているものの中には,被害者を脅し,畏怖状態を利用してその着衣を自ら脱ぎ,卑猥な姿態を取るよう要求してこれを被害者に行わせる等,暴行・脅迫により反抗が著しく困難な状況を利用して性的な行為を要求し,被害者に応じさせるような態様のものも当然含まれる。したがって,刑法176条にいうわいせつ行為を「した」とは,被害者にわいせつ行為を要求し,これを被害者にさせた場合も当然含む」というのだが、このような学説・判例はなく、原審の独自の見解である。

原判決
(3) 弁護人の主張ⅱについて
 わいせつ行為についての理解は下記ⅲに述べるとおりであるが,社会通念上わいせつ行為とされているものの中には,被害者を脅し,畏怖状態を利用してその着衣を自ら脱ぎ,卑猥な姿態を取るよう要求してこれを被害者に行わせる等,暴行・脅迫により反抗が著しく困難な状況を利用して性的な行為を要求し,被害者に応じさせるような態様のものも当然含まれる。したがって,刑法176条にいうわいせつ行為を「した」とは,被害者にわいせつ行為を要求し,これを被害者にさせた場合も当然含むと解される。
 そして,本件も,被告人は,被害者を上記のとおり脅迫して畏怖させた上で,自己の裸体の写真を撮影することを要求してこれに応じさせているのであって,これがわいせつ行為を「した」に該当することは明らかである。
 弁護人及び被告人は,被害者にわいせつ行為をさせた場合は間接正犯であると主張し,それを前提に,被害者の行為に道具性がない,行為支配がないと主張するが,そもそも構成要件により被害者の行為が予定されている場合(強要罪等)は,これを間接正犯とはいわない。脅迫により畏怖し,要求に応じたのであれば,それ以外の要素として道具性や行為支配を検討する必要はないのであって,弁護人の主張は採用できない。

 原判決が言及する強要罪は、もともと「人に義務のないことを行わせ」という法文であって、犯人が脅迫して被害者をして行為させるという構成要件になっているので、間接正犯性は問題にならないのは当然であり、強要罪で間接正犯性を問題にしないから、(法文上他人を介することが予定されてない)強制わいせつ罪でも間接正犯性が問題にならないというのは失当である。理由になってない。

2 強制わいせつ罪の公訴事実は被害者を利用した間接正犯のような記載であること
 Aをして「姿態をとらせた上、これを同人に撮影機能付き携帯電話機で撮影させ、」という記載だから、「自ら,直接手を下さず,人を道具のように利用して犯罪を実行すること」であって間接正犯構成である。

3 被害者を利用した間接正犯だとして、脅迫によって道具と化していないこと
 脅迫と言っても、会ったこともなSNSの先の人物からであるし、「殺すぞ」という強度なものではなく、「画像を流布するかもしれない」という程度である。これでは間接正犯理論の道具と化していない。「その反抗を著しく困難にした上」では、道具となっている主張とは読めない。
 被害者を利用した間接正犯の事例では、継続的な脅迫等により支配していたような関係が要件となっているようである。会ったことも無くLINEのやりとりをしていただけの関係では、正犯と同視できない。


 これでは被害者を利用した間接正犯における道具化しているとは言えない

4 暴行脅迫により被害者自らに恥ずかしい姿態を「撮影させた」から強制わいせつ罪になるわけではない。という立石検事の答弁書は正解である。
 裸体行為を撮影送信させた行為を強要罪であって強制わいせつ罪ではないという高裁判例は幾つかあるが、強要被告事件の控訴事件では検察官は、撮影する行為と撮影させる行為は違い、撮影させる行為はわいせつ行為にはならないと繰り返し主張していた。
名古屋高裁金沢支部H27.7.23(富山地裁高岡支部h27.3.3)(裁判例24)

名古屋高裁金沢支部H27.7.23(福井地裁h27.1.8)(裁判例22)

 検察官答弁書控訴審判決に引用されて判決の一部を構成しているので紹介しておく。
名古屋地裁金沢支部の検察官答弁書h27.7.23(裁判例22)
名古屋地裁金沢支部の検察官答弁書h27.7.23(裁判例24)

 コピペの答弁書なので、該当部分を引用しておく

名古屋地裁金沢支部の検察官答弁書h27.7.23
 被告人自らが撮影する場合と,被害者に撮影させる場合とでは,被害者にとってみれば,他人に自らの恥ずかしい姿態を撮影されることと,自らがそれと知りつつ撮影することの違いが生じているのであって,その性的差恥心の程度には格段の差があり,必然的に強制わいせつ罪の保護法益である「性的自由」の侵害の程度も両態様を比較すれば大きく異なる。
 かかる差は強制わいせつ罪における「わいせつ行為」か否かの判断においては重要な要素を占めているものと思われるのであり,被害者の恥ずかしい姿態を被告人自ら撮影する行為がわいせつ行為であると認定されたとしても,被害者に恥ずかしい姿態を撮影させる行為をもって,直ちに強制わいせつ行為であると認定するには躊躇せざるを得ない。弁護人が縷々掲げる判例,裁判例が存在するにもかかわらず,これまで,本件のみならず,暴行脅迫により被害者自らに恥ずかしい姿態を「撮影させた」事案は多数件にわたり発生しているものと思われるところ,かかる事案を強制わいせつ罪として積極的に処断した事例はほとんどないものと思われるが,それはかかる理由によるものであろう。
ウ この点,弁護人は,「被害者を強要して撮影させる行為も間接正犯と構成するまでもなく,性的意図を満たす行為であれば,わいせつ行為である」とのみ記載する。弁護人が「間接正犯と構成するまでもなく」との文言の意味は定かではないが,間接正犯として構成できるかどうかは,実際に撮影した者が被害者自身であっても,行為者自らが「撮影する行為」として認定できるかどうかの分水嶺であるほど重要な争点であって,およそ「間接正犯と構成するまでもなく」の一言で片付けられる事情ではない。また,強制わいせつの間接正犯が成立するような場合は,むしろ準強制わいせつ罪の対象になるものと思われる。しかしながら,本件の事実関係を前提にするならば,およそ準強制わいせつ罪の成否が問題となる事案ではなく,また,間接正犯の成立が考えられる事案でもないことは明らかである。この点につき,弁護人何ら理由が示されていない。加えて,「性的意図を満たす行為」であればわいせつ行為である旨の論旨はおよそ理由がない。

 立石検事の答弁は、撮影させる行為は、強制わいせつ罪の間接正犯の問題(被害者を利用する間接正犯)になって、LINEでちょっと怖いこと言ったぐらいでは道具になっていないので、強制わいせつ罪の間接正犯にはならない(強要罪が正解)という点では、弁護人の主張と同じである。

阪高裁r040120
3法令適用の誤りの論旨について
所論は,次のとおり,原判示第1の強制わいせつ罪の成立を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というものである。
(1)所論は,本件は,被害者を利用した間接正犯になっていなければ、強制わいせつ罪の正犯となり得ないところ,被害者は道具化していないから,間接正犯は成立せず,強要罪か準強制わいせつ罪に当たると主張する。
しかし,刑法176条前段の強制わいせつ罪は,13歳以上の男女に対し,その反抗を著しく困難にする程度の暴行、脅迫を加えて、被害者に一定の行動や姿態をとることを強いて、被害者がその意思に反してそれらの行動や姿態をとらされ、その身体を性的な対象として利用できる状態に置かされた場合などにも成立するのであり,その際、それ以外の要件として被害者の道具性を検討する必要はない。
これと同旨の原判決は正当である。
原判決の説示が「わいせつな行為」について、意味不明で独自の定義を作出するものであり,理由不備があるとする主張も含めて、所論は独自の見解であって、採用できない。
関連して所論は、原判決は、画像要求行為と被害者自身の撮影行為の全体をわいせつな行為と解している点で誤っており,全国の都道府県で画像要求行為を独立に処罰化する動きがあることは、同行為をわいせつな行為と評価Iすることが困難であることを示していると主張する。
しかし、原判決は、被害者をして乳房等を露出した姿態をとらせ、これを撮影させたことを含めて、わいせつな行為とみているのであり,画像要求行為そのものがわいせつな行為に当たると判断しているわけではないから、所論は前提を誤った主張であり,採用できない。

児童が口淫しているのを、「口腔性交する」(刑法177条)と評価される場合と、性交類似行為(児童福祉法違反)と評価される場合

 こういう法文です。
 作為犯になっています。

刑法第一七七条(強制性交等)
 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛こう門性交又は口腔くう性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

 一見して、被害者が口淫しているように見えても、暴行脅迫があれば、主体は男性と評価されて、強制口腔性交罪になります。

阪高裁R02
法令適用の誤りの控訴趣意について
弁護人は,被告人は被害者の口腔内に陰茎を無理矢理挿入したのではなく,被告人が求めて,被害者がそれに応じて口淫しており, 口が陰茎に近づいたのであるから, 口腔性交は未遂である旨主張する。
しかし,関係証拠によれば,被告人は,Aと面識がないのに,暴行脅迫を加え, Aを抵抗できない状態にした上, Aに口淫することを求めながら, Aの口元に自己の陰茎を押し当て, Aは, ~被告人の言うことを聞くしかないと考えて,被告人の陰茎を口の中に入れたことが認められる。
そうすると,被告人は, Aに対して,暴行脅迫を用いて口腔性交をしたと認められ, 口腔性交は未遂である旨の弁護人の主張は採用できない。

 問題は13歳未満が口淫している場面です。
https://okumuraosaka.hatenadiary.jp/entry/2017/08/28/000000
で検討しているように、主体がどっちかで判断されます。

今井將人「刑法の一部を改正する法律」の概要(上) 警察公論2017年10月号
編集
イ要件
「性交」とは。改正前の刑法177条の「姦淫」と同義であり,膣内に陰茎を入れる行為をいう。
「肛門性交」とは肛門内に陰茎を入れる行為をいい, 「口腔性交」とは口腔内に陰茎を入れる行為をいう*7。
「性交」。「肛門性交」及び「口腔性交」を合わせて「性交等」ということとされており, これらの行為には. 自己又は第三者の陰茎を被害音の膣内等に入れる行為だけでなく、自己又は第三者の膣内等に被害音の陰茎を入れる行為(いわば、入れさせる行為)を含む。具体的には,女性が行為主体となって,男性の陰茎を自己の膣内,肛門内又は口腔内に入れさせる行為や,男性が別の男性の陰茎を自己の肛門内又は口腔内に入れさせる行為も、本罪による処罰対象となる。
*7 例えば、陰茎を膣内に全く入れずに単に舌先でなめる行為や、女性の外陰部をなめる行為などは「口腔性交」には当たらない。

 児童淫行罪の場合だと、影響関係があればいいから、性交類似行為させたと評価できます。
 強制口腔性交罪において、児童が口淫しているのを「口腔性交した」と評価できるかですが、被害者の行為を利用した間接正犯を検討する必要があると思います。
 そこでこういう主張を用意しました。

 自ら,直接手を下さず,人を道具のように利用して犯罪を実行することを間接正犯という
 口腔性交罪は、「者に口腔性交した者は」という法文であるから、犯人自らが、犯罪実現の現実的危険性を有する行為を自ら行うのが原則であって、他人を介する場合には、間接正犯を検討する必要がある。

間接正犯
1 意義 自ら,直接手を下さず,人を道具のように利用して犯罪を実行することをいう。例えば,医師が事情を全く知らない看護師を利用して患者に毒物を飲ませるとか,情を知らない郵送機関を利用して,毒殺のための毒物を郵送する(大判大正7・11・16刑録24・1352)など,構成要件要素としての故意がない者を利用する間接正犯の例は多い。行使の目的のない他人を利用して通貨を偽造させたり(目的なき故意ある道具),公務員が非公務員を利用して虚偽文書を作成させるような場合(身分なき故意ある道具)も間接正犯とされる。被利用者の適法行為を利用する間接正犯(大判大正10・5・7刑録27・257),被害者の行為を利用する間接正犯(最決平成16・1・20刑集58・1・1)も認められる。いわゆる「故意ある幇助的道具」(故意はあるが正犯者の意思を欠き,もっぱら利用者を幇助する意思で行おうとする者)を利用する行為も間接正犯である(最判昭和25・7・6刑集4・7・1178)。
[株式会社有斐閣 法律学小辞典第4版補訂版]

 本件は、被告人は陰茎を挿入してないから。間接正犯の問題にほかならない。
被害者を利用した間接正犯の事例*1では、継続的な脅迫等により支配していたような関係が要件となっているようである。

裁判年月日 平成27年11月13日 裁判所名 神戸地裁 裁判区分 判決
事件番号 平24(わ)887号 ・ 平24(わ)986号 ・ 平25(わ)120号 ・ 平25(わ)211号 ・ 平25(わ)439号 ・ 平25(わ)573号 ・ 平25(わ)827号
事件名 死体遺棄、逮捕監禁、殺人、監禁、詐欺、生命身体加害略取、傷害致死被告事件
裁判結果 有罪(無期懲役(求刑 無期懲役)) 上訴等 控訴<控訴棄却> 文献番号 2015WLJPCA11139002(4) 殺人罪の成否等の検討
 このように,弁護人が指摘するとおり,V1はAから何度も死ぬよう命じられるたびに了承し,拒否・反論の態度を一切明確にしていない。また,被告人だけでなく,証人として出廷したFもBも,口をそろえて,V1は死ぬことを覚悟しているように見えたと述べている。


 この判決の論理に従うなら、被害者を利用した間接正犯として議論される「自殺強要」はすべて殺人罪の単独正犯として処理されることになる。

SNSで9歳児童に裸体を撮影させた行為を強制わいせつ罪(176条後段)とした事案。児童ポルノ製造罪とは観念的競合(大阪高裁R3.7.14 判決速報令和3年17号)

SNSで9歳児童に裸体を撮影させた行為を強制わいせつ罪(176条後段)とした事案。児童ポルノ製造罪とは観念的競合(大阪高裁R3.7.14 判決速報令和3年17号)
 奥村説ですけどね。
 裸画像を撮影させるというのは、医療行為としてもありうるというので、「行為そのものから直ちに「わいせつな行為」とまで評価できない」とされます。
 「撮影させ」まででわいせつ行為になるので、犯人が見ていなくても、強制わいせつ罪(176条後段)になります。

判決速報令和3年17号
強制わいせつ,児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
令和3年7月14日
阪高裁第6刑事部判決 控訴棄却
(被告人)
(第 一 審) 京都地方裁判所
判示事項
被告人が,アプリケーションソフトのダイレクトメッセージ機能を使用して,遠隔地にいた被害者(当時9歳)に対し,その裸体をいわゆる自撮りした画像を被告人に送信するよう要求し、被害者に、その陰部及び乳房を露出した姿態をとらせ、自撮りさせた行為(以下,「本件行為」という。)の「わいせつな行為」(刑法176条)該当性が争われた事案について(なお,被害者は自撮り後,引き続き,被告人に画像を送信し被告人に閲覧させているが,送信・閲覧行為は強制わいせつ罪として起訴されていない。),平成29年11月29日最高裁大法廷判決の判断基準を適用し,本件は行為そのものから直ちに「わいせつな行為」とまで評価できないものの,一定の性的性質を備えていて、「わいせつな行為」に当たり得るほどの強い性的意味合いを有し得るものであることに加え,本件行為の行われた際の具体的状況等をも考慮すると,性的な意味合いが相当強いものといえるから、「わいせつな行為」に当たるとして、強制わいせつ罪の成立を認めた事案

1 罪となるべき事実(要旨)
被告人は,被害者が13歳未満であることを知りながら,
①遠隔地にいた同人に対し、ダイレクトメッセージ機能を使用して,その陰部,乳房等を露出した姿態をとって撮影して被告人のスマートフォンに送信するよう要求し,その頃,被害者にそのような姿態をとらせていわゆる自撮りをさせた上,
②その画像データをダイレクトメッセージ機能を使用して被告人のスマートフォンに送信させて,アプリケーションソフト運営法人が管理するサーバコンピュータ内に記憶・蔵置させた。
2 訴訟経過
検察官は、①行為(本件行為)を強制わいせつ罪,①及び②行為を児童ポルノ製造罪として,別個の訴因で(併合罪として)起訴した。
弁護人は,本件行為につき、被害者に裸体を自撮りさせただけでは,遠隔地にいる被告人が見ることはできず,性的侵襲は弱いので,「わいせつな行為」に該当しないか,該当するとしても強制わいせつ未遂罪が成立するにとどまる旨主張したが,原判決は,本件行為につき強制わいせつ罪の成立を認め,罪数につき、児童ポルノ製造罪と観念的競合の関係にあると判断した
これに対し,被告人が控訴し,原審同様強制わいせつ罪の成立を争ったが,控訴審判決はこれを排斥し,控訴を棄却した。
第2控訴審判示
参考事項
1 前記最高裁判決で示された判断基準を,本件のような非接触型・非対面型わいせつ事案に当てはめて強制わいせつ罪の成立を認めた高裁判決はまれであり、その詳細な理由付けを含め,先例としての価値は大きい。
2 前記最高裁判決が「行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分踏まえる」としたことの趣旨につき,同判例解説 (214 頁)では,次のような判断の順序を示したものと説明されている。すなわち,
(a) 行為そのものに、性的性質が有り,かつ,その性的性質の程度が強いために,直ちに「わいせつな行為」に該当すると判断できる行為か
(b) 行為そのものに備わる性的性質が無いか,あっても極めて希薄であるために,およそ刑法176条による非難に値する程度に達しえないものとして、直ちに「わいせつな行為」に該当しないと判断できる行為かをまず判断し,次に,
(C) 行為そのものが持つ性的性質が不明確であるために、行為の外形だけでは「わいせつな行為」該当性の判断がつかない類型においては、行為そのものが持つ性的性質の程度を踏まえた上で,当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮する
というものである。
また,前記最高裁判決のいう「当該行為が行われた際の具体的状況等」として考慮すべき判断要素として,前記判例解説 (218 頁以下)では,以下の事情が挙げられている。
(a) 行為者と被害者の関係性
(b) 行為者及び被害者の各属性等(それぞれの性別・年齢・性的指向・文化的背景〔コミュニケーション手段に関する習慣等〕・宗教的背景等)
(c) 行為に及ぶまでの経緯,行為者及び被害者の各言動,行為が行われた時間,場所,周囲の状況等
(d) 行為に及んだ目的を含む行為者の主観的事情(外部的徴表として現れているもの)
控訴審判決は,同判例解説と同様の視点で当てはめがなされている。
訴因には「わいせつな行為」の概略しか記載しないが、行為の行われた具体的状況等をも加味して「わいせつな行為」該当性を評価すべき事案においては、「わいせつな行為」であることを基礎づける具体的事実を冒頭陳述で指摘する必要があるとともに,論告で,その具体的事実の評価について丁寧に論じる必要がある(前記判例解説 226頁参照)。


4 非接触型のわいせつ行為(例えば,脅迫により畏怖した被害者に自慰行為をさせて自撮りさせ,その画像を遠隔地にいる被告人に送信させる事案)を強要罪で起訴する例が見られることについて,(被告人に画像を送信しなくても)強制わいせつ罪が成立するのではないかとの指摘がなされていた(橋爪隆「非接触型のわいせつ行為について」研修 860 号)が,本件はこれを肯定した高裁判決として参考になる。
○ 参照条文
刑法176条

追記
 警察から問い合わせの電話があるが、記録は京都地検にあるので詳細はそちらに問い合わせて下さい。
 事件の特定は「検察庁の判決速報令和3年17号。被告人氏名も書いてある」って言えばいいでしょう。

追記
 メールで脅して撮影させた行為についても、強制わいせつ罪と製造罪を観念的競合にした判決(大阪高裁令和4年1月20日)も出ました。