岸田劉生だから、結論において「児童ポルノではない」ことになるはずなので、合法的な児童の半裸像として、児童ポルノ該当性の判断の流れを示してみよう。
京都国立近代美術館のコレクションでたどる 岸田劉生のあゆみ (とんぼの本) 梶岡 秀一 https://www.amazon.co.jp/dp/4106023008/ref=cm_sw_r_tw_dp_AKZDXT73PBKV843BFFEV @amazonJPより
※現在市販されているものは乳首が強調されないように工夫されているようだ。
2 3号ポルノの定義
児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(H26改正後)
第2条
3この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀でん部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの
性器等の定義は2条2項
2児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)
3 各要件
(1)児童性・実在性
wiki
岸田 麗子(きしだ れいこ、1914年4月10日 - 1962年7月26日)は、日本の画家。洋画家岸田劉生の娘で、劉生の連作集「麗子像」のモデル。
製造年
「麗子裸像」(1920年)=京都国立近代美術館
(2)衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、
上半身裸。
(3)児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀でん部又は胸部をいう。)が露出され
「性器等」・・・ 両乳首が露出されて描写されている。
(4) 殊更に
「殊更」・・・「裸像」というタイトルからは、「わざわざ・わざと」と描写されているものだが、著名画家であれば当該画像の内容が一般人の性欲の興奮又は刺激に向けられているものではないから「殊更に」が希釈される可能性がある。
警察庁少年課課長補佐友永光則「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部改正」
ア「殊更に」の意義
「殊更に」とは, 一般的には,「合理的理由なく」「わざわざ・わざと」の意味と解されているが,これは,当該画像の内容が性欲の興奮又は刺激に向けられていると評価されるものか否かを判断するために加えられたものである。
その判断は,性的な部位が描写されているか,児童の性的な部位の描写が画像全体に占める割合(時間や枚数)等の客観的要素に基づいてなされるものと考えられる。
これにより,例えば,水浴びをしている裸の幼児の自然な姿を親が成長記録のため撮影したようなケースは,その画像の客観的な状況から,内容が性欲の興奮又は刺激に向けられていると評価されるものでない限り,「殊更に…・・露出され,又は強調されているもの」とは言えず,処罰対象外となる。
坪井麻友美検事「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」(法曹時報66巻11号29頁)
「殊更に」
「殊更に」とは,「意図的に」「確定的認識を持って」などという(注10)意味に使われるのが通常であるが,本号の「殊更に」の文言は,被写体の児童や撮影者の主観的意図に係る要件として規定されたものではなく, 問題となる写真や映像等(以下「写真等」という。)の内容が性欲の興奮又は刺激に向けられていると評価されるものであることを要求する趣旨の文言である。
例えば, 自宅の庭で水浴びをしている裸の幼児のごく自然な姿が撮影された写真等であって,その画像の客観的状況から,内容が性欲の興奮又は刺激に向けられていると評価されるものではない場合にはこれまでは「性欲を興奮させ又は刺激させるもの」という要件の該当性判断において基本的に3号ポルノに該当しないとされてきたと考えられるが,今後は, この「殊更に」以下の要件によっても,基本的には3号ポルノに該当しないこととなるものと考えられる。
「『殊更に』性的な部位が露出され又は強調されているもの」に該当するかどうかは, 当該写真等に描写された内容, より具体的には,児童の性的な部位の露出の有無及び着衣の状況,当該部位の描写が当該写真等全体に占める割合,描写されている児童のポーズ等を総合的に考慮して判断されることになると考えられる。
(注10) 「殊更に」の他の用例としては,危険運転致死傷罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第2条第5号)の「赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し,」があり,これについては,未必的な認識による場合を排除し, およそ赤色信号に従う意思のない者に処罰範囲を限定するために,「殊更に」無視するとい主観的要件が付加されたものとされているが,本法における「殊更に」は「児童の性的な部位が露出され又は強調され」とし、う受動態に係っており上記危険運転致死傷罪の場合のような行為者の主観的要件とは解されない。描写された児童の心身への有害な影響の防止や児童を性欲の対象としてとらえる風潮の助長防止とし、う本法の趣旨からしても,撮影者の主観的意図により児童ポルノ該当性が左右されるのは不相当であるといえよう。
・・・
(イ)③「性欲を興奮させ又は刺激するもの」との関係
③の「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に該当するかどうかは,従来から,性器等が描写されているか否か,児童の裸体等の描写が当該写真等全体に占める割合,児童の裸体等の描写方法等の諸般の事情を総合的に考慮して,(注11)一般人を基準として判断すベきものとされてきた。
つまり,改正により追加された②の「殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているもの」かどうかという点は,従来から③の「性欲を興奮させ又は刺激するもの」としいう要件の該当性判断の中で重要な要素として考慮されてきたものである。
本改正で②の要件が独立した要件として3号ポルノの定義に明記されたことにより,②と③の関係(③の判断要素から②の判断要素が除かれるのか)が問題となり得るが,②の要件の該当性は,③の「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に当たるかどうかの判断において重要かつ密接不可分な要素であり,国会審議においてもそれを前提として議論がなされていること),今後も,③の要件の該当性判断においては,②の「殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているもの」であることが考慮され, そのその意味において,②の要件の該当性と③の要件の該当性の判断は相当程度重なり合うものと考えられる。
(5)「性欲を興奮させ又は刺激するもの」
京都地裁h12.7.17の判示が、別件の大阪高裁h14.9.12で追認されている。
「芸術性が児童ポルノ該当性に与える影響については,本件各写真集をそれぞれ全体的に見て検討すべきである上,」「全裸あるいは半裸姿の児童が乳房,陰部等を露出している写真が相当部分を占めており」の点については、1枚ものの半裸の絵画であれば、逃げ道がなさそうだ。絵画はいろいろなところで展示されるので、児童ポルノ性判断に、美術館の他の展示作品を考慮できないだろう。
描写目的は公然陳列目的。それも考慮されうる(仙台高裁H21.3.3)
大阪高判H14.9.12
lex/db 25451740
第5控訴趣意中,事実誤認の主張について
論旨は,~~
(2)本件各写真集はいずれも芸術作品であり,児童ポルノに当たらない,(3)本件各譲渡は,いずれも児童ポルノ愛好家という特定の者に対するもので,その数も4名と少ないから,本罪の「販売」には当たらないとした上で,それにもかかわらず,被告人を有罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,というのである。
そこで,記録を調査して検討するに,~~(2)の点についても,所論は,芸術性が児童ポルノ該当性に与える影響について,個々の写真ごとに検討すべきであるとの前提に立った上,本件各写真集は,いずれも,①表現方法に性器等を強調する僚向がない,②性欲を興奮又は刺激する内容がない,③児童のポーズに扇情的な要素がない,④児童の純真さを表現するという撮影者の意図が明らかである,⑤装丁も芸術作品に相応しいものであるから,児童ポルノに当たらないと主張する。
しかしながら,芸術性が児童ポルノ該当性に与える影響については,本件各写真集をそれぞれ全体的に見て検討すべきである上,本件各写真集は,いずれも,全裸あるいは半裸姿の児童が乳房,陰部等を露出している写真が相当部分を占めており,上記①②及び④は妥当しないし,また,そのため,仮に,上記③及び⑤が妥当するとしても,本件各写真集が児童ポルノに当たらないとはいえない。したがって,所論は採用できない。さらに,(3)の点については,販売とは不特定又は多数人に対する有償の譲渡行為をいうのであって,本件各譲渡がこれに当たることは明らかである。この論旨も理由がない。
※ 参考判例
高松高判H22.9.7
LEX/DB 25464058
論旨は,〔1〕原判決は,原判示第2の事実において,「同女の頭部等に射精した上,これを同カメラで撮影し,その電磁的記録を同携帯電話機に内蔵する記録媒体に記録して,もって(中略),衣服の一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造した」と認定し,児童ポルノ等処罰法7条3項,2条3項3号に該当するとしているが,同画像は,判文によっても,実際の画像をみても,児童ポルノを定義した同法2条3項3号に該当しないから,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあり,理由不備,事実誤認もある,・・・というのである。
しかし,〔1〕の被害者の頭部等に射精した画像が児童ポルノに該当しないとの点は,たしかに,同画像は,児童ポルノ等処罰法2条3項1号の「児童を相手方とする性交類似行為に係る児童の姿態」の画像に該当する可能性はあるが,被害者の衣服を着けない状態が,画像上は必ずしも判然としないから,同項3号には該当しない。しかし,原判決は,強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪を観念的競合として,一個の事実の中で両罪に該当する事実を記載しており,頭部等に射精した上,これを同カメラで撮影した行為は,強制わいせつ罪に該当する事実でもあるから,原判決が,当該画像を記録したことをもって,児童ポルノ製造罪に該当すると認定,判断したとまでは断定できない。仮に,原判決が,これをも児童ポルノ製造罪に該当するとしているとしても,これにより処断刑に差異を生じるものではなく,本件の犯情に照らしても,その誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかとはいえない。" "論旨は・・・〔2〕児童ポルノ等処罰法2条3項3号の「性欲を興奮させ又は刺激するもの」は,一般人を基準として判断するものであるところ,原判示第2の事実において,被告人が撮影,記録した画像は,6歳の児童に対するものであり,一般人を基準とすれば,性欲を興奮させ又は刺激するものではないから,児童ポルノに該当しないのに,これらを児童ポルノに該当するとした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
しかし・・・
〔2〕の本件画像が一般人を基準とすれば性欲を興奮させ又は刺激するものではないとの点は,被告人は,被害者のズボンと下着を脱がせて下半身を裸にし,両足を開脚させるなどしてことさら陰部を露出させる姿態をとらせ,これを撮影,記録したものであるから,被害者が6歳であっても,一般人を基準として,性欲を興奮させ又は刺激するものに該当する。
名古屋高判H23.8.3 公刊物未掲載 論旨は,本件起訴状の公訴事実に記載された「性欲を興奮させ又は刺激するもの」とは,子供の性に対して過敏に反応する者を基準として,性欲を興奮させ又は刺激するものという意味であるとの前提に立った上で,①児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「法」という。)2条3項3号の「性欲を興奮させ又は刺激するもの」とは,一般通常人を基準とするものであるから,本件起訴状に記載された事実は罪となるべき事実を包含しておらず,原審は,公訴棄却決定をすべきであったのにこれをせず,不法に公訴を受理した・・・というのである。
しかしながら,原審検察官が論告において「子供の性に対して過敏に反応する者からは,本件各画像が性欲を興奮させ又は刺激するものであると認められ」ると陳述したからといって,本件起訴状の公訴事実に記載された「性欲を興奮させ又は刺激するもの」が,子供の性に対して過敏に反応する者を基準として,性欲を興奮させ又は刺激するものという意味内容に限定されることになるものではない。論旨は前提を誤っており,失当である。7 控訴理由⑦について
論旨は,本件各画像はいずれも普通人又は一般人をして性欲を興奮させ又は刺激するものとは到底いえず,これらが普通人又は一般人の性欲を興奮させ又は刺激するものとした原判決には事実誤認及び法令適用の誤りがある,というのである。
しかしながら,本件各画像は,下半身に何も着用せずに脚を開いて女性器を露出させた姿態(原審甲第3号証添付の写真7),着用した下着をずらして女性器を露出させた姿態(同写真8),全裸で寝そべり,陰部をカメラの方向に向けた姿態(同写真9及び10)の女子児童をそれぞれ撮影したものであり,その姿態や構図からして,いずれも普通人又は一般人の性欲を興奮させ又は刺激するものに該当することが明らかであるから,論旨は失当というほかない。
大阪高判H24.7.12
2 控訴趣意中,その余の法令適用の誤りの主張について
論旨は,(1)本件各画像は,児童の裸が撮影されているが,一般人を基準とすると「性欲を興奮させ又は刺激するもの」ではないから,児童ポルノ法7条2項の製造罪(以下「2項製造罪」という。)は成立しないのに,原判決は原判示罪となるべき事実に同法7条2項,1項,2条3項3号を適用しており・・・,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というものである。
そこで検討するに,(1)の点は,本件各画像が「性欲を興奮させ又は刺激するもの」といえるかどうかについては一般人を基準として判断すべきものであることはそのとおりである。しかし,その判断の基準とすべき「一般人」という概念は幅が広いものと考えられる。すなわち,「一般人」の中には,本件のような児童の画像で性的興奮や刺激を感じる人もいれば,感じない人もいるものと考えられる。本件は,公衆浴場の男湯に入浴中の女児の裸の画像が対象になっており,そこには大人の男性が多数入浴しており,その多くの男性は違和感なく共に入浴している。そのことからすると,一般人の中の比較的多くの人がそれらの画像では性的興奮や刺激を特に感じないということもできる。しかし,その一方で被告人のようにその女児の裸の画像を他の者から分からないように隠し撮りし,これを大切に保存し,これを密かに見るなどしている者もおり,その者らはこれら画像で性的興奮や刺激を感じるからこそ,これら画像を撮影し,保存するなどしているのである。そして,これらの人も一般人の中にいて,社会生活を送っているのである。ところで,児童ポルノ法が規制をしようとしているのはこれらの人々を対象にしているのであって,これらの人々が「一般人」の中にいることを前提に違法であるか否かを考える必要があると思われる。他人に提供する目的で本件のような低年齢の女児を対象とする3号ポルノを製造する場合は,提供を予定されている人は一般人の中でそれらの画像で性的興奮や刺激を感じる人達が対象として想定されているものであり,そのような人に提供する目的での3号ポルノの製造も処罰しなければ,2項製造罪の規定の意味がそのような3号ポルノの範囲では没却されるものである。したがって,比較的低年齢の女児の裸の画像では性的興奮や刺激を感じない人が一般人の中では比較的多数であるとしても,普通に社会生活を営んでいるいわゆる一般の人達の中にそれらの画像で性的興奮や刺激を感じる人がいれば,それらの画像は,一般人を基準としても,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」であると解するのが相当である。
したがって,原判決が原判示各事実に児童ポルノ法7条2項,1項,2条3項3号を適用したのは正当である。
仙台高裁H21.3.3
⑥被告人が撮影した各被害児童の陰部の画像は,児童に扇情的なポーズをとらせているわけではなく,児童ポルノ法2条3項3号にいう「性欲を興奪させ又は刺激するもの」に該当しないから,児童ポルノ製造罪を適用した原判決には法令適用の誤りがある,~~などと主張する。
(2) しかしながら,~~
⑥については,児童ポルノの定義規定である児童ポルノ法2条3項において,同項3号が「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性 欲を興奮させ又は刺激させるもの」と規定し,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」という要件を付加しているのは,衣服の全部又は一部を着けない姿態を撮影したものの中には,家庭等における児童の日常生活の一場面を撮影したものや学術研究目的で撮影されたものも含まれるところ,これらについては社会的に是認されるものであることにかんがみ,これらを除外するためである。このような立法目的に徴すれば,同項3号の「性欲を 興奮させ又は刺激するもの」とは,その撮影目的や撮影された内容等に照らし,一般人を基準として,見る者の性的興味に訴えようとするものと認められるものと解すべきである。そうすると,本件起訴にかかる画像は, いずれも被告人が自己の性的し好を満足させる目的で,被害児童の陰部を撮影したものであり, しかもそれば性器を接写するなどして,殊更これを強調する内容となっているから,一般人を基準として判断して,見る者の性的興味に訴えようとするものと認められるのであって,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に当たるものということができる。所論は,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」という要件は,客体の要件であって,撮影目的を考慮するのは不当であるなどと主張するが,客体を定める要件であっても,考慮する要素を内容等の客観的要素に限定しなければならないわけではなく,撮影目的といった主観的要素を考慮することもできるというべきである。したがって,原判決に法令適用の誤りはない。
判断方法
大阪高判H14.9.12
lex/db 25451740
第5控訴趣意中,事実誤認の主張について
論旨は,~~
(2)本件各写真集はいずれも芸術作品であり,児童ポルノに当たらない,(3)本件各譲渡は,いずれも児童ポルノ愛好家という特定の者に対するもので,その数も4名と少ないから,本罪の「販売」には当たらないとした上で,それにもかかわらず,被告人を有罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,というのである。
そこで,記録を調査して検討するに,~~(2)の点についても,所論は,芸術性が児童ポルノ該当性に与える影響について,個々の写真ごとに検討すべきであるとの前提に立った上,本件各写真集は,いずれも,①表現方法に性器等を強調する僚向がない,②性欲を興奮又は刺激する内容がない,③児童のポーズに扇情的な要素がない,④児童の純真さを表現するという撮影者の意図が明らかである,⑤装丁も芸術作品に相応しいものであるから,児童ポルノに当たらないと主張する。
しかしながら,芸術性が児童ポルノ該当性に与える影響については,本件各写真集をそれぞれ全体的に見て検討すべきである上,本件各写真集は,いずれも,全裸あるいは半裸姿の児童が乳房,陰部等を露出している写真が相当部分を占めており,上記①②及び④は妥当しないし,また,そのため,仮に,上記③及び⑤が妥当するとしても,本件各写真集が児童ポルノに当たらないとはいえない。したがって,所論は採用できない。さらに,(3)の点については,販売とは不特定又は多数人に対する有償の譲渡行為をいうのであって,本件各譲渡がこれに当たることは明らかである。この論旨も理由がない。
【判例番号】 L05550228
わいせつ図画販売、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反(変更後の訴因わいせつ図画販売、わいせつ図画販売目的所持、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反)被告事件
【事件番号】 京都地方裁判所判決/平成12年(わ)第61号
【判決日付】 平成12年7月17日
【判示事項】 一 いわゆる児童ポルノ法二条三項三号の解釈及び判断方法
二 右条項の児童ポルノに該当するとされた事例
【参照条文】 児童売春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律2-3
【掲載誌】 判例タイムズ1064号249頁
【評釈論文】 別冊ジュリスト179号122頁
別冊ジュリスト241号122頁
(争点に関する判断)
一 弁護人は、判示一の事実(販売)に係る写真集一冊及び判示二の事実(販売目的所持)に係る写真集七冊並びにビデオテープ二巻(ほぼ同一内容であり、VHS方式のものとベータ方式のものとが、それぞれ一巻ずつある。なお、当初は他のビデオテープについても同様の主張をしていたが、第五回公判期日における被告人質間及び弁論によると、この主張は撤回したと認められる。)について、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ法」という。)二条三項三号に規定する児童ポルノに該当しない旨主張し、被告人もこれに沿う供述をしている。そこで、これらの写真集及びビデオテープが児童ポルノに該当すると認定した理由を説明する。
二 児童ポルノ法二条三項三号の解釈
児童ポルノ法二条三項三号にいう児童ポルノ(以下「三号児童ポルノ」という。)とは、写真、ビデオテープその他の物であって、(1)衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって(2)性欲を興奮させ又は刺激するものを(3)視覚により認識することができる方法により描写したものに該当するものである(数字は条文にはないが便宜上付け加えた)。本件では、(1)、(3)は客観的に判断することができることから、特に(2)の「性欲を興奮させ又は刺激するもの」の意味内容が問題となる。
そもそも、児童ポルノの販売等が禁止され、さらに、これらの目的での児童ポルノの製造、所持等が禁止されているのは、これらの行為による児童に対する性的搾取及び性的虐待が、児童ポルノの対象となった児童の心身に有害な影響を与え続け、児童の権利を著しく侵害するからに他ならない(児童ポルノ法一条参照)。
このように、児童の権利を保護することの重要性にかんがみて、児童ポルノ法は、刑法におけるわいせつの定義、すなわち、「徒に性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ、幣通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」という最高裁判所の判例(最高裁昭和三二年三月一三日大法廷判決参照)によって確立されている定義とは異なった観点から児童ポルノの範囲を定め、性欲を興奮又は刺激せしめる点は必要であるが、しかし、「徒に」興奮又は刺激しなくても処罰の対象とし(この点で刑法よりも規制対象を拡大しているといえる。)、また、禁止される行為の範囲も業としての貸与、頒布等の目的での製造等にまで広げ、国内外を問わず処罰することとしたのである(同七条参照)。
そうだとすると、問題となっている写真、ビデオテープ等が、ことさらに扇情的な表現方法であったり、過度に性的感情を刺激するような内容のものである場合などに限るなど、特別な限定をしなくても、性欲を興奮させ又は刺激するものと認められる以上は、三号児童ポルノに該当すると解すべきである。弁護人は、「性欲を興奮させ又は刺激する」との規定の意味を、児童のポーズが意味もなく局部を強調するものであったり、構図などから男女の性交を暗喩していると認められるような場合に限定すべきであると主張するが、そのように限定して解釈すべき理由はない。
三 判断の方法
そして、性欲を興奮させ又は刺激するものであるか否かの判断は、児童の姿態に過敏に性的に反応する者を基準として判断したのではあまりにも処罰範囲が拡大してしまうことから、前記のとおり、児童ポルノの定義から最高裁判所判例の掲げる「普通人の正常な性的羞恥心を害し」という要件が割愛されているとしても、法の一般原則からして、その名宛人としての「普通人」又は「一般人」を基準として判断するのが相当である。
もっとも、三号児童ポルノの範囲が拡大すると、表現の自由や学問の自由等の憲法上の権利を制約することになりかねないという懸念もあろう。児童ポルノ法三条も、この法律の適用に当たっては、国民の権利を不当に侵害しないように留意しなければならないと定めているところである。
そこで、衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態(以下「児童の裸体等」という。)を描写した写真または映像に児童ポルノ法二条二項にいう」性器等」、すなわち、性器、肛門、乳首が描写されているか否か、児童の裸体等の描写が当該写真またはビテオテープ等ガ全体に占める割合(時間や枚数)等の客観的要素に加え、児童の裸体等の描写叙述方法(具体的には、(1)性器等の描写について、これらを大きく描写したり、長時間描写しているか、(2)着衣の一部をめくって性器等を描写するなどして性器等を強調していないか、3児童のとっているポーズや動作等に扇情的な要素がないか、(4)児童の発育過程を記録するために海水浴や水浴びの様子などを写真やホームビデオに収録する場合のように、児童の裸体等を撮影または録画する必然性ないし合理性があるか等)をも検討し、性欲を興奮させ又は刺激するものであるかどうかを一般通常人を基準として判断すべきである。そして、当該写真又はビデオテープ等全体から見て、ストーリー性や学術性、芸術性などを有するか、そのストーリー展開上や学術的、芸術的表現上などから児童の裸体等を描写する必要性や合理性が認められるかなどを考慮して、性的刺激が相当程度緩和されている場合には、性欲を興奮させ又は刺激するものと認められないことがあるというべきである。
四 各写真集等についての認定
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/702/086702_hanrei.pdf
しかし,この説示は,本件各造形物について,それ自体からは知り得ない制作者の意図ないし制作過程等(上記?)と,それを見る者が視覚等で認識し,あるいは連想する事項(上記?,?)やわいせつ性の判断(上記?,?)を区別せずに論じたもので,本件各造形物のわいせつ性判断の説明として不適切なものといわざるを得ない。
すなわち,本件各造形物に関するわいせつ性の判断は,本件各造形物自体について,それを見る者が視覚等でどのように捉え理解するかということを前提に検討すべきであって,視覚等では理解することができない制作者の意図や作品の制作過程等は,わいせつ性判断の基準外に置かれるべきものである。そのような観点から判断すると,本件各造形物は女性器を象って制作された作品とはいえ,その制作過程等を知らされずに,出来上がった本件各造形物を,社会の平均的一般人が見た場合,その着色や装飾,材質等と相まって,これらが女性器であると認識し,あるいは,これらから性的刺激を受けるほど明確に女性器であると認識することは,困難であるというべきである。
原判決は,本件各造形物の制作過程等をも考慮に入れた結果,また,女性器を象った部分と本件各造形物の全体の形状(着色や装飾,材質等を含む)とを分断して考察した結果,わいせつ性判断の客体の捉え方を誤り,ひいては,わいせつ性判断の過程を誤ったものといわざるを得ない。
しかしながら,既に述べたところからすれば,本件各造形物から性的刺激を受けることは考えにくく,芸術性・思想性等による性的刺激の緩和について検討するまでもなく,結局,本件各造形物はわいせつ物とは認められないから,原判決は結論において正当である。
東京高裁H29.1.24
オ 芸術活動(表現の自由)等との関係
(ア)所論は,芸術分野においては,実在する児童のモデルにポーズをとらせてその姿を描写することは広く一般的に採られてきた方法であり,描かれたモデルがどこの誰であるかまで判明している作品も少なくないところ,原判決を前提とすると,このように長年優れた芸術とされてきた過去の名作の展示,販売,模写等が児童ポルノ法で禁止されることになる上,原判決の基準は,一般人からみて同一といえるか否かという曖昧なものであり,このような曖昧な基準によると,芸術活動に萎縮的効果を与えることになり,相当でない,このことは,現行児童ポルノ法3条の趣旨にも反するものである,などと主張する。
(イ)児童ポルノ法上の「児童ポルノ」に該当するかどうか,すなわち,「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」(同法2条3項3号)に当たるか否かを判断するに当たって,表現の自由や芸術活動を不当に侵害しないようにする必要があることは,同法3条が「この法律の適用に当たっては,国民の権利を不当に侵害しないように留意しなければならない。」と規定していることからも明らかである。そして,上記の判断に当たっては,当該画像等の具体的な内容に加え,それが作成された経緯や作成の意図等のほか,その画像等の学術性,芸術性,思想性等も総合して検討し,性的刺激等の要素が相当程度緩和されていると認められる場合には,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に当たらず,「児童ポルノ」には該当しないと解すべきである。
所論が指摘するような歴史的絵画の展示や模写等については,そもそも,被写体の児童性や同一性が立証できない場合が少なくないと考えられるが,仮にこれらの立証が可能な場合であっても,このような学術性,芸術性,思想性等を総合して判断することにより,児童ポルノに該当しないと判断される場合が十分あり得るというべきである。
芸術性に全く配慮しない判決もある。
京都地裁H14.4.24
6 弁護人は,前記「A」,「B!」,「C」の各作品は芸術作品であるから児童ポルノに該当しないと主張する。
しかしながら,芸術的価値のあるものであっても,これを児童ポルノに該当するものとすることは差し支えないから,弁護人の主張は,その余について判断するまでもなく理由がない。京都地裁平成14年4月24日 児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
理 由
(犯罪事実)
被告人は,電話回線を利用したインターネットの電子掲示板を利用して児童ポルノ写真集の販売広告を掲示して購入客を募り,これを閲覧して児童ポルノ写真集の購入方を申し込んできたKほか3名に対し,別紙一覧表記載のとおり,平成12年5月中旬ころから平成13年5月中旬ころまでの間,合計4回にわたり,衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識できる方法により描写した児童ポルノである写真集「み」ほか4冊を,同一覧表「販売場所」欄記載の各場所に郵送するなどして,上記Kほか3名に受領させ,代金合計2万800円で販売した。
(証拠)
(争点に対する判断)
(3)ところで,前掲「B」及び「天」と題する写真集には,弁護人の主張するとおり,多数の少女の写真が掲載されている。しかしながら,前掲の警察官調書(7,21)によれば,小児の推定年齢を判定する手法としては,「Ta nn e rによる二次性徴の成熟度の評価法」及び「Tannerらによる正帯小児の二次性徴発現時期」並びに最近の成熟傾向の早期化を勘案し,さらには,骨盤の発達程度や体つき等をも考慮して総合的に判定するものであるとし,これに基づき,前記「B」については2名の,「天」については3名の,各少女について,その年齢を推定し,いずれも18歳未満の児童である旨の判定をしている。
さらに,これらの基準に照らすと,前記「B」及び「天」の各被撮影者(弁護人が,被告人質問において指摘する前記「B」中の作者自身の写真や同人の写真誌「プ」の表紙写真一制服を着用したもの-などが前記「B」における児童ポルノの対象にならないのは明らかである。)中には,推定年齢が18歳以上の者はいないと解することが可能である。
以上のような写真集であることを前提に考察すると,児童ポルノの被害法益が主として個人的法益であると解するのが相当であるとしても,1個の思想の表現として本件写真集という形式が選択されている場合においては,その一部が児童ポルノであることが立証されれば,他の部分については,厳密にその要件を満たすか否かの検討をしなくても,本件写真集が児童ポルノ法2条3項3号に該当することは明らかなのであるから,そのような場合にまで,本件写真集の被撮影者一人一人につき,児童の特定を必要とするものではないと解するのが相当である。
(4)したがって,弁護人の主張は理由がない。3 弁護人は,児童ポルノ法においては,児童の実在性が必要であり,かつ,訴因で具体的に記載しなければならないのに,本件訴因では,その記載がないと主張する。
児童ポルノ法の趣旨に照らすと,児童が実在することを要するものと解するのが相当であるが,弁護人が主張するように,これを訴因において「実在する」児童と表示しなければならないとする必然性はない。
また,児童の実在性の立証は,写真の内容,タイトル,その他写真集全体を観察して認定することは差し支えないというべきところ,本件各写真集を検討すると,実在の児童が撮影されたものであることが明らかであるから,実在性は優に認定できるのであって,弁護人の主張は理由がない。4 弁護人は,本件各写真集の被撮影者の姿態は,一部少数者を除き,一般人の「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に該当しないと主張する。しかしながら,本件各写真集は,いずれも全裸あるいは半裸姿の児童が,乳房,陰部等を露出しているものがその相当部分を占めているのであって,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に該当することは明らかである。したがって,弁護人の主張は理由がない。
5 弁護人は,「天」の中には陰毛の生えている者がおり,児童でないことが明らかであると主張する。
しかしながら,前記2(3)の判定手法によれば,陰毛のある者を含めて,いずれも児童であると解するのが相当である。したがって,弁護人の主張は理由がない。6 弁護人は,前記「天」,「B」,「何」の各作品は芸術作品であるから児童ポルノに該当しないと主張する。
しかしながら,芸術的価値のあるものであっても,これを児童ポルノに該当するものとすることは差し支えないから,弁護人の主張は,その余について判断するまでもなく理由がない。
7 弁護人は本件各写真集につき,被害者(被撮影者)の同意があると主張する。
しかしながら,児童ポルノ法の制定趣旨は,性的搾取及び性的虐待から児童の権利の保護を目的とするものであり,加えて,当該児童を保護し,関係者を処罰することによって,ひいては児童一般を保護しようとしている趣旨も間接的に含まれているのであるから,当該児童の同意があったとしても,これをもって,構成要件該当性あるいは違法性を阻却する事由とはなり得ないと解するのが相当である。したがって,弁護人の主張は理由がない。8 弁護人は,被撮影者の年齢についての被告人の認識がなく,また,年齢認識がなかった点につき過失はないと主張する。
しかしながら,関係各証拠によれば,被告人は,本件各写真集につき,少女の裸体写真等が撮影された写真集として購入し,かつ,これらを同旨の写真集として販売したのであるから,被告人において,被撮影者の個々具体的な年齢を認識していたか否かはともかくとして,「児童」であるとの認識を有していたことは明らかであり,弁護人の主張は理由がない。9 その他,弁護人は,るる主張するが,いずれも独自の見解に基づく主張であり理由がない。
(法令の適用)
罰 条
別紙一覧表の各番号ごとにいずれも(なお,同番号4については,各写真集ごとに包括して)児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条1項,2条3項3号観念的競合の処理 前記番号4につき,刑法54条1項前,段、10条(犯情の重い児童ポルノ写真集「天」の販売の罪で処断。)
刑 種 の 選 択 いずれも懲役刑を選択
併合罪の処理 刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も重い前記番号4の罪の刑に法定の加重。)
刑 の 執行猶予 刑法25条1項
(量刑の理由)