児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

青少年条例違反(淫行)について「成人と聞いていたので、18歳未満だとは知らなかった。普通に交際をしていました」という弁解

 過失犯処罰はおかしいと言われているので
 真剣交際とか無過失を主張すれば起訴猶予になるかもしれないですね

https://news.livedoor.com/article/detail/19790462/
少年は家族に「友達が来ているから、会いに行く」という口実で出掛けていたが、家に帰って来ない日が続いたことから、不審に思った親がホテルまで様子を見に行くと、部屋に見知らぬ女がいた。親はから事情を聴き、警察に相談した。
 調べに対し、は「セックスしたり、少年をホテルに泊まらせたのは間違いありません。成人と聞いていたので、18歳未満だとは知らなかった。普通に交際をしていました」と供述し、少年は「会いたかった。体の関係を持ちたかった」と話しているという。

栗原雄一「児童買春の罪と青少年育成条例の関係について」研修644号*1
そのため,形式的には,全ての行為者につき年齢の調査確認の手段を尽くしたことの挙証責任が課せられているようにみえる。 しかし,淫行しようとする者は当然にその相手方の年齢を調査確認すべき義務があるといえるかどうかは微妙である。 したがって,実務的には,年齢知情に関する規定の適用を前提として,淫行罪により処罰しようとする場合には, 「使用者性」に匹敵する事情を別途立証するのが相当であるろう。すなわち,当該青少年と知り合った経緯,当該青少年の体格,服装,言葉遣い等から,当該行為者において,当該青少年が18歳未満ではないかとの疑いを持ち得る客観的状況があったことを示す証拠を収集しておくべきこととなる。
(法務総合研究所教官)
・・・・
藤宗和香(東京地方検察庁検事(当時))「青少年保護育成条例」風俗・性犯罪シリーズ捜査実務全書9第3版*2P336
このような例では、結局は、客が既に青少年と話をする機会などがあってその身上を知り得る関係にあったとか、当該応には18 歳未満の女子ばかりを世いているなどの噌があって、容の来応理由になっていたと認められるなど、個別具体的に、淫行の相手が18 歳未満であることについて客観的に知り得る状況があったことを明らかにしなければ、過失を認めるべきではないと考える。

奈良県青少年の健全育成に関する条例解説h26
(みだらな性行為及びわいせつな行為の禁止)
第34条
1何人も、青少年に対しみだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない。
2 何人も、青少年に対し前項の行為を教え、又は見せてはならない。
【要旨】
本条は、心身ともに発達途上にある青少年に対し、みだらな性行為及びわいせつな行為をし、又はこれらの行為を教えたり見せたりすることを禁止し、青少年の健全な育成を図ろうとするものである。
【解説】
1 「みだらな性行為」とは、昭和60年10月23日最高裁判決にいう「淫行」すなわち「(広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではなく、)青少年を誘惑し、威迫し、欺岡し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為」と同様である。
2 「わいせつな行為」とは、いたずらに性欲を刺激興奮せしめたり、その露骨な表現によって健全な常識のある一般社会人に対し、性的に羞恥嫌悪の情をおこさせる行為をいう。
3 「してはならない」とは、何人も、青少年に対しみだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならないのであって、相手となる青少年が承諾したかどうかは問わない。
4 「教え、又は見せ」とは、青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をするのではないが、当該行為の方法等を教示することであり、単なる猥談等の漠然としたものではなく、具体的に教示することをいう。
5 本条の規定は、自らが青少年に対してする行為を禁止したものである。
なお、児童福祉法第34条第1項第6号に規定する「児童に淫行をさせる行為」の禁止規定との関係については、「行為者が第三者を児童の相手方として児箪に淫行をさせる場合」が同法違反となることは明らかであるが、「行為者自らが児童の相手方となって児童に淫行をさせる場合」についても、限定的ではあるが、同法違反が成立するとされている。
(平成10年11月2日最高裁決定)
6 13歳以上の男女に対する暴行又は脅迫を用いてのわいせつな行為(強制わいせつ)及び13歳以上の女子に対する暴行又は骨迫を用いての姦淫(強姦) については、本規定と刑法第176条及び第177条の条項とが競合することになる。
ここで、第176条違反が「6月以上7年以下の懲役」、第177条違反が「2年以上の懲役」というようにそれぞれ懲役刑が科される一方、本条違反が「2年以下の懲役又は100万円以下の罰金」であることから、より重い刑を科している刑法の規定が適用されることになる。
ただし、13歳以上の男女に対する暴行又は骨迫を伴わないわいせつな行為及び13歳以上の女子に対する暴行又は骨迫を伴わない姦淫については、刑法では規定していないため、本条の規定が適用される。
また、13歳未満の男女にわいせつな行為をすること及び13歳未満の女子を姦淫すること(どちらも暴行、脅迫を用いてか否かは問わない)についても、本規定と刑法の規定とが競合することになるが、これについても上記と同様の理由から刑法が適用されることになる。
7 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以F「児童買春・児童ポルノ禁止法」という。)附則第2条は、「地方公共団体の条例の規定で、この法律で規制する行為を処罰する旨を定めているものの当該行為に係る部分については、この法律の施行と同時に、その効力を失うものとする。」と規定している。
つまり、罰則が規定されている行為で、同法と条例が重なった部分については、同法が条例に優先し、条例で定めている部分が失効するということである。
このことから、「児童買春」に該当する行為については同法が適用され、本条の規定は適用されないこととなった。
(ただし、本条の規定は、対償の有無にかかわらず、青少年に対するみだらな性行為及びわいせつな行為を禁止するものであり、児童に対する対償の供与又はその約束を伴う児童買春よりも広い概念を表す。)
8 インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律(以下「出会い系サイト規制法」という。)では、インターネット異性紹介事業を利用して、児童(18歳に満たない者のこと。)を性交等の相手方となるように誘引すること等を禁じているが、これは実際に性交等を行ったか否かは問わず、誘引すること自体を罰則の対象としている。
また、インターネット異性紹介事業を通して知り合った児童を相手に性交等を行った場合は、本条や児童買春・児童ポルノ禁止法などの規定が適用されることになる。
なお、出会い系サイト規制法は、本条例と異なり、児童に対する免責規定を設けていないが、児童が罪を犯した場合であっても、同法に規定する禁止行為に対する罰則が100万円以ドの罰金であることから、少年法第41条の規定により家庭裁判所の審判に付され、児童に応じた必要かつ適切な保護・処遇がなされることとなる。
9 「何人も」には、青少年も含まれる。
青少年が本条に違反した場合、本条例第44条の規定により、罰則が適用されることはないが、当該違反行為が他法令にも違反する場合は、当該法令の規定により罰則が適用されたり、上記出会い系サイト規制法の場合と同様に家庭裁判所の審判に付されたりすることになる。

3 第5項の「当該青少年の年齢を知らないことについて過失がない」とは、通常可能な調査が適切に尽くされているといえるか否かによって決められる。具体的には、相手方となる青少年に、年齢、生年月日、干支等を尋ね、又は身分証明書等の提出を求める等、客観的に妥当な確認措置を尽くしたにもかかわらず、青少年自身が年齢を偽り、又は虚偽の証明書を提出する等、行為者側に過失がないと認められる状況をいう。
過失がないことの証明は、行為者自身において行うことを必要とするものである。

原判決は,凶器を用いず,路上類型・侵入類型でない強制性交等1件の事案を同種事案として想定しているが,本件の量刑を検討するに当たっては,これに該当する事案のうち本件と同じ刑法177条前段の罪に係る(かつ,量刑上考慮する前科がなく,示談・宥恕がない)ものだけを同種事案とみて考察するのが適切であったと思われる(東京高裁R02.11.17)

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       強制性交等被告事件
T高等裁判所判決令和2年11月17日

       主   文

 原判決を破棄する。
 被告人を懲役4年に処する。
 原審における訴訟費用は被告人の負担とする。

       理   由

第1 事案の概要及び本件控訴の理由
 1 本件に関するT地裁の原判決が認定した犯罪事実の概要は,被告人が,出張型massage店のセラピストとして当時の被告人方に派遣された被害者(以下「A」という。)に強制性交をしようと考え,暴行を加え,その反抗を著しく困難にして,性交したというものである。
 2 本件控訴の理由は,次のとおりである。
  (1)本件において,被告人がAに刑法177条前段(強制性交等罪)が定める暴行を加えたとは認められず,その故意も認められない,また,被告人はAとの性交に際し,その合意があると誤信していたもので,前記犯罪事実を認定し,同罪の成立を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認及び法令適用の誤りがある。
  (2)被告人を懲役5年に処した原判決の量刑は重過ぎて不当である。
第2 事実誤認等の主張に関する判断
 1 原判決の認定について
   原判決は,Aの原審証言の信用性を肯定し,これに反する被告人の原審公判供述を排斥して,被告人がAに加えた一連の暴行を認定した上,その態様や現場の状況,被告人がAから何度も拒絶感や抵抗を示されたのに性交に及んだこと,被告人とAとの体格差等を考慮すれば,Aは,物理的,心理的に抵抗することが困難な状況にあったと推認され,前記一連の暴行は,Aの抵抗を著しく困難にさせる程度の暴行と評価することができ,被告人がAに対して刑法177条の定める暴行を加えたものと認められる,また,本件massage店のサービス内容等に関する被告人の認識や被告人とAとの関係性に加え,Aから積極的に性交等を求める言動は一切なく,Aが拒絶感や抵抗を示していた経緯等を併せ考えれば,被告人が,性交についてAの合意があると誤信していたとは認められないとして,強制性交等罪の成立を認めた。
   この原判決の認定は,論理則,経験則等に照らし概ね合理的なものであって,その結論は当裁判所も支持できるものと判断した。
   以下,弁護人の控訴趣意における主張を踏まえながら説明する。
 2 本件の事実経過について
  (1)原判決が認定した犯罪事実に,争点に対する判断の項の説示を併せると,原判決は,Aの原審証言に基づき,被告人がAとの性交に至る過程でAに加えた暴行の態様について,概ね次のⅠ~Ⅵのとおり認定したものと解される。
   Ⅰ いきなりAの右手をつかんで引っ張り,その手を自分の着衣の上から陰茎に押し付けた。
   Ⅱ AのTシャツをめくり上げ,brassiereをずり下げて直接Aの胸をなめた。
   Ⅲ Aのズボンを下着ごと無理矢理引き下ろして脱がせ,Aの陰部を手指で弄んだ。
   Ⅳ Aにkissをしようとした。
   Ⅴ Aの身体を被告人の身体の上に乗せ,Aの陰部に陰茎を直接押し当てて擦り付け,被告人の身体から逃れて立ち上がろうとしたAの足又は腰をつかんだ。
   Ⅵ Aの頭を両手でつかんでその口付近に陰茎を押し付け,口腔内に陰茎を挿入しようとした。
  (2)弁護人は,これらのうち,Ⅳ及びⅥについてはいずれもその事実自体が認められない,Ⅲについては被告人がAのズボンを下着ごと引き下ろして脱がせたことはあるものの無理矢理にではなかったと主張する。
  (3)そこで,原判決が依拠するAの原審証言を検討すると,その信用性については,以下のア~オのような事情を指摘することができ,これらの事情を総合すれば,Aの原審証言は信用できるものと考えらえる。
   ア Aの証言内容には,全体として,特に客観証拠と矛盾する点やそれ自体不合理といえる点は見当たらない。
   イ 次の経過は,Aが,性交等に及んだ被告人に対し,直後から強い嫌悪感や拒絶感を有していたことを如実に示しており,本件当時,被告人に好意又は他の何らかの意図や目的を有して被告人との性交等に応じたなどと疑う余地はない。
    (ア)Aは,本件当日,性交直後に被告人から差し出された現金7万円の受領を頑なに拒んだ。被告人は最終的にこの7万円を強引にAの所持していたバッグに押し込んだが,迎えに来た本件massage店の運転手にこれを渡そうとし,被告人から渡された現金をすぐにでも手放そうとする態度に出た。
    (イ)Aは,送迎運転手や経営者に対し,被告人から自己の意思に反して性交されるなどした旨の被害を打ち明けた上,数時間後には経営者と共に警察署を訪れ,その被害事実を申告してその後の対処を相談するなどし,更には,本件から数日のうちに,スマートフォンのアプリを利用して被害の内容等を記したメモ(■■■以下「本件メモ」という。)を作成した。
    (ウ)Aは,捜査段階においても,高額の支払を提示する被告人からの示談の申入れを拒むなどした。
   ウ 前記運転手は,原審において,本件の直後にAから「抵抗したけど逃げ切れなかった」などと言われたと証言しており,この事実はAの証言を支えている。
   エ Aにあえて虚構の事実を作出して被告人を罪に陥れる理由や動機があるとは考え難い。
   オ Aは,記憶にないことや記憶が曖昧な点についてはその旨率直に述べるなど,その証言態度も真摯なものと認められる。
  (4)そして,本件メモは,事件から間もない時点で,その後の捜査等に備え,自身の記憶していた出来事を簡潔に記載して作成されたもので,そうした作成経過等を考えると,その記載内容には高度の信用性があると認められるから,Aの原審証言のうち,本件メモの記載と合致する内容については,とりわけ信用性が高いというべきである。
    弁護人は,A自身が,本件当日に警察署で行われた被害再現の時点で既に記憶が曖昧であった旨証言していることからすれば,その数日後に作成された本件メモについても,曖昧な記憶に基づくものに過ぎないと主張する。しかし,Aがそうした証言をしたのは,本件メモには簡潔な記載にとどまる個々の性的行為の状況について,その際の自身の体勢等の詳細を問われた場面であり,被告人から当該性的行為を受けたことそのものの記憶が曖昧であったと述べているわけではない。被告人からされたことに比べて,その時の自己の体勢といった事項はあまり記憶に残らないか,思い出しにくくとも自然というべきであり,弁護人の主張を踏まえてもAの証言の信用性は揺らがない。
    さらに,弁護人は,本件メモに,陰部を触られた旨の重要な事実が記載されていないことからも本件メモの信用性は低いと主張する。しかし,本件メモには「ズボンとパンツを脱がされ,さわられた」との記載がある上,Aは,当初陰部を触られたことの記憶がなかったが,逮捕された被告人がその旨供述していると捜査官から聞かされて思い出したなどと述べているところ,そうした供述経過もそれ自体特に不合理なものではなく,弁護人の主張は採用できない。
  (5)前記(1)Ⅲについては,弁護人は,このとき被告人が仰向けに寝て上半身だけを起こし,Aが体育座りの体勢であったことからすれば,被告人がAの協力なくしてそのズボンやパンツを脱がせるのは不可能であり,Aが自ら尻を浮かせたか,少なくとも抵抗はしていなかったとしか考えられないとする。しかし,この点については,本件メモに前記(4)に言及した記載がある上,Aは,原審において,脱がされないよう必死でズボンを強くつかみ,「脱がさないで」と言ったが,さらに強く引っ張られて脱がされたなどと証言している。前記のとおり,本件において,Aが,被告人との性交等に強い嫌悪感や拒絶感を有し,これがAの意思に反するものであったことは明らかと認められることからすれば,性交等にも直結するそうした被告人の行為にAが進んで応じるとか,自ら協力するなどとは考え難い。被告人がそれにも構わずそのような行為に及んだ経緯,状況をもって,「無理矢理」とした原判決の評価にも誤りはない。
  (6)前記(1)Ⅵについては,Aが,原審において,被告人に両手で頭をつかまれて陰茎の方に引っ張られ,「なめて」と言われ,口の近くに押し付けられたなどと証言しており,これは,そのときの心情等を含めた具体的な内容を述べるものであって,本件メモの「顔を強く股間に当てさせて舐めさせようとした」との記載によっても裏付けられている。
    弁護人は,Aが過去にも他の客から同種の行為をされたことがある旨述べている点を捉え,本件とその際の記憶とを混同している可能性があるとも指摘するが,現実に性交に至った本件と,そこまでには至らず事なきを得た過去の出来事とで,記憶に混同が生じるなどとはおよそ考え難い。
  (7)一方,前記(1)Ⅳの点については,Aの原審証言は,弁護人も指摘するとおり,その具体的な中身をみれば,Aは,「顔が近づいてきたので,顔をそむけた」と述べているに過ぎず,この点に係る本件メモの記載も「口かほっぺたにkissをされたような気がする」という程度の内容にとどまっている。このAの原審証言から,一連の経過の中で互いの顔が近づき,Aが被告人にkissをされそうだと感じるような場面があったとはいえるにしても,それ以上に,被告人が前記(1)Ⅳのとおり意図的にAにkissをしようとしたとの事実までは認めることができないというべきであり,これを認めた原判決の認定には疑問が残る。もっとも,前記(1)Ⅳはその他の前記各行為に比して軽微なものであり,これが欠けたとしても,後述する暴行の評価や故意の認定,更には量刑の判断にいずれも何ら影響しないというべきである。
  (8)なお,そのほか,前記(1)Ⅰ,Ⅱ及びⅤの各行為については,Aの原審証言が本件メモの記載に裏付けられており,また,少なくともその外形的事実の限りでは,被告人の供述とも概ね齟齬しておらず,これらを認定し得ることは明らかである。
 3 暴行の評価について
  (1)前記2から,被告人は,Aに対し,前記2(1)ⅠからⅢまで,Ⅴ及びⅥの各行為に及び,これらの有形力を行使したものと認められるところ,以下のア~ウの事情を前提とし,エ~カのような状況に置かれて,これらの有形力の行使を受けたAの情況を測れば,経験則等に照らし,本件当時,Aは,被告人に性的行為を求められ,少なからず動揺,狼狽する心理状態に陥り,更には自己の意思に反して前記各行為を重ねられていく中で,性交時には,被告人に対して既に抵抗することが著しく困難な状況にあったと評価せざるを得ない。
   ア 本件massage店においては,性的サービスを一切提供しないことを対外的に表明し,利用客に対しては,massageの施術を行うセラピストに性的サービスを要求する行為等を禁じ,その旨定める規約に同意の上で署名した同意書の提出を事前に求めていたところ,Aは,そうした営業方針がとられていることを前提に本件massage店に勤務し,本件当日,被告人方に派遣されたものである。
   イ Aは,被告人方に派遣されるのは本件当日が初めてであり,それ以前に被告人との面識はなかった。
   ウ Aが身長約158cm,体重約45kgであったのに対し,被告人は身長約180cmと比較的大柄であった。
   エ 本件当時,被告人方の寝室は電気が消され,被告人とAの二人きりの状況であった。
   オ 被告人は,Aから足のmassageを受けていた際,性的興奮を覚え,ためらうAに強要して,鼠蹊部のmassageをさせた上,その流れの中で前記2(1)Ⅰの行為に及び,その後,Ⅱ,Ⅲ,Ⅴ及びⅥの各行為にも及んだ。
   カ 前記オの間,前記2(5)で述べたところを敷衍すれば,Aは,一貫して,相応の嫌悪感や拒絶感を示したものの,被告人がこれに構わず各行為に及び,その末に,自己の意思に反する性交にまで至ったと認められる。
  (2)弁護人は,被告人のAに対する一連の有形力の行使は,いずれもAが容易に防ぎ,回避することができる状況の下でなされた行為であり,合意の上での性交等の場合にも伴うような行為に過ぎず,極めて程度の弱いものであったと主張する。
    しかし,前記のとおり,Aが被告人との性交等に強い嫌悪感や拒絶感を有していたと認められることからすれば,被告人によるいずれの性的行為の場面においても,例えば,弁護人が前提とするように,被告人の要求にAが自ら進んで,或いはこれに協力して,被告人の頭の両脇に自ら手をついて覆い被さり,被告人に胸をなめさせたとか,被告人の身体を自らまたいでその上に乗ったとか,自分の頭や口を自ら被告人の陰茎に近付けたなどとは想定することができない。Aは,いずれの場面にあっても,動揺,狼狽する心理状態の中で,一貫して相応の嫌悪感や拒絶感を示していたのであって,にもかかわらず,被告人が一連の性的行為に及んでいることは,それ自体,被告人によるそれ相応の力が作用した結果であったと考えるほかはない。
    弁護人は,被告人の暴行の評価について,Aを押さえ付けていないとか,Aに対して急襲していないなどと主張するが,強制性交等罪は個人の性的自由を保護法益とするものであり,要件とされる暴行等も被害者の抵抗を著しく困難にする程度のもので足りると解されるのであって,被告人の暴行は,弁護人の形容に当たるほどの強度のものではなかったとしても,強制性交等罪の暴行としての評価の対象から外れる類の軽微なものでは決してない。
    また,弁護人は,被告人方の間取り等も指摘しつつ,Aが被告人の行為を容易に防ぎ,回避できたと主張するが,電気の消された被告人の寝室で被告人と二人きりの状況の中,意思に反する性的行為を受け,動揺,狼狽する心理状態のAに対し,冷静に,事後的にみれば可能といえる対処を求める前提も採用できない。
  (3)弁護人は,さらに,① Aは,かねて出張massageの仕事に従事しており,暗い部屋で男性と二人きりとなることに特段恐怖心を抱いていなかった,② Aは,過去にも男性客から性的行為を要求されるなどした経験があったといい,そのような事態への対処には慣れていたし,そうした際,massageを中断して部屋を出たこともあったという,③ Aは,被告人方を訪れる前に,同僚から「この人,俳優だよ,施術したことある,この人,最初はおとなしかったけど,最後,手首をつかまれてタオルを引っ張り合ったりした,だから気を付けてね」などと注意を受けていたというのであり,当初から,被告人に何らかの性的要求をされるかもしれないと予期し,心構えができていた,④ 被告人とAとの体格差に特筆するほどのものはない,などと指摘して,被告人がAに加えた有形力が極めて軽微なものであったこととも併せ,被告人がAに対してその抵抗を著しく困難にする程度の暴行を加えたとは評価することができないと主張する。
    しかし,①~③の点については,Aが勤務していた本件massage店やそれ以前に勤務していた店においては,いずれも性的行為を禁じる営業方針がとられており,Aは,それを前提に出張massageの仕事に従事していたものである。過去には男性客から性的行為を要求されるなどした経験もあったが,事例は数少ないというのであって,このことから直ちに,Aが男性客から性的行為を要求されるなどの事態に慣れていたなどとはいえない。Aは,過去に男性客から性的行為を要求されるなどした際には,いずれもこれを拒絶し,部屋を出るなどして事なきを得たものであって,拒絶の意思を表してもなお執拗に性的要求を受け,性交にまで至ったのはもとより本件が初めての経験であったのであるから,そのような事態に遭遇し,被告人について同僚から事前に若干の助言を受けていたことを踏まえても,前記のとおりAが少なからず動揺,狼狽する心理状態に陥ったであろうことは想像に難くない。
    ④の主張も採用できない。
  (4)したがって,弁護人の指摘する諸点を踏まえても,前記(1)の評価が揺らぐことはなく,被告人の一連の有形力の行使について,Aの抵抗を著しく困難にさせる程度の暴行と評価し,被告人がAに対して刑法177条前段が定める暴行を加えたものと認めた原判決の認定に誤りはない。
 4 被告人の故意について
  (1)以上の認定を前提とすると,原判決のうち,被告人の故意を認定した部分も相当であると評価できる。
    弁護人は,仮に,被告人がAに対して刑法177条前段の暴行を加えたものと認められるとしても,一連の暴行の態様や被告人とAとの体勢,被告人が当時認識できていたAの心理状況からすれば,被告人は,Aが抵抗困難な状況にあるとは認識することができず,ひいては自身の行為が刑法177条前段の暴行に当たるとの故意を欠いていたとも主張する。
    しかし,被告人が自己の暴行内容を認識できなった事情は認められず,被告人は,本件以前に本件massage店を利用した際,massageの施術を行うセラピストに性的サービスを要求する行為等を禁じる同店の規約に同意の上で署名した同意書を既に提出しており,当初から少なくともAに対して当然に性的行為を要求し得る立場にないことを承知した上で,Aに性的行為を要求し,その後の一連の経過において,少なくとも,Aが随所でためらいや抵抗の言動を示し,Aの合意がない可能性を十分認識していたにもかかわらず,Aとの性交を遂げているのであるから,当時,Aが抵抗することが著しく困難な状況にあったことにつき,その認識を欠いていたなどとは到底認められないのであって,この点の弁護人の主張も採用することはできない。
  (2)また,弁護人は,本件において,被告人が,原審公判で供述するとおり,Aとの性交につきその合意があると誤信していたから,被告人に強制性交等罪の故意が認められないとも主張する。
    しかし,被告人は,前記同意書を提出していたことからも明らかなとおり,本件massage店において性的サービスの提供はなく,派遣されたセラピストに性的行為を要求する行為等が禁じられていることを承知していたのであるから,Aが特に許容する場合であれば格別,少なくともAに対して当然に性的行為を要求し得る立場にないことは,これを十分認識していたものと認められる。また,前記のとおり,被告人がAに対して性的行為に及び,一連の暴行を加えた際,Aは,一貫して相応の嫌悪感や拒絶感を示していたものと認められるところ,間近にその様子と接していた被告人がそれを全く察知できなかったとは考えられない。被告人自身も,最初に性的興奮を覚え,鼠蹊部のmassageを要求した際,Aがこれをためらい,抵抗する言動を示したことや,前記2(1)Ⅰの暴行,すなわちAの右手をつかんで引っ張り着衣の上からその手を陰茎に押し付けるなどの行為に及んだ際,Aが自分の右手を引いて拒むなど,抵抗の言動を示したこと,更には前記2(1)Ⅴの暴行,すなわちAの身体を被告人の身体の上に乗せ,Aの陰部に陰茎を直接押し当てて擦り付けるなどの行為に及んだ際にも,Aがこれに抵抗する挙動を示したことについては,いずれもこれを認識していたと述べている。
    Aが,被告人に好意を示したり,自ら性的行為を求めたりする言動に出たことは一切なかったものと認められることをも併せ考えれば,被告人が,Aとの性交に及んだ際,その認識において,少なくとも,Aがこれを拒絶し,その合意がない相応の可能性を払拭できていたとは到底認めることができず,ひいては,被告人がAの合意があると誤信していたことを合理的に疑う余地はないというべきである。
  (3)さらに,弁護人は,本件massage店の業態からは,性的サービスを期待することも不自然ではなく,実態としても,客が初対面のセラピストと性的関係になることは普通にあり得ることであるから,被告人が,成り行き次第でAに性的サービスが受けられるかもしれないと考えた旨述べているのも何ら不自然ではないと主張する。
    しかし,被告人は,自身の述べるところによっても,これまで,身体の疲れをとりたいときには本件massage店等のオイルmassage店を利用し,性的な欲求を満たしたいときには性的サービスを提供する風俗店を利用して,両者を使い分けており,また,オイルmassage店を利用した際,派遣された女性従業員と性交等に及ぶこともあった一方で,女性従業員に性的行為を要求して断られたときには,そのような店ではないので性的行為を諦めていたともいうのである。こうした供述によれば,被告人が,内心,事の次第であわよくばAに性的サービスを提供してもらえるとの期待を抱いていたとしても,同時に,セラピストが特に許容する場合であれば格別,少なくともAに対して当然に性的行為を要求し得る立場にないことについて,その認識に欠けるところはなかったものと認められる。
    また,弁護人は,被告人が少しずつ性的度合いの強い行為に移行していった過程において,Aは,強い口調や大きな声で拒絶感を示すことはなく,むしろ,自ら身体を支える体勢で胸をなめられるがままにし,ズボンとパンツを容易に脱がせ,陰部を触られるがままにしていたものであり,その後,被告人がAの陰部に陰茎を直接押し当てて擦り付けるなどしたのに対しては嫌がる素振りを見せていたとしても,その後体勢を変えて性交に至った際には嫌がる素振りを見せておらず,これらの状況に直面した被告人にとって,Aが性交に合意していると誤信したとしてもやむを得ない事情があったと主張する。
    しかし,Aが,被告人による一連の性的行為に対し,一貫して,相応の嫌悪感や拒絶感を示していたことは既に述べたとおりであるから,弁護人の主張は前提を欠くし,陰部に陰茎を擦り付けられるなどの行為にすら抵抗を示していたAが,その後,自身の意思で性交に応じることも不自然であって,その筈のないことは誰でも容易に認識し得るところであるから,これらの弁護人の指摘も採用できない。
  (4)なお,原判決は,被告人が直後に現金7万円を差し出すなどした行為について,「直後にAに現金を渡そうとしたこと自体が,被告人が当該性交に当たりAの意思に反するとの認識を備えていたことを指し示している」と判断しているが,弁護人が指摘するように,性交後のAとのやり取りやAの様子を見て,にわかに不安がよぎったとの被告人の説明も全く不合理であるとして排斥することはできないから,この事実を独自に挙げて被告人の認識の根拠とするには疑問が残る。
    もっとも,この点を除いても,これまで述べたことから被告人の認識に欠けることがないことは明らかである。
  (5)以上によれば,被告人に強制性交等罪の故意を認めた原判決の認定に誤りはない。
第3 量刑不当の主張に関する判断
 1 原判決が被告人を懲役5年に処した理由の概要は,本件における被告人の暴行は,それ自体が制圧的というほどに強度ではないものの,被告人は,Aの抵抗しにくい状況に付け入り,続けざまに暴行を加え,性交に及んでおり,Aの性的自由を侵害する卑劣で悪質な犯行というほかはなく,Aの処罰感情が厳しいのも当然といえ,自己の性的欲求を優先して犯行に及んだその経緯,動機にも酌むべき点はないから,本件は同種事案の中で重い部類に位置付けられ,被告人は相応の実刑を免れない,そして,被告人が不合理な弁解に終始していることも考えると,被告人に前科前歴がないことなど,酌むべき事情を考慮しても,酌量減軽をすべきとまではいえないというものである。
 2 控訴の趣意は,要するに,被告人の暴行が強度なものではないとしながら,抵抗しにくい状況に付け入ったとか,続けざまに暴行を加えたなどとして,本件を同種事案の中で重い部類に位置付けられるとした原判決は,恣意的であり,犯情評価を誤ったもので,被告人に対しては,酌量減軽をした上での量刑が相当であるというのである。
 3 被告人の暴行,犯行の経緯等をみても,同種事案は,どれもが自己の性的欲求を優先して被害者の性的自由を侵害する卑劣で悪質な犯行であるから,これらとの比較において,本件が特に際立って卑劣であるとか悪質であるとか評価できるような事情には乏しいというべきであり,本件を同種事案の中で重い部類に属するとした原判決の犯情評価には疑問がある。その一方で,本件の暴行の態様や犯行の経緯をもって,同種事案に比べて,犯情自体に酌量減軽の事由があるとは評価できない。
   被告人は,原審公判において,Aを傷つける結果を招いたことには一応反省や謝罪の弁を述べているものの,被告人の供述の全体をみると,何を反省し,何を謝罪しているのかは不明確であり,この点を一般情状として特に評価することはできない。
   なお,原判決は,凶器を用いず,路上類型・侵入類型でない強制性交等1件の事案を同種事案として想定しているが,本件の量刑を検討するに当たっては,これに該当する事案のうち本件と同じ刑法177条前段の罪に係る(かつ,量刑上考慮する前科がなく,示談・宥恕がない)ものだけを同種事案とみて考察するのが適切であったと思われる。そして,このような事案の最近の量刑傾向は,懲役4年を超え懲役5年以下とするものが分布の中央にあることを考えると,一般情状においても酌むべき事情の乏しかった本件について,酌量減軽をせずに被告人を懲役5年に処した原判決の結論は,重すぎて不当とはいえない。
 4 しかし,当審における事実取調べの結果によれば,原判決後に,被告人は,Aに300万円の慰謝料を支払うなどして和解を成立させ,Aの宥恕は得られていないものの賠償の措置を講じたことが認められる。これを考慮すると,現時点においては,原判決の量刑は,その刑期においてやや重過ぎると評価するべきであり,酌量減軽をした上で,刑期を1年減じることとするのが相当である。
第4 結論及び法令の適用
   以上から,刑訴法397条2項により原判決を破棄し,同法400条ただし書を適用して,被告事件について更に判決をする。
   原判決が証拠の標目欄に掲げた証拠から原判決の犯罪事実欄の事実を認定し,これは,刑法177条前段に該当するが,犯罪の情状に酌量すべきものがあるので刑法66条,71条,68条3号を適用して減軽をした刑期の範囲内で被告人を懲役4年に処し,原審における訴訟費用は,刑訴法181条1項本文により被告人に負担させることとして,主文のとおり判決する。
  令和2年11月17日
    T高等裁判所第10刑事部
        裁判長裁判官  細田啓介
           裁判官  神田大助
           裁判官  高森宣裕

児童ポルノ等の提供を求める行為の禁止~千葉県青少年健全育成条例の解説 令和2年7月

児童ポルノ等の提供を求める行為の禁止~千葉県青少年健全育成条例の解説 令和2年7月
 国会図書館にあります。

27 児童ポルノ等の提供を求める行為の禁止
(第19条の4)
児童ポルノ等の提供を求める行為の禁止)第19条の4何人も、青少年に対し、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
一青少年に拒まれたにもかかわらず、当該青少年に係る児童ポルノ等(児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号)第2条第3項に規定する児童ポルノ又は同法第7条第2項に規定する電磁的記録その他の記録をいう。以下この条において同じ。)の提供を行うように求めること。
二青少年を威迫し、欺き、若しくは困惑させ、又は青少年に対し対償を供与し、若しくはその供与の約束をする方法により、当該青少年に係る児童ポルノ等の提供を行うように求めること。
三前各号に掲げるもののほか、当該青少年に係る児童ポルノ等の提供を行うように求めること。
追加〔令和2年条例19号〕
4【解説】(1) 「何人も」とは、県民はもとより旅行者、滞在者を含み、また成人であると少年であるとを問わず、県内外にいる全ての者をいう。
(2) 「青少年」とは、千葉県青少年健全育成条例第6条第1号に定める「青少年」をいう。
(3) 「児童ポルノ等」とは、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律第2条第3項に規定する児童ポルノ又は同法第7条第2項に規定する電磁的記録その他の記録をいう。
参考
「性交類似行為」とは、実質的に見て、性交と同視し得る態様における性的な行為をいう。
例えば、異性間の燃交とその態様を同じくする状況下におけるあるいは性交を模して行われる手淫。口淫、同性愛行為を指す-.(出典『よくわかる改正児篭貿春・児篭ポルノ禁止法~:
「殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているもの」について『児童の性約な部位』とは、性器等(性器、肛門、乳首)若しくはその周辺部、響部又は胸部をいい、典型的なものとしては、全裸や下着姿の児童が、性器が見えるポーズや、胸部を強調するポーズ蝉を撮っている写真簿が考えられる。
「殊更に」 という文言は、当該翻像等の内容が、性欲の興奮又は刺激に向艤られているものと評価されるものであることを要求する趣旨の文言である。
そこで、たとえ全裸の写真であっても、自宅などで水浴びをしている幼児の自然な姿を、親が成長記録として撮影した画像ば、澗常、「殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているj とはいえないと考えられる.
(4) 「当該青少年に係る児童ポルノ等」とは、求める相手方である青少年自身の姿態が描写された児童ポルノ等(児童ポルノ法第2条第3項に規定する児童ポルノ又は同法第7条第2項に規定する電磁的記録その他の記録)で、写真や電磁的記録に係る記録媒体のほか、メール等に添付する画像データも含まれる。
したがって、要求された青少年の姿態が描写されていない児童ポルノ等は該当しない。
※典型例としては要求された青少年が自分自身の裸等を被写体として撮影する、いわゆる「自画撮り画像」であるが、当該青少年に係る児童ホルノが撮影されていれば足り、当該青少年以外の者が映り込んでいる画像や、当該青少年以外が撮影した画像も該当する。
また、要求行為時点以前に撮影された画像も含まれる。
※どのような表現が「児童ポルノ等の提供を行うように求めること」に該当するかについて、要求文言とその前後のやり取りを総合的に判断し、該当性の判断をすることとなるが、その要求に青少年が応じてしまった場合、児童ポルノ法第2条第3項に規定する児童ポルノ等が提供されることが社会通念上明らかに認められることが必要である。
(5) 「提供を求める」の「提供」は、児童ポルノ禁止法第7条第2項に規定する「提供」と同じであり、「提供を求める」とは、当該児童ポルノ等を相手方(児童ポルノ等が提供された先)において利用し得べき状態に置くよう求める法律上・事実上の一切の行為をいう。
具体的には、有体物としての児童ポルノを交付するよう求めたり、電磁的記録を電子メールで送信するよう求める行為がこれに当たる。
また、「求める」とは、青少年に対して、要求するのみならず、勧誘するなども含めた広い概念である6 (「勧誘」とは、甘言を用いて相手方に勧めたり、誘ったりすることであり、「送ってくれたら5,000円払う」は勧誘、「5,000円払うから、送ってくれ」は要求に当たる)※総合的に判断し、「児童ポルノ等」の提供を求めていると社会通念上明らかに認められる場合は、文言による場合以外であっても「提供を求める」にあたり、その方法を問わない。
(6) 「拒まれたにもかかわらず」とは、青少年に対して当該青少年に係る児童ポルノ等の提供を行うように求めた者が、要求を受けた者から、当該要求行為を拒否されたと認識しているにもかかわらずということであり、やり取りの記録などから拒否されたと認識していることが明らかである場合をいう。
※青少年が「拒否している」というためには、文言その他の態度等によって拒否していると社会通念上明らかに認められる必要がある。
なお、黙示のものも含まれる。
その例示としては、着信拒否設定(受信拒否) されていることを要求者が認識している場合が考えられる。
( ・メールが未開封の場合に処罰するとすれば、行き過ぎた規制ではないか)
ストーカー規制法においては、「拒まれたにも関わらず」について、「黙示のものも含まれるが、行為者が拒絶を認識していることが必要である。」として運用されている。
メールが未開封のままとなっているのみの場合は、拒まれていると認識することは難しく、処罰の対象とはならないと考えられる。
自画撮り規制に関して「拒まれたにも関わらず」に、黙示のものも含まれるとすることも、行為者が拒絶を認識していることが必要であるとすれば、行き過ぎた規制であるとは言えない。
(・SNSには既読を確認できるものもあるが、メールでは拒否を認識するのが難しいのではないか)
=行為者が拒絶を認識していることが必要であることから、メールが着信拒否設定をされた場合であっても、拒否された旨のメールが送信者に届く場合や、第三者などからたまたま拒否している旨を知り得た場合には、「拒まれた」に該当するといえるが、そうした事情がなく、着信拒否されていることを送信者が知り得ない場合は該当しないと考えられる。
(7) 「威迫」とは、言動、態度等により相手方に心理的威圧を加え、不安の念を抱かせることをいう。
「威迫」には、「送らないと、お前の家に行くぞ」「逃げようと思っても逃げられないんだから、写真撮って送れ」「写真を撮って送るか、5,000円払うかどっちかだ」などのメッセージを送信したり、入れ墨の画像を送りつけたうえ、「俺は恐いんだよ」などと自画撮り行為を要求する場合が該当する。
※一方、刑法上の「脅迫」は、他人に恐怖心を生じさせる程度のものであることを要し、両者は異なる。
脅迫は「渡さないと殺す」と言い、要求するなど、相手に恐怖心を生じさせるものが当たる。
(8) 「欺き」とは、嘘を言って相手を錯誤に陥らしめ、又は真実を隠して錯誤に陥らしめる行為をいい、児童ポルノ等を要求するために行われるものであることを要する。
「欺き」には、同性や同年代になりすまして、体の悩み相談を装って、当該青少年に係る児童ポルノ等の提供を要求する行為が該当する。
※要求行為者が何もしていないのに、相手が勝手に誤解している場合には、相手の錯誤を強めたり、不知を利用していない限り、「欺き」には該当しないと考えられる。
(9) 「困惑させる」とは、立場を利用したりするなど、言動や態度により、相手を惑い困らせ、精神的に自由な判断ができないようにすることをいう。
「(交際相手が)送ってくれないと別れる」などと立場を利用する場合、社会通念上青少年であれば対応に苦慮して正常な判断ができなくなってしまうような「画像を送ってくれないとおつちやん自殺する」などの言動による場合や、しつこく求めて、あきらめた気持ちにさせて性的写真を送らせる場合など、情緒不安定や未熟等につけ込むものが「困惑させる」~に当たる。
なお、「困惑させる」は、行為者が青少年の無知、未熟、情緒不安定等につけ込み、積極的に行うことを要し、単に「困惑した」からと言って、これに当たるわけではない。
(10) 「対償を供与し、若しくはその供与を約束する方法」とは、児童ポルノ等の提供に対する反対108‐〔条例の解説〕給付としての経済的な利益を供与、又はその供与の約束することをいう。
「対償」は、現金のみならず、物品、債務の免除も含まれ、金額の多寡は問わない。
5,000円を実際に払った場合は「対償を供与」する方法に、「送ってくれたら5,000円払う」~や「5,000円払うから、送ってくれ」は「対償の供与を約束する方法」に当たる。
(11) 青少年が県内に所在することの認識要求を行う者が県外であっても、要求を受ける青少年が県内にいる場合には、本条の適用がある。
また、判例によれば、要求を行う者において「要求を受ける者が県内に所在すること」の認識は原則として必要ない。
ただし、青少年が県外にいるという積極的な認識がある場合には、慎重に判断すべきである。
高松高判昭和61年12月2日~被告人が香川県条例において禁止されている内容の電話を数回にわたり徳島県の自宅から香川県内の他人宅にかけた事例「条例は当該地方公共団体の区域内の行為に適用されるのが原則であるものの、本件のように当該地舌の三一口奉弓二)方公共団体の 区域外から区域内に向けて内容が犯韮となる電話をかける行為に及んだ場合には、をか』けけたた場場所所のみならず、電話を受けた場所である結果発生地も犯罪地と認められるのであり、ように犯罪の結果発生地が香川県内とされる以上、行為者は直接的かつ現実的に香川県に関わりを持ったというべく、香川県民及び滞在者と同様に本件条例が適用されるものと解すべきである」

青少年条例の「わいせつ」は当該行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度等を総合考慮し,社会通念に照らして判断される(大阪地裁R03.2.16 高松高裁R3.3.2)

 大法廷h29.11.29の影響で、青少年条例のわいせつの定義も失われました。
 「わいせつ」の説明に「わいせつ」が入っていて、循環してます。
 別件ですが、高松高裁R03.3.2も同様の判断をしています。

 最大判S60.10.23のいう第二類型のわいせつ行為(青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないようなわいせつ行為)の場合は、最大判S60.10.23からすれば性的意図必要になりますが、強制わいせつ罪についての大法廷h29.11.29によれば性的意図不要になります。青少年わいせつ罪の高松高裁R03.3.2(上告中)も同旨


判例番号】 L07650308
【事件番号】 大阪地方裁判所判決
【判決日付】 令和3年2月16日
【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載
罪となるべき事実
 第16【平成29年12月27日付け起訴状記載の公訴事実第2の1】 平成29年2月25日午前11時52分頃,大阪市平野区(以下略)先路上において,専ら性的欲望を満足させる目的で,D(当時13歳)が18歳に満たない青少年であることを知りながら,同人に対し,執拗に求めて被告人運転に係る普通乗用自動車へ乗車させた上,同車を運転して同区(以下略)所在の駐車場「J1」まで走行し,同日午後0時16分頃から同日午後0時17分頃までの間,同所に駐車中の同車内で,Dの足を持って開かせ,陰部を隠そうとする同人の手を払いのけ,その陰部を執拗に触ろうとするなどして同人を困惑させ,同人に陰部を露出するよう指示してその陰部を露出させ,その上衣をまくりあげて胸を露出させるや,いきなりその胸をなめるなどし,もって専ら性的欲望を満足させる目的で,青少年を困惑させて,当該青少年に対しわいせつな行為をし,

(法令の適用に関する補足説明)
 第1 大阪府青少年健全育成条例の明確性について
 弁護人は,判示第16の事実に関し,当裁判所が適用した旧大阪府青少年健全育成条例34条2号について,同号がわいせつな行為を処罰するのは,強制わいせつ罪の補充的性格を有し,同号における「わいせつ」の定義は刑法と同様であると理解したとしても,裁判例の状況等に照らすと,強制わいせつ罪における「わいせつ」の定義が不明確となっているから,同号は罪刑法定主義に反し,文面上無効である旨主張する。
 そこで検討すると,「わいせつ」な行為に当たるか否かは,当該行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度等を総合考慮し,社会通念に照らして判断されるものであって,このように判断される「わいせつ」な行為の内容が不明確であるとはいえない。また,弁護人の指摘する裁判例の状況等を踏まえても,「わいせつ」な行為の内容が不明確であるとはいえない。
 したがって,上記弁護人の主張は,前提を欠き,採用することができない。


高橋判事は最判S60.10.23の判例解説で、「わいせつな行為」についても判決の影響があるとされているが、最判の事例は性行為の事案であるから、「わいせつ行為」についての解釈は変更されていない。再定義が必要である。

最高裁判所判例解説
刑事篇昭和60年度251頁
最高裁判所大法廷判決昭和57年(あ)第621号
福岡県青少年保護育成条例違反被告事件
昭和60年10月23日高橋省吾
五 本判決の影智等について
本判決は、まず、青少年の性という極めて今H的な問題に最高裁が真正面から取り組んだものとして注目されよう。次に、本判決は、近年肯少年保護育成条例違反の検挙件数が増加しているといわれる状況の下において、淫行処罰規定の合憲性を肯認するとともに、「淫行」概念の具体化、明確化を図ったものであって、他に影響するところが大きいであろう。以下、本判決の影響として考えられる点につき記してみたい。
(二)
本条例と同様、淫行処罰規定は「荏行」又は「みだらな性行為」のほか、「わいせつの行為」を禁止しているが、「わいせつの行為」についても、本判決の多数意見の示した限定解釈が及ぶということになると思われる。

そこで、これをわいせつ行為に当てはめると

最大判S60.10.23
「「淫行」とは、広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきでなく、
①青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、
②青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解するのが相当である。(最大判S60.10.23)

最大判S60.10.23
「わいせつ行為」とは、広く青少年に対する性的行為一般をいうものと解すべきでなく、①青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行うわいせつ行為(わいせつ」な行為に当たるか否かは,当該行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度等を総合考慮し,社会通念に照らして判断される)のほか、
②青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないようなわいせつ行為(わいせつ」な行為に当たるか否かは,当該行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度等を総合考慮し,社会通念に照らして判断される)をいうものと解するのが相当である。

ということになって、もはや、いかなる行為がわいせつなのかがわからない。

高松地裁令和2年9月29日
香川県青少年保護育成条例違反被告事件
(弁護人の主張に対する判断)
②条例16条1項の「猥せつ」は定義ができないから,刑罰法規としての明確性を欠き無効である,
などと主張する。
 しかしながら,~~②については,行為そのものが持つ性的性質から条例16条1項の「猥せつ」の該当性を判断することができ,判示行為がこれに当たることも明らかであって,弁護人の主張は採用できない(なお,判示事実のうち「単に自己の性的欲望を満たす目的で」との部分は,判示行為が青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないようなものとして,条例16条の「猥せつの行為」に該当することを示すものである。)。

高松高裁R03.3.2
第3法令適用の誤りの論旨について
1論旨は,
①本条例条1項の「わいせつ」の定義が明らかでなく,かつ,処罰の範囲が広汎に過ぎるため,同項は刑罰法令の明確性を欠いて,憲法31条に違反して無効であるのに,原判決が同項を適用している点,において,原判決には,それぞれ判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあるというのである。
2論旨①について
原判決は,論旨と同旨の原審弁護人の主張に対し,行為そのものが持つ性的性質から「猥せつ」に該当するか否かを判断することが可能であり,本件行為は「わいせつ」な行為に該当するとして,原審弁護人の主張を排斥した。原判決の説示は正当であり,当裁判所も是認することができる。
補足すると,「わいせつ」という言葉はある程度評価的な概念を含むものではあるものの,一般的な言葉として社会に通用しているものであるから,青少年の福祉を阻害するおそれのある行為を防止してその健全な保護育成を図るという本条例の目的を踏まえて一般的な社会通念に照らしてみれば,どのような行為がいかなる場合に違法なわいせつ行為に該当するのかを判断することができるというべきである。
そして,本件行為が本条例条1項の「わいせつの行為」に該当することは,一般的な社会通念に照らせば明らかであるといえる。
そうすると,本条例条1項が不明確かつ処罰の範囲が広過ぎて憲法31条に違反するとはいえず,原判決が本件行為に本条例条1項を適用したことに誤りはなく,理由の不備もない。
~~
③原判決は,本件行為中に「単に自己の性的欲望を満たす目的で」と認定して,本条例16条1項の「猥せつ」の定義に性的意図を盛り込んでおり,性犯罪につき性的意図を不要とする最高裁判例に反していて法令の解釈を誤っている点,において,原判決には,それぞれ判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあるというのである。
 4 論旨③について
 原判決の説示をみても,原判決が,一般的に性犯罪について行為者の性的意図が必要であると説示しているとは解されないから,論旨は前提を誤るものであって理由がない。

監護者性交等につき「行為否認」とか「たまたま被告人の陰茎が被害者の膣に入ってしまったものにすぎず,当初から性交を目的としているものではない」などと主張した事例 (秋田地裁R02.10.5)

「被告人に対して処罰を求める気持ちはなく,現在でも大好きである旨供述し,養育されてきたことに関する感謝の言葉も述べている」ようです。

秋田地裁R02.10.5
上記の者に対する監護者性交等,監護者わいせつ,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について,当裁判所は,検察官鈴木美香並びに私選弁護人(主任)及び同各出席の上審理し,次のとおり判決する。 

主文

理由
 (罪となるべき事実)
 被告人は,
 第1 実子である甲(以下「甲」という。当時15歳。)と同居してその寝食の世話をし,その指導・監督をするなどして,同人を現に監護する者であるが,同人が18歳未満の者であることを知りながら,同人にわいせつな行為をしようと考え,平成30年8月12日頃,住所〈省略〉被告人方において,甲を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて,同人に対し,その乳首を直接手で触り,その陰部付近を直接手で触るなどし,わいせつな行為をした。(令和2年3月23日付け起訴状記載の公訴事実第1)
 第2 平成30年8月12日頃,前記被告人方において,甲が18歳に満たない児童であることを知りながら,同人に,被告人が甲の乳首を直接手で触る姿態及び同人の乳房等を露出した姿態をとらせ,これをビデオカメラで撮影し,その動画データ1点を同カメラ内ハードディスクに記録させて保存し,もって他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造した。(令和2年3月23日付け起訴状記載の公訴事実第2)
 第3 前記第1のとおり,甲(当時16歳)を現に監護する者であるが,同人が18歳未満の者であることを知りながら,同人と性交をしようと考え,令和元年10月18日頃,前記被告人方において,甲を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて同人と性交をした。(令和2年2月5日付け起訴状記載の公訴事実)
 第4 前記第1のとおり,甲(当時16歳)を現に監護する者であるが,同人が18歳未満の者であることを知りながら,同人と性交をしようと考え,令和元年10月21日頃,前記被告人方において,甲を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて同人と性交をした。(令和元年12月25日付け起訴状記載の公訴事実)
 (証拠の標目)
 (事実認定の補足説明)
 1 弁護人は,被告人は,判示第3の監護者性交等の事実について,甲と性交をしておらず,甲の部屋に行ってもいないから,無罪であると主張し,被告人もそれに沿う供述をするので,以下検討する(以下の月日は,いずれも令和元年。)。
 2 甲の供述について
  (1) 甲は,当公判廷において,要旨,以下のとおり供述する。
 私は,10月18日夜,父(被告人)に性交される被害に遭った。その日,学校から帰宅後,出張から帰ってきた父からお土産を受け取り,自分の部屋で電気を消した状態でベッドの上で横になってスマートフォンを触っていると,父が部屋に入ってきたので,スマートフォンを枕元に置いて目をつぶっていると,父が近くに来て,私が仰向けに寝ている状態で足を広げて,父がその足の間に入ってきて,私に「キスをして。」と言ってきた。私が「嫌だ。」と言うと,私の服の裾から手を入れられ,直接胸を触られて,私のパジャマのズボンと下着を脱がされて,父が私の膣を指で触ってから,膣に陰茎を入れてきた。その時は,私が仰向けに寝ている状態で私の足を広げてきて,その間に父の体がある状態であった。父は膣に陰茎を入れてきてから膣の中で陰茎を前後に動かした。指より太いものが膣の中に入ってきたことと,こすり付けてくる時と陰茎を膣の中に入れてくる時の感覚が違ったから,膣の中に陰茎を入れてきたのが分かった。私が「嫌だ。」と言うと,膣から陰茎を抜いて,また,私に「キスして。」と言ってきて,私が泣きながら「嫌だ。」と言ったら,「ごめんね。」と言いながら頭をなでてきてくれて,私が泣きやんだ後に部屋から出ていった。父からは,私が中学生の頃から同じようなことをされていたが,謝ってきたことは初めてだった。この日,その翌19日の朝までの間に,当時交際していた乙にLINEのトークで連絡をし,「簡単に人に話せることではないから,いつかちゃんと話すね。私が全部話せるか分からないから待っていてほしい。」などと伝えると,乙は,「分かった。」と言ってくれた。
 その後,最後に私が父から性交されたのは10月21日だ。私が学校から帰宅後,自分の部屋のベッドで眠っていると,父が私の部屋のドアを開けてきて,その音で目が覚めた。父は私の近くに来て,私が仰向けに寝ている状態で私の足を広げて,その間に父が入ってきた。上のパジャマの服の裾から手を入れられて,胸を直接触られ,パジャマのズボンと下着を脱がされて,陰茎を膣の中に入れられ,膣の中で陰茎を動かされた。私が「嫌だ。」と言ったら,父は私の膣の中から陰茎を抜いて,私の下着とパジャマのズボンをはかせてから部屋から出ていった。10月18日に被害に遭った後,父から「ごめんね。」と言われていたので,もうしてこないだろうなって思っていたのにやめてくれなくて悲しかった。それで次の日の10月22日の朝,乙と一緒に学校に行く途中,話があると伝え,学校の空き教室で相談した。乙には,小学6年生の頃から10月21日まで,父に体を触られたり,膣に陰茎を入れられたりしたことや,そのことを誰かに伝えて家族5人で生活できなくなるのは嫌だということを伝えた。その他,乙とLINEのトークでやり取りをし,乙から,膣の中に出されてないの,などと聞かれた。10月22日のLINEで,この前,金曜日(10月18日のこと)に体を触られて,10月21日にも体を触られたことを伝えたら,乙が「反省なしだね。」というメッセージを送ってきた。乙以外に,10月24日の夜,学校の丙先生に相談した。乙のときほど直接的な話はしなかったが,自分がそのことを話すと警察の人とかが絡んでくるからっていうことを丙先生に伝えた。10月25日の朝,私は保健室の先生にも話した。その場には,乙と丙先生がいた。丙先生たちに相談した後,私は,児童相談所に保護された。
  (2) そこで,甲の供述の信用性についてみると,判示第3の事実に関して,被告人から性交された旨の甲の供述は,具体的かつ迫真的なものであり,その供述内容に格別不自然,不合理な点は認められない。そして,甲の供述は,乙との間で交わされたLINEのメッセージの内容(甲16)とも符合している上,甲から被害を打ち明けられた旨の乙,丙の各公判供述に沿うものであり,弁護人からの反対尋問にも揺らいでいない。また,甲は,10月18日に被害を受けた4日後の同月22日には,「この前,金曜日に」として同月18日に被害を受けた旨のLINEのメッセージを乙に対して送信している(甲16)のであって,甲の記憶が鮮明な時期になされたもので,日にちを勘違いしているとは認められず,甲が判示第3の事実より以前に,交際していた男性との間で既に複数回の性交の経験があったことから,判示第3の行為の際,被告人からされた行為を勘違いして性交であると認識したものとは認められない。加えて,甲は,当公判廷において,被告人に対して処罰を求める気持ちはなく,現在でも大好きである旨供述し,養育されてきたことに関する感謝の言葉も述べているのであって,殊更に被告人に不利な虚偽の供述をする立場にあるとは認められない。以上によれば,判示第3の事実に関する甲の供述は,概ね信用することができる。
  (3) 甲の供述の信用性に関する弁護人の主張について
   ア 弁護人は,甲の公判供述のうち,被告人が10月18日に甲の部屋に来た旨の供述部分は,乙や丙の各公判供述によれば,甲は,乙や丙に対して,同日に受けたとされる被害について,性交であるとは特定して伝えておらず,このことは,被告人が甲の部屋に来た記憶自体が曖昧であることを示すものであるから,信用できないと主張する。
 しかしながら,乙は,当公判廷において,「10月22日,甲から,甲が父(被告人)に襲われていて,小学校の頃から,寝ているときに部屋に入ってこられて体を触られるようになり,エスカレートして中学校に入ったぐらいから性行為をさせられているという内容の話を聞き,前日の10月21日の夜にもやられているという話を聞いて,性行為をさせられているのだと思った。10月22日の下校後に,甲とLINEで他に被害がなかったかについてやり取りをしたが,前の週の金曜日(10月18日)にもされたという話を聞いた。」などと供述しており,甲,丙の各公判供述やLINEのメッセージの内容(甲16)にも符合するなどして信用することができるところ,乙は,甲から,被害を受けた日として10月18日であると聞いたことを明確に供述している上,同日に関しても性交をされたことを前提とするやり取りをしているものと認められる。また,丙は,当公判廷において,「10月24日,甲と乙から,甲と父(被告人)との関係について聞かされ,甲が父から性交されている可能性があると感じた。そこで,養護の先生と共に,10月25日に,甲や乙から事情を聴くと,甲から,甲が父に家族でいられなくなることを中学校に入った頃からされ始め,それまでは,拒否らしい拒否はしてこなかったが,25日の1週間前の金曜日(10月18日)に父が部屋に来て,そのとき初めて拒否し,これでやっと終わるかなって思っていたが,その後も,父が夜来て,そのときにはまた家族としていられないようなことになってしまい,すごく絶望したと聞いた。」などと供述しており,甲,乙の各公判供述やLINEのメッセージの内容(甲16)にも符合するなどして信用することができるところ,丙は,甲から,被害を受けた日として10月18日であると聞いたことを明確に供述している。そして,甲は,父である被告人から性交されたことを他人に相談することで家族5人で生活できなくなるのは嫌だとの思いもあり,当初は乙に相談すること自体を迷っていた状況であったり,丙に対しても自分がそのことを話すと警察の人とかが絡んでくると思っていたという状況であったりして,乙や丙に対して,性交であることをうかがわせる程度の表現で相談していたとしても格別不自然であるとはいえない。そうすると,弁護人が指摘する事情は,被害を受けた日時に関する甲の供述の信用性を揺るがすものとはいえない。弁護人の主張は採用できない。
   イ 弁護人は,甲の公判供述のうち,甲と乙との間のLINEのメッセージには,性交の記載がないから,被告人が甲と性交した旨の部分は信用できないと主張する。
 しかしながら,前記2(3)アのとおり,乙の供述するところによれば,既に甲から,甲が被告人から性交された旨聞いている乙として,LINEのメッセージに「性交」との記載自体はないとしても格別不自然でない上,LINEのメッセージのやり取りをみても,甲と乙は「中に出されてないんだよね……?」「なんでされてるって分かったの……?」「どっちを?」「中に出されてるかってこと?」「初めて入れられたのいつだったっけ」「奥までは入れてないの…」「いつも痛いって拒否るから…」などと性交を前提とするやり取りを互いにしているのであって,弁護人が指摘する事情は,性交に関する甲の供述の信用性を揺るがすものとはいえない。弁護人の主張は採用できない。
   ウ 弁護人は,甲は,膣に陰茎を挿入されていると実際に見て分かったのではなく,「膣のところに重い感じがあったからです。」「指よりも太いものが膣の中に入れられたからです。」などと供述し,感覚により指ではなく陰茎を挿入されていると判別しているから,指と陰茎との区別がついておらず,また,陰茎をこすり付けられている感覚と膣に挿入されている感覚との区別がついていないから,性交された旨の甲の供述は信用することができないと主張する。
 しかしながら,前記2(2)のとおり,判示第3の事実に関する甲の供述は,具体的かつ迫真的なものであり,その供述内容に格別不自然,不合理な点は認められず,甲が判示第3の事実より以前に,交際していた男性との間で既に複数回の性交の経験があったことから,判示第3の行為の際,被告人にされた行為を勘違いして性交であると認識したものとは認められず,弁護人が指摘する事情は,性交に関する甲の供述の信用性を揺るがすものとはいえない。弁護人の主張は採用できない。
   エ その他,弁護人が種々主張するところを検討しても,甲の供述の信用性を揺るがすものは認められない。
 3 被告人の供述について
  (1) 被告人は,当公判廷において,要旨,以下のとおり供述する。
 私は,10月18日,出張から自宅に帰り,その夜は甲の寝室には行っておらず,わいせつ行為を目的として甲の体に触れるようなことはしていない。甲が同日に受けた被害の内容として供述した出来事は,甲と性交した部分を除いては実際にあった出来事であるが,その時期が異なり,8月後半頃から10月に私が県外への出張に行く前までの間に起きた出来事である。それが具体的にいつなのかについては覚えていない。甲がその出来事を10月18日のこととして供述した理由は,勘違いであると思う。
  (2) そこで,被告人の供述の信用性についてみると,被告人の供述は,信用できる甲の供述に反する。そして,被告人の供述は,曖昧なものであり,甲が意を決して10月18日深夜から翌19日にかけて,乙に対し,LINEのメッセージで簡単に人に話せることではない重大と思われることを相談しようとしたことや,甲が同月18日に被害を受けた4日後の同月22日に,「先週の金曜日」である同月18日に被害を受けた旨のLINEのメッセージを乙に対して送信していることに照らしても,不自然,不合理なものであって,信用することができない。
  (3) 弁護人は,被告人が,捜査段階から,判示第1,第2,第4の各犯行といった自己に不利な事実を認めていることや,10月18日は被告人が出張から帰宅した日なので記憶が鮮明であることから,判示第3の事実に関する被告人の供述は信用できると主張する。
 しかしながら,弁護人が指摘する事情から,信用できる甲の供述に反する被告人の供述が信用できることになるわけではない上,判示第1,第2の各犯行を認める旨の被告人の供述は,「甲にわいせつ行為をするとともに甲の裸の姿をビデオカメラで撮影すれば,その後は,甲に対するわいせつな行為を止められると思ってしたものである。」などというものであり,判示第4の犯行を認める旨の被告人の供述は,「亀頭を甲の陰唇の部分にこすり付けて,大きくなった陰茎を陰唇の部分の上に載っけて前方の斜め上方向に動かしていたところ,急に陰茎が膣の中に入ってしまい,それまでそういう状況が起きたことがなかったので,もう完全にパニックに陥って,よく分からないまま膣の中に陰茎を入れた後,抜くことはせず,体を前後に動かして射精に至ったものである。」などというもので,それらの供述自体,不自然かつ自己の刑事責任を軽く見せようとする態度が認められる供述であることからしても,弁護人が指摘する事情から,判示第3の事実に関する被告人の供述が信用できるものとはいえない。弁護人の主張は採用できない。
 4 結論
 以上によれば,被告人には,判示第3の監護者性交等の事実が認められる。
 (法令の適用)
 罰条
 判示第1の所為について
 刑法179条1項,176条前段
 判示第2の所為について
 児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項,2条3項2号,3号
 判示第3,第4の各所為について
 各刑法179条2項,177条前段
 刑種の選択
 判示第2の罪について
 懲役刑を選択
 併合罪の処理
 刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯情の最も重い判示第4の罪の刑に法定加重)
 未決勾留日数の算入
 刑法21条
 訴訟費用の不負担
 刑訴法181条1項ただし書
 (量刑の理由)
 実子である被害者を現に監護する者である被告人は,被害者の乳首を直接手で触り,その陰部付近を直接手で触るなどのわいせつな行為をして判示第1の犯行に及び,その際の被害者の姿態等をビデオカメラで撮影するなどして児童ポルノを製造して判示第2の犯行に及び,2回にわたり,被害者と性交をして判示第3,第4の各犯行に及んだ。判示第1,第3,第4の各犯行は,常習的な犯行の一環であり,監護する者であることによる影響力があることに乗じてなされた卑劣で悪質な犯行であって,特に,判示第4の犯行は,判示第3の犯行の際には被害者から拒否の意思を明確に伝えられているのに,その3日後にされたもので,極めて悪質である。判示第2の犯行も悪質なもので看過できない。被害者の処罰感情は厳しいものではないものの,本件各犯行が被害者の健全な成長や人格形成に及ぼす影響も懸念されるところであって,その結果は重大である。被告人は,被害者を監護する者でありながら,結局は自己の性欲を満たすため本件各犯行に及んだものと認められ,その動機,経緯に酌量の余地はない。弁護人は,判示第4の犯行の経緯等に関して,たまたま被告人の陰茎が被害者の膣に入ってしまったものにすぎず,当初から性交を目的としているものではないなどと主張するが,判示第3の犯行の3日後になされたものであることなどに照らしても不自然で信用することができない。また,被告人は,判示第3の犯行に関しては,不自然,不合理な弁解に終始しており,真摯な反省の態度は認められない。被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。
 その上で,被告人が判示第1,第2,第4の各事実自体については,認める旨の供述をしていること,反省する旨の手紙を作成していること,被告人に前科がないこと,被告人が,勤務先を退職したり,離婚したりするなど一定の社会的制裁を受けていることなどの情状を併せ考慮すれば,被告人に対しては,主文のとおりの刑に処するのが相当であると判断した。
 よって,主文のとおり判決する。
 (求刑 年)
 秋田地方裁判所刑事部
 (裁判長裁判官 杉山正明 裁判官 板東純 裁判官 杉本岳洋)

医師による診察中のわいせつ行為につき、100万円の弁償では実刑(高知地裁R2.10.6)で、1000万円の弁償では執行猶予(高松高裁R3.2.18)

 執行猶予でも確定後に医師免許が取り消されることが多いので、返上して情状に使うことも検討します。

精神科医 患者にわいせつ 地裁 懲役1年実刑判決=高知
2020.10.07 読売新聞社
 県内の病院で昨年7月、医師が診察中の女性患者にキスをしたとして強制わいせつ罪に問われた裁判の判決が6日、地裁であり、吉井広幸裁判官は懲役1年(求刑・懲役1年6月)の実刑判決を言い渡した。「成人男性としての分別だけでなく医師としての良識を欠くこと甚だしい」と指摘した。
 医師は被告=高知市=。判決によると、被告は診察室で精神科治療を受けている患者の両肩付近を押さえ、頬や唇にキスした。被害者と合意の上で100万円の損害賠償が支払われたが、吉井裁判官は「精神的打撃が大きく、回復のめどが立っていない」ことなどから、「相当程度の慰謝の措置がとられたとは認められない」と判断した。
 被告は、今年5月に在宅起訴されていた。弁護側は控訴する方針。

患者にキスの男 2審は猶予判決 高松高裁=高知
2021.02.19 読売新聞
 一昨年7月、精神科で治療を受ける女性患者にキスをしたとして強制わいせつ罪に問われた被告の控訴審判決が18日、高松高裁であり、杉山慎治裁判長は懲役1年の実刑とした地裁判決を破棄し、懲役1年6月、執行猶予4年の判決を言い渡した。被害者への1000万円の支払いなどを考慮した。

鳥取県によれば、sexting(児童が裸画像を撮影送信する行為)は、児童ポルノ製造罪(児童ポルノ法7条3項・4項)に該当するが、「ただし、児童保護の観点から、運用上、児童は被害者とみなされるため、処罰されない。」とされています。

鳥取県によれば、sexting(児童が裸画像を撮影送信する行為)は、児童ポルノ製造罪(児童ポルノ法7条3項・4項)に該当するが、「ただし、児童保護の観点から、運用上、児童は被害者とみなされるため、処罰されない。」とされています。
 豊中簡裁事件まで、判例・裁判例をよく調べています。

第七条(児童ポルノ所持、提供等)
2児童ポルノを提供した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者も、同様とする。
3前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
4前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする

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鳥取県青少年健全育成条例の一部改正について
6児童ポルノ禁止法等との適用関係
(1) 児童ポルノ禁止法(児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号) )
・児菫ポルノ禁止法第7条では、児童ポルノやその電磁的記録の所持、保管、提供、製造等を禁止している。
児童ポルノ等の自画撮り被害が生じた場合、加害者には同条第4項の製造罪が適用されるケースが多いが、未遂罪の規定はなく、自画撮り被害に繋がる働きかけ行為自体を罰する規定はない。
そのため、 画像等が送信されなければ(本体行為がなければ)処罰対象とならない。
(2) 刑法(明治40年法律第45号)
・加害者が脅迫等の手段を用いれば、児童ポルノ等の自画撮り被害が生じた場合、刑法第223条(強要罪)等が適用されることがある。
.また、自|画撮り被害に繋がる働きかけ行為自体が、刑法第222条(脅迫罪) 、第223条(強要罪)の未遂等に該当すれば罰せられるが、加害者が青少年の、トll断能力の未成熟さに付け込む方法で働きかけを行う場合〔-→上記5の事例参照〕、働きかけ行為自体はこれらに該当しないことも多い。
[適用関係整理表]
児童ポルノの製造及び提供を求めた者
(例)児童に自分の裸の写真を撮って送るよう求める

児童ポルノ禁止法
規定なし
※ただし、児童ポルノの提供を脅迫等の手段を用いて求めれば、刑法の脅迫罪(第222条)、強要罪
未遂(第223条)に該当する。
・脅迫罪: 2年以下の懲役又は30万円以下の罰金
強要罪(未遂) : 3年以下の懲役
※なお、要求の程度が強ければ、児童ポルノ製造行為の共犯(教唆)となりうる。

児童ポルノを製造した者
(例)児童に自分の裸を撮影させる(第4項)
児童が自分の裸を撮影する(第3項)

児童ポルノ禁止法
3年以下の懲役又は300万円以下の罰金(第7条第3, 4項)
※ただし、児童保護の観点から、運用上、児童は被害者とみなされるため、処罰されない。

デリヘリ盗撮(行為否認)による慰謝料として50万円を認容した事例(訴額は118万円)(東京地裁r2.1.29)

 刑事判決で、デリヘルは公然わいせつ罪になるかのような判決もありますが、そういう反論はなかったようです。

某地裁H22
ツーショットチャットは公然わいせつ行為にあたらないという主張
→少数であっても不特定であれば足りる 
現に少数であっても不特定又は多数の者を勧誘した結果であったり反復する意図がある場合には結局不特定又は多数の者が認識しうる状態である(最決s31.3.6 裁集刑112号601号 最決s33.9.5 刑集12巻13号2844ページ 大阪高裁s30.6.10 高刑集12巻13号2844号

令和 2年 1月29日 
東京地裁 判決
損害賠償請求事件
原告 
X 
同訴訟代理人弁護士 
山崎明宏 
  
被告 
Y 
同訴訟代理人弁護士 
若林翔 
同 
森脇慎也 

主文

 1 被告は,原告に対し,50万円及びこれに対する平成30年9月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 原告のその余の請求を棄却する。
 3 訴訟費用は,これを7分し,その3を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
 
 
事実及び理由

第1 請求
 被告は,原告に対し,118万6000円及びこれに対する平成30年9月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は,無店舗型性風俗特殊営業を営む風俗店において接客従業者(いわゆるデリヘル嬢)として勤務していた原告が,原告から性的サービスを受けた被告(顧客)に対し,被告に対する性的サービス中の状況等を被告が原告に無断で撮影したと主張して,不法行為による損害賠償請求権に基づき,損害として主張する慰謝料等の合計額118万6000円及びこれに対する不法行為日とする平成30年9月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 なお,被告は,当該無断撮影(盗撮)の事実を否認している。
 1 争いのない事実等
 以下の事実は,いずれも当事者間に争いのない事実又は証拠等によって容易に認定することのできる事実であり,後者については,末尾に認定根拠を掲記する。
  (1) 当事者等
   ア 原告は,無店舗型性風俗特殊営業を営む風俗店「a店」(「a1店」とも表記される。以下「本件風俗店」という。甲3)において,接客従業者(いわゆるデリヘル嬢)として勤務していた女性である。
   イ 被告は,本件風俗店の常連客の男性である。
  (2) 性的サービスの提供等
   ア 原告は,平成30年9月27日午前零時頃,s区〈以下省略〉所在のbホテル501号室(以下,当該ホテルを「本件ホテル」と,当該客室を「本件客室」という。)において,被告に対し,性的サービス(2時間コース。以下「本件サービス」という。)の提供を開始した(甲5,7,9,乙1,弁論の全趣旨)。
 本件サービスの提供中,本件客室内のテーブル上には,別紙物件目録記載の小型の機器(甲1。以下「本件機器」という。)が,被告のスマートフォンにケーブルで接続した状態で置かれていた(以下,この際に被告が本件機器を用いて行ったとされる盗撮行為を「本件盗撮」という。)。
   イ 原告は,被告に対する本件サービスの提供を終え,同日午前2時25分頃までに,被告を残したまま,本件客室を退出した(甲7,乙1,弁論の全趣旨)。
  (3) 本件機器の引渡し等
 本件風俗店のスタッフは,原告が本件客室を退出してから程なくして,原告から,被告が本件盗撮に及んだ疑いがある旨の連絡を受け,被告に電話をした上で,本件ホテルに行き,その1階フロント付近において,被告から本件機器の引渡しを受けた。
 同スタッフが引渡しを受けた本件機器には,SDカード等の記録媒体が挿入されていなかった(元々挿入されていなかったのか,被告がこれを抜き取ったのかについては,当事者間に争いがある。)。
 (以上につき,甲7,乙1,弁論の全趣旨)。
 2 争点
  (1) 被告による本件盗撮の有無
  (2) 原告の損害額及び因果関係の有無
第3 争点に対する当事者の主張
 1 被告による本件盗撮の有無(争点(1))について
 (原告の主張)
  (1) 本件風俗店の接客従業者である原告が同意していたのは,性的サービスの利用者に対してその場限りのものとしてこれを提供することにとどまり,その状況を写真や動画にて撮影することについては同意していない。そのため,原告は,性的サービスの利用者である被告との関係であっても,名誉感情やプライバシー権に基づき,自らの裸や性的行為を無断で写真や動画に撮られないという法的利益を有している。
  (2) 被告は,原告に無断で,本件客室内に本件機器を持ち込んでテーブル上に設置し,原告が提供する性的サービスの一部始終を録画(盗撮)しており,かかる被告の行為は,原告の名誉権及びプライバシー権を侵害する違法なものであって,不法行為を構成する。
 また,仮に何らかの事情により撮影が成功しなかったとしても,盗撮を試みたこと自体が原告の名誉権及びプライバシー権を侵害する違法なものであるから,不法行為の成否に影響を及ぼすものではない。
 (被告の主張)
 被告は,普段から,本件機器を携帯電話の充電のために使用しており,本件機器が充電以外の機能も備えていることは知っていたものの,充電以外の目的で本件機器を使用したことはなく,充電以外の機能の使用方法は知らなかった。また,被告は,本件機器においてSDカードを使用したこともない。
 被告は,本件客室において原告から本件サービスの提供を受けていた際も,本件機器を携帯電話(スマートフォン)の充電のために使用していたのであり,本件盗撮に及んだ事実はない。
 2 原告の損害額及び因果関係の有無(争点(2))について
 (原告の主張)
  (1) 原告は,被告の本件盗撮によりショックを受けて本件風俗店の仕事(性的サービスの提供)に従事するのが辛くなり,本件盗撮後の3か月間,本件風俗店を欠勤することが多くなった。原告は,本件風俗店において,本件盗撮前の時点では,平均して月額37万5000円の収入を得ていたにもかかわらず,本件盗撮の影響により,平成30年10月以降の収入が月額平均21万3000円にとどまるようになったため,逸失利益として,次のとおり,合計48万6000円の損害を被った。
 (計算式)(37万5000円-21万3000円)×3か月分=48万6000円
  (2) また,原告は,被告の卑劣な本件盗撮により,著しい恐怖,不安を感じることとなったばかりでなく,被告のその後の不誠実な対応によって更に尊厳を傷つけられており,その慰謝料は70万円を下らない。
  (3) したがって,原告は,被告の本件盗撮により,前記(1),(2)の合計118万6000円の損害を被ったというべきである。
 (被告の主張)
  (1) 原告の本件風俗店における収入が減少したことを認めるに足る証拠はない上,仮に減収の事実があったとしても,それは,就職活動や学会出席といった本件盗撮とは別の原因によるものであり,相当因果関係が認められない。
  (2) 被告は,本件盗撮に及んでいないのであるから,被告が原告の損害賠償請求に応じないことをもって不誠実な対応と評価することはできない。また,原告から本件盗撮の相談を受けた本件風俗店のスタッフ(従業員)は,被告に対し,「正直に言えば30万円で俺が社長に言わないで何とかしてやる」と述べていたことからすると,原告も,同額の支払があれば本件を解決し得ると考えていたといえるから,原告の慰謝料額は30万円を超えるものではない。
第4 当裁判所の判断
 1(1) 認定事実
 証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実を認めることができる。なお,認定の主たる根拠となった証拠を,その末尾に掲記する。
   ア 本件機器については,平成31年1月当時,同じ機種の未使用の新品が,インターネット上において,1万5200円を開始価格としてオークションにかけられており,別紙物件目録記載の各事項(特に「商品説明」及び「注意事項」部分に記載の各事項)のとおり説明等されているほか,次のように紹介されている(甲1)。
 (ア) 「超暗視 光学技術者プロデュース」
 (イ) 「超強力 赤外線LED」,「赤外線ライトの不可視化」,「照射距離の大幅延長」
 (ウ) 「※本製品の赤外線は実際には見えません。」
 (エ) 「消灯 完全な暗闇 ⇒ 一般的な赤外線搭載タイプで撮影 輪郭は見えますがよくわかりません。 ⇒ 光学技術者により超暗視化された本製品で撮影!! 細部までクリア! このクラスとしてはこれまでの常識を覆す,超高性能赤外線LEDを採用!しかも目に見えない不可視型だから撮影中も怪しまれにくい!」
 (オ) 「景色に溶け込むカモフラージュ性」,「実際に給電できる高い実用性」
   イ 本件ホテルには,全客室に,貸出し用の携帯電話充電器が備えられている(甲9)。
   ウ(ア) 原告は,平成30年9月27日午前零時頃,被告に対し,互いに全裸の状態で,2時間にわたる性的サービス(本件サービス)の提供を開始し,午前2時25分頃までにこれを終えて本件客室を出た。原告は,本件サービスの提供中から本件機器の存在に気付き,被告が本件機器を用いて盗撮に及んでいるのではないかと疑っていたため,本件客室を出た直後,インターネットを利用して「盗撮用カメラ」と検索したところ,本件機器と同種の機器が表示されたことから,本件風俗店のスタッフに連絡した。
 (甲7,弁論の全趣旨)
 (イ) 前記(ア)の連絡を受け,本件風俗店のスタッフは,直ちに本件客室に電話し,被告に対して,本件機器を確認するために本件客室に向かってよいか,尋ねたところ,被告はこれを拒否した(乙1,被告本人)。
 (ウ) 被告は,同日の夜は本件ホテルに宿泊する予定であったが,前記(イ)の電話の後,これを取りやめて本件客室(本件ホテルの5階に存する,501号室)を退出し,エレベーターを利用して同ホテルの3階又は4階で降り,廊下をうろつくなどした後,1階に存するフロントに向かった(乙1,被告本人,弁論の全趣旨)。
 (エ) 本件風俗店のスタッフは,本件ホテルの1階フロントにおいてチェックアウトの手続をしていた被告に対し,本件盗撮の事実について確認したところ,被告は,本件機器(SDカード等の記録媒体が挿入されていない状態のもの)を同スタッフに手渡して逃走した(甲7,乙1,被告本人,弁論の全趣旨)。
   エ 原告は,平成30年9月27日の後も,本件風俗店への勤務を継続したものの,令和元年5月頃,本件風俗店を退職した(甲7,乙1)。
  (2) 事実認定の補足説明
   ア 前記(1)ウ(エ)の認定に対し,被告は,本件風俗店のスタッフに「どうぞ。」と言って本件機器を差し出し,黙って受け取られたことから,そのままタクシー乗り場まで歩いて行った旨,この際当該スタッフから引き留められたことはない旨を供述し,逃走した事実を否定する(被告本人7頁,25ないし27頁)。
   イ しかし,前記(1)ウ(ア)ないし(ウ)の各認定事実によれば,本件風俗店のスタッフは,当時,被告が本件盗撮に及んだことを疑っていたのであるから,少なくとも,この点について被告に問いただし,本件機器にSDカード等の記録媒体が挿入されているか,挿入されていないのであればその所在を確認するのが通常かつ合理的であると考えられる。被告の前記アの供述内容は,不自然かつ不合理であって採用することができず,被告が逃走したとする原告本人の陳述書(甲7)の記載を採用し,前記(1)ウ(エ)のとおり認定するのが相当である。
 2 被告による本件盗撮の有無(争点(1))について
  (1)ア 前記第2の1(2)ア(特に別紙物件目録記載)のとおり,原告が被告に対して本件サービスを提供していた際に,本件客室内のテーブル上に置かれていた本件機器は,「モバイルバッテリー型ビデオカメラ」,つまり,携帯電話等の充電器(バッテリー)の形をした「ビデオカメラ」であり,「目に見えない不可視タイプだから撮影中も怪しまれにくい!」と説明され,充電(給電)機能をも備えているものの,「簡易給電」であり,「スマートフォンへのフル充電能力はありません。」,「すべての端末への給電を保証するものではありません。」とされ,あくまで主たる機能ではないことをうかがわせる説明が付されている。
 本件機器は,このほかにも,前記1(1)アのとおり,「超暗視」,「消灯 完全な暗闇 (中略)光学技術者により超暗視化された本製品で撮影!! 細部までクリア! このクラスとしてはこれまでの常識を覆す,超高性能赤外線LEDを採用!しかも目に見えない不可視型だから撮影中も怪しまれにくい!」,「景色に溶け込むカモフラージュ性」などと,暗闇においても,怪しまれずに撮影し得ることを強調する説明が付されている。
   イ これらの事情によれば,本件機器は,暗闇といい得るような条件下で,対象者に怪しまれずに,あるいは気付かれずに撮影することを目的とするビデオカメラであり,いわゆる無断撮影,盗撮を目的とするものであると認めるのが相当である。
 被告は,これを,本件客室においていわゆるデリヘル嬢である原告から性的サービス(本件サービス)の提供を受ける際,自身のスマートフォンに接続して同室内のテーブル上に置いていたのであるから,かかる事実からは,被告が本件盗撮を行った事実が疑われるというべきである。
  (2) また,前記1(1)ウのとおり,被告は,原告が本件客室(本件ホテルの5階に存する,501号室)を退出した後間もなくして,本件風俗店のスタッフから電話を受け,本件機器を確認するために本件客室に向かってよいか尋ねられたところ,これを拒否し,本件ホテルに宿泊する予定を取りやめて本件客室を退出し,エレベーターを利用して同ホテルの3階又は4階で降り,廊下をうろつくなどした。被告は,その後,同ホテルの1階に存するフロントにおいてチェックアウトの手続をしていたところ,本件風俗店のスタッフから,本件盗撮の事実について確認され,本件機器(SDカード等の記録媒体が挿入されていない状態のもの)を同スタッフに手渡して逃走している。
 これらの一連の被告の行動は,本件盗撮に及んだことが発覚することを防ぐためのものと理解するのが合理的であり,この点からも,被告が本件盗撮を行った事実が疑われるというべきである。
  (3)ア これに対し,被告は,本件盗撮を行った事実を否定し,本件機器について,フリーマーケットで購入した物であると思われ,携帯電話の充電器として使用していたにすぎない旨を主張し,本人尋問において同旨(ただし,本件機器の入手先については,フリーマーケットで購入した可能性に加え,自身の職場に勤務する者らの共有物を持ち出した物である可能性を指摘する。)の供述をするほか,その陳述書(乙1)にも,当該供述に沿う内容の記載がある。
   イ しかし,前記(1)のとおり,本件機器は,暗闇といい得るような条件下で,対象者に怪しまれずに,あるいは気付かれずに撮影することを目的とするビデオカメラであり,いわゆる無断撮影,盗撮を目的とするものであると認められるのであり,本件機器につき,「簡易給電」,「スマートフォンへのフル充電能力はありません。」,「すべての端末への給電を保証するものではありません。」などとされる給電(充電)機能のみを利用していたとするのは,合理性を欠く。また,前記1(1)イのとおり,本件ホテルには,全客室に,貸出し用の携帯電話充電器が備えられており,本件客室にもこれが備えられていたと認められるから,被告がこれを使用せず,あえて本件機器を利用するのは合理的でないと思われる。さらに,本件客室内でテーブル上に置かれていた被告のスマートフォンには,友人・知人らの連絡先等の個人情報が多数保存されていたと推認されるから,これを,フリーマーケットで購入した,あるいは職場から持ち出した共有物である充電器型ビデオカメラに接続するというのは,精密機械ともいうべきスマートフォンの,あるいは個人情報の取扱いとして,あまりに不用意な行動であり,この点からも合理性を欠くといえる。
 したがって,前記アの被告の供述等は信用性を欠くというべきであり,前記アの被告の主張を採用することはできない。
  (4) 以上によれば,被告は,本件客室において,原告から性的サービスである本件サービスの提供を受けていた際,本件機器を用いて本件盗撮に及んだと認めるのが相当である。
 これが原告に対する不法行為を構成することは明らかであり,被告は,原告に対し,不法行為による損害賠償責任を負うこととなる。
 3 原告の損害額及び因果関係の有無(争点(2))について
  (1) 逸失利益
 本件において,原告は,本件盗撮によるショックのため,本件盗撮後の3か月間,本件風俗店を欠勤することが多くなったとして,合計48万6000円の損害(逸失利益)を被った旨を主張し,本件風俗店の代表者が作成した支払証明書(甲4)には,平成30年10月から同年12月まで,原告がそれぞれ4日,3日,2日(合計9日間),本件風俗店を欠勤した旨の記載がある。
 しかし,被告は,原告から本件サービスを受けた際,原告が,年内は学会や就職活動があるため,なかなか出勤できないと発言していた旨を供述している(被告本人8頁)ため,原告が本件盗撮による被害を受けた後,平成30年10月から同年12月まで,本件風俗店を欠勤した事実があったとしても,その原因は,本件盗撮による精神的ショックとは別のもの(上記の学会や就職活動)であった可能性がある。このほか,原告が本件盗撮による精神的ショックにより本件店舗を欠勤するに至ったことを客観的・具体的に裏付ける証拠はない。
 そのため,原告が主張する上記の逸失利益については,本件盗撮との相当因果関係を認めるに足りないというほかない。
  (2) 慰謝料
 他方,被告の本件盗撮それ自体により,性的サービス中の状況を無断で撮影された原告が恐怖,不安を感じたことは,容易に推認される。
 それに加えて,本件サービスを受けていた被告が,その状況等を盗撮したこと(本件盗撮に及んだこと)からすると,その際,本件機器には盗撮した動画を保存するための記録媒体(SDカード等)が挿入されていたと推認されるにもかかわらず,前記1(1)ウ(エ)のとおり,被告が逃走の際に本件風俗店のスタッフに手渡した本件機器には,これが挿入されていなかったのであるから,原告が,自身が全裸で2時間にわたって性的サービスを提供する動画を記録した媒体がどこかに存在するのではないか,今後,これがインターネット上に流出・公開されるなどし,自身に不利益が及ぶ恐れがあるのではないかといった恐怖,不安を感じていることも,推認される。
 本件盗撮は,原告に対し,上記のような恐怖,不安を与えるものであり,この点を十分に斟酌する必要がある。このほか,本件盗撮の場所・時間・行為態様,撮影された動画内容,これが発覚した後の経緯,原告が本件風俗店を退職するに至るまでの経過など,本件において現れた一切の事情を併せて考慮すると,その精神的苦痛に対する慰謝料は,50万円と認めるのが相当である。
  (3) 小括
 以上のとおり,原告は,本件盗撮により50万円の損害を被ったものと認められる。
 4 結論
 よって,原告の請求は主文記載の限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
 なお,仮執行宣言については,主文第1項に限って認めるのが相当であるから,その限度で認めることとする。
 東京地方裁判所民事第12部
 (裁判官 大島広規)

複数回の児童ポルノ公然陳列罪は併合罪(京都地裁R2.9.18)

投稿先サーバーは同じ。
  別表1~4,6~11が判示第1の1と判示第1の2で起訴されて、科刑上一罪
  別表5が、判示第2で1罪
になって併合罪加重。処断刑期が7年6月

 別表5の画像はソフトな画像(非わいせつ)で、コレを投稿したがために、包括一罪でなくなって、処断刑期が1.5倍になる。

京都地裁R2.9.18
【法令の適用】
罰条
判示第1の1の所為のうち,わいせつ電磁的記録記録媒体陳列の点及び判示第1の2の所為につき包括して刑法175条1項前段に該当する。
判示第1の1の所為のうち,児童ポルノ公然陳列の点及び判示第2の所為につき,各画像データごとにそれぞれ児童ポルノ法7条6項前段(2条3項2号,3号)に該当する。

科刑上一罪の処理
判示第1の1の所為は,1個の行為が10個の罪名(わいせつ電磁的記録記録媒体陳列の包括的一罪と9個の児童ポルノ公然陳列)に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条により,判示第1の2のわいせつ電磁的記録記録媒体陳列も含め,1罪として刑及び犯情の最も重い別表番号4の画像についての児童ポルノ公然陳列の罪の刑で処断する。


刑種の選択
判示第1ないし第3の各罪につき所定刑中いずれも懲役刑を選択

併合罪の処理
刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯情の最も重い判示第1の罪の刑に法定の加重)

別表番号 投稿日投稿時刻 児童ポルノの号数 わいせつ性
1 1月11日午後1時45分 2号 わいせつ
2 1月11日午後1時46分 3号 わいせつ
3 1月11日午後1時47分 3号 わいせつ
4 1月11日午後1時48分 3号 わいせつ
5 2月11日午後2時46分 3号 非わいせつ
6 2月11日午後2時47分 非該当 わいせつ
7 4月19日午後4時48分 3号 わいせつ
8 4月19日午後4時49分 3号 わいせつ
9 7月20日午後5時50分 3号 わいせつ
10 8月21日午後7時51分 3号 わいせつ
11 8月29日午後9時52分 3号 わいせつ

サイト管理者らによるわいせつ電磁的記録等送信頒布被告事件につき再犯加重した上で執行猶予(刑法25条1項2号)を付した事例(名古屋地裁R02.10.22)

サイト管理者らによるわいせつ電磁的記録等送信頒布被告事件につき再犯加重した上で執行猶予(刑法25条1項2号)を付した事例(名古屋地裁R02.10.22)
 警察官に頒布したということは買受捜査ですね。
 罰金は実刑です。

第一七五条(わいせつ物頒布等)
1 わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。
2有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。

第二五条(刑の全部の執行猶予)
1 次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。
一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者

主文
 被告人を懲役1年及び罰金100万円に処する。
 その罰金を完納することができないときは,1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
 この裁判確定の日から3年間その懲役刑の執行を猶予する。
理由
 (罪となるべき事実)
 被告人は,アダルト動画像データ販売ウェブサイト「a」を管理運営するものであるが,同サイト創業者のA,同サイトのシステムを総括するB1ことB,同サイトの管理運営等を担当するC及び氏名不詳者と共謀の上,
令和元年6月21日,「b社」が管理するサーバコンピュータにあらかじめ記録・保存させた女性器等を露骨に撮影したわいせつな画像データ1点を含むデータフォルダ1点(商品名○○)を,前記「a」を利用して同サーバコンピュータにアクセスした不特定の者であるDが使用する名古屋市〈以下省略〉愛知県c警察署に設置されたパーソナルコンピュータに送信させる方法により,同パーソナルコンピュータに記録・保存させ,電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録を頒布した。
 (証拠の標目)
 (累犯前科)
 (法令の適用)
 罰条 刑法60条,175条1項後段
 刑種の選択 懲役刑及び罰金刑を選択
 再犯加重 刑法56条1項,57条(判示の罪の懲役刑に加重)
 労役場留置 刑法18条
 刑の執行猶予 刑法25条1項(懲役刑について)
 (量刑の理由)
 本件は,わいせつな画像の出品を受け,これをアップロードして,不特定の客に販売するウェブサイトを運営するなかで敢行された犯行であり,海外に活動拠点を置くなど巧妙かつ組織的な犯行である点で悪質である。被告人は,共犯者のBの紹介により,分け前欲しさに,サイト運営に関与することになった挙げ句,本件に及んでおり,その関与には営利性,職業性が認められる。このように,本件の動機,経緯等に特段酌むべき事情は見当たらず,被告人が前刑執行終了から5年以内に本件を犯したことも考慮すると,被告人の意思決定は,強い非難に値する。
 もっとも,起訴された共犯者の中では,被告人の地位は最も低く,分け前も最も少ない。この事情は,被告人に有利に考慮する必要がある。その他,被告人が,本件犯行を素直に認め,反省の情を示すとともに,共犯者らとの関係を断ち切り,正業に就き更生する意欲を示していること,被告人の母親が情状証人として出廷し,被告人の監督を誓約していることなど,被告人にとって酌むべき事情も認められる。さらに,前刑の判決宣告から10年近く経過しており,同種の前科は見当たらない。
 以上の諸事情を考慮して,懲役刑については,今回に限りその刑の執行を猶予することとした。
 (求刑 懲役1年及び罰金100万円)
 (検察官加藤幸裕,私選弁護人北澤嘉章各出席)
 名古屋地方裁判所刑事第5部
 (裁判官 板津正道)

送信させる型強制わいせつ罪は16件

  強制わいせつ罪説というのは、奥村弁護士独自の見解です。高裁で5回位否定されています。
 「強制わいせつ罪で逮捕」という報道を追いかけても、検事が弱きで、強要になったり起訴猶予になったりで、収集困難です。
 
 
東京 地裁 H18.3.24
大分 地裁 H23.5.11
東京 地裁 H27.12.15
高松 地裁 H28.6.2
横浜 地裁 H28.11.10
松山 地裁 西条 H29.1.16
高松 地裁 丸亀 H29.5.2
岡山 地裁 H29.7.25
札幌 地裁 H29.8.15
札幌 地裁 H30.3.8
東京 地裁 H31.1.31
長崎 地裁 R1.9.17
高松 地裁 丸亀 R2.9.18
熊本 地裁 R3.1.13
京都 地裁 R3.1.21
京都 地裁 R3.2.3 製造と強制わいせつ罪は観念的競合

 公刊されている送信させる強制わいせつ罪の裁判例はこの2件
 わいせつの定義は示せないのに、自慰行為させて撮影すると強制わいせつ罪かな。

長崎地方裁判所令和1年9月17日
(犯罪事実)
被告人は、A(当時16歳)から入手した同人の画像データ等を利用して強いてわいせつな行為をしようと考え、
平成30年10月26日午後10時6分頃から同月27日午前2時21分頃までの間に、D市内又はその周辺において、自己の携帯電話機及びタブレットから、同人が使用する携帯電話機に、アプリケーションソフト「E」の通話機能及びビデオ通話機能を利用して通信し、D市内にいた同人に対し、「写真を援助交際サイトに載せる。」「学校や家の近くに何人かの人が来る。」「連れていかれたことがある。」などと脅迫し、もしこの要求に応じなければAの自由や名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨畏怖させ、その反抗を著しく困難にし、ビデオ通話機能を通じて、同人に胸や陰部を露出した姿態及び陰部を指で触るなどした姿態をとるよう指示し、同人にそれをさせた上、その姿態の映像を前記ビデオ通話機能を用いて被告人の携帯電話機に送信させ、
もって強いてわいせつな行為をした。

大分地判平成23年5月11日
強制わいせつ,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
(罪となるべき事実)
 被告人は,
第3 A子(当時14歳)に強いてわいせつな行為をしようと企て,
平成○年×月12日午後3時53分頃から同月14日午前6時40分頃までの間,55回にわたり,前記被告人方において,被告人の携帯電話機ないしゲームサイト「G」のメール機能を利用して,同女の携帯電話機及び「G」上の同女が閲覧できるメール受信箱に「送らんとマジでB中にいけんように画像ばらまくよ」「B中学生の全員に画像送るから」「マンコを指でひろげたやつを撮れ」「乳首つまんだやつ撮れ」「まだ終わりやないよ」「胸なめよんやつ撮れ」「メールせんならゲームオーバー」「今日中に送らなかったら明日から家の外でれないね」「マンコの中がみえるように指でつまんでひろげろ」などと記載した電子メールを送信し,その頃,同女方において,同女をして,その電子メールを閲覧させて脅迫し,
別表3記載のとおり,同月12日午後9時2分頃から同月14日午前6時50分頃までの間,21回にわたり,同女方において,同女をして乳房を露出させたり,陰部に指を挿入させるなどした姿態をとらせた上,その姿態を同女の携帯電話機で撮影させてその画像データを被告人の携帯電話機に電子メール添付ファイルとして送信させ,
もって強いてわいせつな行為をした
・・・
2 まず,本件で強制わいせつ罪が成立するかどうか検討する。
 本件の事案は,被告人がメールにより送信した脅迫,指示の回数が55回と多く,被害者からこれに応えてメールに添付してわいせつな映像を送付した回数も21回と多い点で,弁護人が指摘する下級審裁判例の事案と異なっているようにも思われる。
 すなわち,本件において,被害者が終わりにしようという趣旨のメールを被告人に送ってメールアドレスを変更した後,被告人は,ゲームサイトのメール機能を使って被害者を脅迫し,さらに,携帯電話機のメール機能を使って,「上脱いで撮れ」「パンツも脱いで撮れ」「下から撮れ」「マンコ指で開いてみせろ」「指で開けって」「開いて中がみえるやつな」「ちゃんと入れちょんのがわかるようにうつせ」「マンコを指でひろげたやつを撮れ」「指2本」「胸寄せて撮れ」「乳首つまんだやつ撮れ」「胸なめよんやつとれ」などと順次わいせつな内容の指示をしつつ,わいせつな内容の添付ファイルが届くと,これを確認しつつ,次の指示を出す形で,被告人の具体的な指示に従って被害者をしてわいせつな行為を次々とさせている。
 そうすると,本件では,被告人のわいせつな内容の具体的指示に基づいて,被害者が継続的にわいせつな行為を強いられており,わいせつ性や被害者の性的自由が侵害された程度が大きいと認められる。よって,本件を強制わいせつ罪として起訴した点が不当とまではいえず,本件では,強要罪にとどまらず,強制わいせつ罪が成立するといえる。

 強要罪構成はたくさんあって、最近ではこんなのがある
 乳房陰部露出させて撮影させるくらいは、強要罪で、
 指挿入とか自慰行為させるまでいくと強制わいせつ罪かなあ。

千葉地裁H31.2.22
(罪となるべき事実)
 被告人は,
 第1 ■■■(当時16歳)の性行為を撮影した動画を入手したと装って同人を脅迫し,被告人との性交等に応じさせようと考え,
 2 同月5日午後4時10分頃から同日午後7時54分頃までの間,前記千葉市□□消防署△△出張所において,被告人の使用する携帯電話機から,前記「ツイッター」のダイレクトメール機能を利用して,前記■■が使用する携帯電話機に,「今日暇だから自撮りでも送ってよ」「むねとかね」「あーいいんだー」「まわっても」等のメッセージを送信し,いずれもその頃,前記■■において,前記■■にこれらを閲覧させ,同人の胸を撮影した画像の送信を要求し,その要求に応じなければ,同人の名誉に危害を加えかねない旨を告知して同人を脅迫し,同人を怖がらせ,よって,同日午後7時37分頃から同日午後7時59分頃までの間,3回にわたり,同人に,乳房を露出するなどした姿態をとらせ,これを同人の携帯電話機で撮影させた上,前記「ツイッター」のダイレクトメール機能を利用して,その画像データ3点を被告人の使用する携帯電話機に送信させ,もって前記■■に義務のないことを行わせた。"
・・
大阪地裁H30.6.26
第2(平成29年11月8日付け起訴状記載の公訴事実第1)
   Bの裸体写真等を既に入手していたことを利用し,更に同人に乳房等の写真を撮影させ,その画像データを被告人宛てに送信させようと考え,別表1記載のとおり,平成29年4月12日から同年5月23日までの間,大阪市淀川区(以下略)当時の被告人方において,Bに対し,アプリケーションソフト「LINE」を利用して,被告人の携帯電話機からBの携帯電話機宛てに,「俺言う事聞かんカスはとことんまでやる主義なんで」「写真に住所と中学名とフルネームはってあるから」「家の周りにとかにもくばっとくわな」「俺は完全な奴隷以外いらんのよ」「今すぐ顔つきで裸おくれ」等と記載したメッセージを送信し,いずれもその頃,Bにこれらのメッセージを閲読させて脅迫し,同人をして,もしこの要求に応じなければ,同人の裸体等の画像データを不特定多数の者に頒布するなど,同人の名誉にいかなる危害を加えられるかもしれない旨畏怖させ,よって,別表2記載のとおり,同年4月30日午後7時44分頃から同年5月23日午後10時16分頃までの間,5回にわたり,同人に,前記「LINE」を利用して,同人の乳房等の画像データ5点を被告人の携帯電話機に送信させ,もって人に義務のないことを行わせ"

わいせつの定義がない。「新コンメンタール刑法第2版」

 羅列した裁判例から推測しろということでしょうか。

I 法益
個人の性的自由ないしは性的自己決定権とする見解が多数説である(井田.各論106頁以下は、性的自己決定権を、身体的親密領域を侵害しようとする性的行為からの防御権と捉える)。被害者の性的差恥心を含むとする見解もあり得るが、性的行為の意味を理解し得ない幼児等へのわいせつ行為の説明に不都合をきたすことになろう(中森・各論65頁(注38))。
・・

「わいせつな行為」について、裁判例では、公然わいせつ罪(刑174条)、わいせつ物頒布等罪(刑175条) と|司様、「徒らに性欲を興奮又は刺激せしめ、且つ普通人の正常な性的差恥心を害し、善良な性的道義観念に反する」という基準が示されるが(名古屋高金沢支判昭36.5.2下刑集3巻5=6号399頁)、学説上は、性的自由を侵害するという観点から構成する見解が有力である。
具体的には、陰部に手を触れる(前掲・名古屋高金沢支判昭36.5.2)、女性の乳房に手を触れる(11, 12歳の女児に対するものとして、大阪地堺支判昭36・4・12下刑集3巻3=4号319頁。
なお、性的自由の侵害の見地からは、男性に対する場合も含み得るであろう)、啓部に触れる(仙台高判平25・9・19高刑速(平25)号250頁。
否定例として、名古屋地判昭48・9・28判時736号110頁[10歳の少女に対するもの〕) といった、性的にセンシテイブな部位への身体接触がこれにあたる。
判例ではそのほか、肛門に異物を挿入する(東京高判昭59・6・13刑月16巻5=6号414頁〔男児に対する準強制わいせつの事案] )、自慰行為をして射精し精液を陰部に付着させる(奈良地判平30・12・25LEX/DB25561976 [準強制わいせつの事案〕)、裸にして写真を撮る(東京高判昭29.5.29判特40号138頁〔ただし、被害者の陰部を手指で弄ぶ行為もしている〕)、内縁関係にある男女を裸体にして性交の姿態および動作をとらせる(釧路地北見支判昭53・10・6判タ374号162頁)、行為者の面前で下着まで脱いで着替えさせる(東京高判平15・9.29束高刑時報54巻l~12号67頁〔準強制わいせつの事案] )といった行為も、わいせつ行為にあたるとされる。
また、公然わいせつ罪等との保護法益の相違からは、相手方にキスするよう強制するような場合も含まれることになる(見ず知らずの女子の肩に抱きついて接吻しようしたところ、果たせなかった事案につき強制わいせつ未遂罪の成立を認めたものとして、高松高判昭33.2.24高刑特5巻2号57頁)。
なお、口淫や肛門への男性器の挿入、男性に対する女性との性交の強制は、平成29(2017)年改正により、強制性交等として刑法177条の罪に含まれることとなった(つまり、強制性交等は、本罪の加重規定と解される)。
電車内での痴漢行為のうち、着衣の上から触れる程度にとどまるものは、直ちに「わいせつな行為」にあたるわけではなく、都道府県の迷惑防止条例違反の罪となり得る。

本罪における「わいせつな行為」に内容につき、行為者の性的意図の要否に関してかねてより議論されてきた。
これについては、Ⅳで主観的要件として解説する。

本罪は、暴行・脅迫によりわいせつ行為が行われた時点で既遂に達する。
13歳未満の者に対し暴行・脅迫によらずに犯される場合は、わいせつ行為のみで本罪が成立する。
その意味で、本罪は挙動犯と理解し得る(大谷・各論122頁参照)。
未遂については、刑180条の解説を参照。
(安達光治)

市議会議員であった被告人が,コロナ禍における市民サービス改善のため,市役所職員を叱咤激励するためとして,市役所に爆破予告文書を送り,市役所職員の業務を妨害した威力業務妨害被告事件(岐阜地裁r02.10.23)

市議会議員であった被告人が,コロナ禍における市民サービス改善のため,市役所職員を叱咤激励するためとして,市役所に爆破予告文書を送り,市役所職員の業務を妨害した威力業務妨害被告事件(岐阜地裁r02.10.23)
 同機はそのまま認定されたようです

威力業務妨害被告事件
岐阜地方裁判所令和2年10月23日
       主   文

被告人を懲役1年に処する。
この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人の負担とする。


       理   由

【罪となるべき事実】
 被告人は,
第1 令和2年4月30日午前9時23分頃,岐阜県関市若草通3丁目1番地関市役所設置の市長公室及び秘書課宛ての新聞紙専用ポストに「5/1午前中ニシヤクショ2カショデ バクダンガ シカケテアリマス ケイサツニ レンラクシテ ハヤクシマツシナイト タイヘンナコトにナリマスヨ」などと記載した文書在中の封書1通を投函し,同年5月1日,同市役所秘書課長bらにその内容を閲覧させ,同日午前8時50分頃から同日午前9時35分頃までの間,同市役所職員らに,同市役所及びその周辺の不審物等の検索,警戒,警察への相談等の措置をとることを余儀なくさせ,同市役所職員らの正常な業務の遂行に支障を生じさせ,
第2 令和2年5月2日頃,岐阜県関市α×番×号に設置された郵便ポストから,「ショデハ,○○○○ △△△ □□ノ、タイオウガ マッタクキノウシテオリマセンヨ、コノママホッテオクト センジツノヨウナバクダンジケンガコノGW中にシカケラレ、5/7、8アタリデ □□ ○○○ ホンチョウアタリデ バクダンサワギガ、キットオキまスヨ」などと記載した文書在中の封書1通を同市β×××××番地c事務所宛てに郵送し,同月7日,同封書1通を同事務所に到達させた上,同事務所所長dらにその内容を閲覧させ,同日午後2時50分頃から同日午後4時40分頃までの間,関市役所職員らに,同事務所ほか3か所及びその周辺の不審物等の検索,警戒,警察への相談等の措置を執ることを余儀なくさせ,同市役所職員らの正常な業務の遂行に支障を生じさせ,
もっていずれも威力を用いて人の業務を妨害した。
【証拠の標目】《略》
【法令の適用】
罰条 判示第1及び第2につき,いずれも刑法234条,233条
刑種の選択 いずれも懲役刑
併合罪の処理 刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の重い判示第2の罪の刑に法定の加重)
刑の全部執行猶予 刑法25条1項
訴訟費用 刑事訴訟法181条1項本文(全部負担)
【量刑の理由】
 本件は,当時現職の市議会議員であった被告人が,コロナ禍における市民サービス改善のため,市役所職員を叱咤激励するためとして,市役所に爆破予告文書を送り,市役所職員の業務を妨害したというものである。たとえ目的が被告人の供述するとおりであったとしても,被告人のとった対応が誤りであるのは明らかで,動機・経緯に酌み得る点があるとはいえない。また,これにより相当数の職員が対応を余儀なくされており,結果も相応に大きい。被告人の刑責は軽くない。 
 もっとも,事実を認め反省の弁を述べていることや,被告人の長男が公判廷で被告人の監督を申し出ていること,前科前歴がないことなど,被告人に酌み得る事情も認められる。これらも踏まえると,被告人については,主文の懲役刑を科した上で,その全部の執行を猶予するのが相当である。
(求刑 懲役1年)
(検察官森川奈津,弁護人中山敬規各出席)
令和2年10月23日
岐阜地方裁判所刑事部
裁判官 守屋尚志

被告が迷惑条例違反(飲食店のトイレ盗撮)の執行猶予判決を受けたことなどを理由として、居住用貸室の賃貸借契約の解除を有効とした事例(東京地裁R2.1.24)

東京地方裁判所令和02年01月24日
判決
東京都(以下略)
原告 X
同訴訟代理人弁護士 岩﨑精孝
東京都(以下略)
被告 Y

主文
1 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の建物を明け渡せ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
  主文同旨
第2 事案の概要等
 1 事案の概要
  本件は、別紙物件目録記載の建物(以下「本件貸室」という。)の共有持分を有する原告が、本件貸室を占有する被告に対し、共有持分権に基づき、本件貸室の明渡しを求める事案である。
 2 前提事実(当事者間に争いがないか、証拠(枝番の表記は省略)及び弁論の全趣旨から容易に認められる事実)
  (1) Aは、平成15年頃、被告との間で、次の約定で、本件貸室を被告に賃貸する旨の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結し、同契約に基づき、被告に本件貸室を引渡した。
  ア 賃料 月額9万5000円
  イ 使用目的 住居
  ウ 期間 定めなし
  (2) Aは、平成16年4月24日、死亡し、原告とB(以下、両名を「原告ら」という。)は、本件貸室について、各2分の1の持分割合で相続し、本件賃貸借契約の賃貸人の地位を承継した。(甲1)
  (3) 被告が東京都内の飲食店のトイレ内に小型カメラを設置し、盗撮した動画をインターネット上で販売していたことが発覚し、平成30年10月3日、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反(以下「一度目の条例違反行為」という。)の被疑事実で逮捕された。被告は、その後、一度目の条例違反行為について、執行猶予付きの有罪判決を宣告され、同判決は、平成31年2月1日、確定した。
  (4) 被告が東京都内の飲食店のトイレ内に小型カメラを設置し、盗撮を行ったとして、令和元年7月3日、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反等(以下「二度目の条例違反行為」といい、一度目の条例違反行為と併せて「本件各条例違反行為」という。)の被疑事実で逮捕され、現在、勾留中である。
  (5) 捜査機関は、本件各条例違反行為の捜査の際、本件貸室において、捜索差押をそれぞれ実施した。
  (6) 原告らは、令和元年11月4日、被告の背信行為を理由に、被告に対し、本件賃貸借契約を解除するとの意思表示をした。(甲9)
  (7) 被告は、本件貸室を占有している。
  3 争点及びこれに関する当事者の主張
  原告らは、被告の本件各条例違反行為が原告らとの信頼関係を破壊する背信行為に当たるとして、本件賃貸借契約を解除することができるか。
  (原告の主張)
  一度目の条例違反行為は、テレビや週刊誌等で報道され、本件貸室を賃借居住している被告の犯行であることが公知の事実となった。
  そのため、原告らは、本件貸室の入る建物(以下「Cビル」という。)に入居している他の賃借人との間の正常な賃貸借契約関係を維持することが困難となった。また、本件各条例違反行為がいわゆる盗撮であることからすると、原告らは、新たにCビルに入居を希望する賃借人と賃貸借契約を締結するに当たり、重要事項説明書に本件各条例違反行為の事実を記載し説明しなければならなくなり、新たにCビルに入居を希望する者との間の賃貸借契約の締結が著しく困難な状況に陥った。
  また、本件各条例違反行為の捜査のため、本件貸室において、二度の捜索差押が実施された。
  本件各条例違反行為は、原告らと被告との信頼関係を破壊する背信行為であり、原告らは、本件賃貸借契約を解除することができる。
  (被告の主張)
  メディアは、詳細に報じているものでも町名までであり、被告が本件貸室に居住していることが公知の事実ということはない。被告は、Cビルに入る他の賃借人との付き合いは一切なく、原告らが他の賃借人との正常な賃貸借契約関係を維持するのが困難となることはないし、犯罪行為が本件貸室内で行われたわけではないから、原告が新たな賃貸借契約を締結する際に重要事項説明書に記載する義務もない。
  したがって、原告らは、本件賃貸借契約を解除することはできない。

第3 当裁判所の判断
 1 認定事実
  証拠(甲1ないし4、6)及び弁論の全趣旨によれば、前提事実に加え、以下の事実を認めることができる。
  (1) 被告は、東京都内の飲食店のトイレ内に小型カメラを設置し、盗撮した動画をインターネット上で販売していたことが発覚し、平成30年10月3日、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反(一度目の条例違反行為)の被疑事実で逮捕された。捜査機関は、前記被疑事実の捜査のため、本件貸室を捜索場所として、捜索差押を実施した。
  Dは、平成30年10月26日、被告の実名及び丁目までの住所を明らかにした上、被告を私事性的画像被害防止法違反の疑いで同月25日に再逮捕したこと、被告が約1年前からトイレで用を足す女性約300人分の動画を盗撮、販売仲介サイトに投稿し、約1000万円の利益を得たとみられること、同月3日に一度目の条例違反行為で被告を逮捕していたことなどの警察発表を報道した。
  Eは、平成30年11月8日号において、被告の顔写真、実名入りで、被告がトイレの盗撮動画をインターネットで販売したなどとする記事を掲載した。また、インターネット上のニュースサイトは、前記Eの記事を再掲した。
  被告は、一度目の条例違反行為について、執行猶予付きの有罪判決を宣告され、同判決は、平成31年2月1日、確定した。
  (2) 原告は、平成31年2月19日、本件訴訟を提起した。被告は、同年4月12日の第1回口頭弁論期日、令和元年5月23日の第1回弁論準備手続期日、同年6月27日の第2回弁論準備手続期日に出頭した。
  (3) 被告は、東京都内の飲食店のトイレ内に小型カメラを設置し、盗撮を行ったとして、令和元年7月3日、建造物侵入、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反(二度目の条例違反行為)の被疑事実で逮捕され、現在、勾留中である。捜査機関は、前記被疑事実の捜査のため、本件貸室を捜索場所として、再び捜索差押を実施した。
  Fは、令和元年7月5日、被告について二度目の条例違反行為の疑いがあること、警察発表によれば、被告は取調べで被疑事実を認めていることなどを報道した。
  被告は、刑事裁判において、二度目の条例違反行為の事実を否認している。
  (4) 原告らが所有するCビルは、5階建てのビルであり、本件貸室と同じ3階にも、本件貸室のほかに複数の貸室があり、原告らはこれらを賃貸している。
 2 争点に対する判断
  (1) 賃貸借の当事者の一方に、その義務に違反し、信頼関係を裏切って賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような行為があった場合には、相手方は催告を要せず賃貸者契約を解除することができるが(最高裁昭和31年6月26日第3小法廷判決・民集10巻6号730頁)、この義務違反には、必ずしも賃貸借契約(特約を含む。)の要素をなす義務の不履行のみに限らず、賃貸借契約に基づいて信義則上当事者に要求される義務に反する行為も含まれるものと解すべきである(最高裁昭和47年11月16日第1小法廷判決・民集26巻9号1603頁参照)。
  (2) 前記認定事実によれば、被告は、本件貸室において盗撮を行ったものではないが、盗撮した動画をインターネット上で販売しており、捜査機関は、本件貸室を捜索場所として、捜索差押を実施していること、被告は、一度目の条例違反行為により、執行猶予付き有罪判決を受け、同判決は確定したこと、一度目の条例違反行為について、実名で丁目までの住所を明らかにした上で、報道した新聞があったほか、被告の顔写真入り、実名で記事を掲載した週刊誌があったこと、本件貸室の入るCビルは、被告以外の複数の第三者に賃貸する収益物件であることが認められる。
  以上の事実を前提とすると、被告の行為は、一度目の条例違反行為のみをみても、Cビルの収益に悪影響をもたらすものといえ、賃貸人に損害を与えないという賃借人の信義則上の義務に反し、賃貸人である原告らの信頼を裏切って本件賃貸借契約の継続を著しく困難ならしめるような背信行為であると認められる。なお、二度目の条例違反行為については、被告がこれを否認し、有罪判決が確定しているものではないことから、現段階でこれを考慮するのは相当ではない。
  したがって、原告らは、一度目の条例違反行為が原告らと被告との信頼関係を破壊する背信行為に当たるとして、本件賃貸借契約を解除することができる。
第4 結論
  以上のとおり、原告の請求は理由があるから認容し、仮執行宣言を付するのは相当ではないからこれを付さないこととし、よって、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第32部
裁判官 樋口真貴子
別紙(省略)

脅して裸の画像を送らせる強制わいせつ被告事件(送信型強制わいせつ罪)

確認しただけで15件になりました。
高裁判例はありません。

強要罪構成は50件くらい。
奥村は個人的には強制わいせつ罪説。


東京 地裁 H18.3.24
大分 地裁 H23.5.11
東京 地裁 H27.12.15
高松 地裁 H28.6.2
横浜 地裁 H28.11.10
松山 地裁 西条 H29.1.16
高松 地裁 丸亀 H29.5.2
岡山 地裁 H29.7.25
札幌 地裁 H29.8.15
札幌 地裁 H30.3.8
東京 地裁 H31.1.31
長崎 地裁 R1.9.17
高松 地裁 丸亀 R2.9.18
熊本 地裁 R3.1.13
京都 地裁 R3.1.21