刑事判決で、デリヘルは公然わいせつ罪になるかのような判決もありますが、そういう反論はなかったようです。
某地裁H22
ツーショットチャットは公然わいせつ行為にあたらないという主張
→少数であっても不特定であれば足りる
現に少数であっても不特定又は多数の者を勧誘した結果であったり反復する意図がある場合には結局不特定又は多数の者が認識しうる状態である(最決s31.3.6 裁集刑112号601号 最決s33.9.5 刑集12巻13号2844ページ 大阪高裁s30.6.10 高刑集12巻13号2844号
令和 2年 1月29日
東京地裁 判決
損害賠償請求事件
原告
X
同訴訟代理人弁護士
山崎明宏
被告
Y
同訴訟代理人弁護士
若林翔
同
森脇慎也主文
1 被告は,原告に対し,50万円及びこれに対する平成30年9月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを7分し,その3を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由第1 請求
被告は,原告に対し,118万6000円及びこれに対する平成30年9月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,無店舗型性風俗特殊営業を営む風俗店において接客従業者(いわゆるデリヘル嬢)として勤務していた原告が,原告から性的サービスを受けた被告(顧客)に対し,被告に対する性的サービス中の状況等を被告が原告に無断で撮影したと主張して,不法行為による損害賠償請求権に基づき,損害として主張する慰謝料等の合計額118万6000円及びこれに対する不法行為日とする平成30年9月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
なお,被告は,当該無断撮影(盗撮)の事実を否認している。
1 争いのない事実等
以下の事実は,いずれも当事者間に争いのない事実又は証拠等によって容易に認定することのできる事実であり,後者については,末尾に認定根拠を掲記する。
(1) 当事者等
ア 原告は,無店舗型性風俗特殊営業を営む風俗店「a店」(「a1店」とも表記される。以下「本件風俗店」という。甲3)において,接客従業者(いわゆるデリヘル嬢)として勤務していた女性である。
イ 被告は,本件風俗店の常連客の男性である。
(2) 性的サービスの提供等
ア 原告は,平成30年9月27日午前零時頃,s区〈以下省略〉所在のbホテル501号室(以下,当該ホテルを「本件ホテル」と,当該客室を「本件客室」という。)において,被告に対し,性的サービス(2時間コース。以下「本件サービス」という。)の提供を開始した(甲5,7,9,乙1,弁論の全趣旨)。
本件サービスの提供中,本件客室内のテーブル上には,別紙物件目録記載の小型の機器(甲1。以下「本件機器」という。)が,被告のスマートフォンにケーブルで接続した状態で置かれていた(以下,この際に被告が本件機器を用いて行ったとされる盗撮行為を「本件盗撮」という。)。
イ 原告は,被告に対する本件サービスの提供を終え,同日午前2時25分頃までに,被告を残したまま,本件客室を退出した(甲7,乙1,弁論の全趣旨)。
(3) 本件機器の引渡し等
本件風俗店のスタッフは,原告が本件客室を退出してから程なくして,原告から,被告が本件盗撮に及んだ疑いがある旨の連絡を受け,被告に電話をした上で,本件ホテルに行き,その1階フロント付近において,被告から本件機器の引渡しを受けた。
同スタッフが引渡しを受けた本件機器には,SDカード等の記録媒体が挿入されていなかった(元々挿入されていなかったのか,被告がこれを抜き取ったのかについては,当事者間に争いがある。)。
(以上につき,甲7,乙1,弁論の全趣旨)。
2 争点
(1) 被告による本件盗撮の有無
(2) 原告の損害額及び因果関係の有無
第3 争点に対する当事者の主張
1 被告による本件盗撮の有無(争点(1))について
(原告の主張)
(1) 本件風俗店の接客従業者である原告が同意していたのは,性的サービスの利用者に対してその場限りのものとしてこれを提供することにとどまり,その状況を写真や動画にて撮影することについては同意していない。そのため,原告は,性的サービスの利用者である被告との関係であっても,名誉感情やプライバシー権に基づき,自らの裸や性的行為を無断で写真や動画に撮られないという法的利益を有している。
(2) 被告は,原告に無断で,本件客室内に本件機器を持ち込んでテーブル上に設置し,原告が提供する性的サービスの一部始終を録画(盗撮)しており,かかる被告の行為は,原告の名誉権及びプライバシー権を侵害する違法なものであって,不法行為を構成する。
また,仮に何らかの事情により撮影が成功しなかったとしても,盗撮を試みたこと自体が原告の名誉権及びプライバシー権を侵害する違法なものであるから,不法行為の成否に影響を及ぼすものではない。
(被告の主張)
被告は,普段から,本件機器を携帯電話の充電のために使用しており,本件機器が充電以外の機能も備えていることは知っていたものの,充電以外の目的で本件機器を使用したことはなく,充電以外の機能の使用方法は知らなかった。また,被告は,本件機器においてSDカードを使用したこともない。
被告は,本件客室において原告から本件サービスの提供を受けていた際も,本件機器を携帯電話(スマートフォン)の充電のために使用していたのであり,本件盗撮に及んだ事実はない。
2 原告の損害額及び因果関係の有無(争点(2))について
(原告の主張)
(1) 原告は,被告の本件盗撮によりショックを受けて本件風俗店の仕事(性的サービスの提供)に従事するのが辛くなり,本件盗撮後の3か月間,本件風俗店を欠勤することが多くなった。原告は,本件風俗店において,本件盗撮前の時点では,平均して月額37万5000円の収入を得ていたにもかかわらず,本件盗撮の影響により,平成30年10月以降の収入が月額平均21万3000円にとどまるようになったため,逸失利益として,次のとおり,合計48万6000円の損害を被った。
(計算式)(37万5000円-21万3000円)×3か月分=48万6000円
(2) また,原告は,被告の卑劣な本件盗撮により,著しい恐怖,不安を感じることとなったばかりでなく,被告のその後の不誠実な対応によって更に尊厳を傷つけられており,その慰謝料は70万円を下らない。
(3) したがって,原告は,被告の本件盗撮により,前記(1),(2)の合計118万6000円の損害を被ったというべきである。
(被告の主張)
(1) 原告の本件風俗店における収入が減少したことを認めるに足る証拠はない上,仮に減収の事実があったとしても,それは,就職活動や学会出席といった本件盗撮とは別の原因によるものであり,相当因果関係が認められない。
(2) 被告は,本件盗撮に及んでいないのであるから,被告が原告の損害賠償請求に応じないことをもって不誠実な対応と評価することはできない。また,原告から本件盗撮の相談を受けた本件風俗店のスタッフ(従業員)は,被告に対し,「正直に言えば30万円で俺が社長に言わないで何とかしてやる」と述べていたことからすると,原告も,同額の支払があれば本件を解決し得ると考えていたといえるから,原告の慰謝料額は30万円を超えるものではない。
第4 当裁判所の判断
1(1) 認定事実
証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実を認めることができる。なお,認定の主たる根拠となった証拠を,その末尾に掲記する。
ア 本件機器については,平成31年1月当時,同じ機種の未使用の新品が,インターネット上において,1万5200円を開始価格としてオークションにかけられており,別紙物件目録記載の各事項(特に「商品説明」及び「注意事項」部分に記載の各事項)のとおり説明等されているほか,次のように紹介されている(甲1)。
(ア) 「超暗視 光学技術者プロデュース」
(イ) 「超強力 赤外線LED」,「赤外線ライトの不可視化」,「照射距離の大幅延長」
(ウ) 「※本製品の赤外線は実際には見えません。」
(エ) 「消灯 完全な暗闇 ⇒ 一般的な赤外線搭載タイプで撮影 輪郭は見えますがよくわかりません。 ⇒ 光学技術者により超暗視化された本製品で撮影!! 細部までクリア! このクラスとしてはこれまでの常識を覆す,超高性能赤外線LEDを採用!しかも目に見えない不可視型だから撮影中も怪しまれにくい!」
(オ) 「景色に溶け込むカモフラージュ性」,「実際に給電できる高い実用性」
イ 本件ホテルには,全客室に,貸出し用の携帯電話充電器が備えられている(甲9)。
ウ(ア) 原告は,平成30年9月27日午前零時頃,被告に対し,互いに全裸の状態で,2時間にわたる性的サービス(本件サービス)の提供を開始し,午前2時25分頃までにこれを終えて本件客室を出た。原告は,本件サービスの提供中から本件機器の存在に気付き,被告が本件機器を用いて盗撮に及んでいるのではないかと疑っていたため,本件客室を出た直後,インターネットを利用して「盗撮用カメラ」と検索したところ,本件機器と同種の機器が表示されたことから,本件風俗店のスタッフに連絡した。
(甲7,弁論の全趣旨)
(イ) 前記(ア)の連絡を受け,本件風俗店のスタッフは,直ちに本件客室に電話し,被告に対して,本件機器を確認するために本件客室に向かってよいか,尋ねたところ,被告はこれを拒否した(乙1,被告本人)。
(ウ) 被告は,同日の夜は本件ホテルに宿泊する予定であったが,前記(イ)の電話の後,これを取りやめて本件客室(本件ホテルの5階に存する,501号室)を退出し,エレベーターを利用して同ホテルの3階又は4階で降り,廊下をうろつくなどした後,1階に存するフロントに向かった(乙1,被告本人,弁論の全趣旨)。
(エ) 本件風俗店のスタッフは,本件ホテルの1階フロントにおいてチェックアウトの手続をしていた被告に対し,本件盗撮の事実について確認したところ,被告は,本件機器(SDカード等の記録媒体が挿入されていない状態のもの)を同スタッフに手渡して逃走した(甲7,乙1,被告本人,弁論の全趣旨)。
エ 原告は,平成30年9月27日の後も,本件風俗店への勤務を継続したものの,令和元年5月頃,本件風俗店を退職した(甲7,乙1)。
(2) 事実認定の補足説明
ア 前記(1)ウ(エ)の認定に対し,被告は,本件風俗店のスタッフに「どうぞ。」と言って本件機器を差し出し,黙って受け取られたことから,そのままタクシー乗り場まで歩いて行った旨,この際当該スタッフから引き留められたことはない旨を供述し,逃走した事実を否定する(被告本人7頁,25ないし27頁)。
イ しかし,前記(1)ウ(ア)ないし(ウ)の各認定事実によれば,本件風俗店のスタッフは,当時,被告が本件盗撮に及んだことを疑っていたのであるから,少なくとも,この点について被告に問いただし,本件機器にSDカード等の記録媒体が挿入されているか,挿入されていないのであればその所在を確認するのが通常かつ合理的であると考えられる。被告の前記アの供述内容は,不自然かつ不合理であって採用することができず,被告が逃走したとする原告本人の陳述書(甲7)の記載を採用し,前記(1)ウ(エ)のとおり認定するのが相当である。
2 被告による本件盗撮の有無(争点(1))について
(1)ア 前記第2の1(2)ア(特に別紙物件目録記載)のとおり,原告が被告に対して本件サービスを提供していた際に,本件客室内のテーブル上に置かれていた本件機器は,「モバイルバッテリー型ビデオカメラ」,つまり,携帯電話等の充電器(バッテリー)の形をした「ビデオカメラ」であり,「目に見えない不可視タイプだから撮影中も怪しまれにくい!」と説明され,充電(給電)機能をも備えているものの,「簡易給電」であり,「スマートフォンへのフル充電能力はありません。」,「すべての端末への給電を保証するものではありません。」とされ,あくまで主たる機能ではないことをうかがわせる説明が付されている。
本件機器は,このほかにも,前記1(1)アのとおり,「超暗視」,「消灯 完全な暗闇 (中略)光学技術者により超暗視化された本製品で撮影!! 細部までクリア! このクラスとしてはこれまでの常識を覆す,超高性能赤外線LEDを採用!しかも目に見えない不可視型だから撮影中も怪しまれにくい!」,「景色に溶け込むカモフラージュ性」などと,暗闇においても,怪しまれずに撮影し得ることを強調する説明が付されている。
イ これらの事情によれば,本件機器は,暗闇といい得るような条件下で,対象者に怪しまれずに,あるいは気付かれずに撮影することを目的とするビデオカメラであり,いわゆる無断撮影,盗撮を目的とするものであると認めるのが相当である。
被告は,これを,本件客室においていわゆるデリヘル嬢である原告から性的サービス(本件サービス)の提供を受ける際,自身のスマートフォンに接続して同室内のテーブル上に置いていたのであるから,かかる事実からは,被告が本件盗撮を行った事実が疑われるというべきである。
(2) また,前記1(1)ウのとおり,被告は,原告が本件客室(本件ホテルの5階に存する,501号室)を退出した後間もなくして,本件風俗店のスタッフから電話を受け,本件機器を確認するために本件客室に向かってよいか尋ねられたところ,これを拒否し,本件ホテルに宿泊する予定を取りやめて本件客室を退出し,エレベーターを利用して同ホテルの3階又は4階で降り,廊下をうろつくなどした。被告は,その後,同ホテルの1階に存するフロントにおいてチェックアウトの手続をしていたところ,本件風俗店のスタッフから,本件盗撮の事実について確認され,本件機器(SDカード等の記録媒体が挿入されていない状態のもの)を同スタッフに手渡して逃走している。
これらの一連の被告の行動は,本件盗撮に及んだことが発覚することを防ぐためのものと理解するのが合理的であり,この点からも,被告が本件盗撮を行った事実が疑われるというべきである。
(3)ア これに対し,被告は,本件盗撮を行った事実を否定し,本件機器について,フリーマーケットで購入した物であると思われ,携帯電話の充電器として使用していたにすぎない旨を主張し,本人尋問において同旨(ただし,本件機器の入手先については,フリーマーケットで購入した可能性に加え,自身の職場に勤務する者らの共有物を持ち出した物である可能性を指摘する。)の供述をするほか,その陳述書(乙1)にも,当該供述に沿う内容の記載がある。
イ しかし,前記(1)のとおり,本件機器は,暗闇といい得るような条件下で,対象者に怪しまれずに,あるいは気付かれずに撮影することを目的とするビデオカメラであり,いわゆる無断撮影,盗撮を目的とするものであると認められるのであり,本件機器につき,「簡易給電」,「スマートフォンへのフル充電能力はありません。」,「すべての端末への給電を保証するものではありません。」などとされる給電(充電)機能のみを利用していたとするのは,合理性を欠く。また,前記1(1)イのとおり,本件ホテルには,全客室に,貸出し用の携帯電話充電器が備えられており,本件客室にもこれが備えられていたと認められるから,被告がこれを使用せず,あえて本件機器を利用するのは合理的でないと思われる。さらに,本件客室内でテーブル上に置かれていた被告のスマートフォンには,友人・知人らの連絡先等の個人情報が多数保存されていたと推認されるから,これを,フリーマーケットで購入した,あるいは職場から持ち出した共有物である充電器型ビデオカメラに接続するというのは,精密機械ともいうべきスマートフォンの,あるいは個人情報の取扱いとして,あまりに不用意な行動であり,この点からも合理性を欠くといえる。
したがって,前記アの被告の供述等は信用性を欠くというべきであり,前記アの被告の主張を採用することはできない。
(4) 以上によれば,被告は,本件客室において,原告から性的サービスである本件サービスの提供を受けていた際,本件機器を用いて本件盗撮に及んだと認めるのが相当である。
これが原告に対する不法行為を構成することは明らかであり,被告は,原告に対し,不法行為による損害賠償責任を負うこととなる。
3 原告の損害額及び因果関係の有無(争点(2))について
(1) 逸失利益
本件において,原告は,本件盗撮によるショックのため,本件盗撮後の3か月間,本件風俗店を欠勤することが多くなったとして,合計48万6000円の損害(逸失利益)を被った旨を主張し,本件風俗店の代表者が作成した支払証明書(甲4)には,平成30年10月から同年12月まで,原告がそれぞれ4日,3日,2日(合計9日間),本件風俗店を欠勤した旨の記載がある。
しかし,被告は,原告から本件サービスを受けた際,原告が,年内は学会や就職活動があるため,なかなか出勤できないと発言していた旨を供述している(被告本人8頁)ため,原告が本件盗撮による被害を受けた後,平成30年10月から同年12月まで,本件風俗店を欠勤した事実があったとしても,その原因は,本件盗撮による精神的ショックとは別のもの(上記の学会や就職活動)であった可能性がある。このほか,原告が本件盗撮による精神的ショックにより本件店舗を欠勤するに至ったことを客観的・具体的に裏付ける証拠はない。
そのため,原告が主張する上記の逸失利益については,本件盗撮との相当因果関係を認めるに足りないというほかない。
(2) 慰謝料
他方,被告の本件盗撮それ自体により,性的サービス中の状況を無断で撮影された原告が恐怖,不安を感じたことは,容易に推認される。
それに加えて,本件サービスを受けていた被告が,その状況等を盗撮したこと(本件盗撮に及んだこと)からすると,その際,本件機器には盗撮した動画を保存するための記録媒体(SDカード等)が挿入されていたと推認されるにもかかわらず,前記1(1)ウ(エ)のとおり,被告が逃走の際に本件風俗店のスタッフに手渡した本件機器には,これが挿入されていなかったのであるから,原告が,自身が全裸で2時間にわたって性的サービスを提供する動画を記録した媒体がどこかに存在するのではないか,今後,これがインターネット上に流出・公開されるなどし,自身に不利益が及ぶ恐れがあるのではないかといった恐怖,不安を感じていることも,推認される。
本件盗撮は,原告に対し,上記のような恐怖,不安を与えるものであり,この点を十分に斟酌する必要がある。このほか,本件盗撮の場所・時間・行為態様,撮影された動画内容,これが発覚した後の経緯,原告が本件風俗店を退職するに至るまでの経過など,本件において現れた一切の事情を併せて考慮すると,その精神的苦痛に対する慰謝料は,50万円と認めるのが相当である。
(3) 小括
以上のとおり,原告は,本件盗撮により50万円の損害を被ったものと認められる。
4 結論
よって,原告の請求は主文記載の限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
なお,仮執行宣言については,主文第1項に限って認めるのが相当であるから,その限度で認めることとする。
東京地方裁判所民事第12部
(裁判官 大島広規)