児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp3@okumura-tanaka-law.com)

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被告が迷惑条例違反(飲食店のトイレ盗撮)の執行猶予判決を受けたことなどを理由として、居住用貸室の賃貸借契約の解除を有効とした事例(東京地裁R2.1.24)

東京地方裁判所令和02年01月24日
判決
東京都(以下略)
原告 X
同訴訟代理人弁護士 岩﨑精孝
東京都(以下略)
被告 Y

主文
1 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の建物を明け渡せ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
  主文同旨
第2 事案の概要等
 1 事案の概要
  本件は、別紙物件目録記載の建物(以下「本件貸室」という。)の共有持分を有する原告が、本件貸室を占有する被告に対し、共有持分権に基づき、本件貸室の明渡しを求める事案である。
 2 前提事実(当事者間に争いがないか、証拠(枝番の表記は省略)及び弁論の全趣旨から容易に認められる事実)
  (1) Aは、平成15年頃、被告との間で、次の約定で、本件貸室を被告に賃貸する旨の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結し、同契約に基づき、被告に本件貸室を引渡した。
  ア 賃料 月額9万5000円
  イ 使用目的 住居
  ウ 期間 定めなし
  (2) Aは、平成16年4月24日、死亡し、原告とB(以下、両名を「原告ら」という。)は、本件貸室について、各2分の1の持分割合で相続し、本件賃貸借契約の賃貸人の地位を承継した。(甲1)
  (3) 被告が東京都内の飲食店のトイレ内に小型カメラを設置し、盗撮した動画をインターネット上で販売していたことが発覚し、平成30年10月3日、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反(以下「一度目の条例違反行為」という。)の被疑事実で逮捕された。被告は、その後、一度目の条例違反行為について、執行猶予付きの有罪判決を宣告され、同判決は、平成31年2月1日、確定した。
  (4) 被告が東京都内の飲食店のトイレ内に小型カメラを設置し、盗撮を行ったとして、令和元年7月3日、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反等(以下「二度目の条例違反行為」といい、一度目の条例違反行為と併せて「本件各条例違反行為」という。)の被疑事実で逮捕され、現在、勾留中である。
  (5) 捜査機関は、本件各条例違反行為の捜査の際、本件貸室において、捜索差押をそれぞれ実施した。
  (6) 原告らは、令和元年11月4日、被告の背信行為を理由に、被告に対し、本件賃貸借契約を解除するとの意思表示をした。(甲9)
  (7) 被告は、本件貸室を占有している。
  3 争点及びこれに関する当事者の主張
  原告らは、被告の本件各条例違反行為が原告らとの信頼関係を破壊する背信行為に当たるとして、本件賃貸借契約を解除することができるか。
  (原告の主張)
  一度目の条例違反行為は、テレビや週刊誌等で報道され、本件貸室を賃借居住している被告の犯行であることが公知の事実となった。
  そのため、原告らは、本件貸室の入る建物(以下「Cビル」という。)に入居している他の賃借人との間の正常な賃貸借契約関係を維持することが困難となった。また、本件各条例違反行為がいわゆる盗撮であることからすると、原告らは、新たにCビルに入居を希望する賃借人と賃貸借契約を締結するに当たり、重要事項説明書に本件各条例違反行為の事実を記載し説明しなければならなくなり、新たにCビルに入居を希望する者との間の賃貸借契約の締結が著しく困難な状況に陥った。
  また、本件各条例違反行為の捜査のため、本件貸室において、二度の捜索差押が実施された。
  本件各条例違反行為は、原告らと被告との信頼関係を破壊する背信行為であり、原告らは、本件賃貸借契約を解除することができる。
  (被告の主張)
  メディアは、詳細に報じているものでも町名までであり、被告が本件貸室に居住していることが公知の事実ということはない。被告は、Cビルに入る他の賃借人との付き合いは一切なく、原告らが他の賃借人との正常な賃貸借契約関係を維持するのが困難となることはないし、犯罪行為が本件貸室内で行われたわけではないから、原告が新たな賃貸借契約を締結する際に重要事項説明書に記載する義務もない。
  したがって、原告らは、本件賃貸借契約を解除することはできない。

第3 当裁判所の判断
 1 認定事実
  証拠(甲1ないし4、6)及び弁論の全趣旨によれば、前提事実に加え、以下の事実を認めることができる。
  (1) 被告は、東京都内の飲食店のトイレ内に小型カメラを設置し、盗撮した動画をインターネット上で販売していたことが発覚し、平成30年10月3日、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反(一度目の条例違反行為)の被疑事実で逮捕された。捜査機関は、前記被疑事実の捜査のため、本件貸室を捜索場所として、捜索差押を実施した。
  Dは、平成30年10月26日、被告の実名及び丁目までの住所を明らかにした上、被告を私事性的画像被害防止法違反の疑いで同月25日に再逮捕したこと、被告が約1年前からトイレで用を足す女性約300人分の動画を盗撮、販売仲介サイトに投稿し、約1000万円の利益を得たとみられること、同月3日に一度目の条例違反行為で被告を逮捕していたことなどの警察発表を報道した。
  Eは、平成30年11月8日号において、被告の顔写真、実名入りで、被告がトイレの盗撮動画をインターネットで販売したなどとする記事を掲載した。また、インターネット上のニュースサイトは、前記Eの記事を再掲した。
  被告は、一度目の条例違反行為について、執行猶予付きの有罪判決を宣告され、同判決は、平成31年2月1日、確定した。
  (2) 原告は、平成31年2月19日、本件訴訟を提起した。被告は、同年4月12日の第1回口頭弁論期日、令和元年5月23日の第1回弁論準備手続期日、同年6月27日の第2回弁論準備手続期日に出頭した。
  (3) 被告は、東京都内の飲食店のトイレ内に小型カメラを設置し、盗撮を行ったとして、令和元年7月3日、建造物侵入、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反(二度目の条例違反行為)の被疑事実で逮捕され、現在、勾留中である。捜査機関は、前記被疑事実の捜査のため、本件貸室を捜索場所として、再び捜索差押を実施した。
  Fは、令和元年7月5日、被告について二度目の条例違反行為の疑いがあること、警察発表によれば、被告は取調べで被疑事実を認めていることなどを報道した。
  被告は、刑事裁判において、二度目の条例違反行為の事実を否認している。
  (4) 原告らが所有するCビルは、5階建てのビルであり、本件貸室と同じ3階にも、本件貸室のほかに複数の貸室があり、原告らはこれらを賃貸している。
 2 争点に対する判断
  (1) 賃貸借の当事者の一方に、その義務に違反し、信頼関係を裏切って賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような行為があった場合には、相手方は催告を要せず賃貸者契約を解除することができるが(最高裁昭和31年6月26日第3小法廷判決・民集10巻6号730頁)、この義務違反には、必ずしも賃貸借契約(特約を含む。)の要素をなす義務の不履行のみに限らず、賃貸借契約に基づいて信義則上当事者に要求される義務に反する行為も含まれるものと解すべきである(最高裁昭和47年11月16日第1小法廷判決・民集26巻9号1603頁参照)。
  (2) 前記認定事実によれば、被告は、本件貸室において盗撮を行ったものではないが、盗撮した動画をインターネット上で販売しており、捜査機関は、本件貸室を捜索場所として、捜索差押を実施していること、被告は、一度目の条例違反行為により、執行猶予付き有罪判決を受け、同判決は確定したこと、一度目の条例違反行為について、実名で丁目までの住所を明らかにした上で、報道した新聞があったほか、被告の顔写真入り、実名で記事を掲載した週刊誌があったこと、本件貸室の入るCビルは、被告以外の複数の第三者に賃貸する収益物件であることが認められる。
  以上の事実を前提とすると、被告の行為は、一度目の条例違反行為のみをみても、Cビルの収益に悪影響をもたらすものといえ、賃貸人に損害を与えないという賃借人の信義則上の義務に反し、賃貸人である原告らの信頼を裏切って本件賃貸借契約の継続を著しく困難ならしめるような背信行為であると認められる。なお、二度目の条例違反行為については、被告がこれを否認し、有罪判決が確定しているものではないことから、現段階でこれを考慮するのは相当ではない。
  したがって、原告らは、一度目の条例違反行為が原告らと被告との信頼関係を破壊する背信行為に当たるとして、本件賃貸借契約を解除することができる。
第4 結論
  以上のとおり、原告の請求は理由があるから認容し、仮執行宣言を付するのは相当ではないからこれを付さないこととし、よって、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第32部
裁判官 樋口真貴子
別紙(省略)