「被告人に対して処罰を求める気持ちはなく,現在でも大好きである旨供述し,養育されてきたことに関する感謝の言葉も述べている」ようです。
秋田地裁R02.10.5
上記の者に対する監護者性交等,監護者わいせつ,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について,当裁判所は,検察官鈴木美香並びに私選弁護人(主任)及び同各出席の上審理し,次のとおり判決する。主文
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1 実子である甲(以下「甲」という。当時15歳。)と同居してその寝食の世話をし,その指導・監督をするなどして,同人を現に監護する者であるが,同人が18歳未満の者であることを知りながら,同人にわいせつな行為をしようと考え,平成30年8月12日頃,住所〈省略〉被告人方において,甲を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて,同人に対し,その乳首を直接手で触り,その陰部付近を直接手で触るなどし,わいせつな行為をした。(令和2年3月23日付け起訴状記載の公訴事実第1)
第2 平成30年8月12日頃,前記被告人方において,甲が18歳に満たない児童であることを知りながら,同人に,被告人が甲の乳首を直接手で触る姿態及び同人の乳房等を露出した姿態をとらせ,これをビデオカメラで撮影し,その動画データ1点を同カメラ内ハードディスクに記録させて保存し,もって他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造した。(令和2年3月23日付け起訴状記載の公訴事実第2)
第3 前記第1のとおり,甲(当時16歳)を現に監護する者であるが,同人が18歳未満の者であることを知りながら,同人と性交をしようと考え,令和元年10月18日頃,前記被告人方において,甲を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて同人と性交をした。(令和2年2月5日付け起訴状記載の公訴事実)
第4 前記第1のとおり,甲(当時16歳)を現に監護する者であるが,同人が18歳未満の者であることを知りながら,同人と性交をしようと考え,令和元年10月21日頃,前記被告人方において,甲を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて同人と性交をした。(令和元年12月25日付け起訴状記載の公訴事実)
(証拠の標目)
(事実認定の補足説明)
1 弁護人は,被告人は,判示第3の監護者性交等の事実について,甲と性交をしておらず,甲の部屋に行ってもいないから,無罪であると主張し,被告人もそれに沿う供述をするので,以下検討する(以下の月日は,いずれも令和元年。)。
2 甲の供述について
(1) 甲は,当公判廷において,要旨,以下のとおり供述する。
私は,10月18日夜,父(被告人)に性交される被害に遭った。その日,学校から帰宅後,出張から帰ってきた父からお土産を受け取り,自分の部屋で電気を消した状態でベッドの上で横になってスマートフォンを触っていると,父が部屋に入ってきたので,スマートフォンを枕元に置いて目をつぶっていると,父が近くに来て,私が仰向けに寝ている状態で足を広げて,父がその足の間に入ってきて,私に「キスをして。」と言ってきた。私が「嫌だ。」と言うと,私の服の裾から手を入れられ,直接胸を触られて,私のパジャマのズボンと下着を脱がされて,父が私の膣を指で触ってから,膣に陰茎を入れてきた。その時は,私が仰向けに寝ている状態で私の足を広げてきて,その間に父の体がある状態であった。父は膣に陰茎を入れてきてから膣の中で陰茎を前後に動かした。指より太いものが膣の中に入ってきたことと,こすり付けてくる時と陰茎を膣の中に入れてくる時の感覚が違ったから,膣の中に陰茎を入れてきたのが分かった。私が「嫌だ。」と言うと,膣から陰茎を抜いて,また,私に「キスして。」と言ってきて,私が泣きながら「嫌だ。」と言ったら,「ごめんね。」と言いながら頭をなでてきてくれて,私が泣きやんだ後に部屋から出ていった。父からは,私が中学生の頃から同じようなことをされていたが,謝ってきたことは初めてだった。この日,その翌19日の朝までの間に,当時交際していた乙にLINEのトークで連絡をし,「簡単に人に話せることではないから,いつかちゃんと話すね。私が全部話せるか分からないから待っていてほしい。」などと伝えると,乙は,「分かった。」と言ってくれた。
その後,最後に私が父から性交されたのは10月21日だ。私が学校から帰宅後,自分の部屋のベッドで眠っていると,父が私の部屋のドアを開けてきて,その音で目が覚めた。父は私の近くに来て,私が仰向けに寝ている状態で私の足を広げて,その間に父が入ってきた。上のパジャマの服の裾から手を入れられて,胸を直接触られ,パジャマのズボンと下着を脱がされて,陰茎を膣の中に入れられ,膣の中で陰茎を動かされた。私が「嫌だ。」と言ったら,父は私の膣の中から陰茎を抜いて,私の下着とパジャマのズボンをはかせてから部屋から出ていった。10月18日に被害に遭った後,父から「ごめんね。」と言われていたので,もうしてこないだろうなって思っていたのにやめてくれなくて悲しかった。それで次の日の10月22日の朝,乙と一緒に学校に行く途中,話があると伝え,学校の空き教室で相談した。乙には,小学6年生の頃から10月21日まで,父に体を触られたり,膣に陰茎を入れられたりしたことや,そのことを誰かに伝えて家族5人で生活できなくなるのは嫌だということを伝えた。その他,乙とLINEのトークでやり取りをし,乙から,膣の中に出されてないの,などと聞かれた。10月22日のLINEで,この前,金曜日(10月18日のこと)に体を触られて,10月21日にも体を触られたことを伝えたら,乙が「反省なしだね。」というメッセージを送ってきた。乙以外に,10月24日の夜,学校の丙先生に相談した。乙のときほど直接的な話はしなかったが,自分がそのことを話すと警察の人とかが絡んでくるからっていうことを丙先生に伝えた。10月25日の朝,私は保健室の先生にも話した。その場には,乙と丙先生がいた。丙先生たちに相談した後,私は,児童相談所に保護された。
(2) そこで,甲の供述の信用性についてみると,判示第3の事実に関して,被告人から性交された旨の甲の供述は,具体的かつ迫真的なものであり,その供述内容に格別不自然,不合理な点は認められない。そして,甲の供述は,乙との間で交わされたLINEのメッセージの内容(甲16)とも符合している上,甲から被害を打ち明けられた旨の乙,丙の各公判供述に沿うものであり,弁護人からの反対尋問にも揺らいでいない。また,甲は,10月18日に被害を受けた4日後の同月22日には,「この前,金曜日に」として同月18日に被害を受けた旨のLINEのメッセージを乙に対して送信している(甲16)のであって,甲の記憶が鮮明な時期になされたもので,日にちを勘違いしているとは認められず,甲が判示第3の事実より以前に,交際していた男性との間で既に複数回の性交の経験があったことから,判示第3の行為の際,被告人からされた行為を勘違いして性交であると認識したものとは認められない。加えて,甲は,当公判廷において,被告人に対して処罰を求める気持ちはなく,現在でも大好きである旨供述し,養育されてきたことに関する感謝の言葉も述べているのであって,殊更に被告人に不利な虚偽の供述をする立場にあるとは認められない。以上によれば,判示第3の事実に関する甲の供述は,概ね信用することができる。
(3) 甲の供述の信用性に関する弁護人の主張について
ア 弁護人は,甲の公判供述のうち,被告人が10月18日に甲の部屋に来た旨の供述部分は,乙や丙の各公判供述によれば,甲は,乙や丙に対して,同日に受けたとされる被害について,性交であるとは特定して伝えておらず,このことは,被告人が甲の部屋に来た記憶自体が曖昧であることを示すものであるから,信用できないと主張する。
しかしながら,乙は,当公判廷において,「10月22日,甲から,甲が父(被告人)に襲われていて,小学校の頃から,寝ているときに部屋に入ってこられて体を触られるようになり,エスカレートして中学校に入ったぐらいから性行為をさせられているという内容の話を聞き,前日の10月21日の夜にもやられているという話を聞いて,性行為をさせられているのだと思った。10月22日の下校後に,甲とLINEで他に被害がなかったかについてやり取りをしたが,前の週の金曜日(10月18日)にもされたという話を聞いた。」などと供述しており,甲,丙の各公判供述やLINEのメッセージの内容(甲16)にも符合するなどして信用することができるところ,乙は,甲から,被害を受けた日として10月18日であると聞いたことを明確に供述している上,同日に関しても性交をされたことを前提とするやり取りをしているものと認められる。また,丙は,当公判廷において,「10月24日,甲と乙から,甲と父(被告人)との関係について聞かされ,甲が父から性交されている可能性があると感じた。そこで,養護の先生と共に,10月25日に,甲や乙から事情を聴くと,甲から,甲が父に家族でいられなくなることを中学校に入った頃からされ始め,それまでは,拒否らしい拒否はしてこなかったが,25日の1週間前の金曜日(10月18日)に父が部屋に来て,そのとき初めて拒否し,これでやっと終わるかなって思っていたが,その後も,父が夜来て,そのときにはまた家族としていられないようなことになってしまい,すごく絶望したと聞いた。」などと供述しており,甲,乙の各公判供述やLINEのメッセージの内容(甲16)にも符合するなどして信用することができるところ,丙は,甲から,被害を受けた日として10月18日であると聞いたことを明確に供述している。そして,甲は,父である被告人から性交されたことを他人に相談することで家族5人で生活できなくなるのは嫌だとの思いもあり,当初は乙に相談すること自体を迷っていた状況であったり,丙に対しても自分がそのことを話すと警察の人とかが絡んでくると思っていたという状況であったりして,乙や丙に対して,性交であることをうかがわせる程度の表現で相談していたとしても格別不自然であるとはいえない。そうすると,弁護人が指摘する事情は,被害を受けた日時に関する甲の供述の信用性を揺るがすものとはいえない。弁護人の主張は採用できない。
イ 弁護人は,甲の公判供述のうち,甲と乙との間のLINEのメッセージには,性交の記載がないから,被告人が甲と性交した旨の部分は信用できないと主張する。
しかしながら,前記2(3)アのとおり,乙の供述するところによれば,既に甲から,甲が被告人から性交された旨聞いている乙として,LINEのメッセージに「性交」との記載自体はないとしても格別不自然でない上,LINEのメッセージのやり取りをみても,甲と乙は「中に出されてないんだよね……?」「なんでされてるって分かったの……?」「どっちを?」「中に出されてるかってこと?」「初めて入れられたのいつだったっけ」「奥までは入れてないの…」「いつも痛いって拒否るから…」などと性交を前提とするやり取りを互いにしているのであって,弁護人が指摘する事情は,性交に関する甲の供述の信用性を揺るがすものとはいえない。弁護人の主張は採用できない。
ウ 弁護人は,甲は,膣に陰茎を挿入されていると実際に見て分かったのではなく,「膣のところに重い感じがあったからです。」「指よりも太いものが膣の中に入れられたからです。」などと供述し,感覚により指ではなく陰茎を挿入されていると判別しているから,指と陰茎との区別がついておらず,また,陰茎をこすり付けられている感覚と膣に挿入されている感覚との区別がついていないから,性交された旨の甲の供述は信用することができないと主張する。
しかしながら,前記2(2)のとおり,判示第3の事実に関する甲の供述は,具体的かつ迫真的なものであり,その供述内容に格別不自然,不合理な点は認められず,甲が判示第3の事実より以前に,交際していた男性との間で既に複数回の性交の経験があったことから,判示第3の行為の際,被告人にされた行為を勘違いして性交であると認識したものとは認められず,弁護人が指摘する事情は,性交に関する甲の供述の信用性を揺るがすものとはいえない。弁護人の主張は採用できない。
エ その他,弁護人が種々主張するところを検討しても,甲の供述の信用性を揺るがすものは認められない。
3 被告人の供述について
(1) 被告人は,当公判廷において,要旨,以下のとおり供述する。
私は,10月18日,出張から自宅に帰り,その夜は甲の寝室には行っておらず,わいせつ行為を目的として甲の体に触れるようなことはしていない。甲が同日に受けた被害の内容として供述した出来事は,甲と性交した部分を除いては実際にあった出来事であるが,その時期が異なり,8月後半頃から10月に私が県外への出張に行く前までの間に起きた出来事である。それが具体的にいつなのかについては覚えていない。甲がその出来事を10月18日のこととして供述した理由は,勘違いであると思う。
(2) そこで,被告人の供述の信用性についてみると,被告人の供述は,信用できる甲の供述に反する。そして,被告人の供述は,曖昧なものであり,甲が意を決して10月18日深夜から翌19日にかけて,乙に対し,LINEのメッセージで簡単に人に話せることではない重大と思われることを相談しようとしたことや,甲が同月18日に被害を受けた4日後の同月22日に,「先週の金曜日」である同月18日に被害を受けた旨のLINEのメッセージを乙に対して送信していることに照らしても,不自然,不合理なものであって,信用することができない。
(3) 弁護人は,被告人が,捜査段階から,判示第1,第2,第4の各犯行といった自己に不利な事実を認めていることや,10月18日は被告人が出張から帰宅した日なので記憶が鮮明であることから,判示第3の事実に関する被告人の供述は信用できると主張する。
しかしながら,弁護人が指摘する事情から,信用できる甲の供述に反する被告人の供述が信用できることになるわけではない上,判示第1,第2の各犯行を認める旨の被告人の供述は,「甲にわいせつ行為をするとともに甲の裸の姿をビデオカメラで撮影すれば,その後は,甲に対するわいせつな行為を止められると思ってしたものである。」などというものであり,判示第4の犯行を認める旨の被告人の供述は,「亀頭を甲の陰唇の部分にこすり付けて,大きくなった陰茎を陰唇の部分の上に載っけて前方の斜め上方向に動かしていたところ,急に陰茎が膣の中に入ってしまい,それまでそういう状況が起きたことがなかったので,もう完全にパニックに陥って,よく分からないまま膣の中に陰茎を入れた後,抜くことはせず,体を前後に動かして射精に至ったものである。」などというもので,それらの供述自体,不自然かつ自己の刑事責任を軽く見せようとする態度が認められる供述であることからしても,弁護人が指摘する事情から,判示第3の事実に関する被告人の供述が信用できるものとはいえない。弁護人の主張は採用できない。
4 結論
以上によれば,被告人には,判示第3の監護者性交等の事実が認められる。
(法令の適用)
罰条
判示第1の所為について
刑法179条1項,176条前段
判示第2の所為について
児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項,2条3項2号,3号
判示第3,第4の各所為について
各刑法179条2項,177条前段
刑種の選択
判示第2の罪について
懲役刑を選択
併合罪の処理
刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯情の最も重い判示第4の罪の刑に法定加重)
未決勾留日数の算入
刑法21条
訴訟費用の不負担
刑訴法181条1項ただし書
(量刑の理由)
実子である被害者を現に監護する者である被告人は,被害者の乳首を直接手で触り,その陰部付近を直接手で触るなどのわいせつな行為をして判示第1の犯行に及び,その際の被害者の姿態等をビデオカメラで撮影するなどして児童ポルノを製造して判示第2の犯行に及び,2回にわたり,被害者と性交をして判示第3,第4の各犯行に及んだ。判示第1,第3,第4の各犯行は,常習的な犯行の一環であり,監護する者であることによる影響力があることに乗じてなされた卑劣で悪質な犯行であって,特に,判示第4の犯行は,判示第3の犯行の際には被害者から拒否の意思を明確に伝えられているのに,その3日後にされたもので,極めて悪質である。判示第2の犯行も悪質なもので看過できない。被害者の処罰感情は厳しいものではないものの,本件各犯行が被害者の健全な成長や人格形成に及ぼす影響も懸念されるところであって,その結果は重大である。被告人は,被害者を監護する者でありながら,結局は自己の性欲を満たすため本件各犯行に及んだものと認められ,その動機,経緯に酌量の余地はない。弁護人は,判示第4の犯行の経緯等に関して,たまたま被告人の陰茎が被害者の膣に入ってしまったものにすぎず,当初から性交を目的としているものではないなどと主張するが,判示第3の犯行の3日後になされたものであることなどに照らしても不自然で信用することができない。また,被告人は,判示第3の犯行に関しては,不自然,不合理な弁解に終始しており,真摯な反省の態度は認められない。被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。
その上で,被告人が判示第1,第2,第4の各事実自体については,認める旨の供述をしていること,反省する旨の手紙を作成していること,被告人に前科がないこと,被告人が,勤務先を退職したり,離婚したりするなど一定の社会的制裁を受けていることなどの情状を併せ考慮すれば,被告人に対しては,主文のとおりの刑に処するのが相当であると判断した。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑 年)
秋田地方裁判所刑事部
(裁判長裁判官 杉山正明 裁判官 板東純 裁判官 杉本岳洋)