外国の立法を参考にして、他人の「身体の一部」だという主張を考えてみてほしい。
第百七十七条
1前条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛こう門性交、口腔くう性交又は膣ちつ若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第百七十九条第二項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、五年以上の有期拘禁刑に処する。
判示第3の所為のうち
不同意性交等の点 刑法177条3項、1項、令和5年法律第66号附則3条
映像送信要求の点 刑法182条3項2号、令和5年法律第66号附則3条
児童ポルノ製造の点 包括して児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項、2項、2条3項1号、3号
科刑上一罪の処理
判示第3について 刑法54条1項後段、10条(映像送信要求と不同意性交等及び児童ポルノ製造との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので、結局以上を1罪として最も重い不同意性交等罪の刑で処断)
《書 誌》
提供 TKC
【文献番号】 25622913
【文献種別】 判決/千葉地方裁判所(第一審)
【裁判年月日】 令和 7年 5月21日
【事件番号】 令和6年(わ)第1319号
令和6年(わ)第1790号
【事件名】 不同意性交等、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反(変更後の訴因:不同意性交等、性的姿態等撮影、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反)、不同意わいせつ、16歳未満の者に対する映像送信要求、性的姿態等撮影被告事件
【裁判結果】 有罪
【裁判官】 鎌倉正和 椙山葉子 中村大樹
判 決
理 由
(罪となるべき事実)
被告人は、c(当時14歳ないし15歳)が16歳未満の者であり、かつ、自らがcの生まれた日より5年以上前の日に生まれた者であることを知りながら
第1
1 別表1記載のとおり、令和5年10月2日午前1時21分頃から令和6年2月22日午前1時22分頃までの間、7回にわたり、dの当時の被告人方において、cと口腔性交して性交等をした[訴因変更後の令和6年8月15日付け起訴状記載の公訴事実第1及び訴因変更後の同年11月6日付け起訴状記載の公訴事実第1別表1番号1ないし4]。
2 正当な理由がないのに、別表2記載のとおり、令和5年10月2日午前1時21分頃から令和6年2月22日午前1時22分頃までの間、7回にわたり、前記当時の被告人方において、児童であるcに、被告人の陰茎を口淫する姿態をとらせ、これを被告人が使用する撮影機能付き携帯電話機で撮影した上、その動画データ合計11点を同携帯電話機の内蔵記録装置に記録させて保存し、もって13歳以上16歳未満の者を対象として、その性的姿態等を撮影する行為をするとともに、児童を相手方とする性交類似行為に係る児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造した[訴因変更後の令和6年8月15日付け起訴状記載の公訴事実第2及び訴因変更後の同年11月6日付け起訴状記載の公訴事実第3]。
第2 別表3記載のとおり、同年3月19日午前0時2分頃から同年6月20日午後11時43分頃までの間、11回にわたり、前記当時の被告人方において、児童であるcに対し、ソーシャルネットワーキングサービス(以下「SNS」という。)「X」のダイレクトメッセージ機能を利用して、「なら水曜まで待とうか。待つかわりにオナの動画、顔写る様に撮って。」「なら昼間(明るい時間帯)にフェラ撮って。」「それとさっき言ってたオナ動画で。」などと記載したメッセージを送信し、その頃、同所において、同人にこれを閲覧させ、もって性的な部位を触る姿態、性的な部位を露出した姿態又は口腔性交をする姿態をとってそれらの映像を送信することを要求し、その頃、同所において、同人に乳房や陰部を露出して自慰行為をする姿態をとらせ、これを同人が使用する撮影機能付き携帯電話機で撮影させ、もって16歳未満の者に対し、わいせつな行為をするとともに、その動画データ合計34点を同携帯電話機から前記「X」のダイレクトメッセージ機能を利用して被告人が使用するアカウント宛てに送信させ、その頃、前記「X」が管理するサーバコンピュータ内に記録、保存させ、もって衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造した[訴因変更後の令和6年11月6日付け起訴状記載の公訴事実第2別表2番号1ないし11]。
第3 同月23日午前0時20分頃から同日午前1時13分頃までの間、前記当時の被告人方において、児童であるcから、被告人に陰部等を触らせて自慰行為をする動画以外に撮影すべき動画があるか問われたのに対し、前記「X」のダイレクトメッセージ機能を利用して「別におな撮るなら他は次でも良いけど。」「自分のスマホでもいつもみたく撮ってね。」などと記載したメッセージを送信し、その頃、同所において、cにこれを閲覧させ、もって性的な部位を触る姿態、性的な部位を露出した姿態等をとってそれらの映像を送信することを要求し、その頃、同所において、cに対し、その膣に手指を挿入して性交等をし、さらに、その頃、同所において、被告人がその手指をcの膣内に挿入する姿態及び同人に乳房や陰部を露出して自慰行為をする姿態をとらせ、これを同人が使用する撮影機能付き携帯電話機で撮影させた上、その動画データ3点を同携帯電話機から前記「X」のダイレクトメッセージ機能を利用して被告人が使用するアカウント宛てに送信させ、その頃、前記「X」が管理するサーバコンピュータ内に記録、保存させ、もって児童を相手方とする性交類似行為に係る児童の姿態及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造した[訴因変更後の令和6年11月6日付け起訴状記載公訴事実第1別表1番号5及び同第4]。
第4 別表4記載のとおり、同月30日午後8時55分頃から同年7月22日午後10時25分頃までの間、3回にわたり、前記当時の被告人方において、児童であるcに対し、前記「X」のダイレクトメッセージ機能を利用して、「ならオナで良いよ。フェらは平日撮って。」などと記載したメッセージを送信し、その頃、同所において、同人にこれを閲覧させ、もって性的な部位を触る姿態、性的な部位を露出した姿態又は口腔性交をする姿態をとってそれらの映像を送信することを要求し、その頃、同所において、同人に乳房や陰部を露出して自慰行為をする姿態をとらせ、これを同人が使用する撮影機能付き携帯電話機で撮影させ、もって16歳未満の者に対し、わいせつな行為をするとともに、その動画データ合計10点を同携帯電話機から前記「X」のダイレクトメッセージ機能を利用して被告人が使用するアカウント宛てに送信させ、その頃、前記「X」が管理するサーバコンピュータ内に記録、保存させ、もって衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造した[訴因変更後の令和6年11月6日付け起訴状記載の公訴事実第2別表2番号12ないし14]。
(弁護人の主張に対する判断)
弁護人は、訴因変更後の令和6年11月6日付け起訴状記載の公訴事実第2別表2(令和7年4月15日付け訴因等変更請求書の別表3)番号3の「メッセージの内容」欄には、「撮れるなら撮って」と記載されているのみで、このメッセージには、性的な部位を触る姿態、性的な部位を露出した姿態をとってその映像を送信することを要求する文言が含まれていないから、刑法182条3項2号の構成要件を充足しておらず、仮にこれを充足するとしても、その犯罪の証明を欠くとして、上記番号3のうち16歳未満の者に対する映像送信要求罪については、公訴棄却ないし無罪の判決をすべきであるなどと主張する。
確かに、弁護人が指摘するとおり、上記メッセージは直接的な要求文言を含んでいないが、これらは、前記「X」において、被告人からcに対して送信されたメッセージの一部であり、関係証拠によって認められる、それ以前に被告人とcとの間で交わされたやり取りも含めてみれば、性的な部位を触る姿態、性的な部位を露出した姿態をとってその映像を送信することを要求するものと解することができる。よって、上記メッセージの送信は刑法182条3項2号の構成要件を充足するとともに、その犯罪の証明に欠けるところもないから、弁護人の主張は採用できない。なお、メッセージの意味をより明確にするために、判示第2別表3番号3、7及び8並びに判示第3については、訴因変更後の令和6年11月6日付け起訴状記載の公訴事実第2別表2番号3、7及び8並びに第4のメッセージに、関係証拠から認められる、それ以前のやり取りを付記することとした。
(証拠の標目)
(法令の適用)
罰条
判示第1の1別表1番号1ないし7の各所為 いずれも刑法177条3項、1項、令和5年法律第66号附則3条
判示第1の2別表2番号1ないし7の各所為のうち
性的姿態等撮影の点(番号3、5、6の各所為は番号毎にそれぞれ包括して) いずれも性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律2条1項4号、同法附則2条
児童ポルノ製造の点(番号3、5、6の各所為は番号毎にそれぞれ包括して) いずれも児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項,2項、2条3項1号
判示第2別表3番号1ないし11及び同第4別表4番号1ないし3の各所為のうち
不同意わいせつの点 いずれも刑法176条3項、1項、令和5年法律第66号附則3条
映像送信要求の点
別表3番号1、2、5ないし7、11及び別表4番号1(番号毎にそれぞれ包括して) いずれも刑法182条3項1号、2号、令和5年法律第66号附則3条
別表3番号3、4、8ないし10及び別表4番号2、3 いずれも刑法182条3項2号、令和5年法律第66号附則3条
児童ポルノ製造の点(番号毎にそれぞれ包括して) いずれも児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項、2項、2条3項3号
判示第3の所為のうち
不同意性交等の点 刑法177条3項、1項、令和5年法律第66号附則3条
映像送信要求の点 刑法182条3項2号、令和5年法律第66号附則3条
児童ポルノ製造の点 包括して児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項、2項、2条3項1号、3号
科刑上一罪の処理
判示第1の2別表2番号1ないし7について いずれも刑法54条1項前段、10条(1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから、1罪として犯情の重い各児童ポルノ製造罪の刑で処断)
判示第2別表3番号1ないし11及び同第4別表4番号1ないし3について いずれも刑法54条1項後段、10条(各映像送信要求と各不同意わいせつ及び各児童ポルノ製造との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので、結局以上を1罪として最も重い各不同意わいせつ罪の刑で処断)
判示第3について 刑法54条1項後段、10条(映像送信要求と不同意性交等及び児童ポルノ製造との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので、結局以上を1罪として最も重い不同意性交等罪の刑で処断)
刑種の選択
判示第1の2別表2番号1ないし7の各罪 いずれも懲役刑を選択
併合罪の処理 刑法45条前段、47条本文、10条(刑及び犯情の最も重い判示第3の罪の刑に法定の加重)
未決勾留日数の算入 刑法21条
訴訟費用の不負担 刑訴法181条1項ただし書
(量刑の理由)
本件は、被告人が、実の娘である被害者(当時14歳ないし15歳)に対して行った不同意性交等8件(うち口腔性交7件〔判示第1の1〕、手指挿入1件〔判示第3〕)、口腔性交の際に行った性的姿態等撮影・児童ポルノ製造7件(判示第1の2)、被害者に自慰行為の動画を撮影・送信させた不同意わいせつ・映像送信要求・児童ポルノ製造14件(判示第2及び同第4)、手指挿入に関し行った映像送信要求・児童ポルノ製造1件(判示第3)からなる事案である。