熊谷支部r7.4.15
4 弁護人の主張④(性器に接触しているか否か)について
陰裂は、性器である左右の大陰唇の外端が向かい合う所であるから性器の一部と言いうるところ、陰裂が社会通念上強い性的意味合いを有すること、児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性に鑑み、児童の権利を擁護するという児童買春、児童ポルノ処罰法の目的(同法1条)等にも照らせば、「性器」は陰裂の内側の器官に限るとする弁護人の主張は採用できず、陰裂自体も「性器」に当たると解するのが相当である。そして、判示第6、第7及び第9の各事実において弁護人が性器接触を争う画像データ(甲29・別表番号1、甲30・9頁、甲43・別表番号9)に描写された別紙A又は別紙Bの姿態は、被告人が別紙A又は別紙Bの陰裂の内側には触れていないものの、その左手が着衣を脱いで露出した別紙A又は別紙Bの陰裂部分に直接触れていると認められるから、判示第6及び第9の各事実には児童ポルノ製造罪が、判示第7事実には児童ポルノ公然陳列罪がそれぞれ成立する。
5 弁護人の主張⑤(「陰部」、「性器」及び「胸部」の定義が不明確であるか否か)について
同項2号の「性器」該当性は、具体的事案において一般人が社会通念に照らして判断可能であるから、「性器」の概念が刑罰法規として不明確で罪刑法定主義に違反する旨の弁護人の主張は採用できない。
また、「陰部」に「性器」が含まれ、「胸部」に「乳首」が含まれることは社会通念上明らかであるから、判示第6、第9、第15、第17、第19、第21及び第23の各事実に罪となるべき事実の記載として欠けるところもない。
神戸地裁r07.3.12
(2) ②に対する判断(映像送信要求罪処罰規定の明確性)
「わいせつ」(刑法182条3項柱書) な行為にあたるか否かは、当該行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度等を総合考慮し、社会通念に照らして判断されるものであり、わいせつな行為の内容が不明確であるとはいえない。
「その他の姿態」(同項2号)は、同項の文言 (「膣又は肛門に身体の一部(中略) 性的な部位を露出した姿態」 (同項2号)、「当該行為をさせることがわいせつなものであるものに限る。」 (同項柱書) ) や、 映像送信要求罪が性犯罪の前段階を処罰するため設けられたものであることに照らせば、一般人の理解において、当該姿態をとらせてその映像を送信すれば、重大な性的自由・性的自己決定権の侵害が生じる場合、 つまり、不同意性交等罪や不同意わいせつ罪が成立するような場合に映像送信要求罪の適用を受けるものと判断できる。
そのため、 「その他の姿態」 が不明確であるとはいえない。「性器」は、一般人であれば、その文言自体から、おおむね生殖器であると理解することができ、 不明確であるとはいえない。
したがって、 映像送信要求罪の規定は、明確性の原則に反せず、 憲法31条に違反しないから、 弁護人の主張は採用できない。
東京高裁r7.7.4
4原判示第2の事実に関する法令適用の誤りの主張について
(1)論旨(弁護人)は、原判決が原判示第2の性的姿態等撮影罪の成立を認めたことに関し、同罪の構成要件規定である性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律(以下「性的姿態撮影処罰法」という。)2条1項1号イは、「性器」の定義がなく、処罰範囲が定まらないため、刑罰法規としての明確性を欠いていて憲法31条に違反し、表現行為への過度に広範な規制として憲法21条にも違反するから、無効であるとして、同条項を適用して性的姿態等撮影罪の成立を認めた原判決には、法令適用の誤りがある、という。
しかし、同条項は、「性器」という語を、「人の性的な部位(性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部、臂部又は胸部をいう。
以下このイにおいて同じ。)‐又は人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分」として、人の性的な部位を定義する中で用いているものであり、同部位に該当するか否かは、「性器」を定義する規定がなくとも一般人において十分読み取ることが可能であって、同条項が所論のように明確性を欠くとはいえず、憲法31条に違反するものではない。
また、これが表現行為に対する過度に広汎な規制であるともいえず、憲法21条に違反するものでもない。
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(4)論旨(弁護人)は、さらに、原判決が原判示第2の映像送信要求罪の成立を認めたことに関し、刑法1.82条3項柱書及び2号(以下「本条項」という。)は、3項柱書中の「わいせつ」並びに2号中の「性器」及び「その他の姿態」の各用語が不明確で、刑罰法規としての明確性を欠いていて憲法31条に違反し、表現行為である画像送信要求行為への過度に広汎な規制として憲法21条にも違反するから、無効であるとして、本条項を適用して映像送信要求罪の成立を認めた原判決には、法令適用の誤りがある、という。
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次に、「性器」について、本条項は、性的姿態撮影処罰法2条1項1号イと同様に、その語を「性的な部位」を定義する中で用いているものであり、明確性が問題となるのは、「性器」それ自体ではなく「性的な部位」であるところ、(1)におけると同様、これが所論のように明確性を欠くとはいえない。