児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

迷惑条例の盗撮罪か、性的姿態撮影罪か?~盗撮行為が施行日前後に渡って犯罪が行われた場合の適用罪名(警視庁の見解)

 もう3訂になってるようなので、流動的です。

性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律(略称性的姿態撮影等処罰法)
○第2条第1項第1号(性的姿態等撮影)
○第5条第1項第1号(性的姿態等影像送信)
○第8条、第4条及び第6条のうち所掌事務に係るもの
質疑回答集
(第三改訂版)
※ 赤字で表示されている部分については、7月21日付「第二改訂版」から変更となった箇所となります。疑義が生じた場合は、(生特隊・指導係)までご連絡頂くようお願いします。
令和5年8月17日
警視庁生活安全特別捜査隊

第3章 質疑回答
問1
法律の施行日はいつか。
施行日前後に渡って犯罪が行われた場合の適用罪名は。
【答】
令和5年7月13日施行。
同日0時を起算点として、「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の映像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」(以下、性的姿態撮影等処罰法とする。)を適用することができる。

(1) 設置行為
施行日前において禁じられている設置行為が、施行日後発覚した場合

[図]
設置(前) → 施行日 → 設置発覚(後)

⇒ 設置行為については、性的姿態撮影等処罰法では「未遂」として問擬するとところ、「公衆に著しく迷惑をかける暴力的な不良行為等の防止に関する条例」(以下、迷惑防止条例とする。)においては写真機等を設置した時点で既遂に至り犯罪は完了する。
したがって、施行日後に設置が発覚したとしても、施行日前の設置により犯罪は完了していることから、迷惑防止条例を適用することとなる。

(2) 設置行為に基づく「撮影」行為
ア 施行日前の設置行為に基づき施行日前に撮影された場合

[図]
設置(前) → 撮影(前) → 施行日
⇒ 設置行為に伴う「撮影」違反については、実際に撮影が行われた時点若しくは時間が犯行日時となることから、施行日前の設置行為に基づき施行前に撮影が行われた場合は、撮影された日時を捉えて、迷惑防止条例を適用することとなる。

イ 施行日前の設置行為に基づき施行日後に撮影された場合
[図示]
設置(前) → 施行日 → 撮影(後)

⇒ 前記のとおり、設置行為に伴う「撮影」違反については、実際に撮影が行われた時点若しくは時間が犯行日時となる。
したがって、設置行為が施行日前に行われ、撮影は施行日後に行われた場合、性的姿態撮影等処罰法を適用することとなる。

ウ 施行日前の設置行為に基づき施行日前後に渡って撮影が行われた場合
[図示]
設置(前) → 撮影(前) → 施行日 → 撮影(後)

⇒ 施行日前後に渡って盗撮画像が記録されている「撮影」違反については、撮影が行われた時点(開始時点)を捉えて、迷惑防止条例を適用することとなる。

エ 施行日前の設置行為に基づき施行日の前後にそれぞれ撮影が行われた場合
[図示]
設置(前) → 撮影1(前) → 施行日 → 撮影2(後)

⇒ 1個の設置行為に基づいて行われた複数の撮影は、複数の撮影行為を包括した1個の撮影が成立するものと解されている。
したがって、撮影①及び撮影②は1個の撮影行為として包括して評価されることとなるが、包括一罪とするためには、「罪名が同一であること」が要件であり、撮影②の行為が本法に該当するとしても、迷惑防止条例を適用することとなる。

【参考判例
昭和27年1月29日 東京高裁判例(高刑集 5.2.130)
昭和34年4月22日 名古屋高裁判例(高刑集 12.6.565)
…数個の行為が新連続犯となる包括一罪に当たるためには、次の三つの要件が充足されていなければならない
数個の行為がいずれも同一罪名に触れるものであること
被害法益が単一であること
犯意が単一であること


問5
迷惑防止条例と性的姿態撮影等処罰法が競合している場合、適用する罪名は
【答】
性的姿態撮影等処罰法を適用する。
【解説】
迷惑防止条例第5条第1項第2号違反(画像あり、常習を除く)が、
1年以下の懲役又は100万円以下の罰金
であるのに対し、性的姿態撮影等処罰法第2条第1項第1号は、
3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金
となっている。
保護法益が異なるものの、目的、方法が同一であることから両者の関係は観念的競合であり、実務上、罰則の重い本法律違反を適用する。
問6
性的姿態撮影等処罰法違反の罪を迷惑防止条例違反で問擬することの可否について。
【答】
法律の解釈に疑義が生じた場合を除いて、性的姿態撮影等処罰法で送致すること。
【解説】

問7
被害者が盗撮行為に気付いている場合は「ひそかに」に当たるか。
【答】
当たらない可能性はあるが、本法の他の条文(第2条第1項第2号~第4号等)に該当する場合がある。
【解説】
問8
被害者自身が自ら服を脱いでいる場合は該当するのか。
【答】
人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているものは該当しない。
但し、16歳未満の児童又は幼児が上半身裸で水遊びしている状況等を撮影した場合には、本法第5条第1項第4号(13歳未満の者を対象として、その性的姿態等を撮影し、又は13歳以上16歳未満の者を対象として、当該者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者が、その性的姿態等を撮影する行為)の成立が考えられる。

問9
衣服を着用したまま性行為に及んでいるなど、裸体や下着等が映り込んでいない場合は。
【答】
本法律第2条第1項第1号(ロ)を適用する。
現にわいせつな行為又は性行等をしている最中の姿態に限らず、そのような行為が始まり、一連の行為が終わるまでの間の姿態を撮影した場合には、本法律第2条第1項第1号(ロ)を適用することとなる。

問10
「間接に覆っている」とは、どのような着衣を指すのか。
【答】
ブラジャーの上から着用するキャミソールやパンツの上から着用するスパッツ、ヒートテック等については、見えることが前提であるもの(例;シャツを着用せず、見えることが前提のキャミソール)を除き、下着に該当すると考えられる。
【解説】
「下着」については、「通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるもの」であるか否かによって、個別に判断することとなる。
例えば、ストッキングのうち、ハイソックス丈や太ももまでの丈のもののように脚部のみを覆うものについては、「性的な部位を覆う」のに用いられていないことから、法における下着には該当しない。
一方、脚部だけでなく性的な部分も覆うもの、例えば、スカートの中にカメラを差し込んでスカートの内部を撮影し、性的な部分を間接に覆っている部分のストッキング又はパンツが撮影されている場合には、撮影罪の既遂に該当し得る(ストッキングが分厚くパンツの撮影に至っていなくとも、撮影罪の既遂に該当し得る。)

問12
国外で行われた行為については処罰の対象となるか。
【答】
通常、構成要件の一部をなす行為が日本国内で行われ、又は構成要件の一部である結果が日本国内で発生した場合も、国内犯とされており、処罰の対象となる(属地主義)’
但し、刑法第1条の規定により、本邦領空外を飛行中又は航行中であっても
本邦に帰属する航空機等であれば、その機内又は船内は本邦領土として判断することとなるため、性的姿態撮影等処罰法により処罰が可能である。
また、刑法第3条(国民による国外犯)の規定により、国外において本法律を犯した日本国民についても同様に処罰が可能である。
問13
航空機、船舶等において発生した場合も適用できるのか
【答】
適用できる。
【解説】
従来、迷惑防止条例では、航空機や旅客船を含む進行中の公共の乗物で発生した事案は、発生場所を管轄する都道府県の条例を適用することとされており、特に高速で移動している場合は発生時間を秒単位で明らかにし、同時刻に通過した場所をGPS等で疎明するなど、適用条令の特定に困難を伴っていた。
しかし、性的姿態撮影等処罰法の施行により、本邦に帰属する航空機等であれば性的姿態撮影等処罰法により処罰が可能である。

問15
迷惑防止条例における「設置」及び「差し向け」は、全て性的姿態撮影等
処罰法の未遂で問擬するのか
【答】
基本的に未遂で問擬する。
【解説】
従来、迷惑防止条例の「設置」「差し向け」で処罰してきた各態様については、基本的には性的姿態撮影等処罰法の未遂で問擬することとなる。
しかしながら、その態様や状況により適用できるか疑問が生じる場合(「ひそかに」に当たらないなど)には、迷惑防止条例を適用すること。
問16
「差し向け未遂」も立件出来るか

【答】
【解説】
迷惑防止条例には、未遂罰の規定がないところ、差し向け行為に当たらないいわゆる「差し向け未遂」については、その態様から迷惑防止条例第5号第1項第3号違反の「その他の卑わいな言動」で問擬してきたところである。
■ ■■
問17
「未遂」で常人逮捕した被疑者を「既遂」で送致することの可否
【答】
行為を捉えて「未遂」で逮捕した場合でも、その後の画像確認により「既遂」と判明した場合は、送致罪名を変更して送致することとなる。
【解説】
現行犯人逮捕の場合、その場で逮捕者が画像を確認した場合を除き、通常は差し入れた行為等を捉えて「未遂」で逮捕することとなる。
但し、 逮捕者において覚知した状況が本法違反となるか判然としない場合など、本法の適用に疑義が生じる場合は型_迷惑防止条例の適用を検討すること
解析等によって送致前に画像が確認できた場合は、送致罪名を変更する旨の報告書を作成し、「既遂」で送致することとなる。

問18
不能犯は処罰できるか
【答】
その状況により未遂で処罰する。
【解説】