児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

迷惑条例の常習盗撮行為と、性的姿態撮影罪を混合的包括一罪(観念的競合・常習一罪)とした事例(観音寺支部R6.1.11)

 客体は「自然人」ですが、動画なので、被害者が特定できなくても立件できます。
 訴因変更が引っかかります。

28320720
【裁判年月日等】
令和6年1月11日/高松地方裁判所観音寺支部
性的姿態等撮影、同未遂、香川県迷惑行為等防止条例違反被告事件
D1-Law.com判例体系

理由
(罪となるべき事実)
 被告人は、正当な理由がないのに
1 令和5年8月22日午後6時13分頃、香川県(以下略)A株式会社B店において、ひそかに、後方から氏名不詳の女性に近づき、右足のサンダルに隠し入れた動画撮影機能付きスマートフォンを同人が着用していたスカートの下方に差し入れ、同人が身に着けているショーツの臀部を覆っている部分を同スマートフォンで動画撮影し、もって、性的姿態等を撮影するとともに、常習として、人の性的羞恥心を著しく害し、かつ、人に不安を覚えさせるような方法で、公共の場所にいる人の衣服で覆われている下着等を撮影し(令和5年10月20日付け訴因変更請求書記載の公訴事実1)、
2 スカート内の下着等を撮影する目的で、同月27日午前11時24分頃、同所において、ひそかに、後方からC(当時37歳)に近づき、右足のサンダルに隠し入れた動画撮影機能付きスマートフォンを同人が着用していたスカートの下方に差し入れ、同人が身に着けているショーツの臀部を覆っている部分を同スマートフォンで動画撮影しようとし、もって、常習として、人の性的羞恥心を著しく害し、かつ、人に不安を覚えさせるような方法で、公共の場所にいる人の衣服で覆われている下着等を撮影するために写真機等を向けたが、人の性的な部位又は人が身に着けている下着のうち、現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分を撮影するに至らず、その目的を遂げなかった(同公訴事実2)。

(法令の適用)
 適用罰条
  判示1
  性的姿態等撮影の点 性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律(以下、「性的姿態撮影等処罰法」という。)2条1項1号イ、同法附則第2条
  香川県迷惑行為等防止条例(以下「本件条例」という。)違反の点
  同条例12条2項、1項、3条1項2号
  判示2
  性的姿態等撮影未遂の点
  性的姿態撮影等処罰法2条2項、1項1号イ、同法附則第2条
  本件条例違反の点 同条例12条2項、1項、3条4項、1項2号
  混合包括一罪の処理 判示1及び2は、それぞれ1個の行為が2個の罪名に触れる場合(刑法54条1項前段)である上、本件条例違反の部分は常習としてなされたものであるから、包括して、刑法10条により一罪として刑及び犯情の最も重い性的姿態等撮影の罪の刑で処断
 刑種の選択 懲役刑を選択
 未決勾留日数の算入 刑法21条
(量刑の事情)
 1 被告人は、警察官であった平成25年6月から平成26年1月にかけて、常習として、本件時と同様に、動画撮影状態にした携帯電話機等をサンダルに隠して女性のスカート内を撮影する等し、同年3月、本件条例違反の罪で、懲役6月4年間執行猶予の刑に処せられた。しかし、被告人は、同年4月に再び同様の行為に及び、同年10月、同条例違反の罪により懲役5月に処せられた上、上記執行猶予の取消を受け、平成28年1月まで服役し、社会復帰後も再犯防止のために月に1度程度のカウンセリングに通うなどしていた。にもかかわらず、被告人は、遅くとも令和2年には、カウンセリングの回数を年に1回にまで減少させ、また、そのころには自己が従事していた農業の先行きへの不安等を紛らわせるためにいわゆる盗撮行為を再開し、その多くにおいて従前及び本件と同様の態様での盗撮を行い、令和3年以降はその頻度も週に4ないし5回にも至り、被告人の所持していたスマートフォン等には令和2年8月から令和5年8月までの間に撮影された1000件を超える盗撮動画又は画像が保存されていたというのであるから、服役終了から盗撮の再開までに数年程度が経過していたことを考慮しても、被告人のこの種犯行に対する常習性や規範意識の鈍麻は顕著と言わざるをえず、被告人の刑事責任は決して軽いとはいえない。
 2 そうすると、判示2の行為の被害女性に60万円を支払い、示談が成立したこと、被告人が本件各犯行を認めて反省の弁を述べるとともに、今後は、カウンセリングの回数を増やし、性的犯罪者のグループミーティングへの参加や家族以外との交流を持つことで、再犯への歯止めとし、また、所持するスマートフォンのカメラ機能を壊し、被告人の姉がGPSで被告人の所在確認をするといった再犯防止のために家族とした約束を守るなどと述べていること、被告人のカウンセリングを担当している臨床心理士や被告人の姉が証人として出廷し、上記の再犯防止策への協力や被告人の監督を証言したことといった被告人に有利に斟酌すべき事情を最大限考慮しても、被告人に対し、執行猶予を付するのは相当とはいえず、主文の程度の実刑に処するのが相当であると判断した。
(求刑:懲役1年の実刑
 (裁判官 上田瞳