児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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青森県青少年健全育成条例違反の罪で無罪(青森地裁八戸支部R4.2.2)

青森県青少年健全育成条例違反の罪で無罪(青森地裁八戸支部R4.2.2)
 会ってから年齢を言った・聞いて無いというパターン
 年齢知情条項(条例31条)を予備的に主張しておけば無罪になることはないんだが、きょうび淫行するのに年齢確認義務を負わせるというのもおかしなことなので、過失も認定されなかったのかもしれない。
 検察官の著作でも、年齢確認義務については疑問が出ています。

栗原雄一「児童買春の罪と青少年育成条例の関係について」研修644号*1
そのため,形式的には,全ての行為者につき年齢の調査確認の手段を尽くしたことの挙証責任が課せられているようにみえる。 しかし,淫行しようとする者は当然にその相手方の年齢を調査確認すべき義務があるといえるかどうかは微妙である。 したがって,実務的には,年齢知情に関する規定の適用を前提として,淫行罪により処罰しようとする場合には, 「使用者性」に匹敵する事情を別途立証するのが相当であるろう。すなわち,当該青少年と知り合った経緯,当該青少年の体格,服装,言葉遣い等から,当該行為者において,当該青少年が18歳未満ではないかとの疑いを持ち得る客観的状況があったことを示す証拠を収集しておくべきこととなる。
(法務総合研究所教官)
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藤宗和香(東京地方検察庁検事(当時))「青少年保護育成条例」風俗・性犯罪シリーズ捜査実務全書9第3版*2P336
p354
②淫行の行為者を処罰するためには、相手方の年齢について18 歳未満であることを行為当時に知っていたことが原則として必要である。
しかし、「当該青少年の年齢を知らないことを理由として処罰を免れることができない。但し、当該青少年の年齢を知らないことにつき過失のないときは、この限りでない。」旨の規定を置いている育成条例も多く、その場合は、知らないことに過失がない場合でなければ、処罰されることになるo
もっとも、児童買春・ポルノ法、児童福祉法及び風適法では、児童の使用者に対してのみ相手方(被害者)の年齢を知らないことを理由として処罰を免れることができないとしているので、相手方の年齢について認識がない場合の処罰には慎重さが求められる。
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p361
(イ) 青少年の年齢の知情性について
① 行為者を淫行につき処罰するためには、淫行当時、その相手方が青少年であることについて知っていなければならないし、特に無過失のみ不処罰の旨の規定のあるところでは知らないことにつき過失がある場合でなければならないのは、前述のとおりである。
後者について、どのような場合に、知らないことについて過失があると認められるのであろうか。
結論としては、具体的事案によって千差万別としか言えず、青少年の年齢が18歳直前なのか14 、5 歳などはるかに若年であるのか、行為者と青少年の知り合った経緯、行為者の身分、立場などを総合して判断するしかない。
しかし、育成条例の「淫行等jについて、前述のように、単なる不道徳な性行為というのでなく、前記1・2のように、限定した概念として、青少年の未成熟を利用し、あるいは乗じるなどの特に不当な行為をとらえていることからすれば、相手が未成熟な背少年であることを知っていることが前提のはずと考えられ、過失であれ、その認識を欠いている場合を、「知ってj淫行等した場合と同列に論じられるのか疑問なしとしない。
故に過失の認定には慎重であるべきであるし、過失の程度も重過失と言えるようなものに限るべきではなかろうか。児童買春・ポルノ法等において児童の使用者についてのみ過失ある場合の処罰が規定されていることも参考とされるべきである。
②過失認定が難しい一例を見てみる。
デートクラブやいわゆるキャバクラなどの客が、その応のホステスを相手に性交又は性交類似行為に及んだ場合、その行為が単に性欲を満-たすためだけの深行に当たることは明らかであるから、その相手が18 歳未満の青少年であれば、淫行規制条例の適用を受け得ることになる。
ところで、当節、青少年の肉体的発育はめざましく、15 、6 歳で成人以上の体格をしている者も珍しくはなく、化粧、衣類によって、その外見のみから18 歳以上か18 歳未満であるかを判別することは困難な場合が多いが、デートクラブやキャパクラなどでアルバイトしている青少年の場合には殊更外見からの年齢判断はできにくい
客は、被疑者として取り調べられると、年齢については「知らなかった。」と否認する者が多い一方、恥、不名誉に思い早く終わらせたい気持ちからか、「若いなと思った。」「本人は18 歳と言ってたが、まだかもしれないと思った」 などの未必的認識を認める供述をする者も多く、これを根拠に過失を認定している例も見受けられるo
しかし、キャパクラなどは、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第2 条第3 号により、18 歳未満の者を接客に使えないはずであり、通常の客は、ホステスは18 歳以上との認識で来応すると思われ、仮に、前記のような若干の疑念を抱いたとしても、客にその点を確認する方法は相手ホステスに尋ねるくらいしかないだろうし、それ以上の確認を要求すること肉体非現実的であろうO実質的には否認の場合の認識との問にどれほどの径庭もないと言うべきであろう。
一方、捜査官に対しては、「当該客に年齢を問かれ、17 歳と答えた。」「 もうすぐ18 歳の誕生日と言った。jなどと、客の年齢知情を裏付ける供述をする青少年が稀でないが、キャパクラなどで働いている青少年には、すでに取調べに慣れていて、自己が被保護者たる青少年であることを利用し、被害者的立場を誇張し、かつ、捜査官に迎合的な供述をする者がまま見られ、しかもそのような応の経営者は、客寄せのために成人前の若い女子を雇う傾向が強く、中には、18 歳未満と知っていても履い入れ、客に聞かれたら18 歳と答えるよう指示している場合が多いのは周知の事情であるから、右青少年の供述を全面的に信用することは危険である。
このような例では、結局は、客が既に青少年と話をする機会などがあってその身上を知り得る関係にあったとか、当該応には18 歳未満の女子ばかりを置いているなどの噂があって、容の来応理由になっていたと認められるなど、個別具体的に、淫行の相手が18 歳未満であることについて客観的に知り得る状況があったことを明らかにしなければ、過失を認めるべきではないと考える。
淫行規制条例は、青少年の健全育成、保護のために、これを阻害する行為を回避する義務を年長者に負わせたものであるが、保護の対象たる青少年が自らの意思でいわば性を売り物にするデートクラブやキャパクラなどに身を置く以上、その保護は、個別の容を保行で処罰することによるより、むしろ雇用主の児童福祉法違反、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律違反、売春防止法違反などを処罰することで図られるべきところではないかとも考えられる。

島戸純「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」研修 第652号
このような結論の違いは,そもそも,児童買春等処罰法が児章買春罪において年齢の知情性の推定を設けていないところ,条例が,このような考え方に立たず,被害児童の年齢について認識がないにもかかわらず認識があったものと擬制しようとするところに由来するものである。対償の供与又はその約束がなく,被害児童の年齢について認識がなかったとき(表の(D)の部分)については}①,②いずれの考え方によっても児童買春等処罰法が対象としない以上、対償の供与又はその約束がない場合についての処罰の有無は,条例のあり方,地方公共団体の政策による結果にすぎず,この結果と比較して,対償の供与又はその約束があったとき(表の(B) の部分)における児童買春等処罰法の解釈について影響が及ぼされるべきものではない(6)。
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刑事法上故意犯処罰が原則とされているのであって,児童買春等処罰法第9条が,児童買春罪をその適用対象から外したのは,買春行為については,類型的にみて,使用関係を前提とせず(7)一回性が認められやすいことに基づき,故意犯処罰の原則を貫いたにすぎないものであると考えられる(8)。
また,同条が年齢の知情性の推定を児童の使用者に限ったのは、一般に,児童を使用する使用者については児童の年齢に関する調査義務が認められていることから(9)本法も向様に,このような者について児童の年齢を知らないことのみを理由に処罰を免れさせるのは妥当でないという政策判断を行ったものと考えられる(10)。この趣旨から考える左,そもそも本法の趣旨として, (少なくとも対償の供与又はその約束がある場合においては)児童と性的行為に及んだからといって使用者以外については年齢の知情性の推定を及ぼすことが妥当でないとの価値判断が示されたともいえる。
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対償の供与又はその約束がなかったとき(表の(D)の部分)には,児童買春等処罰法によって処罰されることはないが,都道府県条例によって処罰することは可能である。もっとも, この場合において,条例の政策判断を尊重し,条例の年齢についての知情性の推定規定を適用することが理論的には可能である左しても,条例違反として処罰するだけの価値には乏しい場合が多いものと考えられる(11)


(6) 対償の供与又はその約束が認められず1 かつ?買春行為者に被害児童の年齢についての認識も認められない場合(表の(D)の部分)については,児童買春等処罰法が対象とするものではないが, 同法第9条の知情性推定規定の趣旨を及ぼし,条例においても!知情性の推定を児童の使用者に限定するということも1 今後の条例のあり方としては考えられよう。
9) たとえば,労働基準法第56条は,使用者について?満15蔵に達した日以後の最初の3月31日が終了しない児童を使用してはならないとし1 同法第57条はl使用者についてj 満18歳に満たない者について1 その年齢を証明する戸籍証明書を事業場に備え付けなければならないとしている。
年齢の知情性の推定規定については,児童買春等処罰法のほかには,児童福祉法及び風俗営業の規制及び業務の適正化等に関する法律においても設けられている。児童福祉法については,年齢の知情性の推定につき, 「児童を使用"る者はj と主体を限定しており(第60条第3項),風俗営業の規制及び業務の適正化等に関する法律においては,年齢の知情性の推定が及ぶのは, 18歳未満の従業者について特定の業務に従事させることを禁止する規定の適用に限られている。したがヲて?法律レベルでは, 18歳未満の従業者を使用する者以外に年齢の知情性の推定は及ぼされていない、
(11) 児童買春等処罰法において児童買春罪につき年齢の知情性推定規定を設けていない趣旨を受けて,青少年保護育成条例の年齢の知情性推定規定を廃止するという判断もあり得ると思われる。

青森県青少年健全育成条例
( 淫行又はわいせつ行為の禁止)
第二十二条 
1何人も、青少年に対し、 淫行又はわいせつ行為をしてはならない。

第三十条 
1第二十二条第一項の規定に違反した者は、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
第三十一条 
前条第一項及び第二項に規定する者は、青少年の年齢を知らないことを理由として処罰を免れることができない。ただし、青少年の年齢を知らないことについて過失がないときは、この限りでない。
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青森県青少年健全育成条例の解説 平成19年3月
6 第31条は、第22条(淫行又はわいせつ行為の禁止)、及び第23条(場所の提供又は周旋の禁止)の規定に違反した者は、青少年の年齢を知らなかったことを理由として処罰を免れ得ないこと及び年齢確認に関する無過失の挙証責任があることを明らかにしたものである。
「青少年の年齢を知らないことについて過失がない」とは、通常可能な調査が適切に尽くされているといえるか否かによって決せられることになるが、具体的には、相手方となる青少年に、年齢、生年月日、えと等を尋ね、又は身分証明書等の提出を求める等、客観的に妥当な確認措置をとったにもかかわらず、青少年自身が年齢を偽り、又は虚偽の証明書を提出する等、行為者の側に過失がないと認められる場合をいう。

https://www.daily-tohoku.news/archives/95236
中学生にみだらな行為「証拠不十分」 空自三沢の自衛官に無罪判決/地裁八戸
2022年2月2日 21:04
青森県内のホテルで女子中学生にみだらな行為をしたとして、県青少年健全育成条例違反の罪に問われた、三沢市三沢後久保、航空自衛隊三沢基地自衛官の男性被告(22)の判決公判が2日、青森地裁八戸支部であり、細包寛敏裁判官は証拠が不十分などとして、.....

デイリー東北 2022.2.3
初公判で同被告は「中学生が18歳未満とは知らなかった」と起訴内容を否認。
同被告が女子中学生の年齢をどう認識していたのかや年齢を確認する義務があったのかどうかが争点となった。
これまでの証人尋問で女子中学生は、2020年11月に飲み会に参加した際、出席者に自身が18歳未満であることを伝えたり、中学卒業後の進路について話をしたりし、同被告も聞いていたと証言していた。
判決理由について細包裁判官は、飲み会参加者と女子中学生の証言に食い違いがあることなどを挙げ、「参加者のほとんどと初対面で、記憶が間違っている可能性がある。本人の言葉以外に証言を裏付ける証拠がない」と指摘。
年齢確認義務については「検察側は、18歳未満とみだらな行為をすれば処罰されると被告が勤務先で教育を受けていたのだから、年齢を確認するのは当然と主張するが、注意義務があったとまでは言えない」とした。

三沢基地自衛官に無罪判決 青森、育成条例違反巡り
2022年02月03日
共同通信社
 中学の女子生徒にみだらな行為をしたとして青森県青少年健全育成条例違反の罪に問われた航空自衛隊三沢基地自衛官被告(22)に対し、青森地裁八戸支部は3日までに無罪(求刑罰金40万円)の判決を言い渡した。
 判決理由で細包寛敏(ほそかね・ひろとし)裁判官は「女子生徒が18歳未満であることを被告が認識していたと認めるに足りる証拠はない」と述べた。判決は2月2日。
 被告は2020年11月に青森県内のホテルでみだらな行為をしたとして起訴された。検察側は複数人が参加した飲み会での会話により、被告が年齢を認識したと主張。判決は「女子生徒の記憶違いや、会話の混同の可能性がある」と指摘した。
 青森地検の田原昭彦(たはら・あきひこ)次席検事は「判決内容を精査し、上級庁と協議の上、適切に対応したい」としている。

検察官控訴
www.daily-tohoku.news