児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童買春行為で児童と知らなかった場合に、児童買春罪も青少年条例違反罪も成立しないという文献 

 「新捜査書類全集 捜査書類書式例 第4巻取調」にもありました。

栗原「児童買春の罪と青少年保設育成条例の関係について」研修644号107頁,
島戸純「児章買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保設等に関する法律」研修653号105頁
山川「いわゆる児童買春等処罰法と青少年保護育成条例の関係について」研修635号

藤宗和香(東京地方検察庁検事(当時))「青少年保護育成条例」風俗・性犯罪シリーズ捜査実務全書9第3版
淫行規制条例と児童買春罪との関係(補訂)
① 法律と条例とが同一とみられる事項を規定している場合について、最高裁判所は、「条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の対象事項と規定文言を対比するのみではなく、それぞれの趣旨、日的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾抵触があるかどうかによってこれを決しなければならない。例えば、ある事項について国の法令中にこれを規律する明文の規定がない場合でも、当該法令全体からみて、右規定の欠如が特に当該事項についていかなる規制をも施すことなく放置すべきものとする趣旨であると解されるときは、これについて規律を設ける条例の規定は国の法令に違反することとなりうるし、逆に、特定事項についてこれを規律する図の法令と条例が併存する場合でも、後者が前者とは別の目的に基づく規律を意図するものであり、その適用によって前者の規定の意図する日的と効果をなんら阻害することがないときや、両者が同ーの目的に出たものであっても、国の法令が必ずしもその規定によって全国的に一律に同一内容の規制を施す趣旨でなく、その地方の実情に応じて、別段の規制を施すことを容認する趣旨であると解されるときは、国の法令と条例との聞に何らの矛盾抵触はなく、条例が図の法令に違反する問題は生じえないのである (最大判昭50.9.10 刑集29.8.489) としているが、両者の聞に矛盾抵触が生じた場合、法律の規定が優先され、条例の規定が無効となる
② ところで、児童買春・ポルノ法の児童買春罪と淫行規制条例とを比較すると、少なくとも対償の供与又はその約束がなされて性交等に及んだ行為を処罰するという部分に限っては、その趣旨、目的、内容及び効果において完全に重複するものと考えられ、かかる部分に|期する条例の規定は効力を有しないこととなる。児童買春・ポルノ法附則第2 条第1 項も、地方公共団体の条例の規定で、同法で規制する行為を処罰する旨を定めているものの当該行為に係る部分については、同法の施行と同時にその効力を失う旨定めているが、これは、前記の趣旨を確認的に規定したものであると考えられる
③ そして、児童買春・ポルノ法は、「児童買春」について、児童等に対し、対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせること)としているのに対し、淫行規制条例は、児童に対する「淫行」、「みだらな性行為」等を処罰対象としている。
したがって、淫行規制条例の「淫行」、[みだらな性行為」が児童買春・ポルノ法の「性交等」よりも広い場合には、同法の「性交等」 よりも広い部分について、児童買春・ポルノ法がいかなる規制をも施すことなく放置すべきものとする趣旨であるとは解されないから、条例の効力を認めることになると考えられる。
① なお、この場合、児童買春・ポルノ法上、児童買春罪については年齢の知情性に関する推定規定がないから、行為者に被害児童の年齢についての認識を欠いた場合に、児童買春罪による処罰ができないとしても、淫行規制条例による処罰ができないか問題となる
両者の規制が重なる部分については、児童買春・ポルノ法が児童買春罪について年齢の知情性に関する推定規定をあえて設けず、故意犯処罰の原則を貫いている以上、この法律の判断が優先されるべきであり、淫行規制規定による処罰はできないものと考えられる

新捜査書類全集 捜査書類書式例 第4巻取調
p106
都道府県の制定するいわゆる青少年保護育成条例によっても処罰可能であるから,相互の処罰の関係が問題となる。
特 に,児童買春法4条の罪の成立には買春者において被害児童が18歳未満で あることの認識が必要であるのに対して(同法9条が4条をわざわざ除外してい る。) ,青少年保護育成条例の淫行処罰規定では,被害児童が1 8歳未満であることを知らないことを理由として処罰|を免れることはできない旨の知情性推定規定を設けているため,被疑者に18歳未満であることを知らなかった旨弁解している場合に, 児撞買春罪の適用は困難であるとしても,
青少年保護育成条例違反として処罰することができるかという問題がある。児童買春処罰法附則2条1項が「「地方公共団体の条例の規定で,この法律で規制する行為を処罰する旨を定めているものの当認行為に係る部分については,この法律の施行と同時に,その効力を失うものどする」と規定していることからすれば,児章買春法が規定する対償の供与又ぱその供仔の約束をした上で行う買春(淫行)行為に関しては,青少年保護育成条例の淫行処罰規定の適用は排除されてれるが,対償の供与又はその約束を要件としない単なる淫行を処罰する部分については青少年保護育成条例のみが適用されると解すべきであろう(栗原「児童買春の罪と青少年保設育成条例の関係について」研修644号107頁,島戸純「児章買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保設等に関する法律」研修653号105頁)。