児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

9歳児童に、裸画像を撮影・送信させる行為は、強制わいせつ罪(176条後段)の「被害者の行為を利用した間接正犯」か


 こういう事例があって、

強制わいせつ罪(176条後段)事案
https://news.yahoo.co.jp/articles/98ac27c6150086df538e1ea09fae010df5520b83
動画共有アプリのティックトックで知り合った当時9歳の女児に、裸の動画などを撮影させ、無料通信アプリのラインで送らせた疑い。黙秘している。12歳の女児を装ってやりとりしていたという。

高裁判例があります。
  京都地裁r0230203 観念的競合
  大阪高裁r030714観念的競合

 見逃した論点が、「被害者の行為を利用した間接正犯」です。
 判例は「本件犯行当時,被害者をして,被告人の命令に応じて車ごと海中に飛び込む以外の行為を選択することができない精神状態に陥らせていた」場合には、被害者の行為を利用した殺人未遂の間接正犯になるというのです。
 メール・メッセージでしか接点がない場合、そこまで行かないと思います。





公正証書原本不実記載,同行使,殺人未遂被告事件
【事件番号】 最高裁判所第3小法廷決定/平成14年(あ)第973号
【判決日付】 平成16年1月20日
【判示事項】 自殺させて保険金を取得する目的で被害者に命令して岸壁上から自動車ごと海中に転落させた行為が殺人未遂罪に当たるとされた事例
【判決要旨】 自動車の転落事故を装い被害者を自殺させて保険金を取得する目的で,極度に畏怖して服従していた被害者に対し,暴行,脅迫を交えつつ,岸壁上から車ごと海中に転落して自殺することを執ように要求し,被害者をして,命令に応じて車ごと海中に飛び込む以外の行為を選択することができない精神状態に陥らせていたなど判示の事実関係の下においては,被害者に命令して岸壁上から車ごと海中に転落させた行為は,被害者において,命令に応じて自殺する気持ちがなく,水没前に車内から脱出して死亡を免れた場合でも,殺人未遂罪に当たる。
【参照条文】 刑法38
       刑法199
       刑法202
       刑法203
【掲載誌】  最高裁判所刑事判例集58巻1号1頁
       裁判所時報1356号67頁
       判例タイムズ1146号226頁
       判例時報1850号142頁
【評釈論文】 警察学論集57巻11号181頁
       警察公論59巻8号79頁
       ジュリスト1275号161頁
       ジュリスト1319号175頁
       同志社法学60巻2号747頁
       判例時報1931号205頁
       法学(東北大)69巻2号251頁
       法学教室289号152頁
       法曹時報58巻12号3948頁
       別冊ジュリスト189号148頁

       主   文

 本件上告を棄却する。
 当審における未決勾留日数中520日を本刑に算入する。

       理   由

 弁護人立田廣成の上告趣意は,事実誤認,単なる法令違反の主張であり,被告人本人の上告趣意は,事実誤認の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。
所論にかんがみ,本件における殺人未遂罪の成否について職権で判断する。
 1 第1審判決が被告人の所為につき殺人未遂罪に当たるとし,原判決がそれを是認したところの事実関係の概要は,次のとおりである。
 被告人は,自己と偽装結婚させた女性(以下「被害者」という。)を被保険者とする5億9800万円の保険金を入手するために,かねてから被告人のことを極度に畏怖していた被害者に対し,事故死に見せ掛けた方法で自殺することを暴行,脅迫を交えて執ように迫っていたが,平成12年1月11日午前2時過ぎころ,愛知県知多半島の漁港において,被害者に対し,乗車した車ごと海に飛び込んで自殺することを命じ,被害者をして,自殺を決意するには至らせなかったものの,被告人の命令に従って車ごと海に飛び込んだ後に車から脱出して被告人の前から姿を隠す以外に助かる方法はないとの心境に至らせて,車ごと海に飛び込む決意をさせ,そのころ,普通乗用自動車を運転して岸壁上から下方の海中に車ごと転落させたが,被害者は水没する車から脱出して死亡を免れた。
 これに対し,弁護人の所論は,仮に被害者が車ごと海に飛び込んだとしても,それは被害者が自らの自由な意思に基づいてしたものであるから,そうするように指示した被告人の行為は,殺人罪の実行行為とはいえず,また,被告人は,被害者に対し,その自由な意思に基づいて自殺させようとの意思を有していたにすぎないから,殺人罪の故意があるとはいえないというものである。
 2 そこで検討すると,原判決及びその是認する第1審判決の認定並びに記録によれば,本件犯行に至る経緯及び犯行の状況は,以下のとおりであると認められる。
 (1) 被告人は,いわゆるホストクラブにおいてホストをしていたが,客であった被害者が数箇月間にたまった遊興費を支払うことができなかったことから,被害者に対し,激しい暴行,脅迫を加えて強い恐怖心を抱かせ,平成10年1月ころから,風俗店などで働くことを強いて,分割でこれを支払わせるようになった。
 (2) しかし,被告人は,被害者の少ない収入から上記のようにしてわずかずつ支払を受けることに飽き足りなくなり,被害者に多額の生命保険を掛けた上で自殺させ,保険金を取得しようと企て,平成10年6月から平成11年8月までの間に,被害者を合計13件の生命保険に加入させた上,同月2日,婚姻意思がないのに被害者と偽装結婚して,保険金の受取人を自己に変更させるなどした。
 (3) 被告人は,自らの借金の返済のため平成12年1月末ころまでにまとまった資金を用意する必要に迫られたことから,生命保険契約の締結から1年を経過した後に被害者を自殺させることにより保険金を取得するという当初の計画を変更し,被害者に対し直ちに自殺を強いる一方,被害者の死亡が自動車の海中転落事故に起因するものであるように見せ掛けて,災害死亡時の金額が合計で5億9800万円となる保険金を早期に取得しようと企てるに至った。そこで被告人は,自己の言いなりになっていた被害者に対し,平成12年1月9日午前零時過ぎころ,まとまった金が用意できなければ,死んで保険金で払えと迫った上,被害者に車を運転させ,それを他の車を運転して追尾する形で,同日午前3時ころ,本件犯行現場の漁港まで行かせたが,付近に人気があったため,当日は被害者を海に飛び込ませることを断念した。
 (4) 被告人は,翌10日午前1時過ぎころ,被害者に対し,事故を装って車ごと海に飛び込むという自殺の方法を具体的に指示し,同日午前1時30分ころ,本件漁港において,被害者を運転席に乗車させて,車ごと海に飛び込むように命じた。被害者は,死の恐怖のため飛び込むことができず,金を用意してもらえるかもしれないので父親の所に連れて行ってほしいなどと話した。被告人は,父親には頼めないとしていた被害者が従前と異なる話を持ち出したことに激怒して,被害者の顔面を平手で殴り,その腕を手拳で殴打するなどの暴行を加え,海に飛び込むように更に迫った。被害者が「明日やるから。」などと言って哀願したところ,被告人は,被害者を助手席に座らせ,自ら運転席に乗車し,車を発進させて岸壁上から転落する直前で停止して見せ,自分の運転で海に飛び込む気勢を示した上,やはり1人で飛び込むようにと命じた。しかし,被害者がなお哀願を繰り返し,夜も明けてきたことから,被告人は,「絶対やれよ。やらなかったらおれがやってやる。」などと申し向けた上,翌日に実行を持ち越した。
 (5) 被害者は,被告人の命令に応じて自殺する気持ちはなく,被告人を殺害して死を免れることも考えたが,それでは家族らに迷惑が掛かる,逃げてもまた探し出されるなどと思い悩み,車ごと海に飛び込んで生き残る可能性にかけ,死亡を装って被告人から身を隠そうと考えるに至った。
 (6) 翌11日午前2時過ぎころ,被告人は,被害者を車に乗せて本件漁港に至り,運転席に乗車させた被害者に対し,「昨日言ったことを覚えているな。」などと申し向け,さらに,ドアをロックすること,窓を閉めること,シートベルトをすることなどを指示した上,車ごと海に飛び込むように命じた。被告人は,被害者の車から距離を置いて監視していたが,その場にいると,前日のように被害者から哀願される可能性があると考え,もはや実行する外ないことを被害者に示すため,現場を離れた。
 (7) それから間もなく,被害者は,脱出に備えて,シートベルトをせず,運転席ドアの窓ガラスを開けるなどした上,普通乗用自動車を運転して,本件漁港の岸壁上から海中に同車もろとも転落したが,車が水没する前に,運転席ドアの窓から脱出し,港内に停泊中の漁船に泳いでたどり着き,はい上がるなどして死亡を免れた。
 (8) 本件現場の海は,当時,岸壁の上端から海面まで約1.9m,水深約3.7m,水温約11度という状況にあり,このような海に車ごと飛び込めば,脱出する意図が運転者にあった場合でも,飛び込んだ際の衝撃で負傷するなどして,車からの脱出に失敗する危険性は高く,また脱出に成功したとしても,冷水に触れて心臓まひを起こし,あるいは心臓や脳の機能障害,運動機能の低下を来して死亡する危険性は極めて高いものであった。
 3 【要旨】上記認定事実によれば,被告人は,事故を装い被害者を自殺させて多額の保険金を取得する目的で,自殺させる方法を考案し,それに使用する車等を準備した上,被告人を極度に畏怖して服従していた被害者に対し,犯行前日に,漁港の現場で,暴行,脅迫を交えつつ,直ちに車ごと海中に転落して自殺することを執ように要求し,猶予を哀願する被害者に翌日に実行することを確約させるなどし,本件犯行当時,被害者をして,被告人の命令に応じて車ごと海中に飛び込む以外の行為を選択することができない精神状態に陥らせていたものということができる。
 被告人は,以上のような精神状態に陥っていた被害者に対して,本件当日,漁港の岸壁上から車ごと海中に転落するように命じ,被害者をして,自らを死亡させる現実的危険性の高い行為に及ばせたものであるから,被害者に命令して車ごと海に転落させた被告人の行為は,殺人罪の実行行為に当たるというべきである。
 また,前記2のとおり,被害者には被告人の命令に応じて自殺する気持ちはなかったものであって,この点は被告人の予期したところに反していたが,被害者に対し死亡の現実的危険性の高い行為を強いたこと自体については,被告人において何ら認識に欠けるところはなかったのであるから,上記の点は,被告人につき殺人罪の故意を否定すべき事情にはならないというべきである。
 したがって,本件が殺人未遂罪に当たるとした原判決の結論は,正当である。
 よって,刑訴法414条,386条1項3号,181条1項ただし書,刑法21条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 濱田邦夫 裁判官 金谷利廣 裁判官 上田豊三 裁判官 藤田宙靖