sexting事例では「撮影させ」までがわいせつ行為だとする東京高裁判例がありますので、「その陰部等を露出する姿態をとらせ、その姿態を、携帯電話機のカメラ機能を用いて撮影し、その画像データ15点を同携帯電話機に内蔵又は接続された電磁的記録媒体に記録して保存し、もってAを現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて、同人に対し、わいせつな行為をするとともに」のうちの「その画像データ15点を同携帯電話機に内蔵又は接続された電磁的記録媒体に記録して保存し、」はわいせつ行為ではないことになるのでは。
千葉地方裁判所令和03年05月28日
上記の者に対する監護者性交等、監護者わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について、当裁判所は、検察官竹生田哲郎及び国選弁護人宇藤和彦各出席の上審理し、次のとおり判決する。主文
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、平成18年12月22日に養子縁組した●●●A●●●と、遅くともその頃から令和元年5月10日頃までの間、同居してその寝食の世話をし、その指導・監督をするなどして、同人を現に監護していた者であるが、
第1の1 Aが18歳未満の者であることを知りながら、同人と性交等をしようと考え、平成29年8月27日午後9時36分頃から同日午後9時53分頃までの間、●●●当時の被告人方●●●において、A(当時15歳)と口腔性交及び性交をし、もって同人を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて同人と性交等をし、
2 Aが18歳に満たない児童であることを知りながら、前記日時場所において、同人に、被告人と性交する姿態及びその陰部等を露出する姿態をとらせ、その姿態を、携帯電話機のカメラ機能を用いて撮影し、その画像データ104点を同携帯電話機に内蔵又は接続された電磁的記録媒体に記録して保存し、もって児童を相手方とする性交に係る児童の姿態及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを、いずれも視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造し、
第2の1 Aが18歳未満の者であることを知りながら、同人と性交をしようと考え、令和元年5月5日午後零時58分頃から同日午後1時9分頃までの間、被告人方において、A(当時16歳)と性交をし、もって同人を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて同人と性交をし、
2 Aが18歳に満たない児童であることを知りながら、同日午後零時36分頃から同日午後1時13分頃までの間、被告人方において、Aに、被告人と性交する姿態及びその陰部等を露出する姿態をとらせ、その姿態を、携帯電話機のカメラ機能を用いて撮影し、その画像データ113点を同携帯電話機に内蔵又は接続された電磁的記録媒体に記録して保存し、もって児童を相手方とする性交に係る児童の姿態及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを、いずれも視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造し、
第3 Aが18歳に満たない児童であることを知りながら、同人にわいせつな行為をしようと考え、同月9日午後6時23分頃から同日午後6時26分頃までの間、●●●橋において、A(当時16歳)に、その陰部等を露出する姿態をとらせ、その姿態を、携帯電話機のカメラ機能を用いて撮影し、その画像データ15点を同携帯電話機に内蔵又は接続された電磁的記録媒体に記録して保存し、もってAを現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて、同人に対し、わいせつな行為をするとともに、衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造し、
第4 Aが18歳未満の者であることを知りながら、同人と性交等をしようと考え、同日午後6時36分頃から同日午後8時26分頃までの間に、●●●に駐車中の自動車内において、同人(当時16歳)と口腔性交及び性交をし、もって同人を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて同人と性交等をした。
(証拠の標目)
(事実認定の補足説明)
1 本件の争点
被告人は、判示第1の1記載の行為の日時に関する点を除き、判示各事実に係る性交等、わいせつ行為及び児童ポルノに当たる写真の撮影行為自体を行ったことは認めている。しかし、被告人は、〈1〉判示第2の1記載の性交及び判示第4記載の性交等は、いずれもAの方から誘われて行ったものであり、判示第3記載のわいせつ行為の内容をなす撮影行為は、Aが自らスカートをまくるなどしたために行ったもので、これらをはじめとして本件各監護者性交等(判示第1の1、第2の1及び第4)並びに監護者わいせつ(判示第3)の各事実については、いずれも「現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて」行ってはいない旨述べる。また、〈2〉本件各児童ポルノ製造罪(判示第1の2、第2の2及び第3)についても、写真を撮る際にAに対してポーズをとるように指示したことはなく、Aに「姿態をとらせ」てはいないと供述する。
そして、弁護人においても、上記被告人の供述に依拠し、〈1〉については、Aは、被告人と性交等やわいせつな行為をすることについて自ら望んでおり、少なくともAの性的自己決定権に反しないものであるから、「監護者の影響力があることに乗じて」行われたとは認められないとし、〈2〉については、被告人がAに指示して当該姿態をとるように強制したものではないから、「姿態をとらせ」には当たらないとして、被告人はいずれの犯行についても無罪であると主張する。
2 争点〈1〉について
(1) 刑法179条の法意及び解釈
しかし、刑法179条が定める監護者性交等罪及び監護者わいせつ罪は、18歳未満の者は、精神的に未熟である上、生活全般にわたって自己を監督し保護している監護者に精神的・経済的に依存しているところ、監護者が、そのような依存・被依存ないし保護・被保護の関係により生ずる監護者であることによる影響力があることに乗じて、18歳未満の者に対し、わいせつな行為や性交等をすることは、強制性交等罪等と同じく、これらの者の性的自由ないし性的自己決定権を侵害するものであることから、このような行為類型については、暴行・脅迫が用いられず、また、抗拒不能等に当たらないとしても、強制わいせつ罪、強制性交等罪等と同等の悪質性・当罰性が認められるとして設けられた犯罪類型である。したがって、ここにいう「現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて」とは、監護者の影響力が一般的に存在し、かつ、当該行為時においてもその影響力を及ぼしている状態で性交等又はわいせつな行為をしたと認められれば足りるのであって、具体的な性交等又はわいせつな行為が、監護者の影響力と無関係に行われたと認められるような特別な事情がある場合のみが除かれる、というべきである。そして、性交等やわいせつな行為に及ぶ特定の場面において、監護者の影響力を利用するための具体的な行為を行う必要がないのはもちろん、18歳未満の者が監護者との性交等やわいせつな行為に応じるなど、その承諾があったとしても、さらには監護者との性交等やわいせつな行為を自ら求めたような場合であっても、その意思決定は、精神的に未熟で判断能力に乏しい18歳未満の者に対して、前記のような監護者の影響力が作用してなされたものとみるべきであって、被監護者の自由な意思決定ということはできないから、およそ監護者性交等罪や監護者わいせつ罪の成否を左右するものではないと解される。
(2) 認定事実と評価
ア 関係証拠によれば、被告人は、平成18年11月にAの実母と婚姻し、同年12月に当時4歳であったAとも養子縁組を行ってAの養父となったこと、そして、被告人は、遅くともその頃からAが警察に被害申告をした令和元年5月10日頃までの間、自宅でAと同居し、稼働した収入でAを含む家族の生計を支え、Aを学校に通わせ、その生活態度を注意するなどしてAを養育、監督、保護していたこと、このような関係下で、被告人は、Aと判示第1の1、第2の1及び第4各記載の性交等に及び、また、判示第3記載のわいせつな行為をしたものであることが明らかである。
被告人は、上記性交等やわいせつ行為の時点において、法律上も事実上もAを「現に監護する者」であったことに加えて、当時まだ15歳から16歳であったAが幼少期から文字どおり生活全般を全面的に依存してきた存在であったのであり、このような被告人が、Aの意思決定に対し、物心両面から一般的かつ継続的に作用を及ぼし得る力を有していたことは明らかであり、Aが精神面で年齢相応の成長を遂げていたとしても、このような影響力の程度はなお圧倒的なものといってよいものであったと認められる。
イ してみると、被告人が述べ、弁護人が主張するような事情が仮に認められるとしても、そこでAがとったとされる言動や態度自体が、上述のような監護者としての被告人の影響力が作用して導かれたものにほかならないというべきである。よって、前示のような監護者性交等罪や監護者わいせつ罪の法意との関係でその成立を妨げるような事情と評価することはできず、また、そこに法益主体の自律的な意思決定を観念すべきでない以上、犯情としても有意なものと評価すべきではなく、主張自体が失当に帰する。他に上記性交等やわいせつ行為について監護者としての影響力が遮断されていたと評すべき特段の事情も見当たらない。したがって、被告人がAに対してした上記性交等やわいせつの各行為は、「現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて」敢行されたものとして、各判示のとおりの監護者性交等罪又は監護者わいせつ罪を構成することに疑いはない。
ウ なお、被告人は、判示第1の1記載の犯行について行為の日時を争うが、当該行為を撮影した画像データの撮影日時に関する情報等に照らせば、判示第1の1記載の日時に行われたものと認定でき、これに疑いを入れるべき事情は見当たらない。
3 争点〈2〉について
(1) 次に、いわゆる児童ポルノ製造の罪における「(児童に)姿態をとらせ」とは、行為者の言動等により当該児童が当該姿態をとるに至ったことで足り、それ以上に強制や具体的又は明示的な指示等の働きかけを要するものではない。
(2) これを本件についてみると、判示第1の2及び第2の2記載の各児童ポルノ画像は、同第1の1及び第2の1の各監護者性交等に係る被告人がAと性交等を行っている様子やその前後にAが陰部等を露出している様子などをAの面前で撮影したものであり、また、判示第3記載の児童ポルノ画像も、Aが歩道橋の階段部分に座って陰部等を露出している姿態に被告人が携帯電話機のカメラを向けて撮影したことそのものが、同様に監護者わいせつ行為を構成するものである。すなわち、本件各児童ポルノ画像におけるAの姿態は、いずれも被告人がAに対して敢行した監護者性交等や監護者わいせつの各行為及びその機会に、Aがとった姿態にほかならない。そうである以上、そのこと自体において、被告人が児童であるAに前記(1)の意味で「姿態をとらせ」たものであることは自明である(なお、この評価は、監護者としての影響力に乗じたという側面からも導き得るが、それ以前に、被告人がAに対してした各性交等やわいせつな行為を撮影したということ自体に包含される当然の帰結というべきものである。)。
したがって、各判示の児童ポルノ製造の事実に疑いを入れる余地はなく、強制や明示的な指示の存在を否定することによって、姿態をとらせたことを争う被告人及び弁護人の主張は、ここでも失当である。
4 補足
判示各事実の認定に必要な証拠説明は、以上に尽きるが、後述の量刑判断における犯情事実の認定・評価の前提となるため、A及び被告人の各公判供述の信用性について触れておく。
(法令の適用)
罰条
判示第1の1、第2の1及び第4の各所為
いずれも刑法179条2項、177条前段
判示第1の2及び第2の2の各所為
いずれもそれぞれ包括して児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(以下「児童買春法」という。)7条4項、2項、2条3項1号、3号
判示第3の所為
監護者わいせつの点につき刑法179条1項、176条前段、児童ポルノ製造の点につき包括して児童買春法7条4項、2項、2条3項3号
科刑上一罪の処理
判示第3について 刑法54条1項前段、10条(重い監護者わいせつ罪の刑で処断)
刑種の選択
判示第1の2及び第2の2の各罪について いずれも所定刑中懲役刑を選択
併合罪の処理 刑法45条前段、47条本文、10条(刑及び犯情の最も重い判示第4の罪の刑に法定の加重)
未決勾留日数の算入 刑法21条
訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
刑事第5部
(裁判長裁判官 前田巌 裁判官 安重育巧美 裁判官 井上寛基)