児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

自撮りの場合、個人的法益に対する侵害がない場合には単純製造罪は成立しないこととなるから撮影した児童には単純製造罪は成立しないと考える(家庭の法と裁判32号)

 児童ポルノ法は行為主体から児童本人を除外していない
 共犯事件の場合、まず正犯者を特定するんですが、撮って送ったBが提供目的製造罪と提供罪で、頼んだAがその共犯(教唆)だという解釈が出発点でしょうね。
 神戸地裁H24.12.12は、ABを姿態をとらせて製造罪の共同正犯としています。
 紹介されている判例は、ほとんど奥村が関与しています。

ネット利用型性非行の法律的問題点と調査・審判における工夫・留意点
横浜家庭裁判所判事 岸野康隆
横浜家庭裁判所家庭裁判所調査官 庄山浩司
家庭の法と裁判32号

【事例1 】:少年Aは, 18歳に満たない児童である少年Bに対し, 同人の陰部や胸部が写った写真を撮影した上, その画像データをAに送信するよう依頼した。Bは, これに応じ,服を脱いで全裸になり, その陰部や胸部が写った写真を自分のスマートフオンで撮影し, その画像データをSNSのメッセージ機能を使ってAに送信した。
【事例2】 : 18歳に満たない児童である少年Cは, SNS上の同人のアカウントのフォロワーを増やしたり, 「いいね」を多くもらったりしたいと考え, 同人の裸の写真を撮影した上。これを同人のアカウントに掲載した。

2児童ポルノ法の保護法益
(1) 児童ポルノ法の目的
児童ポルノ法は,児童買春や児童ポルノの生産過程において,児童に対する性的搾取及び性的虐待が行われており, それらに対する法的規制の必要性が世界的に叫ばれる中,児童買春が横行し,児童ポルノの製造流通基地となっていた日本に対する国際社会からの批判を受け,平成11年に成立した比較的新しい法律である。その目的は,上記のような性的搾取及び性的虐待から児童の権利を擁護することにある(児童ポルノ法1条)。(2) 児童ポルノ法における保護法益の考え方ところで,児童ポルノ法7条所定の各罪の保護法益については,
①被写体児童の人格権等の個人的法益であるとする見解(個人的法益説),
②児童一般の心身の成長,健全な社会的風潮・性道徳といった社会的法益であるとする見解(社会的法益説),
③個人的法益と社会的法益の双方であるとする見解(混合説)
が対立している。立法者は, 「児童ポルノ提供等の罪は,児童ポルノを他人に提供等する行為が,児童ポルノに描写された児童の心身に有害な影響を与え続けるのみならず, このような行為が社会に広がるときは,児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長することになるとともに, 身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長に重大な影響を与えるといった点に着目して処罰するもの」であるとしており#)③の混合説を採用しており,裁判例の多くも同説に立っている(5)



次に,③の混合説に立つとしても,個人的法益と社会的法益との関係をどうみるのかについては, さらに見解が分かれているところ,各罪ごとにその目的,趣旨等に照らして考えていくのが相当である。そこで, 【事例1 】の単純製造罪【事例2】の公然陳列罪において,両法益の関係をどうみるべきかにつき検討する。
ア単純製造罪の場合
まず,単純製造罪についてみると, 同罪は,児童ポルノの他者への提供を予定していないものであり(6)、製造された児童ポルノが流通して社会に広がることになる可能性は, 否定できないものの,低いといえる。また,被写体児童に姿態をとらせることを要素とするその構成要件は(7))被写体となることにより受ける心身への有害な影響から被写体児童を守ることを第一の目的としているものと考えられる。そうすると,単純製造罪は, 第一次的には被写体児童の個人的法益を保護法益とするものであり.社会的法益はそれに付随して副次的に保護されるものにすぎず、個人的法益の侵害がない場合には,単純製造罪は成立しないというべきである(8)
イ公然陳列罪の場合
これに対し, 【事例2】で問題となる公然陳列罪は,公然陳列という行為の性質上, わいせつ物頒布等罪(刑法175条) と同様に考え, たとえ個人的法益に対する侵害がない場合であっても、社会的法益に対する侵害があれば,犯罪が成立するというべきであろう(9)


保護法益に関する以上の理解を前提として.
【事例1 】における少年A及びB, 【事例2】における少年Cについて, それぞれ犯罪の成否を検討する。
3 【事例1 】について
(1) 実行行為の内容
【事例1 】における実行行為の内容は,通常,
①Aが, Bに陰部等を露出した姿態をとらせ→
②Bが, その写真を自分のスマートフオンで撮影し→
③Bが, SNSのメッセージ機能を使って画像データをAに送信する,
という流れをたどることとなる。なお, スマートフォンの設定状況等にもよるが,③の時点では,画像データはAのスマートフオンではなく, SNSを運営する会社が管理するサーバに蔵置されていることが多い。その場合, Aが製造した児童ポルノは,そのサーバ上に蔵置された画像データということになる。そこで, Aのスマートフォンに蔵置するために
④Aにおいて,送信されてきた画像データを自分のスマートフォンに保存する作業
を行うことも少なくない。その場合, Aのスマートフォンに蔵置された画像データを製造された児童ポルノとしてとらえるのであれば,①から④までが実行行為となる。
(2) Aの単純製造罪の成否
まず, Aについて単純製造罪の成否を検討すると, 一連の実行行為のうち, 主要な部分を行っているのはBであるから, これをAに帰責してよいのか,帰責する場合にはどのような理由によるのかが問題となる。これを考える上では, AとBの関係性,両者の年齢,犯行に至る経緯等を踏まえて,具体的事例ごとに判断すべきである。例えば, Aが脅迫を用いてBに無理やり自画撮り等を行わせたケースであれば, Aには間接正犯として単純製造罪の成立が認められることになろう(10)一。方, Bが任意に自画撮り等を行ったケースについてみると,単純製造罪は, たとえ被写体児童が児童ポルノの製造に同意していたとしても成立するとされている(11)。ここで問題となるのは, Bが自らの意思に基づいて自画撮り等を行っている以上, もはや間接
正犯は成り立たず, AとBとの共同正犯を考えるべきなのではないかという点である(その反面Bの被害者としての立場を強調すると。Bを共同正犯とすることについても違和感がある。)。
間接正犯の成立をどの範囲で認めるのかという問題であり,具体的事例ごとの判断となると考えるが, Bが精神的に未熟で判断能力が十分とはいえず, AがこのようなBの精神的未熟さを認識した上で, Bに依頼して自画撮り等を行わせているような場合には, Aを間接正犯と評価すべき場合が多いのではないだろうか(12)


(3) Bの単純製造罪の成否
次に, Bについて検討する。被写体児童であるBは,基本的には単純製造罪における被害者の立場にあるものであるが.例外的に,被写体児童が他者に対して執勘,積極的に自分の児童ポルノを作成させるよう働きかけたような場合
には, Bに共犯が成立することは理論上考えられるとされている(13) しかし, Bにおいて,執勘かつ積極的に働きかけたようなことがあったとしても, それがBの精神的未熟さによるものである場合には,やはりBは被害者として扱うべきであろう。また, Bを共同正犯と評価すべき場合が仮にあったとしても, それは, Bが自らの法益を処分する行為であるから,個人的法益に対する侵害は認めることができない。そして,単純製造罪の保護法益に関する上記私見に基づく場合,個人的法益に対する侵害がない場合には単純製造罪は成立しないこととなるからBに単純製造罪は成立しないと考える。

4 【事例2】について
Cについても. Bと同様自らの法益を処分する行為を行っており,個人的法益に対する侵害は認められない。しかし,上述した私見に基づく場合,公然陳列罪は,社会的法益に対する侵害があれば成立することとなるので, Cには公然陳列罪が成立すると考える。
9)わいせつ物頒布等罪に比して法定刑が重いことなどを根拠として, 個人的法益に対する侵害がなければ公然陳列罪は成立しないとする見解もある(瀧本京太朗「いわゆる「自画撮り』行為の刑事規制に関する序論的考察(児童ポルノの自画撮りを題材として」北大法学論集68巻3号125頁,嘉門優「児童ポルノ規制法改正と法益論」刑事法ジャーナル43号79頁)。しかし,両罪の法定刑の下限は同じであり,個人的法益に対する侵害があった場合には刑が重くされると考えることもできる。
10) この場合,強要罪も成立することになるが,単純製造罪と強要罪の罪数関係については,具体的事案ごとに1個の行為といえるかどうかを判断することになる。この点に関する裁判例としては,観念的競合とした一審判決に法令適用の誤りがあるとして併合罪としたもの(東京高判平成28年2月19日判タ1432号134頁)などがある。
11)森山=野田・前掲注(4)100頁。もっとも,児童と真撃な交際をしている者が, 児童の承諾のもとでその裸体の写真を撮影する等,児童の承諾があり, かっこの承諾が社会的にみて相当であると認められる場合には,違法性が阻却され,犯罪が成立しない場合もあり得る(同101頁。札幌高判平成19年3月8日高刑速平成19年504頁参照)。
12)裁判例の中には, 間接正犯の成立を否定した上, 共同正犯の成立を認めたものもあるようである(瀧本・前掲注(9)89頁,奥村徹判例から見た児童ポルノ禁止法」園田寿=曽我部真裕綿著「改正児童ポルノ禁止法を考える」(日本評論社, 2014) 26頁)。
13)島戸・前掲注(6)110頁

家庭の法と裁判-Fami lyCourtJournal No、32/2021 .6