児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

隠しカメラで裸を撮影する行為は「わいせつな行為」に当たらない~大竹依里 子検事「オンラインで,児童を裸にさせ,動画撮影させた行為について,強制 わいせつ罪で処理した事例」研修(令3.6,第876号)研修の現場から

隠しカメラで裸を撮影する行為は「わいせつな行為」に当たらない~大竹依里子検事「オンラインで,児童を裸にさせ,動画撮影させた行為について,強制わいせつ罪で処理した事例」研修第876号
 判例収集が甘いです

 対岸からの撮影行為については、名古屋高裁判例があります。近ければわいせつになることもあるようです。

名古屋高裁h31.3.4
(本件[認識不可能な遠方からの盗撮]は強制わいせつに当たらず弁護人の主張は前提においても失当)

「犯人が被害者の意思に不法に介入する要素」というのも、乳幼児への強制わいせつ罪(176条後段)を考えると重視されていなくて東京高裁に判例があります。

東京高裁h30.1.30
(1) 論旨は,6歳未満の児童に対して強制わいせつ罪等は成立しないのに,強制わいせつ罪等の成立を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
  (2) 刑法は,強制わいせつ罪等の対象について年齢の下限を設けておらず,むしろ13歳未満の児童に対しては保護を厚くしており,法文上,6歳未満の児童も強制わいせつ罪の対象となることは明らかである。
 所論は,①低年齢児に対するわいせつ行為では一般人の性欲を興奮,刺激させない,②低年齢児には性的羞恥心がないので,法益侵害がないなどと主張する。
 しかし,①については,6歳未満の低年齢児でも殊更に全裸又は下半身を裸にさせて性器を露出させてこれを撮影するならば,一般人の性欲を興奮,刺激させるもの,言い換えれば,一般人が性的な意味のある行為であると評価するものと解されるから,強制わいせつ行為に該当する。また,②については,強制わいせつ罪の保護法益は,個人の性的自由であると解されるが,所論のように性的羞恥心のみを重視するのは相当ではなく,一般人が性的な意味があると評価するような行為を意思に反してされたならば,性的自由が侵害されたものと解すべきである。そして,ここで意思に反しないとは,その意味を理解して自由な選択によりその行為を拒否していない場合をいうものと解されるから,そのような意味を理解しない乳幼児については,そもそもそのような意思に反
しない状況は想定できない。このことは,精神の障害により性的意味を理解できない者に対しても準強制わいせつ罪(刑法178条1項)が成立することによっても明らかである。本件では,生後4か月から5歳までの乳幼児に対し,性器を露出させるなどして,これを撮影したものであるから,同人らの性的自由を侵害したものと認められる。

また、「被害児童がその陰部等を露出したり,手で陰部を触るなどの姿態を撮影させ,撮影させた映像を,被害児童の携帯電話機のビデオ通話機能を使用して,被疑者の携帯電話機にライブ配信させた上,同映像を被疑者の携帯電話機本体に記録して保存した」という行為のうち、「撮影させ」まではわいせつ行為だが、送信・受信はわいせつ行為には入らないという東京高裁判決があります

東京高裁H28.2.19
すなわち,原判決が認定した事実には,被害者に対し,その名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して同女を畏怖させ,同女をして,その乳房,性器等を撮影させるという,強制わいせつ罪の構成要件の一部となり得る事実を含むものの,その成立に必要な性的意図は含まれておらず,さらに,撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させるという,それ自体はわいせつな行為に当たらない行為までを含んだものとして構成されており,強要罪に該当する事実とみるほかないものである。
 弁護人は,①被害者(女子児童)の裸の写真を撮る場合,わいせつな意図で行われるのが通常であるから,格別に性的意図が記されていなくても,その要件に欠けるところはない,②原判決は,量刑の理由の部分で性的意図を認定している,③被害者をして撮影させた乳房,性器等の画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させる行為もわいせつな行為に当たる,などと主張する。
 しかしながら,①については,本件起訴状に記載された罪名および罰条の記載が強制わいせつ罪を示すものでないことに加え,公訴事実に性的意図を示す記載もないことからすれば,本件において,強制わいせつ罪に該当する事実が起訴されていないのは明らかであるところ,原審においても,その限りで事実を認定しているのであるから,その認定に係る事実は,性的意図を含むものとはいえない。
 また,②については,量刑の理由は,犯罪事実の認定ではなく,弁護人の主張は失当である。
 そして,③については,画像データを送信させる行為をもって,わいせつな行為とすることはできない。

研修の現場から
オンラインで,児童を裸にさせ,動画撮影させた行為について,強制わいせつ罪で処理した事例
大竹依里子
第2 本事例の概要及び原庁での処理内容等
本事例は,被告人が,当時10歳ないし11歳の児童4名(以下,「被害児童」という。)に対し,オンラインゲーム上で使用できるアイテム等を交付することの対価として,被害児童がその陰部等を露出したり,手で陰部を触るなどの姿態を撮影させ,撮影させた映像を,被害児童の携帯電話機のビデオ通話機能を使用して,被疑者の携帯電話機にライブ配信させた上,同映像を被疑者の携帯電話機本体に記録して保存した事案です。
原庁は,本件について,児童ポルノ製造罪だけでなく,強制わいせつ罪も成立するとして,両罪で公判請求し,一審の判決も公訴事実どおりの罪を認定しました。
そこで,被害者の身体に触れておらず(非接触),しかも,被疑者が遠隔地にいて,被害児童とオンラインでつながっている(非面前)という特徴を有する本事例を題材にして,わいせつな行為をどのように認定し,立証すれば良いかを,近時の最高裁判決における「わいせつな行為」の判断方法を踏まえて検討しました。
以下,検討の順に沿って,述べていくこととします。
第3 最高裁判決における「わいせつな行為」の判断方法
第4具体的検討
1 被害児童を裸にさせて撮影する行為が「わいせつな行為」と言えるか
本事例には,被害児童に衣服を脱がせて裸にさせる行為,裸の撮影行為がありました。
被害児童に衣服を脱がせて裸にさせる行為について,研修員からは,当該行為がわいせつな行為に該当するということに異論はありませんでした。
その理由として,衣服を脱がせて裸にさせる行為は,被害者の性的自由ないし性的差恥心を侵害する行為であり,社会通念に照らしても,当該行為に性的な意味があるということが挙げられていました。
また,裸の撮影行為それ自体を見ても,他者に見られたくない性的な画像が保存され,あるいは第三者に拡散されるおそれが生じるという点で,新たな性的自由に対する侵害が生じていることから,衣服を脱がせて裸にさせる行為とは別に,裸の撮影行為についても,わいせつな行為に該当するという結論に至りました。
いずれの行為を見ても,わいせつな行為の判断要素として、被害者の性的自由の侵害は,大きな要素であるという結論に至りました。
2 隠しカメラで裸を撮影する行為が「わいせつな行為」と言えるか
次に,本事例の対照事例として,例えば,13歳未満の者がいる更衣室等において,ひそかに,裸を撮影する行為を想定して検討しました。
確かに,このような場合であっても,被害者の性的自由は,客観的には侵害されているといえそうです。
しかし,このような場合には,被害者において,性的自由が侵害された認識がないという理由から,強制わいせつ罪は成立しないという意見で一致しました。
そうすると,わいせつな行為を判断する際に,被害者の認識の有無は大きな要素を占めるのではないかと考えられ,被害者の認識がない,例えば,全裸で就寝中の他人を撮影する行為はわいせつな行為にはならないとの意見で一致しました。
そして,被害者の認識の有無がわいせつな行為の判断に大きな要素を占めることから,犯人が被害者の意思に働き掛ける要素の有無が,わいせつな行為の成否に影響するという結論に至りました。
その理由は,性的な自由について,他人が個人の性的な領域に対して不法に(暴力的に)介入すること排除して,個人の性的領域についての自由な意思決定と活動を内容とする権利だと考えると,強制わいせつ罪のわいせつな行為の判断には,犯人が被害者の意思に不法に介入する要素が必要であると考えられるからです。

3 非面前における行為が「わいせつな行為」と言えるか
ところで,本件では,遠隔地から携帯電話機のビデオ通話機能を使用して行われている犯行ですが,遠隔地にいる,すなわち,犯人と児童とが目の前にいないことが,わいせつな行為の判断に影響を与えるかも検討しました。
この点について,犯人が遠隔地にいるからといって,自己の裸を他人の目に直接さらすということに違いはなく,遠隔地でオンラインでつながっていることは,規範的に見て,目の前にいることと違いはないという結論に至りました。
 対照事例として,犯人が遠隔地にいて,オンラインで,自分の性器を露出した動画を相手方に送りつけた場合は,どうかということも検討しました。
この点については,強制わいせつ罪のわいせつな行為とまでは言えないのではないかという結論に足りました。
それは,接触を伴う強制わいせつと同程度に,相手の身体を積極的に利用したり,侵害したりするものとは言えないという理由が挙げられました。
このように,わいせつな行為の判断においては,この被害者の身体を積極的に利用したり,侵害したりすることが要素として挙げられると考えられます。
さらに,被害者に自分の裸を撮影させて,後でその動画を送らせる,すなわち,裸の動画を撮影している際には,犯人が被害者の面前にいるとは規範的にも言えない場合は,わいせつな行為に当たるかも検討しました。
これについては,接触を伴う強制わいせつにおいては,犯人が被害者の面前にいることが前提にされていることから,非接触の強制わいせつにおいても,犯人が規範的に見て,被害者の目の前にいると言えなければ,わいせつな行為に
当たらないという意見もありました。
この点,研修員の中からは,遠隔地にいる被害者を脅迫して,被害者の裸の写真を送らせた行為について,強制わいせつ罪で逮捕状を請求したところ,これを却下された事例があるという報告もありましたが、この裁判官も上述したのと同じ理由で強制わいせつ罪に該当しないと判断したものと思われます。

 武井検事に裁判所を聞いて閲覧してきましたが、公訴事実第1(強制わいせつ罪(176条後段))は生中継型でしたが、第3(強制わいせつ罪(176条後段))以降は静止画像の送信で、要求行為と受信との間にタイムラグがあって「遠隔地でオンラインでつながっていることは,規範的に見て,目の前にいることと違いはないという結論に至りました。」というのであれば、わいせつ行為に当たらないことになります。一貫していません。
 しかも、起訴検事は、児童ポルノ製造罪の訴因にLINEの「陰部を手で直接触る姿態を取らせて」を挙げて、1号ポルノの製造罪で起訴していましたが、裁判所に削られています。オンラインという点で、性交と同視できないようです。

公訴事実
被告人が、a(当時12歳)が 13歳未満の者と知りながら
第1 a12歳にわいせつ行為しようと企て
令和3年11月15日12:31~1253までの間
大阪市市北区西天満4の被告人方から
aに対して 被告人が使用する携帯電話機を使用して前記aが使用する携帯電話機に
アプリケーションソフトLINEのビデオ通話を使用して
全裸で陰部等を露出したaの姿態 
及び
陰部を直接手で触る姿態を撮影して
被告人が使用する携帯電話に動画配信するように要求し
その頃児童方において 同人aに衣服を脱がせて全裸で陰部等を露出した姿態 
及び
陰部を手で直接触る姿態を取らせて
これをa12が使用する携帯電話機で撮影させ、
もって13未満にわいせつ行為をし、強制わいせつ罪(176条後段)
第2 前同日、 第1の通り、a12歳に対して
全裸で陰部等露出した姿態 
及び
陰部を手で直接触る姿態を取らせて
前記LINEのビデオ通話機能を使用して 被告人の携帯に動画配信させ
そのころ、被告人方において、携帯の録画機能を用いて動画データを携帯電話機内の内蔵記録装置に記録させて保存して
もって 
児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為にかかる児童の姿態
及び
衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録にかかる記録媒体である児童ポルノを製造し