児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

リモート強制わいせつ事件の「わいせつ」とされる範囲と、児童ポルノ製造罪との罪数処理

高裁判例レベルでは、
  わいせつは、「撮影させ」までで、「送信させ」は含まない
  児童ポルノ製造罪とは観念的競合になる
となるはずです。

 

 

        わいせつとされた範囲 児童ポルノ罪が起訴された場合の罪数処理
東京 地裁   H18.3.24 撮影送信させ受信して 観念的競合
大分 地裁   H23.5.11 撮影送信させ 併合罪
東京 地裁   H27.12.15 撮影送信させ 併合罪
高松 地裁   H28.6.2 撮影送信させ 併合罪
横浜 地裁   H28.11.10 撮影送信させ  
松山 地裁 西条 H29.1.16 撮影送信させ  
高松 地裁 丸亀 H29.5.2 撮影させ  
岡山 地裁   H29.7.25 撮影送信させ 併合罪
札幌 地裁   H29.8.15 撮影させ 併合罪
札幌 地裁   H30.3.8 撮影させ 併合罪
東京 地裁   H31.1.31 撮影させ 併合罪
長崎 地裁   R1.9.17 ビデオ通話機能を通じて、同人に胸や陰部を露出した姿態及び陰部を指で触るなどした姿態をとるよう指示し、同人にそれをさせた上、その姿態の映像を前記ビデオ通話機能を用いて被告人の携帯電話機に送信させ、もって強いてわいせつな行為をした。  
高松 地裁 丸亀 R2.9.18 撮影させ 併合罪
熊本 地裁   R3.1.13 撮影させ 併合罪
京都 地裁   R3.1.21 撮影させ 併合罪
京都 地裁   R3.2.3 撮影させ 併合罪
大阪 高裁   R3.7.14 撮影させ 観念的競合
京都 地裁   R3.7.28 撮影させ 併合罪
大阪 高裁   R4.1.20 撮影させ 観念的競合
札幌 地裁 小樽 R4.3.2 自慰行為等+撮影させ  
東京 地裁   R4.3.10 撮影させ 併合罪
京都 地裁   R4.6.10 同人に陰部露出させる姿態とらせてスマホで撮影させもって、13歳未満の物に対して、わいせつな行為をした 併合罪
東京 地裁   R4.8.19 自慰行為をさせた上、その様子を同人が使用する撮影機能付き携帯電話機で撮影させ、さらに、その画像等のデータを被告人が使用する携帯電話機に送信させ、 成人
京都 地裁   R4.9.13 同人に陰部露出させる姿態とらせてこれを同人が使用するタブレット端末で撮影させ、
もってr、13未満の者に対してわいせつ行為をし
併合罪
札幌 地裁   R4.9.14 撮影させ 観念的競合
釧路 地裁   R5.1.6 送信させ  
札幌 高裁   R5.1.19 撮影させ 観念的競合
大津 地裁   R5.3.1 陰茎を手淫させるとともに、その状況をスマホの動画撮影機能で撮影させた上、その動画を被告人が使用するスマホに送信させ、 併合罪
地裁   R5.8.18 静止画を送信するよう要求し、同年7月24日頃から同年8月10日午前8時13分頃までの間、同県内のA方等において、同人に前記要求に応じた姿態をとらせ、81回にわたり、これを同人に撮影機能付き携帯電話機で撮影させて、その頃、被告人が使用する携帯電話機に同静止画を送信させ
 もって、Aの抗拒不能に乗じてわいせつな行為をした。
 
旭川 地裁 稚内 R5.11.10 ズボンを脱いで。」、「ちゃんと見えるように足を開いた写真を撮って。」などと申し向け、Bがその旨誤信して抗拒不能の状態にあることに乗じ、その頃、B方において、同人に陰部及び乳房等を露出させる姿態をとらせ、その姿態をスマートフォンで撮影させ、もって人の抗拒不能に乗じてわいせつな行為をした  

 

 

 

稚内支部令和5年11月10日宣告  準強制わいせつ被告事件
(弁護人の主張に対する判断)
第1 弁護人の主張
  弁護人は、事実関係は争わないが、以下のように主張している。
1 判示第1事実について
  判示第1事実に係る公訴事実の要旨は、判示第1のとおり被告人がBに申し向け、Bが抗拒不能の状態にあることに乗じ、同人に陰部及び乳房等を露出させる姿態をとらせ、その姿態をスマートフォンで撮影させ、同撮影画像を被告人に見せるよう要求し、同日午後1時分頃から同日午後1時分頃までの間、B方において、Bに陰部及び乳房等を露出した写真を写真共有アプリケーションソフト「」にアップロードさせ、もって人の抗拒不能に乗じてわいせつな行為をしたというものである。
  弁護人は、①Bに陰部及び乳房等を露出させる姿態をスマートフォンで撮影させた行為は刑法(令和5年法律第66号による改正前のもの。以下同じ。)176条前段の「わいせつな行為」に当たらないから被告人は無罪である、②仮に当たるとしても、前記姿態を撮影した写真を写真共有アプリケーションソフトにアップロードさせる行為は「わいせつな行為」には含まれない旨を主張する。
第2 当裁判所の判断
 当裁判所は、①BにBの姿態をスマートフォンで撮影させた行為は「わいせつな行為」に当たる、②Bに写真を写真共有アプリケーションソフトにアップロードさせる行為は「わいせつな行為」には当たらない、③Aに陰部及び乳房等を露出させる姿態をとらせた行為は、その姿態を撮影させた行為を含むものといえるが、①同様、「わいせつな行為」に当たると判断し、判示第1事実及び第2事実について判示のとおり認定した上、被告人にはいずれについても準強制わいせつ罪が成立すると判断した。以下、その理由を説明する。
1 弁護人の主張①について
(1) 判示第1事実に関しては、女児であるBと面識のない当時63歳の男性の被告人が、健康センターの者であるという虚偽の事実を述べ、さらに、性病の診察という虚偽の目的を騙り、Bの陰部や乳房という、性器そのものや性的意味合いを有する部位を、Bに指示して衣類を脱がせて露出させ、撮影させていることが認められる。
  被告人の行為は、Bに、Bの衣類を脱がせて陰部等を露出させ撮影させた行為という限度で捉えたとしても、Bの身体を性的対象として利用することが可能となる状態を作出した上で、B以外の者が、Bのその姿態を認識可能な状態を作出するものといえ、その行為自体性的性質を有していると評価できることに加え、被告人の行為時の前記のような具体的な事情を踏まえると、被告人の行為は、Bに陰部や乳房を露出させ性的な姿態をとらせ、その姿態を撮影させることのみを目的としていたことは明らかであり、まさにBの身体を性的対象として利用しようとするものであるといえ、その行為が性的意味合いを強く有することは明らかである。
  被告人は、遠隔地から電話によりBに指示をしており、Bの身体に直接接触する等しておらず、また、Bが陰部等を露出しその撮影をしている際に、その状況を直接視認していたものでもないことからすれば、被害者の性的自由の侵害の程度は、それらの事情がある事案と比較すれば、低い部類に属するとはいえるものの、性的性質が否定されるものではない。
  そして、本件は、準強制わいせつ罪の事案であるところ、Bに、診察行為であると誤信させて性的な姿態をとらせ、その姿態を撮影させることは、まさに、被害者を心理的抗拒不能の状態にしてその性的自由を侵害するものであり、準強制わいせつ罪としての当罰性を有するものといえる。
  したがって、被告人の行為は、刑法176条前段の「わいせつな行為」に当たると認められる。
(2) 弁護人は、被害者に性的な姿態を撮影させ送信させる行為は、これまで、その大半が、強要罪として起訴され、裁判所において強要罪として処罰されていること等からすると、上記のような行為は、社会通念上、「わいせつな行為」に当たらないものと評価されている旨を主張する。
  しかし、裁判所は、検察官が訴因を強要罪と設定した場合には強要罪の成否を審判対象とするに過ぎず、そのような訴因設定を踏まえ、同罪により処罰したに過ぎないといえることや、検察官が訴因を強要罪とするか強制わいせつ罪とするかは、当該訴因に係る事実が「わいせつな行為」に該当するか否かという一点のみならず、諸事情を考慮し選択するものであるとも考えられることからすると、弁護人の主張を踏まえても、本件の被告人の行為が「わいせつな行為」に当たるという評価が否定されるものではなく、その主張は採用できない。‘
(3) また、弁護人は、犯人が被害者の面前にいない状態でした行為が「わいせつな行為」に当たるというためには、規範的にみて犯人が被害者の面前にいるといえなければならないところ、本件では、被告人がBに陰部及び乳房等を露出させる姿態をスマートフォンで撮影するよう要求する行為とBがその姿態を撮影した行為との間には時間的間隔があり、規範的にみて被告人がBの面前にいるとはいえないから、被告人の行為は「わいせつな行為」に当たらないと主張しているものと解される。
  しかし、証拠によれば、Bは、被告人と通話をしながら、被告人の要求に応じ、陰部及び乳房等を露出させる姿態を撮影したことが認められるから、本件では被告人の要求行為とBの撮影行為の間に時間的間隔があるものではない。
  また、犯人が被害者の面前にいない状態で、被害者に要求しわいせつ行為をさせることは、被害者の身体を性的対象として利用することが可能となる状態を作出する等する点において犯人の面前における行為と変わりはなく、被害者の性的自由を侵害する行為であるといえるから、被害者の面前にいない状態であることから「わいせつな行為」に該当することが否定されるものではなく、その主張は採用できない。
2 弁護人の主張②について
 前記1のとおり、BにBの姿態をスマートフォンで撮影させた行為は、それのみで「わいせつな行為」に当たるものであり、撮影行為にとどまらず、写真を写真共有アプリケーションソフトにアップロードさせる行為は、準強制わいせつ罪の成立に当たり必要不可欠な行為とまではいえないから、それ自体はわいせつな行為には当たらない。
 したがって、罪となるべき事実としては、BにBの姿態をスマートフォンで撮影させた行為までを認定すれば足りることから、判示のとおり認定した。