児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

大竹依里子検事の「遠隔であってもオンラインで生中継させるなど脅迫行為と同時に撮影させる場合のみが強制わいせつ罪となる」という見解(研修876号)は通らなかった。(札幌高裁r5.1.19)


 「接触を伴わない強制わいせつ罪の成否を、接触を伴う強制わいせつ罪の成否と同様に考える必然性はないし、犯人が規範的にみて被害者の面前にいるとはいえない状況であっても、本件のように、被害者に要求して、その身体を性的な対象として利用できる状態に置き、それを記録化して被告人や第三者が知り得る状態に置くことで、接触を伴う強制わいせつ罪と同程度の性的侵害をもたらし得ることは明らかである」とか判示しています。
 検事によって温度差があるような気がします。

札幌高裁r5.1.19
 1 しかし、以下のとおり、所論は全て採用することができない。
 ①については、被告人は、Aに要求して、陰部等を露出した姿態をとらせ、これらをスマートフォンで撮影させているところ、その行為は、Aを性的意味合いの強い陰部等を露出した裸体にさせ、Aの身体を性的な対象として利用できる状態に置いた上、これを撮影させて記録化することで、その内容を被告人や第三者が知り得る状態に置くものであって、被告人がAに対して撮影した動画データを被告人に送信することも要求して撮影させており、その撮影させる行為自体にAがこの要求に従って動画データを送信して被告人がこれを閲覧することになる具体的な危険性が認められることも踏まえると、その性的侵害性は大きく、また、本件が、当時○○歳の男性である被告人が、SNSを通じて知り合いアプリケーションソフトを利用してやり取りをしていたという関係にすぎない当時13歳未満の女児であるAに対し、Aの陰部等を見たいなどというメッセージや男性が自慰行為をしている動画データを送信するなどする中でなされたものであることも踏まえると、その性的意味合いは強いというべきであるから、その行為が「わいせつな行為」に当たり、強制わいせつ既遂罪が成立すると判断した原判決に誤りはない。
 ②については、前記のとおり、原判決が、被告人がAに撮影させた動画データ4点を被告人のスマートフォンに送信させてサーバコンピュータ内に記録・保存させた行為を、強制わいせつ罪を構成する事実として認定したとは認められず、Aに動画データを送信・記録させる行為に及ぶと、Aに撮影させた点を含めて行為全体がわいせつ行為とは評価できなくなるなどというのは、所論独自の見解であって、採用の限りではない(なお、所論指摘の裁判例は、そのような趣旨を判示したものとは解されない。)。
 ③については、接触を伴わない強制わいせつ罪の成否を、接触を伴う強制わいせつ罪の成否と同様に考える必然性はないし、犯人が規範的にみて被害者の面前にいるとはいえない状況であっても、本件のように、被害者に要求して、その身体を性的な対象として利用できる状態に置き、それを記録化して被告人や第三者が知り得る状態に置くことで、接触を伴う強制わいせつ罪と同程度の性的侵害をもたらし得ることは明らかであるから、所論は採用できない。
 ④については、刑法176条後段の強制わいせつ罪は、被害者の承諾がある場合も含め、13歳未満の男女にわいせつな行為をすることで成立するところ、本件において被告人が当時歳のAに対して行った行為がわいせつな行為に当たることは前記のとおりであり、それ以外の要件として被害者の道具性が要求されるとする所論は、独自の見解であって採用できない。
 ⑤については、本件において、Aに陰部等を露出した姿態をとらせてこれを撮影させるという強制わいせつ罪に当たる行為は、Aに陰部等を露出した姿態をとらせてこれを撮影させた上、その動画データを被告人のスマートフォンに送信させて、サーバコンピュータ内に記録・保存させるという児童ポルノ製造罪に当たる行為に包摂されていること、被告人は当初から撮影後に動画データを送信することも要求しており、撮影から送信、保存・記録までがほぼ同時刻に行われていること、一般に本件のような態様のわいせつ行為は、撮影された画像の内容を行為者等が知り得る状態に置くことを意図して行われるものと考えられることも踏まえると、両行為は通常伴う関係にあり、自然的観察の下で社会的見解上1個のものであると評価することができるから、両罪を観念的競合とした原判決に誤りがあるとはいえない(なお、所論指摘の裁判例は、いずれも本件とは事案を異にするものである。)。

控訴理由
法令適用の誤り~研修876号の大竹依里子検事の見解では「遠隔であってもオンラインで生中継させるなど脅迫行為と同時に撮影させる場合のみが強制わいせつ罪となる」とされているが、本件では、要求行為に遅れて撮影行為がされているから、わいせつ行為にはならない
1 大竹依里子検事(研修876号)の見解
 遠隔で撮影させる行為が「わいせつ行為」になるにしても、撮影だけなのか、送信させる行為も含むのかについては、いろいろな考え方があるところ、研修876号では、
生中継させた場合には、

「犯人が遠隔地にいるからといって,自己の裸を他人の目に直接さらすということに違いはなく,遠隔地でオンラインでつながっていることは,規範的に見て,目の前にいることと違いはないという結論に至りました。」

という強気な見解である一方、
撮影・送信させる場合には

「被害者に自分の裸を撮影させて,後でその動画を送らせる,すなわち,裸の動画を撮影している際には,犯人が被害者の面前にいるとは規範的にも言えない場合は,わいせつな行為に当たるかも検討しました。これについては,接触を伴う強制わいせつにおいては,犯人が被害者の面前にいることが前提にされていることから,非接触の強制わいせつにおいても,犯人が規範的に見て,被害者の目の前にいると言えなければ,わいせつな行為に当たらないという意見」
「遠隔地にいる被害者を脅迫して,被害者の裸の写真を送らせた行為について,強制わいせつ罪で逮捕状を請求したところ,これを却下された事例があるという報告もありましたが‘この裁判官も上述したのと同じ理由で。強制わいせつ罪に該当しないと判断したものと思われます

と弱気な見解となっている。

大竹依里子「オンラインで,児童を裸にさせ,動画撮影させた行為について,強制わいせつ罪で処理した事例」 研修876号
第2 本事例の概要及び原庁での処理内容等
本事例は,被告人が,当時10歳ないし11歳の児童4名(以下,「被害児童」という。)に対し,オンラインゲーム上で使用できるアイテム等を交付することの対価として,被害児童がその陰部等を露出したり,手で陰部を触るなどの姿態を撮影させ,撮影させた映像を,被害児童の携帯電話機のビデオ通話機能を使用して,被疑者の携帯電話機にライブ配信させた上,同映像を被疑者の携帯電話機本体に記録して保存した事案です。
原庁は,本件について,児童ポルノ製造罪だけでなく,強制わいせつ罪も成立するとして,両罪で公判請求し,一審の判決も公訴事実どおりの罪を認定しました。

 遠隔の医療行為に配慮したようだ。

しかし,陰部を直接撮影していたとしても,医師が治療行為の一環として,陰部にできた腫瘍を記録・保存する行為を想定したとすると,わいせつな行為だというのは,違和感を覚えます。

 そこで本件でも強制わいせつ罪の訴因は「撮影させ」に留まっている。

 大竹検事に問い合わせると、研修の事案は熊本地裁R3.1.13*1だという。刑事確定訴訟記録法で閲覧したところ、児童がLINEで裸体を生中継して、被告人が同時に視聴した事案を強制わいせつ罪(176条後段)にしたものである。(さらにこれを1号ポルノ(性交・性交類似行為)で起訴した模様である。)

第1 a10にわいせつ行為しようと企て
h30.10.6 1131~1153まで
の被告人方から
aに対して 被告人が使用する携帯電話機を使用してaの携帯電話機にLINEのビデオ通話を使用して
全裸で陰部等を露出したaの姿態 及び陰部を手で触る姿態を撮影して被告人が使用する携帯電話に動画配信するように要求し
そのころ児童方において aに衣服を脱がせて全裸で陰部等露出した姿態 及び陰部を手で直接触る姿態を取らせて
これをaが使用する携帯で撮影させ、もって13未満にわいせつ行為をし、強制わいせつ罪(176条後段)

 生中継だから、同時であって、面前のわいせつ行為と同評価できるというのである。

 この研修の見解に従えば、本件では、脅迫行為と、撮影行為とは少し時間がズレているので、強制わいせつ罪に該当しない。
 にもかかわらず強制わいせつ罪を認めた原判決には法令適用の誤りがあるから原判決は破棄を免れない。

2 本件での要求行為と撮影行為の時間的間隔
 ちょっとズレているので、

接触を伴う強制わいせつにおいては,犯人が被害者の面前にいることが前提にされていることから,非接触の強制わいせつにおいても,犯人が規範的に見て,被害者の目の前にいると言えなければ,わいせつな行為に当たらないという意見

に従えば、規範的にみて、被害者の目の前にいると言えないから、わいせつな行為に当たらない
■■■■■■■証拠■■■■■■■■■
 要求文言と撮影行為とは時刻的には重なっていない
 しかも、送信させた行為・受信した行為は起訴されていないから、被告人の目前で乳房露出して撮影したとは言えない。
 しかも、研修の事例では、陰部露出しろとか、陰部触れとか指示した上で、その模様を生中継させた事案だが、本件は乳房露出画像を送れと求めたに留まる事案であるから、同程度とは評価できない。

大竹依里子「オンラインで,児童を裸にさせ,動画撮影させた行為について,強制わいせつ罪で処理した事例」 研修876号
第2 本事例の概要及び原庁での処理内容等
本事例は,被告人が,当時10歳ないし11歳の児童4名(以下,「被害児童」という。)に対し,オンラインゲーム上で使用できるアイテム等を交付することの対価として,被害児童がその陰部等を露出したり,手で陰部を触るなどの姿態を撮影させ,撮影させた映像を,被害児童の携帯電話機のビデオ通話機能を使用して,被疑者の携帯電話機にライブ配信させた上,同映像を被疑者の携帯電話機本体に記録して保存した事案です。

3 裁判例
 たしかに生中継させる強制わいせつ(176条後段)事案で、オンラインで送信させた事案が公開されている。
 裁判所の見解でも要求行為と撮影行為は同時に行われなければならない。

長崎地裁R1.9.17
第一法規『D1-Law.com 判例体系』 【判例ID】
28274224
【裁判年月日等】
令和1年9月17日/長崎地方裁判所刑事部/判決/平成30年(わ)248号/平成31年(わ)12号
【事件名】
強制わいせつ、長崎県少年保護育成条例違反被告事件
(犯罪事実)
第1 被告人は、A(当時16歳)から入手した同人の画像データ等を利用して強いてわいせつな行為をしようと考え、平成30年10月26日午後10時6分頃から同月27日午前2時21分頃までの間に、D市内又はその周辺において、自己の携帯電話機及びタブレットから、同人が使用する携帯電話機に、アプリケーションソフト「E」の通話機能及びビデオ通話機能を利用して通信し、D市内にいた同人に対し、「写真を援助交際サイトに載せる。」「学校や家の近くに何人かの人が来る。」「連れていかれたことがある。」などと脅迫し、もしこの要求に応じなければAの自由や名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨畏怖させ、その反抗を著しく困難にし、ビデオ通話機能を通じて、同人に胸や陰部を露出した姿態及び陰部を指で触るなどした姿態をとるよう指示し、同人にそれをさせた上、その姿態の映像を前記ビデオ通話機能を用いて被告人の携帯電話機に送信させ、もって強いてわいせつな行為をした。