児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

被害者に対し,それぞれ脅迫文言を記載したメッセージを送信するなどして脅迫し,これによって被害者らを畏怖させ,被害者らに裸の姿態をとらせて自らこれを撮影させた上,その画像ないし動画データを被告人の携帯電話機に送信させる行為は~その性質上当然に強制わいせつ罪に当たる行為とみることはできず,その該当性を判断するに当たっては,当該事案における具体的状況等に則して強制わいせつ罪に係る構成要件を充足するに足る事実があるか否かを総合的に考慮する必要がある(大阪高裁R02.10.02)

被害者に対し,それぞれ脅迫文言を記載したメッセージを送信するなどして脅迫し,これによって被害者らを畏怖させ,被害者らに裸の姿態をとらせて自らこれを撮影させた上,その画像ないし動画データを被告人の携帯電話機に送信させる行為は~その性質上当然に強制わいせつ罪に当たる行為とみることはできず,その該当性を判断するに当たっては,当該事案における具体的状況等に則して強制わいせつ罪に係る構成要件を充足するに足る事実があるか否かを総合的に考慮する必要があることに加え,原判決が被害者をして画像ないし動画データを送信させるという,それ自体は性的な意味合いがなく強制わいせつには当たらない事実を含まれる。(大阪高裁R02.10.02)
 不利益主張って言われるので、軽く主張したんですが、長々と判示いただきました。
「その性質上当然に強制わいせつ罪に当たる行為とみることはできず,その該当性を判断するに当たっては,当該事案における具体的状況等に則して強制わいせつ罪に係る構成要件を充足するに足る事実があるか否かを総合的に考慮する必要がある」そうですから、強制わいせつ罪で起訴されている事件では、そういう事実を認定してください。


阪高裁令和2年10月2日
1 原判示第1及び第3の各事実に関する法令適用の誤りの主張について
論旨は,原判決が認定した原判示第1及び第3の各事実について,いずれも強制わいせつ罪又は同未遂罪が成立し,このような場合には法条競合により強要罪または同未遂罪が成立しないのに,それらの成立を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
そこで,原審記録を調査して検討するに,強制わいせつ罪にも強要罪にも該当する事実について,強制わいせつ罪が適用された場合,法条競合により強要罪の規定は適用を排除されるが,そのような場合においても実体法上およそ強要罪が成立し得ないことを意味するものではないと解されるところ,以下のとおり,原判決は,原判示第1及び第3の各事実につき,強制わいせつ罪ないし同未遂罪の該当性を認定しながら強要罪ないし同未遂罪の規定を適用したものとみることはできず,その法令適用に何ら誤りは認められない。
すなわち,原判決が認定した原判示第1及び第3の各事実の要旨は,被告人が各被害者に対し,それぞれ脅迫文言を記載したメッセージを送信するなどして脅迫し,これによって被害者らを畏怖させ,被害者らに裸の姿態をとらせて自らこれを撮影させた上,その画像ないし動画データを被告人の携帯電話機に送信させ,又は送信させようとしたが未遂にとどまったというものであるところ,なるほどこれらの事実中には,各被害者を脅迫し畏怖させた上,同人らに裸の姿態をとらせて自ら撮影させ,又はさせようとしたという点では,性的な意味合いを持つ行為が含まれている。
しかし,このような行為がその性質上当然に強制わいせつ罪に当たる行為とみることはできず,その該当性を判断するに当たっては,当該事案における具体的状況等に則して強制わいせつ罪に係る構成要件を充足するに足る事実があるか否かを総合的に考慮する必要があることに加え,原判決が被害者をして画像ないし動画データを送信させるという,それ自体は性的な意味合いがなく強制わいせつには当たらない事実を含めて,これら一連の行為が被害者に義務なき行為を行わせたものとして強要罪ないし同未遂罪に当たる旨認定し,法令の適用欄においてもこれらの罪を適用していることにも照らすと,原判決が強制わいせつ罪ないし同未遂罪に当たる事実を認定しながら,強要罪ないし同未遂罪の規定を適用したものではないことは,原判決の記載自体から明白というべきである。
したがって,原判決が原判示第1及び第3の各事実について,強要罪ないし同未遂罪の規定を適用したことが誤りであるとは認められない。
論旨は理由がない。

検察官もわいせつではないと主張していたことがある。

答 弁 書
平成27年5月18日
                     名古屋高等検察庁金沢支部

 強要,同未遂,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反 
 上記被告人に対する頭書被告事件について,弁護人の平成27年4月6日付け及び同月10日付け各控訴趣意に対する答弁は下記のとおりである。


(3) 判示第1の1~2の事実,判示第2の1の各事実は,告訴なき強制わいせつ罪(同未遂罪)を構成するので,無罪である旨の主張について
ア 一般論として,「実体法のレベル」では,強制わいせつ罪が成立すればその一般法的性格を有する強要罪は法条競合により成立しないことは,弁護人による懇切丁寧なご指摘を待つまでもなく,検察官としても異論を唱えるものではない。具体的な事実関係を離れた,抽象的な法理論としてはそのとおりである。しかし,かかる一般論はさておき,本件における弁護人の前記主張は,以下の点において理由がない。
イ 弁護人は,多数の判例を挙げて,本件においても,これらの判例同様に,被告人が被害児童らをして自らの写真撮影行為が強制わいせつ罪における「わいせつ行為」に該当する旨主張する。
 しかしながら,弁護人が掲げる判例は,いずれも,被告人自らが「撮影する行為」に関する判断であって,被害者自身に「撮影させる行為」に関するものではないし,他の裁判例の事案においても同様である。
 例えば
①東京高判昭29.5.29(特報40号138頁)~写真師が15ないし22歳の女性に対し水着写真を撮ってやるなどと申し向け,着替えるや水着や下着をはぎ取って裸にし,手で陰部を開いて写真を撮った事案につき,強制わいせつ罪の成立を認めた事例
②東京地判昭62.9.16(判時1294号143頁)~全裸写真を撮影して弱みを握り,自己の店舗で従業員として稼働することを承諾させようとして,女性に暴力を加え負傷させた事案につき,被害者を全裸にして写真を撮影する行為が自らを男性として刺激興奮させる性的意味を有した行為であることを認識しながらあえて敢行した以上,強制わいせつ致傷罪が成立するとした事例
③静岡地浜松支判平11.12.1(判タ1041号293頁)~幼児性癖(ロリータコンプレックス)を有する被告人が11歳と8歳の少女二人を言葉巧みに自己の自動車内に連れ込み,全裸にさせてわいせつ写真を撮影した事案につき,強制わいせつ罪(176条2項)を適用した事例
などについても,撮影に至る経緯や撮影状況については若干の差異はあるものの,いずれも,被告人自らが「撮影する行為」を強制わいせつ罪における「わいせつ行為」として認定したものであって,被害者自身に「撮影させる行為」に関する判断ではない。
 被告人自らが撮影する場合と,被害者に撮影させる場合とでは,被害者にとってみれば,他人に自らの恥ずかしい姿態を撮影されることと,自らがそれと知りつつ撮影することの違いが生じているのであって,その性的差恥心の程度には格段の差があり,必然的に強制わいせつ罪の保護法益である「性的自由」の侵害の程度も両態様を比較すれば大きく異なる。
 かかる差は強制わいせつ罪における「わいせつ行為」か否かの判断においては重要な要素を占めているものと思われるのであり,被害者の恥ずかしい姿態を被告人自ら撮影する行為がわいせつ行為であると認定されたとしても,被害者に恥ずかしい姿態を撮影させる行為をもって,直ちに強制わいせつ行為であると認定するには躊躇せざるを得ない。弁護人が縷々掲げる判例,裁判例が存在するにもかかわらず,これまで,本件のみならず,暴行脅迫により被害者自らに恥ずかしい姿態を「撮影させた」事案は多数件にわたり発生しているものと思われるところ,かかる事案を強制わいせつ罪として積極的に処断した事例はほとんどないものと思われるが,それはかかる理由によるものであろう。
ウ この点,弁護人は,「被害者を強要して撮影させる行為も間接正犯と構成するまでもなく,性的意図を満たす行為であれば,わいせつ行為である」とのみ記載する。弁護人が「間接正犯と構成するまでもなく」との文言の意味は定かではないが,間接正犯として構成できるかどうかは,実際に撮影した者が被害者自身であっても,行為者自らが「撮影する行為」として認定できるかどうかの分水嶺であるほど重要な争点であって,およそ「間接正犯と構成するまでもなく」の一言で片付けられる事情ではない。また,強制わいせつの間接正犯が成立するような場合は,むしろ準強制わいせつ罪の対象になるものと思われる。しかしながら,本件の事実関係を前提にするならば,およそ準強制わいせつ罪の成否が問題となる事案ではなく,また,間接正犯の成立が考えられる事案でもないことは明らかである。この点につき,弁護人何ら理由が示されていない。加えて,「性的意図を満たす行為」であればわいせつ行為である旨の論旨はおよそ理由がない。
エ 確かに,被害者との直接的な身体的接触が要件でないことは弁護人のご指摘のとおりである。しかしながら,判例の判示部分については,およそ判断の前提となる具体的事実関係を離れて,当該判示部分のみが独立した普遍的な規律として定立されるものではないというのもまた,法理論としては常識中の常識ともいうべき事項である。したがって,「わいせつ行為は身体的接触を要件としない」との判示部分が,その判断の前提となる具体的事例を離れて,独立した普遍的かつ抽象的な基準として機能することはない。
 したがって,本件において,身体的接触がないからといって,これを「わいせつ行為」の判断の基準と考え,これを理由に直ちに「撮影する行為」と同様に,「撮影させる行為」についても,強制わいせつ罪における「わいせつ行為」であると認定することは,論理飛躍以外の何物でもない。この点に関する弁護人の主張は理由がない。
オ なお,弁護人は,医師による準強制わいせつ事案において,被害者の抗拒不能に乗じてわいせつ写真を「撮影させた行為」につき,「わいせつ行為」であると認定した下級審裁判例(東京地判平18.3.24)をもって前記主張の根拠のーつとして主張するようである。しかしながら,わいせつ概念については共通するものがあるとはいえ,同事例は,いわば強制わいせつの間接正犯的な事実関係を基にした準強制わいせつの事案に対する判断である。その前提となる事実関係は,前記のとおり,被告人自らが被害者を利用した間接正犯的形態として,被告人自らが「撮影した行為」と評価する余地がある事案であるといえ,本件事案と明らかに前提とする事実関係が異なる。したがって,同裁判例の存在を根拠とする弁護人の主張は理由がない。

答 弁 書

平成27年12月18日
                  東京高等検察庁

 被告人に対する強要,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件につき,弁護人の控訴趣意に対する検察官の答弁は,下記のとおりである。


2 原判決に法令適用の誤りがないこと
(1) 原判決が強要罪及び児童ポルノ3項製造罪の成立を認めたことに法令適用の誤りがないこと
 弁護人は,本件訴因が実質的には親告罪である強制わいせつ罪に該当する旨主張する。そこで,原判示事実及びそれと同旨の公訴事実のみでも強制わいせつ罪の成立を認めることができるかどうかにつき,検討する。
 確かに,原判示事実もそれと同旨の公訴事実も,被告人が,被害者を脅迫して,同人に乳房,性器等をタブレット端末で撮影させたなど,強制わいせつ罪の構成要件に該当し得る客観的事実を含んでいるが,同罪の成立には,判例上,犯人が性的意図を有していることが必要とされる(最判昭和45年1月29日刑集24巻1号1頁。この判例が変更されていないことについては,後述する。)。しかるに,原判示事実にもそれと同旨の公訴事実にも,被告人が性的意図を有している事実は明示されていない。しかも,起訴状には,「罪名及び罰条」欄に,児童ポルノ3項製造罪のほか,「強要 刑法223条1項」と記載されているのみである。したがって,検察官において,被告人が性的意図を有していることを含めて訴因を設定する意図があったとは認められず,原判決において,被告人が性的意図を有していることを含めた訴因であることを前提に原判示事実を認定したとも認められない。なお,原判決は,「被告人は,主として自らの性的欲求を満たすために本件犯行に及んだものと認められる。」と説示してはいるが,それは,「量刑の理由」として,被告人にそのような犯行動機があった旨説示しているに過ぎず,「罪となるべき事実」として,性的意図の存在を認定したものではないから,この説示の存在が上記結論を左右するものではない。
 したがって,原判示事実及びそれと同旨の公訴事実のみでも強制わいせつ罪が成立するとは認められない。
 よって,原判決が強要罪及び児童ポルノ3項製造罪の成立を認めたことに法令適用の誤りはない。論旨に理由はない。
 なお,控訴趣意書18頁記載の東京高判平成26年2月13日東京高刑裁速報3519号は,確かに,なお書きとして,強制わいせつ罪の成立に性的意図は不要であるかのような説示をしている。しかし,当該事件は,まさに同事件の被告人が犯行当時性的意図を有していたか否かが争点であり,同事件の第一審判決は,同事件が性的意図を欠いた報復目的で行われたとする同事件の第一審弁護人の主張を排斥し,同事件の被告人に性的意図と共に報復目的が併存していたことを認定しているところ,控訴審たる東京高等裁判所判決も,同事件が報復目的のみで行われたとする同事件の控訴審弁護人の主張を排斥して,第一審の判断を支持し,同事件の被告人に性的意図と共に報復目的が併存していたことを明確に認定した上,更に,なお書きで,上記の説示をし,弁護人の控訴を棄却したのである。そこで,上告審弁護人は,上告趣意として,同東京高判が最判昭和45年1月29日刑集24巻1号1頁に反していると主張したが,最高裁判所第二小法廷は,当該判例違反の論旨は原判決に影響のないことが明らかな事項に関する判例違反の主張であって刑訴法第405条の上告理由に当たらない旨判示して,決定で上告を棄却し,同事件の被告人からの異議申立てをも決定で棄却したのである。よって,上記東京高判の存在にもかかわらず,最判昭和45年1月29日刑集24巻1号1頁は,判例として変更されてはいないことになる。