児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp3@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(監護者性交罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

名城大学法学部准教授 滝谷英幸「児童の姿態を電磁的記録に係る記録媒体に記録した者が当該電磁的記録を別の記録媒体に記録させて児童ポルノを製造する行為と児童ポルノ規制法7条5項の児童ポルノ製造罪の成否」刑事法ジャーナル64号

名城大学法学部准教授 滝谷英幸「児童の姿態を電磁的記録に係る記録媒体に記録した者が当該電磁的記録を別の記録媒体に記録させて児童ポルノを製造する行為と児童ポルノ規制法7条5項の児童ポルノ製造罪の成否」刑事法ジャーナル64号
 姿態をとらせて製造罪について、複製行為に処罰範囲を広げたのは、押収された複製物を没収するためです。理論的根拠はありません。ひそかに製造罪についても結論は決まっていて、理由は説明できないようです。

第2 複製行為と製造罪,
問題の所在
本件同様、児童ポルノの作成は、対象児童をビデオカメラ等で撮影→ビデオカメラ等に(3)データを記録(以下、このような行為を「1次製造行為」という)→保存・視聴等を容易にするためデータをパソコンのハードディスク等にコピー(以下、このような行為を「複製行為」という)、といった経過をたどることが多い。
ある記録媒体に蔵されたデータを別の記録媒体にコピーすれば新たな児童ポルノが生み出され、それに伴う種々の問題(4)が生じ得るから、複製行為をも製造罪として罰すべきではないか、ということになる。
しかし、特に4項製造罪や5項製造罪においては(5)、複製行為の時点では「姿態をとらせ」るとか「ひそかに」撮影するとかいった行為は存在しない(6)ため、「プラスアルフア」と複製行為の結びつきが認められず、これらの罪は成立しないのではないか、との疑問が生ずるのである。
(5) 3項製造罪・7項製造罪については、一貫して提供目的のもとに1次製造行為と複製行為がなされることが多いためこの問題は比較的生じにくいと思われる。
(6) 5項製造罪については、複製行為を「ひそかに」行った-たとえば、撮影したデータを自宅で「ひそかに」パソコンにコピーしたとして同罪の成立を認める解釈が文理上不可能とまではいえないかもしれない。
しかし、その実質は単純製造の処罰であろう。

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(2) 製造罪における「プラスアルファ」の意義
処罰の必要性という側面から(1)でみた主張がなされることは理解できる。
しかし、問題は、前述のように、「プラスアルファ」との結びつきが説明できなければ複製行為の処罰が実質的には単純製造の処罰になってしまう、ということである(10)。
この点を検討するには、製造罪において「プラスアルファ」がもつ意味を考える必要があろう(11)。
まず、3項製造罪及び7項製造罪については、提供目的の存在により製造された児童ポルノの流通可能性が高まるという意味で、提供目的は-たとえば私文書偽造罪(刑法159条1項)における行使の目的とパラレルに製造行為の危険性を増大させる主観的違法要素として理解できる(13。
これに対し、4項製造罪と5項製造罪における「プラスアルファ」の意味については、次の2つの方向性が考えられる。
第1は、「姿態をとらせ」たり「ひそかに」撮影したりすることは、それ自体が対象児童の権利を侵害するものであり、それが製造行為自体の-単独では可罰的ではない二侵害性に合算されることで、4項製造罪・5項製造罪として処罰される、という理論構成である(以下、「理論構成A」という)('3X」4o第2は、「姿態をとらせ」て、あるいは、「ひそかに」なされた児童ポルノの作成であることが、何らかの意味で製造行為の評価に影響を及ぼす、という理論構成である(以下、「理論構成B」という)。
「製造罪」の解釈としてはこちらの方が素直といえるかもしれない(前述のような3項製造罪の理解はこれに分類される)。
まず、4項製造罪について、「姿態をとらせ」ることは、行為者が-状況・態様次第で程度の差はあろうが-能動的に児童ポルノの内容を決めることを意味する。
多くの場合、その内容は、より過激な-それゆえ、対象児童への侵害性の大きい(15)ものとなろう。
そうした観点から、「姿態をとらせ」ることが製造行為の侵害性を高めるという理解があり得よう(以下、「理論構成B/4項」という)(16。
また、5項製造罪については、「ひそかに」撮影等をする場合はそうでない場合に比べ児童ポルノの作成が成功する可能性が高まるという意味で、「ひそかに」という要素が製造行為の危険性を高めるという理解が可能であろう(以下、「理論構成B/5項」という)(17。
(3) 複製行為の処罰の可能性さしあたり1次製造行為(のみ)の処罰を念頭に置くならば理論構成A・Bはいずれも成り立ち得ると思われるが、複製行為の処罰との関係ではどうか。
まず、理論構成B/4項では、複製行為の侵害性の大きさは説明できても、条文上、1次製造行為者=複製行為者であることが要求されている点の説明に窮する。
仮に「姿態をとらせ」ることが児童ポルノの内容に影響を及ぼすとすれば、「姿態をとらせ」た上で作成された児童ポルノを複製する行為は1次製造行為と同等の侵害性を有することになるはずであるが、この理は1次製造行為者と複製行為者が一致しない場合にも当てはまってしまうからである。
次に、理論構成B/5項においては、複製行為の時点ではすでに1次製造物が存在しているところ、それが「ひそかに」作成されたものであるか否かは複製行為の評価に影響を及ぼすことはないはずであるから、「ひそかに」という要素と複製行為の結びつきが認められなくなる。
もっとも、このように1次製造行為と複製行為とを各別の2個の行為として把握するのではなく、両行為を「1個の行為」として一体的に把握できるのであれば、「ひそかに」という要素がその「1個の行為」全体と結びつくものと解する1次製造行為が「ひそかに」なされることで、(同行為を含む) 「1個の行為」全体が成功する可能性が高まると考える-ことができるため、複製行為まで含めて5項製造罪により処罰することが可能になろう(なお、1次製造行為者≠複製行為者の場合、〔少なくとも共犯関係が存在しない限り〕両行為を「1個の行為」として一体的に把握することはできないと思われる。
それゆえ、このように「両行為の一体的把握が可能であること」という条件を課すことで、同時に、両行為を同一人物が行ったことも要求されることになる)。
また、理論構成Aにおいては、「プラスアルファ」と製造の両方を行っていなければならないのであるから、1次製造行為者=複製行為者であることが当然に要請される。
もっとも、1次製造行為と複製行為をまったく別個の行為と評価せざるを得ないような状況では「プラスアルファ」と複製行為との結びつきを認めることが難しくなるため、やはり、1次製造行為と複製行為の一体的把握が必要になろう。
以上より、5項製造罪については、理論構成Aによるにせよ理論構成B/5項によるにせよ、1次製造行為と複製行為を「1個の行為」として一体的に把握できる限度において、複製行為をも処罰対象に含めることが可能になる。
その上で、さらに、いかなる根拠で、また、どの範囲で「1個の行為」という評価をなし得るかが問われるのである。
この点については、児童ポルノ法が児童ポルノの代表例として「写真」を挙げている(2条3項柱耆) ことが注目される(18
 すなわち、写真が完成するまでの途中過程(未現像フィルムの作成→現像によるネガの作成→印画紙への焼付け)においても対象児童の姿態を視認できる有体物は介在しており、それも児童ポルノに当たるが、同法は写真ないしそれと同等以上の鮮明さ.容易さで視認できるレベルのものを児童ポルノのいわば「単位」として想定しており、それに対応する形で、そこに至るまでの数次の作業過程を包括して「1個の行為」と理解している、とするのである。
本件に即していうと、ビデオカメラからパソコンのハードディスクに動画データを取り込むことは、写真でいえば印画紙への焼付けに相当する(19)と考えられるため、少なくともこの段階までは「1個の行為」として「ひそかに」という要素との結びつきを肯定できるであろう。
(4) 本決定の評価本件のようなケースを児童ポルノ法が処罰対象としておよそ想定していないとは考えにくいため、一切の複製行為を処罰対象外とすることは妥当ではあるまい。
前述のような説明が可能な範囲で複製行為にも5項製造罪を適用すべきである。
したがって、本決定の思考過程は明らかではないものの鋤、その結論には賛成できる。
ただし、仮に、本決定が、どの範囲であれば「1個の行為」と評価できるか、という視点に基づく限定を一切設けず、(1次製造行為者=複製行為者である限り) 1次製造行為とは完全に別個の行為と評価すべき複製行為についてまで5項製造罪が成立するという立場であるなら、疑問がある(20)。
(たきや.ひでゆき)