児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

裸体を撮影送信させる行為について、高裁レベルでは強要罪説(岡山支部H22.12.15、東京高裁H28.2.19)から、強制わいせつ罪説(大阪高裁R03.7.14)に移りつつあるが、最高裁の判断がない状況。

裸体を撮影送信させる行為について、高裁レベルでは強要罪説(岡山支部H22.12.15、東京高裁H28.2.19)から、強制わいせつ罪説(大阪高裁R03.7.14)に移りつつあるが、最高裁の判断がない状況。

 警察に聞かれましたが、大阪高裁は実刑になっていますが、送信させる型強制わいせつ(リモートわいせつ型)は、量刑が軽めなので、1審と控訴審の未決が多くなっているのと、上告未決が何日もらえるかわからないのとで、上告できていません。

文献番号】 25470943
【文献種別】 判決/広島高等裁判所岡山支部控訴審
【裁判年月日】 平成22年12月15日
【事件番号】 平成22年(う)第100号
【事件名】 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反、強要被告事件
【審級関係】 第一審 25470942
岡山地方裁判所 平成22年(わ)第146号
平成22年 8月13日 判決
【事案の概要】 被告人が、3名の被害児童に対して乳房等を露出した画像を送信させて児童ポルノを製造し、そのうち1名に対しては、送信させるべく脅迫を加えたという児童ポルノ製造及び強要の事案の控訴審で、前記各公訴事実による起訴は、そもそも実質的に強制わいせつ罪を起訴したものとはいえず、検察官の訴追裁量を適正に行使したものと認められるなどとして、被告人の本件控訴を棄却した事例。
【裁判結果】 棄却
【上訴等】 上告
【裁判官】 山嵜和信 佐々木亘 石田寿一
【掲載文献】 高等裁判所刑事裁判速報集(平22)号182頁
【参照法令】 刑法223条
刑法45条前段
児童買春法7条
児童買春法2条
【引用判例】 (当判例が引用している判例等)
最高裁判所第一小法廷 昭和58年(あ)第909号
昭和59年 1月27日
最高裁判所第一小法廷 平成19年(あ)第619号
平成21年10月21日
【全文容量】 約16Kバイト(A4印刷:約9枚)


《全 文》

【文献番号】25470943

児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反,強要被告事件
広島高等裁判所岡山支部平成22年(う)第100号
平成22年12月15日第1部判決

       判   決

■■■■

 上記の者に対する児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ法」という。)違反,強要被告事件について,平成22年8月13日岡地方裁判所が言い渡した判決に対し,被告人から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官見越正秋出席の上審理し,次のとおり判決する。


       主   文

本件控訴を棄却する。


       理   由

第1 本件控訴の趣意は,弁護人奥村徹作成名義の控訴趣意書及び控訴趣意補充書に記載されたとおりであるから,これらを引用する。
第2 訴訟手続の法令違反の控訴趣意について
1 論旨は,次のとおりである。
(1)原判決は,(罪となるべき事実)として,被告人が,■(当時15歳。以下「被害者B」という。)が18歳未満の児童であることを知りながら,原判決別表1記載のとおり,平成21年7月11日,11回にわたり,同児童に乳房等を露出した姿態等をとらせ,これをカメラ機能付き携帯電話機で撮影させた上,その画像データ11点を被告人が使用するパーソナルコンピューターに電子メール添付ファイルとして送信させ,被告人方において,これらを上記コンピューターで受信し,そこに内蔵された電磁的記録媒体であるハードディスクに記録して蔵置し,もって,児童ポルノを製造し(原判示第1),■(当時13歳。以下「被害者C」という。)が18歳未満の児童であることを知りながら,原判決別表2記載のとおり,同年8月13日,6回にわたり,同児童に前同様の姿態等をとらせてこれを撮影させた上,その画像データ6点を前同様に送信させ,被告人方において,これらを,前同様に受信し,上記ハードディスクに記録して蔵置し,もって児童ポルノを製造し(同第2),■(当時16歳。以下「被害者A」という。)が18歳未満の児童であることを知りながら,同年9月1日,被告人方において,同児童に対し,上記コンピューターを使用し,インターネット上のチャットにより,「君のIP情報ぬいたんだけどばらまいてもいい?」,「とりあえず写真送ってもらおうか」,「Tシャツ脱いで,胸のところはだけてとって」などと種々申し向けて脅迫し,同児童をしてこれに応じなければ同児童の自由等にいかなる危害を加えられるかもしれない旨怖がらせ,原判決別表3記載のとおり,6回にわたり,同児童に前同様の姿態等をとらせてこれを撮影させた上,その画像データ6点を前同様に送信させ,被告人方において,これらを前同様に受信し,上記ハードディスクに記録して蔵置し,もって同児童に義務のないことを行わせるとともに,児童ポルノを製造した(同第3)との事実を認定判示し,被告人を懲役2年6月,執行猶予3年間に処した。
(2)しかしながら,原判決には,次のとおり,判決に影響を及ぼすことの明らかな訴訟手続の法令違反がある。
ア 原審裁判所が,平成22年6月28日,原審弁護人が刑訴法40条に基づき裁判所の訴訟記録の閲覧を求めたのに対し,被害者特定事項秘匿申出書部分の閲覧を拒否し、原審弁護人が後日謄写申請をしたのに対し,上記申出書の申出人の氏名・住所の謄写を許さなかったため,早期の被害者A及びCに対する慰謝の措置が妨げられた(控訴理由第1)。
イ 本件各公訴事実は,いずれも実質的に強制わいせつ罪であり,告訴のないまま起訴ないし一部起訴されたものであって,公訴棄却とすべきであったにもかかわらず,原判決が実体判断をしたものである(控訴理由第4)。 
2 そこで,原審記録を調査し検討する。
(1)前記控訴理由第1について
ア 原審記録によれば以下の事実が認定できる。
(ア)平成22年3月19日,岡山地方検察庁検察官は,岡山地方裁判所に対し,被害者A本人からの被害者特定事項の秘匿の申出があった旨通知したが,同通知には連絡先として同人の住所が記載されていた。
(イ)同年6月18日,同検察官は,同裁判所に対し,被害者Bの法定代理人母及び被害者Cの法定代理人母から,それぞれ被害者特定事項の秘匿の申出があった旨通知したが,これら各通知には,それぞれ申出人の氏名と共に連絡先として各申出人の住所地が記載されていた。
(ウ)原審弁護人は,同年5月3日付け保釈請求を行ったころまでには,被害者Aとの示談交渉を始めており,また,同年6月15日ころまでには,検察事務官を通じ,示談交渉のため,被害者B及び同Cの各母の氏名及び携帯電話番号を把握していた。
(エ)同年7月7日,原審弁護人は,原審裁判所に対し,申請人欄に,原審弁護人の氏名,所属弁護士会及び申請資格を,閲覧謄写人氏名欄に,原審弁護人以外の者の氏名を各記載し,謄写対象として,被害者特定事項秘匿の申出の通知書を含めて謄写を求める内容の,刑事事件記録等閲覧・謄写票を提出した。これに対し,原審裁判所は,被害者特定事項の秘匿申出通知について,連絡先及び法定代理人氏名の記載を除いた部分の謄写を許可した。
(オ)なお,原審記録上,平成22年6月28日の原審弁護人による記録等の閲覧申請にかかる書類は存在しない。
イ そこで判断するに,まず,前記認定事実によれば,原審弁護人が,平成22年6月28日,原審裁判所に対し,所論主張の閲覧申請をしたとは認められない。当時,原審弁護人が,原審裁判所に在庁し,所論主張の閲覧の可否を打診し,原審裁判所が拒否的回答をしていたとしても,上記のとおり閲覧申請をしたとは認められない以上,これらをもって訴訟手続の法令違反になるとは認められない。
 次に,刑訴規則31条によれば,弁護人は,裁判長の許可を受けて,自己の使用人その他の者に訴訟に関する書類等の閲覧又は謄写をさせることができるとされているから,その許否は,裁判長の合理的裁量にゆだねられていると解される。そして,前記認定事実によれば,原審弁護人が,平成22年7月7日付けの刑事事件記録等閲覧・謄写票の閲覧謄写人氏名欄に,原審弁護人以外の者の氏名を記載していることが明らかであるから,原審弁護人が刑訴規則31条所定の許可申請をしたと解するほかなく,原審裁判所がその謄写を制限した部分は,被害者特定事項の秘匿申出通知3通のうち,被害者Aの連絡先,同B及び同Cの保護者氏名及びその連絡先の記載部分のみに止まる上,原審弁護人において,既に被害者Aとの示談交渉を始め,同B及び同Cの各母の氏名及び携帯電話番号を把握していたという事実に照らせば,原審裁判所の上記謄写制限が合理的裁量を逸脱したとは認められず,結局,これをもって訴訟手続の法令違反になるとは認められない。
 所論は,上記謄写制限がなければ,被害者A及び同Cに対し早期の慰謝の措置が可能であった旨主張しており,上記裁量を逸脱した旨の主張とも解される。しかし,被害者特定事項の秘匿の申出があらかじめ検察官に対してされた場合の,検察官から裁判所に対する通知について,刑訴規則196条の2において,やむを得ない事情があるときを除き書面によることとされている趣旨が手続を明確にする点にある上,同書面の記載事項については,法令上規定がなく,上記趣旨にかんがみ,刑訴法290条の2第1項所定の申出人から被害者特定事項の秘匿の申出があった旨記載されていれば足り,その余の記載は,その後の申出人に対する通知などの便宜のためになされるものにすぎないと解されるのであり,その記載された事項について被告人の防御の観点から弁護人に開示されることが法律上当然に予定されているわけではないのであるから,所論主張の利益は事実上のものというべきであって,上記裁量の逸脱を基礎付ける事情とは認められない。
(2)前記控訴理由第4について
ア まず,検察官は,現行法上,広範な訴追裁量権を有しており,立証の難易等諸般の事情を考慮して訴因を設定することができるのであるから,公訴提起に当たり設定した訴因中にたまたま告訴の得られていない親告罪に該当する事実の全部又は一部が含まれている場合であっても,検察官において,殊更に親告罪の趣旨を没却する意図を有するなどの特段の事情があるときに限り,同公訴提起が上記裁量を逸脱したものと解する余地があるに止まるというべきである。
 そして,強制わいせつ罪が個人の性的自由を保護法益とするのに対し,児童ポルノ法7条3項,1項,2条3項3号に該当する罪(以下「3項製造罪」という。)は,当該児童の人格権を第一次的な保護法益としつつ,抽象的な児童の人格権をも保護法益としており,両者が一致するものではない。しかも,原判示各事実は,前記のとおり,原判示第1及び第2の各事実については,各被害者に児童ポルノ法2条3項3号所定の姿態をとらせるに際し,脅迫又は暴行によった旨認定していないし,上記各事実と同旨の各公訴事実も同様に脅迫又は暴行によった旨訴因として掲げていない上,原判示各事実及びこれらと同旨の各公訴事実についても,それぞれ,各被害者をして撮影させた画像データを被告人の使用するパーソナルコンピューターに送信させてこれらを受信し,さらに,上記コンピューターに内蔵されたハードディスクに記録して蔵置した各行為を含んでいるところ,上記各行為はいずれも3項製造罪の実行行為(原判示第3の事実については強要罪の実行行為の一部でもある。)であって,強制わいせつ罪の構成要件該当事実には含まれない事実である。
 したがって,被害児童の告訴の有無にかかわらず,3項製造罪で訴因を設定することが,検察官が殊更に親告罪の趣旨を没却する意図を有することの徴表と見る余地はないし,その訴因中に告訴の得られていない強制わいせつ罪に該当する事実の全部又は一部が含まれているとしても,それだけで検察官に上記意図があるとも解されない。また,原判示第3の事実と同様の訴因について,強要罪の訴因中に告訴の得られていない強制わいせつ罪に該当し得る客観的事実が含まれている(このことは後記第3において後述する。)点についても,「人に義務のないことを行わせ」たとの構成要件に該当する事実は,3項製造罪の構成要件に該当する事実でもあって,実質的には,3項製造罪による訴因に,人に義務のないことを行わせる手段としての脅迫行為が加わったにすぎないのであるから,そのことをもって検察官が上記意図を有することの徴表と解することはできない。
 そうすると,原判示各事実と同旨の各公訴事実による起訴は,そもそも実質的に強制わいせつ罪を起訴したものとはいえず,検察官の訴追裁量を適正に行使したものと認められる。
イ したがって,上記各起訴に対し,原判決が実体判断をしたことが訴訟手続の法令違反であるとは認められない。
(3)その他,所論が縷々主張する点を逐一検討しても,原審の訴訟手続に法令違反があるとは認められず,論旨は理由がない。
第3 法令適用の誤りの控訴趣意について
1 論旨は,次のとおりである。
(1)原判決は,前記のとおり,原判示第3の事実を認定判示した上,同事実について,児童ポルノ製造の点が3項製造罪に,強要の点が刑法223条1項にそれぞれ該当し,両者は観念的競合であるとして科刑上一罪の処理をするに当たり,上記児童ポルノ製造罪の刑で処断することとし,刑種の選択をしなかった。
(2)しかしながら,原判決には,次のとおり,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある。
ア 原判示第3の事実及びこれと同旨の訴因に掲げられた公訴事実は,それだけでも強制わいせつ罪に該当するから,法条競合により強要罪は成立しない(控訴理由第3)。
イ 仮に,強要罪と3項製造罪が成立するとしても,強要罪と3項製造罪は牽連犯ないし混合的包括一罪となる(控訴理由第5)。
ウ 強要罪と3項製造罪の法定刑を比較すると,強要罪の方が刑が重く,そうでなくとも犯情が重いから強要罪の刑で処断すべきであり,また,3項製造罪の刑で処断するとするのであれば刑種の選択をすべきである(控訴理由第2)。
2 そこで,原審記録を調査し検討する。
(1)前記控訴理由第3について
 そもそも訴因制度を採用した現行法の下では,裁判所としては,訴因の制約の下において,訴因に表れた事実について犯罪の成否を判断すれば足り,これにより実体的真実との乖離が甚だしく,これを放置することが正義感情に反すると思われる特段の事情のある場合に,釈明,訴因変更の勧告,訴因変更命令等の措置を取るべきは別として,そのような例外的な場合に該当しない限り,訴因外の事実をも(罪となるべき事実)として認定し別罪の成否を審理・判断する義務はないというべきである(最高裁判所昭和58年(あ)第909号同59年1月27日第1小法廷決定・刑集38巻1号136頁参照)。
 ところで,原判示第3の事実は,被告人が,当時16歳の被害者Aを脅迫し,同人に乳房及び陰部を露出した姿態等をとらせ,これをカメラ機能付き携帯電話機で撮影させたなどの,強制わいせつ罪に該当し得る客観的事実を包含しているが,強制わいせつ罪の成立には犯人が性的意図を有していることが必要であるところ,原判示第3の事実に,被告人が上記性的意図を有している事実が明示されてはいない。
 また,原判示第3の事実にかかる起訴状には,原判示第3の事実と同旨の公訴事実が記載され,その罰条として,3項製造罪のほか,「強要 刑法223条」と記載されているのみであるから,検察官において,上記性的意図を有していることも含めて訴因を設定する意思があったとは認められず,原判決が,被告人が上記性的意図を有していることも含めた訴因であることを前提に原判示第3の事実を認定したとも認められない。なお,所論は,原判決が上記性的意図を認定している旨も指摘するが,原判決は,(量刑の理由)欄において被告人に性的欲望を満たすためという動機があった旨説示しているにすぎず,(罪となるべき事実)として性的意図の存在を認定したものではないから,原判決の上記説示が上記結論を左右するものではない。
 そうすると,原判示第3の事実だけでも強制わいせつ罪が成立するとは解されず,所論は前提を欠いており,原判示第3の事実中,強要の点に刑法223条を適用して強要罪の成立を認めた原判決に法令適用の誤りがあるとは認められない。
 なお,所論は,法条競合という実体法上の問題であるから,訴訟法上の問題は無関係であり,強制わいせつ罪を構成する事実が認定された場合には強要罪は成立しない旨も主張するが,独自の見解といわざるを得ない上,原審記録を精査しても上記特段の事情があるとは認められないから,所論は失当である。所論引用の大審院判例及び高裁判例は,いずれも訴因制度が採用される以前の旧法下の事案であるか,訴因として恐喝未遂罪と強要罪が設定されている事案又は強要罪として掲げられた訴因中に恐喝罪若しくは逮捕罪に該当する事実がすべて掲げられている事案であって,本件はその射程外の事案である。
(2)前記控訴理由第5,第2について
 原判決が,原判示第3の事実を認定判示した上,児童ポルノ製造の点が3項製造罪に該当し,強要の点が強要罪に該当するが観念的競合であるとして科刑上一罪の処理をするに当たり,犯情の重い3項製造罪の刑で処断する適条をしたことは所論が指摘するとおりである。
 そこで検討するに,強要罪は,脅迫し又は暴行を用いて,人に義務のないことを行わせる行為をしたことを構成要件とし,3項製造罪は,児童に児童ポルノ法2条3項3号に掲げる姿態をとらせ,これを写真,電磁的記録にかかる記録媒体その他の物に描写することにより,当該児童にかかる児童ポルノを製造したことを構成要件とするものであって,被害児童に衣服の全部又は一部を着けない姿態をとらせて撮影し,その画像データを送信させてハードディスクに記録して蔵置することをもって児童ポルノを製造した場合に,強要罪に該当する行為と3項製造罪に該当する行為とは,一部重なる点があるものの,3項製造罪において,上記のとおり姿態をとらせる際,脅迫又は暴行によることが要件となるものとは解されず,また,両行為が通常伴う関係にあるとはいえないことや,両行為の性質等にかんがみると,それぞれにおける行為者の動態は社会的見解上別個のものといえるので,両罪は,観念的競合の関係にはなく,また,上記説示に照らせば,両罪は,通常手段結果の関係にあるともいえないから,牽連犯の関係にもないというべきである。
 また,強要罪は個人の行動の自由を保護法益とし,3項製造罪は,当該児童の人格権とともに抽象的な児童の人格権をも保護法益としており,保護法益の一個性ないし同一性も認められないことをも考慮すれば,両罪は,混合的包括一罪ともいえず,最高裁判所平成19年(あ)第619号同21年10月21日第1小法廷決定・刑集63巻8号1070頁の趣旨に徴し,刑法45条前段の併合罪の関係にあるというべきである。
 そうすると,控訴理由第2の点について判断するまでもなく,両罪を観念的競合として処断刑を導いた原判決には法令適用の誤りがあるといわざるを得ない。
 しかし,正しい法令を適用して得られる処断刑のうち,懲役刑の範囲は同一であり,被害者Aにかかる3項製造罪について罰金刑を選択した場合にのみ,300万円以下の罰金を併科した処断刑が導かれることとなるが,被害者Aにかかる3項製造罪の犯情に照らすと,上記選択がなされるとは考え難く,結局,異なった量刑になる蓋然性があるとはいえず,上記法令適用の誤りは判決に影響を及ぼすものとは認められない。
 したがって,原判決の適条について,判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤りがあるとは認められない。
(3)その他,所論が縷々主張する点を逐一検討しても,原判決に,判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤りがあるとは認められず,論旨は理由がない。
第4 量刑不当の控訴趣意について
 論旨は,要するに,被告人を懲役2年6月,3年間執行猶予に処した原判決の量刑は重過ぎて不当であり,さらに減軽するべきであるというのである。
 そこで,原審記録を調査し検討すると,本件は,前記のとおりの事案であるが,被告人は,インターネット上のチャット等の匿名性を利用し,被告人とチャット等で通信してくる不特定多数の女性を狙い,実際に被告人と通信してきた被害児童らの未熟さにつけ込み,卑猥な姿態等の写真を撮影させメールで被告人宛に送らせるなどしたもので,殊に被害者Aにかかる事実については,言葉巧みに被害児童に脅迫文言を申し向けて,上記写真撮影やメールによる送付を行わせており,いずれも計画性が高く狡猾かつ卑劣な犯行である。被害児童らは,本件各犯行により困惑させられ,多大な嫌悪感や不安感に苛まれ,精神的苦痛を味わわされた。被害児童らはもとよりその保護者も含め厳しい処罰感情を示すのも当然である。しかも,被告人は,同種行為を多数回繰り返していることが認められ,常習性もうかがわれる。もとより性的欲求を満たすためという理由は身勝手であるし,被告人が過去に女性から受けた仕打ちに起因する女性一般に対する怨恨の情に基づくものであるとしても,いわば逆恨みというほかなく,動機に酌むべき点はない。これらの諸事情に照らすと,本件の犯情は悪質であり,被告人の刑事責任を軽く見ることはできない。
 そうすると,被告人が事実をいずれも認め,反省の態度を示していること,被害児童の1名に対し50万円を支払っていること(なお,前記のとおり,原審裁判所の前記謄写制限が慰謝の措置の妨げになったという事実は何ら認められない。),これまで前科はないこと,本件により家宅捜索を受けたのを契機として勤務先を退職したこと,母が被告人を監督する旨述べていること,その他所論が指摘する被告人のために斟酌し得る事情を十分考慮しても,被告人を懲役2年6月に処し,3年間の執行猶予を付した原判決の量刑は,刑期及び執行猶予期間のいずれにおいてもやむを得ないものであり,これが重過ぎて不当であるとはいえない。論旨は理由がない。
第5 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
平成22年12月15日
広島高等裁判所岡山支部第1部
裁判長裁判官 山嵜和信 裁判官 佐々木亘 裁判官 石田寿一

書 誌》
提供 TKC
【文献番号】 25545074
【文献種別】 判決/東京高等裁判所控訴審
【裁判年月日】 平成28年 2月19日
【事件番号】 平成27年(う)第1766号
【事件名】 強要、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
【事案の概要】 強要、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反の控訴審において、弁護人の控訴趣意は、訴訟手続の法令違反、法令適用の誤り及び量刑不当の主張であるところ、原判決の認定した事実には、被害者に対し、その名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して同女を畏怖させ、同女をして、その乳房、性器等を撮影させるという、強制わいせつ罪の構成要件の一部となり得る事実を含むものの、その成立に必要な性的意図は含まれておらず、さらに、撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させるという、それ自体はわいせつな行為に当たらない行為までを含んだものとして構成されており、強要罪に該当する事実とみるほかないものであるなどとして、法条競合により強要罪は成立しないとの弁護人の主張を失当とするなどとして、控訴を棄却した事例。
【判示事項】 〔東京高等裁判所(刑事)判決時報
強要罪と平成26年法律第79号による改正前の児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条3項の児童ポルノ製造罪とが併合罪の関係にあるとされた事例
判例タイムズ判例タイムズ社)〕
強要罪と平成26年法律第79号による改正前の児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条3項の児童ポルノ製造罪とが併合罪の関係にあるとされた事例
【裁判結果】 棄却
【上訴等】 上告(後棄却)
【裁判官】 藤井敏明 福士利博 山田裕文
【掲載文献】 判例タイムズ1432号134頁
東京高等裁判所(刑事)判決時報67巻1~12号1頁
【参照法令】 刑法45条前段
刑法54条
刑法223条
児童買春法7条(平成26年法律9号改正前)
【備考】 第一審 平成27年8月25日新潟地方裁判所高田支部判決平成27年(わ)第35号
【全文容量】 約7Kバイト(A4印刷:約4枚)
文献番号】25545074

強要,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
東京高等裁判所平成27年(う)第1766号
平成28年2月19日第5刑事部判決


       主   文

本件控訴を棄却する。


       理   由

 弁護人奥村徹の控訴趣意は,訴訟手続の法令違反,法令適用の誤り及び量刑不当の主張であり,検察官の答弁は,控訴趣意にはいずれも理由がない,というものである。
1 法令適用の誤り及び訴訟手続の法令違反の主張について
 論旨は,要するに,原判決が強要罪に該当するとして認定した事実は,それだけでも強制わいせつ罪を構成するから,強要罪が成立することはないにもかかわらず,これを強要罪であるとして刑法223条を適用して有罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあり,また,原判決が平成26年法律第79号による改正前の児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条3項の罪(以下「3項製造罪」という。)に該当するとして認定した事実も,実質的には強制わいせつ罪に当たり,以上の実質的に強制わいせつ罪に該当する各事実について,告訴がないまま起訴することは,親告罪の趣旨を潜脱し,違法であるから,公訴棄却とすべきであるのに,実体判断を行った原審には,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある,というものであると解される。
(1)強要罪が成立しないとの主張について
 記録によれば,原判決は,公訴事実と同旨の事実を認定したが,その要旨は,被害者が18歳に満たない児童であることを知りながら,同女に対し,要求に応じなければその名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して,乳房,性器等を撮影してその画像データをインターネットアプリケーション「LINE」を使用して送信するよう要求し,畏怖した被害者にその撮影をさせた上,「LINE」を使用して画像データの送信をさせ,被告人使用の携帯電話機でこれを受信・記録し,もって被害者に義務のないことを行わせるとともに,児童ポルノを製造した,というものである。
 すなわち,原判決が認定した事実には,被害者に対し,その名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して同女を畏怖させ,同女をして,その乳房,性器等を撮影させるという,強制わいせつ罪の構成要件の一部となり得る事実を含むものの,その成立に必要な性的意図は含まれておらず,さらに,撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させるという,それ自体はわいせつな行為に当たらない行為までを含んだものとして構成されており,強要罪に該当する事実とみるほかないものである。
 弁護人は,〔1〕被害者(女子児童)の裸の写真を撮る場合,わいせつな意図で行われるのが通常であるから,格別に性的意図が記されていなくても,その要件に欠けるところはない,〔2〕原判決は,量刑の理由の部分で性的意図を認定している,〔3〕被害者をして撮影させた乳房、性器等の画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させる行為もわいせつな行為に当たる,などと主張する。
 しかしながら,〔1〕については,本件起訴状に記載された罪名及び罰条の記載が強制わいせつ罪を示すものでないことに加え,公訴事実に性的意図を示す記載もないことからすれば,本件において,強制わいせつ罪に該当する事実が起訴されていないのは明らかであるところ,原審においても,その限りで事実を認定しているのであるから,その認定に係る事実は,性的意図を含むものとはいえない。 
 また,〔2〕については,量刑の理由は,犯罪事実の認定ではなく,弁護人の主張は失当である。
 そして,〔3〕については,画像データを送信させる行為をもって,わいせつな行為とすることはできない。
 以上のとおり,原判決が認定した事実は,強制わいせつ罪の成立要件を欠くものである上,わいせつな行為に当たらず強要行為に該当するとみるほかない行為をも含む事実で構成されており,強制わいせつ罪に包摂されて別途強要罪が成立しないというような関係にはないから,法条競合により強要罪は成立しないとの弁護人の主張は失当である。
(2)公訴棄却にすべきとの主張について
 以上のとおり,本件は,強要罪に該当するとみるほかない事実につき公訴提起され,そのとおり認定されたもので,強制わいせつ罪に包摂される事実が強要罪として公訴提起され,認定されたものではない。
 また,原判決の認定に係る事実は,前記(1)のとおり,強制わいせつ罪の構成要件を充足しないものである上,被害者撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機で受信・記録するというわいせつな行為に当たらない行為を含んだものとして構成され,これにより3項製造罪の犯罪構成要件を充足しているもので,強制わいせつ罪に包摂されるとはいえないし,実質的に同罪に当たるともいえない。
 以上のとおり,本件は,強要罪および3項製造罪に該当し,親告罪たる強制わいせつ罪には形式的にも実質的にも該当しない事実が起訴され,起訴された事実と同旨の事実が認定されたものであるところ,このような事実の起訴,実体判断に当たって,告訴を必要とすべき理由はなく,本件につき,公訴棄却にすべきであるとの弁護人の主張は,理由がない。
(3)小括
 以上の次第で,法令適用の誤り及び訴訟手続の法令違反をいう論旨には,理由がない。
2 法令適用の誤りの主張について
 論旨は,原判決は,強要罪と3項製造罪を観念的競合であるとした上で,強要罪の犯情が重いとして同罪の刑で処断することとしたが,本件の脅迫は一時的で,害悪もすぐに止んでいるのに対し,3項製造罪は画像の流通の危険やそれに対する不安が長期に継続する悪質なもので,原判決の量刑理由でも,専ら児童ポルノ画像が重視されており,犯情は3項製造罪の方が重いから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
 しかしながら,本件の強要罪に係る脅迫行為の執拗性やその手口の卑劣性などを考慮すれば,3項製造罪に比して強要罪の犯情が重いとした原審の判断に誤りはない。
 法令適用の誤りをいう論旨は,理由がない。
 なお,原判決は,本件において,強要罪と3項製造罪を観念的競合であるとしたが,本件のように被害者を脅迫してその乳房,性器等を撮影させ,その画像データを送信させ,被告人使用の携帯電話機でこれを受信・記録して児童ポルノを製造した場合においては,強要罪に触れる行為と3項製造罪に触れる行為とは,一部重なる点はあるものの,両行為が通常伴う関係にあるとはいえず,両行為の性質等にも鑑みると,両行為は社会的見解上別個のものと評価すべきであるから,これらは併合罪の関係にあるというべきである。したがって,本件においては,3項製造罪につき懲役刑を選択し,強要罪と3項製造罪を刑法45条前段の併合罪として,同法47条本文,10条により犯情の重い強要罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で処断すべきであったところ,原判決には上記のとおり法令の適用に誤りがあるが,この誤りによる処断刑の相違の程度,原判決の量刑が懲役2年,執行猶予付きにとどまることを踏まえれば,上記誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえない。
3 量刑不当の主張について
 論旨は,被告人を懲役2年,3年間執行猶予に処した原判決の量刑は,重すぎて不当であり,執行猶予を付した罰金刑か,より軽い懲役刑(執行猶予付き)とされるべきである,というのである。
 そこで検討すると,本件は,前示のとおりの強要罪,3項製造罪の事案であるが,原判決は,未成熟な被害者を利用した犯行動機に特段の酌量の余地がないこと,製造に係る児童ポルノ画像数が11点と多いこと,脅迫の手口が卑劣で悪質なことなどを指摘し,一方で,被告人に前科がなく,反省の弁を述べていることなどの有利な事情をも踏まえて,前示の刑を量定したものである。
 原判決の上記量刑判断は,当裁判所も相当として支持することができる。
 弁護人は,強烈な脅迫文言はないこと,被害者1名に対する1回の事案であること,被告人が原判決後に反省を深めたことなどを考慮すべきである旨主張するが,これらは原判決が前提としているか,原判決の量刑を左右しないものである。
 また,弁護人は,類似事例の量刑を指摘して原判決の量刑を論難するが,個別事情が様々な事案を指摘するもので本件に不適切である。
 量刑不当をいう論旨は,理由がない。
4 結論
 よって,刑訴法396条により,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤井敏明 裁判官 福士利博 裁判官 山田裕文)

《書 誌》
提供 TKC
【文献番号】 25593923
【文献種別】 判決/大阪高等裁判所控訴審
【裁判年月日】 令和 3年 7月14日
【事件番号】 令和3年(う)第287号
【事件名】 強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
【事案の概要】 被告人が、被害者が13歳未満であることを知りながら、〔1〕遠隔地にいた同人に対し、ダイレクトメッセージ機能を使用して、その陰部、乳房等を露出した姿態をとって撮影して被告人のスマートフォンに送信するよう要求し、被害者にそのような姿態をとらせていわゆる自撮りをさせた上、〔2〕その画像データをダイレクトメッセージ機能を使用して被告人のスマートフォンに送信させて、アプリケーションソフト運営法人が管理するサーバコンピュータ内に記憶・蔵置させたという事案の控訴審において、刑法176条の「わいせつな行為」に当たるか否かの判断を行うためには、行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で、事案によっては、当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し、社会通念に照らし、当該行為に性的な意味があるといえるか否かや、その性的な意味合いの強さを具体的事実関係に基づいて判断するのが相当であるとして、強制わいせつ罪の成立を認め、被告人の控訴を棄却した事例。
【判示事項】 〔高等裁判所刑事裁判速報集〕
被告人が、アプリケーションソフトのダイレクトメッセージ機能を使用して、遠隔地にいた被害者(当時9歳)に対し、その裸体をいわゆる自撮りした画像を被告人に送信するよう要求し、被害者に、その陰部及び乳房を露出した姿態をとらせ、自撮りさせた行為(以下「本件行為」という。)の「わいせつな行為」(刑法176条)該当性が争われた事案について(なお、被害者は自撮り後、引き続き、被告人に画像を送信し被告人に閲覧させているが、送信・閲覧行為は強制わいせつ罪として起訴されていない。)、平成29年11月29日最高裁大法廷判決の判断基準を適用し、本件は行為そのものから直ちに「わいせつな行為」とまで評価できないものの、一定の性的性質を備えていて、「わいせつな行為」に当たり得るほどの強い性的意味合いを有し得るものであることに加え、本件行為の行われた際の具体的状況等をも考慮すると、性的な意味合いが相当強いものといえるから、「わいせつな行為」に当たるとして、強制わいせつ罪の成立を認めた事例
【裁判結果】 棄却
【上訴等】 確定
【掲載文献】 高等裁判所刑事裁判速報集(令3)号403頁
【参照法令】 刑法176条
【引用判例】 (当判例が引用している判例等)
最高裁判所大法廷 平成28年(あ)第1731号
平成29年11月29日
【全文容量】 約7Kバイト(A4印刷:約5枚)

【文献番号】25593923

強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
大阪高等裁判所令和3年(う)第287号
令和3年7月14日第6刑事部判決

TKC編注:当文献は,高等裁判所刑事裁判速報集からの収録となります。正本からの収録ではございません。)

控訴申立人 被告人

       判 決 要 旨

第1 事案の概要
1 罪となるべき事実(要旨)
 被告人は、被害者が13歳未満であることを知りながら、〔1〕遠隔地にいた同人に対し、ダイレクトメッセージ機能を使用して、その陰部、乳房等を露出した姿態をとって撮影して被告人のスマートフォンに送信するよう要求し、その頃、被害者にそのような姿態をとらせていわゆる自撮りをさせた上、〔2〕その画像データをダイレクトメッセージ機能を使用して被告人のスマートフォンに送信させて、アプリケーションソフト運営法人が管理するサーバコンピュータ内に記憶・蔵置させた。
2 訴訟経過
 検察官は、〔1〕行為(本件行為)を強制わいせつ罪、〔1〕及び〔2〕行為を児童ポルノ製造罪として、別個の訴因で(併合罪として)起訴した。
 弁護人は、本件行為につき、被害者に裸体を自撮りさせただけでは,遠隔地にいる被告人が見ることはできず、性的侵襲は弱いので、「わいせつな行為」に該当しないか、該当するとしても強制わいせつ未遂罪が成立するにとどまる旨主張したが、原判決は、本件行為につき強制わいせつ罪の成立を認め、罪数につき、児童ポルノ製造罪と観念的競合の関係にあると判断した。
 これに対し、被告人が控訴し、原審同様強制わいせつ罪の成立を争ったが、控訴審判決はこれを排斥し、控訴を棄却した。 
第2 控訴審判示
1 刑法176条の「わいせつな行為」に当たるか否かの判断を行うためには、行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で、事案によっては、当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し、社会通念に照らし、当該行為に性的な意味があるといえるか否かや、その性的な意味合いの強さを具体的事実関係に基づいて判断するのが相当である(最大判平29・11・29・刑集71巻9号467ページ参照。)。
2 これを踏まえて検討すると、本件行為は、当時9歳の女子児童である被害者に対してその陰部、乳房等を露出した姿態をとって撮影して被告人のスマートフォンに送信するよう要求し、被害者にそのような姿態をとらせてそれを撮影させたというものであり、撮影させた部位のうち、陰部(性器自体は写っていないものの、その周辺部である。)は性的要素が強く、乳房も性を象徴する典型的な部位である。また、衣服を脱がせる行為(又は衣服を着けない姿態をとらせる行為)は、裸になることを受忍させてその身体を性的な対象として行為者の利用できる状態に置くものであって、単独でも「わいせつな行為」に当たり得るほどの強い性的意味合いを有し得るものであるし、続いてそうした衣服を着けない姿態を撮影する行為も、自ら性的な対象として利用できる状態に置かせた裸体を、さらに記録化することによってまさに性的な対象として利用するものであり、それによって性的侵害性が強まるといえるから、「わいせつな行為」に当たり得るほどの強い性的意味合いを有し得るものといえる。
 本件では、被告人は遠隔地から被害者に指示しているから、直接被害者の姿態を目にしていないという点で、面前で行う場合と比べて被害者の性的自由を侵害する程度が小さいとはいえるものの、被害者に陰部等を露出した姿態をとらせ、これを撮影させた行為は、被害者に一定の性的行為を行わせ、かつ、その内容を第三者が知り得る状態に置く行為であり、被害者の身体を性的に利用する行為といえる。本件は、行為そのものから直ちに「わいせつな行為」とまで評価できないものの、一定の性的性質を備えていて、「わいせつな行為」に当たり得るものというべきである。なお、本件行為には被害者に撮影させた画像データを被告人に送信させたことや被告人が受信した画像データを閲覧したことは含まれていないが、被害者に陰部等を露出させた姿態をとらせてそれを撮影させたことによって、被告人を含む他人がその画像を見ることがあり得る状態に置かれており、性的侵害性は大きいといえるし、被告人は被害者に対して撮影した画像データを被告人に送信することも要求して撮影させており、被害者がこの要求に従って画像データを送信して被告人がこれを見ることになる具体的な危険性も認められるから、撮影させた画像データを被告人に送信させたこと等が含まれていないことが、「わいせつな行為」該当性を否定する事情とはならない。
3 さらに、本件の具体的状況等についてみると、被告人は当時53歳の中年男性、被害者は当時9歳(小学3年生)であり、動画配信アプリケーションを通じて知合い、ダイレクトメッセージ機能を使用してやり取りをしていた関係にすぎず、直接の面識はなく、本件行為は、被告人と被害者が性行為をしているかのようなメッセージのやり取りをしている状況においてなされたものである(例えば、被告人は、被害者に対し、陰部等を露出した姿態の画像データを送信させた直後に、「マンジル、白いの出てくるからね」「おちんちんを、なめてごらん」「ぬれたおちんちんをまんこにこするね」というメッセージを、乳房等を露出した姿態の画像データを送信させた直後に「もみながらなめるね」「おちんちんもこすってるぞ」といったメッセージを送信している。)。また、被告人にはかねてから年少の女児を対象とする性的嗜好があった。このような本件行為が行われた際の具体的状況等をも考慮すると、本件行為は性的な意味合いが相当強いものといえるから、「わいせつな行為」に当たるといえる。
4 原判決は、被害者への身体的接触がなく、被告人が撮影時に被害者にとらせた姿態を見ていないという本件行為の特徴を指摘して本件行為そのものが持つ性的性質は不明確であるともいえるとした上で、撮影の対象となった部位が性を象徴する典型的な部位等であること、被告人と被害者の関係性や各属性、本件に至る経緯や本件の前後に被告人が送信したメッセージの内容、被告人が自己の性欲を満たす目的を有していたことなどを考慮すると、撮影時に被告人が被害者の姿態を見ていなかったことを踏まえても、本件行為の性的な意味合いの程度は相当に強いといえるから、「わいせつな行為」に当たると判断した。原判決は、身体的接触がなく、被害者の姿態を直接見ていない本件行為に「わいせつな行為」該当性を認め得るほど強い性的意味合いがあることについて、本件行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度それ自体を判定し、それに着目した説明が十分なされているか疑問があるが、おおむね前述したところと同趣旨の判断をしているものと解され、その結論に誤りはない。
参考事項
1 前記最高裁判決で示された判断基準を、本件のような非接触型・非対面型わいせつ事案に当てはめて強制わいせつ罪の成立を認めた高裁判決はまれであり、その詳細な理由付けを含め、先例としての価値は大きい。
2 前記最高裁判決が「行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分踏まえる」としたことの趣旨につき、同判例解説(214ページ)では、次のような判断の順序を示したものと説明されている。すなわち、
(1)行為そのものに、性的性質が有り、かつ、その性的性質の程度が強いために、直ちに「わいせつな行為」に該当すると判断できる行為か
(2)行為そのものに備わる性的性質が無いか、あっても極めて希薄であるために、およそ刑法176条による非難に値する程度に達しえないものとして、直ちに「わいせつな行為」に該当しないと判断できる行為か
をまず判断し、次に、
(3)行為そのものが持つ性的性質が不明確であるために、行為の外形だけでは「わいせつな行為」該当性の判断がつかない類型においては、行為そのものが持つ性的性質の程度を踏まえた上で、当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮する
というものである。
 また、前記最高裁判決のいう「当該行為が行われた際の具体的状況等」として考慮すべき判断要素として、前記判例解説(218ページ以下)では、以下の事情が挙げられている。
(1)行為者と被害者の関係性
(2)行為者及び被害者の各属性等(それぞれの性別・年齢・性的指向・文化的背景〔コミュニケーション手段に関する習慣等〕・宗教的背景等)
(3)行為に及ぶまでの経緯、行為者及び被害者の各言動、行為が行われた時間、場所、周囲の状況等
(4)行為に及んだ目的を含む行為者の主観的事情(外部的徴表として現れているもの)
 本控訴審判決は、同判例解説と同様の視点で当てはめがなされている。
3 訴因には「わいせつな行為」の概略しか記載しないが、行為の行われた具体的状況等をも加味して「わいせつな行為」該当性を評価すべき事案においては、「わいせつな行為」であることを基礎づける具体的事実を冒頭陳述で指摘する必要があるとともに、論告で、その具体的事実の評価について丁寧に論じる必要がある(前記判例解説226ページ参照)。
1 非接触型のわいせつ行為(例えば、脅迫により畏怖した被害者に自慰行為をさせて自撮りさせ、その画像を遠隔地にいる被告人に送信させる事案)を強要罪で起訴する例が見られることについて、(被告人に画像を送信しなくても)強制わいせつ罪が成立するのではないかとの指摘がなされていた(橋爪隆「非接触型のわいせつ行為について」研修860号)が、本件はこれを肯定した高裁判決として参考になる。