児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp3@okumura-tanaka-law.com)

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援デリと呼ばれる売春クラブを共犯者とともに経営する中で,女性1名および18歳未満の児童3名に売春客を引き合わせ,そのうちの1件について代金の一部を支払わなかった売春客から,携帯電話機等を強奪したという強盗致傷事件につき懲役3年6月および罰金30万円(京都地裁H28.2.25)

「本件強盗致傷が,被害者の売春代金不払いに誘発された偶発的な犯行であることは否定できず,この点は,一定程度は被告人に有利に考慮すべきである。もっとも,被害者が買春したから保護する必要が低いとの弁護人の主張は,筋違いで採用できない。」

強盗致傷,売春防止法違反,児童福祉法違反被告事件
京都地方裁判所判決平成28年2月25日
       主   文
 被告人を懲役3年6月および罰金30万円に処する。
 未決勾留日数中160日をその懲役刑に算入する。
 その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
       理   由
(罪となるべき事実)
 部分判決の(罪となるべき事実)に加え,新たに認定した罪となるべき事実は以下のとおり。
 被告人は,
第4 Bと共に携帯電話の出会い系サイトを利用して売春客を募るいわゆる援デリと称する売春クラブを経営するものであるが,前記Bと共謀の上,別紙記載のAが18歳に満たない児童であることを知りながら,平成27年3月12日午前零時56分頃,京都府宇治市(以下略)所在のC宇治広野町店駐車場において,同児童(当時17歳)に対し,出会い系サイトの電子掲示板を閲覧して売春の相手方として申し込んできたDを売春の相手として引き合わせ,同日午前1時15分頃から同日午前1時48分頃までの間,京都市伏見区(以下略)所在のホテル「△△」505号室において,前記Aに前記Dを相手に対償1万3000円で性交させ,もって売春の周旋をするとともに,児童に淫行させる行為をした。
第5 前記Dが売春代金の一部を支払わなかったことなどに激高し,同人から現金等を強奪しようと考え,同日午前2時10分頃,京都府宇治市(以下略)E大久保店北東側国道24号線◇◇交差点付近において,発進直後の同人が運転する自動車の助手席に乗り込み,同人(当時37歳)に対し,右拳でその左顔面を2回程度殴り,さらに,同店北側先路上に停車した同車内において,同人に対し,「金出せ。」などと脅した上,右拳でその左顔面を2回程度殴って同人を抵抗できないようにし,同人所有又は管理の運転免許証,指輪,ネックレスおよび携帯電話機(時価合計約3000円相当)を強奪し,その際,前記一連の暴行により,同人に約3週間の加療を要する左眼窩内側壁骨折等の傷害を負わせた。
(法令の適用)
 部分判決の判示所為の罰条の適用等については,その(法令の適用)のとおり。
罰条
 第4の行為のうち
  児童に淫行させた点 刑法60条,児童福祉法60条1項,34条1項6号
  売春を周旋した点  刑法60条,売春防止法6条1項
 第5の行為      刑法240条前段
科刑上一罪の処理
 第4について     刑法54条1項前段,10条(重い児童福祉法違反の罪の刑で処断)
刑種の選択
  第1の罪について       懲役刑を選択
  第2ないし第4の各罪について いずれも懲役と罰金を併科
  第5の罪について       有期懲役刑を選択
併合罪の処理      刑法45条前段
  懲役刑について   刑法47条本文,10条(最も重い第5の罪の刑に法定の加重)
  罰金刑について   刑法48条1項,2項(罰金刑を懲役刑に併科,各罪所定の罰金の多額を合計)
酌量減軽        刑法66条,71条,68条3号
未決勾留日数の算入   刑法21条
労役場留置       刑法18条
訴訟費用の不負担    刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
1 本件は,被告人が,援デリと呼ばれる売春クラブを共犯者とともに経営する中で,女性1名および18歳未満の児童3名に売春客を引き合わせ,そのうちの1件について代金の一部を支払わなかった売春客から,携帯電話機等を強奪したという事案である。
2 量刑の中心となる強盗致傷の事案についてみると,暴行は,凶器を使用しておらず,短時間で終了しているとはいっても,無抵抗の相手に対し,顔面,特に目の付近を手加減せず集中して殴るというもので,失明等の危険も否定できないなど,その危険の程度を軽くみることはできず,実際に生じた傷害結果も軽くない。財産的被害は約3000円にとどまっているものの,被害者は,痛みや視力低下によって1か月半の休業を余儀なくされているし,社会生活を営む上で重要な携帯電話機や運転免許証を奪われたことなども併せると,被害結果は相当のものである。なお,弁護人は,被害者に対する150万円の被害弁償が被害結果を大きく軽減させている旨主張するが,被害弁償はあくまでも事後的に行われる民事上の損害賠償であって被害結果自体を減ずるものではないから,後記のとおり一般情状として考慮できるにすぎない。
  他方,本件強盗致傷が,被害者の売春代金不払いに誘発された偶発的な犯行であることは否定できず,この点は,一定程度は被告人に有利に考慮すべきである。もっとも,被害者が買春したから保護する必要が低いとの弁護人の主張は,筋違いで採用できない。なお,被告人が強盗致傷の犯行に及んだ動機については,債権回収目的とともに,仲の良かった売春婦をないがしろにした被害者への衝動的な怒り,売春組織を守っているとの自負等も多分にあると認められるところ,暴力に訴えて債権を回収しようとすることが許しがたいのは無論のこと,その余についても誤った考えに基づくもので同情できる事情には当たらない。そうすると,被害者の行為に誘発された点が,被告人の責任を大きく低下させるとまではいえない。
  以上の諸事情を考慮すれば,本件は,凶器を使用しない単独犯による強盗致傷事案の中できわめて軽い部類に属する事案とはいい難く,やや軽い部類から中程度の事案であるというべきである。
3 売春防止法児童福祉法違反の事案についてみると,被告人は,1年半以上もの間,職業的・常習的に同種行為を行って利益を上げていたもので,犯情は悪い。弁護人は,年上の共犯者のみが担っていた役割がいくつかあった点を指摘して被告人の関与が従属的であった旨主張するが,相互の間に上下関係はなく,売春婦の勧誘等被告人の方が得意とする分野もあったことなどからすると,それぞれの適性に応じた役割分担をした結果とみるのが相当であり,利益を共犯者と折半していたことも考慮すれば,売春組織の経営への被告人と共犯者の貢献は,ほぼ同等と評価できる。以上からすると,これらの犯行に関する被告人の刑事責任も軽くはない。
4 以上のとおりの犯罪事実に関する事情に照らせば,強盗致傷の犯行は,凶器を使用しない単独犯の事案の中で最下限に位置する事案とはいい難く,これに加えて売春防止法児童福祉法違反の犯行の責任も軽くはないのであるから,懲役刑については実刑がふさわしいということができる。
5 これに対して,弁護人は,一般情状をいくつか指摘した上で,懲役刑につき,酌量減軽をした最下限の刑である懲役3年を選択し,保護観察付執行猶予に付するのが相当であると主張する。
  確かに,一般情状に目を向けると,被告人に有利な点が多いのはそのとおりである。前記のとおり,強盗致傷の被害者に対しては,被告人の実父の支出によって150万円の被害弁償が行われて示談が成立し,被害者は被告人に対して寛大な処分を求めるに至っている。また,被告人は現在20歳と若年で,本件のうち一部の犯行時には未成年であったところ,いずれの犯行も,若さゆえの未熟さが一因となったとみられ,また,本人の意欲次第で今後の立ち直りも十分に可能である。被告人は,自身も認めるとおり,逮捕当初は各犯行に対する罪の意識が薄く,刑事責任を逃れるための弁解に汲々としていたが,約10か月間の身体拘束の間に反省を深め,公判では事実関係を率直に認めるとともに,強盗致傷の被害者を含めて周囲に与えた影響の大きさに思いを致すまでになっていて,この心境の変化は,成長と評価できる。加えて,社会復帰後は父親のもとで生活,就労する予定で,更生の環境が整っており,前科や重視すべき前歴も有しない。
  しかし,これらの事情は,一般情状にすぎず,これらを根拠に刑の執行猶予を選択することは,たとえ保護観察付であっても,被告人の犯した罪に見合った刑の範囲から逸脱するというほかなく,そのことは,被告人が真に反省して既に更生の道を歩み始めている点を考慮しても変わることはない。
6 以上の次第で,懲役刑については,上記の一般情状を十分に考慮し,更生を後押しすべく酌量減軽の上で比較的軽い実刑を選択した。その上で,児童を含めた売春の周旋が経済的に見合わないことを知らしめるため,共犯者との刑の均衡も考慮し,主文のとおりの罰金を併科することとした。
(検察官の求刑:懲役6年,罰金30万円,懲役刑に関する弁護人の科刑意見:懲役3年(5年間執行猶予,付保護観察))
  平成28年2月29日
    京都地方裁判所第1刑事部
        裁判長裁判官  坪井祐子
           裁判官  渡辺美紀
           裁判官  守屋尚志