強姦致傷被告事件
東京地方裁判所判決平成21年2月2日
被告人を懲役3年に処する。
未決勾留日数中150日をその刑に算入する。
この裁判確定の日から5年間その刑の執行を猶予し,その猶予の期間中被告人を保護観察に付する。
訴訟費用は被告人の負担とする。理 由
(罪となるべき事実)
被告人は,平成20年5月1日午後8時50分ころ,東京都渋谷区(以下略)の当時の被告人方居室において,A(当時19歳)を強いて姦淫しようと企て,同人に対し,その腕をつかんで引っ張り,髪の毛をつかんでその顔面を数回床に打ち付けるなどの暴行を加えた上,「やらせろ。」「やらなきゃ帰さない。」などと強い口調で言って脅迫し,さらに,ブラジャーを下ろしてその乳房をなめるなどの暴行を加え,その反抗を抑圧して強いて同人を姦淫しようとしたが,同人が隙を見て逃げ出したためその目的を遂げず,その際,上記暴行により同人に全治まで約5日間の顔面打撲等の傷害を負わせた。
(証拠の標目)
(法令の適用)
第1 罰条 刑法181条2項(179条,177条前段)
第2 刑種の選択 有期懲役刑を選択
第3 酌量減軽 刑法66条,71条,68条3号
第4 未決勾留日数の本刑算入 刑法21条
第5 執行猶予 刑法25条1項
第6 保護観察 刑法25条の2第1項前段
第7 訴訟費用 刑事訴訟法181条1項本文(負担)
(量刑の理由)
1 本件は,被告人が,本件以前に知り合った被害者を強姦しようとして暴行を加えたが,同人に抵抗されるなどしたためその目的を遂げず,その際,同人に全治まで約5日間を要する傷害を負わせた強姦致傷の事案である。
2 被告人は,虚言を弄して被告人方に誘い入れた被害者が,被告人との性交を拒絶し,出て行こうとするや,やにわにその腕をつかんで引っ張り,「やらせろ」「やらなきゃ帰さない」などと怒号して脅し,さらには帰りたがる被害者の髪の毛をつかんでその顔面を数回床に打ち付けたり,衣服等を引き下げてその乳房を揉んだり,なめたりする暴行を加えるなどして同人を姦淫しようとしたばかりか,同人の必死の抵抗にあうや,自己の陰茎をなめさせるなどの行為にも及んだものであり,その犯行態様はまことに卑劣かつ執拗である。
本件犯行の結果,被害者はその暴行等による苦痛や恐怖心はもとより,その後も男性に対する恐怖感から,通っていた学校を2週間程度休むことを余儀なくされるなどの精神的苦痛が続いたのであり,以下で述べるように一定の慰謝の措置が講じられているとはいえ,その被害感情に依然厳しいものがあるのは当然である。
また,被告人は,被害者が容易に自己との性交渉に応じるものと決めつけ,被害者がこれを拒むや一転して前記のとおり同人を強いて姦淫しようとしたものであり,このように自己の性欲を満たすことのみを考え,被害者の性的自由を一切顧みることなく本件犯行に及んだ被告人の人格態度は身勝手極まりなく,厳しく非難されるべきである。
以上の事情に照らせば,被告人の刑事責任は重いというべきである。
3 しかしながら他方で,幸いにして,姦淫自体は未遂にとどまっており,被害者の傷害の程度も比較的軽微なものといえる。また,被告人は,本件の損害賠償の一部として100万円を支払うとともに,いつでも被告人の居場所を把握できるようにGPS機能付きの携帯電話を持ち,被害者に今後一切近づかない旨の誓約書を被害者に差し出し,被害者はこれらを受領している。さらに,被害者は,以前に偶然出会って電話番号を教えただけで名前も知らない被告人の呼び出しに応じ,被告人が虚言により自宅に誘い入れようとしているのを察知し,性的被害を受けるおそれを感じながら,「まあ,いいや。大丈夫だろう。」と軽信して中に入った結果本件被害にあったものであり,このような行動は,その年齢を考慮しても,なお軽率な面があったことは否定できない。
加えて,被告人にはこれまで前科がなく,本件についても当公判廷においては犯行を認めるとともに,捜査段階や公判前において犯意等を否認していた自らの浅薄さを深く反省し,被害者に対する謝罪の弁を述べた上,今後は美容師の資格を生かしてまじめに稼働する旨誓っている。
4 そこで,当裁判所は,上記の被告人のために酌むべき事情を考慮し,保護観察の援助の下で規範意識を高め,社会内で更生を図る機会を与えるのが相当と判断した。
(検察官花輪一義,森田菜穂 弁護人宮本寛之 各出席。求刑−懲役5年)
平成21年2月2日
東京地方裁判所刑事第13部
裁判長裁判官 戸倉三郎
裁判官 中村昌史
裁判官 関 洋太