児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童買春罪の被害児童を少年院送致した事例(那覇家裁H24.11.30)

「このまま少年を放置すれば,その性格及び環境に照らして,売春防止法違反,インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律違反等の罪を犯すおそれがある。」ということで虞犯です。
 「及び児童の保護等に関する法律」って言っても、保護の制度を作らなかったので、既存の保護処分に乗って処理されてしまいます。被害が潜在化けしますよね。

ぐ犯保護事件
那覇家庭裁判所沖縄支部決定平成24年11月30日
家庭裁判月報65巻5号109頁
       主   文

 少年を中等少年院に送致する。

       理   由

(ぐ犯事由及びぐ犯性)
 少年は,平成23年4月ころに携帯電話のサイトを利用して援助交際と称する売春行為を行い,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反事件の被害児童となったことがあるほか,窃盗,傷害の非行歴2件を有し,同年11月21日に那覇家庭裁判所沖縄支部において保護観察に付された者であるが,平成24年3月に○○市内の公立中学校を卒業したものの,喫煙,深夜徘徊,無断外泊等の問題行動を繰り返しながら遊興に耽り,44回の補導歴を有するに至っていた上,平成24年7月12日ころから同年11月5日に東京都△△区内で警察官に保護されるまでの間,長期間にわたり家出をし,その間,暴力団関係者らと愛知県等に赴き,同県内所在のアパート等に住み込みながら,指定暴力団があっせんする,携帯電話の出会い系サイトを利用したデリバリーヘルスと称する売春行為を繰り返し,児童福祉法違反事件の被害児童となっていたものであって,少年は,保護者の正当な監督に服しない性癖があり,正当の理由がなく家庭に寄り附かず,犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し,かつ,自己の徳性を害する行為をする性癖があり,このまま少年を放置すれば,その性格及び環境に照らして,売春防止法違反,インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律違反等の罪を犯すおそれがある。
(法令の適用)
 少年法3条1項3号本文,同号イ,ロ,ハ,ニ
(処遇の理由)
1 事案の概要
  本件は,保護観察中の少年が,4か月間近くにわたり家出をし,その間,暴力団の関与するデリバリーヘルス業者のもとで売春行為を繰り返すなどしたというぐ犯の事案である。
2 少年の生育歴等
 (1) 少年は,幼少のころから,実母によるネグレクト,父母の離婚,継母による身体的虐待を経験し,監護者も生活環境もめまぐるしく変わるなか,小学校の中学年ころから行動が落ち着かなくなり,父と継母の離婚後,小学校6年生のときに父の自殺を目の当たりにして深く傷ついてきた。
 (2) このような不遇な生育環境のもと,中学校2年生のころから,素行不良の友人と親しくなったことを契機として,不良交友に惑溺し,家出,暴走族見物,常習的な喫煙,万引き等の問題行動を繰り返し,リストカットオーバードース援助交際と称する売春行為といった自らを損なう行為に及ぶようになった。
 (3) 平成23年11月21日に前件保護観察決定を受けた後,一時期は中学校に登校を続け,父方伯父の経営する居酒屋を手伝うなどしていたが,落ち着いた生活を続けることができず,素行不良の友人とともに長期間の家出をしながら,暴力団の関与するデリヘルの売春婦として売春行為を繰り返すなどし,判示のとおりぐ犯行為を繰り返すに至った。
3 少年の性格,資質について
  鑑別及び調査の結果によれば,少年は,知的能力に大きな制約はないが,その生育歴を背景に,著しく情緒不安定である。相手が自分の内面に目を向けさせようとする働きかけをすると,途端に不機嫌になり,拒否的な態度を示す。大人への不信感が根深い反面,不良仲間に忠誠心を示している。決まりや規則よりも,自己本位な欲求充足を優先させる傾向を強めている。自傷行為や売春など,自身の身体を損ねることへの抵抗感が薄く,自分を汚れていると捉え,望ましい自尊心が形成されていない。不快な内面に蓋をするという躁的防衛に及びやすく,内省が深まりにくい。
  少年が審判前日に作成した作文の内容や審判での供述状況・供述態度をみても,自らの問題や内面と向き合うことを避けている様子がうかがわれ,内省の深まりはみられなかった。
  このような資質的問題は,少年の非行に深く根ざしているものとみられ,少年の要保護性は高い。
4 少年の保護環境について
  少年の父方伯父及び祖父母は,少年を引き取る意向を示しているが,少年はこれまで保護者の指導に従わずに長期間家出を続けてきたものである上,父方伯父及び祖父母は少年の深刻な問題を充分理解し,家族で共有することができていない。殊に祖父母は少年がデリバリーヘルスで売春行為を繰り返していたという本件ぐ犯事実の主要部分さえ知らずにいる。母や元継母にも期待できず,保護者の監護力には期待できない。
5 検討及び結論
 (1) 以上の諸点に鑑みると,少年が事実を認め,反省の態度を示していること等の事情を考慮しても,社会内処遇により少年の更生がなし得るとは到底期待できない。少年は,我慢をすることで一時的に行動改善をできた時期もあるが,保護観察中の身であるのに,早々に行動を大きく乱しており,その行動変容には少年の内面の変革が欠かせないものと考えられる。情緒不安定も大きな負因といえ,指導的に関わる大人への不信感も根強く,少年鑑別所内でさえ指導に従う構えは乏しかったのであって,試験観察も含め,社会内での指導が奏功するとはおよそ期待できない。少年の健全な育成を期するには,少年を施設に収容保護した上で,落ち着いた安心できる環境のもと,充分な時間をかけて,専門家による系統的な矯正教育を行うことが不可欠である。虐待を受け,周囲の大人に粗略に扱われて生育した少年であり,躾不足を改善する必要があるし,社会復帰後またもや売春行為に手を染めることのないよう,健全な自尊心を培わせることが欠かせない。処遇機関におかれては,指導者と少年との間で信頼関係を作った上で,少年に自らの問題と向き合わせ,日々の生活も通じて,少年が,規則や決まりの意味を理解し,我慢するだけでの表面的な行動改善にとどまることなく,規範意識を身に付けられるよう,ご指導いただきたい。
 (2) なお,少年の処遇には困難が見込まれることや,少年の問題はその資質的負因に根差した深刻なものであること等に照らせば,短期集中的な処遇になじまない。かえって,予後は不安であり,比較的又は相当長期の処遇勧告を付すまではしないが,少年の状況を見ながら,充分な処遇期間を確保されたい。
 (3) よって,少年法24条1項3号,少年審判規則37条1項を適用して,主文のとおり決定する。(裁判官 大伴慎吾)

〔参考〕 環境調整命令書
                    平成24年11月30日
那覇保護観察所長 殿
               那覇家庭裁判所沖縄支部
                      裁判官  大伴慎吾
       少年の環境調整に関する措置について
 当裁判所は,平成24年11月30日に,下記少年に対し,中等少年院に送致する決定をしましたが(平成24年(少)第301号 ぐ犯保護事件),少年については,その環境調整に関する措置が特に必要であると考えますので,少年法24条2項,少年審判規則39条により,下記のとおり要請します。
         記
1 少年
  氏名 A
  年齢 (15歳)
  本籍 〈編略〉
  住居 〈編略〉
  職業 無職
2 必要とする措置
  少年の仮退院に際して,適切な帰住先を確保できるよう,早期に少年及び保護者との関係作りに着手の上,少年及び家庭の環境を調整されたい。
3 上記措置の必要性等
  本件は,保護観察中の少年が,4か月間近くにわたり家出をし,その間,暴力団の関与するデリバリーヘルス業者のもとで売春行為を繰り返すなどしたというぐ犯の事案であるが,幼少のころから,実母,継母による虐待や父の自殺等の傷つき体験を重ね,不良交友に惑溺する一方,指導的に関わる大人への不信感が強い。仮退院後の円滑な指導援助のためには,仮退院後の指導者と少年との信頼関係が形成されていることが重要であると思われる(なお,本件調査・審判過程においても,男性の各担当者との信頼関係形成には困難が伴ったようである。ご担当の保護司の方を決定されるにあたっては,少年院等関係機関と連携し,性別その他の点で少年の指導に適する方を,早期からご検討いただくことも有益であろう。)。他方,保護者である伯父や祖父母は,少年の問題と向き合うことができておらず,特に引受先となることが見込まれる祖父母は少年がデリバリーヘルスと称する売春行為を繰り返していたことも把握していない。
  したがって,少年院仮退院後の少年の受入れについて,関係機関の担当者におかれては,できるだけ早期から,少年及び保護者と関わり,信頼関係を形成しながら,綿密な助言・援助を行って円滑な帰住の準備をしていただくことが相当である。
  なお,その他,参考となる事情については,別送の決定書謄本,家庭裁判所調査官作成の少年調査票の写し及び鑑別結果通知書の写しを参照されたい。 以上