児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp3@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(監護者性交罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

被告が未成年者であることを知りながら複数回性的行為をしたことは争いがないが、被告が甘言を弄したり、性的行為を強要したことを認めるに足りる証拠はなく、不法行為は成立しない等判断して、原告の請求を棄却した事例(東京地裁H23.3.2)ウエストロー・ジャパン

 淫行の損害賠償については、民事裁判所も厳しいですね。

原告 
同訴訟代理人弁護士 
鈴木秀男 

被告 
同訴訟代理人弁護士 
丸山惠司 
同訴訟代理人弁護士 
瀧澤秀俊 

主文

 1 原告の請求をいずれも棄却する。
 2 訴訟費用は原告の負担とする。
 
 
事実及び理由

第1 請求
 被告らは,原告に対し,各自5億2571万円及びこれに対する平成22年9月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 当事者の主張
第3 当裁判所の判断
 1 被告Y2はC及びDが未成年者であることを知りながら複数回性的行為をしたことは当事者間に争いがない。これに,証拠(甲1,4ないし7,14ないし16,20ないし25,27,乙1ないし4,6ないし8,11,12,丙5,7(枝番を含む。))及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。
  (1) 原告は,芸能プロダクションの経営等を目的とする株式会社であり,A(以下「A」という。)が代表取締役を努めている。
 被告会社は大手の引越会社であり,被告Y2は同社の代表取締役を努めていたが,平成22年6月4日同代表取締役を辞任した。
  (2) a社は,演劇,音楽等催物の企画,運営等を目的とする株式会社であり,E(以下「E」という。)が代表取締役を努めていた。
 a社は,平成21年4月10日,D(平成3年○月○日生まれ)との間で,Dがa社の専属実演家として芸能活動をする旨の専属実演家契約を締結した。
 a社は,平成21年8月1日,C(当時16歳)との間で,Cがa社の専属実演家として芸能活動をする旨の専属実演家契約を締結した。
  (3) 被告Y2は,平成21年8月ころから同年9月ころまでの間,C及びDが未成年者であることを知りながら,複数回にわたり同人らに対し性的行為をした。
  (4) 被告Y2は,E並びに同人及びCの代理人弁護士との間で,平成21年9月16日,被告Y2がCに性的行為をした件について,要旨次の記載のある合意書(甲7 以下「本件合意書」という。)を取り交わし,E及び上記弁護士に対し800万円を交付した。
   ア 被告Y2は,Cに不適切な行為をしたこと及びCの所属先であるEに多大な迷惑をかけたことを謝罪し,C及びEに合計800万円の損害賠償義務のあることを認め,本席上これを交付し,Eらはこれを受領した。
   イ Eらは本件が円満に解決したことを認め,被告Y2に対する刑事告訴等を一切しない。
   ウ 被告Y2はEらの芸能活動に協力する。
  (5) a社(代表者E)と原告(代表者A)は,平成21年11月30日付けで権利譲渡契約書(甲6)を取り交わし,a社が原告にD及びCとの間の専属実演家契約に基づく契約上の地位等を含むアーティスト事業を代金1000万円で譲渡する旨合意した。a社は,平成21年12月12日付け通知書(甲15)により,被告Y2に対し,a社が「株式会社JAC」にC及び他1名との間の専属実演家契約に基づく契約上の地位等を譲渡した旨通知した。
 Aは,このころ,「株式会社JAC」の代表取締役という肩書で,代理人弁護士F(以下「F弁護士」という。)を通じて送付した通知書(甲14)により,被告Y2に対し,a社からC及び他1名との間の専属実演家契約に基づく契約上の地位を譲り受け,本件合意書に関する権利関係も承継したとして,本件合意書の件について直接面会したい旨申し入れた。これに対し,被告Y2は,代理人弁護士瀧澤秀俊(以下「瀧澤弁護士」という。)を通じ,平成21年12月18日付け回答書(甲16)により,F弁護士に対し,今後一切の交渉は瀧澤弁護士を窓口とし,被告Y2に直接連絡することを断った。
 Aは,「JAC株式会社」の代表取締役という肩書で,平成22年2月12日付け通知書(甲20)により,被告Y2に対し,本件合意書の件について直接面会したい旨通知した。これに対し,瀧澤弁護士は,同年2月17日付け書面(甲21)により,Aに対し,交渉の窓口は瀧澤弁護士とし,被告Y2に直接連絡することを断った。
  (6) 平成22年2月26日,Eがa社の代表取締役を辞任し,Aが同代表取締役に就任した。
 Aは,原告の代表取締役として,弁護士G(以下「G弁護士」という。)を通じて,平成22年3月3日付け通知書(甲22)により,被告Y2に対し,速やかにAに連絡されたい,連絡のない場合,刑事告訴手続をとるとともに原告の全損害(推定で20億円を下らない)の賠償を求める意向である旨申し入れた。これに対し,瀧澤弁護士は,同年3月5日付け書面(甲23)により,G弁護士に対し,交渉の窓口は瀧澤弁護士であり,被告Y2に直接連絡することを断った。
 H及びIは,平成22年3月13日の夕方,原告に所属する者であると称して,事前の連絡なく被告Y2宅を訪問して被告Y2に面会し,CやDと連絡が取れなくなり,その芸能活動に支障が生じ,原告が損害賠償を受ける事態となっているなどの話をした。被告Y2は,瀧澤弁護士から連絡するなどと答えた。これに対し,瀧澤弁護士は,同年3月15日付け書面(甲25)により,G弁護士に対し,Hらの上記面会について抗議した。
  (7) Eは,平成22年3月25日ころ,平成21年7月に芸能プロダクション事務所への所属を希望して来訪した女性を強姦したという被疑事実により逮捕された。Eは,平成22年6月2日ころ,Cに対して淫行したという児童福祉法違反の被疑事実により逮捕された。さらに,Eは,同年6月14日,被告Y2に対しCと性的関係を持ったことをマスコミに流すなどと脅迫して800万円を喝取したという恐喝の被疑事実により逮捕され,同年7月5日に起訴された。Aは,同年8月8日,原告を相手方として本件訴訟を提起して賠償金を詐取しようとしたという詐欺未遂の被疑事実により逮捕され,同年8月27日に起訴された。
 2 以上認定事実の下で,被告Y2の不法行為の成否について検討する。
 被告Y2はC及びDが未成年者であることを知りながら複数回にわたり同人らと性的行為をしたことは当事者間に争いがない。
 原告は,被告Y2がC及びDに対し,その芸能活動について被告会社のコマーシャルに起用するとか必要な資金を援助する等の甘言を弄して,同人らに淫行を強要したとし,被告Y2の上記行為は不法行為を構成すると主張する。
 C作成の説明書(甲28の1)及びJ作成の説明書(甲28の2)には,Cの被告Y2との性的行為についての経緯や,Cはモデルの仕事をもらいたい気持ちであったが,被告Y2からは芸能活動を援助するという話はなかった旨の記載があるにすぎないし,G弁護士のメモ(甲29)には,「b社の社長を紹介する,された,Y2さんと一緒」「9月学費を出してもらった,b社の社長と会った」などの断片的な文が手書きで記入されているにすぎず,これらをもって原告の上記主張事実を推認することはできない。他に被告Y2がC及びDに対し被告会社のコマーシャルに起用するとか必要な資金を援助する等の甘言を弄したことや両名に対し性的行為を強要したことを認めるに足りる証拠はない。したがって,被告Y2について不法行為は成立しない。
 3 この点をおき,被告Y2の淫行行為と原告の損害との間の因果関係についても検討しておく。
 原告は,被告Y2の不法行為によりC及びDがショックを受け,原告の芸能活動を放棄してしまい,そのため原告は損害を被ったと主張する。しかし,仮に,C及びDが原告の芸能活動を放棄したとしても,それが被告Y2の淫行行為によりショックを受けたことに起因するものであることを認めるに足りる証拠はない。
 4 以上によれば,被告Y2の不法行為は成立せず,したがって,被告会社の会社法350条に基づく責任が成立する余地もない。
 よって,原告の請求は,いずれも理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 畠山稔 裁判官 矢作泰幸 裁判官 瀬戸信吉)