児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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デリヘル嬢として1か月稼働させたことについて100万円を認容した事例(東京地裁H23.1.21)

 訴額300万円
 デリヘル事案の場合は、この程度の被害でこの程度の認容額になるということです。

東京地裁平成23年 1月21日
◆原告が、被告が当時17歳である原告に対し、性的サービスを勧誘し、いわゆるデリヘル嬢として1か月以上にわたり約30名の客に性的サービスをさせたとして、不法行為に基づき、被告に対し、慰謝料等の支払を求めた事案において、被告の上記不法行為により、原告は精神的苦痛を被ったと認定した上で、被告の不法行為の内容・態様、原告の被った被害の内容・程度、原告は警察に相談したことを被告から責められたことを苦にしてその直後に自殺を図るに至ったこと等から、慰謝料100万円の限度で原告の請求を認容した事例
出典
エストロー・ジャパン
原告 X 
法定代理人親権者母 A 
訴訟代理人弁護士  島田敬介 

第2 当事者の主張
 1 請求原因
 別紙「請求の原因」記載のとおり。
 2 請求原因に対する認否
  (1) 請求原因第1の1は不知,被告が児童福祉法違反により処罰を受けたことは認めるが,不法行為の成立については争う。
  (2) 同第2のうち,被告が原告に風俗店で働くことを勧誘したこと,被告が警察に届出をしてデリバリーヘルスの経営を始めたことは認めるが,その余は不知ないし否認。
  (3) 同第3のうち,被告は児童福祉法違反の罪により相応の刑事処罰を受けており,被告の責任は果たされている。被告は原告に対し性的サービスを強制していない。
  (4) 被告は原告との間で,客から受領した金額を折半するとの合意をし,客1人当たり1万6000円のサービス料のうち,原告は報酬として8000円を受領していたのであり,原告に対し性的サービスを強制していない。



第3 当裁判所の判断
 1 証拠(甲1,2)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。
  (1) 原告は,平成4年○月○日生まれの女子であり,親権者母はAである。
  (2) 被告は,違法マッサージ店を経営しており,原告の友人が同店の風俗嬢をしていたことから,その紹介を受け,平成21年8月27日,原告を同店従業員として雇用した。原告は,翌28日に個室マッサージ店に出勤したところ,同日警察の取締りが入り,同店は閉店となった。
 被告は,平成21年10月上旬に警察に届出をし,同年11月2日ころ,派遣型ファッションヘルス(デリバリーヘルス)店「○○」の経営を始め,原告をいわゆるデリヘル嬢として雇用した。
  (3) 原告は,上記デリヘル店において,被告から口淫等の性交類似行為をする相手方として遊客の紹介を受け,平成21年11月2日から同年12月4日までの間,デリヘル嬢として約30名の客を相手に口淫等の性交類似行為という性的サービスをした。
  (4) 原告は,平成21年11月下旬ころ,デリバリーヘルスの仕事を辞めなければならないと決心し,母親に事情を話して相談した上,警察庁ヤングテレフォンコーナーの相談室に電話した上,同年12月6日母親と一緒に警察庁本庁に相談に行った。原告は,それでも店に出勤を続けていたが,同年12月11日に店に出勤したところ,被告が偶然原告の携帯電話を見て,警察に相談していることに気づき,原告を激しく責め立てた。原告は,翌12日の朝方まで店を閉める準備などをさせられ,同日午前5時か6時ころ店を出て帰宅し,自宅で睡眠薬を多量に飲んで自殺を図ったが,一命を取り留めた。
  (5) 被告は,原告(当時17歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら,平成21年12月4日ころ,原告に対し,口淫等の性交類似行為をする相手方として不特定の遊客を紹介し,原告に客を相手に口淫等の性交類似行為をさせ,もって18歳に満たない児童に淫行をさせた児童福祉法違反の罪により起訴され,平成22年3月12日,東京地方裁判所で,懲役2年・執行猶予3年,罰金50万円の刑に処せられた。
 2 以上認定のとおり,被告は,当時17才で未成熟で思慮不十分な原告に対し,性的サービスを勧誘し,原告に対しいわゆるデリヘル嬢として1か月以上にわたり約30名の客に口淫等の性交類似行為という性的サービスをさせ,もって児童に淫行をさせたものである。被告の上記行為は児童福祉法に違反するとともに,児童である原告の健全育成を害するものであって,原告に対する不法行為を構成する。
 被告は,原告との間で客から受領した金額を折半するとの合意をし,客1人当たり1万6000円のサービス料のうち,原告は報酬として8000円を受領していたのであり,被告は性的サービスを強制していないと主張する。しかし,被告が当時17歳で思慮不十分な原告に対し上記淫行をさせた行為が児童福祉法に違反し原告に対する不法行為を構成することは前示のとおりであり,被告の指摘する点は上記判断を左右するものではない。
 3 被告の上記不法行為により,原告は精神的苦痛を被った。被告の上記不法行為の内容・態様,原告の被った被害の内容・程度,被告は警察に相談したことを原告から責められたことを苦にしてその直後に睡眠薬を多量に飲んで自殺を図るに至ったこと,その他本件に現れた一切の事情を総合勘案すると,原告の精神的苦痛を慰謝するには,100万円が相当である。
 4 以上によれば,原告の請求は,主文1項の金員の支払を求める限度で理由があるが,その余は理由がない。
 よって,主文のとおり判決する。
 (裁判官 畠山稔)
 
 
 別紙
 請求の原因
 第1 当事者
  1 原告は、平成4年○月○日生まれ(現在18歳)の女子であり、両親の離婚のため、現在の親権者は母Aのみである。
  2 被告は、後述の本件不法行為(の一部の公訴事実)により、平成22年3月12日、児童福祉法(第34条1項6号)違反の罪で懲役2年(執行猶予3年)及び罰金50万円の刑に処せられた者である。
 第2 本件不法行為
  1 被告は、平成21年8月まで違法マッサージ店を経営していたが、同年7月下旬ころ、原告の友人(当時17歳)を風俗嬢として雇った。
  2 原告は、同年8月27日ころ、上記友人とカラオケ等に行った後、吉祥寺の居酒屋で友人から被告を紹介された。原告は、被告から「Xは可愛いね。女の子の数が少ない、Bちゃんも働いているから、一緒に働いてほしい。お小遣いたくさん入るよ」などと風俗店で働くことを勧誘された。原告はこれを承諾するような発言をしたことはなかったが、その後、被告が経営していた個室マッサージ店に上記友人と一緒に車で連れて行かれた上、個室に呼ばれ、「実技講習をする」等と言われて、無理矢理性交渉などをさせられた。原告は、個室マッサージ店で働くことを承諾した事実も一切ないにも関わらず、強引に被告から性交渉を強要させられたことに呆然とした。
  3 その後、原告は、上記友人から被告の経営する個室マッサージ店で働くことを誘われた。原告はこれに強く抵抗を感じたが、誘いを断ることで友人を失ってしまうかもしれない等と考え、同年8月28日、上記個室マッサージ店に出勤したが、同日に警察の取締りが入った。この際、原告は、被告から「個室マッサージ店は閉鎖するけど、10月中旬には、警察に正式な届出をしてデリヘルを開く」等と言われ、その後、マニュアルの作成などを手伝わされた。
  4 被告は、同年10月上旬に警察に届出をし、同年11月2日ころ、派遣型ファッションヘルス(デリバリーヘルス)店「○○」の経営を始めた。
 原告は、同デリバリーヘルス店で仕事をするよう被告から執拗に働きかけられたところ、被告の背中に刺青があり「俺はヤクザだ」などと言われていた上、住所や電話番号を知られていることなどから被告に著しい恐怖感を覚えており、やむなく同店で働くことを決めた。この際、被告から「(原告や上記友人が)17歳の未成年であることは誰も知らない」「ボーイや客らに年を聞かれても本当の年は答えるな」「お前達が未成年で、補導されたら俺達が捕まるし、お前達は少年院に入れられる」などと言われた。
  5 原告は、上記デリヘル店において、同年11月2日から同年12月4日までの間、デリヘル嬢として、30人前後の客に対して性的サービスをさせられた(本件不法行為)。
  6 原告は、同年11月下旬ころ、どうしてもデリヘルの仕事を辞めなければならないと決心し、母親に事情を話して相談した上、自分自身で警視庁ヤングテレフォンコーナーの相談室に電話した上、同年12月6日、母親と一緒に警視庁本庁に相談に行った。
 さらに、原告は、被告に対する恐怖感からそれでも店に出勤しなければならないという強迫観念にとらわれ、同年12月11日、店に出勤したところ、偶然原告の携帯電話を見た被告が、原告が警察に相談していることに気づき、原告はそのことを激しく責め立てられた上、翌12日の朝方まで、ほぼ店内に軟禁状態で店を閉める準備などをさせられた。
  7 原告は、母親にメールで助けを求めるなどして、翌12日の午前5時か6時頃、店を出て帰宅したが、かかる被告の態度などに著しく恐怖感を覚えて悲観し、同日、自宅で睡眠薬を多量に飲んで自殺を図ったが、幸い、一命を取り留めた。
 第3 責任
 以上のとおり、被告は、当時17歳の原告に対して、児童福祉法に違反し、原告が若年であることによる思慮・判断能力の欠如に乗じるばかりでなく、自己の風貌・発言により原告を畏怖させ、原告をして1ヶ月以上にわたり約30名前後の客に対して性的サービスを半ば強要したものであり、かかる被告の行為が不法行為民法709条)に該当することは言うまでもない。
 第4 損害
 上記被告の本件不法行為により、原告は、肉体的・精神的に著しく傷つき、まだ先の長い人生を悲観して自殺未遂を図るのほどの精神的損害を被ったものであり、かかる精神的損害に対する慰謝料は金300万円を下らない。
 第5 結語
 よって、原告は、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料金300万円、及びこれに対する被告による不法行為の最終日である平成21年12月4日から支払済まで民事法定利率である年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴に及んだものである。