児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp3@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(監護者性交罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

師弟関係の性行為について、請求棄却した事例(東京地裁H22.11.19)

 訴額は300万円
 親は訴訟するほど怒っているようですが、裁判所は「原告は,高校教師としては,女子生徒が自己に恋愛感情を抱いていることを知っても,当該生徒と男女交際に至ってはならないという不作為義務を負っており,教師という立場から指導してその恋愛感情を解消していく義務があると主張するが,高校教師に女子生徒との関係で上記のような法的義務が生ずる法的根拠は不明であるから,原告の上記主張は採用することができない」「被告が原告を誘惑し,威迫し,欺罔し又は困惑させる等,その心身の未成熟に乗じた不当な手段によって肉体関係を持ったとか,被告が原告を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っていたと認めるに足りる証拠はない。
 以上の事情のほか,前記(4)で認定した原告と被告が肉体関係を持つに至った前後の状況によれば,被告は,原告と恋愛感情に基づき肉体関係を持つに至ったと認められ,法が女性の婚姻適齢を16歳以上としていることも考慮すれば,被告が原告と肉体関係を持った行為が,原告に対する不法行為になるとはいえない。」という理由で棄却しました。

裁判年月日 平成22年11月19日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2010WLJPCA11198010
東京都荒川区〈以下省略〉 
同訴訟代理人弁護士 
金子博人 
宇田川靖子 
土方恭子 
被告 
同訴訟代理人弁護士 
水原祥吾 
谷口香織 

主文

 1 原告の請求を棄却する。
 2 訴訟費用は原告の負担とする。
 
 
事実

第1 当事者の求めた裁判
 1 請求の趣旨
  (1) 被告は,原告に対し,330万円及びうち300万円に対する平成19年5月26日から,うち30万円に対する平成21年10月31日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  (2) 訴訟費用は被告の負担とする。
  (3) 上記(1)につき仮執行宣言
 2 請求の趣旨に対する答弁
 主文同旨
第2 当事者の主張
 1 請求原因
  (1) 原告は,平成2年○月○日生まれで,平成18年4月にa高等学校(以下「a高校」という。)に入学したが,平成19年4月からb高等学校(以下「b高校」という。)に転校した。
  (2) 被告は,平成18年当時,a高校において非常勤講師をしていたが,平成19年3月に同高校の非常勤講師を辞め,後に,c高等学校(以下「c高校」という。)の教諭となった。
  (3) 被告は,原告が被告に好意を抱いていることを知りながら,同年3月20日,被告が原告に対して「まだ俺が好きか」との電子メールを送った。これをきっかけとして,原告と被告は,同年4月ころから交際を始め,同年5月5日,原告宅にて肉体関係を結んだ。
  (4) 違法性
 女子生徒は社会経験が浅く,高校教師に憧れを抱いても,それが尊敬なのか恋なのかも判断しがたく,また,学校教育の目的の観点からも,高等学校においては,男性教師は,女子生徒との間で,その在学中に,男女の恋愛関係となることは許されない。
 つまり,高校教師は,女子生徒が自己に恋愛感情を抱いていることを知っても,当該生徒と男女交際に至ってはならないという不作為義務を負っており,教師という立場から指導してその恋愛感情を解消していく義務がある。
 にもかかわらず,被告は,高校教師と女子生徒という立場を利用して原告との男女交際を始め,当時16歳である原告と肉体関係を持ったものであるから,被告が原告と肉体関係を持ったことは児童福祉法の趣旨からみても原告の権利又は法律上保護される利益を侵害したものであり,原告に対する不法行為となる。
  (5) 損害
 原告は,被告の不法行為により精神的苦痛を受け,これを慰謝するに足りる慰謝料の額は300万円が相当である。また,弁護士費用30万円が被告の不法行為と相当因果関係のある損害として認められるべきである。
  (6) よって,原告は,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償請求権として330万円及びうち慰謝料である300万円に対する不法行為の終わった日より後の日である平成19年5月26日から支払済みまで,うち弁護士費用30万円に対する不法行為の終わった日より後の日である平成21年10月31日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで,それぞれ民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
 2 請求原因に対する認否等
  (1) 請求原因(1)のうち,原告が平成19年4月に転校したことは知らず,その余の事実は認める。
  (2) 請求原因(2)の事実は認める。
  (3) 請求原因(3)のうち,平成19年3月20日に,被告が原告に対して「まだ俺が好きか」との電子メールを送ったことは否認し,原告と被告が平成19年4月ころから交際を始め,同年5月5日に原告宅にて肉体関係を持ったことは認める。
  (4) 請求原因(4)及び(5)は争う。
 そもそも学校の教師には,生徒の自己に対する恋愛感情を解消していく義務や,生徒との交際を思いとどまる義務はない。
 被告は,平成18年9月ころから,原告から勉強等のことで相談を受けてアドバイスをしていたところ,やがて原告から好意を寄せられ,原告と被告はお互いに恋愛感情に基づいた真剣な男女交際をするに至った。
 原告と被告が肉体関係を持った平成19年5月5日以後,原告と被告は男女交際を解消するに至ったが,その原因は,原告の母親が被告に対して,被告が原告の体を目当てとして交際をしている旨の非難をしたために,原告との交際を続けることが困難になったことによる。
 
 
理由

 1 請求原因について
  (1) 請求原因(1)のうち,原告が平成2年○月○日生まれで,平成18年4月にa高校に入学したことは当事者間に争いがない。
  (2) 請求原因(2)の事実は当事者間に争いがない。
  (3) 請求原因(3)のうち,原告と被告が,平成19年4月ころから交際を始め,同年5月5日に原告宅にて肉体関係を持ったことは当事者間に争いがない。
  (4) 前記(1)ないし(3)の当事者間に争いのない事実に,証拠(後掲する。)及び弁論の全趣旨を併せれば,以下の事実が認められる。
   ア a高校の生徒であった原告と,同高校の非常勤講師であった被告は,平成18年9月ころから,電子メールでやりとりをするようになり,被告は,原告から勉強などの相談を受けてアドバイスをしていた(甲1,弁論の全趣旨)。
   イ やがて,原告は,被告に好意を抱くようになり,遅くとも平成19年2月24日ころまでには,被告に対して好意を伝えていた(乙2)。
   ウ 同年4月,原告はb高校に転校し,被告はc高校の教諭となった(甲1,2)。
   エ 原告(当時16歳)と被告は,同年4月ころから交際を始め,同年5月5日には,原告宅にて肉体関係を持ち,それ以後も,同月14日までお互いに電子メールのやりとりをするなどして交際を続けていた(乙11)。
   オ しかし,原告の誕生日であった同月15日,被告は原告に対し,誕生日を祝う電子メールを送らなかった(甲1,弁論の全趣旨)。
   カ 原告は,被告から原告の誕生日を祝う電子メールが送られてこなかったため,精神的に落ち込んでいたところ,同月24日,その原告の様子に気付いた原告の母親が,原告にその理由を問いただしたため,原告は母親に被告との交際について打ち明けた。これを聞いた原告の母親が,被告に対して,原告との交際について肉体関係を目的としたものであるなどと被告を非難したことから,被告は原告との交際をやめることとし,翌日である同月25日,被告は原告にその意を伝えた。(甲1,乙6,10)
   キ 原告と被告は,交際を解消した後も,ときどき電子メールをやり取りすることはあった(乙3,弁論の全趣旨)。
  (5) 原告は,高校教師としては,女子生徒が自己に恋愛感情を抱いていることを知っても,当該生徒と男女交際に至ってはならないという不作為義務を負っており,教師という立場から指導してその恋愛感情を解消していく義務があると主張するが,高校教師に女子生徒との関係で上記のような法的義務が生ずる法的根拠は不明であるから,原告の上記主張は採用することができない。
 また,原告は,被告が高校教師と女子生徒という関係を利用して原告と肉体関係を持ったと主張する。しかし,原告と被告が交際を始めた平成19年4月の時点では,原告と被告はそれぞれ異なる高等学校の教師と生徒であったこと,前記(4)で認定した原告と被告が肉体関係を持つに至った前後の状況のほか,原告の主張する同年3月20日の被告から原告への電子メールの存在を認めるに足りる証拠がないことも併せれば,被告が高校教師と女子生徒という関係を利用して原告と肉体関係を持ったとは認められない。
 さらに,証拠(甲2,乙10)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,同年5月27日,被告から交際解消を申し入れられて衝撃を受け,自殺を試みたが未遂に終わったこと,被告が謝罪や慰謝料支払の意向を示したことが認められるが,被告が原告に交際解消の意を伝えた経緯は,前記(4)カのとおりであるし,被告が謝罪や慰謝料支払の意向を示したのは,同年8月14日に原告の母親が被告に対し,責任をとってc高校を退職するよう求める内容の電子メールを送った(乙10)後であることに照らすと,上記認定事実をもって,被告が原告と性行為に至ったことについて,被告の原告に対する違法性を根拠づけるものとはいえない。
 そして,被告が原告を誘惑し,威迫し,欺罔し又は困惑させる等,その心身の未成熟に乗じた不当な手段によって肉体関係を持ったとか,被告が原告を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っていたと認めるに足りる証拠はない。
 以上の事情のほか,前記(4)で認定した原告と被告が肉体関係を持つに至った前後の状況によれば,被告は,原告と恋愛感情に基づき肉体関係を持つに至ったと認められ,法が女性の婚姻適齢を16歳以上としていることも考慮すれば,被告が原告と肉体関係を持った行為が,原告に対する不法行為になるとはいえない。
 2 結論
 よって,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 大段亨 裁判官 水野正則 裁判官 道場康介)