児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

電車内で女性の寝顔を無断撮影…盗撮容疑で逮捕

 迷惑条例は社会的法益なので、こういうところでも一般人基準で「社会通念上,性的道義観念に反する」というわけですが、「「卑わいな言動」とは,社会通念上,性的道義観念に反する下品でみだらな言語又は動作をいうところ、・・・・以上のような事実関係によれば,被告人の本件撮影行為は,被害者がこれに気付いておらず,また,・・・ものであったとしても,社会通念上,性的道義観念に反する下品でみだらな動作であることは明らかであり,これを知ったときに被害者を著しくしゅう恥させ,被害者に不安を覚えさせるものといえるから,上記条例10条1項,2条の2第1項4号に当たるというべきである」って言えば、何でも卑わい行為になりますよね。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110905-00000316-yom-soci
電車内で、右隣に座って寝ていた我孫子市の女子専門学校生(24)の顔など上半身を携帯電話のカメラで盗撮した疑い。専門学校生がシャッター音に気づき、会社員を取り押さえた。「かわいかったので撮ってしまった」と容疑を認めているという。

 同条例では、相手に羞恥心を与えるような行為を禁止している。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110906-00000004-jct-soci
取材に対し、松戸署の副署長は、男性の行為について、こう説明する。
  「男性は、うたた寝をしていた女性のすぐ脇に、わざと座りに来ていました。それでいきなり顔や胸元を写真に撮り始めたので、女性も気持ち悪く感じました。当事者としては、羞恥心を感じ、不安でしょうし、いやらしいと思ったということです」
 胸元を開けるような行為はしていないが、もしそうしていれば痴漢になるという。
 それでは、ビーチで寝転ぶビキニ姿の女性を勝手に撮るような場合はどうか。
 この点については、「普通に写真を撮るときのように、女性から同意をもらえるような行為なら、違反にはなりません。それは、いやらしい目的とは違うからです」と副署長は言う。
 男性を任意調べせずに逮捕した理由は、携帯電話内の写真を消すなどの証拠隠滅行為や逃走の恐れがあったからだとしている。
 一方、今回の逮捕では、テレビや新聞が男性の実名や会社名までも出して報じた。ネットでは、こうした報道のあり方にも疑問の声が出ている。
 読売新聞は、サイト上の記事で当初はそうしていたが、その日のうちに匿名に切り替えた。読者の声を受けて軌道修正したのかなどについて、東京本社広報部では、「記事掲載の経緯は従来お答えしておりません」とコメントしている。
 また、TBS系JNNニュースは、実名や一部会社名を挙げて放送していた。匿名にしなかった理由について、TBS広報部では、「JNNでは、事件報道は実名を原則としております」と説明している


参考判例

平成20年11月10日 
最高裁第三小法廷 
公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反被告事件
主文
 本件上告を棄却する。 
理由
 弁護人古田渉の上告趣意のうち,憲法31条,39条違反をいう点については,公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和40年北海道条例第34号)2条の2第1項4号の「卑わいな言動」とは,社会通念上,性的道義観念に反する下品でみだらな言語又は動作をいうと解され,同条1項柱書きの「公共の場所又は公共の乗物にいる者に対し,正当な理由がないのに,著しくしゅう恥させ,又は不安を覚えさせるような」と相まって,日常用語としてこれを合理的に解釈することが可能であり,所論のように不明確であるということはできないから,前提を欠き,その余は,単なる法令違反,事実誤認の主張であり,被告人本人の上告趣意は,単なる法令違反,事実誤認の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。
 所論にかんがみ,職権で検討するに,原判決の認定及び記録によれば,本件の事実関係は,次のとおりである。
 すなわち,被告人は,正当な理由がないのに,平成18年7月21日午後7時ころ,旭川市内のショッピングセンター1階の出入口付近から女性靴売場にかけて,女性客(当時27歳)に対し,その後を少なくとも約5分間,40m余りにわたって付けねらい,背後の約1ないし3mの距離から,右手に所持したデジタルカメラ機能付きの携帯電話を自己の腰部付近まで下げて,細身のズボンを着用した同女の臀部を同カメラでねらい,約11回これを撮影した。
 以上のような事実関係によれば,被告人の本件撮影行為は,被害者がこれに気付いておらず,また,被害者の着用したズボンの上からされたものであったとしても,社会通念上,性的道義観念に反する下品でみだらな動作であることは明らかであり,これを知ったときに被害者を著しくしゅう恥させ,被害者に不安を覚えさせるものといえるから,上記条例10条1項,2条の2第1項4号に当たるというべきである。これと同旨の原判断は相当である。
 よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官田原睦夫の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
 裁判官田原睦夫の反対意見は,次のとおりである。
 私は,本件における被告人の行為は,本件条例2条の2(以下「本条」という。)1項4号の構成要件には該当せず,したがって,被告人は無罪であると思料する。
 1 本条は以下のとおり規定している。第2条の2「何人も,公共の場所又は公共の乗物にいる者に対し,正当な理由がないのに,著しくしゅう恥させ,又は不安を覚えさせるような次に掲げる行為をしてはならない。(1) 衣服等の上から,又は直接身体に触れること。(2) 衣服等で覆われている身体又は下着をのぞき見し,又は撮影すること。(3) 写真機等を使用して衣服等を透かして見る方法により,衣服等で覆われている身体又は下着の映像を見,又は撮影すること。(4) 前3号に掲げるもののほか,卑わいな言動をすること。2 何人も,公衆浴場,公衆便所,公衆が使用することができる更衣室その他公衆が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいる場所における当該状態の人の姿態を,正当な理由がないのに,撮影してはならない。」
 2 本件条例の規定内容から明らかなように,本条1項4号(以下「本号」という。)に定める「卑わいな言動」とは,同項1号から3号に定める行為に匹敵する内容の「卑わい」性が認められなければならないというべきである。そして,その「卑わい」性は,行為者の主観の如何にかかわらず,客観的に「卑わい」性が認められなければならない。かかる観点から本件における被告人の行為を評価した場合,以下に述べるとおり,「卑わい」な行為と評価すること自体に疑問が存するのみならず,被告人の行為が同条柱書きに定める「著しくしゅう恥させ,又は不安を覚えさせるような行為」には当たるとは認められない。
 以下,分説する。
 3 「臀部」を「視る」行為とその「卑わい」性について
 本件では,被告人が被害者とされる女性のズボンをはいている臀部をカメラで撮影した行為の本号の構成要件該当性の有無が問われているところから,まず,「臀部」を被写体としてカメラで撮影することの「卑わい」性の有無の検討に先立ち,その先行概念たる「臀部」を「視る」行為について検討する。
  (1) 本件では,被害者たる女性のズボンをはいた「臀部」は,同人が通行している周辺の何人もが「視る」ことができる状態にあり,その点で,本条1項2号が規制する「衣服等で覆われている部分をのぞき見」する行為とは全く質的に異なる性質の行為である。
  (2) また,「卑わい」という言葉は,国語辞典等によれば,「いやらしくてみだらなこと。下品でけがらわしいこと」(広辞苑(第6版))と定義され,性や排泄に関する露骨で品のない様をいうものと解されているところ,衣服をまとった状態を前提にすれば,「臀部」それ自体は,股間や女性の乳房に比すれば性的な意味合いははるかに低く,また,排泄に直接結びつくものでもない。
  (3) 次に,「視る」という行為の側面からみた場合,主観的には様々な動機があり得る。「臀部」を視る場合も専ら性的興味から視る場合もあれば,ラインの美しさを愛でて視る場合,あるいはスポーツ選手の逞しく鍛えられた筋肉たる臀部にみとれる場合等,主観的な動機は様々である。しかし,その主観的動機の如何が,外形的な徴憑から窺い得るものでない限り,その主観的動機は客観的には認定できないものである。
 もっとも,「臀部を視る」という行為であっても,臀部に顔を近接させて「視る」場合等には,「卑わい」性が認められ得るが,それは,「顔を近接させる」という点に「卑わい」性があるのであって,「視る」という行為の評価とは別の次元の行為である。
  (4) 「臀部を視る」という行為それ自体につき「卑わい」性が認められない場合,それが,時間的にある程度継続しても,そのことの故をもって「視る」行為の性質が変じて「卑わい」性を帯びると解することはできない。もっとも,「視る」対象者を追尾したような場合に,それが度を越して,軽犯罪法1条28号後段の「不安若しくは迷惑を覚えさせるような仕方で他人につきまとった者」として問擬され得ることは,別の問題である。
  (5) 小括
 以上検討したとおり,「臀部を視る」行為自体には,本条1項1号から3号に該当する行為と同視できるような「卑わい」性は,到底認められないものというべきである。
 4 「写真を撮る」行為と「視る」行為との関係について
 人が対象物を「視る」場合,その対象物の残像は記憶として刻まれ,記憶の中で復元することができる。他方,写真に撮影した場合には,その画像を繰り返し見ることができる。しかし,対象物を「視る」行為それ自体に「卑わい」性が認められないときに,それを「写真に撮影」する行為が「卑わい」性を帯びるとは考えられない。その行為の「卑わい」性の有無という視点からは,その間に質的な差は認められないものというべきである。
 本条1項2号は,上記のとおり「のぞき見」する行為と撮影することを同列に評価して規定するのであって,本件条例の規定振りからも,本条1項は「視る」行為と「撮影」する行為の間に質的な差異を認めていないことが窺えるのである。なお,本条1項3号は,本来目視することができないものを特殊な撮影方法をもって撮影することを規制するものであって,本件行為の評価において参照すべきものではない。もっとも,写真の撮影行為であっても,一眼レフカメラでもって,「臀部」に近接して撮影するような場合には,「卑わい」性が肯定されることもあり得るといえるが,それは,撮影行為それ自体が「卑わい」なのではなく,撮影行為の態様が「卑わい」性を帯びると評価されるにすぎない。
 5 「卑わい」な行為が被害者をして「著しくしゅう恥させ,又は不安を覚えさせるような」行為である点について
 被告人の行ったカメラ機能付き携帯電話による被害者の臀部の撮影行為が,仮に「卑わい」な行為に該当するとしても,それが本号の構成要件に該当するというためには,それが本条1項柱書きに定める,被害者をして「著しくしゅう恥させ,又は不安を覚えさせるような行為」でなければならない。なお,その行為によって,被害者が現に「著しくしゅう恥し,又は不安を覚える」ことは必要ではないが,被害者の主観の如何にかかわらず,客観的に「著しくしゅう恥させ,又は不安を覚えさせるような行為」と認められるものでなければならない。
 ところで,本条1項の対象とする保護法益は,「生活の平穏」であるところ(本件条例1条),それと同様の保護法益を保持することを目的とする法律として,軽犯罪法があり,本件の規制対象行為に類するものとしては,「正当な理由がなくて人の住居,浴場,更衣場,便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者」(1条23号)や,前記の「不安若しくは迷惑を覚えさせるような仕方で他人につきまとった者」(1条28号後段)が該当するところ,法定刑は,軽犯罪法違反は拘留又は科料に止まるのに対し,本条違反は6月以下の懲役又は50万円以下の罰金が科されるのであって,その法定刑の著しい差からすれば,本条1項柱書きに定める「著しくしゅう恥させ,又は不安を覚えさせる行為」とは,軽犯罪法が規制する上記の各行為に比して,真に「著しく」「しゅう恥,又は不安」を覚えさせる行為をいうものと解すべきものである。
 6 本件における被告人の行為
 原判決が認定するところによれば,被告人は被害者の背後を約5分間,約40m余り追尾して,その間カメラ機能付きの携帯電話のカメラを右手で所持して自己の腰部付近まで下げて,レンズの方向を感覚で被写体に向け,約3mの距離から約11回にわたって被害者の臀部等を撮影したというものである。
 そこで,その被告人の行為について検討するに,その撮影行為は,カメラを構えて眼で照準を合わせて撮影するという,外見からして撮影していることが一見して明らかな行為とは異なり,外形的には撮影行為自体が直ちに認知できる状態ではなく,撮影行為の態様それ自体には,「卑わい」性が認められないというべきである。
 また,その撮影行為は,用いたカメラ,撮影方法,被写体との距離からして,被写体たる被害者をして,不快の念を抱かしめることがあり得るとしても,それは客観的に「著しくしゅう恥させ,又は不安を覚えさせるような行為」とは評価し得ないものというべきである。
 加えるに,4で検討したとおり,「臀部」を撮影する行為それ自体の「卑わい」性に疑義が存するところ,原判決に添付されている被告人が撮影した写真はいずれも被害者の臀部が撮影されてはいるが,腰の中央部から下半身,背部から臀部等を撮影しているものであって,「専ら」臀部のみを撮影したものとは認められず,その画像からは,一見して「卑わい」との印象を抱くことのできないものにすぎない。
 7 結論
 以上,検討したところからすれば,被告人の本件撮影行為それ自体を本号にいう「卑わい」な行為と評価することはできず,また,仮に何がしかの「卑わい」性が認め得るとしても本条1項柱書きにいう「著しくしゅう恥させ,又は不安を覚えさせる」行為ということはできないのであって,被告人は無罪である。
 (裁判長裁判官 藤田宙靖 裁判官 堀籠幸男 裁判官 那須弘平 裁判官 田原睦夫 裁判官 近藤崇晴) 

評釈
最高裁判例紹介・法時 81巻11号136頁
金澤真理・法学(東北大学) 74巻2号134頁
杉本一敏・刑事法ジャーナル 15号134頁
金尚均・法学セミナー増刊(速報判例解説) 5号155頁
五十嵐さおり・明治学院大学法科大学院ローレビュー 12号93頁

 詳しい参考文献はコメント中にある。

判例タイムス1302号
 1 本件は、いわゆる迷惑防止条例違反の事案であり、事実関係は、次のとおりである。すなわち、被告人は、正当な理由がないのに、ショッピングセンター1階の出入口付近から女性靴売場にかけて、女性客に対し、その後ろを少なくとも約5分間、40m余りにわたって付けねらい、背後の約1ないし3mの距離から、デジタルカメラ機能付きの携帯電話を自己の腰部付近まで下げて、細身のズボンを着用した同女の臀部を同カメラでねらい、約11回これを撮影した。
 本件で適用された北海道迷惑防止条例(昭和40年北海道条例第34号)2条の2第1項は、「何人も、公共の場所又は公共の乗物にいる者に対し、正当な理由がないのに、著しくしゅう恥させ、又は不安を覚えさせるような次に掲げる行為をしてはならない。(1)衣服等の上から、又は直接身体に触れること。(2)衣服等で覆われている身体又は下着をのぞき見し、又は撮影すること。(3)写真機等を使用して衣服等を透かして見る方法により、衣服等で覆われている身体又は下着の映像を見、又は撮影すること。(4)前3号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。」と定めており、10条1項が、これに違反した者は6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する旨規定している。本件においては、被告人の前記行為が、前記2条の2第1項4号違反に問われたものである。迷惑防止条例のこれまでの検挙例といえば、同項1ないし3号にあるような、物理的に身体に触る痴漢の事案、あるいは、スカートの中等隠れた部分を撮影する盗撮の事案が多かったと思われる。本件は、盗撮行為の一種とはいえるものの、周囲から見ることのできるズボンの上からの撮影であることから、前記罰則の要件に当たるかどうかが問題となったものである。
 2 本件は、当初、略式命令請求がなされたが、1審は、略式命令不相当として公判手続に移行させた上、被告人が臀部をねらって撮影したとまでは断定できないなどとした上で、無罪判決を言い渡した。これに対して、検察官が控訴したところ、原判決は、被告人は臀部をねらっていたと認めることができるなどとした上で、1審判決を破棄して有罪判決を言い渡した(判タ1271号346頁。なお、原判決の評釈として、坂田吉郎・警論61巻2号196頁がある。)。
 3 上告審において、被告人は、本件で適用された罰則である前記条例2条の2第1項4号の「卑わいな言動」の構成要件が不明確であり、憲法31条、39条に違反する旨主張したが、本決定は、「卑わいな言動」とは、「社会通念上、性的道義観念に反する下品でみだらな言語又は動作」をいうと定義した上で、同条1項柱書きの「公共の場所又は公共の乗物にいる者に対し、正当な理由がないのに、著しくしゅう恥させ、又は不安を覚えさせるような」と相まって、日常用語としてこれを合理的に解釈することが可能であり、不明確ということはできず、憲法違反の主張は前提を欠くとした。
 そして、本決定は、被告人の本件行為の前記罰則該当性について、前記のような本件の具体的な事実を判示した上で、そのような事実関係によれば、「被告人の本件撮影行為は、被害者がこれに気付いておらず、また、被害者の着用したズボンの上からされたものであったとしても、社会通念上、性的道義観念に反する下品でみだらな動作であることは明らかであり、これを知ったときに被害者を著しくしゅう恥させ、被害者に不安を覚えさせるものといえるから」、前記条例2条の2第1項4号に当たると判断した。なお、田原裁判官の詳細な反対意見がある。
 4 本件は、北海道条例違反の事案ではあるが、迷惑防止条例は、現在すべての都道府県において存在しており、本件で問題となった前記条例2条の2第1項と同様ないし類似の罰則も、規定振り等において相違点はあるものの、各都道府県の条例において存在している(各都道府県の条例における罰則の内容等については、合田悦三「いわゆる迷惑防止条例について」『小林充先生=佐藤文哉先生古稀祝賀刑事裁判論集(上)』520頁以下に詳しい。)。
 「卑わいな言動」の意義及びその明確性については、これまで最高裁判所において判示した例はなく(下級審においても、東京都条例に関する東京高判昭和52年11月28日・東高刑時報28巻11号142頁が目に付く程度である。学説として「卑わいな言動」の意義に触れたものとしては、安冨潔「特別刑法の諸問題(4)迷惑防止条例」捜査研究610号57頁、會田正和「迷惑防止条例違反」東條伸一郎ほか編『シリーズ捜査実務全書(9)風俗・性犯罪』336頁等がある。)、この点に係る本決定の判断は、他の都道府県における同様の罰則の解釈においても参考になるものと思われる。
 また、本件事案の罰則該当性に係る判断についても、注目されるものと思われる。すなわち、本件のような事案においては、公共の場所において隠されていない部分を見ること自体は基本的に許された行為ではないか、そして、その写真を撮ることも、本件罰則の適用に関しては、見ることとの間で質的な違いはないというべきではないか、などの問題が考えられるからである(問題点については、田原裁判官の反対意見において多角的に論じられているところである。)。多数意見は、初めに、
 被告人は、ショッピングセンター内で、女性客の後ろを少なくとも約5分間、40m余りにわたって付けねらい、背後の約1ないし3mという近い距離から約11回にわたって細身のズボンを着用した同女の臀部を撮影しているなどの本件事案の具体的状況・態様を判示し、それを前提に本件行為の罰則該当性を肯定している。これによれば、本件においては、ねらった対象が臀部であること、また、相当に執ような態様で撮影していることなどが指摘できるのであり、多数意見が、本件撮影行為について、その対象が隠されていない部分であるにもかかわらず、「被害者を著しくしゅう恥させ、又は不安を覚えさせるような、卑わいな言動」に当たるとした判断は、こうした本件における具体的な事情を踏まえたものであったと考えられる。
 このように、本件の罰則該当性に係る判断は、飽くまで事例判断ではあるが(盗撮行為等については、様々な態様があり得ることにつき、中村孝「いわゆる迷惑防止条例違反の成否が問題となった事例」研修671号117頁等参照。)、具体的に重要と考えられる事実を挙げた上で、衣服の上からの撮影も迷惑防止条例違反罪に当たる場合があることを示したものであり、その前提として判示された「卑わいな言動」の定義、その構成要件が不明確でないとの判断とともに、実務上重要な意義を有すると思われる。