児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

被害者特定事項秘匿制度の合憲性(高松高裁H22.9.7)

 弁護人はそこまでして被害者の氏名の公開にこだわる必要はありません。

http://mytown.asahi.com/saitama/news.php?k_id=11000001011020001
◇裁判長、厳しく注意
 「この前のようなことがないように」。1日、さいたま地裁で開かれた強姦(ごうかん)事件の第2回公判で、裁判長は被告の男性弁護人にくぎを刺した。弁護士は初公判で、法廷内では匿名にすると合意していた被害者の女性の名前を3度も口走る失態を演じていた。
 初公判は10月18日。性犯罪だけに、田村真裁判長は開廷後すぐ、被害者名を明かさないように検察、弁護側双方に確認した。
 ところが、弁護側の被告人質問の際、弁護士が書面を見ながら女性の名前を読み上げた。田村裁判長は「被害者特定行為ですよ」と注意したが、弁護士は一つ質問を挟んだ後に、再び被害者名を出した。田村裁判長は厳しい口調で、「あなた、わかってるんですか。弁護士会に懲戒免職されることもあるんですよ」。
 それでも、弁護士は名前を口にしたため、今度は検事が机に手をつき立ち上がって「いいかげんにしてください」。
 収拾がつかなくなったため、田村裁判長は休廷を宣告。数人いた傍聴席から失笑が漏れた。20分後に再開したが、弁護士が「準備のために時間がほしい」と申し出て、閉廷となっていた。


 同業者ならわかるでしょうが、公判廷で秘匿するだけですので(証拠や訴訟記録には実名で出てきます)、秘匿しても支障有りません。
 上告理由も仕込んでおく必要もあって、ちょっと確認しておこうと思って、判断をもらっています。
 控訴審弁護人も思わず「しかるべく」と言ってしまい、裁判長から「それでは控訴理由との関係で、筋が通らない」と言われて、「罪名からして秘匿は不相当」と言い直しましたが、控訴審でも秘匿決定されています。

高松高裁H22.9.7
第1 訴訟手続の法令違反の主張について
 論旨は,
?原判示第5にかかる平成21年11月9日付け公訴事実第3の事実は,被害者等特定事項の非公開を定める刑訴法290条の2第1項1,2号所定の犯罪には当たらず,その犯行態様や被害状況を考慮しても,同条同項3号の要件を満たさないから,秘匿決定をすることができないのに,この事実につき秘匿決定をした原審の措置には,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反があり,裁判の公開を定める憲法37条1項,82条1項にも違反する,
?原審は,上記秘匿決定をするにあたり,検察官から被害者特定事項の秘匿の申出に関する通知書及び電話録取書を受理しているが,これらの書面には,起訴状記載の公訴事実を超えて,上記起訴状公訴事実第2と第3の事実の関係やその被害感情が記載されており,証拠調べ以前に,実質的に心証を得ており,予断排除原則を定めた憲法37条1項及び刑訴法256条6項に違反する,というのである。
 しかし,・・・
 ?の被害者特定事項の秘匿決定の点は,上記公訴事実は,(スカート内盗撮の事実),これを見とがめた(被害者の関係者)に腕をつかまれ,逃走しようとして,その(被害者の関係者)の左腕の付け根付近を1回突く暴行を加えたという事案であって,被害者特定事項が明らかとなれば,盗撮被害者を特定する事項も明らかになる可能性が高いから,関係者の名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるおそれがあると認められ,刑訴法290条の2第1項3号に該当する事由があり,しかるべくとの原審弁護人の意見を聴いた上で,秘匿決定をした原審の訴訟手続に法令違反はなく,憲法にも違反しない。
 ?の被害者特定事項の秘匿の申出の通知等を受理したことが予断であるとの点は,上記通知等は,上記起訴状公訴事実第2と第3の関係や同第3の被害者の心情など,秘匿決定をするか否かの判断につき必要な事項を記載したものであるから,第1回公判期日前にこれを受理して閲読することは不可欠であって,何ら問題はなく,これが公判における実体審理の対象と重なる部分があるからといって,予断となるものではない。
 原審の訴訟手続に所論のような法令違反はない。論旨は理由がない。