児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童に児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律2条3項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせた上,ひそかにその姿態を撮影するなどした行為と同法7条5項の罪の成否 東京高裁r5.6.16

 理屈としては4項が正解だと思います。間違って5項製造罪にしちゃったときにごまかせるかという問題。大阪高裁r5で原審がエライ怒られてしまいまして。

  大阪高裁H28.10.26 4項説 控訴審弁護人は奥村。
  大阪高裁r5.1.24 4項説 控訴審弁護人は奥村。
  東京高裁r5.3.30 5項説 控訴審弁護人は奥村。
  東京高裁r5.6.16 5項説
  大阪高裁r5.7.27 5項説 上告中
  大阪高裁R5.9.28 5項説 控訴審弁護人は奥村。上告中

 寝ている児童をスマホを構えて撮影するのは「ひそかに」とは言えないと思いますが。

強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件令和 5年 6月16日 裁判所名 東京高裁
事件名 強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
裁判結果 棄却 文献番号 2023WLJPCA06169002
主文

理由
 1 本件は、被告人が、当時7歳から12歳までの20名を超える児童に対し、わいせつな行為を行い、その状況を撮影するなどして児童ポルノを製造した事案である。
 弁護人米村哲生の控訴趣意は、法令適用の誤り、理由齟齬及び量刑不当の主張である。
 2 法令適用の誤り及び理由齟齬の論旨は、原判決が認定した犯罪事実のうち、「ひそかに、被告人が被害者の陰茎を手で触るなどの姿態を動画撮影する」などした行為(原判示第2の2、4、5、21)及び「ひそかに、被告人が被害者の陰茎を手で触るなどの姿態をとらせ、これを動画撮影する」などした行為(原判示第2の7、9、11、13、15)については、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項の罪が成立するから、同条5項の罪の成立を認めた原判決には法令適用の誤り又は理由齟齬があるというのである。すなわち、同条5項は「前2項に規定するもののほか」と規定しており、同条5項の罪が成立するためには同条4項の罪が成立しない場合であることを要すると解すべきであるところ、被告人は、前記各事件において、被害者らに所定の姿態をとらせて撮影するなどしたものであり、いずれについても同条4項の罪が成立するから、同条5項の罪は成立しないというのである。
 しかしながら、原審記録によれば、前記各事件は、いずれも、被告人が、各児童に所定の姿態をとらせた上、ひそかにその姿態を撮影するなどした行為に係るものと認められるところ、これらについて、訴追裁量を有する検察官が同条5項のひそかに所定の児童の姿態を撮影するなどした事実を摘示した上で同条5項の罪により公訴を提起し、被告人及び原審弁護人は事実及び犯罪の成立を争わず、原判決においてその事実が認定されて犯罪の成立が認められたものであり、同条5項の罪の成立を認めた原判決の法令の適用に誤りはない。所論は、同条5項の罪が成立するためには同条4項の罪が成立しない場合であることを要するというが、同条4項の罪が成立しないことが同条5項の罪の成立要件であるとの趣旨であれば、そのように解すべき合理的理由はなく、賛同できない。
 なお、検察官は、原判示第2の7、9、11、13、15の各事件について、同条5項の罪により公訴提起しつつ、ひそかに所定の姿態を動画撮影するなどした事実のほか、被告人が児童にその姿態をとらせた事実を公訴事実に記載し、原判決も、同条5項の罪の成立を認めた上で、公訴事実と同一の事実を認定・記載したものである。検察官の公訴提起が同条5項の罪によるものであることは明白であり、被告人が所定の姿態をとらせた旨の記載は、余事記載に当たるが、その記載は裁判官に事件につき予断を生ぜしめるおそれのあるものとはいえないし、その記載によって被告人の防御に支障を生じさせるものともいえないから、公訴提起の手続に違法があるとはいえない。また、原判決の被告人が所定の姿態をとらせた旨の認定・記載は、同条5項の罪の犯罪事実の記載としては不必要かつ不適切というべきであるが、同条5項の罪の犯罪事実は漏れなく認定・記載されており、法令の適用の記載からも同条5項の罪の成立を認めたことが明らかであるから、原判決に理由齟齬の違法があるとはいえない。
 法令適用の誤り及び理由齟齬の論旨は理由がない。
 4 よって、刑訴法396条、181条1項ただし書、刑法21条により、主文のとおり判決する。
 東京高等裁判所第5刑事部
 (裁判長裁判官 伊藤雅人 裁判官 島戸純 裁判官 江見健一) 

p108 判例タイムズNo.1514 2024.1
児童に児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律2条3項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせた上,ひそかにその姿態を撮影するなどした行為と同法7条5項の罪の成否
東京高裁r5.6.16
しかしながら, 原審記録によれば前記各事件はいずれも被告人が各児章に所定の姿態をとらせた上ひそかにその姿態を撮影するなどした行為に係るものと認められるところこれらについて訴追裁醤を有する検察官が同条5項のひそかに所定の児童の姿態を撮影するなどした事実を摘示した上で同条5項の罪により公訴を提起し被告人及び原審弁護人は事実及び犯罪の成立を争わず原判決においてその事実が認定されて犯罪の成立が認められたものであり同条5項の罪の成立を詔めた原判決の法令の適用に誤りはない所論は同条5項の罪が成立するためには同条4項の罪が成立しない場合であることを要するというが,同条4項の罪が成立しないことが同条5項の罪の成立要件であるとの趣旨であればそのように解すべき合理的理由はなく, 賛同できない。


[解説]
l 事案の概要
本件は,被告人が, 20名を超える13歳未満の児童に対し,強いてわいせつな行為を27件した上,そのうち19件に際して,児童の姿態を動画撮影するなどして児童ポルノを製造した事案である。
本件の児童ポルノ製造の公訴事実は, ① 10件は,児童に,被告人が児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(以下「児菫買春処罰法」という。)所定の姿態をとらせ,これを動画撮影するなどしたというもの, ②4件は,ひそかに, 所定の児童の姿態を動画撮影するなどしたというもの, ③5件は,ひそかに,被告人が児童に所定の姿態をとらせ,これを動画撮影するなどしたというものであり, ①は児童買春処罰法7条4項の罪により, ②及び③は同条5項の罪により公訴が提起された。
第1審判決は,公訴事実どおりの事実を認定し,各罪の成立を認めた。
②及び③ における証拠によって認定できる具体的事実関係は,いずれも,就寝中の児童に対し,被告人が児童の陰部を露出させる姿態をとらせて動画撮影したというものであり,就寝中の児童を撮影したことが「ひそかに」撮影したものとされたものである。
2 控訴趣意及び本判決の判断
(1) 弁護人の控訴趣意は, ②及び③について,児童買春処罰法7条5項は「前2項に規定するもののほか」と規定しており,同項の罪が成立するためには同条4項の罪が成立しない場合であることを要すると解すべきであり,本件各事件においては被告人が児童らに所定の姿態をとらせて撮影するなどしたものであって, 同条4項の罪が成立するから,同条5項の罪は成立せず,同条5項の罪の成立を認めた原判決には法令適用の誤り又は理由鮒船があるというものである。
(2) 本判決は, 訴追裁量を有する検察官が同条5項のひそかに所定の児童の姿態を撮影するなどした事実を摘示した上で同条5項の罪により公訴を提起し,被告人及び原審弁護人は事実及び犯罪の成立を争わず, 原判決においてその事実が認定されて犯罪の成立が認められたものであり, 同条5項の罪の成立を認めた原判決の法令の適用に誤りはないとした上, 「同条5項の罪が成立するためには同条4項の罪が成立しない場合であることを要する」という所論について,それが同条4項令5.1.24判夕1512号136頁(同条5項の罪を認めた原判決を破棄し,訴因変更の上,同条4項の罪の成立を誇めた。),大阪高判令5.7.27 (公刊物未登載。本件と同様の事案について, 本件控訴趣意と同旨の控訴趣意を排斥して, 同条5項の罪を認めた原判決を維持した。)がある。
4 児童買春処罰法7条4項の罪に該当する事実の記載がある場合について本件のうち③ の公訴事実は,「ひそかに,被告人が児童に所定の姿態をとらせ, これを動画撮影するなどした」というものであり,同条5項の事実のみならず同条4項の事実を含んでいることから,本判決は,その公訴提起及び公訴事実どおりの犯罪事実を認定した原判決について付言している。
すなわち,本判決は,起訴状の記載から本件公訴提起が同条5項の罪によるものであることは明白であり,被告人が姿態をとらせた旨の事実の記載は,裁判官に事件につき予断を生ぜしめるおそれのある(刑事訴訟法256条6項)ものとはいえないし,その記載によって被告人の防御に支障を生じさせるものでもないとして,公訴提起の手続に違法があるとはいえないとした。
そして, 原判決が姿態をとらせた旨の事実を認定し,犯罪事実として記載したことについては,児童買春処罰法7条5項の罪の記載としては不必要かつ不適切としながらも, 同条5項に該当する事実が認定・記載されていることや,その法令の適用の記載から同条5項の罪の成立を認めたことが明らかであるとして,こうした余事記載によっても原判決に理由麒甑の違法があるとはいえないとした。
5 本判決の意義等本件は,以上述べた点について最高裁判例はなく,理論的に意義が認認められ, 実務的にも参照価値が大きいと考えられる。