児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童ポルノ罪を家裁管轄とできないか?

 製造罪を家裁に起訴してしまったという場合の逃げ道を考えます。名案なんですけど、否定する高裁判決が2つもあるので、いまさらそんな判決は出ませんよね。

阪高裁平成15年9月18日
判決
(1)不法に管轄を認めた違法の主張(控訴理由第20)について
所論は,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下,「児童買春児童ポルノ禁止法)」という。)は,児童福祉法の特別法であり,児童買春児童ポルノ禁止法の罪は児童の福祉を害する行為であるから,少年法37条1項の適用を受け,家庭裁判所の専属管緒とされる事件であるのに,地方裁判所に起訴された本件各罪についてこれを看過してなされた原判決には不法に管轄を認めた違法がある,というものである。
しかしながら,少年法37条1項は限定列挙であり,また,児童買春児童ポルノ禁止法違反の罪を家庭裁判所の権限に属させるとする法律の規定も存しないから,児童買春児童ポルノ禁止法違反の罪についての第一審の管轄裁判所は地方裁判所又は簡易裁判所であることは明らかである(裁判所法31条の3第1項3号,2項,24条2号,33条1項2号)。
論旨は理由がない。

東京高裁平成15年6月4日
第1 管轄違い(刑訴法378条1号)の論旨について(控訴理由第1)
所論は,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下単に「児変異春・児童ポルノ禁止法」又は「法」という。)は,児童福祉法の特別法であるから,少年法37条1項の適用を受けるので,本件は家庭裁判所の管轄に属する事件であるのに,地方裁判所に起訴されたものであるから,管轄遠いであるというのである。
しかしながら,たとえ,所論のいうように,児童買春・児童ポルノ禁止法違反の罪が,少年法37条1項所定の罪の特別法的性格を有するとしても,同項に限定列挙された罪には該当せず,法律に家庭裁判所の権限に属させる旨の特別の規定がない以上は,その第一審の管轄裁判所は地方裁判所又は簡易裁判所である(裁判所法31条の3第1項3号,2項等)。
論旨は理由がない。

(1)管轄違を回避する方法
 児童淫行罪と3項製造罪(姿態とらせて製造)が併合罪であるとして、管轄違・破棄移送という手間を回避するには、3項製造罪を家裁の管轄にしてしまうというアイデアもある。
 そこで、弁護人の提案として、児童ポルノ罪を家裁でも審理できる理屈を紹介する。

(2)児童ポルノ・児童買春に係る行為の保護法益
 本法の趣旨については個々の児童を保護する法律である。
 くどいようだが、児童ポルノ・児童買春の保護法益は、児童ポルノに描写された者や児童買春の相手方となった児童の、性的搾取・性的虐待を受けないで自らが人格の完全な、かつ調和のとれた発達のため、愛情及び理解のある雰囲気の中で成長する権利である。
誌名等「青少年問題」*1(青少年問題研究会)47(3)2000.3p24〜29
著者名参議院法制局第5部第1課

警察庁執務資料*2

 特に、児童の保護に関する規定(15条、16条)は児童福祉法と同じ発想によることが顕著であり、厚生労働省が関係通達*3を出しているのである。

(3)児童福祉法の有害行為の趣旨・保護法益
 もとより、児童福祉法は児童保護の基本法であり、児童の憲法といってもよい。それゆえ児童福祉法の冒頭には次のような規定が置かれている。

第1章総則
第1条〔児童福祉の理念〕
すべて国民は、児童が心身ともに健やかに生まれ、且つ、育成されるよう努めなければならない。
(2)すべて児童は、ひとしくその生活を保障され、愛護されなければならない。
第2条〔児童育成の責任〕
国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う。
第3条〔児童福祉原理の尊重〕
前二条に規定するところは、児童の福祉を保障するための原理であり、この原理は、すべて児童に関する法令の施行にあたつて、常に尊重されなければならない。

 児童買春法も児童保護の趣旨であることは間違いない。
 従って、本法は児童福祉法の特別法であって、買春罪の解釈にあっても、このような児童福祉法の原理を常に考慮しなければならない(註釈特別刑法第7巻児童福祉法p2)。

 さらに、児童福祉法34条の有害行為(特に淫行させる行為)の保護法益も、児童の健全育成・児童の福祉であると説明されている。通説では児童の心身に有害な影響を及ぼす行為を現実にさせるという侵害犯と説明されており、淫行罪は数ある有害行為の中でも最も重い処罰に値するとされている(注解特別刑法第7巻第2版児童福祉法p7)。
本号の行為が児童福祉法における他の違反行為と比較しても格段に重い処罰をのぞむこととされているのは、それが児童の徳性や情操を傷つけ健全な育成を阻害する程度が著しく高いと考えられる為だとされている。(刑事裁判実務大系第3巻P426)
 淫行は児童の健全な育成を直接侵害する行為として重く処罰されている。淫行そのものが児童の権利侵害なのである。

(4)両法の関係
 ここで、児童ポルノ・児童買春行為が、児童ポルノに描写された者や児童買春の相手方となった児童の、性的搾取・性的虐待を受けないで自らが人格の完全な、かつ調和のとれた発達のため、愛情及び理解のある雰囲気の中で成長する権利を侵害するとすれば、それは「児童の徳性や情操を傷つけ健全な育成を阻害する」ことに他ならないから、本法が児童福祉法の特別法であることは明らかである。
 児童ポルノ・児童買春罪の位置付けとしては、児童ポルノ・児童買春行為が、児童ポルノに描写された者や児童買春の相手方となった児童の、性的搾取・性的虐待を受けないで自らが人格の完全な、かつ調和のとれた発達のため、愛情及び理解のある雰囲気の中で成長する権利を侵害するという意味で「児童の徳性や情操を傷つけ健全な育成を阻害する」一つの犯罪類型であることから、有害行為を追加するものと理解すべきである。

 裁判所は、児童ポルノ・児童買春に係る行為が児童の福祉を害さないといえるのだろうか?

(5)児童福祉法淫行事件に見る児童ポルノ
 児童福祉法淫行罪は、制定当時は売春宿における児童の使用を禁止するのが目的であって、そもそも買春行為を禁止するものである。
 しかも、淫行に際して写真を撮影したという事例も多いのであるから、実際上も、児童ポルノ・児童買春に関する行為は児童福祉法の淫行罪等の有害行為と重複する部分が多い。本件はまさにそのような場合である。
【事件番号】横浜家庭裁判所/昭和38年(少イ)第6号*4
【判決日付】昭和38年12月12日

【事件番号】東京高等裁判所判決/昭和62年(う)第1258号*5
【判決日付】昭和63年2月2日

(6) 立法過程
 立法過程でも、淫行罪と買春罪とは、共通の目的・保護法益だという前提で、買春は児童福祉法淫行罪(淫行罪=淫行させる場合にのみ成立するという認識であった)を補うものだと説明されている。

新聞報道
児童買春の処罰強化臨時国会に特別法案「親告罪」を削除へ自民方針
1997.08.03東京朝刊1頁総合1面(全879字)
自民党は二日、性暴力から青少年を保護するため、「児童買春」の処罰強化などを柱とした「児童の性的搾取・虐待防止法案」(仮称)を特別立法として秋の臨時国会にも提出する方針を固めた。十八歳未満を対象とした国内外での買春行為を厳しく取り締まるため、被害者や親族が告訴することを要件とする「親告罪」規定をなくすことや、告訴期間を現行の六カ月から大幅に延長することなどを盛り込む方向だ。
自民、社民、さきがけの三党からなる「与党児童買春問題等プロジェクトチーム」はこれまでに三回の会合を開き、女子中高校生の援助交際が社会問題化し、日本人による海外での「児童買春」行為が批判を浴びていることなどを重くみて児童福祉法などの問題点の洗い出しを進めてきた。
当初は刑法、売春防止法児童福祉法などの法改正を検討してきたが、「刑法改正を行うには法制審議会で長時間の審議が必要。児童買春の現状を考えるべきだ」(自民党関係者)として、目的を絞った特別法を議員立法で制定する方針に転換した。
十八歳未満の少年少女への性暴力に関しては、昭和二十七年の香川県を皮切りに、東京都と長野県を除く全道府県で「淫行処罰規定」がすでに施行されている。東京都も、十八歳未満の性を買う大人を罰する「買春等処罰規定」を都青少年健全育成条例へ盛り込むことを決め、条例改正案が九月の定例都議会に提出される予定だ。
一方で、刑法の婦女暴行罪や強制わいせつ罪が被害者の告訴を公訴の条件とする親告罪の結果、被害を訴えるケースが少ないなどの問題や、買う側の処罰を想定していない売春防止法の欠陥が指摘されていた。
具体的な改正案の内容は親告罪規定をなくすことに加え、被害者へのいやがらせなど不利益からの保護の強化や、国外での買春で、在外公館に派遣された警察庁職員への調査権限の付与なども検討されている。
また、児童を出演させたポルノを取り締まる根拠法令である、刑法のわいせつ図画販売罪などが性的秩序の保護を目的にしており、被写体となっている児童の人権を保護する観点がないことから、特別法には児童ポルノの規制も盛り込む。
産経新聞

145回-参-法務委員会-08号1999/04/27*6
145回-衆-法務委員会-12号1999/05/14
145回-衆-法務委員会-12号1999/05/14

 立法過程を溯ると、そもそも児童福祉法の有害行為(淫行規定等)の改正として買春罪・児童ポルノの罪の創設が検討されていたのである。たまたま法律の名前が変わり、別の法律にまとめられただけで、保護法益も変質してしまうということはない。買春罪は実質的には児童福祉法34条1項の一項目なのである。
140回-衆-厚生委員会-30号1997/05/28*7
140回-参-厚生委員会-06号1997/04/01*8
140回-参-厚生委員会-08号1997/04/08*9
140回-参-厚生委員会-09号1997/04/10*10

 さらに、平成9年の児童福祉法の改正の際には、買春について児童福祉法による規制を検討することが両院で附帯決議とされている。その結果が児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律であることは明らかであるから、児童福祉法と保護法益が違うことは有り得ない。児童福祉法と本法とが一般法・特別法の関係にあることは間違いない。
140回-参-厚生委員会-09号1997/04/10*11
140回-衆-厚生委員会-31号1997/05/30*12
140回-衆-本会議-41号1997/06/03*13

(7) 児童ポルノ法違反事件は少年法37条1項の適用を受ける
 本法が形式的にも児童福祉法の特別法であって、実質的にも児童買春・児童ポルノの罪が児童の福祉を害する行為である。
 児童の福祉を害する行為については家庭裁判所の専属管轄とされているから、家庭裁判所での審理が適法であり、地方裁判所における審理は管轄がないため違法である。
 一般法である児童福祉法違反の管轄が家裁である以上、その特別法である本法の管轄が家裁であることは当然の結論である。
 本法が児童福祉法の特別法である以上、少年法37条1項4号の「適用」であって、類推とか準用ではない。少年法の合目的的解釈である。

少年法第37条(公訴の提起)□□
次に掲げる成人の事件については、公訴は、家庭裁判所にこれを提起しなければならない。
未成年者喫煙禁止法(明治三十三年法律第三十三号)の罪
未成年者飲酒禁止法(大正十一年法律第二十号)の罪
労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第五十六条又は第六十三条に関する第百十八条の罪、十八歳に満たない者についての第三十二条又は第六十一条、第六十二条若しくは第七十二条に関する第百十九条第一号の罪及び第五十七条から第五十九条まで又は第六十四条に関する第百二十条第一号の罪(これらの罪に関する第百二十一条の規定による事業主の罪を含む。)
児童福祉法第六十条及び第六十二条第二号の罪
五学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第九十条及び第九十一条の罪

 もとより、少年法37条が一定の成人の刑事事件につき家裁専属管轄としているのは、これら少年の福祉を害する罪の事件は、少年保護の専門機関である家庭裁判所において取り扱わせることが、事案の処理の適正妥当を期するうえから望ましいということに基づくものである*14*15。
 少年法1条にも少年の福祉を害する成人の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする。」と明言されている。児童ポルノ・児童買春法違反の罪が少年の福祉を害する成人の刑事事件であることは疑いようがないのだから、少年法の精神に合致する。
少年法第1条(この法律の目的)
この法律は、少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに、少年及び少年の福祉を害する成人の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする。
 最高裁のホームページ*16でも次のように解説されている。

(3)家庭裁判所
家庭裁判所とその支部は,地方裁判所とその支部の所在地と同じ所にあります。このほか,交通不便な地等にある簡易裁判所のうち,特に必要性の高いところに家庭裁判所出張所を設けて家事事件の処理に当たらせ,国民の利便を図っています。
家庭裁判所は,家庭の平和を維持し,少年の健全な育成を図るという理念の下に,昭和24年(1949年)1月1日に新たに設けられた裁判所です。
家庭裁判所は,夫婦関係や親子関係の紛争など家事事件について調停や審判をし,罪を犯した未成年者等に対する少年事件について審判を行うほか,少年の福祉を害する成人の刑事事件について裁判をします。

 文献もある。

法律学全集少年法新版p453
少年法が対象としている第二の分野は、少年の福祉を害する成人の刑事事件である。そして、この種の刑事事件は一般の刑事事件と分離して家庭裁判所の管轄とされている。ただし、手続は一般の刑事手続と同様に刑事訴訟法の規定によっている。
少年の福祉を害する成人の刑事事件を家庭裁判所の管轄とした趣旨は、現行法の提案理由によると、少年不良化の背後には成人の無理解や、不当な処遇がひそんでいることが短めて多いが、このような成人の行為が犯罪を構成する場合には、その刑事事件は、少年事件のエキスパートであり、少年に理解のある家庭裁判所がこれを取り扱うのが適当であり、またかかる成人の事件は、少年事件の取調べによって発覚することが多く、証拠関係も大体において共通であるから、この点からしても、この種の事件は、家庭裁判所がこれを取り壊うのが便宜である、というにある。

注釈少年法改訂版P357
本章は,少年の福祉を害する成人の刑事事件について特別の措置を講じるという法の目的(1条)を受けて設けられたものである。非行の背後には成人の無理解や不当な取扱が多く,そのような成人の行為が犯罪となる場合の刑事事件は,少年事件を専門に扱い少年に理解のある家庭裁判所が取扱うのが適当であること,このような事件は,少年事件の捜査・調査等の過程で発覚することが多く,証拠関係も共通する場合が多いことから,この種の事件は家庭裁判所が取扱うのが便宜と考えられ,少年の福祉を害する成人の刑事事件は家庭裁判所の管轄とされた(平場453貢)。成人の刑事事件に関する家庭裁判所の管轄権は,現行法の草案段階のGHQ意見に現れており(浜井ほか131貢),少年を放任し又は原因を与えて少年を非行に陥れた成人を罰するアメリカの原因供与罪にならったものといわれている

 しかも、37条の趣旨は合理的解釈により拡張されて、明文を離れて同条所定の罪が少年によって犯された場合にも適用されているのである*17*18*19。つまり、少年法37条1項は限定列挙ではないし、限定的に解する必要はない。合目的的な解釈が求められる。
 だとすれば、少年法37条1項に列挙されている罪名についても単なる例示であって、児童の福祉を害する罪には適用することを許されると解すべきである。
そうであるならば、かつ、児童ポルノの罪が児童の福祉を害するならば、児童ポルノの罪についての刑事裁判権は家裁にあって地裁にないとするのが、少年法37の趣旨にも合致するし、被害児童の保護も徹底するし、合理的である*20。