映像送信要求罪と、不同意わいせつとの関係
法曹時報の解説は、観念的競合になることもあるし、牽連犯になることもあるし、併合罪になることもあるというので、決まらない。
さらに、法曹時報(注13)の事案は、いずれも、「撮影させ」までが強制わいせつ罪(176条後段)として起訴されて有罪になった事案で「送信させ」は強制わいせつ罪(176条後段)では起訴されていないから、送信要求行為とわいせつ行為との牽連関係は疑わしい。
大阪高裁r3.7.14
1 第3事実の不告不理原則違反の論旨について
所論は,第3事実について,強制わいせつの訴因にはAが撮影した画像データを被告人のスマートフォンに送信し,同画像データがサーバコンヒ°ユータ内に記憶・蔵置された事実が含まれていないのに,原判決がこれらの事実を含めて強制わいせつと認定した点は,不告不理の原則違反(訴因逸脱認定)であると主張する。
しかし,原判決が前記画像データの送信,記憶・蔵置の事実をも刑法176条後段にいう「わいせつな行為」と評価されるべき行為に含めているとは認められない。
原判決の「罪となるべき事実」の記載は,観念的競合として1個の行為と評価されるAに対する強制わいせつとAに係る児童ポルノ製造の事実をまとめて記載したものと読むことは十分可能である。
そして,前記第1の2のとおり,原審は,別個の訴因として起訴された前記強制わいせつ及び児童ポルノ製造を観念的競合の関係にあると解したという経緯があり,また,原判決は,その(判示第3の事実に関する争点に対する判断)中の「第2強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪の罪数関係」(9頁)において,「強制わいせつ罪の実行行為は,Aに要求し,2回にわたり,Aに陰部,乳房等を露出した姿態をとらせて撮影させるというもの」と明示しており,訴因外の事実である前記画像データの送信,記憶・蔵置の事実をも「わいせつな行為」と評価されるべき行為に含めているとうかがわせる記載は見当たらない。
そうすると,原判決が,前記画像データの送信,記憶・蔵置の事実を「わいせつな行為」と評価されるべき行為に含めているとはいえず,訴因逸脱認定などということはできない。
東京地裁r4.3.10
罪となるべき事実
被告人は
第1 別紙b9が13歳未満の者と知りながら
同人にわいせつ行為しようと企て
/13ころから/31頃までの間、
■■■■■■■■■■■■■■■■又はその周辺において
アプリケーションソフト○及び○を使用して
12歳の女児児童を装い
bに対して 乳房・陰部露出して自慰行為する様子を動画で撮影して被告人が使用する携帯電話機に送信してほしい旨のメッセージを繰り返し送信して、
別表1の通り、/15~/31までの間
12回に渡り
■■■■■■■■■■■■■■■■方において、
bに衣服を脱がせて乳房陰部等を露出させ陰部を指で触れる姿態をとらせ、
これを同人が使用する撮影機能付き携帯電話機で撮影させ
もって13未満の者にわいせつ行為をした
(十六歳未満の者に対する面会要求等)
刑法第百八十二条
3 十六歳未満の者に対し、次の各号に掲げるいずれかの行為(第二号に掲げる行為については、当該行為をさせることがわいせつなものであるものに限る。)を要求した者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
一 性交、肛門性交又は口腔性交をする姿態をとってその映像を送信すること。
二 前号に掲げるもののほか、膣又は肛門に身体の一部(陰茎を除く。)又は物を挿入し又は挿入される姿態、性的な部位(性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部、臀でん部又は胸部をいう。以下この号において同じ。)を触り又は触られる姿態、性的な部位を露出した姿態その他の姿態をとってその映像を送信すること。
刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律について法曹時報 第76巻01号
p114
3 客体
本条の客体となる若年者は、第176条第3項及び第177条第3項の客体と同じく、16歳未満の者とされたが、その理由は次のとおりである。
すなわち、
○ 本条第3項は、不同意わいせつ罪に当たり得る「性的な姿態をとらせてその映像を送信させる行為」の前段階で、その要求をすることを処罰することとするものであり、仮に客体となる若年者に16歳以上の者を含めることとした場合には、16歳以上の者に関しては、行為者がその目論見どおりに「性的な姿態をとらせてその映像を送信させる行為」に及んでも、それだけでは犯罪とならないにもかかわらず、その前段階の送信要求行為については処罰することになるp117
7 第3項
本項の罪の実行行為は、16歳未満の者に対し、本項第1号又は第2号に掲げるいずれかの性的な姿態をとってその映像を送信することを要求することである。
本項は、16歳未満の者が性被害に遭わない環境にあるという性的保護状態を保護法益とし、離隔した状態で行われる性犯罪を未然に防止するためのものであることに鑑みると、本項において要求行為の対象とすべき行為は、当該行為が実現した場合に重大な性的自由・性的自己決定権の侵害が(注12)生じるものとすることが相当であると考えられる。
そこで、本項においては、実務において、離隔した状態で行われた行為に強制わいせつ罪(改正後の不同意わいせつ罪)の成立が認められている(注13)「わいせつな行為」を参考にして、
○ 性交、肛門性交又は口腔性交をする姿態をとってその映像を送信する行為
○ 膣又は肛門に身体の一部又は物を挿入し又は挿入される姿態、性的な部位を触り又は触られる姿態、性的な部位を露出した姿態その他の姿態をとってその映像を送信する行為(注14)を要求する行為が処罰対象とされた。
なお、本項は、その要求の対象となる行為について、「姿態をとって」と規定しており、16歳未満の者に性的な姿態をとらせることを要件としているため、16歳未満の者に性的姿態をとらせることなく、16歳未満の者があらかじめ持っていた性的画像を送信するように要求する行為は、本項の処罰対象とならない。
本項における各文言の意義等については、以下のとおりである。
(1)「要求」
本項の「要求」は、本項各号に掲げる行為を求める意思表示を意味する。
(2)「映像」
本項の「映像」には、静止映像のほか、動画も含まれる。
(3)第1号(「性交、肛門性交又は口腔性交をする姿態をとってその映像を送信すること」の要求行為)
「性交、肛門性交又は口腔性交をする姿態をとってその映像を送信すること」の要求行為とは、対象者に対して、他人との間で性交、肛門性交又は口腔性交をしてその姿態の映像を送信するように要求する行為をいう。
(4)第2号
ア「膣又は肛門に身体の一部又は物を挿入し又は挿入される姿態をとってその姿態の映像を送信すること」の要求行為
「膣又は肛門に身体の一部又は物を挿入し又は挿入される婆態をとってその姿態の映像を送信すること」の要求行為とは、
○ 対象者の膣又は肛門に自身の手指や性具等を挿入してその映像を送信するように要求する行為
○ 対象者の膣又は肛門に他人の手指や性具等が挿入される姿態をとってその映像を送信するように要求する行為
○ 他人の膣又は肛門に対象者の手指や性具等を挿入してその姿態の映像を送信するように要求する行為
をいう。
イ「性的な部位を触り又は触られる姿態をとってその映像を送信すること」の要求行為
「性的な部位を触り又は触られる姿態をとってその映像を送信すること」の要求行為とは、
○ 対象者が自己の性的な部位を触る姿態をとってその姿態の映像を送信するように要求する行為
○ 対象者がその性的な部位を他人に触られる姿態をとってその姿態の映像を送信するように要求する行為
○ 対象者が他人の性的な部位を触る姿態をとってその姿態の映像を送信するように要求する行為
をいう。
ウ「その他の姿態」
「その他の姿態」としては、例えば、対象者が他人の性的な部位をなめ又は自身の性的な部位をなめられる姿態が考えられる。
エ「当該行為をさせることがわ↓、せつなものであるものに限る」
本項第2号に掲げる行為については、「当該行為をさせることがわいせつなものであるものに限る」こととされている。
同号の「性的な部位を触り又は触られる姿態、性的な部位を露出した姿態その他の姿態をとってその映像を送信すること」を要求する場合としては、例えば、
○ 親が、胸部を強く打ちつけた旨訴える16歳未満の者に対し、ビデオ通話で胸部を見せるように要求する場合や、
○ 医帥が、リモート診察において、胸部に皮膚疾患を有している16歳未満の者に対し、患部を映すように要求する場合
なども考え得るが、これらの行為は、具体的な状況に照らして行為に性的な意味合いがなく、処罰対象とすべきではないと考えられる。
そこで、このような行為を構成要件の段階で処罰対象から除外する趣旨で、同号に掲げる行為については、「当該行為をさせることがわいせつなものであるものに限る」こととされた。
本項の要求行為の対象となる行為は、当該行為が実現した場合に重大な性的自由・性的自己決定権の侵害が生じるもの、すなわち不同意わいせつ罪が成立するものという観点から規定されたものであり、同
号の「わいせつなもの」とは、不同意わいせつ罪における「わいせつな行為」を意味する。
9罪数
(2)他罪との関係
イ本条第3項の罪に当たる行為が行われ、これに基づいて被害者に性的な姿態をとらせてその映像を送信させた行為が不同意わいせつ罪に該当する場合、同項の罪は、性的自由・性的自己決定権を保護法益とする不同意わいせつ罪の予備罪としてではなく、性的保護状態を保護法益とするものとして設けるものであり、保護法益が同一とはいえず、二つの法益侵害が存することから、同項の罪と不同意わいせつ罪の両罪が成立するものと考えられる。
その上で、法的評価を離れ構成要件的観点を捨象した自然的観察の「で行為者の動態が社会的見解上一個のものと評価される場合には観念的競合となるが(注17)(注18)、そのように評価されない限り、同項の罪と不同意わいせつ罪は、罪質上通例その一方が他方の手段又は結果となるという関係があることから、具体的に行為者がそのような関係において両罪を実行したのであれば、牽連犯になると考えられる(注19)。
(注13) 例えば、次のような裁判例がある。
○アブリケーションソフトのダイレクトメッセージ機能を使用して、遠隔地にいた被害者(当時9歳)に対し、陰部、乳房等を露出した姿態をとって撮影し被告人に送信するよう要求して、被害者に、その陰部及び乳房を露出した姿態をとらせて撮影させた行為の「わいせつな行為」該当性が争われた京案において、「撮影させた部位のうち、陰部(性器自体は写っていないものの、その周辺部である。)は性的要素が強く、乳房も性を象徴する典型的な部位である。また、衣服を脱がせる行為(又は衣服を着けない姿態をとらせる行為)は、裸になることを受忍させてその身体を性的な対象として行為者の利用できる状態に置くものであって、単独でも「わいせつな行為」に当たり得るほどの強い性的意味合いを有し得るものであるし、続いてそうした衣服を着けない姿態を撮影する行為も、自ら性的な対象として利用できる状態に置かせた裸体を、さらに記録化することによってまさに性的な対象として利用するものであり、それによって性的侵害性が強まるといえるから、「わいせつな行為」に当たり得るほどの強い性的意味合いを有し得るものといえる。」と判示して、強制わいせつ罪の成立を認めたもの(大阪高判令和3年7月14日高等裁判所刑事裁判速報集令和3年403頁)
○被害者(当時11歳)に対し、乳房や陰部を露出して自慰行為をする様子を動画で撮影して被告人が使用する携帯電話機に送信するように要求し、被害者に衣服を脱がせ乳房、陰部等を露出させ陰部に指を挿入した姿態等をとらせた事案において、強制わいせつ罪の成立を認めたもの(東京地判令和4年3月10日公刊物未登載)
P127
(注18) 本条第3項の罪の実行行為は、16歳未満の者に対して性的な姿態をとってその映像を送信するように「要求する行為」であり、その結果として行われる不同意わいせつ罪の実行行為は、16歳未満の者に対して「性的な姿態をとらせてその映像を送信させる行為」であるから、前者の行為と後者の行為は同一ではないものの、「姿態をとらせて送信させる」行為には、それを要求する行為が内在的に含まれる(前提になっている)と考えるとすると、両罪の実行行為は、要求する行為の限度で重なり合う関係にあることになる。
そして、このように行為の一部のみが重なり合うにとどまる場合であっても、例えば、
○行為者が16歳未満の者に対して性的な姿態をとってその映像を送信するように要求し、16歳未満の者が直ちにこれに応じたため、要求する行為とわいせつ行為がほぼ同時的に行われるような事例
○行為者が16歳未満の者に対して性的な姿態をとってその映像を送信するように要求し、16歳未満の者がこれに応じようとするなどして、不同意わいせつ罪の実行に着手したとは認められるものの、結果的に既遂にまでは至らなかった事例
では、これらの行為が刑法第54条の「一個の行為」と評価され、観念的競合と評価される余地もあり得ると考えられる。
(注19) なお、例えば、本条第3項の罪に当たる行為が行われ、これに基づいて被害者に性的な姿態をとらせてその映像を送信させた後、同被害者に対し、同映像を脅迫等の手段として用いてわいせつな行為が行われた場合であって、同項の罪とその後のわいせつな行為の間に手段・結果の関係が認められないときには、併合罪となると考えられる。