児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

 16歳未満に、性器等の画像を送信するように求める行為は、不同意わいせつ罪未遂なのか面会要求罪なのか。

 判例は、撮影させるのはわいせつ、送信させるのはわいせつではないという(東京高裁h28)
 性的承諾能力が16歳未満ということになると、16歳未満に撮影要求するのは、不同意わいせつ罪の未遂になります。法定刑は6月~10年 丸亀支部に強制わいせつ罪未遂の判決がある。

 改正後の刑法では16歳に送信要求すると、面会要求罪になって、 一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金。撮影しないと送信できないから、不同意わいせつの未遂。軽い。
 さらに、「結果、実際にそれらの写真や動画を送らせた場合には不同意わいせつ罪が、それぞれ成立し得る」という説明がありますが、撮影させるのはわいせつ、送信させるのはわいせつではない(東京高裁h28 撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させるという,それ自体はわいせつな行為に当たらない行為までを含んだものとして構成されており,強要罪に該当する事実とみるほかない)

なお、札幌高裁r5が「Aに動画データを送信・記録させる行為に及ぶと、Aに撮影させた点を含めて行為全体がわいせつ行為とは評価できなくなるなどというのは、所論独自の見解であって、採用の限りではない(なお、所論指摘の裁判例は、そのような趣旨を判示したものとは解されない。)」とか東京高裁H28の打ち消しに掛かっていますが、所詮札幌高裁。

刑法
(十六歳未満の者に対する面会要求等)
第百八十二条 わいせつの目的で、十六歳未満の者に対し、次の各号に掲げるいずれかの行為をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
一 威迫し、偽計を用い又は誘惑して面会を要求すること。
二 拒まれたにもかかわらず、反復して面会を要求すること。
三 金銭その他の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をして面会を要求すること。
2 前項の罪を犯し、よってわいせつの目的で当該十六歳未満の者と面会をした者は、二年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。
3 十六歳未満の者に対し、次の各号に掲げるいずれかの行為(第二号に掲げる行為については、当該行為をさせることがわいせつなものであるものに限る。)を要求した者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
一 性交、肛門性交又は口腔性交をする姿態をとってその映像を送信すること。
二 前号に掲げるもののほか、膣又は肛門に身体の一部(陰茎を除く。)又は物を挿入し又は挿入される姿態、性的な部位(性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部、臀でん部又は胸部をいう。以下この号において同じ。)を触り又は触られる姿態、性的な部位を露出した姿態その他の姿態をとってその映像を送信すること。

https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00200.html
〔面会要求等罪について〕
Q12  16歳未満の者に対する面会要求等の罪とは、どのような罪ですか。
 (3) 性交等をする姿態、性的な部位を露出した姿態などをとってその写真や動画を送るよう要求する行為が処罰対象とされています(ただし、13歳以上16歳未満の者に対する行為については、行為者が5歳以上年長の者である場合に限ります。)。
 なお、~~(3)の行為の結果、実際にそれらの写真や動画を送らせた場合には不同意わいせつ罪が、それぞれ成立し得ることとなります。

 裸体画像を送信させる行為は「それ自体はわいせつな行為に当たらない行為」とされています(東京高裁H28.2.19)

判例番号】L07120170
      強要,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件

【事件番号】東京高等裁判所判決/平成27年(う)第1766号
【判決日付】平成28年2月19日
【判示事項】強要罪と平成26年法律第79号による改正前の児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条3項の児童ポルノ製造罪とが併合罪の関係にあるとされた事例
【参照条文】刑法45前段
      刑法54-1前段
      刑法223-1
      児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平26法79号改正前)7-3
【掲載誌】 判例タイムズ1432号134頁
      LLI/DB 判例秘書登載
 (1) 強要罪が成立しないとの主張について
 記録によれば,原判決は,公訴事実と同旨の事実を認定したが,その要旨は,被害者が18歳に満たない児童であることを知りながら,同女に対し,要求に応じなければその名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して,乳房,性器等を撮影してその画像データをインターネットアプリケーション「LINE」を使用して送信するよう要求し,畏怖した被害者にその撮影をさせた上,「LINE」を使用して画像データの送信をさせ,被告人使用の携帯電話機でこれを受信・記録し,もって被害者に義務のないことを行わせるとともに,児童ポルノを製造した,というものである。
 すなわち,原判決が認定した事実には,被害者に対し,その名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して同女を畏怖させ,同女をして,その乳房,性器等を撮影させるという,強制わいせつ罪の構成要件の一部となり得る事実を含むものの,その成立に必要な性的意図は含まれておらず,さらに,撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させるという,それ自体はわいせつな行為に当たらない行為までを含んだものとして構成されており,強要罪に該当する事実とみるほかないものである。

 それを受けて、裁判例でも「(被害者をして)裸体にさせてその静止画像等を撮影させるなど」というのがわいせつ行為とされています。

丸亀支部h29.5.2
Aが13歳未満であることを知りながら, 同人に強いてわいせつな行為をしようと考え,年月日,前記当時の被告人方において,前記snsを使用して,Aの携帯電話機に「住所も恥ずがしい写真も全部ネットに流す」, 「言う事聞け」「裸動画を送れ」などと記載したメッセージを送信するとともに,同人の乳房が露出した静止画を同人使用の携帯電話機に送信した上,「こういうのも全部流す」と記載したメッセージを送信するなどし,その頃,県内にいた同人に閲読させ, もしその要求に応じなければその電話番号や住所等の個人情報をインターネット上に流布されるかもしれない旨同人を畏怖させて脅迫し,同人に,裸体にさせてその静止画像等を撮影させるなど強いてわいせつな行為をしようとしたが, 同人がこれに応じなかったため,その目的を遂げなかった

 大阪高裁も、「撮影させ」をわいせつ行為としています。

阪高裁r04.1.20
被告人は,当時歳の被害者からアプリケーションソフト「」を使用して受信していた,同人の乳房が露出するなどした静止画データを利用して同人に強いてわいせつな行為をしようと考え,令和年月日,被告人方において,LINEを使用して,被害者の携帯電話機に「」などと記載したメッセージを送信し,その頃,同府内の被害者方にいた同人に閲読させ,その裸を撮影して被告人の携帯電話機に送信するよう要求するとともに,もしその要求に応じなければ前記静止画データが被害者の通学する学校関係者に流布されるかもしれない旨同人を畏怖させて脅迫し,その反抗を著しく困難にした上,同日,回にわたり,同人方において,上記要求に応じた同人にその乳房等を露出する姿態をとらせた上,これを同人に撮影機能付き携帯電話機で撮影させ,もって強いてわいせつな行為をした
 (2) 所論は,原判示第1の強制わいせつ罪につき,刑法176条の「わいせつな行為」は明確な定義がないし,原判決もその定義を示せていないのであって,漠然不明確であるから,同条項は罪刑法定主義に反して文面上無効であるのに,原判決は,同条項を適用して強制わいせつ罪の成立を認めたと主張する。
 しかし,「わいせつな行為」という言葉は,一般的な社会通念に照らせば,ある程度のイメージを具体的に持つことができる言葉であるし,これまでの実務上,多くの事例判断が積み重ねられており,それらの集積からある程度の外延がうかがわれるものである。そして,「わいせつな行為」を別の言葉で分かりやすく表現することには困難を伴う上,定義付けた場合に,かえって誤解を生じさせるなどして解釈上の混乱を招きかねないおそれもある。また,定義付けしても,いわゆる規範的構成要件である「わいせつな行為」に該当するのか否かを直ちに判断できるものでもない。「わいせつな行為」該当性を安定的に解釈していくためには,どのような考慮要素をどのような判断基準で判断していくべきなのかという判断方法こそが重要であり,定義付けが必須とはいえない。所論は,種々指摘して,刑法176条は罪刑法定主義に反しており無効であるというが,独自の見解であって採用できない。
 (3) 所論は,原判示第1の強制わいせつ罪につき,被害者に撮影させ,記録させ,送信させて,被告人が受信するまでしていれば,わいせつな行為と評価される余地はあるが,撮影させた行為だけではわいせつな行為に当たらないし,被告人の性的意図を考慮すると強制わいせつ未遂罪にとどまると主張する。
 しかし,被告人が被害者を脅迫して,要求どおり裸の写真を撮影させた行為が強制わいせつの既遂に当たることは,上記のとおり明らかである。被害者の意思に反して乳房等を露出する姿態をとらせ,これを撮影させるだけで十分な法益侵害性が認められるから,現実に画像データを送信させる行為は,強制わいせつ罪の成立を認める上で不可欠の要素とはいえない。異なる評価をいう所論は採用できない。

札幌高裁令和5年1月19日
 上記の者に対する強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について、令和4年9月14日札幌地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から控訴の申立てがあったので、当裁判所は、検察官白坂裕之出席の上、審理し、次のとおり判決する。
第4 法令適用の誤りの論旨について
 1 所論は、①被告人が遠隔地にいるAに裸体を撮影させた行為は、性的侵襲が弱く、それだけでは被告人は全く性的興奮を得られないから、性的意味合いは皆無か、極めて薄く、わいせつな行為に該当しない、あるいは、強制わいせつ未遂罪が成立するにとどまる、②原判決は、罪数処理の記載で、被告人が、Aに撮影させた動画データを被告人に送信させて、保存・記録させ、被告人がその動画を見たことまでわいせつ行為と評価しているが、これらはわいせつ行為にならないし、Aに撮影させた行為までであればわいせつ行為となり得るとしても、Aに動画データを送信記録させる行為に及ぶと、Aに撮影させた点を含めて行為全体がわいせつ行為とは評価できなくなる、③接触を伴う強制わいせつ罪においては、犯人が被害者の面前にいることが前提とされているから、非接触の強制わいせつ罪においても、犯人が規範的にみて被害者の目の前にいるといえなければ、わいせつな行為に当たらないと解されるところ、本件では、要求行為に遅れて撮影行為がされており、規範的にみて被告人がAの目の前にいるとはいえず、わいせつな行為に当たらない、④本件は、Aを利用した間接正犯になっていなければ、強制わいせつ罪の正犯とはなり得ないところ、Aは道具化しておらず、間接正犯になっていないから、強制わいせつ罪は成立せず、せいぜい準強制わいせつ罪が成立するにとどまる、⑤原判決は本件の強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪を観念的競合としているが、両罪は包括一罪である、などと指摘して、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある旨主張する。
 2 しかし、以下のとおり、所論は全て採用することができない。
 ①については、被告人は、Aに要求して、陰部等を露出した姿態をとらせ、これらをスマートフォンで撮影させているところ、その行為は、Aを性的意味合いの強い陰部等を露出した裸体にさせ、Aの身体を性的な対象として利用できる状態に置いた上、これを撮影させて記録化することで、その内容を被告人や第三者が知り得る状態に置くものであって、被告人がAに対して撮影した動画データを被告人に送信することも要求して撮影させており、その撮影させる行為自体にAがこの要求に従って動画データを送信して被告人がこれを閲覧することになる具体的な危険性が認められることも踏まえると、その性的侵害性は大きく、また、本件が、当時43歳の男性である被告人が、SNSを通じて知り合いアプリケーションソフトを利用してやり取りをしていたという関係にすぎない当時8歳の女児であるAに対し、Aの陰部等を見たいなどというメッセージや男性が自慰行為をしている動画データを送信するなどする中でなされたものであることも踏まえると、その性的意味合いは強いというべきであるから、その行為が「わいせつな行為」に当たり、強制わいせつ既遂罪が成立すると判断した原判決に誤りはない。
 ②については、前記のとおり、原判決が、被告人がAに撮影させた動画データ4点を被告人のスマートフォンに送信させてサーバコンピュータ内に記録・保存させた行為を、強制わいせつ罪を構成する事実として認定したとは認められず、Aに動画データを送信・記録させる行為に及ぶと、Aに撮影させた点を含めて行為全体がわいせつ行為とは評価できなくなるなどというのは、所論独自の見解であって、採用の限りではない(なお、所論指摘の裁判例は、そのような趣旨を判示したものとは解されない。)。