児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp3@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

13歳未満の児童をして撮影送信した事例について「本件は「被害者を利用した間接正犯」になっていなければ強制わいせつ罪の正犯とはなり得ないところ、公訴事実においても罪となるべき事実においても、被害者Aは道具化していないから、間接正犯になっていないから、強制わいせつ罪は成立せず、準強制わいせつ罪になる」という立石検事の主張が排斥された事例(札幌高裁r5.1.19)

 強要罪で起訴された事例で立石検事は道具性がないとか反論していたので、強制わいせつ罪(176条後段)でそのまま主張したら、×でした。

札幌高裁r5.1.19
3については、接触を伴わない強制わいせつ罪の成否を、接触を伴う強制わいせつ罪の成否と同様に考える必然性はないし、犯人が規範的にみて被害者の面前にいるとはいえない状況であっても、本件のように、被害者に要求して、その身体を性的な対象として利用できる状態に置き、それを記録化して被告人や第三者が知り得る状態に置くことで、接触を伴う強制わいせつ罪と同程度の性的侵害をもたらし得ることは明らかであるから、所論は採用できない。
4については、刑法176条後段の強制わいせつ罪は、被害者の承諾がある場合も含め、13歳未満の男女にわいせつな行為をすることで成立するところ、本件において被告人が当時8歳のAに対して行った行為がわいせつな行為に当たることは前記のとおりであり、それ以外の要件として被害者の道具性が要求されるとする所論は、独自の見解であって採用できない。

控訴理由 法令適用の誤り~強制わいせつ罪では被害者の行為を利用して実現されることは予定されていない。立石検事の主張によれば、本件は「被害者を利用した間接正犯」になっていなければ強制わいせつ罪の正犯とはなり得ないところ、公訴事実においても罪となるべき事実においても、被害者Aは道具化していないから、間接正犯になっていないから、強制わいせつ罪は成立せず、準強制わいせつ罪であること
1 自ら,直接手を下さず,人を道具のように利用して犯罪を実行することを間接正犯という
 強制わいせつ罪は、「者にわいせつ行為をした者は」という法文であるから、犯人自らが、犯罪実現の現実的危険性を有する行為を自ら行うのが原則であって、他人を介する場合には、間接正犯を検討する必要がある。

第一七六条(強制わいせつ)
 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

間接正犯
1 意義 自ら,直接手を下さず,人を道具のように利用して犯罪を実行することをいう。例えば,医師が事情を全く知らない看護師を利用して患者に毒物を飲ませるとか,情を知らない郵送機関を利用して,毒殺のための毒物を郵送する(大判大正7・11・16刑録24・1352)など,構成要件要素としての故意がない者を利用する間接正犯の例は多い。行使の目的のない他人を利用して通貨を偽造させたり(目的なき故意ある道具),公務員が非公務員を利用して虚偽文書を作成させるような場合(身分なき故意ある道具)も間接正犯とされる。被利用者の適法行為を利用する間接正犯(大判大正10・5・7刑録27・257),被害者の行為を利用する間接正犯(最決平成16・1・20刑集58・1・1)も認められる。いわゆる「故意ある幇助的道具」(故意はあるが正犯者の意思を欠き,もっぱら利用者を幇助する意思で行おうとする者)を利用する行為も間接正犯である(最判昭和25・7・6刑集4・7・1178)。
[株式会社有斐閣 法律学小辞典第4版補訂版]

 本件は、被告人は撮影せず、Aを介して裸体を撮影しているから、間接正犯にほかならない。
 
2 強制わいせつ罪の公訴事実は被害者を利用した間接正犯のような記載であること
 Aをして「「LINE」を使用して、陰部等を露出した姿態をとって撮影し、被告人が使用するスマートフォンに送信するよう要求し、その頃、北海道内のA方において、Aに陰部等を露出した姿態をとらせ、これらをAが使用するスマートフォンで撮影させた」という記載だから、「自ら,直接手を下さず,人を道具のように利用して犯罪を実行すること」であって間接正犯構成である。

3 被害者を利用した間接正犯だとして、要求行為によって道具と化していないこと
 8才といっても、スマートホンやLINEを使う能力がある。これでは間接正犯理論の道具と化していない。公訴事実でも罪となるべき事実でも道具となっている主張とは読めない。
 被害者を利用した間接正犯の事例*1では、12才を継続的な脅迫等により支配していたような関係が要件となっているようである。会ったことも無くLINEのやりとりをしていただけの関係では、正犯と同視できない。
条解刑法

条解刑法p574

 最初から本件でのLINEの履歴(■■■■■■■■■■■■■■■■)を見ても、道具化は認められない。
①要求以前
 要求とされる言動はあるものの、AはLINE上で、自分の意思でポーズ取って、撮影・送信するというある程度手間の掛かる行為を行っていて、道具とは化していない。
甲3

 これでは被害者を利用した間接正犯における道具化しているとは言えない

4 暴行脅迫により被害者自らに恥ずかしい姿態を「撮影させた」から強制わいせつ罪になるわけではない。という立石検事の答弁書は正解である。
 裸体行為を撮影送信させた行為を強要罪であって強制わいせつ罪ではないという高裁判例は幾つかあるが、強要被告事件の控訴事件では検察官は、「撮影する行為と撮影させる行為は違い、撮影させる行為はわいせつ行為にはならない」と繰り返し主張していた。
名古屋高裁金沢支部H27.7.23(富山地裁高岡支部h27.3.3)
名古屋高裁金沢支部H27.7.23(福井地裁h27.1.8)

 検察官答弁書控訴審判決に引用されて判決の一部を構成しているので紹介しておく。
名古屋地裁金沢支部の検察官答弁書h27.7.23
名古屋地裁金沢支部の検察官答弁書h27.7.23

 コピペの答弁書なので、該当部分を引用しておく

名古屋地裁金沢支部の検察官答弁書h27.7.23
 被告人自らが撮影する場合と,被害者に撮影させる場合とでは,被害者にとってみれば,他人に自らの恥ずかしい姿態を撮影されることと,自らがそれと知りつつ撮影することの違いが生じているのであって,その性的差恥心の程度には格段の差があり,必然的に強制わいせつ罪の保護法益である「性的自由」の侵害の程度も両態様を比較すれば大きく異なる。
 かかる差は強制わいせつ罪における「わいせつ行為」か否かの判断においては重要な要素を占めているものと思われるのであり,被害者の恥ずかしい姿態を被告人自ら撮影する行為がわいせつ行為であると認定されたとしても,被害者に恥ずかしい姿態を撮影させる行為をもって,直ちに強制わいせつ行為であると認定するには躊躇せざるを得ない。弁護人が縷々掲げる判例,裁判例が存在するにもかかわらず,これまで,本件のみならず,暴行脅迫により被害者自らに恥ずかしい姿態を「撮影させた」事案は多数件にわたり発生しているものと思われるところ,かかる事案を強制わいせつ罪として積極的に処断した事例はほとんどないものと思われるが,それはかかる理由によるものであろう。
ウ この点,弁護人は,「被害者を強要して撮影させる行為も間接正犯と構成するまでもなく,性的意図を満たす行為であれば,わいせつ行為である」とのみ記載する。弁護人が「間接正犯と構成するまでもなく」との文言の意味は定かではないが,間接正犯として構成できるかどうかは,実際に撮影した者が被害者自身であっても,行為者自らが「撮影する行為」として認定できるかどうかの分水嶺であるほど重要な争点であって,およそ「間接正犯と構成するまでもなく」の一言で片付けられる事情ではない。また,強制わいせつの間接正犯が成立するような場合は,むしろ準強制わいせつ罪の対象になるものと思われる。しかしながら,本件の事実関係を前提にするならば,およそ準強制わいせつ罪の成否が問題となる事案ではなく,また,間接正犯の成立が考えられる事案でもないことは明らかである。この点につき,弁護人何ら理由が示されていない。加えて,「性的意図を満たす行為」であればわいせつ行為である旨の論旨はおよそ理由がない。

 立石検事の答弁は、撮影させる行為は、強制わいせつ罪の間接正犯の問題(被害者を利用する間接正犯)になって、LINEでちょっと怖いこと言ったぐらいでは道具になっていないので、強制わいせつ罪の間接正犯にはならない(強要罪が正解)という点では、弁護人の主張と同じである。

5 原判決
 原判決は、もともと、被害者に行為を要求する場合も「わいせつ行為」(単独正犯)と評価できるという独自の見解なのかもしれない。そんなのは初耳である。

 この判決の論理に従うなら、被害者を利用した間接正犯として議論される「自殺強要」*2はすべて殺人罪の単独正犯として処理されることになる。
 このように被害者を利用した間接正犯の事例では、継続的な脅迫等により支配していたような関係が要件となっているようである。会ったことも無くLINEのやりとりをしていただけの関係では、正犯と同視できない。

6 まとめ
 立石検事の主張によれば、本件は「被害者を利用した間接正犯」になっていなければ強制わいせつ罪の正犯とはなり得ないところ、被害者Aは道具化していないから、間接正犯になっていないから、強制わいせつ罪は成立せず、せいぜい準強制わいせつ罪である
 しかるに、強制わいせつ罪の間接正犯を検討せずに、強制わいせつ罪を認めた点で、原判決には法令適用の誤りがあるから、原判決は破棄を免れない。