児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童買春罪の実行行為は①児童等との対償供与の約束・対償供与+②①に基づく性交等であるから、①の時点でも児童等の認識が必要であると暗に判示したもの(大阪地裁R01.9.17)

検察官は、那覇支部答弁書を丸写しにして「児童買春の実行行為の核心部分である性交時に被害児童が18歳未満であることを認識していれば,児童買春の故意に欠けるところはない。」と主張していましたが、裁判所は、(対償供与時点では児童の認識は不要だから対償供与時点では児童と知らなくても性交等の時点で児童と認識しているから有罪だとはせずに、)対償供与時点でも児童であることの認識が必要であることを前提にして、対償供与時点の未必故意を認定しました。

地検検察官論告
性交時に児童であることの認識があれば,児童買春罪の故意が認められ,同罪が成立すること
児童買春, 児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律2条2項は, 「『児童買春』とは, 次の各号に掲げる者に対し,対償を供与し,又はその供与の約束をして, 当該児童に対し,性交等をすることをいう。」とされているところ,かかる条文を文理解釈すれば,対償供与し,又はその供与の約束をして,性交等をすること,すなわち,対償供与を前提とした性交等をすることが実行行為であるのは明白であり,性交時に児童であることの認識があれば,児童買春罪が成立する。
さらに, 同法の保護法益につき, 同法1条は, 「この法律は,児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性にかんがみ,児童買春,児童ポルノに係る行為等を処罰するとともに児童の権利の擁護に資することを目的とする。」としていることに鑑みれば,児童の精神的未熟さにつけ入り,対償を供与して性交等を行うこと,すなわち児童に対する性的搾取や性的虐待を防止し,ひいては,児童の権利を保護しようとしているというものである。
この同法の目的からしても,性的搾取や性的虐待の核心部分である性交等を行うことが処罰の対象となる中心の実行行為と捉えるべきである。
実質的にも,行為者が,対償供与時に児童であることの認識がなく,性交等の前に児童であることを認識した場合であっても,反対動機を形成して性交等を行わないことは十分に可能である。
弁護人の主張は, その独自の見解に基づくものであり,失当である。
よって,仮に対償供与時に相手方が児童であることの認識がなくとも,性交時に相手方が児童であることの認識があれば,児童買春罪の故意が認められ,本件においても,被告人は,遅くとも,性交時には, 児童から17歳であると聞くなど児童であることの認識があったのであるから,被告人に児童買春罪が成立することは明らかである。

(別件)福岡高検那覇支部検察官答弁書
法令適用の誤りの主張について
控訴審弁護人は,被告人には,対償供与約束の時点で児童であることの認識がなかったのであるから,仮に被告人が性交時に被害児童が18歳未満である可能性を認識していたとしても,児童買春には該当しないと主張するようである。
しかし,そのような主張は,控訴審弁護人独自の見解に基づくものであり,児童買春の実行行為の核心部分である性交時に被害児童が18歳未満であることを認識していれば,児童買春の故意に欠けるところはない。このことは,法律2条2項1号の文理上も明らかであり, また, 「この法律は,児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性に鑑み、あわせて児童の権利の擁護に関する国際的動向を踏まえ、児童買春、児童ポルノに係る行為等を規制し、及びこれらの行為等を処罰するとともに、これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより、児童の権利を擁護することを目的とする。」との立法趣旨からも当然である。

大阪地裁令和元年9月17日宣告
児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
判    決
検察官 藤井彰人
    渡邊 耀
弁護人 奥村 徹(私選)
主    文
理    由
(犯罪事実)
第1
 被告人は,A(17歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら,令和元年11月19日大阪府大阪市西天満ホテル201号室において,Aに対し,現金3万円の対償を供与して,Aと性交し,もって児童買春をした。
(事実認定の補足説明)
第1 判示第1について
 1 弁護人は,判示第1について,①被告人が3万円を渡す時点において,Aは17歳11か月だったが18歳と自称し,厚化粧でカラー髪にしており,体格も成人と変わらず,一見して派遣型風俗嬢の風貌であったことから,18歳未満であると認識していなかった,③対償供与時にAが18歳未満であることの認識がなかった以上児童買春罪は成立しないと主張する。しかしながら,当裁判所は,被告人が2万円の対償を供与する時点で,被告人は,Aが18歳未満である旨の未必的な認識があったと認定したので,その理由を説明する。