口腔性交罪の事例です
「被害者に強制わいせつ行為をしようと考え,同日午後6時頃,同所において,被害者に対し,いきなりその乳房を手でもみ,同人が着用していたタイツとパンツをつかんで無理矢理脱がせるなどした上,その陰部を手指で触り,さらに,同人が怖がって反抗を抑圧されている状態を利用して同人と強制性交等をしようと考え,前記一連の暴行及びわいせつ行為により同人が反抗を抑圧されているのに乗じて同人と口腔性交をした。」というのは前半は強制わいせつ罪で後半が強制性交等罪ですが、特別関係で強制性交罪のみということでしょう。
条解刑法
強姦罪との関係
次条は本条の特別規定であり,姦淫の目的でわいせつ行為が行われた場合には,強姦罪の既遂又は未遂が成立し,本罪は成立しない。強制わいせつ行為の途中から強姦の犯意を生じて強姦に至った場合も,強姦のー罪が成立するものと解すべきであろう。
東京地方裁判所立川支部平成30年4月24日刑事第3部判決
判 決
上記の者に対する未成年者誘拐,窃盗,嘱託殺人未遂,強制性交等被告事件について,当裁判所は,検察官黒見知子,国選弁護人畑江博司各出席の上審理し,次のとおり判決する。
主 文
被告人を懲役6年6月に処する。
未決勾留日数中50日をその刑に算入する。
理 由
【罪となるべき事実】
被告人は,
第1 平成29年12月31日午前5時34分頃,東京都八王子市α×××番地×所在のb c店において、■がカウンター上に置き忘れた同店店長d管理の現金約2万1000円及びキャッシュカード2枚等23点在中の財布1個(時価約5000円相当)を窃取し,
第2 ソーシャルネットワーキングサービス「ツイッター」上に自殺願望がある旨表明していた■(当時17歳。以下「被害者」という。)が未成年者であることを知りながら,平成30年1月2日午前10時27分頃から同日午前10時42分頃までの間,東京都内において,自宅にいた同人に対し,自己の携帯電話のアプリケーションソフト「LINE」を使用して,「だからうちに来なよ」「一緒に死ねたら犯罪ではないし」「ホントに死にたいならうちに来てくれますか?」などとメッセージを送信し,当時の被告人方に来るように誘惑し,被害者にその旨決意させ,同人をその親権者に無断で東京都日野市β×丁目×番地の×所在のe株式会社f駅前まで誘い出し,同日午後3時32分頃,同所において被害者と合流後,バスを利用するなどして同人を東京都八王子市γ×丁目××番地××所在のg×××号室当時の被告人方まで連れて行き,同日午後5時頃から同月3日午前1時53分頃までの間,被害者を同所に留まらせて自己の支配下に置き,もって未成年者を誘拐し,
第3 同月2日午後5時頃から同日午後5時30分頃までの間に,同所において,被害者の財布内から同人所有の現金2万円を抜き取り窃取し,
第4 同日午後5時30分頃,同所において,被害者に対し,その嘱託を受け,殺意をもって,その頚部を手やビニールひもで絞め付けたが,同人が鼻部から出血したのを見て狼狽し,同人の頚部を絞め続けることができなかったため,同人に全治まで約4週間を要する眼球結膜下出血,顔面頚部皮下出血の傷害を負わせたにとどまり,その目的を遂げず,
第5 被害者に強制わいせつ行為をしようと考え,同日午後6時頃,同所において,被害者に対し,いきなりその乳房を手でもみ,同人が着用していたタイツとパンツをつかんで無理矢理脱がせるなどした上,その陰部を手指で触り,さらに,同人が怖がって反抗を抑圧されている状態を利用して同人と強制性交等をしようと考え,前記一連の暴行及びわいせつ行為により同人が反抗を抑圧されているのに乗じて同人と口腔性交をした。
【証拠の標目】《略》
【法令の適用】
罰条
判示第1及び第3の行為 刑法235条
判示第2の行為 刑法224条
判示第4の行為 刑法203条,202条後段
判示第5の行為 刑法177条前段
刑種の選択
判示第1,第3及び第4の罪 懲役刑を選択
併合罪の処理 刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い判示第5の罪の刑に法定の加重)
未決勾留日数の算入 刑法21条
訴訟費用の処理 刑事訴訟法181条1項ただし書(不負担)
【量刑の理由】
量刑の中心となる強制性交等についてみると,路上等で見ず知らずの相手を突然襲ったり,性交等のために強度の暴行・脅迫を加えたりした事案ではなく,計画性も認められないが,被告人は,嘱託殺人未遂の犯行により抵抗力が落ちていた被害者に対し,乳房を揉んだり陰部を触ったりするなどした後,口腔性交に及んでおり,犯行時間も短いものではないし,被害者が被告人との性交等に応じると誤解させるような事情は全く認められず,経緯等に酌み得る部分もない。被害者が被った精神的苦痛等も大きく,被害弁償も未了である。そうすると,これのみに限ってみたときに,強制性交等既遂1件からなる事案の中で比較的軽い部類に属するとはいえ,最も軽い部類に位置付けられるような事案とはいえない。
その余の犯行についてみても,嘱託殺人未遂は,被害者から殺害を嘱託された被告人が,ビニール紐で被害者の頚部を力一杯絞め付けるなどして殺害しようとしたものである。被害者は意識がもうろうとして座っていられない状況に陥り,判示傷害結果も負っており,生命侵害の危険性が低い犯行とはいえない。被害者が早く殺害するよう被告人に繰り返し求めるなどした経過は認められるものの,被告人は,嘱託を断ることが容易であったにもかかわらず,翻意させる努力もしないまま安易に被害者の要請に応じて犯行に及んでおり,これに先立ち,被告人が,一緒に住む女性を探したいという身勝手な動機に基づき,自殺願望を持っている被害者に目を付け,自殺に協力するなどと誘惑して被告人宅へと誘い入れるなどする未成年者誘拐の犯行も敢行していたことも併せみると,これらの犯行に対する非難の度合いも相当強い。さらに,被告人は,被害額が低額とはいえない2件の窃盗にも及んでいる。
これらの犯情等を併せみると,被告人の刑事責任は重く,被告人が一連の犯行を全て認めて反省の態度を示していることや,被告人の母親が被告人の監督を誓約していること,被告人には前科がないことなどを考慮しても,主文の刑は免れない。
(検察官求刑・懲役8年)
平成30年4月27日
東京地方裁判所立川支部刑事第3部
裁判長裁判官 矢野直邦 裁判官 佐藤康行 裁判官 武田夕子