児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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どのような場合に、青少年と知らないことについて過失があると認められるのであろうか。~藤宗和香(東京地方検察庁検事(当時))「青少年保護育成条例」風俗・性犯罪シリーズ捜査実務全書9第3版

 
 ちょっと古い文献ですが、こういう解説がありました。

第2 版補訂部分(平成15 年6 月現在)
島戸純(法務省刑事局付検事)
第3 版補訂部分(平成19 年3 月現在)
島根悟(元法務省刑事局参事官)
隈良行(法務省刑事局付検事)

C 淫行規制条例と児童買春罪との関係(補訂)
① 法律と条例とが同一とみられる事項を規定している場合について、最高裁判所は、「条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の対象事項と規定文言を対比するのみではなく、それぞれの趣旨、日的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾抵触があるかどうかによってこれを決しなければならない。例えば、ある事項について国の法令中にこれを規律する明文の規定がない場合でも、当該法令全体からみて、右規定の欠如が特に当該事項についていかなる規制をも施すことなく放置すべきものとする趣旨であると解されるときは、これについて規律を設ける条例の規定は国の法令に違反することとなりうるし、逆に、特定事項についてこれを規律する図の法令と条例が併存する場合でも、後者が前者とは別の目的に基づく規律を意図するものであり、その適用によって前者の規定の意図する日的と効果をなんら阻害することがないときや、両者が同ーの目的に出たものであっても、国の法令が必ずしもその規定によって全国的に一律に同一内容の規制を施す趣旨でなく、その地方の実情に応じて、別段の規制を施すことを容認する趣旨であると解されるときは、国の法令と条例との聞に何らの矛盾抵触はなく、条例が図の法令に違反する問題は生じえないのである (最大判昭50.9.10 刑集29.8.489) としているが、両者の聞に矛盾抵触が生じた場合、法律の規定が優先され、条例の規定が無効となる
② ところで、児童買春・ポルノ法の児童買春罪と淫行規制条例とを比較すると、少なくとも対償の供与又はその約束がなされて性交等に及んだ行為を処罰するという部分に限っては、その趣旨、目的、内容及び効果において完全に重複するものと考えられ、かかる部分に|期する条例の規定は効力を有しないこととなる。児童買春・ポルノ法附則第2 条第1 項も、地方公共団体の条例の規定で、同法で規制する行為を処罰する旨を定めているものの当該行為に係る部分については、同法の施行と同時にその効力を失う旨定めているが、これは、前記の趣旨を確認的に規定したものであると考えられる
③ そして、児童買春・ポルノ法は、「児童買春」について、児童等に対し、対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせること)としているのに対し、淫行規制条例は、児童に対する「淫行」、「みだらな性行為」等を処罰対象としている。
したがって、淫行規制条例の「淫行」、[みだらな性行為」が児童買春・ポルノ法の「性交等」よりも広い場合には、同法の「性交等」 よりも広い部分について、児童買春・ポルノ法がいかなる規制をも施すことなく放置すべきものとする趣旨であるとは解されないから、条例の効力を認めることになると考えられる。
① なお、この場合、児童買春・ポルノ法上、児童買春罪については年齢の知情性に関する推定規定がないから、行為者に被害児童の年齢についての認識を欠いた場合に、児童買春罪による処罰ができないとしても、淫行規制条例による処罰ができないか問題となる
両者の規制が重なる部分については、児童買春・ポルノ法が児童買春罪について年齢の知情性に関する推定規定をあえて設けず、故意犯処罰の原則を貫いている以上、この法律の判断が優先されるべきであり、淫行規制規定による処罰はできないものと考えられる

(イ) 青少年の年齢の知情性について
① 行為者を淫行につき処罰するためには、淫行当時、その相手方が青少年であることについて知っていなければならないし、特に無過失のみ不処罰の旨の規定のあるところでは知らないことにつき過失がある場合でなければならないのは、前述のとおりである。
後者について、どのような場合に、知らないことについて過失があると認められるのであろうか。
結論としては、具体的事案によって千差万別としか言えず、青少年の年齢が18歳直前なのか14 、5 歳などはるかに若年であるのか、行為者と青少年の知り合った経緯、行為者の身分、立場などを総合して判断するしかない。
しかし、育成条例の「淫行等」について、前述のように、単なる不道徳な性行為というのでなく、前記のように、限定した概念として、青少年の未成熟を利用し、あるいは乗じるなどの特に不当な行為をとらえていることからすれば、相手が未成熟な背少年であることを知っていることが前提のはずと考えられ、過失であれ、その認識を欠いている場合を、「知って」淫行等した場合と同列に論じられるのか疑問なしとしない。
放に過失の認定には慎重であるべきであるし、過失の程度も重過失と言えるようなものに限るべきではなかろうか。
児童買春・ポルノ法等において児童の使用者についてのみ過失ある場合の処罰が規定されていることも参考とされるべきである。
②過失認定が難しい一例を見てみる。
デートクラブやいわゆるキャバクラなどの客が、その応のホステスを相手に性交又は性交類似行為に及んだ場合、その行為が単に性欲を満-たすためだけの深行に当たることは明らかであるから、その相手が18 歳未満の青少年であれば、淫行規制条例の適用を受け得ることになる
ところで、当節、青少年の肉体的発育はめざましく、15 、6 歳で成人以上の体格をしている者も珍しくはなく、化粧、衣類によって、その外見のみから18 歳以上か18 歳未満であるかを判別することは困難な場合が多いが、デートクラブやキャパクラなどでアルバイトしている青少年の場合には殊更外見からの年齢判断はできにくし、客は、被疑者として取り調べられると、年齢については「知らなかった。」と否認する者が多い一方、恥、不名誉に思い早く終わらせたい気持ちからか、「若いなと思った。」「本人は18 歳と言ってたが、まだかもしれないと思った」などの未必的認識を認める供述をする者も多く、これを根拠に過失を認定している例も見受けられる
しかし、キャパクラなどは、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法第2 条第3 号により、18 歳未満の者を接客に使えないはずであり、通常の客は、ホステスは18 歳以上との認識で来応すると思われ、仮に、前記のような若干の疑念を抱いたとしても、客にその点を確認する方法は相手ホステスに尋ねるくらいしかないだろうし、それ以上の確認を要求すること自体非現実的であろう。実質的には否認の場合の認識との間にどれほどの径庭もないと言うべきであろう。
一方、捜査官に対しては、「当該客に年齢を問かれ、17 歳と答えた」「もうすぐ18 歳の誕生日と言った。」などと、客の年齢知情を裏付ける供述をする青少年が稀でないが、キャバクラなどで働いている青少年には、すでに取調べに慣れていて、自己が被保護者たる青少年であることを利用し、被害者的立場を誇張し、かつ、捜査官に迎合的な供述をする者がまま見られ、しかもそのような店の経営者は、客寄せのために成人前の若い女子を雇う傾向が強く、中には、18 歳未満と知っていても履い入れ、客に聞かれたら18 歳と答えるよう指示している場合が多いのは周知の事情であるから、右青少年の供述を全面的に信用することは危険である。
このような例では、結局は、客が既に青少年と話をする機会などがあってその身上を知り得る関係にあったとか、当該応には18 歳未満の女子ばかりを世いているなどの噌があって、容の来応理由になっていたと認められるなど、個別具体的に、淫行の相手が18 歳未満であることについて客観的に知り得る状況があったことを明らかにしなければ、過失を認めるべきではないと考える。
 淫行規制条例は、青少年の健全育成、保護のために、これを阻害する行為を回避する義務を年長者に負わせたものであるが、保護の対象たる青少年が自らの意思でいわば性を売り物にするデートクラブやキャパクラなどに身を置く以上、その保護は、個別の容を淫行で処罰することによるより、むしろ雇用主の児童福祉法違反、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律違反、売春防止法違反などを処罰することで図られるべきところではないかとも考えられる