強制性交の逆転無罪判決(大阪高裁r6.12.18)

強制性交の逆転無罪判決(大阪高裁r6.12.18)


 事実誤認の控訴理由は「原判決の判断は論理則、経験則等に照らして不合理であって、強制性交等罪にいう暴行・脅迫があり、Xの同意がなかったと認めた原判決の判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある。」で締めくくる

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大阪高等裁判所令和06年12月18日
 上記両名に対する各強制性交等被告事件について、令和6年1月25日大津地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人両名からそれぞれ控訴の申立てがあったので、当裁判所は、検察官池邊光彦出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文
原判決を破棄する。
被告人両名はいずれも無罪。

理由
理由
 被告人Y1の控訴の趣意は、主任弁護人秋田真志、弁護人高橋映次及び同西愛礼連名作成の控訴趣意書及び控訴趣意書補充書に、被告人Y2の控訴の趣意は、主任弁護人奥津周、弁護人川﨑拓也、同板﨑遼及び同佐々木崇人連名作成の控訴趣意書に、それぞれ記載のとおりであり、被告人Y1の論旨は事実誤認及び法令適用の誤り、被告人Y2の論旨は事実誤認である。
 そこで、記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも併せて検討する。以下、呼称等は原判決の例による。
第1 事実誤認の論旨について
 1 原判決の判断の概要と被告人両名の各論旨
 (1)原判決の認定した事実
 原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は、以下のとおりである。
 被告人Y2及びB(以下「B」という。)は、(1)共謀の上、令和4年3月15日(以下、特に断らない限り、月日の記載は令和4年である。)午後11時51分頃、B方において、X(当時21歳の女性)に対し、被告人Y2がその様子を携帯電話機で動画撮影をする中、Bが暴行を、B及び被告人Y2が脅迫を加えて[脅迫等〈2〉]、その反抗を著しく困難にした上で、Bが口腔性交[口腔性交〈1〉]をし、(2)引き続き、被告人Y1と共謀の上、同日午後11時51分頃から同月16日午前1時13分頃までの間に、同所において、Xに対し、Bがその様子を携帯電話機で動画撮影をしながら、脅迫を加えて[脅迫〈3〉]、B及び被告人Y1がかわるがわる口腔性交[口腔性交〈2〉]をし、同日午前1時14分頃から同日午前1時24分頃までの間に、同所において、Xに対し、B及び被告人Y1が暴行を加えて[暴行〈2〉]、Xに同所から立ち去ることを断念させた上、同日午前1時24分頃から同日午前2時31分頃までの間に、B及び被告人Y1がかわるがわる口腔性交をし、Bが性交をし、Bがその様子を携帯電話機で動画撮影をする中、被告人Y1が性交をした[本件性交等]、というものである。
 (2)被告人両名の各論旨
 これに対し、被告人Y1の論旨は、要するに、本件の各口腔性交及び性交はいずれもXの同意の下に行われており、暴行・脅迫により行われたものではなく、被告人Y1には故意も共謀もないから、強制性交等罪は成立せず、無罪であるというものである。被告人Y2の論旨も、要するに、口腔性交〈1〉はXの同意の下でなされたもので、少なくとも被告人Y2はXが同意していると認識しており、被告人Y2が関与した脅迫等〈2〉は、強制性交等罪における暴行・脅迫には該当しないから、口腔性交〈1〉について強制性交等罪は成立せず、また、口腔性交〈2〉や本件性交等についても強制性交等罪は成立しないが、仮にこれらがBや被告人Y1によって強制的になされたと評価できるものとしても、被告人Y2には、口腔性交〈1〉の時点で、Bとの間に共謀が成立する余地はなく、口腔性交〈1〉以降の経過において、Bや被告人Y1と共謀をしたといえる事情もないから、被告人Y2に口腔性交〈2〉や本件性交等による強制性交等罪は成立せず、無罪であるというものであり、いずれの論旨も、強制性交等罪が成立するとした原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある、というのである。
 (3)原判決の判断の概要

当裁判所の判断
 2 当裁判所の判断
 (1)X証言の信用性を肯定するなどして、被告人両名を有罪とした原判決の認定、判断は、論理則、経験則等に照らして不合理であって、是認することができない。以下、その理由を説明する。
 (2)関係証拠によれば、本件の事実経過については、原判決が「第2 証拠上明らかに認定できる事実」として認定したところ自体に誤りはなく、被告人両名も特に争っていない。この後の検討の中で、適宜必要な範囲で示すこととする。
 (3)X証言の信用性について
 ア 虚偽供述の動機について
 まず、本件被害申告の経緯及びXの当初供述の内容等に照らせば、Xには虚偽供述の動機(誇張や矮小化)があることが疑われるため検討を要するところ、所論も指摘するとおり、原判決が事実経過(原判示・争点に対する判断第2の11)及びX証言の概要(同第3の1(10)(11))として認定した部分は、虚偽供述の動機があることを疑わせる重要な事実が漏れており、内容が不十分であるため、関係証拠により認められる事実を以下に示す。
 (ア)Xが、3月17日午後7時頃、Cで友人Aに対し、性交時に動画を撮影した相手等について相談していた際、Aは、「その先輩(相手)の素性って絶対ほんと?」「(相手の)バイト先は個人情報くれないかもやなー」「最終手段やけど」「先に警察に言うねんレイプされましたって(〈1〉)」「警察に言われたら」「バイト先も出さざるを得ないから」「個人情報でも何でも」と送信し、Xは「確かにね~」と返信し、Aが「何とかして相手の身元だけは押さえた方がいい」と送信したのに対して、Xは「そうよね まじで警察行こうかな」「動画一回出回ったらもう消せないもんね」と返信した(原審甲40)。
 Xは、同日午後8時40分頃、性犯罪被害相談電話に電話を架け、「男性三人から、えっと、強引めに性行為をされて」「性行為自体は、もうなんか、なんか警察呼ぶとか、自分で断れなかったのでもう、なんか、いいんですけど、その動画が(〈2〉)」と話した(原審甲41)。
 管轄の警察署の刑事が話を聞く日程調整をするということで一旦電話を切ったXは、Aにその旨Cで伝えると、Aは、「あと相手二人やったら」「確実に事件性みたいなのも」「あるみたいなふうにできると思うから」「ほんとに私も悪い所あったんですけどみたいなことは一切言わずに(〈3〉)」「警察に介入してもらおう」と助言した(原審甲40)。
 Xは、3月18日午後8時28分頃、Yに対し、Cで、「心配するかなと思っていえなかったんだけど、この前最後までやって結構その時の動画録られちゃったんだよね、それで動画だけはどうにかして欲しいって事になって性被害相談所みたいなのに相談したら、警察の人が性犯罪の中でも悪質なものだからこのことを事件化したいって言って、結局被害届を出すことになっちゃった。大ごとになっちゃってほんとにごめんね」と伝えた(原審甲8)。
 (イ)このような被害申告の経緯によれば、Xが被害申告した当初の主たる目的は、性被害として処罰を求めることよりも、動画の拡散防止にあったことは明らかであり、このことはX自身も証言中で認めている。Xは、性犯罪被害相談に電話を架けた当初、性行為自体については、前記〈2〉の「自分で断れなかったのでもう、なんか、いいんですけど」という程度にとどまる気持ちであったのが、警察官から事件化したいと言われて被害届を出すことになったもので、Xは大ごとになってしまったという気持ちは全くなかったと証言するものの(X証人尋問調書100頁(以下、供述者と速記録の頁数で表す。))、動画のことを相談したら話が急展開したと感じていた様子は、被害相談の電話をした直後のAとのCからもうかがわれる(甲40写真20、21時55分、「今からとりあえず病院に行くことになった!警察の人が迎えにきてくれるって」「結構甘く考えてたわ」)。このような本件の立件経緯も踏まえると、Xには、動画の拡散を防止するという目的のために警察に捜査してもらう必要があり、Aからの助言〈1〉に従い、実際よりも誇張して供述したり、警察が捜査をやめてしまわないように、Aからの助言〈3〉に従い、自身に不利益な事実について供述を差し控えたりする動機があるといえる。実際、Xは、警察の事情聴取において、付き合ってはいないが性的関係にある人がいることや口腔性交〈1〉の事実を話さなかったものであり、その理由について、口腔性交〈1〉の事実を警察の人に言ったら、警察の人にどう思われるかわからない、無理やりの性行為だということを信じてもらえないのではないか、捜査をやめられて、動画の拡散を止めることもできなくなるのではないかと思ったためであることを認める証言をしている(X50、93、111頁)。
 以上によれば、Xは動画の拡散防止という目的から性犯罪被害相談に電話を架けたが、その電話の流れで事件化したいという警察の意向に応じて被害届を出すことになったもので、前記目的を達成するため、状況等を誇張し、自身の不利な行動を隠して矮小化して供述する明白な動機があり、実際に、口腔性交〈1〉の事実等を隠す内容の虚偽供述をした事実(性犯罪被害相談に電話を掛けた時点では、警察から尋ねられてもいないのに、結構脱がされそうになった、(Y2と口腔性交をした事実はないのに)舐めさせられたのは3人だったとも供述していた。)もあるから、その証言の信用性を判断するに際しては、虚偽供述の動機の観点から相当慎重に検討しなければならない事案といえる。
 (ウ)しかるに、原判決は、Xには誇張して供述をする動機があるなどと指摘する原審弁護人の同旨の主張への応答という形で一応の検討を加えてはいるものの、所論も指摘するとおり、やや的外れなものになっているといわざるを得ない。すなわち、原判決は、〈1〉「犯人の検挙や処罰よりもまずは当該動画の拡散を防止してもらいたいとの気持ちを有するのは自然な心情であるから、たとえ本件被害申告の主たる目的が性的動画の拡散防止にあったとしても、何ら不自然なことではない」、〈2〉「(警察に対して当初口腔性交〈1〉を話さなかったことについて)Xの当時の心情は、刑事手続に初めて携わる若年者の心情としても、自責の念を抱きやすい性被害に遭った者の心情としても十分理解し得る」、〈3〉「(なめさせられたのは3名であった等事実に反する内容を申告していることについて)被害直後の段階では混乱や動揺から抜け出せず、被害を思い出すことにも苦痛が伴うであろうことは想像に難くない」などという理由で、虚偽供述の動機があるという原審弁護人の指摘を排斥しているが、原判決の説示は、それぞれ当時のXの心情を、自然で、理解し得、想像に難くないという、Xの証言が真実であるとして説明が付けられるかという方向から検討したものにとどまり、原審弁護人の指摘に対して直接応答するものとはなっておらず、この点を十分に検討した形跡がない。また、原判決は、「口腔性交〈1〉の少なくとも大まかな外形的事実については、Bや被告人Y2が供述すれば、捜査機関に判明することは想定できるので、Xが口腔性交〈1〉について殊更隠すつもりで供述していたとは認められない」と説示するが、X自身、前述の理由から警察に話していなかった口腔性交〈1〉については、話さないといけないとは思いながらも、最初に言ってなかったから言えないという気持ちであったと証言しており(X51頁)、Bと被告人Y1が逮捕された後、検察官の事情聴取の際に、口腔性交〈1〉についても自分から話をしたとはいえ(X51頁)、それまでは殊更隠すつもりであえて供述しなかったことに疑いはなく、そのようには認められないとの原判決の判断は、明らかに証拠に反している。
 そうすると、Xには、誇張、誇大な供述をし、あるいは、実際にはあった事実を伏せて矮小化した供述をするなど、虚偽供述をする動機があり、実際に虚偽供述に及んでいたことから、X証言の信用性判断に際しては、虚偽供述の可能性について、相当慎重に見極める必要があるにもかかわらず、原判決はかかる重要な視点から十分に検討をせず、Xの証言が真実であるとして説明が付けられるかという方向からの検討の仕方に偏ったものとなっているといわざるを得ない。
 イ 性行為のきっかけについての記憶の欠落
 次に、Xは、本件当日の記憶が一部ない旨述べているところ、原判決は、「特に、口腔性交〈1〉及び口腔性交〈2〉が始まったきっかけについては、それぞれ印象に残る場面であるはずなのに記憶しておらず」としながらも、「もっとも、Xが相当量の飲酒をしていたことや時間の経過を踏まえると、記憶の欠落があることは不自然ではない。」と説示する。
 しかし、Xは一次会と二次会で相当量の飲酒をしているとはいえ、その証言によれば、一次会での出来事や飲酒状況、二次会に行くことになった時の気持ち、場所決めの経緯、店を出てからB方に行くまでの間の出来事、口腔性交〈1〉をした場所やそのときの被告人Y2の位置、被告人Y1とYが来た後の二次会での出来事や飲酒状況、その後、本件性交等に至るまでの状況については、口腔性交〈2〉と口腔性交〈3〉を混同する様子は見受けられるが、相応に記憶している一方で、B方のあるマンションに到着してから、最初の記憶であるBの陰茎を口にくわえさせられている場面までの間のことは一切覚えていないというのである。一連の性行為のきっかけとなる部分については、それが最初に性的な接触を持った場面で、その場に二人きりであった相手のBが陰茎を露出しているという非常にインパクトの大きいものであって、しかも口腔性交は相手の陰茎をくわえるという一定の能動的な行為を必要とする濃厚な接触を伴う性行為であるから、そのようなことになった展開を含めて通常は記憶に残るはずであるといえ、また、その後の二次会で更に飲酒しているのに、その後のことの方を覚えている一方、口腔性交〈1〉のきっかけについて記憶がないというのは不自然であるとも評価できる。そして、性行為のきっかけとなるその始まりの場面こそ、一連の性行為について同意していたか否かという点に関わる重要な場面であるところ、前述のとおり、Xが当初の被害相談から警察の事情聴取の段階において、無理やりの性行為であると信じてもらうため、記憶にあった口腔性交〈1〉の事実をあえて話さない形で供述していたことからすると、口腔性交〈1〉のきっかけについても、同様の動機から、記憶があるにもかかわらず、覚えていないといった虚偽の供述をして事実を隠している可能性が否定できない。
 以上によれば、X証言について、性行為のきっかけについて記憶が欠落しているという点は、不自然なものとみるべき余地があるにもかかわらず、原判決が、前記諸点について十分な検討を加えることなく、飲酒量や時間の経過という点のみから不自然ではないと判断したのは、論理則、経験則等に照らして不合理であるといわざるを得ない。
 ウ Y証言との整合性について
 X及びYが腕を組んで立ち去る意思を示していたのを、BがXの身体に両腕を回して抱き付いて引っ張り、被告人Y1がYの身体をつかんで引っ張って、XとYとを引き離したとされる暴行〈2〉(以下「引き離し行為」ともいう。)について、原判決は、Xの証言内容はY証言とおおむね合致していると説示する。しかし、Y証言は反対尋問で後退し、結局、ほぼ記憶していないというに等しい曖昧なものとなっており、しかも、主尋問で述べた引き離し行為の態様も、X及びYの位置、BがXを引っ張った方向や方法について、X証言と食い違うなどしており、少なくともX証言と合致しているとして、その信用性を高めるものとはいい難い(詳細は後記(4)ウ)。
 エ まとめ
 以上検討したとおり、Xには虚偽供述の明白な動機があり、X証言の信用性については相当慎重に判断する必要がある。そして、一連の性行為のきっかけとなる口腔性交〈1〉に至る経緯について記憶がないという点は不利益になることを危惧して虚偽の供述をしている可能性が否定できない。引き離し行為についても、Y証言がX証言と合致しているとはいい難い。しかるに、原判決は、Xに虚偽供述の動機があるという観点からの検討が十分でない結果、X証言が全体として信用できるとの判断をし、一連の性行為のきっかけとなる重要な事実に関する記憶の欠落についての検討も不十分な結果、X証言が不自然ではないと判断しているのであり、論理則、経験則等に照らして不合理であるといわざるを得ない。
 そこで、以上を前提に、原判示の暴行・脅迫が認められ、強制性交等罪における暴行・脅迫に当たるかについて、検討する。
 (4)強制性交等罪における暴行・脅迫に当たるか等について
 ア 脅迫等〈2〉(口腔性交〈1〉)について
 (ア)原判決の認定
 原判決は、脅迫等〈2〉(Bが「Xの頭部を左手でつかんでその口腔内に自己の陰茎を含ませて腰を前後させ」という暴行、Bが「苦しいのがいいんちゃう」と言い、被告人Y2が「苦しいって言われた方が男興奮するからな」と言った脅迫)について、要旨、XがB方に入った直後に、リビングでBと二人きりになって口腔性交をした後、さらに、被告人Y2がリビングに入ってきたところで行われたもので(口腔性交〈1〉)、その具体的態様は、Bが、自らの強い支配領域下で、Xの頭をつかんで、それ自体が性的な意味合いの強い有形力の行使に及び、さらに、年齢や体格で勝るB及び被告人Y2が、苦しがっているXに対し、その苦痛に取り合うことなく口腔性交を強いたものである、口腔性交〈1〉は、Xが、エレベーター内において繰り返し性交等を拒絶する発言をしていた僅か4分後の出来事であることも踏まえると、脅迫等〈2〉は、Xの反抗を著しく困難にさせる有形力の行使ないし害悪の告知といえ、性交等に向けられたものと認められる、とした。
 また、原判決は、Xが同意していなかったと推認できる理由として、要旨、XとB及び被告人Y2との関係性は希薄であった上、一次会において、被告人ら及びBは、X及びYに対し、一方的に性的な事項を話題にし、性的な経験等を聞き出すなどしていたが、X及びYからは、B方に行くまでの間も含めて、積極的に性的な話題を持ち出したり、被告人ら及びBとの身体接触を図ったりしたことはなかったことが認められ、そのような経緯や関係性を踏まえると、Xは、Yとともに二次会に参加するつもりでB方に入ったのであり、被告人ら及びBのいずれとも性交等をする意図は有していなかったといえ、それにもかかわらず、B方に入ってから、容易に逃げられない状況でBに口腔性交を求められ、冗談と思っていたことが現実化しそうな状況になり、驚愕や動揺により、あるいは、抵抗すればより強度の性被害に遭うかもしれないなどといった心情に陥り、さらに脅迫等〈2〉により、苦しいと言っても取り合ってもらえず、反抗が著しく困難な状態になって、他の男性に見られる中で、口腔性交〈1〉をさせられたものであるから、口腔性交〈1〉についてXは同意していなかったものと推認できる、とした。
 (イ)当裁判所の判断
 口腔性交〈1〉における脅迫等〈2〉が強制性交等罪にいう暴行・脅迫に当たるかを検討するに当たっては、脅迫等〈2〉の内容のみならず、それがどのような経緯で行われるに至ったのかという点も重要であるところ、被告人Y2が撮影していた、エレベーター内からB方入室直後までの間の動画1(3月15日午後11時44分に撮影が開始された57秒間の動画、原審甲11)、動画2(3月15日午後11時47分に撮影が開始された9秒間の動画、原審甲11及び12)及び動画3(3月15日午後11時51分に撮影が開始された32秒間の動画、原審甲11及び12)によれば、午後11時45分頃にB方に3人が入室した後、午後11時47分頃には既にリビングにおいて口腔性交が始まっており、トイレに行っていた被告人Y2の入室により中断後、引き続き午後11時51分頃に口腔性交〈1〉が行われている。このように、B方に入室後、極めて短時間で口腔性交に至るには、かなり強度の暴行・脅迫が加えられたか、Bの求めにXが任意に応じたか以外には考えにくい(B方入室時に既に拒絶できない状態になっていたことも考えられるが、原判決は、原審検察官が主張した脅迫〈1〉(エレベーター内でのB及び被告人Y2の言動)は脅迫に当たらないと判断している。)。この点、動画2によれば、被告人Y2がリビングに入ろうとしてドアを開けた際に、Xが自分でドアを閉めたことが認められる(Bが指示等した様子は見られない。)。かなり強度の暴行・脅迫が加えられて口腔性交に至ったというのであれば、Xがそのことを記憶していると思われるし、誰かが部屋に入ってこようとしているのに、あえて自らドアを閉めて相手と二人きりになることを選択するというのは通常考え難い行動といえ、Xが口腔性交〈1〉の後、合流したYや被告人Y1とともにそしらぬ様子で二次会のゲーム等に興じていたことも併せみると、Xが、Bから口腔性交を求められ、任意に応じたものであった可能性が高い。
 一方、エレベーター内からB方入室までの間の動画1を見ると、B、被告人Y2及びXの間で以下の会話が認められる(括弧内は発言者)。「二人じゃないとしたことないの?(B)」「え、でも。それやったらもういいじゃん。(被告人Y2)」「やだー。(X)」「みんなといいんじゃない。(B)」「ヤバい。(X)」「なんで?(B)」「うん。ダメダメ。(X)」「3人。で、別、3人でしたことないんでしょ?だって。(B)」「はい。今度今度今度今度。(X)」「今度する?じゃ。(B)」「今度。いや。(X)」「じゃあオレ見とかんわ。オレ見ないわ。じゃあ1回これで閉めてもらって。(被告人Y2)」。そう言って被告人Y2が先にエレベーターを降りると、「え、ぜん、ダメダメダメ。(X)」「1回1回1回。(被告人Y2)」「やだやだやだ。(X)」などと言ってXもエレベーターを降り、「いや、じゃ、まぁ、…そっちでするわ。じゃあ。(B)」と言ってBも降り、被告人Y2とBの間で「え、なに。え。エッチするつもりでおんの。」「ま、まって、ヤバ…。」「それだけが、ヤバ…。」「…すごいでお前。」などという会話が交わされる中、Xが「どっち行くんですか?」と言い、Bか被告人Y2が「1回1回1回。行こ。」と言うのに対し、「今日はダメ。ほんとに。(X)」「なんでなん?(B及び被告人Y2)」「今日はちょっと。(X)」「体調が。(X)」などと言ううちにB方に到着し、Xは、「ヤバい、鍵してない。」と言って、ためらう様子もなく玄関内に入り、電気のついていないリビングにも自ら入っている。原判決は、口腔性交〈1〉の成否の判断において、エレベーター内において繰り返し性交等を拒絶する発言をしていた僅か4分後の出来事であることから、脅迫等〈2〉がXの反抗を著しく困難にさせる有形力の行使ないし害悪の告知といえるとするが、他方で、原審検察官が主張した脅迫〈1〉が脅迫に当たらないと判断するに当たっては、XがB方に向かう道中での身体接触や性交等の誘いは冗談と思っていたことからすれば、エレベーター内での前記要求も同様に思っていたことがうかがわれるとも説示しており、Xが真剣に拒絶していたと認定したのか、いささか分かりにくい説示となっている。この点、10階でエレベーターを降りた後、B方のリビングに入るまでのXの様子は前記のとおりであり、B方に行けば意に反して性交等させられることになるのではないかと危惧するなどした様子はうかがわれない。動画1におけるXの発言は、性交等に応じることはおよそないという強い拒絶を示すものとは必ずしもいえず、直後の口腔性交につきXが任意に応じたことと矛盾するものとはいえない。そして、脅迫等〈2〉の具体的な内容を見ても、既に口腔性交が始まって撮影開始後、有意な言動はほぼない中でされた動作や発言であって、そもそもXの口腔内に自己の陰茎を含ませて腰を前後させるという行為は、口腔性交〈1〉が開始されたときから継続的に行われている、口腔性交に通常随伴する行為であるし、頭部を左手でつかむという行為も、動画を見る限り、左手を頭部に添える程度であって、頭部を左手でつかんで強制的に前後させるというような力の加え方をしたものではない。また、Bの「苦しいのがいいんちゃう」、被告人Y2の「苦しいって言われた方が男興奮するからな」という発言も、性行為の際に見られることもある卑わいな発言であると評価可能である。原判決は、Bや被告人Y2とXとの関係性を理由にその評価を否定するが、そのような関係であれば、そのようなコミュニケーションが成立するはずがないとは必ずしもいえず、実際、エレベーター内でB及び被告人Y2が卑わいな発言をしたにもかかわらず、Xはその発言に返事をしつつ、ためらう様子もなくB方に入っているのであり、前記関係性がその評価を否定できるだけの根拠とはならない。このように、脅迫等〈2〉とされる行為や発言は、強制性交等罪にいう暴行・脅迫には当たるとは認められないし、この際の動画撮影行為が口腔性交に向けられた脅迫に当たるとみるべき事情もない。
 原判決は、口腔性交〈1〉が、暴行・脅迫がなく始まった口腔性交に引き続き行われたものであること、その結果、脅迫等〈2〉が口腔性交に通常伴う有形力の行使や卑わいな言動と評価できる余地が多分にあるのに、その可能性に目を向けず、これを強制性交等罪にいう暴行・脅迫に当たるとしたもので、その判断は不合理である。この点、脅迫等〈2〉の直後、Bが「なんでフェラしてくれてんの?逆に。…けど。」(動画3番号14)という発言をしており、口腔性交の求めに応じてくれていることに対し、驚きや意外に思う気持ちを表した発言とも解せられるところ、暴行・脅迫によって口腔性交が行われたことと相いれず、原判決の結論をとるのであれば、当然検討してしかるべき発言であるが、原判決は、この発言について検討した様子も見られない。また、同意の有無の検討において原判決が摘示する、「驚愕や動揺により、あるいは、抵抗すればより強度の性被害に遭うかもしれないなどといった心情に陥り」との心情は、Xが証言するところでもなく、根拠に乏しいものであるし、Bの「強い支配領域下」などと説示するのも、B自身の家における行為であるという以上のものはないのであって、脅迫等〈2〉から程なくして、XがBから指示等されたわけではないのに、つまり自らの判断で陰茎から口を離して口腔性交〈1〉が終わっていること、後からやって来たYに対してこのような出来事に関して伝えようとしたさまが全くないことに照らしても、Xが口腔性交〈1〉に同意していなかったと推認することは疑問であるといわざるを得ない。原判決は、口腔性交を求めたら応じてくれた旨いうBの証言を排斥するが、既に見たところに照らせば、排斥し難いものであるというほかない。
 以上のとおり、口腔性交〈1〉(脅迫等〈2〉)についての原判決の判断は不合理であり、Xが同意の上で口腔性交〈1〉をした疑いを払拭できない。
 イ 脅迫〈3〉(口腔性交〈2〉)について
 (ア)原判決の認定
 原判決は、脅迫〈3〉(Bがその様子を携帯電話機で動画撮影する中、Bが「苦しい」と言うXに、「が、いいってなるまでしろよ。お前。」と言った脅迫)について、要旨、その具体的態様は、BがXに制止された動画撮影を継続しながら、Bと被告人Y1が交互に口腔性交〈2〉をした上、Xが「苦しい」と言うのを意に介さず、命令口調で、Xの苦痛よりも自身らの性的欲求の満足を優先するよう求めるものであるとして、このような言動は、Xに更にその意に反する性交等を強要するものであり、Xの反抗を著しく困難にさせる害悪の告知といえ、性交等に向けられたものと認められる、とした。
 また、原判決は、既に口腔性交〈1〉の被害を受けている上、その後も被告人Y1に抱き付かれるなどしていたし、さらに脅迫〈3〉により、反抗が著しく困難な状態になっていたと認められ、その上、口腔性交〈2〉の態様は、年齢や体格で勝る男性2名が、動画撮影をしようとしたりする中で、それぞれ強い口調で一方的に指示し、Xは言われるがままに口腔性交や手淫をさせられ、Xが「嫌だ。」「やめてください。」「痛い。」などの発言を繰り返しても、相応の時間、口腔性交を続けさせられた上、その間、B及び被告人Y1から「調教されてないなお前。なぁ。ちょっと、されないとダメやな。」等の侮蔑的な発言も繰り返されていたというものである、XとB及び被告人Y1との関係性からしても、Xが、このような態様で両名に同時又は順次口腔性交をすることに真に同意していたとはおよそ考え難い、とした。
 (イ)当裁判所の判断
 ゲーム等をした後に始まった口腔性交〈2〉のきっかけについて、Xは明確な供述をしていない一方、B及び被告人Y1は、Yがリビングからいなくなったタイミングで、Bから、被告人Y1にも口腔性交をしてあげてほしいと求めたら、Xが応じたと供述するところ(B27頁、被告人Y1・18頁)、その後間もなくBが撮影を開始した動画5(3月16日午前1時4分に撮影が開始された13分間の動画、原審甲11)の内容を見聞きすると、B及び被告人Y1が供述するようなきっかけであったとして特に疑わしいところはない。
 そして、脅迫〈3〉の内容を見ると、既に被告人Y1及びBとXとの間で、かわるがわる口腔性交が行われていた中で、「苦しい」というXに対し、Bが「が、いいってなるまでしろよ。お前」との発言があったものであるが、内容的には口腔性交〈1〉における「苦しいのがいいんちゃう」などという発言と大差なく、いわゆる性行為の際に見られることもある卑わいな発言という範疇のものと評価可能である。この発言の前後で、Xは「嫌だ」「やめてください」「だめ」などと述べてはいる(動画5番号74、82、85、87)が、脅迫〈3〉の発言の2分数十秒前から口腔性交をしているところ、脅迫〈3〉の発言に至るまで、Xは、動画の撮影をやめてほしいとか部屋の電気を消してほしいと述べてBに従わせているほか、途中、被告人Y1に対して「痛くないですか。」(動画5番号51)と述べてもいること、脅迫〈3〉の発言の後、Bから「フェラすればいいと思っているところがちょっとかわいそうなんやけど。」と言われて、「あんまりしないですよ、フェラ。」と至って普通に会話を交わしている(同番号99、100)ことに照らすと、Xが「嫌だ」などと述べたのは口腔性交に対するものではなく、それ以外の性行為等に対するものであることが十分に考えられる(原判決が指摘するXの発言のうち「痛い」についても、Xが「痛い」と言うと、Bが「い、痛い?」、被告人Y1が「痛い?痛いんや。」と言って、Xが「うん」と答えると、Bが「でもフェラはしてくれるん?はい、フェラ。お願いします」と言っている(動画5番号91ないし95)。このような会話内容に照らせば、Xが痛がった原因は口腔性交ではないとともに、Bや被告人Y1は、Xが痛がる行為はやめていることがうかがわれる。)。また、脅迫〈3〉の発言があった後、Yの話が出たときに「え、私がやるので大丈夫です。」(同番号123)と言った後、「じゃあ私がやって。はい。早く早く早く。」(同番号124)と被告人Y1から求められると、「座りますか?」(同番号126)と気遣いを見せてもいる。このようなやりとりの中に緊迫感やこれに類するものがないことも踏まえると、脅迫〈3〉の発言も、口腔性交〈1〉と同様、既に行われている性行為の中でその一環としてなされた言動であって、Xの反抗を抑圧して性交等を行うための手段になっているものではないから、強制性交等罪にいう脅迫とは認められない。
 原判決は、Xが口腔性交〈1〉に同意していなかったという前提に立ち、脅迫〈3〉について脅迫〈2〉と同様の判断を示した上で、口腔性交をBが求めたら応じてくれた旨いうBの証言及び被告人Y1の供述を排斥するが、既に見たところに照らせば、これらは排斥し難いものであるというほかない。
 以上のとおり、口腔性交〈2〉(脅迫〈3〉)についての原判決の判断は不合理であり、Xが同意の上で口腔性交〈2〉をした疑いを払拭できない。
 ウ 暴行〈2〉(引き離し行為)(本件性交等)について
 (ア)原判決の認定
 原判決は、暴行〈2〉(Yと腕を組んで同所から立ち去ろうとしていたXに対し、Bがその後方からXの身体に両腕を回して抱き付いて引っ張り、被告人Y1がYの腕をつかんで引っ張って、YをXから引き離すなどした暴行)について、要旨、X及びYの各証言に信用性を認め、X及びYが腕を組んで立ち去る意思を明らかに示していたにもかかわらず、BがXの身体に両腕を回して抱き付いて引っ張り、被告人Y1がYの身体をつかんで引っ張って、XとYを引き離した事実が認められ(Yが引っ張られた部位については、直接体験したY自身の明確な供述がないことから、両名の供述が一致する身体のいずれかという限度で認定)、Xとしては、これ以上性的な行為をされないために、Yと一緒にB方から立ち去りたいと考え、実際、かばんを肩に掛けるなど帰宅の準備をした上で、Yと腕を組むなどして、Yと一緒に立ち去る意思を明確に示していたにもかかわらず、結局、帰宅を断念せざるを得なくなったことにより、反抗することが著しく困難な状態になったものと推認されるとした。
 また、原判決は、Xは、Bや被告人Y1から強制的に口腔性交〈1〉や口腔性交〈2〉をされ、しかも、帰宅したい旨述べたにもかかわらず、結局、暴行〈2〉により、帰宅を断念させられた上で、本件性交等をさせられており、前記のとおり、Yと一緒に立ち去る意思を明確に示していたにもかかわらず、結局、XだけがB方に残ることになったことで、より一層、反抗することが著しく困難な状態になったものと推認され、そのような状態で行われた本件性交等にXが同意していなかったのは明らかであるとした。
 (イ)当裁判所の判断
 まず、Xの信用性判断において要旨を示した(前記(3)ウ)引き離し行為の有無について改めて検討する。原判決は、Xの証言内容はY証言とおおむね合致していると説示するところ、Y証言の概要として、「Xと一緒に帰ろうという話をして、かばんを持ち、Xと腕を組んだ。その後、Bと被告人Y1がリビングに入ってきたので帰りたいと伝えたところ、BがXを、Xの脇の下に両腕を入れて肘を曲げる形でつかんで引っ張り、Xと組んでいた腕が外れた。詳しく覚えていないが、そのとき自分は、被告人Y1から腕を引っ張られたと思う。被告人Y1のいた位置は覚えていない。」と要約している。しかし、Yは主尋問ではこのような内容を述べていたが、反対尋問では、「確実に(被告人Y1に)引っ張られたって言われたら、そうでもないです。」「(供述調書では腕とは特定せず、どこかをということだから、つかまれた場所は、そのときには説明ができなかったということではないか)はい。」「(引っ張られたりしたイメージという表現を使っているから、引っ張られたかどうかについても記憶にはっきりしないということで、こういう表現になったのではないか)はい。」と後退し、結局、再主尋問でも、「(今のYの記憶の中では、Y自身が被告人Y1に腕を引っ張られたという記憶は、はっきりしないということになるのか)はい。」と答えている。一連の性行為の中で、最も顕著に有形力が行使された場面であるにもかかわらず、Y証言はこのように証言中に後退し、結局、ほぼ記憶していないというに等しい曖昧なものとなっており、しかも、主尋問で述べた引き離し行為の態様は、そのときのX及びYの位置、BがXを引っ張った方向や方法について、X証言とY証言とは明らかに食い違っている。Yは、自分がXを飲み会に誘い、現場にもいたのにXが性被害を受けたと述べていることで、自責の念を抱いているものと推察され、Xの利益のために、意識的、無意識的に誇張したりXに同調したりして虚偽の供述をする動機や危険性があるところ、真にYが被告人Y1から公訴事実どおりの直接的な有形力の行使を受けたのであれば、飲酒の影響があることを踏まえても、Yにとって相当衝撃的・印象的な出来事であって、記憶に残る可能性が高いといえ、証言が曖昧であることは、このような出来事があったことに疑いを抱かせるものであり、このようなことを十分考慮せずに、Y証言が信用できるとした原判決は不合理であるといわざるを得ない。そうすると、X証言及びY証言の信用性は十分なものとはいえず、被告人Y1がYを引っ張ったという事実は認定できない。
 一方、BがXに抱き付いて引き止めた行為については、B自身、口腔性交をしてもらっていたこともあり、それ以上にもっと口腔性交してもらいたいとか、あわよくば、性交できたらなという思いがあり、Xに抱き付いてCを交換しようとしたとして、前記行為に及んだことを認めており(B42頁)、本件性交等に向けられた暴行となり得ないではない。
 しかし、Bの抱き付いて引き止める暴行によって、Xに同所から立ち去ることを断念させたといえるには、Xが証言するような、何度も帰りたいと言ったのに帰らせてもらえなかったといった状況が必要であり、これが認定できて初めて、有形力の行使もあったことで、YのためにXは残らざるを得ないと諦めたということになるが、動画5の中では、X及びYが帰りたいと言ったのに対し(動画5番号270、273)、Bが、「そうなん?Yとしゃべれてないよ、オレ。」(同番号293)、「Yとしゃべりたい、オレ。えー、あかんか。もう帰っちゃう?」(同番号295)といった程度であり、残念そうにしつつも、「そっか」(同番号302)と諦めており、被告人Y1が「(Bから、Yが帰って彼氏とエッチすると言ったと聞いて)許さん。」と言ってはいるが(同番号324)、その語調からして冗談めかして言ったものと認められ、それ以外に、帰ってはいけないという言葉や態度を示したところは見当たらない。それどころか、動画5の最後は、Xと会話していたBがXに対し「C交換しよ」と言った後、被告人Y1が「(Yを)送って帰るわ。」と言い、Bが「あー、頼む。」と応じたところで終了している(動画5番号350、351)。動画5は、口腔性交〈2〉が始まった際にBが携帯電話で動画撮影していたのをXに撮るのは絶対だめで、携帯電話を置くように言われて置いたというのが始まりの方にあり(同番号6ないし8、29、30)、この動画が終了したタイミングについて、Bは、ずっと撮っている認識ではなくて、消し忘れて置いてあったものなので、帰るときに、XとCの交換をするということになって、自分が携帯を拾い上げたことで動画が終わったのだと思う(B39、40頁)、そのとき(動画が終わる直前)、Xは、リビング内の廊下への出口付近のベッド横におり(B41、42頁)、Cを交換するために携帯を取った後、動画5が終了した直後に、Xの腰か腕に腕を回す感じで抱き付いてそのままベッドに座ったんだと思う、そのときにはYと被告人Y1はもう既に廊下の方にいた(B43ないし47頁)と証言するところ、動画やそれをキャプチャーした写真という客観証拠を基に説明するもので、動画の終わり際の会話の内容にも整合し、被告人Y1の供述(被告人Y1・37頁以降)ともおおむね合致しており、その信用性を否定できない。Xが証言するような、動画5の後に、何度言っても帰らせてもらえないから諦めざるを得ない、Yだけでも帰らせてあげてほしいと考えるしかないような展開になったというのは、このような動画5からうかがわれる状況に照らすと、必ずしも信用し難いのであり、むしろC交換を名目とするBの引き止めを受けて、残ることにした可能性を払拭できない。
 そして、Bの抱き付き行為の後、被告人Y1がYを送りに外へ出て、戻ってきたときには、またBとXの間で口腔性交〈3〉が始まっていたのであり、前同様任意に応じたものとしても、不合理ではなく、Bの抱き付き行為は、強制性交等罪にいう暴行・脅迫に当たるとは認められないし、その後に行われた膣内性交までに、新たに暴行・脅迫が加えられたことも認められない。動画撮影行為が膣内性交に向けられた脅迫に当たるとみるべき事情もない。
 以上のとおり、本件性交等(暴行〈2〉)について、前記認定に至った原判決は、X及びYの虚偽供述の動機等についての判断の不合理さに加え、X証言がY証言とおおむね合致するとした点等でも不合理であり、Xが同意の上で本件性交等に及んだ疑いを払拭できない。
 (5)補論
 念のため、Xが動画の撮影を止められず、事後に動画拡散防止のための行動に出たことが、口腔性交〈1〉、同〈2〉及び本件性交等がXの同意によらずに行われたものであることを推認させるものではないかについて検討を加えておく。この点、Xは、本件性交等時、Bが動画を撮影していることに気付き、撮らないでほしいと思ったが、それまでも言っていたのに撮られたので諦めていた旨証言する(X43頁)。しかし、前記のように、口腔性交〈2〉に関する動画5は、口腔性交〈2〉が始まった際にBが携帯電話で撮影していたが、Xに撮るのは絶対だめで、携帯電話を置くように言われて置いたことを示すものであり、X証言はこのような客観証拠にそぐわない。Xが本件性交等時に動画の撮影をやめるよう言わなかったのは、言えなかったからではなく、言いそびれたといったようなものである可能性があり、後刻不安になったことから拡散防止のための行動に出たというもので、本件性交等がXの同意によらずに行われたものであることを推認させるものとはいえない。
 (6)結論
 以上の次第であり、その余の点について判断するまでもなく、X証言の信用性等についての原判決の判断は論理則、経験則等に照らして不合理であって、強制性交等罪にいう暴行・脅迫があり、Xの同意がなかったと認めた原判決には被告人両名の関係で判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある。
 被告人両名の事実誤認の各論旨はいずれも理由があり、被告人Y1に関するその余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。
第2 破棄自判
 そこで、刑訴法397条1項、382条により原判決を破棄し、同法400条ただし書により更に判決することとし、本件公訴事実については、これまで説示したとおり、被告人両名の関係で犯罪の証明がないことになるから、同法404条、336条により、被告人両名に対し無罪の言渡しをすることとする。
 よって、主文のとおり判決する。

第6刑事部