児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

リベンジポルノに対する児童ポルノ法の対応状況

 大橋検事が指摘するように強姦児童ポルノが撮影される事件というのは、珍しくないんです。
 重箱をつつくような話ですが、あえて対応してない点を捜せば、
  複製行為が製造罪にならないこと
  盗撮の場合に製造罪が成立しないこと
  所持が禁止されてないこと
でしょうね。

児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律」法令解説資料総覧(第一法規、2004)

提供目的のない児童ポルノの製造行為(単純製造)
他人に提供する目的のない児童ポルノ(有体物)の製造のうち、児童に児童ポルノに該当する姿態をとらせ、これを写真撮影等して児童
ポルノを製造する行為については、当該児童の心身に有害な影響を与える性的搾取行為にほかならず、かつ、流通の危険性を創出する点でも非難に値する。また、児童の権利条約選択議定書においても、「製造」については目的を関わず犯罪化することが求められている。
このため、改正法では、児童に本法二条三号に掲げる姿態をとらせ、これを写真等に描写することにより児童ポルノを製造する行為については、これを処罰することとした(七条三項)。
ここでいう「姿態をとらせ」とは、行為者の言動等により、当該児童が当該姿態をとるに至ったことをいい、強制によることは要しない。

大橋充直「検証ハイテク犯罪の捜査 第41回特集 児童買春・児童ポルノ禁止法の改正」捜査研究 第640号
実際,実務の動きを見てみると,児童ポルノの製造・販売を職業とする営業犯では,数百万円ものデジタル撮影機材を駆使して,児童ポルノを製造・販売するところもあるが,近時の携帯写メールや安価なデジタル・カメラ(ビデオ)の普及により,最近は,一般サラリーマンはおろか,高校生ですら,容易に児童ポルノを製造(盗撮)できるようになり,デジタル児童ポルノ製造の容易化・一般化・低年齢化の傾向化が現れてきている。素人による児童ポルノの製造は,いわゆる「ハメ撮り」の形態が多く,児童買春の機会になされることが多い。
そのためだけではないが,児童買春・児童ポルノ禁止法違反を含む性犯罪では,犯人の携帯電話を真っ先に押収するととが。普通の捜査手法となっている。(注5)
(注5) 正確に言えば素人による「ハメ撮り」児童ポルノの製造は,児童買春の場合に限られない。強姦犯人が,強姦の際に「口封じ目的」や「後で見て楽しむ目的」で,レイプシーンを静止画(デジタル・カメラ)や動画(デジタルビデオ)で撮影する輩も普通に出現してきたのである。これは強姦の犯人性の動かぬ証拠となるが.反面,検挙前にレイプシーンの児童ポルノを友人に配布したり,甚だしきは,レイプ児童ポルノを投稿掲示板にアップする輩まで現れてきた。かくいう筆者も,合議法廷の立会という実務に復帰してまだ1年
と半年足らずなのに,詳細は守秘義務の関係で割愛するが,このような例に既に十数件も遭遇している(筆者は繁忙庁である横浜地検といっても合議法廷担当なので単独法廷よりも担当件数がかなり少ないにもかかわらずである。)。

島戸「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」警察学論集57-08
(5) 第3項の罪
ア趣旨
他人に提供する目的を伴わない児童ポルノの製造であっても、児童に児童ポルノの姿態をとらせ、これを写真撮影等して児童ポルノを製造する行為については、当該児童の心身に有害な影響を与える性的搾取行為に他ならず、かっ、流通の危険性を創出する点でも非難に値する。
実際、児童の権利条約選択議定書においても、「製造」(producing) を犯罪化の対象としており、かっこれについては、「所持」について目的要件を係らせているのとは異なり、目的のいかんにかかわらず、犯罪として処罰することが求められている。
一方、既に存在する児童ポルノを複製する行為それ自体は、必ずしも直ちに児童の心身に有害な影響を与えるものではない上、いわゆる単純所持と同様、児童ポルノの流通の危険を増大させるものでもないから、複製を含めすべからく製造について犯罪化の必要があるとまでは思われない。
そこで、複製を除き、児童に一定の姿態をとらせ、これを写真等に描写し、よって児童ポルノを製造する行為については処罰する規定を新設したものである。
イ保護法益
第7条第3項は、児童に第2条第3項各号に掲げる姿態をとらせた上、これを写真等に描写し、よって当該児童に係る児童ポルノを製造する行為が、児童の心身に有害な影響を与える性的搾取行為に他ならないことから、これを処罰するものであり、その保護法益は、第一次的には描写対象となる児童の人格権である。加えて、ひとたび児童ポルノが製造された場合には、流通の可能性が新たに生ずることとなり、このような場合には児童を性的行為の対象とする社会的風潮が助長されることになるので、このような意味において、抽象的一般的な児童の人格権もその保護法益とするものである。
ウ構成要件
第2項に規定するもののほか、児童に第2条第3項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造する行為である。
(ア,) 「姿態をとらせ」
「姿態をとらせ」とは、行為者の言動等により、当該児童が当該姿態をとるに至ったことをいい、強制によることは要しない。
いわゆる盗撮については、本項の罪に当たらない。一般的にそれ自体が軽犯罪法に触れるほか、盗撮した写真、ビデオ等を配布すれば名誉段損の罪も成立し得るし、他人に提供する目的で児童ポルノを製造すれば、第7条第2項、第5項により処罰されることとなる。
22)盗撮された児童は、盗撮の事実に気付かず何ら特別の性的行為を強いられ、あるいは促されるわけではないから、直ちに性的虐待を受けたものとはいえないし、提供目的を欠く場合、盗撮の結果が児童の心身に悪影響を及ぼす危険が具体化しているともいえないから、盗撮を手段とした単純製造の行為を直ちに児童ポルノに係る罪として処罰する必要はない。他人に提供する目的がある場合は、第7条第2項又は第5項の罪が成立する。
23) もっとも、例外的に、児童が他者に対して執勤、積極的に自身の児童ポルノを作成させるよう働きかけたような場合に、製造罪の共犯が成立することは理論上考えられる。