児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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6歳児に対する強制わいせつ致傷事件・認容額442万7350円(東京地裁平成22年12月15日)

 全治2日

第1 請求
 主文と同じ。
第2 事案の概要
 本件は,東京地方裁判所平成21年合(わ)第392号強制わいせつ致傷被告事件(以下「本件刑事事件」という。)において,被害者である原告が,本件刑事事件の被告人であった被告に対する犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律第6章所定の刑事損害賠償命令を申し立てて,442万7350円の損害金及びこれに対する不法行為日である平成21年8月29日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を命じる仮執行宣言付き決定を得たところ,被告が,同決定に対して異議申立てをした事案である。
 なお,原告は,当審移行後,被告に対する請求を,上記決定によって認容された内容に減縮した。
 1 前提事実(当事者に争いがないか,弁論の全趣旨により認められる事実)
  (1) 原告は,平成21年8月当時,6歳の女児であった者であり,後記(2)の本件事実の被害者である。
 被告は,本件刑事事件の被告人であった者である。
  (2) 被告は,原告(当時6歳)が13歳未満であることを知りながら,同人にわいせつ行為をしようと考え,平成21年8月29日午後3時40分ころから同日午後4時ころまでの間,東京都中央区〈以下省略〉中央区立a公園女子公衆トイレにおいて,同人の陰部を直接指でなで回し,続いて,同区〈以下省略〉中央区立b遊園障害者用公衆トイレに同人を連れて行き,同所において,その陰部を直接指でなで回したり,陰部に指を挿入し,その際,同人に全治まで約2日間を要する膣内擦過傷の傷害を負わせた(以下「本件事実」という。)。
  (3) 被告は,平成21年9月18日,本件事実を公訴事実とする本件刑事事件の被告人として東京地方裁判所に起訴され,審理の結果,平成22年3月2日,本件事実につき有罪と認定され,懲役6年,未決勾留日数中100日を刑に算入する旨の実刑判決を受けた。
  (4) 原告は,平成22年3月1日,本件刑事事件の係属する東京地方裁判所に対し,同事件で訴因として特定された本件事実を不法行為とする損害賠償として,被告に対して慰謝料,治療費及び弁護士費用の合計552万7350円及びこれに対する不法行為日である平成21年8月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める刑事損害賠償命令(東京地方裁判所平成22年(損)第6号)を申し立てて,同年3月19日,上記請求のうち442万7350円及びこれに対する平成21年8月29日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の限度で認容する旨の仮執行宣言付き決定(以下「本件決定」という。)を得た。
 被告は,平成22年4月1日,本件決定につき異議申立てをした。
 2 争点及びそれに関する当事者の主張
 本件の争点は,原告の損害額,特に慰謝料額であり,それに関する当事者の主張は,以下のとおりである。
 〔原告の主張〕

第3 争点に対する判断
 1(1) 慰謝料について
 本件事実は,6歳の幼女であった原告が,自宅近くの公園の女性用トイレの個室に入っていたところ,突然上記トイレの個室に侵入してきた見知らぬ大人の男性である被告によって執拗に陰部をさわられたり,指を挿入されるというわいせつ行為の被害を受け,その後自転車で移動させられた別の公園のトイレでも同様のわいせつ行為の被害を受け,出血を伴う膣内擦過傷の傷害を負ったというものであり,被告の上記行為によって,幼い原告が多大の肉体的,精神的苦痛を受けたであろうことは想像に難くない。そして,原告は,上記事件の3日後に聖路加国際病院の小児科・小児心理の医師から「外傷後ストレス障害心身症)」の診断を受け(甲11),事件後の数日間は歩行や排泄,排尿に支障が生じ,さらに,事件直後から,夜眠れない,悪夢で怯えるなどの明らかな影響が生じて約半年後の本件刑事事件の第1回公判期日の時点でもそのような状況が続き,さらに被告に似た年格好の男性や自転車に反応して怯える,母親に自分が男の子であれば被害に遭わなかったといって,女の子らしい服装を拒否するなどの言動がある(甲5)ことからすれば,事件後においても,多大の肉体的,精神的苦痛を受けていることは明らかであるし,原告の年齢からすれば,事件後の通院や,転校及び転居による環境変化によっても,相当な精神的苦痛や負担を感じることは当然であるといいうことができる。また,事件後の原告の上記言動は,児童精神医学の専門医であるC医師が性的被害を受けた女児について懸念される影響として指摘した兆候(甲6)と合致しており,被告の行為によって原告に将来深刻な影響が生じる可能性があることは否定できず,本件で原告が被った肉体的,精神的苦痛は極めて大きいものであったことが認められ,その他本件で認められる一切の事情を総合考慮すると,被告が原告に対して支払うべき慰謝料の額は,400万円を下らないというべきである。
 これに対し,被告は,診断書(甲11)に,病名の記載はあるが診察時及びその後の症状についての記載がなく,記載されているのは,今後周りの者が見守って気をつけることが好ましいとの内容にすぎない,母親の証言は,原告の症状につき母親として過大に感じて誇張されていると考えられ,信用性が疑わしい,C医師の証言は,被害者である原告と一面識もなく,直接診察したことも両親と接触したことすらないのであるから,その内容は,原告について述べたものではなく,一般的な医学知識にすぎない旨主張している。しかし,上記診断書(甲11)は,事件から3日後に原告を直接診察した医師が,原告及び母親と面談した上,同時点における診断結果を記載したものであり,その性質上,原告の現在又はその後の症状を記載していないことは当然であるし,附記されている内容も,原告及びその母親から聴取した内容を前提にして,医師としての医学的判断に基づく指示事項であるから,被告の上記批判は,いずれも当たらないものというべきである。また,原告の母親の証言(甲5)については,客観的事実を具体的に述べており,格別信用性を疑わせたり,誇張した表現になっている部分はないし,C医師の証言についても,その内容は,基本的には,性的被害を受けた女児に関する一般的な医学知識であるとしても,C医師と原告の母親の各証言内容を併せ考えれば,前記説示のとおり,原告について,性的被害を受けた女児に生じる典型的な現象の兆候が現れていることは明らかであり,今後の影響についての確定的な判断まではなし得ないものの,将来原告に深刻な影響が生じるおそれがあることは否定できないというべきである。したがって,被告の主張は,いずれも採用することができない。
  (2) 治療費等について
 証拠(甲8の1から8の3,9の1,9の2,10の1,10の2)によれば,原告が,平成21年8月29日,31日,9月14日及び31日に聖路加国際病院の小児科を受診し,診察料,カウンセリング料及び診断書作成料として,合計2万7350円を支出した事実が認められ,これらは,被告の不法行為と相当因果関係を有する損害に当たるということができる。
  (3) 弁護士費用
 原告が弁護士である訴訟代理人に本件訴訟の遂行を委任したことは,当裁判所に顕著な事実であり,その弁護士費用についても,不法行為と相当因果関係を有する損害に当たるというべきであるところ,本件で認められる事情を総合すれば,本件で認められる弁護士費用としては,上記(1)及び(2)の合計額の約1割に当たる40万円が相当である。
  (4) 以上の次第で,原告は,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償として442万7350円(400万円+2万7350円+40万円)及びこれに対する不法行為日である平成21年8月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
 2 よって,原告の本訴請求は理由があり,これと同旨の本件決定は相当であるから,同決定を認可することとし,主文のとおり判決する。
 (裁判官 宮島文邦)