イモビカッターの話はどこに?
(注1)本件では,正犯者甲らによる窃盗行為,被告人から甲へのイモビカッターの販売行為など外形的事実について争う余地がなく.また,公判段階において.被告人が幇助意思も含めて幇助罪の成立を争わなかったことから,判決文中には事案の検討に当たって参考となる事項が記載されていないが.本稿では,同種事例に対する今後の実務の参考にするため,名古屋地方検察庁の主任検事から提供していただいた有益な情報に言及しつつ,本件の事実関係を紹介することとした。
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第4 中立的行為と幇助について
上記のように.本件においては,いわゆる「中立的行為による幇助」として議論されている問題は生じなかったが.この機会に,本稿では.この問題を考えるに当たって参考となると思われる裁判例を紹介するなどした上で.「中立的行為による幇助」として議論されている問題について若干の考察を試みることとしたい。
l 参考裁判例
筆者が把握できたところによると,判決文中において,幇助犯の成立が問題となった行為について「価値中立」といった概念が用いられているものは.前述のWinny事件における第一審判決である京都地裁平成18年12月13日判決(判タ1229号105頁)及びその控訴審判決である大阪高裁平成21年10月8日判決(公刊物未登載)のみである
・・・・同判決が示した「多様な情報の交換を通信の秘密を保持しつつ効率的に可能にする有用性があるとともに,著作権の侵害にも用い得るというソフトである」ことをもってWinnyが価値中立であるとすること自体は.「価値中立」という概念の立て方の問題であり,それ自体にさほどの意味があるとは思われないが{注7) 行為者の主観的事情やWinnyの客観的利用状況等を的確に評価せずに,価値中立であるWinnyの提供行為を価値中立の行為であるとした判断については大いに異論のあるところのように思われる。