児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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高等裁判所の判決中の判断がその上告審である最高裁判所の決定において否定された場合における上記判決の刑訴法405条3号の「判例」該当性

 罪数処理で各高裁が迷って、最高裁の判断も遅れたので、巻き込まれた被告人がいるということです。

1審においては事実関係に争いがなく,1審判決は被告人を懲役3年6月に処した。被告人は,量刑不当を理由に控訴したが控訴審判決はこれを排斥し,控訴を棄却した。これに対して被告人が上告し、上告趣意において本件の控訴審判決は,児童淫行罪と児童ポルノ製造罪とを併合罪の関係にあると判示しているところ,児童淫行罪と児童ポルノ製造罪との罪数関係については控訴審判決時には、これが観念的競合の関係に立つとする札幌高判平19.3.8高刑速(平19)3頁があり、本件の控訴審判決が上記札幌高裁の判決と相反する判断をしたとする判例違反の主張をした。
しかし,本件の控訴審判決後上記札幌高裁判決の上告審である最小決平21.10.21刑集63巻8号1070頁は,上記の罪数関係は併合罪である旨の職権判示をし,札幌高裁判決を破棄こそしなかったものの,その罪数判断を否定し札幌高裁判決は判例性を失った。
このように,本件の佳訴審判決後ではあるが,引用された高裁判決の判示部分が自身の上告審で否定された場合、当該引用判例は刑訴法405条3号にいう「判例」に当たるのか否かが問題とされたものである。
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むしろ,この点については,未確定の判例における判例性は不安定かつ脆弱なものであるから,確定した判例の場合と全く同様に扱う必要はなく,最高裁の法令解釈を統一するという目的からしでも,刑訴法405条3号にいう「判例」といえるためには,原判決時に判例が存在することに加え,高裁判例の判断部分がその上告審において否定されていないことが必要であり,当該判断が否定された場合は,将来に向かつて適法な上告理由は消滅したものとして,もはや刑訴法405条3号の「判例」に当たらないと考えることが相当なように思われる。実質的にみても.最高裁判例により,既に高裁判例の判示部分が明示的に否定されて判例性を失っているのに.わざわざそれを原判決時における有効な判例として取り扱うことに合理性があるとも思われない。
なお,原判決時に存在する高裁判決に違反すると主張したが原判決後に当該高裁判決が上告審において破棄された場合は同判決は刑訴法405条3号の「判例」に当たらないと判示した最一小決昭51.9.14刑集30巻8号1611頁,判タ341号302頁があるが,その理由は,高裁判決自体が破棄されて判決そのものの言渡しがなかったことになることから,刑訴法405条3号の「判例」に当たらないとされたものと説明されている。
本決定は,以上のような考えのもと,先にみたような判示をしたものと推察される。