児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

最決H13.7.16は早晩修正されるであろう。

 データが閲覧者に渡ってしまっていても「陳列」だというのですが、現行刑法でいえばずばり「頒布」になります。
 児童ポルノについても、H16改正以降、公然陳列罪か4項提供罪が争われていて、どっちでもいいという立法者の解説があったところ、大阪高裁は公然陳列罪のみ説を貫いていました。H24に公然陳列罪か4項提供罪どっちでもいい説になりました。8年掛かっています。

最高裁判所第3小法廷決定平成13年7月16日
【掲載誌】  最高裁判所刑事判例集55巻5号317頁
       裁判所時報1296号369頁
       判例タイムズ1071号157頁
       判例時報1762号150頁
【評釈論文】 警察公論57巻6号50頁
       研修641号109頁
       研修650号15頁
       現代刑事法4巻8号79頁
       ジュリスト臨時増刊1224号166頁
       ジュリスト1228号260頁
       法学教室257号137頁
       法学教室258号別冊付録35頁
       法曹時報56巻2号269頁
       別冊NBL79号104頁
 弁護人川口直也外3名の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は,憲法違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。
 なお,所論にかんがみ,職権により判断する。
 原判決の認定によると,被告人は,自ら開設し,運営していたいわゆるパソコンネットのホストコンピュータのハードディスクにわいせつな画像データを記憶,蔵置させ,それにより,不特定多数の会員が,自己のパソコンを操作して,電話回線を通じ,ホストコンピュータのハードディスクにアクセスして,そのわいせつな画像データをダウンロードし,画像表示ソフトを使用してパソコン画面にわいせつな画像として顕現させ,これを閲覧することができる状態を設定したというのである。
 まず,被告人がわいせつな画像データを記憶,蔵置させたホストコンピュータのハードディスクは,刑法175条が定めるわいせつ物に当たるというべきであるから,これと同旨の原判決の判断は正当である。
 次に,同条が定めるわいせつ物を「公然と陳列した」とは,その物のわいせつな内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くことをいい,その物のわいせつな内容を特段の行為を要することなく直ちに認識できる状態にするまでのことは必ずしも要しないものと解される。被告人が開設し,運営していたパソコンネットにおいて,そのホストコンピュータのハードディスクに記憶,蔵置させたわいせつな画像データを再生して現実に閲覧するためには,会員が,自己のパソコンを使用して,ホストコンピュータのハードディスクから画像データをダウンロードした上,画像表示ソフトを使用して,画像を再生閲覧する操作が必要であるが,そのような操作は,ホストコンピュータのハードディスクに記憶,蔵置された画像データを再生閲覧するために通常必要とされる簡単な操作にすぎず,会員は,比較的容易にわいせつな画像を再生閲覧することが可能であった。そうすると,被告人の行為は,ホストコンピュータのハードディスクに記憶,蔵置された画像データを不特定多数の者が認識できる状態に置いたものというべきであり,わいせつ物を「公然と陳列した」ことに当たると解されるから,これと同旨の原判決の判断は是認することができる。
 よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 奥田昌道 裁判官 千種秀夫 裁判官 金谷利廣 裁判官 濱田邦夫) 

阪高裁H24.6.1
(1)原判示第5事実の擬律及び罪数(控訴理由第1,第2,第5)について
ア原判示第5事実は,被告人が,被害児童9名に係る性交又は性交類似行為に係る姿態等を記録した動画データ43ファイルを,インターネットサイトのデータ保管先であるサーバーコンピュータに送信し,そのハードディスク内に記憶,蔵置させ,同サイトのダウンロード会員4名に対し,上記動画ファイルを販売してダウンロードさせたものであるところ,この行為は,不特定又は多数の者に対し,児童ポルノの内容をなす情報を記録した電磁的記録を利用し得べき状態に置いたものにほかならず,4項後段提供罪が成立する。
そして,4項後段提供罪は,不特定又は多数の者への提供行為が構成要件とされており,その構成要件上複数回の提供行為が行われることも当然に予定されていることからすると,上記4名に対する動画ファイルの提供は包括一罪となると解される。
イ弁護人は,インターネットに接続されたサーバーに動画ファイルを蔵置する行為は児童ポルノ公然陳列罪(児童買春,児童ポルノ等処罰法7条4項前段)に該当するものであって,4項後段提供罪には当たらないと主張する。
しかし,本件につき,サーバーコンピューター内のハードディスクを,電磁的記録に係る記録媒体(同法2条3項)としてとらえた場合には児童ポルノ公然陳列罪が成立するとしても,同公然陳列罪と4項後段提供罪とは,一方が成立することが他方の成立を妨げる関係にはなく,双方が成立する場合にはそれらが包括―罪の関係に立つに過ぎないものと解される。
そして,検察官においてそのような関係にある複数の罪が成立すると認める場合において,そのいずれか一方についてのみ公訴提起するか双方につき公訴提起するかは,検察官の訴追裁量に委ねられているところである。
本件では,検察官において,その訴追裁量権に基づき,4項後段提供罪についてのみ公訴の提起をしたものであるから,これにつき同罪の成立を認めて児童買春,児童ポルノ等処罰法7条4項後段を適用した一審判決の法令適用に誤りはない。
弁護人の主張は採用できない。
また,弁護人は,4項後段提供罪の既遂時期は,会員が自己のコンピュータ等に画像データを記録,蔵置した時点であって,そのような事実が摘示されていない本件では被告人の所為は未遂にとどまり,未遂罪の処罰規定がない同罪は成立しない旨主張するが,同罪が既遂に達するためには,電磁的記録等を相手方において利用し得べき状態に置けば足り,一審判決の「同データをダウンロードさせ」との判示は,本件動画データファイル4を同判示のダウンロード会員4名において利用し得べき状態に置いたことを過不足なく判示したものであるから,これに4項後段提供罪を適用した一審判決の法令適用に誤りはない。
弁護人の主張は採用できない。
ウ 以上によれば,一審判決が,原判示第5事実につき児童ポルノ公然陳列罪でなく,包括して4項後段提供罪を適用したのは正当である。