児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「女児にわいせつ」元教師に刑の上限、懲役30年求刑

 撮影行為が強制わいせつ罪として起訴されている可能性があるのですが、3項製造罪と併合罪になるという見解によれば、訴因不特定になるので、どうなるかなぁ〜?

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090701-00000657-yom-soci
起訴状によると、被告は2001年11月〜06年7月、勤務していた広島県三原市立小の女児10人に対し、学校内などでわいせつな行為をした、としている。


 余罪を考慮して重い量刑にすると、余罪について告訴が出たときに、科すべき刑が無くなります。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090701-00000150-mai-soci
校内で10人の女児に性的暴行を加えたとして強姦(ごうかん)罪や強姦未遂罪などに問われている元小学校教諭(43)・・・
・・・
検察は論告で「ビデオで撮影し、口止めさせた」「被害者の楽しい小学校の思い出をめちゃくちゃにした」「教師と生徒の信頼関係などを崩壊させ、教師への信頼をおとしめた」などと主張。また、01年11月から06年7月にかけて、強制わいせつ13件▽強姦46件▽強姦未遂11件▽児童福祉法違反13件を繰り返していたことを明らかにした。

 これだけ長期刑だと、そのまま服役することはなくて、控訴するんじゃないかと思いますが、控訴理由としては、撮影行為はわいせつ行為か?という問題から考えてあげないとだめですね。最近は、児童ポルノ製造罪という特別法があるので、そっちで評価されて、撮影以外のわいせつ行為とは併合罪になるんじゃないか?(国会議員の先生方はよく知らないから重くなる方に賛成してくれると思いますが、検事さんは回答に困ると思います。)

法令違反・判例違反〜撮影行為は強制わいせつ罪の実行行為ではない
1 はじめに
 一審判決の罪となるべき事実のうち撮影する行為の部分は、「わいせつな行為」ではない。

2 わいせつ行為=身体的接触を伴う行為である
 刑法は全てのわいせつ行為(犯人の性的傾向の発現)を処罰するものではなく、暴行・脅迫等に手段を限定しており、程度が著しい場合には致傷罪を用意しているところである。

第176条(強制わいせつ)
十三歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
第178条(準強制わいせつ及び準強姦)
人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第百七十六条の例による。
2 女子の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、姦淫した者は、前条の例による。
第181条(強制わいせつ等致死傷)
第百七十六条若しくは第百七十八条第一項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は三年以上の懲役に処する。
2 第百七十七条若しくは第百七十八条第二項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって女子を死傷させた者は、無期又は五年以上の懲役に処する。
3 第百七十八条の二の罪又はその未遂罪を犯し、よって女子を死傷させた者は、無期又は六年以上の懲役に処する。
 だとすれば、「わいせつな行為」も、暴行脅迫等に関連して、被害者の身体に接触する行為が予定されているというべきである。

 池本判事の論稿をみても、着衣の上から接触する行為について成否が分かれているとされており、触れていない行為はわいせつ行為とは言えない。
判例コンメンタール刑法2巻 P292〜293

3 公然わいせつ罪との区別
 接触しない行為をも含むとすれば、13歳未満の者に対して陰部を見せつけるという行為*1*2*3(通常、公然わいせつ罪とされている。6月以下の懲役)との区別がつかない。
 公然わいせつ罪においては、主たる保護法益は善良な風俗であるとしても、多少なりとも見た者の性的自由が害されているところであって、公然わいせつ罪と強制わいせつ罪とを区別しようとすれば、境界線を身体的接触の有無に求めるしかない。

4 盗撮行為(迷惑条例違反)との区別
 最近、迷惑条例ではいわゆる盗撮行為を条例で処罰している。
http://www.pref.fukushima.jp/reiki/reiki_honbun/k4001083001.html
福島県迷惑行為等防止条例
(卑わいな行為の禁止)
第六条 何人も、公共の場所又は公共の乗物における他人に対し、みだりに、著しいしゅう恥心又は不安を覚えさせるような次に掲げる行為をしてはならない。
一 着衣等の上から、又は直接他人の身体に触れること。
二 着衣等で覆われている他人の下着又は身体をのぞき見し、又は撮影すること。
三 その他卑わいな言動をすること。
 スカートの中の撮影などが該当するようである。被害者の性的自由を害する行為である。

 判例によれば着衣の外観の撮影でも、意に反して行えば「卑わいな言動」に該当するという。

事件番号 平成19(あ)1961
事件名 公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反被告事件
裁判年月日 平成20年11月10日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
裁判種別 決定
結果 棄却

 ここで、判例の「わいせつ」の定義に従えば、このような行為が犯人の性的傾向によるものであれば、強制わいせつ罪となりそうなものである。
 特に13歳未満であれば、暴行脅迫が不要であるから、児童の下着姿を撮影すれば強制わいせつ罪になりそうなものである。
判例コンメンタール刑法2巻 P292

 しかし、それは、現行法(強制わいせつ罪など)では処罰できないから、条例で処罰されているのである。
 接触が伴わない行為は「わいせつな行為」に含まれないからである。

5 高裁判例
 強制わいせつ行為は製造行為を含まないとする裁判例を挙げておく。
阪高裁H14.9.10*4*5
東京高裁H19.11.6*6
名古屋高裁金沢支部H14.3.28*7

 このうち大阪高裁H14.9.10は販売目的製造罪(実行行為は撮影)について「児童ポルノ製造罪が強制わいせつ罪の構成要件の一部とはいえず」と判示している。
 大阪高裁の事案は改正前の販売目的製造罪であるが、その実行行為は「撮影行為」であり、現行法の3項製造罪の実行行為も撮影行為のみであるから、これは3項製造罪についても判例である。

 また、東京高裁H19.11.6は、強制わいせつの機会に撮影した場合、製造行為(2項製造罪)は強制わいせつ行為の一部にならないとしているが、その実行行為は「撮影行為」であり、現行法の3項製造罪の実行行為も撮影行為のみであるから、これは3項製造罪についても判例である。

 名古屋高裁金沢支部H14.3.28も、販売目的製造行為と強制わいせつ行為との関係について、含まないという判示をしている。

6 まとめ
 結局、撮影の部分については、身体的接触がないから、わいせつ行為とは評価できない。

 ちなみにこの見解は仙台高裁でぼろくそに否定されています。